ループリ - みる会図書館


検索対象: ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)
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1. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

われたわね ! 」と傲慢ななれなれしい調子でこういうと、そはからかうようにいった。 こしらえる、夕方までにこし 「いんや、でたらめじゃない。 のまま長いすから立ちあがり、出て行きそうにしこ。 らえる : : : プチーツイン、助けてくれ、高利貸野郎、利息は ガーニヤは心臓の鼓動のとまるような苦悩を覚えながら、 いくらでも取るがいし 、十万ループリタ方までに調達してく 始終の様子をながめていた。 一万八千は取消しれ。こんなことでヘこまねえってところを見せてやるんだか 「じゃ、四万ループリ、四万ループリだ、 ら ! 」とラゴージンは夢中になるほど気負ってきた。 だ ! 」とラゴージンは叫んだ。「ヴァーニカ・プチーツイン しかしこれは全体どうしたというのだ ? 」思いも寄 とビスクープが七時までに、四万こさえてやると約東した。 すっかり一時にテープルの上にそろえてみらぬアルダリオン将車が、怒り、い頭に発してラゴージンのほ 四万ループリ ! うへつめ寄りながら、すさまじい剣幕でこうわめいた。今ま せる ! 」 一座の光景は常軌を逸して醜悪なものとなった。けれどで黙って控えていた老人のこうした突飛な言葉は、多分のフ ミズムを含んでいた。だれかのくすくす笑う声が聞こえた。 も、ナスターシャはことさらそれを長くつっておこうとする かのように、立ち去ろうともせず笑いつづけていた。ニーナ「こいつ、またどこから飛び出したんだ ? 」とラゴージンは 夫人とヴァーリヤとは、ともに同じく席を立って、どこまで笑いだした。「おい、爺さん、行こう、一杯飲ますぜ ! 」 ーリヤは恥ずかしいやらくや 「これはもうあんまりだ ! 」コ 行ったら果てることかと、おびえたように言葉もなく待ちも しいやらで、ほんとうに泣きながら叫んだ。 うけていた。ヴァーリヤの目はぎらぎら輝いていたが、ニ 「ほんとにこの恥知らすの女をここから引きずり出す人が、 ナ夫人にはこの事件がおそろしく病的に働いて、彼女は今に あなたがたの中にだれもいないんですか ! 」と憤怒に全身を も悶絶して倒れそうに、わなわなふるえていた。 「ええ、そんなら十万ループリた ! きようすぐ耳をそろえ打ちわななかせながら、ヴァーリヤがにわかにこう叫んだ。 てお目にかける ! プチーツイン、助けてくれ。おまえだっ 「恥知らずの女というのは、わたしのことですの」と相手の いうことなど気にもとめないような浮きうきした調子で、ナ て、うんと暖まるぜ ! 」 スターシャが受けながした。「わたしはまた皆さんを晩餐に 「きみ、気でもちがったのか ! 」プチーツインは急につかっ 招待に来たりなんかして、なんてばかだったんでしよう ! かと彼のそばへ寄って、手首をつかみながらささやいた。 「きみは酔っぱらってるんだ、交番へ突き出されるそ。きみねえ、ガヴリーラさん、あなたのお妹さんはあんなふうにわ たしを扱いなさるんですよ ! 」 は自分がどこにいるのか知ってるか ? 」 カーニヤは雷にでも打たれたよ 思いがけない妺の言葉に、・ 白「辭った勢いででたらめをいってるんだわ」とナスターシャ

2. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

よ、このさいただ主旨が大切なんで、百五十ループリ足りな観していたエヴゲーニイが笑いだした。「このあいだから評 いのは些細なこってさあ。つまり大切なのは、プルドーフス判のある弁護士の弁論みたいだ。その弁護士はね、強盗の目 キイがあなたの贈り物を受け取らないで、あなたの顔へたた的で一度に六人の人を殺した被告の弁護をするために、被告 きつけたということで、この意味から見れば、百ループリもの貧困状態を陳述してるうち、ふいとこんなふうのことを結 二百五十ループリも同じこってさあ。プルドーフスキイが一 論したんだそうです。「わが輩の被告が貧窮に責められて、 万ループリを受け取らなかったのは、あなたもごらんなすっ この六人殺しを思いついたのは、きわめて無理からぬことで たでしよう。もし卑劣な男だったら、この百ループリも持つあります。だれであろうとも被告の地位におかれたならば、 て来なかったでしようよ。百五十ループリという金は、チェ こ、つい、つことを田 5 いっかぬわナこ、、 レ冫し力なかったでしょつ』っ ーロフが公爵のところへ出向いて行った、その費用に要って、まあこんなふうにいったそうですが、とにかく、ひどく たんです。あなたがたがわっしたちの無器用さかげんや、事愛嬌のある話ですね」 務を運ぶ手並みのへまさかげんをお笑いになさるのは結構で 「たくさんです」腹立たしさにからだをふるわせないばかり す。そうでなくってさえ、あなたがたはいっしようけんめい のリザヴェータ夫人が、いきなりいいだした。「もういしカ にわっしたちをこつけいなものにしてやろうと苦心していなげんに、こんなわけのわからないお話の片をつけていい時分 さるんだから。しかし、わっしたちを不正直だなどとはいわでしよう ! 」 しませんぜ。あの百五十ループリの金はね、あなた、わっし夫人はじっさいおそろしいほど興奮していた。ものすごく たちが共同で公爵に返済します。よしんば一ループリずつで見えるまでに首をうしろへそらせながら、傲慢な、いらだた あろうとも、かならず返します、利息をつけて返しまさあ。 オしとむような態度で、ぎらぎらと燃えるような視線 プルドー フスキイは貧之で何百万という金はなし、それにチを一座の人々に浴びせかけたが、このとき彼女はどれが敵や ーロフは旅行から帰ると勘定書を突きつける : : : わっしら味方やら、ほとんど見わけがっかなかったらしい。それは たちは勝訴したらと思ったんだが : ・ : だれだってあの男の身倨傲な争闘の要求、一刻も早くだれかに飛びかかってやりた になったら、ほかにしようがあるもんですか」 いという要求が、矢も楯もたまらぬほど激しくなったとき、 「だれとはなんのこってす ? 」と公爵は叫んだ。 長く堰き止められていた怒りが堤を決してあふれ出る、そう 「わたしは気がちがいそうだ ! 」リザヴェータ夫人がふいに いったふうのクライマッグスに達した、い持ちであった。リザ こう叫んだ。 ヴェータ夫人を知っている人々は、夫人の心内になにか特殊 「これはまるで」と、今まで長いあいだじっと立ったまま傍なあるものが生じたことを直覚した。イヴァン将軍は翌日 きょ 1 一う 5 っ 0

3. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

「え ! たった一万ループリ ! 」とイツポリート が叫んだ。 かしたら「ばくの財産はきみがたの想像なさる八分の一か、 こ、。、ヴリーシチ 「ねえ、公爵、あなたはあんまり算術がお得意でないのか、十分の一しかないかもしれないです。第二レ をれともあまりお得意すぎるのか、どちらかですな、ちょっ エフ氏はばくのためにスイスで、けっして数万ループリも費 と見たら、ずいぶんおめでたい人らしくしていらっしやるったことなんかありやしません。シナイデル先生は毎年六 が ! 」レーベジェフの甥がわめいた。 百ループリずつ受け取ることになったのですが、それも最初 「ばくあ一万ループリじゃ承知しない」とプルドーフスキイの三年きりでした。それからパヴリーシチェフ氏が、渋皮の が一一「ロった。 むけた家庭教師を雇し ・、にパリへ行ったことなんぞ一度だって 「プルドーフスキイ、承知しろよ ! 」とイツポリー トのいすありません。これまた一つの讒謗です。ばくの考えでは、ば の背越しに、うしろからかがみかかって、拳闘の先生は早ロくのために消費された金は一万ループリよりずっと少ないの に皆に川こえるくらいな声でささやいた。「承知しろよ、あですが、とにかくばくは一万ループリと決めました。で、、一 とになったらわかるから ! 」 承知を願いたいのは、よしやばくがプルドーフスキイ君を非 「まあ、お聞きなさい ムイシュキンさん ! 」とイツポリー 常に愛しているとしても、このうえ同君に提供することはで トは黄いろい声を出した。「よござんすか、ばくらはばかじ きないという点です。できないというのは、単に礼節を重ん ゃありませんよ。そこにいらっしやるあなたのお客さまがたずるの情からです。なぜってごらんなさい。 この金は義務の も、たぶんそう思っておいでなんでしようが、 ばくらはけっ返済としてさし上げるので、けっして贈り物ではないからで してそんな下劣なばか者じゃないんですよ。ほら、あのご婦す。え、皆さん、どうしてこれがおわかりにならんのです、 人連はばくらを見て、軽蔑したように笑ってらっしやる。こ ばくは不思議でなりません。そのかわり、不仕合わせなプル の上流の紳士がことにそうなんです ( と彼はエヴゲーニイを ドーフスキイ君の運命に実際的に参与して、友誼をもって同 指さした ) 。ばくはもちろん、お近づきの光栄を有しません君に報いようと思ったのです、明らかに、プルドーフスキイ が、おうわさはちっとばかり聞いて知っています : : : 」 君は悪者にだまされていらっしやる、なぜって、もしだまさ 「もし、もし、皆さん、あなたがたはまたばくのいったことれたのでなかったら、きようケルレル君がやったようなおか を感違いなすったんですね」と公爵は興奮したようにこう呼あさんの旧行を新聞で公表するなんて、あんなことに自分か びかけた。「第一に、ケルレル君、きみはあの文章の中で、 ら進んで賛成できるものですか : : : ああ、なんだってまた皆 ばくの財産について非常な誤謬をしています。けっして数百さんはそう夢中になるんです ! これじやどうして、おたが 万ループリなんて金を譲り受けたことはありませんよ、もし いに意志の疏通なんかできっこないじゃありませんか ! あ

4. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

つづいた。やがて大きな広間に入った。ここは四方の壁にい ) 、、こ。・ , ミ、庭乍りのナイフでページを切っ くつかの絵がかかっていたが、みな高僧の肖像でなければ風 ちゃならねえって法があるかい ? 」 景画で、何を描いたものやらみわけがっかない。次の間に通 「それに、あれは : : : ま新しいぜ」 いったいおれにいま新しずるドアの上に、奇妙な形をした絵が一枚かかっていた。長 「新しけりやどうしたってんだ ? さが六尺ちかくもあるのに、高さはせいぜい一尺を出ない。 いナイフを買う金がねえとでもいうのかい ? 」とラゴージン これには、つい今しがた十字架からおろされたばかりのキリ はなぜか妙に激昻して、一語一語にいらいらしながら叫んだ。 スト像が描いてある。公爵はちらと見上げて、なにやら思い ひくりとして、じっと、ラゴージンを見つめた。 公爵は、。 へつに立ちどまろうともせす、 いだ出したかのようであったが、。 が、やがてふいにすっかりわれに返ったかのごとく、笑 仮よなんとなく そのまま扉をくぐって向こうへ行きかけた。什。 「いったいまあふたりともどうしたんだろうね ? 勘弁して気分が重いので、早くこの家を出てしまいたかった。ところ が、ラゴージンはふいに絵の前に歩みをとめた。 くれたまえ、ばくは頭が重くなると、今みたいなことをいっ : ばくはだんだんあん「はら、ここにある絵はみんな一ループリか二ループリで、 たりするんだ。それに、あの病気が : なふうにばんやりして来て、ばからしいことをいうようになおやじがせり売りで買って来たものなんだ。おやじは絵が大 ったよ。ばくまったく、あんなことをきこうなんて気はなか好きだったのさ。この絵をもののわかったある人が見て、皆 この扉の上にかかって がらくただといったが、こいつは ったんだよ。 : : : 何をいったか覚えてもいないくらいだも やはり二ループリで買ったもんだが、こいっ いる絵さ、 の。じゃ、さよ、つなら : : : 」 ばかりはがらくたでないといったそうだ。まだおやじが生き 「そっちじゃないよ」とラゴージンがいった てる時分から、この絵を三百五十ループリで譲ってくれとい 「忘れちゃった」 「こっちだ、こっちだ、おれがいっしょに行って教えてやろうものがあったが、サヴェーリエフ、イヴァン・ドミートリ 、、、ド前ここのほうの好きな人 チといってやはり商人だけれとヨい。 が、四百ループリまでせり上げたんだ。ところが、つい先週 4 だっこつけ、弟のセミョーンに五百ループリだすと申し込ん だものがあった。しかし、おれは、いるからって売らせなか 公爵がさっき通ったと同じ部屋部屋を、ふたりは抜けて行った」 「ああ、これは ハンス・ホルバインの模写だね」ようや 白った。ラゴージンがすこしさきに立ち、公爵はそのあとから

5. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

なのか、それとも図抜けてうまいのか、どちらかでさあ : 庭教師をしておかあさんを養っていられますもの。ばくはき みがおかあさんの顔に泥を塗ったといいましたが、きみはおもっとも、あなたはどっちだかよくおわかりでしようがね」 かあさんを愛していられます。おかあさんが自分からそうお「ちょいと、皆さん」とかくしている暇に金包みをあけて見 たガーニヤは、、 っしやったんですもの : : : ばく、知らなかったんです : : : 先 しきなりこう叫んだ。「この中には二百五十 オしいっさいでたった百ループリ 刻ガヴリーラさんがしまいまで話してくださらなかったのでループリなんてありやしよ、。 つきゃありません。いや、わたしはね、公爵、なにか間違い : ほんとうに悪かったです。またばくは大胆にも、きみに 一万ループリを提供するなどと申し出ましたが : : : あれはあでもおこってはと田 5 ったもんですから」 「、フっちゃってください , つっちゃっといてください」と公 んな具合にすべきものじゃなかったが、今となっては : めだ。きみはばくをばかにしていられるんだから : : : 」 爵はガーニヤに向かって両手を振った。 「ほんとにここは瘋掘病院だ ! 」とリザヴェータ夫人が叫ん「いや、『うっちゃってください』なんて法はありません ! 」 とレーベジェフの甥は、すぐに食ってかかった。「わっした 、しやくにさわる ~ ル 「ええ、もちろん気ちがい病院だわ ! 」とたまりかねてアグちはあなたの「うっちゃってください』が ですよ、公爵。わっしたちあけっして逃げ隠れなんざあしま ラーヤが一「ロ木するどく一「ロった。 しかし、この言集は人々の騒々しい声にまぎれて聞こえなせんからね。なにもかもあけつばなしに申しますよ。まった くのところ、その中には百ループリつきりで、二百五十ル かった。一同は声高に話したり、批評めいたことをいったり して、中には争論するものも、笑いだすものもあった。憤懣プリじゃありません。だが、どっちにしても、つまり同じこ の頂上に達したエバンチン将軍は、おのれの威厳を傷つけらとじゃありませんか : 「で : : : でも同じことじゃありませんよ」と 、、、にも子供 れたような顔をして、リザヴェータ夫人を待っていた。レー らしい腑に落ちない顔つきをして、ガーニヤはすかさす言桒 ベジェフの甥は捨てぜりふのように、 しかただ。あなたはどこまをはさんだ。 「ねえ、公爵、あなたはやはり偉、 「まあ、話の腰を折らないでくださいな。わっしたちはあな でもご自分の : : : その、病気 ( まあ、遠慮してこういっとき ましようよ ) を利川することをごぞんじですよ。あなたの友たの高をくくってらっしやるはどばかじゃありませんから ね、弁護士さん」とレーベジェフの甥が毒々しくどなった。 加誼を求めたり、金を提供したりなさるやり口があまりうまい 「もちろん、百ループリは二百五十ループリでもなければ、 もんだから、高潔な人はどうしたってそいつを受け取るわけ ワイ 日には行かないじゃありませんか。つまり、べらばうに無邪気同じことでもありませんや。しかし、大切なのは主張です

6. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

爵の姿を認めた時、彼はひとかたならず驚愕して、長いあい 「ナスターシャ・フィリッポヴナ」と将軍はなじるように、 だ目を放すことができず、このめぐりあいをなんと解釈してった。彼はいくらか事の真相を理解しはじめた、ただし、自 しいかわからぬふうであった。ときどき、まったく前後がわ分一流の考えかたで。 からなくなるのではないか、とも疑われた。心神を震撼させ「なんですの将軍 ? 無作法だとでもおっしやるんですの ? るようなこの一日のできごとを別としても、彼はゆうべ夜ど いえ、もう気取るのはたくさんですわ ! わたしがフランス おし汽車に揺られたし、それにもうほとんど二昼夜というも芝居の特等桟敷に、まるでそばへも寄りつけないほど徳操の の、まんじりともしていなかった。 高い貴婦人顔をしてすわっていたり、五年のあいだわたしを 「皆さん、これが十万ループリです」とナスターシャはなん追いまわす人たちから野育ちの娘のように逃げまわって、わ だか熱に浮かされたような、戦いをいどむような、もどかし たしは清浄無垢な女ですといったふうな、傲な顔をしてそ げな様子をして、一同に向かいこういった。「ほら、このきの人たちを見おろしていたのは、みんな魔がさしたからで たならしい包みの中に入ってます。きようこの人がきちがい す。ところが、清浄無垢の五年が過ぎたきよう、この人がやっ のようになって、晩までにわたしのところへ十万ループリ持て来て、あなたの目の前で十万ループリの金をテープルの上 って来るといったので、わたしはこの人を心待ちにしていた に載せました。きっと外には三頭立橇が立って、わたしを待 のです。つまり、わたしをせり落としたんです。一万八千ル ってるんでしよう。ああ、わたしを十万ループリに値ぶみし ープリからはじまって、急に四万ループリにせり上げ、そうて・、れたんですね ! ガーネチカ、どうやらあなたは今でも してとうとうこの十万ループリということになりました。でわたしに腹を立ててる様子ね ? いったいあなたはわたしを も、やはり約東をたがえずに持って来ましたよ。まあ、この自分の家へ入れる気だったんですの ? わたしを ? ラゴー 人はなんて青い顔をしてるんでしよう ! : : : じつはね、これジンの思いものを ? 公爵がさっきなんといいました ? 」 はけさガーニヤさんのところでおこったことなんですの。わ「ばくはあなたのことをラゴージンの思いものだとはい、 たしがあの人のおかあさんのところへ、つまり、わたしの未せんでした、あなたはラゴージンのものじゃありません ! 」 来の家庭へ訪問に行きますと、妹さんが、わたしの目の前と公爵はふるえ声でいいだした。 で、『だれもこの恥知らずをここから追い出す人はないんで 「ナスターシャさん、たくさんですよ、あなた、たくさんで すか ! 』とわめくじゃありませんか。そして、おまけにガー すってば」ふいにダーリヤはこらえかねて、こういっこ。 ニヤさんの、自分の兄さんの顔へ唾をひっかけるんですよ。 「そんなにあの人たちといっしょにいるのがいやなら、ただあ なかなかしつかりした娘さんですことねえ ! 」 ししゃありませんか ! そし の人たちを見さえしなければい、・

7. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

ろ男を見まわしていたが、ふとヴァーリヤとニーナ夫人を見の一隊である。レー・ヘジ , フはなにやらいっしようけんめい やり、ガーニヤをちらりとひと目見ると、にわかに調子をがで、ラゴージンに耳打ちした。 コつまい、腰ム井ー・」とラゴージンは応じた。「、つまいぞ、ヘべ らりと変えた。 なんのくそ、かまうことあねえ ! ナスターシャさ 「けっしてそんなことはありませんよ、いったいあなたどうれけー なすったの ? どういうわけでそんなことをきこうと思いつん ! 」なかば気ちがいじみた目つきでどなった。彼はいじけ いくぶん驚いたようなてびくびくしているかと思うと、たちまち急に不敵なはど気 きなすったの ? 」静かにしんみりと、 負ってくるのであった。「ここに一万八千ループリある ! 」 風つきで、彼女は答えた。 「ない ? ないって ! 」と嬉しさのあまり気も狂わんばかり彼は紐で十文字にしばって白い紙に包んだ東をナスターシャ の前のテープルへほうり出した。「これだ ! そして : : : ま にラゴージンは叫んだ。「じゃ、ほんとうにないんだね ? だできるよ ! 」 あいつらおれに : : : ああ : : : ねえ ! ナスターシャさんー 彼もさすがに、いしたいことをしまいまでいいきる勇気が おまえさんがガンカと約東しなすったって、みんながぬかす な、かっ んですよ ! あの男と ? ほんとにそんなことがあってもい し。ナ . しし ~ オしー・」とまたしてもレーベジェフが、ひ いもんですか ! ( だから、おれのいわねえこっちゃねえ ! ) おれはこいつに手をひかせるために、百ループリでこいつをつくりぎようてんしたような顔をしてささやいた。察すると ころ、彼はその莫大な額に驚いて、比較にならぬほど小さな すっかり買ってやる。千ループリくれてやろうか、いや、三 千ループリやる。そして、こいつが婚礼の晩、花嫁をおれのところからためしてみるように勧めたのであろう。 しや、こういうことにかけちゃてめえはばかだ、まるで 手に残して逃げ出すようにしてやるんだ。おい、そうじゃね「、、 いや、しかしおれもおたがいにばかかもしれ えかガンカ、ちくしよう ! なあ、いっそ三千ループリ取畑違いだあ : ・ ほら、これがそれだ、ほら ! おないよ」ナスターシャのぎらぎら光るまなざしに射すくめら ったはうがいいだろう ! れはてめえからその受取りをもらおうと思ってやって来たんれ、彼は急にわれに返って身震いした。「ええつ、おれはば かなことをいったそ、てめえのいうことなんそ聞いたもんだ だ。いったん買うといったら、買わずにやおかねえんだ ! 」 か、ら」ンは休 / 、だ後 . 紐ー ) にトつに、、こー ) こ。 「とっとと出て行け、きさまは酔っぱらってるんだ ! 」とガ ラゴージンのとほうにくれたような顔を見ると、ナスター 1 ニヤは赤くなったり、青くなったりしながらどなった。 この叫び声と同時に、にわかにいくたりかの声が、爆発すシャはいきなり笑いだした。 「一万八千ループリ、わたしに ? とうとう百姓のお里が現 るようにおこった。前からこの一瞬を待っていたラゴージン

8. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

「まさかそんなこと ! 」ねじきるようにわれとわが手を握りの ? 」 しめつつ、公爵はうめくようにいっこ。 「あるとも、あるとも ! 寄っちゃいけねえ ! 」ふとダーリ 「こんなことにならないと思ってたの ? わたしはたぶん高ヤがナスターシャのはうへ近よろうとするのを見ると、彼は 慢ちきな女でしよう、むろん恥知らずよ ! さっきあんたは 夢中になって叫んだ。「おれのもんだ ! みんなおれのもん わたしのことを、『完成』されたものだっていったわね。結 女王さまだ ! おしまいだあ ! 」 構な完成だこと、ただのからいばりのために、百万ループリ 彼は狂喜のあまり息をはずましていた。そして、ナスクー と爵位を踏みにじって、路地うらへ入って行くのだからねー シャのまわりをぐるぐるまわりながら、だれ彼の容赦なく、 さ、これじゃあんたの奥さまなぞになれつこないわ。 「寄っちゃいけねえ ! 』とどなった。彼の仲間は、もうすっ キイさん、さあ、わたしほんとに百万ループリを窓のそとへかり客間へつめ寄せて、あるいは飲み、あるいは叫び、ある ほうり出しましたよ ! ガーネチカと結婚するのを、 いは笑って、すっかり興奮しきった無礼講気分になって、 えさ、あなたの七万五千ループリと結婚するのを、わたしが た。フェルディシチェンコは、彼らの仲間に入ろうと策をめ 幸福と思うなんて、あなたはよくもそんなことが考えられた ぐらしはじめた。将軍とトーツキイはすこしも早く姿をくら カーニヤも同 もんねえ。七万五千ループリはどうそひっこめてちょうだ まそうと、またしても、もじもじ動きだした。・ トーツキイさん ( 十万とまでは思いきれなかったと見えじく帽子を手にしていたが、それでも黙ったまま、眼前に展 るわね、ラゴージンのほうがだいぶ気前を見せたわけね ! ) 開する怪しい絵巻物から、どうしても目を離すことができぬ ところで、ガーネチカはわたしが自分で慰めてあげます。一というような具合であった。 ついい思案が浮かんだから。やれやれ、すこしぶらっきたく 「寄っちゃいけねえ ! 」とラゴージンは叫ぶ。 なった。。 とうせわたしは街の女ですからね。十年牢屋にすわ「何をおまえさんはどなってるんだえ ! 」とナスターシャ っていたが、今こそわたしの仕合わせがまわってきたんだー は、彼の頭に哄笑を浴びせかけた。「わたしはまだこの家の おまえさんどうしたの、ラゴージン、支度おしよ、出かけるあるじだからね、もしその気になったら、おまえさんを突き んだから ! 」 出すこともできるんですよ。ああ、わたしはまだおまえさん 「出かけよう ! 」嬉しさのあまり、ほとんど夢中になって、 からお金を受け取らなかった、あすこにある、あれを取って ラゴージンははえるよ、フにいった。「おい、 てめえたち : ・ ちょうだい、包みごとすっかりー この中に十万ループリ入 みんな : : : 酒だ ! ゥーフ ! 」 ってるんだね ? ふう、なんていやらしいー あなたどうし すた 「酒を用意してお置き、わたしも飲む。そして、楽隊はあるたの、ダーリヤさん、いったいったしはこの人を廃れ者にす

9. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

「なんだっていいさしにしてよすんだい ? 」と若者が叫ん件をあさって歩こうと思い立ったんですぜ。雄弁術の研究と だ。「さあ、次をいいな、きまり悪がるこたあないぜ」 やらをおつばじめて、家でも子供たちをつかまえて、しかっ 「公爵さま ! 」となにやら急に感きわまったようにレーベジめらしい言葉づかいばかりしてるんでさあ、五日前にも治安 エフが叫んだ。「ジェマ ーリンの一家がみな殺しにされたこ判事の前でしゃべったんですが、まあいったいだれを弁護し とを、新聞でごらんになりましたか ? 」 たとお思いなさいます。拝んだり祈ったりしたかいもなく、 しんしよう 「読みましたよ」と、 いささか驚いたように公爵は答えた。 身上ありったけの五百ループリを高利貸の畜生にはぎ取られ 「さようで、じつはこの男がジェマ ーリン殺しのほんとうのたお婆さんじゃなくって、そのザイドレルとかいうジュウの 下手人です、こいつがそうなんで」 高利貸を、五十ループリという礼金に目がくれて弁護したん 「きみ、なにをいうんです ? 」と公爵はいった。 ですよ : アレゴリック 「つまり諷喩的に申しまして、第二のジェマ ーリン一家の第「五十ループリてのは勝ったときの話で、負けたらたった五 二の下手人です、もしそんなものがこのさきあるとすればでループリです」と、今までけっしてわめいたりなんかしたこ すがね。こいつはそれを手ぐすね引いて待ってますよ : : : 」 とはありませんといったような、がらりとうって変わった声 一同は笑いだした。公爵はふと気がついた、もしかしたで、レーベジェフは説明した。 ら、レー・ヘジェフはほんとうに自分がいろんなことをたすね「むろん、くだらんことをしゃべったばかりでさあ、だって るだろうと感づいて、それになんと答えていいやらわからぬ昔とは違いますからね、みんなのお笑いぐさになっただけで ものだから、どうかして時を移そうがためばかりに、 こうしすよ。けれど、やっこさんすっかり大満足だからおかしい。 て苦しまぎれの駄じゃれを言ってるのではあるまいか。 まあ、こんな具合ですぜ、公平無私なる裁判官諸賢よ。潔白 「謀叛をおこしてるんです ! 陰謀をたくらんでるんです ! 」 なる労働によって口を糊している足なしの老人が、最後のバ レーベジェフはもうがまんができぬといったふうにわめ ンの一片を失おうとしている事実を想起せられんことを。 た。「ねえ、いったいわたしはこのロ悪を、こんな、その放『法廷ニオイテハ仁慈ヲ旨トスペシ』という、立法者の賢明 蕩者の悪党を、たったひとりの甥と思わねばならんのでしょ なる一語を想起せられんことを、だそうです。とてもはんと 、先生この演説を法廷でやったのと寸分 、つか、死んだ姉のアニーシャのひとり息子と思わねばならんうにゃなさるまいが のでしょつか ? ・」 たがえす、毎朝そのままわっしたちにしゃべって聞かすんで 「よせよ、おまえさんは酔っぱらってるんだ ! ねえ、公すぜ。きようでもう五へん目、あなたのいらっしやるちょう 爵、どうでしよう、この人は弁護士商売をはじめて、訴訟事どまえまでやってたんです。それくらい、まあお気に召した

10. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

てあなた、い くら十万ループリほしいたって、ほんとうにあで、あんたの家の中で、あんたのおかあさんや妹のいる前 の男について行くつもりなの ? そりやもうねえ、ーー・十万で、わたしを商品あっかいにしたじゃありませんか。それで ループリとい , んばー じゃね、あなた十万ループリを取り上もあんたはやはりわたしと縁組みするつもりで、のこのこや げてから、あいつを追っぱらってやんなさいよ。えーえ、あってくるんですからね、しかも妹までつれて来ようという意 んなやつらにはそれくらいのところでたくさんだわ。わたし気ぐみで ! ラゴージンがあんたのことを、三ループリのた ーリエフスキイ島まで四つんばいにはって行 があんただったら、あいつらを : : : ああ、ほんとうにどうしめには、ヴァシ くっていったのは、ありやはんとうなんでしようか ? 」 たっていうんだろう ! 」 「はって行くとも」とふいにラゴージンが低い亠尸でいった ダーリヤは、ついに憤怒をさえ感じた。彼女は人のよい そして非常に感じやすい女であった。 が、その顔つきには深い確信が現われていた。 「ダーリヤさん、そんなに怒ることないわ」とナスターシャ 「それもあんたが飢え死にしかけているとでもいうのならま はにつこりしながら受けた。「わたしだってあの男に怒らな だしも、うわさによると、あんたはだいぶいい月給をとって いでロをきいたじゃなくって ? それとも、責めつけるようるそうじゃありませんか ! それにかてて加えて、その厚か にでもいったかしら。なんだってりつばな家庭に入ろうなんましさが足りないで、自分の憎んでいる女を家へ入れようと て、ばかな考えがわいてでたのやら、わたし自分ながらまる いうんですの ! ( だって、あんたはわたしを憎んでいます。 つきりわからないの。わたしあの人のおかあさんを見て、手わたしよく知っていますわ ! ) そうですとも、わたし今こそ に接吻しましたわ。さっきわたしがあんたのとこで皆さんを信じます。こんな男は金のためなら人殺しでもします。ごら かわ からかったのはね、・ カーネチカ、あれはね、あんたにどれくんなさい 今どきの人はみんな欲に渇いて、金に心を奪わ らいの辛抱ができるか、ひとつお名ごりにためしてみたかつれ、まるでばかみたいになってしまってるじゃありません たんですの。ところが、わたしあんたという人に驚きました か。あんな小僧っ子同然の人までが、もう高利貸の真似をし よ、まったく。ずいぶんひどいことも覚悟していたけれど、 てるんですからね。それでなければ剃刀を絹でくるんで、し あれまでとは思いがけなかったわ ! ほら、あのあすこにい つかりしばったうえで、そうっとうしろから自分の友達を羊 ト ( 、フ↓な日こ、 る人が、あんたの結婚の前日といってもいし こかなんぞのように斬り殺すんです。わたしこんな話をこのあ 痴んな真珠をわたしに贈って、しかもそれをわたしが受け取っ いだ、読みました。ええ、あんたは恥知らずです ! わたし たということを知りながら、あなたはわたしを引き取るつも も恥知らずだけど、あんたはもっとたちが悪いんです ! あ 白りでいたんですの ? それからまたラゴージンはラゴージンの花東屋さんのことは、わたしはもう今さらなんにもいわな