ガヴリーラ - みる会図書館


検索対象: ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)
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1. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

めのうちは沈んだ微笑を帯びていたが、のちには楽しそうに いえ、彼が自分で働いて一家を支えているという事実は、な 8 はしゃいだ笑いかたをしながら、彼女はいうのであった、 により彼女の頼もしく思うところである。彼が精力と矜持の もう以前のような嵐はけっしておこるべきはずがない、 人で、立身出世をして苦境を切り抜けようと努めることも、 自分はもう前から物にたいする見かたを改めた、もっとも、 聞き知っている。またニーナ・アレグサンドロヴナ・イヴォ ルギナ、 胸の中はちっとも変わっていないかもしれないが、たいてい ガヴリーラの母親というのは、りつばな敬うべ のことは既往の事実として許さねばならぬはめになってしまき婦人であることも、妹のヴァルヴァーラが人なみすぐれた った。できたことはできたこと、過ぎたことは過ぎたこと、精力家だということも、彼女はプチーツインから聞いてよく こう思っているから、トーツキイがいつまでもびくびくして知っている。それから、彼女はこのふたりの女が、男々しく % うしん ばかりいたのが、かえって不思議なくらいだ。それから彼女も重なる不幸を堪え忍んでいる由をも聞き伝えて、衷心から はエバンチン将軍のほうを向いて、深い深い尊敬のさまを示近しく交わりたいと思っているが、ただ向こうのほうで喜ん しながら、三人の令嬢のうわさはとうからいろいろ聞いてい で家庭に迎えいれてくれるかどうかが疑間である。とにかく るので、心の底からゆかしい人たちだと敬いつづけている。彼女は、この結婚が頭から不可能だとはけっしていわない それゆえ、自分がその人たちのためになにか役に立つ、とた が、まだもっともっと考えなければならぬから、あまり返事 だそう思ったばかりで、自分は仕合わせであり、かっそれををせき立ててくれぬように、と頼んだ。七万五千ループリの 誇りとする旨を述べた。彼女は目下非常に苦しく淋しい、じ件にいたっては、トーツキイもそれを切り出すのに、あれほ つに淋しい、それは真実である、トーツキイは彼女の胸に描どびくびくすることはなかった、彼女も金の値うちは承知し いている空想を見抜いてしまった。彼女はなにか新しい目的ているから、もちろん、受納する山を答えて、このことをガ を自覚して、愛というものに望みがないならば、せめて家庭ヴリーラばかりか将軍にさえも知らさなかったトーツキイの の人として復活したいと考えているのだ。 周到な用意を感謝した。が同時に、なぜあらかじめガヴリー けれども、ガヴリーラのことについては、彼女もほとんど ラに知らしては悪いのか、彼女がもし彼と一つ家庭の人とな 返事のしようがなかった。彼がナスターシャを恋しているのるならば、なにもそんな金を恥すかしがる必要はないのだか は事実らしい また彼女にしても男の恋の真実さを確かめた ら、とこうもいった。しかし、いずれにしても、自分はだれ ならば、自分のほうからもいとしいという、いにならぬもので にも謝罪しようというつもりはないから、それは前から心得 もない。 しかし、彼はよしんば誠意誠情を持っているとしてていてはしい、 こういって彼女はふたりに頼んだ。なにはと も、あんまり年が若すぎる、それが決心を面倒にする。とは もあれ、ガヴリーラにもまたその家族にも、ナスターシャに

2. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

ちの商人で、結婚の席上でつまらない見得のために、酒の勢ころへも別の官吏が出入りしはじめた。・ カヴリーラを憎む人 いを借りて、最近の割増金付き債券でかっきり七十万ループたちは、なに、あの男は例のできごとのためにおそろしくし リの金を、ろうそくにかざして焼いてしまった、などと語るよげこんで、往来へ出るのさえ恥すかしいのだ、と想像をた のであった。これらすべての風説はたちまち消え失せたが、 くましゅ、つしたかもしれぬ。しかし、 ~ 伐はじっさい、オーカ それは事情のしからしむるところもあった。たとえば、このわずらって、ヒボコンデリイにさえかかり、じっとふさぎこ 件について何かのことを知ったものの多いラゴージンの徒んではかんしやくをおこすのであった。ヴァルヴァーラ・ア 覚は、エカチェリンゴフの停車場で恐ろしいばか騒ぎがあっ ルダリオーノヴナは、この冬プチーツインのもとへ嫁した。 てからちょうど一週間目に、ラゴージン自身を頭に大挙して彼らを知っている連中はみなこの結婚の原因を説明して、ガ モスグワへ発足した。工カチェリンゴフのばか騒ぎには、ナ ニヤが旧職に復したがらず、家族を養うことをよしてしま スターシャも同席していた。事件に関心をもっている少数のったのみか、かえって他人の助力や看護を必要とするように だれ彼は、いろいろのうわさによって、ナスターシャがエ力なったという事実に帰着させた。 チェリンゴフでできごとのあった翌日、逃げ出して姿をくら ちょっとついでに言っておくが、エバンチン家ではかって ましたこと、その後彼女がモスクワへたった事実を突きとめ一度も、ガヴリーラのことを口にのばしたことがない。まる たこと、などを確かめた。ラゴージンがモスクワへ出発したでそんな人間はエバンチン家のみならす、この世にいなかっ という事実には、この風説と符合するところがあった。 たかのような具合である。けれど、この家の人一同は彼につ 仲間うちにかなり顔を知られている、ガヴリーラ・アルダ いて ( しかもきわめて早く ) 一つの興味あるできごとを聞き リオーノヴィチ・イヴォルギンに関しても、また風説が行な だした。というのはほかでもない、彼にとってのるかそるか われかけたが、そこに一つの事情が生じて、それがために彼というあの夜、ナスターシャの夜会でいまわしいできごとが に関するすべての悪評は熱を冷まされ、しばらくたつうちおこ 0 たあと、ガーニヤは家へ帰っても床につかず、熱病や に、すっかり跡かたもなくなった。彼は重い病気にかか つみのようないらいらした心持ちで、公爵の帰宅を待って て、社交界はもちろん、勤めのほうへも出ることができなく た。工カチェリンゴフへ赴いた公爵は、朝の五時過ぎにそこ なったのである。ひと月ばかり病み通して、ようやく全医は から帰って来た。そのときガーニヤは彼の部屋へ入って、そ したものの、彼はなぜか株式〈一れの勤め口をことわったのの前のテープルに半焼けの紙包みを置いた。彼が気絶して倒 で、ほかの人が代わ「て彼のいすをしめることになった。工れているとき、ナスターシャが贈り物にした十万ループリの ハンチン家へも彼は一度も顔出ししなかった。で、将軍のと金である。彼は、この贈り物を機会のあり次第ナスターシャ ノ 90

3. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

それをガヴリーラさんが見せに持ってみえたのです」 な美人です。あなたはながめているのが恐ろしいほど美しい 「わたしはそれが見たい ! 」と、夫人は叫んだ。「どこにそ かたです」 の写真はあるのです ? あの人がもらったのなら、あの人の 「ただそれだけですの ? 変わったところはありません ? 」 とこにあるはずだ。もちろん、あの人はまだ書斎で仕事をし と夫人は追究した。 「美を批評するのはむずかしいことです。ばくにはまだ準備ているにちがいない。毎週、水曜日には仕事に来て、いつも 四時より早く帰ったことがないのだから。今すぐにガヴリー がありません。美は謎ですからね」 しいえ、よそう。そんなにあの人を見 ラを呼びましよう ! 「それはつまり、あなたがアグラーヤに謎をおかけになった たくてたまらないというわけでもないのだから。ねえ、公 ことになりますわ」と、ア一アライーダがいった。「アグラー ヤ、解いてごらんなさい。でも、美人でしよう、ね、公爵、爵、あなたお願いですから、ちょっと書斎まで行ってくださ いな。そして、ガヴリーラに写真を借りて、ここへ持って来 美人でしよう ? 」 「非常な美人です ! 」吸い寄せられるようにアグラーヤをみてくださいませんか。ちょっと見たいからって、そうおっし づめながら、公爵は熱を帯びた調子で答えた。「ほとんどナやればようござんす。どうぞ」 スターシャ・フィリッポヴナと同じです。もっとも顔のたち しい人ね。でも、あんまり人がよすぎるわ」公爵が出て行 ったあとで、アデライーダはこういった。 はまるで別ですが : : : 」 「ええ、ほんとになんだかあんまりのようね」とアレクサン 一同は愕然として顔を見合わした。 ドラも相づちを打った。「ちっとばかりこつけいなくらい」 「え、だれのようですってえ ? 」と夫人は言葉じりを長くひ つばった。「まあ、ナスターシャ・フィリッポヴナですって ? ふたりとも、自分の考えをみなまでいわなかったらしい 「だけど、わたしたちの顔のことでは、なかなか上手にい、 あなたはどこでナスターシャをごらんになりました ? たいどのナスターシャですの ? 」 抜けたわけねえ」とアグラーヤはいった。「みんなの気に入 「さっきガヴリーラさんが、写真を将車にお目にかけていたるようにお世辞をいうんですもの。おかあさまにまで : : : 」 んです」 「後生だから、生意気なこといわないでちょうだい ! 」と夫 「なんですって、主人のところへ写真を持って来たのですつ人は叫ぶようにいった。「あれは、公爵がお世辞を使ったん じゃなくって、わたしがお世辞に乗せられたんですよ」 応て ? 」 「あんたはあの人がうまくいい抜けたのだと思って ? 」とア 「ええ、将軍のお目にかけるって。きようナスターシャ・フ ・白 デライーダがたずねた。 ィリッポヴナがガヴリーラさんに写真を贈ったんだそうで、 3 8

4. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

からね。たけど、条件つきですよ」と夫人は相手をじろじろんな者のいうことなど、聞いてやる値うちはありません。公 見まわしながら 、、いこした。「しきいのとこまでは入れる爵さま、そんなことを気におかけなさるのも、ご身分にかか けれど、きようおまえさんを中へ通すつもりはないんだからわるくらいです、それだけのことです。あいつらにはそれで たくさんです : : : 」 ね。けれど、娘のヴェーラさんは今すぐでもよこしなさい 「パヴリーシチェフさんの自 5 子 ? ああ、なんということ あの娘はわたしすっかり気に入っちゃった」 「おとうさん、なぜあの人たちのことをおっしやらない だ ! 」と公爵はひどく狼狽して叫んだ。「ばく、知ってます った。「そ : だけど、ばくはその : : : この事件をすっかりガヴリーラ の ? ・」と、こらえかねたよ、つにヴェーラは父にい : たったムフさきもガヴリーラさん さんに委任したんですが : うこうしているうちに、あの人たちは自分で入って来てよ。 ほら、あんなにがやがやいいだしたわ。公爵さま」このとき もう自分の帽子を手に取っていた公爵のほうに向いて、彼女しかし、このときガヴリーラは早くも家の中から露台へ出 はこう告げた。「あちらへだれだか四人ばかりの人がまいりて来た。そのあとからプチーツインもつづいた。すぐ次の門 からは、まるでいくたりかの声を圧倒せんとしているような、 まして、わたしどものほうで待ちながら、乱暴なことばかり いっています。父はこちらへ通しちゃいけないと申すのですイヴォルギン将軍の大きな声が、騷々しい物音といっしょに 冖り、れレ J 」 響いた。コーリヤはすぐに物音のするはうへかけだした。 「どんなお客さま ? 」と公爵がたずねた。 「こいつは大いにおもしろいそ ! 」とエヴゲーニイがロに出 「用事で来たと申すのでございますけれど、もし今ここへ通していった。 さなかったら、途中で待伏せでもしかねないような人たちで『してみると、ちゃんと事情を知ってるんだな ! 』と公爵は ございます。公爵さま、まあひとます通してやって、それか 腹の中で考えた。 らいい加減なときに追っ払ってやるとよろしゅうございます「パヴリーシチェフさんの息子ってだれです ? それに : よ。あちらでガヴリーラさんにプチーツインさんが、いろし パヴリーシチェフさんの息子なんて、あるはすがないじゃあ ろいい聞かしてらっしやるのですけど、なかなかはいといわりませんか」イヴァン将軍は不審そうに一同の顔を見まわし ないのでございます」 たが、この新しい事件を知らないのは自分ひとりだけだと気 ハヴリーシチェフさ 「パヴリーシチェフさんの息子ですー がつくと、彼はけげんな顔をしてこうきいた。 しかにも一同はこそって胸をおどらせながら、どんなこと んの息子です ! なに、あんなやっ相手になさる値うちはあ 日りません」とレーベジェフは両手を振りまわしながら、「あが持ちあがるかと、待ち設けていたのである。公爵はまった

5. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

キには鋼鉄の鎖がさがって、ジュネーヴ製の銀時計がつけて認 「だって、ばくがあっちですわってたら、きみにこうしてすあった。 公爵はこんなばかの三太郎ではあるがーーーー従僕はもうそれ つかりうち明けるわけに行かなかったでしよう」と公爵はお しかし、彼は召使の分際として、これ に決めてしまった もしろそうに笑った。「したがって、きみはいつまでもばく 以上主人の客と話をつづけるわけにゆかぬと考えた。もっと のマントと包みを見て、心配しなくちゃならなかったでしょ も、彼はなぜか公爵が好きになったのである ( むろん、それ う。しかし、もう秘書の人を待ってなくてもいいでしよう、 も一種特別の好きさなのであった ) 。そのくせ、別の側から きみ自身で知らせに行ったらどうです」 「いいえ、わたしはあなたのようなお客さまを、秘書に相談観ると、ずいぶん思いきった、無作法な不平をいだかないわ けにもゆかなかった。 なしでお通しするわけにはまいりません。それに、ついさき 夫人はいっ面会なさるんでしよう ? 」公爵はまた以 ほども、大佐殿のおいでになるうちは、どなたがお見えにな ってもじゃまをしてはならぬと、閣下がご自分でおいいつけ前の席に腰をおろしながらこうたずねた。 「そんなこと、わたしの知ったこっちゃありませんよ。人に になりましたんですから。まあ、取り次ぎをしませんでも、 よっていろいろでさあ。帽子屋の女はいつも十一時です。ま ガヴリーラさまはも、つじきお見えになりましょ , フし」 たガヴリーラさまもやはりだれよりさきにお通しなさいます 「官に勤めているかたですか ? 」 「ガヴリーラさまですか ? しいえ、会社のほうへ出ていらよ。朝ご飯のとき、お通しになることもございます」 「ロシャでは冬、部屋の中が外国よりかずっと暖かいです っしゃいます。まあ、その包みをせめてここへお置きなさい よ」と公爵がいいだした。「そのかわり、外はあちらのほう ませ」 ロシャ人なんか 「ばくも前からそう思っていたんですよ。もしかまわなけれがだいぶ暖かい。しかし、冬のうちは、 なれないから、とてもやりきれませんね」 ばね。それからどうでしよう、このマントも脱ぎましようか 「ストーヴをたかないのですか ? 」 ね ? 」 「あたりまえじゃありませんか。マントを着たまんまで閣下「そう、それにや家の建てかたが違うんでね、つまり、暖炉 や窓の造りが」 のところへ行かれもしますまい」 っ 「ふむ ! ですが、あなたは長いことご旅行をなさいました 公爵は立ちあがり、いそがしげにマントを脱ぎにかか た。そして、相応にきちんとした、気のきいた仕立ての、し 「ええ、四年ばかり。しかし、ばくはおおかたひとっとこに か、し、、も、つ、 しいかげんにくたびれた背広姿になった。チョッ

6. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

ガヴリーラは公爵にひとっ首を振って見せ、にしげに書斎 かあまりじっとすわりすぎ、あまり探りを入れようとしすぎ へ入って行った。 るかに田われる。 二分ばかりたってまた戸があいて、ガヴリーラのよく通る 『この人はひとりでいるときには、もっと違った顔つきにな るに相違ない。ひょっとしたら、笑うことなんかてんでない愛想のいい声が聞こえた。 「公爵、お通りください ! 」 かもしれない』なぜか公爵はこんな感じがした。 公爵はすべてできるだけの説明 ( 前に従僕と、さらにそれ以 3 前ラゴージンにしたのとほとんど同じこと ) を手短かにして 聞かせた。ガヴリーラはその間なにやら思い出した様子で、 イヴァン・フヨードロヴィチ・エバンチン将軍は書斎の真 「あなたじゃありませんか」とたずねた。「一年ばかり前、あ るいはそんなにならないかもしれませんが、たしかスイスかん中に立って、なみなみならぬ好奇心をいだきながら、入っ てくる公爵をながめた。のみならす、こらえきれないように ら奥さんに手紙をおよこしになったのは ? 」 「たしかにそうです」 二歩ばかりそのはうへ踏み出した。公爵は進み寄って名前を 「じゃ、こちらではあなたのことをごそんじですから、きっ名乗った。 「ははあ、なるほど」と将軍はうけて、「いったいどんなご と覚えておいでになるでしよう。あなたは閣下のところへ ? さっそくお知らせして来ます : : : 閣下はすぐお手すきになり用ですかね ? 」 ますから。しかし、あなた : : : そのあいだ応接間のほうへい 「かくべっ急用というはどのものでもありません。ばくの目 じっこん らっしゃればいいのに・ ・ : なんだってこんなところにいらっ的はただあなたとご昵懇に願いたいのです。むろん、ご面会 日も、またあなたのご都合も知らないものですから、ご迷惑 しやるのだ ? 」と彼はこわい顔をして従僕のほうをふり向い とは存じましたが : : なにしろ汽車をおりたばかりなんでし 「そう申したのですが、いやだとおっしやるものですからて : : : スイスからやって来たばかりなんですから」 将軍はあやうくほほえみそうにしたが、気がついてやめ た。それから、さらにもう一度気がついて顔をしかめ、さて ちょうどこのとき書斎の戸があいて、手提げ鞄をかかえた 改めて客を頭から足の爪先までながめた。やがて、手早く 軍人が声高にしゃべりながら、会釈をして出て来た。 、、こ要をおろしなが ー ) 、きみ、そこにいたのか」と書斎の中かすを客に指さして、自分はややはす力し月 ラの愛称 ら、もどかしげな期待をもって公爵のほうへふり向いた。ガ ら、だれ・かがどなった。「ちょっとここへ来てくれんか ! 」

7. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

キイ君が「パヴリーシチェフ氏の息子』さんでないことがわキイ君は、たとえ「パヴリーシチェフ氏の息子 - 』さんでなく かったら、この場合、同君の要求は明白な詐欺的行為じゃあとも、はとんどそれと同じようなものです。なぜなら、同君 りませんか。 ( ただし、これはむろん同君がほんとうの事情自身もむごたらしく欺かれた人だからです。同君は真底から を知ってると仮定してですよ ! ) しかし、そこがかんじんな自分をパヴリーシチェフ氏の息子だと思っていられたんで とこで、つまりプルドーフスキイ君はだまされたんです。だす ! 皆さん、これからガヴリーラ君の話をいてくださ ル下をおしまいにしましよ、つ 。」な復なすっ そして、この事イ から、ばくもこうして同右の弁護をしようとあせってるので す。同君の正直な性質は同情に価します。同君は扶助なしにちゃいけません、そう、激昻なさるもんじゃありません、ま やっていけないというのは、ここのことです。こう解釈しなあ、すわってください ! ガヴリーラさんが今すぐに委細説 かったらプルドーフスキイ君はこの事件でかたりになってし明してくださいます。じつのところ、ばくもたいへん一部始 まいます。だから、ばくは同君が何も知らないのだと、とっ 終の話を聞きたいんです。それでね、プルドーフスキイ君、 くから確信しています ! ばくもやはりスイスへ行くまでガヴリーラさんはわざわざプスコフへきみのおかあさんに会 は、あれと同じような状態でした。あんなふうに取りとめの いに行かれたんですが、きみが心にもなくあの記事に書かれ ない言葉をどもりどもり話したり、なんかいおうと思っても たように、おかあさんはけっして死ぬような病気などにかか いえなかったり : : : そうしたふうの、い持ちはよくわかりま っちゃいられないそうですよ : : : さ、皆さん、すわってくだ す。ばくはたいへん同情します、なぜって、ばく自身ほとんさい、すわってください ! 」 どああいうふうだったんですから、こういうロをきく権利を 公爵は腰をおろし、またしても席から飛びあがろうとする 持ってるんです。しかし、ばくはやはり、 すでに「パヴプルドーフスキイの連中を、やっとのことでもとの座に着か リーシチェフ氏の息子』なるものもなく、このいっさいの事した。終わりの十分か二十分のあいだ、彼はまるで夢中にな 件がごまかしだとわかったにもかかわらず、ばくは依然決、い ってしまって、はかの人たちを圧倒しようとでもするような オがもちろん を変えないで、パヴリーシチェフ氏に対する記念として、一大きな声で、早口にじれったそうにしゃべっこ、、、 万ループリを返済するつもりです。ばくはこの事件のもちあ今では、不用意に口をすべらした二、三の言葉や臆測を、お がるまで、パヴリーシチェフ氏の記念に一万ループリの金をそろしく後悔しなければならなかった。熱中して相手をかっ 学校事業に使用するつもりだったのですが、今となっては学とさせなかったら、もし彼があれほどまで露骨に性急にああ 校事業に費やすのも、プルドーフスキイ君にお返しするのした当て推量や、いわでもの無適慮な言葉を、ロに出すはす も、道理において違いはありません。じっさいプルドーフスではなかったのだ。席につくやいなや、焼けつくような悔悟

8. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

あ、思ったとおりだ。今になってばくの推祭の正しかったこ れは余談です、 まあ、皆さんしまいまで聞いてくださ しまいまでー とが、やっとこの目に見えて来た」公爵は相手の興奮を静め じつはいま思いがけなく、プルドーフ ようと熱中して諄々と説いたが、かえってそれが興奮をかき スキイ君がけっしてパヴリーシチェフ氏の息子さんでないこ 立てるばかりなのに気づかなかった。 とがわかったのです ! たった今ガヴリーラさんがばくにそ 「なんですって ? 何が見えて来たんです ? 」と人々はかみういって、確かな証拠が手に入ったと断言されました。皆さ つかんばかりの勢いで、彼のはうへ詰め寄った。 ん、いったいなんとお思いです。今までいったりしなすった 「まあ、待ってください。第一に、ばくは自分でよくプルドー ことに対しても、まったくはんとにはできないじゃありませ ばノは亠よ フスキイ君の人物を観察したのです。もう今こそばくは同君んか ! え、確かな証拠があるんだそうですよー の人となりがはっきりとわかりました : : : 同君は無邪気な人 だほんとうになりません、自分でもほんとうになりません、 ですが、いつも人にだまされてばかりいます ! それに、プまったくです。ガヴリーラ君はまだ詳しいことをすっかり話 ルドーフスキイ君は寄るべのない身の上です : : : だからばく されませんから、ばくもいくぶんうたがっています。けれど、 は同君を許さねばなりません。ところで、第二に、ガヴリー ーロフがいかもの師なのは、もはや疑いの余地があり ラさんが、 この事件はガヴリーラさんに委任しておいた ません。この男は、気の毒なプルドーフスキイ君も、こうし んですが、ばくはしじゅう旅行してたうえに、。 へテルプルグて友達を助けに堂々とおいでになった皆さんも ( じっさい、 で三日ほど病気したので、だいぶ前から報告に接しなかったプルドーフスキイ君はいまだれかの扶助を要するからだで んですが、 いま一時間ばかり前に、思いもかけずガヴリ す、それはよくばくにもわかります ! ) すっかり口先で丸め ーラさんが、ばくの顔を見るとすぐ、自分はチェパ ーロフのこんで、こんな詐欺的行為にまきこんでしまったのです。だ 奸計をすっかり見破った、それには歴とした証拠がある、と って、じっさいこれは奸計じゃありませんか、詐欺じゃあり 知らせてくだすったのです。聞いてみると、チェ・ハー ロフは ませんか ! 」 ばくの想像したとおりの人でした。みんながばくのことを白「なぜ詐欺ですー : なぜ「パヴリーシチェフ氏の息子』で 痴だといっているのは、ばくは自分でようつく承知していまないんですー : どうしてそんなわけがあります」と口々に す。で、ばくが気軽に金をやるといううわさを聞きかじった 叫びだした。 プルド ーロフは、ばくをだますのはわけのないことだ、それ ーフスキイの一行は名状しがたい惑乱におちいっ 故人ヴリーシチ = フ氏に対するばくの感謝の情を利用すた。 白ることもできる、とこんなふうに考えたんです。しかし、こ 「ええ、もちろん詐欺です ! だって、もし今プルドーフス

9. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

がまるでわざとのようにあるのですよ。じつは例のおかた ゃありませんか」とレーベジェフはつぶやいた。そして、相 が、あなたと秘密にお目にかかりたいといってよこされたん手を病的なほどいらいらさせたのに満足して、ふいにこう結 です」 んだ。「アグラーヤさんを恐れてらっしやるんで」 「なんだって秘密にするんです ? そんなことは、けっして 公爵は眉をひそめて、ちょっとの間だまっていたが、「レ いりません。ばくが自分であのひとの家へ出かけます。きょ ベジェフ君、ばくはほんとうにこの別荘を出て行きます 、つ、丁ス、にで 7 もー・」 よ」といきなり彼はいった。「ガヴリーラさんとプチーツィ 「そうですとも、けっしていりませんとも」レーベジェフは ンさんご夫婦はどこにおいでなんです ? きみのところ ? 両手を振った。「それに、あのかたはあなたの考えてらっしきみはあの人たちまで自分のほうへ横取りしてしまったんで やるようなことを、恐れておいでじゃありません。ついでにすね」 申しあげますが、あの悪党め、毎日のようにあなたのお加減 「もう皆さんすぐそこへ見えています、見えています。おま を聞きに来るのです、ご承知ございませんか ? 」 けに、将軍までそのあとからやって来ています。戸という戸 「きみはなにかしじゅうあの人のことを悪党よばわりするはみんなあけ放して、娘たちもみんなすっかり連れてまいり 、、 : ばくにはそれが不思議でなりませんね」 ますです」レーベジェフは両手を振って、一方の戸から一方 「けっしてそんなに不思議がることはありません、毛頭ありの戸へ飛びまわりながら、度胆を抜かれたようにささやい ませんとも」とレーベジェフは大急ぎで話をそらした。「た だわたしの申しあげたかったのは、例のおかたがあの男でな このときコーリヤが往来からあがって来て、あとからお客 く、まるつきり別な人を恐れていらっしやることなんです」 が、リザヴェータ夫人と三人の令嬢が来ていると告げた。 とうしたんです、早くいってごらんなさいよ」 「あのプチーツインさん夫婦と、ガヴリーラさんを通したも レー・ヘジェフがわざとぎようさんらしくもったいをつけるののかどうでしよう ? 将軍を通したものかどうでしよう ? 」 を見て、公爵はいらだたしげに追究した。 この報知にびつくりしたレーベジェフは、おどりあがって叫 んだ。 「そこが秘密なんですよ」と言って、レーベジェフは薄笑い ↓ピーレこ。 「どうして通しちゃならないんです ? 来たいという人はみ 「だれの秘密です ? 」 んな通してください、 じっさいのところ、きみはばくたちの 「あなたの秘密です。公爵、あなたがご自分で、おれのいる交友について、はじめからなんだかとんでもない早のみ込み 前で : : : あの、その : いっちゃいけないとおっしやったじをしてるようですね。きみはなにかしらいつも感違いをして 252

10. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

た。「ここにおいでの将軍とトーツキイさんは、わたしの古不安げな声で将軍が呼びかけた。 一同は心配してざわざわ動きはじめた。 いお友達ですが、しきりに結婚しろ、結婚しろとおすすめな 「まあ、皆さん、いったいどうなすったのです ? 」と、びつ さるんですの。ねえ、公爵、なんとお考えなさいます。わた くりしたように客の顔に見入りながら、彼女は言葉をつ し結婚したものでしようか、どうでしよう。わたし、あなた のおっしやるとおりにいたしますわ」 だ。「何をそんなにびつくりなさいますの ? それにみなさ トーツキイはまっさおになり、将軍は棒立ちになった。一ん、なんて顔つきをしてらっしやるんでしよう」 カーニヤは固くなって「しかし : : 覚えておいでですか : : : ナスターシャ・フィ 同は目をすえ、首を前へ突き出した。。 ッポヴナ」と、どもりどもりトーツキイがつぶやいた。「あ すわっていた。 : だれと ? 」今にも消えそうな声で、公爵はたずねなたは非宀吊に好意のある : : : 約東をしてくだすったじゃあり ませんか。それこ、、 冫しくぶんは気の毒くらいに田 5 ってくだす 「ガヴリーラ・アルダリオーノヴィチ・イヴォルギン」いぜっても いいはずです : : : わたしは困っています : : : そしても ちろん、当惑しています。しかし : : : まあ、つまり今、こん んとして鋭く強くはっきりと、ナスターシャは答えた。 沈黙の幾秒かが過ぎた。あたかも恐ろしい重荷がその胸をな場合に、そのうえ : : : お客さまの前でこの事件を : : : この 圧しているかのごとく、公爵はなにかいいだそうと努めたけ潔白と誠意とを要すべきまじめな事件を、こんなプチジョー で決めてしまうなんて : : : この事件の結果いかんでもって れど、だめだった。 「、、いけません : : : 結婚しちゃいけません ! 」かろうじて トーツキイさん。あなたはほんとうにす 「わかりませんね、 これだけささやくと、彼は苦しげに自 5 をついた。 「じゃ、そうしましよう ! ガヴリーラさん ! 」と彼女はおっかりうろたえておしまいなさいましたのね。だいいち、 「お客さまの前で』とはなんです ? わたしたちは隔てのな ごそかに、勝ち誇ったもののように呼びかけた。「あなた、 い親密なお友達同士じゃありませんか。そして、なぜプチジ 公爵のおっしやったのをお聞きなすって、え ? ではあれが ヨーなどとおっしやるの ? わたしほんとうに自分の逸話を わたしのご返事です。これでこの話もきつばりとおしまいに 話したいと思ったから、こうしてお話ししたんですよ。ほん したいものですわね ! 」 とに、おもしろくなくって ? それから、なぜ『まじめでな 痴「ナスターシャ・フィリッポヴナ ! 」ふるえ宀尸でトーツキイ い』んでしよう ? あれがまじめでないんでしようか ? あ なた、わたしが公爵にいったことをお聞きになって ? 「わた花 百「ナスターシャ・フィリッポヴナ ! 」さとすよ、つな、しかし