ばくはきみにことわっておくが、おれ自身も悪党ではあるけ たろうよ ! 」 「そんなもの、いまだって役に立ちゃしなくってよ ! 」 れど、ただ節操観念からだけいっても、あいつの一味にはな こ、つい , っと韭ハに、アレグサンドラは ~ 余テープルの傍から、 りたくないね ! しかし、これくらいでたくさん、あとはだ んまりだ ! あの男についていえるのは、ただこれつきりな一跳びにわたしたちのほうへ飛んで来て、マスロポーエフが 自分の頭をかばう暇もないうちに、一つかみの髪をひん握 のさ」 って、こっぴどく引っぱった。 「ところが、ばくは生憎と、あの男のことをいろいろと聞き たさにやって来たんだよ。ほかの話もあるけれどね。しか 「このとおり、このとおり、わたしのことを嫉妬やきだなん し、それは後廻しにしよう。いったいきみはどういうわけて、お客様の前でよくいったね。よくいったね、よくいった で、きのうばくの留守にエレーナに氷砂糖をやったり、あれね ! 」 一時間半もなにを話すことが彼女は真っ赤になっていた。そして、笑ってこそいたけれ の前で踊ったりしたんだい ? ど、マスロポーエフはかなり痛い目をみたらしい あったんだね ? 」 「エレーナというのはね、十一か十二の小さな女の子で、当「なんでもかでも、恥さらしなことばかりいうんですからね 分の間イヴァン・ベトローヴィチのところで厄介になって いえ ! 」彼女はわたしのほうを向いて、真面目につけ加えた。 これ るんだ」とマスロポーエフは突然、アレグサンドラのほうを「どうだ、ヴァーニヤ、これがおれの生活なんだよー 向いて説明した。「気をつけろよ、ヴァーニヤ、気をつけてだからこそ、どうしてもウォートカが欠かされないんだ ! 」 くれよ」と彼は女を指しながらつづけた。「ばくが知らない とマスロポーエフは頭を掻き撫でながら、駆け出すようにビ 娘に氷砂糖を持って行ってやったと聞くが早いか、いきなり ンの傍へ行って、こういった。けれど、アレクサンドラはそ かっとしてしまったじゃないか。まるでおれたちが不意にビのさきを越した。素早くテープルに駆け寄って、自分で注い ストルでもぶっ放したように、真っ赤になって慄えあがってで渡したばかりでなく、優しく彼の頬をちょいと突いたほど : ほら、目をあんなにぎらぎら光らしている、いやどうである。マスロポーエフは得意気にわたしに目くばせして、 もいたし方がない。アレクサンドラ・セミョーノヴナ、何も舌を鳴らし、勝ち誇ったように盃をぐいと飲み乾した。 やきもち 隠すことはいりやしないよ ! これはどうも嫉妬やきでね。 「氷砂糖の一件は、はっきり思い当たらないよ」わたしと並 エレーナが十一の娘だって説明しなかったもんなら、ばくはんで長いすに腰を下ろしながら、彼はいい出した。「あれは なんの いきなり髪の毛をつかんで、引き摺り廻されるところだった一昨日、酔ったまぎれに八百屋で買ったんだよ、 んだよ。そうなったら、ベルガモットも追っつきやしなかっ ためかわからないがね。もしかしたら、祖国の商業や工業を
あれば、そのほかのことは、ひとりでにできていきます、そよ。ことによったら、まだそのうえだれかにいいつけるかも 、つじゃありませんか ? さしあたりのこととしては、明日か しれません、一口にいえば、父親としての権力を振り廻すこ が、しかし、それは本気じゃないのです。お 明・後日まで、ナターシャはばくのとこに県阯いときます。ばとでしよ、つ : ・ : ・ 特別の住居を借りておいたので、帰って来たら、二人そ父さんはばくがかわいくってたまらないんですもの。初め少 し腹を立てて、それから勘弁してくれますよ。その時みんな こで暮らすつもりです。ばくもう父の家には暮らしません。 それが本当でしよう ? あなたもばくたちのとこへ来てくだ仲直りするんです。その時こそ、みんなが幸福になるでしょ う。このひとのお父さんだってそうですよ」 さるでしようね ? ばくとても気持ちよく住居を整えました 「もしゆるしてもらえなかったら ? きみはその時のことを よ。学習院の友だちも遊びに来てくれるでしよう。ばくはと 考えてみましたか ? 」 きどき夜の集りを開きますよ : わたしは疑惑の念をいだきながら、侘しい気持ちで彼を見「きっとゆるしてくれますとも、ただ、もしかしたら、あま りカ畆にとい、フわナこよ、、よ、 レ冫。しカオしかもしれませんね。なに、ど つめていた。ナターシャは、どうか厳しい目で彼を批判しな いように、なるべく大目に見てくれるようにと、目つきでわうもするものですか ? ばくはね、ばくにだってはらがある たしに哀願するのであった。彼女はなんとなくうち沈んだ徴ことを、証明してやりますよ。お父さんはいつもばくのこ とを、性根のない人間だ、軽はすみなやつだといって、罵倒 笑を浮かべて、彼の物語を聞いていたが、同時にその様子に 見とれているような趣きでもあった。それは、よく幼い子供するけれど、今度こそばくがふらふらした人間かどうか、思 い知らせてやるから。だって、自分の家庭を持つってこと の、筋道は通らぬながらも天真爛漫なおしゃべりを聞きなが ら、その愛くるしい央活な顔に見とれるのと、同じような感は、冗談ごとじゃありませんからね。もうそうなれば、ばく じであった。わたしは非難するような目つきで彼女を眺めだって子供じゃないですよ : : : つまり、ばくは、自分だって : つまり、その、家庭を持っ ほかの人と同じような人間に : た。堪え難く重苦しい気持ちになって来たのである。 「しかし、きみのお父さんは ? 」とわたしはたずねた。「きた人間になるって、そういおうと思ったんです。ばくは自分 みは、お父さんがゆるしてくれるって、確信がありますか ? 」で働いて暮らします。ナターシャも、人の懐で暮らすよか、 しいっていいます。ばくたちはみんな人の 々「大丈夫です。だって、ほかにしようがないじゃありませんそのほうがずっと、 しか ? といって、はじめはお父さんもばくを呪うでしよう。 懐で暮らしてるんですからね。あなたはごそんじないでしょ 、ことをたくさんいってくれますよー うが、あれはとてもいし らそれは請け合っても、 しいくらいです。お父さんはもうそうい よ ) ~ う人なんですから。お父さんは、ばくにとても厳格なんですばくにはあんなこと、とても考え出せやしません、
しろ、ばくは別な教育を受けて、大きくなったんですかられませんよ : : : もっとも、おっしやるとおり、ばくは現実生 ね。もっとも、ばくはふわふわした人間で、ほとんどなんの活をちっとも知りません、ナターシャもばくにそういって 能もないってことは、自分でも知っています。ところがねます。しかし、それはだれでもみんないうことですがね。こ え、ばく、おととい、素晴らしいことを考えついたんですれじやどうも、作家にはなれつこありませんね ? 笑ってく よ。今はその時期じゃありませんが、あなただからお話しまださい、笑ってください、そしてばくをたたきなおしてくだ しよう。だって、ナターシャには聞いてもらわなくちゃならさい。そうしてくだされば、つまりナターシャのためになる ないことですものね。あなた、何かいいご意見を聞かしてくんですもの。あなたはあれを愛してらっしやるんでしよう。 ださい。実は、こうなんです。ばくもあなたみたいに小説をばくは率直にあなたに申しますが、ばくはあれに愛されるだ 書いて、雑誌へ売り込もうと思っています。雑誌社のほうのけの値打ちのない人間です。ばくはそれを感じています。だ っこ、ど、つ ことは、あなたが助力してくださるでしよう、ね ? ばくあから、それがばくにはとてもつらいんですよ。 なたを当てにして、昨夜も一晩中、ある小説のプランを考えしてあれがあんなにばくを愛してくれるのか、合点がいかな いくらいです。でも、ばくはあれのためなら、一生を投げ出 ましたよ、まあ、ちょっと小手だめしにね。ところが、どう でしよう、なかなかいい ものができそうなんですよ。題材はしてもいい覚悟なんです ! まったくのところ、ばくはこれ : しかし、またあとでまで何一つ恐れたことがないんだけれど、今は怖くなりまし スグリープの喜劇から借りましたが : た。いったいばくたちはなんてことを思い立ったんでしょ あなたに詳しくお話しましよう。肝腎なのは、それが金にな るってことです : : : だって、あなただって金を儲けてるんでう ! ああ、大変だ ! ねえ、人間が身も魂もうち込んで、 自分の義務を実行しようとしている時に、それを果たすだけ わたしは、にたりと笑わずにいられなかった。 の能力と、確固たる意志が足りないなんて、いったいそんな ことがあっていいものでしようか ? せめてあなたでもばく 「あなたお笑いになるんですね」と彼はわたしについて笑い ながらいった。「いや、まあ、聞いてください」と彼は測り たちを助けてください、あなたはばくら二人の親友ですも 知れぬ率直さをむき出しにしながら、つけ加えた。「ばくがの ! あなただけです、ばくらの親友は。なにしろ、ばく一 ごめんなさい、あなたを こんなふうに見えるからって、それでどうこう思わないでく 人だけで何がわかるものですかー ださい。まったくの話、ばくはとても観察眼を持ってるんでこんなに当てにしちゃって、ばくはあなたをあまりにも潔白 な、ばくなんかよりずっと立派な人だと思ってるものですか すよ。今にあなたもおわかりになりますから。やって見るく らいかまわないでしよう。もしかしたら、ものになるかもしら。でも、ばく、よくなります、どうか信じてください。あな 2 5
た。何より不思議なのは、わたしも詳しくきくだけの勇気が たしはもう一度入口の廊下で彼女を引き留めた。 なかったことである。いったいだれをそんなに怖がっている 「ばく、このままでお前を帰しやしないよ」とわたしはいっ た。「何をそんなにびくびくしているんだね ? 遅くなったのかとたずねた時、彼女はいきなり両手を振り廻して、もう 少しで馬車から飛びおりるところであった。なんて不思議な の ? 」 ことだろう ? とわたしは考えた。 「ええ、ええ、あたしそっと抜け出したんですもの ! 放し てちょうだいー あのひとにぶたれるわ ! 」と彼女はうつか馬車の中では、彼女はひどく乗り心地が悪そうであった。 り口を滑らせたようにこう叫んで、わたしの手を振りほどこ車が揺れるたびに、彼女は自分の体を支えようとして、何か , っとした。 引掻き痕だらけの小さな汚い左手で、わたしの外套にしがみ つくのであった。もう一方の手には例の本をしつかとかかえ 「まあ、お聞き、そんなに暴れないで、お前はヴァシーリエ フスキイ島へ行くんだろう。ばくもやつばりそうなんだ、十ていた。すべての点から見て、その本はよほど彼女にとって 三丁目まで。ばくも時刻が遅れたから、辻馬車に乗ろうと思大切なものらしかった。いずまいを直そうとして、彼女はふ ってるのさ。 、つしょに行かない ? ばくが連れてって上げと足をあらわに見せたが、驚き入ったことには、彼女は靴下 もはかず、穴だらけの靴を突っかけているだけであった。わ るから。歩くよりは早いよ : ・・ : 」 「あたしの家へ来ちゃ駄目、駄目よ」と彼女はいっそうおびたしは何ごとも聞くまいとはらをきめてはいたけれども、そ えたように叫んだ。それどころか、わたしが彼女の住み家へれを見るとまた我慢しきれなくなった。 来るかもしれないと考えただけで、なにか恐怖にかられて顔「おや、靴下なしなの ? 」とわたしはたずねた。「どうして の相好が歪んだほどである。 こんなじめじめした天気に、おまけにこんな寒い時に、素足 「なに、ばくは自分の用で、十三丁目へ行くんだといってるでなんか歩けるの ? 」 「ないんだもの」と彼女はぶつきら棒に答えた。 なしか、お前のとこへ行くんじゃないよ ! お前の跡な 「ああ、なんてことだ、だって、お前はだれかのところにい んかつけて行きやしない。馬車に乗ったほうが早く帰れるじ るんだろう ! 外へ出なければならないような時には、だれ オしか。さあ、 ~ 打こ , っー・」 した わたしたちは大いそぎで階下へ駆け下りた。わたしは行き かに靴下をかしてもらったらよさそうなものを」 当たりばったりの馬車をつかまえた。ぎしぎし音のするひど 「あたし、自分でこうしたいの」 「だって、それじや病気になるよ、死んでしまうじゃない いばろ馬車だった。エレーナが納得して、わたしといっしょ に乗ったところを見ると、ひどく気がせいているらしかっ
「あなたはご自分の言葉を撤回しようとしていらっしやるの田 ・失礼。とにかく、わたしはあなたを責める権利を持っていま す。だって、あなたはわたしに息子を反抗させようとして いですね」とナターシャはわれを忘れて叫んだ。「この機会を らっしやるのですからね。よしんばいま、あなたの味方をし喜んでいらっしやるのですね ! でも、はっきり申し上げま て、わたしに楯つかないまでも、、いはもうわたしに叛いていすが、わたくしはもう二日前から、ここでたった一人考えた るのです・ : ・ : 」 あげく、あなたの約東を解除してあげようと、自分で決心し 「ちがいます、お父さん、ちがいますよ ! 」とアリヨーシャ たんですの。それをいま、みんなの前で確かめておきます。 は叫んだ。「ばくがあなたに楯つかなかったのは、あなたがわたくし、お断わり申し上げます ! 」 そんな侮辱をするはずがないと信ずるからです。そんな侮辱「というと、あなたはアリヨーシャの心の中に、今までの不 ができるなんて、ばくはとても本当にできません ! 」 安や、義務の感情や、「自分の務めに対する悩み』これはあ 「あれを聞きましたか ? 」と公爵は叫んだ。 なたがさっき自分でいわれたことだが ) 、こういうものをす 「ナターシャ、何もかもばくが悪いんだ、お父さんを責めな つかりよみがえらして、もう一ど昔どおりに、あれを自分に いでおくれ、それは罪なことだ、恐ろしいことだ ! 」 縛りつけようという考えですな。実際、あなたの理論による と、そうなるじゃありませんか。だからこそ、わたしもそう 「あれをお聞きになって ? ヴァーニヤ、この人はもうわた しに逆らってるのよ ! 」とナターシャは叫んだ。 いっているんですよ。しかし、もうたくさん、時が解決して 「たくさんだ ! 」と公爵はいった。「こんな重苦しい芝居は、 くれるでしよう。わたしはもっと落ちつかれた時を待って、 もう幕にしなくちゃなりません。この方図の知れない盲目的あなたとよく話し合うことにしましよう。これでわたしたち な猛々しい嫉妬の発作は、わたしにとってまったく新しい形の関係を完全に断ってしまったのではない、と嘱望する次第 で、あなたの性格を描き出してくれましたよ。わたしはいいです。なおその他、わたしという人間をもっとよく評価する 警告を得ました。われわれは早まり過ぎました、まったく早すべも、会得なさることと期待します。わたしはあなたのご まり過ぎましたよ、あなたはわたしを手ひどく侮辱しなが両親のことについても、一つの計画をお伝えしたいと考えて いたのです。あなたもそれをお聞きになったら : : : しかし、 ら、それに気さえっかないんですからね。あなたにならそん なことはなんともないことでしようよ。早まり過ぎた : : : 早もうたくさんです ! イヴァン・ベトローヴィチ ! 」と彼は ら、 まり過ぎた : : もちろん、いったん口外した約東は神聖なもわたしの傍へ寄りながら、つけ加えた。「わたしは前か のこよ目違よ、。 : しかし : : : わたしは父親だから、わが子あなたとお近づきになりたいと望んでいたのですが、それは いうまでもないとして、いまはいついかなる時よりも、とく の幸福を希望するわけで : : : 」
とらしいつけ元気の調子でこう叫んだ。 にいるマヴラのところへ出て行った。案のじよう ! それは だれもそれに応んなかった。 アリヨーシャだった。彼はマヴラに何やらくどくどたすねて 「大丈夫、あのひとはたった今そこにいたんですから」とわ いたが、こちらは初め彼を通すまいとしていたのである。 「いったいどこからおめおめやって来たの ? 」と彼女は何かたしは答えた。「いったい何か : : : 」 アリヨーシャは用心深く扉を開けて、臆病げに部屋の中に 権力でも持っているもののように詰問した。「なんだって ? 一瞥を投げた。そこにはだれもいなかった。 どこをほっつき歩いていたの ? まあ、いいからきなさい 。こまかさ きな六」いー だけど、わたしはお前さんなんかに、 と、不意に彼は、戸棚と窓の間に当たる片隅に、彼女の姿 れやしないからね ! 彼女は隠れんばでもしているように、生きた空 まあ、入ってきてごらん、なんと返答を見つけた。 / もなくそこに立っていた。わたしは今でもそのことを思い出 ができるか ! 」 「ばくはだれも怖かないよ ! 入って行くとも ! 」とアリョすと、徴笑を禁ずることができない。アリヨーシャはそっと ーシャはいったが、それでも少々てれているふうであった。用心深くその傍へ寄った。 「ナターシャ、ど、フしたの ? ご機嫌よ、つ、ナターシャ」 「まあ、入ってきてごらん ! どうもお前さんは本当に尻が と、何かしらおびえたようなふうで相手を見ながら、彼はお 軽すぎるよ ! 」 「だから、行くっていってるじゃないか ! おや ! あなたずおすと声をかけた。 しいえ、なに、ええ : : : なんでもないのー ・ : 」と彼女は もここに見えていたんですか ? 」と彼はわたしを見つけて声 をかけた。「あなたも来合わせてくだすって、実に好都合でまるで自分が悪いことでもしたように、ひどくどぎまぎしな がら答えた。「あなた : : : お茶めしあがる ? 」 さあ、ばくも帰って来ましたよ。ところでねえ、ば 「ナターシャ、聞いておくれ : : : 」とアリヨーシャはすっか くはこれからどんなふうにして : : : 」 「なに、ただ入って行ったらいいんですよ」とわたしは答えりとほうに暮れていった。「お前はもしかしたら、ばくが悪 いように田 5 い込んでいるかもしれないが : : : でも、ばくは悪 た。「何もびくびくすることはないじゃありませんか」 「ばくなにもびくびくしてやしません、本当に。だって、事かないんだよ、ちっとも悪かないんだよ ! 実はね、こうい うわけなんだ、ばくいま何もかも話して聞かせるから」 々実なんにも悪いことをした覚えがないんですもの。あなたは 「まあ、いったいなんのためにそんなこと ? 」とナターシャ しばくが悪いとお思いになりますか ? まあ、今に見ててくだ んししえ、いらないわ : はささやくよ , フにいった。「、、 らさい、ちゃんと申開きを立てますから。ナターシャ、はいっ 虐てもしい ? 」と彼は閉め切った扉の前に立ちどまって、わざそれよか、手を出してちょうだい、それで : : : おしまい 3
そんなことができるみたいに ! それこそばくたちがいった もし人から尊敬されたいと思ったら、何よりも第一におのれ り、考えたりしていることより、千倍も不可能なことじゃあみずからを尊敬せよ、ただこの自己尊敬によってのみ、他人 りませんか。そのくせ、みんなばくたちのことをユートピアをしておのれを尊敬せしめることができる。これはべズムイ 主義者だなんていうんですからね ! 昨日あの連中がばくにギンのいったことで、カーチャも全然それと同意見なんだ。 話したことを、お父さんに聞かせて上げたかった : 概して、ばくたちはいま自分の信念について申合わせをして 「でも、なんのことですの、あなたがたは何をいったり考え いるんだよ。めいめい別々に自分自身を研究した上に、みん たりしてらっしやるの ? よく話してちょうだい、アリョ なで寄り集まって、お互い同士を批評し合うっていうことに シャ、あたしいまだになんだかよくわからないんですもの」決めたわけさ : とナターシャがいた 「なんというたわ言だ ! 」と公爵は不安げに叫んだ。「その いや、そんなことはこ 「全体に、進歩とか、人道とか、愛とかに通するいっさいのべズムイギンというのは何者だね ? ことさ。それはみんな現代的問題に関連していわれることなのままうっちゃっておくわけにはいかん : : : 」 「なにがうっちゃっておけないんです ? 」とアリヨーシャは んだよ。ばくたちは言論の自由とか、緒について来た改革と か、人類に対する愛とか、現代の活動家だとかについて話し言葉尻をおさえた。「ねえ、お父さん、ばくが今更こんなこと ているのさ。われわれはそういう問題を解剖したり、本を読をあなたの前でいうのは、なんのためでしよう ? ほかでも んだりしているんだよ。しかし、何より肝腎なのは、ばくたありません、あなたをばくらの仲間へ入れたいからですよ。 ちがお互い同士まったくうち明け合って、自分たちのことをまたそうできるものと思っています。ばくはあの連中の前 率直に、遠慮なしに話し合おうと約東したことさ。ただ完全で、あなたのことを引き受けたんですよ。あなたは笑ってお いでですね。いや、きっとお笑いになるだろうと思っていま に率直にうち明け合ってこそ、目的を達することができるん あなたは善良な、高潔な だからね。このことはとくにべズムイギンが骨折っているんしたよ ! でも、聞いてください ! だ。ばくがカーチャにその話をしたら、あのひとも全然ペズ人だから、わかってくださるはずです。だって、あなたはあ ムイギンに賛成だといったよ。こういうわけで、ばくたち一 の人たちを知らないんですものね、一度も会ったこともなけ 同はべズムイギンの指導の下に、生涯正直に、率直に行動しれば、じきじき話を聞いたこともないんでしよう。そりやま て、人がなんといおうと、われわれのことをどんなに批判しあ、お父さんはそんな話などすっかり聞いていらっしやるで ( 、つとス いっさいを意に介せす、われわれの感激、熱中、誤しようし、それにあなたはとても学者だから、何もかも研究 し尽くしていらっしやるでしようが、しかし、あの人たちを 謬を恥じないで、ひたむきに進んで行こうと誓ったわけさ。 196
りや恐ろしいほどですわ。あたしマダム・アルベルトに二週上もない立派な心の人だっていうことは、ちゃんと承知して しるくせに。そうじゃありませんか ? 」 間もねだりとおして、やっと諾いてもらえたんですの。あな こは、イヴァン・ベトローヴィチ、あなたは一度もあたしの彼女は罪ある者のように、おずおずと入って行き、ナター ところへ来てくださいませんでしたのね ! お手紙を差し上シャの顔をじっと見つめた。ナターシャも直ぐにつこりと彼 げるわけにもいきませんし、それになんだか気が進まなかっ女にほほ笑みかけた。その時カーチャは、つかっかと傍へ寄 たんですの。だって、手紙では何一つ思うことが書き尺、くせって、ナターシャの両手をとり、ふつくりした唇を相手のロ ないんですもの。あたし、とてもあなたにお目にかかりとうに押し当てた。それから、ナターシャには一ことも口をきか ないで、真面目な、というより、厳しいくらいの態度でアリョ ございましたわ : ・・ : ああ、今ひどく胸がどきどきして : : : 」 ーシャに向かい、三十分ばかり座をはずしてほしいと頼んだ。 「階段が急ですからね」とわたしは答えた。 「お怒りにならないでね、アリヨーシャ」と彼女はつけ加え 「ええ、そうね・・・・ : 階段も : ・・ : ときに、どうお思いになりま た。「あたし、これからナターシャとたいへん重大な真面目 して、ナターシャはあたしに腹をお立てになりはしないでし な相談を、いろいろしなくちゃならないんですが、それをあ レ。しかないので、それでこんなこと なたの耳に入れるわナこま、 「そんなことがあるものですか、なぜです ? 」 を申し上げるんですの。わかってくださるわね。さあ、行っ 「まあ、そうね : : : 無論そんなわけはないんですけれど。 ますぐわかることなのに、なんだってこんなことをおたずねてちょうだい。イヴァン・ベトローヴィチ、あなたはここに いてくださいまし。あなたにはあたしたちの話を、すっかり しているんでしょ , っ ? 」 わたしは彼女の腕を支えた。彼女は顔の色さえ変えて、ひ聞いていただかなくちゃなりませんの」 「では、掛けましよう」と彼女はアリヨーシャが出て行く どく恐ろしそうなふうに見えた。最後の曲り角で、息をつぐ と、ナターシャに向かってそ、ついった。「あたしはここんと ために歩みをとめたが、わたしをちらりと見上げると、思い こに、あなたと向かい合って坐りますわ。まず初めに、あな 切った様子で昇って行った。 たのお顔をよく見させていただきたいんですの」 戸口のところで、彼女はもう一ど立ちどまり、わたしにさ 彼女は、ナターシャのほとんど真向かいに腰を下ろし、し さやいた。「あたし素直に入って行って、あの方にこういし ますわ。あたしあなたという方を信頼したものですから、こばらくの間、じっと穴のあくほど、彼女の顔を見つめてい うしておそれげなしにやってまいりましたって : : : でも、何た。ナターシャは、われともなしに浮かぶ徴笑をもって、そ をあたしはぐずぐずいってるんでしよう。ナターシャがこのれに答えた。 326
直接見たこともなし、あの人たちのところへ行ったこともなて、話しかけたんじゃありませんか。もしばくのいうことが いんだから、あの人たちを正しく判断することができようは馬鹿げているとお考えになったら、そんなに笑い倒さない ずがありません ! あなたはただ知っているとうぬばれて、 しで、いって聞かせてくだすったらいいじゃありませんか。そ らっしやるだけです。本当に一度あの連中のところへ行ってれにあなたのお笑いになることはなんでしよう ? いまのば 言を聞いてごらんなさい。そうすれば、そのときこそはあな くにとって神聖な、高遠なことじゃありませんか。まあ、か たもわれわれの仲間になること受合いです。何よりも第一に りにばくが迷っているので、そんなことはみんな間違った、 お父さんが一生懸命に噛りついていらっしやる社会で破滅な正しくないことだとしておきましよう。ばくは、お父さんが さらないように、ばくはあなたを救い出したいんです。あな何度もおっしやったように、馬鹿だとしてもかまいません。 たの持っていらっしやる信念からあなたを救いたいんです」でも、よしんばばくが迷いに落ちているにもせよ、その気持 公爵は無言のまま毒々しい嘲笑を浮かべて、この突っ飛なちは真剣で正直です。ばくは自分の高潔さを失っておりませ 申し出を聞いていた。その顔には、憤怒の色が現われた。ナん。ばくは高尚な思想に感奮しているんです。たとえその思 ターシャは隠し切れぬ嫌悪を示しながら、彼を見まもって い想が間違っているにもせよ、その基礎は神聖です。いまもい ったとおり、あなたにしても、あなたの社会の人たちにして た。彼はそれを見て取りながら、気のつかない振りをしてい た。けれど、アリヨーシャがいい終わるが早いか、公爵はい も、ばくに方向を示し、ばくを夢中にさせるようなことを、 きなり破裂したように笑い出した。まるで自分を支える力がまだ何一ついったことがないじゃありませんか。あの人たち ないとでもいったように、椅子の背にぐったり身をもたせたを反駁して、それ以上に立派なことを何か聞かせてくださ ほどである。しかし、この笑いは徹頭徹尾こしらえものであ 。そうすれば、ばくもあなたについて行きます。ただ頭ご った。彼が笑ったのは、ただ自分の息子をできるだけひどく なしに笑うのはよしてください。そうされると、ばくはとて 侮辱し、卑下させようという目的にほかならないのは、あまもつらいんですから」 りにも見えすいていた。アリヨーシャは果たしてがっかりし アリヨーシャがこういった調子は、並み並みならず上品 てしまった。その顔は一方ならぬ悲しみを現わした。し かで、一種厳粛な品位さえおびていた。ナターシャは同感した 々し、彼は父の浮き浮きした気分が終わるのを、辛抱づよく待ように彼を見まもっていた。公爵はあきれた顔をして、わが しっていた。 子の言葉を聞き終わると、たちまち語調を一変さした。 ら「お父さん」と彼は沈んだ声でいい出した。「なんだってそ「わたしはお前を侮辱しようなんて気は、もうとうなかった んなにばくのことを笑うんです ? ばくは率直に胸襟を開いんだよ」と彼は答えた。「それどころか、わたしはお前をか ~
、刀ュ / 、刀 / ンスキイ伯爵だけは承知しているけれど、これは親戚という ことになっているし、保護者でもあるからね。そればかり 「わかり切ってますわ、あなたはその時分、あたしのほうを 、、ばくはこの二週間のあいだに、すっかりカーチャと仲よよけい愛していらしったから」とナターシャはさえぎった。 しになったけれども、つい今日の晩まで、二人でさきざきの「だから見分けがっかなかったんですわ。ところが、今 話など一こともしたことがないのだ、つまり結婚と : : : それは : から、あのう、愛のことだがね。その上に、まず公爵夫人「黙って、ナターシャ」とアリヨーシャは熱くなって叫ん の同意を求めることになってたものだから。このお婆さんか だ。「きみはまるつきり勘違いをして、ばくを侮辱してるん だよ , らはありたつけの保護と、黄金の雨を期待しているのでね。 ・まくはきみこ、、、 冫ししカえしもしないから、ずっとし お婆さんのいうことはとりも直さず、社交界ぜんたいの意見まいまで聞いておくれ。そうすれば、何もかも合点がいくよ : ところ になるわけさ。それほど大した勢力があるんだよ : ・ : ああ、もしきみがカーチャを知っていたらなあ ! あれ で、お父さんたちは是が非でも、ばくを社交界へ押し出し がどんなに優しい、朗らかな、鳩のような心を持っている て、一人前にしたがっているんだが、ことに伯爵夫人が、カか、それをきみが知ってくれたら ! でも、そのうちにわか ーチャの継母が、そうしたいろいろな手配をするように、とるだろうよ。まあ、とにかく、すっかり聞いておくれ ! 二 主張しているのさ。ほかでもない、公爵夫人は、カーチャの週間まえ、あの人たちが帰って来た時、お父さんがばくをカ 継母が外国でやったいろんなことを根にもって、あのひとを ーチャのとこへ連れてってくれたので、ばくはつくづくと観 相手にしてくれそうもない。ところで、公爵夫人が相手にし察を始めたのさ。ところが、向こうでもばくを観察している てくれなければ、ほかの人たちもっきあってはくれないだろのに気がついた。ばくはそれにすっかり好奇心を呼びさまさ う。といったわけで、ばくとカーチャの縁談は渡りに舟なのれてしまったね。もっとも、その前からもっと傍近くよっ さ。だもんだから、もとはこの縁談に反対だった伯爵夫人て、彼女を研究してみようという意志があったんだが、それ が、きようばくが公爵夫人のお覚えめでたかったのに、大喜は改めていわないことにしよう。 それはばくに深い印象 びしてる始末なんだ。それはまあ別として、大切なのはこうを与えたあの父の手紙以来、ずっと心にいだいていた計画な い , つわけなのさ。ばくはカチェリーナ・フヨードロヴナを、 んだがね。ばくは何もいうまい、彼女を讃めることもしま もう去年から知っていたんだけど、なにしろその時分は、こ い。ただ一つだけいっておくが、彼女はああいう社会の中 っちもまだ子供だったもんだから、なんにもものがわからなで、唯一の例外だね。それは実に独特な性格で、実に強い真 くって、当時あの娘がどんな人間か、まるつきり見分けがっ実な心の持ち主なんだ。しかも、その強さは純潔と真実にあ ~ 04