「うん、そう、うん、そう ! ところで、お前は潔白な人間思いですか ? 」 らしいから、こうなったら仕方がない、もうひとつお前をび「ああ、そうそう、わしは今日お前のいない間にまた落っこ ーっくーりさしてやろう : : : わしのひみーっを、すっかりばちたよ ! フェオフィールのやっ、またぞろわしを馬車の外 らしてやるよ。どうだね、お前、わしのこのくーちひげは ? 」 へほーうり出してな」 「見事なものですよ、伯父様 ! 素敵ですよ ! どうしてそ「またほうり出したんですって ? そりやいつのことで ういつまでも、もたせておおきになれたのでしよう ? 」 す ? 」 「お気の毒さま、これはっーけーひげだよ ! 」と公爵は得々 「そら、わしらが修道院の傍まで来かかった時 : : : 」 として、モズグリヤコフを眺めながらいった。 「知っていますよ、伯父様、それは今朝のことでしよう」 「へえ ? ほんとうと思われませんね。じゃ、頬ひげは ? 「いや、違う、つーい二時間ばかり前のことだよ。わしが修 白状おしなさしイ / 本 、、白父莱、それはきっと染めておいでになる道院へ出かけて行ったところ、やつめ、いきなりわしを馬車 ~ ルでー ) よ、つ ? ・」 の外へおつばり出すじゃないか、ひどくびーっくりさせお 「染めてる ? 染めてるどころか、こいつはそっくり作りもって、いまだに心臓が元の場所に納まっておらんくらいだ のなんだよ」 「作りものですって ? 嘘ですよ、伯父様、なんとおっしゃ 「だって、伯父様、あなたはおやすみになったじゃありませ ったってほんとにしやしません。あなたはわたしをからかつんか ! 」とモズグリ一ヤコフは驚いてたずねた。 ていらっしやるんでしよ、フ ! 」 「うん、そう、寝たんだよ : : : 寝た後で、でーかーけたの : もっとも、わしは : : ことによったら : 「 Parole d'honneur, mon ami 一 ( 誓っていうよ、お前 ! ) 」とさ。もっとも : 公爵は凱歌をあげんばかりに叫んだ。「まあ、どーうだろう、あっ、こいつはどうも変だぞ ! 」 みんな、そーれこそみんな一人残さず、お前とおんなじよう 「伯父様、それは確かに夢をごらんになったに相違ありませ ーっぱい食うんだよ ! スチェパニーダまでが、時々ん ! あなたは食事をすますとすぐ、ぐっすりおやすみにな は自分でくーっつーけてくれるくせに、ほんとにしないんだ ったんですもの」 からな。しかし、お前は間違いなくわしの秘密を守ってくれ「そうかなあ ? 」といって、公爵は考え込んだ。 夢るな。さ、立派に誓ってくれよ : ・・ : 」 「うん、そう、ほんとに夢を見たのかもしらんな。それはそ 様「誓いますとも、伯父様、守りますとも。くどいようですうと、わしは夢に見たことをすっかり覚えとるよ。初めなん 伯が、あなたは、わたしをそんな卑劣な真似のできる人間とおだか角を生やした、それはそれは恐ろしい牛を夢に見たっ
もせよ、目がさめている時に、そんな無謀な申込みをなさる「確か夢。 にた、たーしーかーに夢だ ! 」と仰天した公爵はく はずは、こんりんざいないじゃありませんか。わたしのぞんり返した。「いや、お前は実にうまく、事を分けて話して聞 じ上げている限りでは、あなたはこの上もない思慮分別に長かせてくれたよ。よく納得のいくようにいって聞かせてくれ けた方ですから : : : 」 て、わしはこ ーこーろからお礼をいうよ」 「うん、そう、うん、そう」 「わたしは今日、伯父様に出会ったのが嬉しくてたまりませ 「そればかりか、もしこのことを親戚のひとたちが知ったらん。考えてもごらんなさいまし、わたしがいなかったら、あ どうでしよう。それでなくても、親類じゅうのものがあなた なたはほんとうに : : : 勘違いをして、自分は確かに婚約をし を良く思っていないんですからね、これ一つ考えただけでたものと思い込み 、、いなずけ気取りで下へおりていらっし たかもしれません。ねえ、これは実に危険ですよ ! 」 「ああ、それこそ大変だ ! 」と、すっかり脅かされた公爵は 「うん、そう・・・・ : そうだ、危険だ」 叫んだ。「その時はどんな騒ぎになるやら ! 」 「なにしろ、あの娘は二十三にもなっているのに、だれも嫁 「とんでもないことですよ ! あの連中は一時に口をそろえ にもらい手がないってことを思い出してください。そこへも て、これは正気でやったことではない、あれは気ちがいだ、 って来て、思いがけなく、あなたみたいな金持ちで名門の貴 まんまといつばいくわされたのだ、後見をつけなくちゃいけ 力いいなずけのつもりで出て行ってごらんなさい ! あ よい、とわめき出して、あなたをどこかへ、監視つきで押しの親子は、さっそくそれをとっこに取って、あなたがほんと 込めるに相違ありませんよ」 ~ いいなずけであるようにはい込ませ、ひょっとしたら、 モズグリヤコフは、老人をおどしつけるこつを心得ていた無理やりにも結婚させるかもしれやしません。それからさき のである。 は、あなたが間もなく死ぬものと当て込んで : : : 」 「ああ、くわばらくわばら ! 」と老人は木の葉のように慄え 「へえ、そうかなあ ? 」 ながら叫んだ。「ほんとうに押し込めるだろうか ? 」 「それに、第一、思っても見てください、あなたのような立 「ですから、伯父様、よく考えてごらんなさいまし、あなた派な方が : ・ : こ が目をさましていらっしやる時は、そんな無茶な申込みをな 「うん、そう、わしのような立派な人間が : : : 」 きるわけがないじゃありませんか ! ご自分の利益とい、フも 「それだけの優れた頭脳を持って、社交に長けた方が : : : 」 のを知っていらっしゃいますものね。それは夢をごらんにな 「うん、そう、これだけの優れた頭脳を、そうだともー 「それに、なによりもまず、あなたは公爵なんですからね。 ったのです、わたしは正々堂々と断言いたします」
まあ、考えてもごらんな 約東しておしまいになったんですのよ。ところが、この頃あ張り出したじゃありませんか、 そこの家にへばりついているナターシ = カ ( け 7 ヤを侮蔑的 ) めさい、まだやっと十五になったばかりで、いまだに裾の短い が、ほんとうのお食事までにちょっとひとロといって、自分着物をきて歩いてるんだからね ! やっと膝までしかないん の家へ引っぱって行ったんです。ねえ、公爵ってこういう人ですよ、ほんとうになんてことでしよう : : : それから、例の みなし児のマーシュカまで呼びにやったんですが、これもや ですよ」 つばり短い着物をきているんですの。おまけに、このほうは 「それで、どうしました : : : あのモズグリヤコフは ? だっ ロルネット 膝よりももっと上なんですからね、 わたしは柄付眼鏡で て、あの人がちゃんと請け合ったんですもの : : : 」 「あなたはなんでもかでも、モズグリヤコフの一点張りなんよく見てやりましたよ : : : 二人とも、鳥の羽のついた変な赤 ですねえ ! あなたのごひいきになさるモズグリヤコフは い帽子をかぶっていましたがね、いったいぜんたいなんのつ もりやら、わたしにやいっこう解せませんでしたよ ! それ : みなといっしょにのこのこあそこへ出かけて行きました たげり よ ! 見てらっしゃい。あそこへ行ったら、きっとカルタをから、二人の田鳧嬢はビアノに合わせて、公爵の前でコサッ させられますから、そして、この前と同じように、ひどい目ク踊りをおどらされましたつけ ! ね、あなたもごぞんじで にあわされるんですよ ! それどころか、あの連中は公爵ましよう、あの公爵の弱点は ? ですから、もうとろけんばか で仲間に引っ張り込んで、菩提樹みたいにすっかり身の皮をりのていたらくで、あの形、あの形の素晴らしいこと ! 』 ロルネット といって、柄付眼鏡でじろじろ眺め廻しているんですの。二 剥いでしまいますよ。それにしても、あの女は、あのナター シュカは、何を触れ廻しているとお思いになります ! ほか 人の鵲娘もここを先途とばかり ! 顔を真っ赤にして、脚を でもありませんがね、あなたが公爵を引きつけようとしてい あっちへ上げたり、こっちへ上げたりしながら、大変なお慰 みをおつばじめたんですよ。こっちはもう、やれやれなんて るのは、まあ、その : : : さる魂胆があってのことだなんて、 vous comprenez! ( おわかりでしよう ! ) 、ーーー大っぴら人たちだろうと、舌を巻くばかりでしたよ ! ほんとにべっ べつだ ! あれでも踊りなんですからねえ ! わたしなん にしゃべり立ててるんですからね。公爵に向かってまでも、 そんなことを吹き込んでるんです。もっとも、ご当人はむろか、ジャルニ夫人の高等寄宿学校を卒業するとき、ショール の舞をまいましたが、とても上品だといって、喝采を博した ん、何が何やらわからないで、濡れしよばけた猫みたいに、 ものですからね ! 元老院議員までが拍手してくださいまし 夢しょんばり坐って、何をいわれても、「うん、そう、うん、 たよ ! あの学校は、公爵や伯爵の令嬢が教育を受けるとこ 様そう ! 』と相槌を打ってるだけですがね。ところが、そうい 伯う当のナターシュカはどうでしよう ? 娘のソーンカを引っろでしてねえ ! ところが、あの娘たちが踊ったのは、まる
「わが国には優れた騎者が多いが、その中で最も輝かしい騎者という名誉など全然必要とせず、老年に近い年でそのよう 者がだれであるか、諸君はもちろんすぐ想察されることと思な名誉を期待してもいず、よしんば人が陛下はフランス一の こじゅう う。陛下は毎日扈従をしたがえて、ご遊歩あそばされるが、乗り手でいらせられますと力説したところで、もちろん、は 云々」 んとうにはされないだろう、それくらいなことがわからない これはわからないでもない、自国の皇帝の優れた資質にうはずはない。噂によると、皇帝は図抜けて聡明な人だそうで ちょうてんになるのはさしつかえない。陛下の頭脳、計画のある。ところが、違う、そこには別な魂胆があるのだ。たと 的確さ、さまざまな完成味、等々を讃美するのはかまわなえこの記事がほんとらしくなく、滑橋であってもかまわな い。こうしたうちょうてんになりやすいお方には、あなたは 。皇帝自身が嫌悪と軽侮の笑いをもってこれを見られたっ そら 空を使っていらっしやるでしようと、面と向かっていうわけてかまわない。そんなことは平気だ。が、その代わり、盲目 にもいかない。「それがばくの確信です、 それでおしま的な忠順を見てくださるだろう、無限の崇拝、奴隷的な、愚 いですよ」とちょうどわが国現代のジャーナリストのあるも 、しい、ほんとうらしくもない跪拝ぶりを見てくださるだろ のとそっくり同じように、彼はこう答えるに相違ない。おわう、足にとどくほどの最敬礼、これが一番かんじんなのであ かりでもあろうが、彼はちゃんと保証されているのだ。彼はる。さて、そこでご判断を願しオし 、こ、。もしこれが国民精神の 相手のロをふさぐために、答えるべきことを持っているの中になかったら、もしこのように俗悪な阿諛追従が、当然あ だ。良心と信念の自由は、この世における第一の最もおもな りうる日常茶飯事と見なされ、尋常一様の、むしろ作法にか 自由である。しかし、今この場合、彼はなんと答えることが なかったことと考えられていなかったら、 まさかこのよ できるだろう ? この場合、彼はもう現実の法則を無視し、 うな通イ 一一一一口をパリの新聞に載せることはできまい ? フランス あらゆる真実性を蹂躙している。しかも、計画的にそれをやを除いて、どこにかような阿諛追従を見かけるだろう ? わ っているのだ。ちょっと考えると、なんのためにそんなこと たしがこんなことをいうのは、単にこの新聞のみならず、 を計画的にやるのか、と思われる。なにしろ、だれ一人そん二、三のいくらか独立独歩の新聞をのそくと、ほとんどすべ なことをほんとうにするものはないからである。高貴なる騎 てがまったくこれと同じような解釈をしているからである。 者自身はこの記事を読まれはすまい。たとえ、読まれるにし わたしは一度ホテルの食堂に坐っていた、 これはも、つ コレスポンダンス てからが、この「通信」を書いたフランス人にしても、そフランスではなく、イタリアのことであったが、食堂にはフ 冬れを載せた新聞にしても、新聞の編集局にしても、まさか皆 ランス人が大勢いた。みんなでガリバルディ ( 羽タリア統一に大 者、一八 0 七 夏が皆それほど馬鹿ではなかろうから、皇帝がフランス一の騎 ) の噂をしていた。その頃はいたるところで、ガリ 八八二年
「うん、そう、れつきとした家庭に対して、そんな冗談をす「まあ、なんということだろう ! 」とマリヤ・アレクサンド るという法はない」と公爵は無意識に相槌を打ったが、いく ロヴナは叫んだ。 らか不安を感じ始めた様子であった。 「くよくよなさんなよ、マリヤ・アレクサンドロヴナ」とナ 「だって、それじゃ、わたしのおたずねしたことに、ご返事タリヤ・ 丿エヴナが割って入った。「公爵はどうか なすったことにならないじやございませんか。どうかきつば して、ど忘れなすったのかもしれませんものね。いまに思い りとしたご返事を聞かしていただきたいものでございます。出しなさいますよ」 あなたがさきほどうちの娘に結婚の申込みをなすったことを「まあ、驚いたことをおっしゃいますね、ナタリヤ・ 確かめてください。皆さんのいらっしやる前で確かめてくだ ト丿エヴナ」とマリヤ・アレグサンドロヴナは憤然として食 さいまし」 ってかかった。「いったいこんなことが忘れられるものでし 「うん、そう、わたしはいつでも確かめるよ。しかし、そのようか ? 忘れようにも忘れられないじゃありませんか。冗 ことはも、つすっかりはーなーしてしまったし、それにフェリ 談じゃありませんよ、公爵 ! あなたはわたしたちを愚弄し サータ・ヤーコヴレヴナが、きーれーいにわしの夢をいい当ていらっしやるんですか、え、どうなんですの ? それとも、 てたじゃありませんか」 デュマの書いた摂政時代ののらくらものの真似でも、してい 「夢じゃありません ! 夢じゃありません ! 」とマリヤ・アらっしやるんですの ? フェルラグールか、ロゼンを気取っ レクサンドロヴナは猛然としてさけんだ。「夢じゃありませていらっしやるんじゃありませんか ? そんなことは第一、 ん、ほんとうのことです、公爵、ほんとうにあったことですお年恰好に合いませんし、それに誓って申しますが、うまく よ、おわかりになりましたか、ほんとうにあったことです いきっこありませんわ ! うちの娘は、フランスの子爵夫人 とは違いますからね。さきほどここで、そ、つ、ここのところ 「ほんとうにあったこと ! 」と公爵はびつくりして、肘掛けで、あれが小唄をうたってお聞かせしたところ、あなたはそ いすから身を起こしながら叫んだ。「なあ、 mon ami! さー の歌に感心しておしまいになって、膝を突いて申込みをなす つきお前がいったとおりになったな ! 」と彼はモズグリヤコ ったじゃありませんか。いったいわたしが寝言でもいってる フのはうへ向きながらつけ加えた。「しかし、マリヤ・スチとお思いになって ? いったいわたしは居眠りでもしてるん 夢エ・、 ーノヴナ、断じていいますが、あなたは考えちーがいをでしようか ? さあ、公爵、おっしやってください。わたし の 様しておられる ! あれはただの夢にすぎないと、わしは固くは眠っているのですか、それとも違いますか ? 」 「うんそう : : : 伯信じておりますよ ! 」 もっとも、そ , フじゃよ、、 ナし力もしれんな : ・ : ・」
でカフェのカンカン踊りです ! わたしはきまりが悪くつよ、あなたがなにしやしないかと思って : : : おわかりでしょ て、火のようになりましたよ、まったく火のようにね ! と う ? ジーナのことで・ : : ・」 うとうしまいまで見ていられませんでしたつけ ! 「 QueIIe horreur 一 ( なんてひどい ! ) 」 「でも : : : あなたはご自分でナタリヤ・ リエヴナの 「これはほんとうのことなんですよ ! 市じゅうの人がそれ ところへいらしったんですの ? だって、あなたは : で大騒ぎしてるんですもの。アンナ・ニコラエヴナは、是が 「そりやね、あの女が先週わたしに、恥を掻かせたのはほん非でもあの人を食事に引き止めて、それきりずっと自分のと とうです。それはどなたにでも明けすけにお話していること ころへ置いとくつもりなんですよ。それというのも、あなた ですよ。 Mais, ma chére ( でもね、あなた ) 、わたしあの公爵へ当てつけるためなんですよ、 mon ange わたしはね、あの を、ほんの隙間からでもいいから一目見たくって、とうとう家をそっと隙見して来ましたが、いやはや、大変な騒動、お 出かけたわけなんですの。さもなければ、どこであの人を見料理の支度で、庖丁の音がかたかたいっているやら : ることができましよう ? ほんとにあのいまいましい公爵めンパンを買いに人を走らせるやら。あなた急がなくちゃ駄目 が来さえしなければ、あんな女のところへこんりんざい、 行よ、急がなくちゃ。公爵があの女のとこへ出かけて行く途中 ってやることじゃないんですがね ! まあ、どうでしよう、 を、つかまえておしまいなさい。だって、一番はじめあなた みんなにはチョコレートを出しておきながら、わたしには出に食事の約東をしたんでしよう ! 公爵はあなたのお客さん さない、そして初めからしまいまで、ひとロもものをいわなで、あの女の客じゃないんですからね ! あんないかさま いんですからね。みんなわざとすることなんですよ : : : あのな、はらの黒い、鼻っ垂らしの女が、あなたを世間の笑い草 ビール幃めが ! 今に見ているがいし ! でも、わたし失礼 にするなんて ! へん、あんな女なんか、たとい検事夫人で しなくちゃ、 mon ange さきを急ぎますから、たいへん急ございといったところで、わたしの靴の裏皮ほどの値打ちも ぎますから : ・・ : わたしど , っしても、アグリーナ・パンフィー ありやしない わたしは大佐夫人なんですからね ! はば ロヴナが出かけないうちに押しかけて行って、すっかり話し かりながら、ジャルニ夫人の高等寄宿学校を卒業したんです て聞かせなければなりませんの : : : それにしても、今度あな から : ・・ : ちょっ ! Mais, adieu, mon ange! ( でもお暇しな たはいよいよ公爵とお別れですよ ! もう二度とあなたの家くちゃ、わたしの天使 ! ) わたしの家の橇に乗って来たもんで へは見えませんから。ご承知のとおり、あの人は記憶力がますから、でなけりや、ごいっしょにお伴するところなんです るでないんですから、アンナ・ニコラエヴナが必ず横取りしけれど : : : 」 てしまいますよ ! あの連中はだれもかも怖がってるんです 二本足で歩く生きた新聞は姿を消した。マリヤ・アレクサ まち
「そう、そう、ジーノチカ、ほんとにそうだったね ! あナ ! とうとううんといっておくれだったね ! してみる田 あ ! すっかりしゃべり込んでしまった ! 」とマリヤ・アレと、お前でも時には欲得ずくの話が、利き目を見せることが ノサンドロヴナはわれに返った。「あの連中は公爵をそそのあるんだねえ ! さきざきうまいことばかり並べ立ててやっ かして、横取りしようとしているんだからね。わたしはこれたら、こっちの思う壺へはまってくれた ! それにしても、 からすぐ馬車に乗って出かけましよう ! そっとあの家の傍まあ、今日のあの子の綺麗なこと、ほんとうに凄いようだ まで行って、モズグリヤコフを呼び出して、それからさきはよ ! わたしがあれだけの器量をもっていたら、ヨーロッパ : なに、様子次第で仕方がなければ、カずくででも連れての半分くらいは、思いどおりにひっくり返してやるのだけれ 来ます ! では、行って来るよ、ジーノチカ、さよなら、、 しど。まあ、今に見てやりましよう : : : 公爵夫人になったら、 い子だから、くよくよするんじゃありませんよ、気迷いを起シェイグスピアなんかどこかへけし飛んでしまって、ばつば こして、ふさぎ込んだりしちゃ駄目よ、 何よりふさぎのつものがわかって来るようになるだろう。今あの子の知って 虫が禁物だよ、何もかもうまく上品にまとまるから ! 大切 いることといったら、モルダーソフの町と例の小学教員くら なのは、どういう立場に立って見るかってことなので : : : じ いのものだからねえ : : : ふむ : : : でも、あれが公爵夫人にな や、さよなら、行って来るよ ! 」 ったら、さぞ立派なことだろうね ! わたしはあれの気位の マリヤ・アレクサンドロヴナはジーナに十字を切って、部高い、人を近づかせないような、大胆不敵なところが好きな 屋を飛び出した。い っとき自分の部屋の鏡の前で体をくねらのさ ! あの子にじっと見られると、女王様にでも睨まれた せていたが、二分も経った時分には、滑り桁をつけた馬車にような気がするもの。とにかく、どうして、自分のとくにな 乗り込んで、モルダーソフの街々を走らせていた。それはることを、合点しないでいられるものか。だから、結局、合点 外出の場合、いつもこの時刻に馬をつけさせることになっ したわけなんだ ! そのはかのことも、やがてみんな悟るだ ている自家用であった。マリヤ・アレグサンドロヴナは en ろうよ : : : だって、なんといっても、わたしが傍についている grand ( 華美に ) 暮らしていたのである。 んだから ! とどのつまり一から十まで、すっかりわたしに 『どうして、お前さんたちに裏をかかれるようなわたしじや相槌を打つに違いない ! わたしがいなかったらにつちもさ ありませんよ ! 』と彼女は自分の馬車の中で考えた。「ジー っちも動くことじゃない ! わたしも公爵夫人のご母堂にな ナがうんといったからには、つまり、ことは半分がた成就しりすまして、。へテルプルグでも名を知られるようになるのだ。 まち たも同じわけだから、ここでやり損うなんて、そんな馬鹿な こんなけちくさい市なんかあばよだ ! そのうちに、あの公 ことがあってたまるものか ! それにしてもでかした、ジー爵も亡くなり、青一一才も死んでしまったなら、その時こそ立
込めないで叫んだ。 の ? なんだって目ばかりばちくりさしてらっしやるの ? これが世間並みの夫だったら、もうとっくの昔に、血でこの「あら、マリヤ・アレグサンドロヴナ、だってそれはよくあ ることじやございませんか・ : : こ 恥をそそいでいるはずですよ ! 「妻よ ! 」とアファナーシイ・マトヴェーイチは、自分も必「だから、いったいなにがよくあることなんですの ? あな た方はどこまでわたしを苦しめたら腹が足りるんです ? 」 要な人物になったのを得意顔に、しかつめらしい調子でいい 「もしかしたら、ほんとうに夢をごらんになったのかもしれ 出した。「妻よ ! お前はんとうにそれは夢で見たことじゃ ないのか ? それから目がさめたとき、なにもかもごっちゃませんね」 「夢を ? わたしが、夢を ? よくまあそんなことを、あた にして、自分勝手な考えで : ・・ : 」 けれど、アファナーシイ・マトヴェーイチは、そのうがっしに面と向かっていいましたね」 「だって、ほんとうにそうだったかもしれませんわ」とフェ た推測を最後までいい終わらない廻り合わせになっていた。 リサータ・ミハイロヴナが口を入れた。 それまでは、婦人客たちもじっと辛抱して、作法を守りなが 「うん、そう、ほんとうにそうだったかもしれないよ」と公 ら、意地悪い気持ちを隠したもったいらしい態度を取ってい た。が、このとき抑えに抑えていた笑いが、一時にどっと爆爵も同じくつぶやいた。 「まあ、あのひとまで、あのひとまでがみんなの尻尾につい 発して部屋をみたした。マリヤ・アレグサンドロヴナはなり も振りも忘れて、自分の夫に飛びかかろうとした。おそらくて ! ああ、なんということだろう ! 」とマリヤ・アレグサ すぐにこの場で、目の玉をかきむしろうとでも思ったのだろンドロヴナは、思わず両手をうち合わせながら叫んだ。 「なんだってそんなにくよくよなさるんですの、マリヤ・ア う。けれども、人々は彼女を抱き止めた。ナタリヤ ト丿エヴナは、このどさくさを利用して、ほんの一滴、彼女レグサンドロヴナ ! 夢は神さまからのさずかりものだって ことを、思い出しなさいましよ。もう神さまがこ、つと田いし召 の心にまたもや毒を注ぎ込んだ。 「ねえ、マリヤ・アレグサンドロヴナ、これははんとうにそした以上、神さまよりほかだれの力にもかないませんものね。 のとおりだったのかもしれませんね、あなたはひとりでやき何ごとにも神さまの尊いみ意がこもっているんですよ。こ もきしていらっしやるけれど」と彼女は蜜のような甘い声でうなったら、もう腹をお立てになることなぞありませんわ」 「うん、そう、何も腹を立てることなぞないよ」と公爵が相 「どうしてそのとおりなんですの ? なにがそのとおりなん槌をうった。 ですの ? 」とマリヤ・アレグサンドロヴナは、まだよく呑み「まあ、いったいあなた方はわたしを気ちがい扱いになさる
と公爵はとはうにくれて答えた。「わしがいいたいのは、今て堪忍袋の緒を切らしてしまうわ ! 」とマリヤ・アレグサン ドロヴナは前後を忘れて、われとわが手を捩りながら叫ん はどうやら眠っちゃいないらしいということだ。実はさっき は眠っていたものだから、それで夢を見たのだ、その夢の中だ。「だって、この子があなたに小唄を歌って聞かせたじゃ ありませんか、ロマンスを ! まさかそれまで夢に見たとは 「ちえつ、この人は、なんてことだろう、眠っていたといつおっしゃいますまい ? 」 「うん、そう、まったく口マンスを歌ったようなあんばいだ たり、眠ってないといったり、夢でないというかと思えば、 いまいましい、なんのことだかてんな」と公爵はもの思わしげにつぶやいた。 また夢だといったりー うわ′一と すると不意に、何かの追憶が彼の顔にいきいきとした光を 公爵、あなたは譫言をいってら でわけがわかりやしな、 投げた。 っしやるの ? 」 「 Mon ami! 」と彼はモズグリヤコフに向かって叫んだ。 : だが、わしはすっかり頭が 「 , つん、そ、つ、しまいましい : ・ : 」と公爵は不安げ「わしはさーっきお前にはーなーすのを忘れていたが、なる めちやめちゃになってしまったらしい ほど、なにかロマンスも出て来たよ。その中には、のべつお に目をくるくるさせて、あたりを見廻しながらそういった。 「では、どうしてあなたはそんなことを、夢にごらんになれ城が出て来てな、お城だらけだったよ。それから、なんだか 、ールバ「々′ーール たのでしよう」とマリヤ・アレグサンドロヴナは必死となっ吟遊討人も出て来たよ ! うん、そう、わしは何もかもそっ : か、さ くり覚えている : : : 涙の出るほど感動したものだ : ていった。「だって、まだあなたがだれにもお話にならない て、今となって見ると困ってしまうな、それが夢じゃなく さきに、わたしのほうがさきを越してあなたご自身の夢を、 て、まったくほんとうにあったことのような気がするので あんなに詳しく話してお聞かせしたじゃありませんか ? 」 「でもね、公爵はもうだれかにお話になったのかもしれませな」 「わたしは率直に申し上げますが」とモズグリヤコフは不安 丿エヴナがいった。 んわね」とナタリヤ・ に声を慄わせながらも、できるだけ落ちつきはらって応じ 「うん、そう、ほんとうにわしはだれかにはーなーしたかも しれんよ」とまったくとほうにくれてしまった公爵が、相槌 「率直に申し上げると、それは造作なく説明することができ を打った。 「まるで喜劇だわ ! 」とフェリサータ・ミハイロヴナは隣席ると思いますよ。あなたは実際、歌をお聞きになったものと 想像されます。ジナイーダ・アファナーシエヴナは、歌の名 の女にささやいた。 「ああ、どうしよう ! これじやほんとうにどんな人間だつ手ですからね。食事の後であなたはこの部屋へ案内されて、
空の下で、お前にゆるされたという喜びに溢れ、お前に愛さ に目的を達したのである。手ごたえは確かにあった。ジーナ れていると信じ切って、安らかに最後の息を引き取るでし は貪るように耳を傾けていた。その頬は燃え、胸は波打って よう ! おお、ジーナ ! こういうことはみんな、お前の、い 一つでできるんですよ ! お前はありとあらゆる利益を、自「ねえ、お母さま」と、彼女はついにきつばりした調子でい しかも、 分の手のうちに握ってるんじゃありませんか、 った。もっとも、その顔色がにわかにさっとあおざめたの は、この決意が並み大ていのものでないことを、まざまざと それは公爵と結婚さえすればいいんだからね」 マリヤ・アレグサンドロヴナは、いうだけのことをいって示していた。 「ねえ、お母さま : : : 」 しまった。かなり長い沈黙がおそった。ジーナは名状しがた い動揺のとりこになっていた。 がこの瞬間、不意に玄関でそうぞうしい物音が響き、マリ わたし 筆者はあえてジーナの感情を述べないことにしよう。それヤ・アレクサンドロヴナに面会を求めるかん高い金切り声が を見抜くことは不可能なのである。けれども、マリヤ・アレ聞こえて来て、ジーナの言葉を中断した。マリヤ・アレグサ クサンドロヴナは、どうやら彼女の胸に通ずる真の道を探りンドロヴナは、、きなり跳びあがった。 かささ 当てたらしい。娘がいまどんな心持ちでいるやら測りかねる 「まあ、なんてことだろう ! 」と彼女は叫んだ。「あの鵲 ままに、おそらくこうもあろうかと思われるさまざまな場合が、大佐夫人がやって来たわ、いまいましい つい二週間 を、残らず想像してみて、ついにこれこそ確かだと思われるまえ、叩き出さないばかりにしてやったのに ! 」と彼女はほ こわね 道を探り当てたのである。彼女は遠慮会釈なしに、ジーナのとんど絶望の声音でつけ加えた。「でも : : : でも、今あの女 に会わないわけにはいかないー どうしてもいかオし ! あ 心の一ばん痛いところにさわったのだが、いつもの癖とし て、高尚な感情をひけらかさずにはいられなかったのは、申の女はきっと知らせを持って来たに相違ない。さもなけれ すまでもない。けれども、ジーナはもちろん、そんなものに ば、おめおめ顔が出せた義理じゃないんだもの。これはだい 目をくらまされはしなかった。『なに、この子がわたしの じな知らせだよ、ジーナ ! わたしはどういうことか、知 , っことを、ほんと、つにしなくたって、かまったことはありや っておかなくちゃなりません : : : 今は何ごともうかつにでき ないからね ! しない』とマリヤ・アレクサンドロヴナは考えた。『ただ、じ : まあ、まあ、ようこそお出でくださいまし 夢つくりと考えて見てくれさえすればいいのだ ! まともに切 たこと ! 」と彼女は入って来た客を迎えに、飛んで出ながら 叫んだ。「ほんとうに、 様り出すわナ ' ) 、、 レしし力ないことを、うまく匂わしさえすれば、、 ソフィヤ・ベトローヴナ、どういう 保のだけれど』と彼女はこんなふうに考えていたのだが、つい風の吹き廻しでわたしのことを思い出してくださいました四