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検索対象: ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人
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1. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

フォマー 「フォマー ・ : 」と叔父は叫んだ。その額に は冷汗がにじみ出ていた。 4 追放 「ですから、 いっさい説明は抜きにして、最後の置き土産と 「大佐、あなたはこれがなんの意味かと、おたずねになったして、あなたに数言の別辞を述べさせてください。それはで ノ・イリッチ、あなたの宅におけるわたしの最 ようですな ? 」さながら一座の混乱を享楽するようなふうっすな、エゴーレ きで、フォマーはものものしげに切り出した。「その質「レ こ後の言葉なんですそ。もうできてしまったことだから、取返 しはっきません ! わたしがいっておるのはなんのことか、 は驚きますな ! どうかわたしのほうからも質問させてくだ さい。どうしてあなたは今さらわたしの顔を、まともにごらあなたもおわかりのことと思います。しかし、わたしは膝を んになることができるのか ? 人間の無恥に関するこの最後ついてお願いします。もしあなたの、いに、けしつぶほどでも の心理的問題を説明してください。そうすれば、わたしは少道義心が残っておったら、ご自分の意馬心猿に手綱をかけて くださいー なくとも、人類の腐敗に関する新しい認識を獲て、ここを立 もし腐敗の毒素が建物ぜんたいに廻っておらん ち去ることになりますからな」 けりや、できるだけ早く火事を消しとめてください ! 」 「フォマー しかし、叔父はそれに答える余裕などなかった。彼は驚き きみは考え違いしているよ、まったくだ ! 」 かっ恥じ入った様子で、ロを開け、目をむき出したまま、フだんだんわれに返って来て、漠然と予想される結末に然と ・フォミッチを見つめていた。 しながら、叔父はこう叫んだ。 「まあ ! なんて激しい熱情でしようね ! 」とペレベリーツ「情欲に加減をしなさい」まるで、叔父の叫びなど耳にも入 つ 0 ナ一は呻・くよ , フにいオ らない様子で、フォマーは相変わらずものものしい調子で言 「おわかりですかな、大佐」とフォマーはつづけた。「今さ 葉をつづけた。「自己を征服なさい。『全世界を征服せんと らうるさく事情をたずねないで、あっさりわたしを出してし欲せば、まず自己を征服せよ ! 』これがわたしの変わること・ まうのが、あなたの義務ですぞ。あなたの家におると、わた なき鉄則です。あなたは地主だから、自己の領地において、 しのように不惑の年齢に達した、思索をこととする人間でダイヤモンドのごとく輝かんけりゃならんのに、なんとい、フ も、自分の徳性が穢されはせんかと、真剣に心配するように穢らわしい放縦の模範を、目下の者どもに示されるのですー なって来ますよ。誓っていいますが、しつこく事情をおききわたしは毎晩、夜の目も寝ずにあなたのために祈りつづけ、 になるのは、あなたご自身の恥さらし以外、なんの結果ももあなたの幸福を発見しようと努力しながら、戦々兢々の思い たらしはせんです」 をしておった。ところが、ついにそれを発見することができ

2. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

「でも、どうしたんです ? 」話の終わりが聞きたくてじりじさんにうち明けようって。ところが、今あの人は帰ったの それなのに、あの人 あたしそれを知ってるわ、 りしながら、わたしはこう叫んだ。 来てくれない ! 」 「でも、今だに姿を見せないんですの ! 」とナスチェンカは来ない、 は、気力を奮い起こそうとするかのように答えた。「なんの彼女は再び涙に沈んだ。 「困ったな ! なんとか力をかして上げるわけに、、よ、 たよりもないんですの : ・ : こ そういって、彼女は言葉を止め、しばらく黙って頸を垂れしらん ! 」とわたしはすっかりとほうに暮れて、ペンチから ていたが、不意に両手で顔をおおって、よよとばかり咽び泣躍りあがりながら叫んだ。「ねえ、ナスチェンカ、せめてばく なりと、その人のとこへ行って見ることはできないかしら ? 」 きし始めた。その慟哭の声に、わたしは心臟が痺れるような 「そんなことができるもんですか ? 」と急に顔を上げて彼女 田心 . い / 子ノ はこ、ついった。 こうした大団円は、夢にも思いがけなかったのであった。 「ナスチェンカ ! 」とわたしは臆病な、忍び入るような声で「だめだ、むろん、だめだ ! 」とわたしもわれに返ってつぶ い出した。「ナスチェンカ ! 後生だから、泣かないでくやいた。「じゃ、こうしたらどうでしよう、一つ手紙を書き ませんか」 ださいー なぜそう独り決めに決めてしまうんです ? ひょ いいえ、そりや駄目よ、そんなわけにはいきません ! 」と っとしたら、その人はまだ : ここにいるんですわ ! 」とナスチェンカは引き取彼女はきつばり答えたが、もう目を伏せてわたしの顔を見な った。「その人はここにいるんですの、あたしちゃんと知っかった。 「どうして駄目なんです ? なぜそんなわけにいかないんで ていますわ。あたしたちは一つ約東したことがあるんですの よ。まだその晩、出発の前の晩のことなんですけど、今あなす ? 」とわたしは自分の思いっきにしがみつきながら、言葉・ たにお話したことを、二人でもうすっかり話し合って、約東をつづけた。「だってね、ナスチェンカ、それはどんな手紙 ができてしまってから、ここへ散歩に出たんですの、ちょう だと思います ? 手紙も手紙によりけりですよ、それに : どこの河岸通りにね、もう十時でしたわ。あたしたちはこのああ、ナスチェンカ、それは本当です ! ばくにまかせてく ばくわるいことは勧めませ ・ヘンチに腰を下ろしましたが、あたしはもう泣いてはいませださい、信頼してくださいー 夜んでした、あの人の話を聞いてるのがいい気持ちで : : : あのん。これはすっかりうまくやることができますよ ! あなた 人のいうにはね、ここへ着いたらすぐうちへ来て、もしあたのほうから第一歩を踏み出したくせに、どうして今さら : : : 」 白しの心が変わらなかったら、二人でいっさいのことをお祖母「いけません、いけません ! そうすると、何か押しつけが銘

3. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

シカ、アミーシ年は老人の一挙一動を見まもっていた。不意に老人は反対側田 力、こっちへ来い ! アミーシカ、アミー カ ! 」と老人は指や舌を鳴らして、アミーシカを寝台の下かの壁のほうへ廻って、身をこごめた。一瞬、青年は寝台の下 ら呼び出そうとしながら、こう叫びつづけた。「アミーシから這い出して、老人が婚姻の床の向こう側で招かれざる客 カ ! ici! ici! 猫のヴァシカが食い殺すなんて、そんなはずをさがしている暇に、さっさと逃げ出した。 「あらっ ! 」青年の顔にじっと見入った奥さんは、おもわず はない。ヴァシカのやっ、一つ折檻してやらなけりゃなら 。しったいどなたですの ? わ ん。なあ、お前。あの悪戯野郎を、もうまるひと月も折檻しこうささやいた。「あなたよ、、 たしはまた : てやらなかったからなあ。お前どう思う ? 明日プラスコー 「悪党はそこに残っています」と青年はささやき返した。 ヴィヤ・ザハーロヴナと相談して見よう。やっ、大変、お前 どうしたのだ ? 真っ青な顔をして、おお、おお ! だれか「そいつがアミーシカの下手人です ! 」 「ああっ ! 」と奥さんは叫んだ。 おらんか ! おうい ! 」 しかし、青年はもう部屋の中から姿を消していた。 老人は部屋の中をうろうろ走り廻った。 ここにだれかおるそ。ここにだれかの嶄があ 「わるもの ! 悪党 ! 」と奥さんはグッションに身を投げて「やっ ! る ! 」と主人はイヴァン・アンドレーイチの片脚をつかまえ こう叫んだ。 「だれだ ? だれだ ? だれのことだ ? 」と老人はたずねて、こうどなった。 「人殺し ! 人殺し ! 」奥さんは金切声を立てた。「おお、 ・そこに、寝ムロアミ ! アミ ! 」 「そこに人がいるんですの、よその人が ! 「出ろ、出ろ ! 」と老人は絨毯の上でじだんだを踏みながら の下に ! ああ、ど , っしよ、つ ! アミーシカ ! アミーシ わめいた。「出ろ、貴様は何ものだ ? どこの何者か白状し カ ! お前はなんという目に遭ったんだろうねえ ? 」 「えつ、とんでもない ? どんな人が ? アミーシカ : ・・・・ころ ! ゃあっ、なんて妙な男だ ! 」 「それは強盗ですわー ここへ来るんだ ! りやいかん、だれかおらんか、おうい だれがそこにおるんだと ? だれがいったい ? 」老人は蝦燭「お願いです。お願いです ! 」とイヴァン・アンドレーイチ は外へ這い出しながら叫んだ。「閣下、お願いですから、人 を取って、寝台の下へかがみながらわめいた。「何者だ ? それはまったくご無用です。わた を呼ばないでください ! おうい、だれかおらんかー なき ・ : わたしはそん イヴァン・アンドレーイチは、息の絶えたアミーシカの亡しを突き出すなんてことはできませんよー 骸のそばで、生きた心地もなく横たわっていた。しかし、青な扱いを受けるような人間じゃありません ! わたしは独立 がら

4. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

「フォマ ー・フォミッチを呼び返しておくれ、エゴールシュてくれたものが、まだ多少は手もとにあるからね。何もかも、 カ ! 」と、老母はわめきつづけた。「お願いだから、あの人お前にあげます。それに、エゴールシ = 力もうんと贈り物を・ を戻しておくれ ! あの人なしじや生きていかれない ! 」 するでしよう。どうかわたしを生きながら棺の中へ入れるよ 「お母さん ! 」と叔父は情けなさそうに叫んだ。「いった、 うなことをしないで、フォマ ー・フォミッチを返すよ、フに枳 . あなたは、わたしが今いったことを、少しもお聞きにならなんでちょうだいー かったんですか ? フォマーを呼び戻すことはできません、 ペレベリーツイナや居候の女たちは、雇人の家庭教師の前 ここのところを△ロ点してください ! この正直で潔白なに膝を突いている女主人を見て、憤慨のあまり叫び声をあげ 天使のようなひとに向かって、あんな穢らわしい卑劣な言い たり、唸ったりしながら、飛びかかって彼女を抱き起こし また がかりをした人間を、呼び返すわけにいきません、 た。さもなかったら、老母はまだいつまでもくどくどと、ロ そんな権利もありません ! お母さん、あなた、わかってく から出まかせのことをいいつづけたに相違ない。ナスチェン・ ださいましたか、わたしは今このひとの淑徳を顕揚しなけれ力は、あまりのことにびつくりして、やっとのことで足を踏 ばならないのです、わたしの良心がそれを命じるのです ! みこたえていた。ペレベリーツイナは口惜しさに、泣き出し あなたもお聞きになったでしよう、 わたしはこのひとにてしまった。 結婚を申し込んだんです。お願いですから、わたしたちの縁「あなたはお母様を責め殺しておしまいになりますよ」彼 談を承諾してください」 女は叔父にどなりつけた。「みんなで責め殺してしまうんで 将軍夫人はまた座を離れて、いきなりナスチ = ンカの前にす ! またあなた、ナスターシャ・エヴグラーフォヴナ、あ 膝を突いた。 なたも親子の間に水をさすようなことは、お控えになったら 「わたしのかわいいナスチェンカ、わたしの大事なナスター ようござんしたのにね、それは神様も戒めておいでになりま のシャ ! 」と彼女は黄いろい声を振り絞った。「エゴールと結す : : : 」 ー・フォ し婚しないでおくれ ! あれと結婚しないで、フォマ 「アンナ・ニーロヴナ、ロをお控えなさい ! 」と叔父は叫ん ミッチを呼び返すように頼んでおくれ ! かわいいナスター だ。「わたしはもういいかげん我慢したんだから ! コシャ・エヴグラーフォヴナ ! もしあれと結婚しなかった 「わたしだってあなたの侮辱を、ずいぶん我慢して来ました ンら、お前に何もかもすっかりあげます、お前のために、、 しつわ。なんだって人の頼りない身の上につけこんで、わたしを , さいがっさい犠牲にします。わたしは年をとったけれど、ま馬鹿になさるんです ? みなし児をいじめるなんか、造作の スだすっかりなくしたわけじゃありません。死んだ主人が残し ないことですわ。わたしはまだあなたの奴隷じゃありません

5. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

しいえ、そんなことはいりませんわ、いりません ぼくという人間をごぞんじないから、今後もう少し何かのこ わ ! 」とナスチェンカは叫んだ。「こんな話はもうこれきり、 とをお聞きになったら、その時は : : : 或いは きつばりおしまいにして、もう二度と持ち出さないようにし : 」六ト 7 も 「後生ですから、もうその話をやめにしましよう : ましよう。そして、あの亭へも行くのをおよしなさい、無駄 じれったそうな様子で、ナスチェンカは叫んだ。 しかし : ・ : ・今度はですわ。わたしきつばりいっておきますけれど、けっしてま よろしい、やめましよう ! 「よろしい いりませんから、そんな馬鹿げた考えは頭からほうり出して どこでおムいできるでしようか ? 」 まじめにお願いしますわ : : : 」 おしまいなさい、 「え、どこで入ズ、フかですって ? 」 「それじゃ、叔父さんがばくにとった態度は、まるで狂気の 「だって、ナスターシャ・エヴグラーフォヴナ、これがばく たちの最後の言葉だなんて、そんな法はないじゃありません沙汰じゃありませんか ! 」とわたしはいまいましさの念に駆 今日られて叫んだ。「そういうことなら、なんだってばくを呼び か ! お願いですから、また会うと約東してください、 : だが、なんでしよう、あの騒ぎは ? 」 すぐにも。もっとも、今はもう暗くなって来たから、そうで寄せたんだろう ? : わたしたちは家のそば近くまで来ていた。開け放した窓の すね、できることなら、明日の朝すこし早めに願います。ば くもわざと早めに起こしてもらいますから。ねえ、あの池の中から黄いろい金切り声と、何かしら容易ならぬ叫び声が聞 そばに亭があるでしよう。だって、ばくはよく覚えてるんでこえて来た。 「ああ、どうしましよう ! 」と、彼女はあおくなっていっ すもの。ちゃんと道を知っています。なにしろ子供の時分、 た。「また始まった ! わたし、こんなことだろうと虫が知 ここで暮らしたんですからね」 「また会うんですって ! でも、なんのためにそんなことをらせてたわ ! 」 「虫が知らせていた ? ナスターシャ・エヴグラーフォヴ するんですの ? だって、そんなことをしなくっても、わた もちろん、ばくはまる ナ、もう一つ質問を許してください、 したちはいま現に話し合ってるじゃありませんか」 「しかし、ナスターシャ・エヴグラーフォヴナ、ばくは今まきっきりそんな権利など持っていないのですが、しかし一同 だ何も知らないんですものね。ばくはまず最初に、叔父からの幸福のために、思いきってこの最後の質問を提出します。 いっさいのことを知ろうと思うんです。実際、叔父も結局はねえーーこれはばくだけの秘密にしておきますから、腹蔵な 叔父さんはあなたに恋しているので ばくに何もかも話さなければならないわけですからね。それくいってください、 を聞いたら、ばくもあるきわめて重大なことを、あなたに申すか、どうでしよう ? 」 「ああ ! お願いですから、そんな馬鹿げた考えは、きれい しげるかもしれないんです : : : 」

6. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

「ナスチャが明日ここから追い出されないようにするために 行く ! ああ、わたしたちはどんなにでも幸福になれるんだ がなあ ! なぜ、人間はああお互いに憎み合って、腹をたては、ほかにどんな方法があると思う ? 明日にもさっそく申 改まってちゃんと約東したんだよ」 たり、意地悪をしたりするんだろう ? わたしは一つ思いき込みをするんだ、 「その決心をしたんですか、叔父さん ? 」 って、あの人たちによくいい聞かせてやりたいくらいだ ! 胸の真実をさらけ出して見せたいよ ! ああ、情けない ! 」 「どうも仕方がないじゃよ、 オしか、お前、なんとも仕方がない よ ! わたしは胸をひき裂かれるようにつらいんだけれど、 「そうです、叔父さん、そりやそのとおりなんですが、しか しかしもう決心してしまった。あす求婚するんだ。式はそっ しあのひとはばくの求婚を拒絶したじゃありませんか」 「拒絶した ! ふむ ! : : : 実はわたしもあのひとが拒絶しやと内輪にするつもりだ。そのほうがいいよ、内輪の方がね。 しないかと、虫が知らせるような気がしたんだよ」と彼はお前はたぶん介添人になるだろう。わたしはもうそのことを もの思わしげにいい出した。「だが、そんなことはない ! 」匂わせておいたから、しばらくはお前も追いたてられないで そんなことがすむよ。どうも仕方がないさ ! みんなは『子供たちのため と、彼は叫んだ。「わたしは本当にしない ! に、財産を殖やせ』というんだよ。もちろん子供のために あるはずはない。それじゃ何もかもぶち毀しになってしま とんなことだってしなくちゃならんからな。逆立ちだっ う ! きっとお前は不用意なきり出し方をして、あのひとをは、、、 怒らせるようなことをいったのかもしれないね。ひょっとしてして歩くさ。ことに本当のところは、みんなのいうとおり かもしれないからね。実際、わたしも家族のために、何かし たら、やたらにから世辞でもふりまいて : : : セルゲイ、もう てやらなければならないわけさ。い つまでものらくらばかり 一度その時の様子を聞かしておくれ ! 」 わたしはもう一どことこまかにいっさいを話した。ナスチしていられないからね ! 」 土ンカが自分の身をひいて、タチャーナ・イヴァーノヴナと 「しかし、叔父さん、あの女は気ちがいじゃありません か ! 」とわたしはわれを忘れて叫んだ。わたしの心臓は病的 の縁談から叔父を救おうといったところまで来ると、叔父は に縮んだ。 にやりと苦笑いを洩らした。 「救うんだって ! 」と、彼はいった。「明日の朝まで救うの 「おやおや、今度はもう気ちがいか ! けっして気ちがいじ かね ! 」 ゃありやしない、ただあんまり不仕合わせな目を見たものだ 「しかし、叔父さん、あなたはタチャーナ・イヴァーノヴナから・ : ・ : 仕方がないよ、セリヨージャ、そりやもっと賢いは 、つかしいに決まってるけれど : : しかし賢いばかりで、とん と結婚するつもりだなどと、そんなことをおっしやるつもり ところが、あのひとは実に でもない女がよくいるからなー じゃないでしようね ! 」とわたしはびつくりして叫んだ。

7. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

「あなただれからお聞きになったの ? 」と婦人はたずねた。 心からお礼申しますわ : : : 」 「あなたのご主人ですよ、イヴァン・アンドレーイチです婦人は、棒立ちになったイヴァン・イリッチに手を差し伸べ よ。ご主人はここにおられますよ、奥さん、あなたの目の前 て、握手するというより、むしろ男の手をぎゅっとつねった。 「ムシュウ・トヴォローゴフはわたしのお知り合いの方です はたしてイヴァン・アンドレーイチは入口階段のそばに立の ! スコルルポフさんとこの舞踏会でお近づきになりまし っていた。 てね。たしかあなたにお話ししたでしよう、ココ、覚えてら しって ? 」 「やっ、お前なのか ? 」と洗い熊の紳士は叫んだ。 「あっ ! 0 est vous 2 ( あなたでしたの ? ) 」とグラフィーラ・ 「ああ、もちろん、もちろん ! ああ、覚えているとも ! 」 。へトローヴナは、偽りならぬ喜びの色を浮かべて、夫に身をココと呼ばれた洗い熊の紳士はこういった。 投じながら叫んだ。「まあ ! どうでしよう ? わたしポロ 「知己の栄を得まして大いに愉快です、大いに」 ヴィーツインさんのお宅をお訪ねしたところ、なんてことで そういって、彼はトヴォローゴフ氏の手を固く握りしめた。 しよう : : : あの方は今度イズマイロフスキイ橋の傍へお引っ 「いったい、だれと話してるの ? これはどうしたってこと 越しになったんですの。わたしいっかお話ししたでしよう、 です ? わたしは待ってるんじゃありませんか : 覚えてらして ? わたしそこから橇を雇ったところ、馬が荒渋味のある声が聞こえた。 れ出して、めちやめちゃに駆け出してね、橇を毀してしまった 三人の前にとほうもなく背の高い男がぬっと現われた。男 んですの。わたし、ここから百歩ばかりのところでほうり出は柄付き眼鏡を取り出して、洗い熊の紳士を仔細に眺めはじ されましてね、気が遠くなったところを、馭者に助け起こさめた。 れたんですのよ。ちょうどいいあんばいに、ムシュウ・トヴ「まあ ! ムシュウ・ポプイニーツイン ! 」と婦人はさえす オローゴフが : まあ、ど り出た。「どちらから ? 本当に思い力オし ! 「なんだって ? 」 うでしよう、わたしいま馬に振り落とされましてねえ : ・・ : で ムシュウ・トヴォローゴフはムシュウ・トヴォローゴフと も、これがわたしの主人ですの ! Jean 一こちらはムシュ いおうより、むしろ化石に似ていた。 ウ・ポプイニーツインですの、カルポフさんとこの舞踏会で 「ムシュウ・トヴォローゴフがここでわたしをお見つけにな : しかし、お って、送ってやろうとおっしやるものですから。でも、今は 「ああ、それは、それは、大いに愉快です ! あなたがいらっしやるから : : : イヴァン・イリッチ、本当に前、わたしはこれからすぐ馬車を呼んでくるよ」 8 8

8. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

泣き濡れながら、固く父の体を両手に抱きしめて、サーシャ 瓶を持って来ておくれ ! 」とオプノースキナ夫人は叫んだ。 はこう叫んだ。「お父様 ! ねえ、 いったいお父様のように 「水だ、水だ ! 」と叔父は叫んだ。「お母さん、お母さん、優しい、立派な、陽気な、賢い人が、そんなことで自分の身 膝を突いてお願いします、どうか落を破滅させていいものですか、お父様が、あんな穢らわしい 落ちついてくださいー 恩知らずのいうことを聞いて、あんな者の玩具になって、自 ちついてくださいー / ンと水だけで暗い部屋へ押しこめ分で自分を人の笑いぐさにするって法があるでしようか ? 「あなたのような人は、。、 て、外へ出さないようにしなくちゃ : : : あなたは本当に人殺お父様、あたしの大事なお父様 ! 彼女はしやくり上げて泣きながら、両手で顔を隠すと、そ ーツイナは憎悪に身を顫わせながら、 しですよ ! 」ペレベリ のまま部屋を駆け出した。 声を殺してサーシェンカを叱りつけた。 恐ろしい騒ぎが始まった。将軍夫人は気を失って倒れてい 「パンと水だけで押し籠められたってかまやしない。あたし なんにも怖くないわ ! 」これもやはり夢中になって、前後をた。叔父はその前に膝をついて、両の手に接吻していた。ペ 忘れた様子で、サーシェンカはわめき返した。「あたしお父レベリーツイナ嬢は、二人のまわりをうろうろしながら、わ たしたちのはうへ毒々ししレ 、、ナれども勝ち誇ったような視線 様を守ってあげるのよ。だって、お父様はご自分で守れない んですもの。あの男はいったい何者なの ? あなたのフォマを投げるのであった。オプノースキナ夫人は、将軍夫人のこ ・フォミッチなんか、お父様に対してどんな人間だと思っめかみを水で冷やしながら、例の香水瓶をいじくりまわして いた。プラスコーヴィャ叔母は身を慄わして、さめざめと涙 て ? お父様にパンをもらって食べてるくせに、しかもお父 にくれていた。エジェヴィーキンはどこか身を隠すところは 様を抑えようとするんだもの、あんな恩知らずってありやし ないわ ! ほんとうにあたしはあいつを、あなた方のフォマないかと、都合のよさそうな物陰をさがしていたし、家庭教 ・フォミッチを、八裂きにしてやりたいくらいよ ! あい師は恐怖のあまりとほうに暮れ、真っ青な顔をして立って いた。ただ一人、以前と変わらぬ様子をしていたのは、 つに決闘を申し込んで、二梃ビストルでいきなりその場にた ンチコフだった。彼は立ちあがって窓のそばへ近寄り、こ おしてやりたい : の場の有様に一顧の注意も払わず、じっと窓外を眺め始め 「サーシャ、サーシャ ! 」と叔父は絶望の叫びをあげた。 「お前がもうひと言いったら、わたしの身はもう破滅だ、そた。 不意に将軍夫人は長いすの上に身を起こし、きっと身を反 れこそもう取り返しはつかないんだよ ! 」 「お父様 ! 」いきなり矢のように父のそばへ駆け寄り、涙にらして、もの凄い目つきでわたしをじろじろ見廻した。 「水を、水を阜・く ! 」

9. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

うとう彼は唸るようにこういって、苦い涙を流しながら、さな取り落としてしまった。興奮のあまり、何一つすることが めざめと泣き出した。 できないのを、自分でも悟ったのである。 ー・フォ、、、ツチ .. ↓よ、 一同はあっと叫んだ。けれど、フォマ 「ええっ ! 」彼は叫んだ。「もうこういう日だからかまうも いつにない寛大の発作に襲われていた。 のか ! さあ、 ししカファ一フレイ ! 」こ , っ いいながら、彼 いれもの 「少なくとも、お前の正直なことだけは認めるよ、ファラレ は容器にありったけの砂糖を、少年の懐ろへぶちまけてしま イ」と彼はいった。「ほかの人には認められん正直さだ。勝った。 手にするがいし ! もし、お前がほかの人の入知恵で、わし 「これはお前の正直のご褒美だ」と彼は訓戒めいた調子でい をからかうためにそんな夢を持ち出すのなら、お前もそのほ い添えた。 かの人間も、神罰を受けんけりゃならんが、もしそうでなけ 「コローフキン様がおいでです ! 」と、不意に戸口へ現われ れば、お前の正直さを尊敬するそ。お前のような賤しい存在たヴィドプリャーソフが披露した。 の中にさえ、わしは神に似せて造られた尊い姿を、見わけ慣 一座に軽い動揺が生じた。コローフキンの訪問は明瞭に折 れておるからな : : : わしはお前をゆるしてやるぞ、ファラレ が悪かった。一同はもの問いたげに叔父を見やった。 イ ! わたしの心の子供たち、どうか抱きしめてください。 「コローフキンだって ! 」いくらかまごっいた様子で叔父は わたしは居残ることにしましたぞ ! 叫んだ。「むろん、わたしは愉快だが : ・ : 」おずおずとフォ 「居残るって ! 」と一同は歓喜の叫びをあげた。 マーの目色をうかがいながら、叔父はこういい足した。「だ 「居残ります、そしてゆるしてあげます。大佐、ファラレイ が、今この場合、通したものかどうか、わたしにもわかりか に砂糖を褒美にやってくださらんか。こんなにみんなが幸福ねるな、きみはどう思う、フォマー ? 」 になった日に、泣いたりしておっちゃいかんからね」 「かまわんですよ、かまわんですよ ! 」とフォマーは快く答 臥 の この寛大ぶりに一同が驚嘆したのま、、 。しうまでもないことえた。「コローフキンもお通しなさい。やはり一同の幸福を とである。こういう瞬間に、これほどまで心を配るとは ! し頒たしてやるがよろしい」 オかも、その対象はだれかといえば、ファラレイ風情ではない 手つとり早くいえば、フォマーは天使のような上々の機嫌 コ、刀ー だったのである。 叔父はすぐに飛んで行って、砂糖の命令を実行した。 ンたちまち、 プラスコーヴィ どこから出て来たのか、 「さし出がましゅ、つ′」ざいますが」とヴィドプリャーソフが 〉ャ叔母の手に、銀の砂糖入れが現われた。叔父は顫える手でロをいれた。「コローフキン様は正体もないご様子でいらっ スまず二つ取り出し、それから更に三つ出したが、最後にみんしゃいます」 207

10. ドストエーフスキイ全集2 ステパンチコヴォ村とその住人

アーシャを見ているうちに、すっかりまごっいてしまった。 一分ばかりたってから、彼は一つの希望に勇気づけられ て、急に椅子から躍りあがった。『あいつは仕事をすました コロムナの様子を聞くと、ヴァーシャは元気づいて来た。 そして、調子づいておしゃべりまでするようになった。二人んた』と彼は考えた。「それだけのことなんだ。それで我慢 は食事をすました。老母がアルカージイ・イヴァーノヴィチしきれなくなって、あすこへ駟け出して行ったのだ。もっと のポケットへ、ビスケットをいつばいつめこんでくれたので、も、違うかな ! それにしても、ばくの帰りくらい待ちそう なもんだ : ・ ・一つどうなっているか見てやろう』 二人の親友はそれを食べながら、すっかり浮き浮きして来た。 食事のあとでヴァーシャは一寝入りして、その後で徹夜する彼は燭に火をつけて、ヴァーシャの仕事机のほうへとん と誓った。彼は本当に横になった。翌朝アルカージイ・イヴで行った。見受けたところ、仕事はかなり進んで、しまいま アーノヴィチは、断わり切れない義理のある人からお茶の招でいくらも残っていないらしかった。アルカージイ・イヴァ ーノヴィチはもっと詳しく調べようと思ったが、そこへ不意 待を受けた。二人の親友はまた別れ別れになった。アルカー ジイはなるべく早く、もしできたら八時頃に帰って来ると約にヴァーシャが入って来た : 「ああ ! きみはここにいたのか ? 」驚きのあまりびくっと 東した。三時間の別れは彼にとって、三年くらいの長さに思 われた。彼はやっとのことで、ふりきるようにして帰って来しながら、彼はこう叫んだ。 アルカージイ・イヴァーノヴィチは黙っていた。ヴァーシ 。部屋へ入ってみると、中は真っ暗だった。ヴァーシャは 家にいなかった。彼はマヴラに様子をたずねた。マヴラの話ヤに様子を聞くのが、恐ろしかったのである。こちらは目を によると、ヴァーシャはまんじりともしないで、のべっ書き伏せて、無言のまま書類を調べ始めた。とうとう一一人の目が 通していたが、やがて部屋の中をこっこっ歩き出して、とう出会った。ヴァーシャがなんともいえない祈るような、哀願 とう一時間ばかり前に、三十分たったら帰って来るといっするような、叩きのめされたような目つきをしていたので、 アルカージイはその目を見ると、思わずぎつくりした。彼の て、駆け出してしまったとのことである。 「そしてね、アルカージイ・イヴァーノヴィチが帰ってみえ心臟はいつばいになって、おののきはじめた : 「ヴァーシャ、きみ、、つこ、 ' しオしとうしたのだ ? なんという たら」とマヴラは言葉を結んだ。「おれは散歩に出かけたと いってくれ、とこうおっしゃいましてね、三度も四度も念をことだ ? 」親友のはうへとんで行って、両の腕に抱きしめな がら、彼はこう叫んだ。「よく納得のゆくように話して聞か お押しになりました」 してくれ。ばくにはきみの気持ちがわからない、きみのくよ 『アルテーミエヴァのとこへ行ったんだ』とアルカージイ・ くよするわけがわからない。いったいどうしたというんだ ? イヴァーノヴィチは考えて、首をふった。