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検索対象: ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)
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1. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

っているあたしの以前のひとこと、あれはこの男がずうずう どうか、この憐憫の言葉をわたしに送ってくださいまし ( ただただ憐憫のみです、誓って申し上げます ! ) 。滅亡の淵しくうそをついてるんですの。もっとも、あたし一度だけあ よりおのれを救わんがために、最後の努力をあえてした無謀の男に、ただ気の毒だといってやったことがあります。それ なる破船者の大胆をば、お腹立ちのないようくれぐれもお願をあの男が厚かましい恥しらずだもんですから、すぐに一縷 いします。 の希望のありうることが頭に浮かんだとみえます。あたしは じきそのことに気がっきました。そのときからあたしを釣ろ 「この男は」公爵が読み終わったとき、アグラーヤは鋭く口 うとしだしたのです。今でも釣ろうとしています。けれど、 をきった。「この男は「いっさいを破れ』という言葉が、け もうたくさんですわ、この手紙を持ってって、あの人に返し っしてあたしに迷惑をかけない、断じてあたしを東縛しない てくださいな、あなたがたが家をお出になるとすぐね、それ と誓っています。そして、自分のほうからこうして、ごらんより早くちゃいけませんよ」 のとおり、証書としてこの手紙を渡しているのです。ねえ、 「返事はなんと申しましよう ? 」 ねん 大人げもない泡を食って、いろんな言葉にばか念を押したも 「むろん、なんにもありません。これがいっとういい返事で のじやございませんか、そしてなんて無遠慮に底の企みが陰すわ。では、あなたあの人の家に下宿なさるおつもり ? 」 からのぞいていることでしよう。この男が、もし自分のひと 「さっき将軍が紹介してくだすったものですから」と公爵は り考えで、あたしの言葉など当てにせずに、、 しえ、そんなこ答えた。 とはあたしの耳にも入れず、いっさいあたしというものに希「それじゃ、ご用心なさい。あたし前もって申しあげておき 望をおかずに、すべてを破棄してしまったら、そのときはあますが、こうなってはあの人もあなたをただでは済ましませ たしあの人に対する感情を改めて、あの人と親友になってあんよ。だって、あなたこの手紙をお返しなさるんですもの」 げたかもしれません。あの人はそれを知っているのです。え アグラーヤは軽く公爵の手を握って出て行った。眉をひそ え、たしかに知っていますともー ところが、あの人の腹がめたその顔は妙にきまじめで、別れのしるしに公爵にうなず きたないじゃありませんか、知っていながら思いきれないん いて見せたときでさえ、につこりともしなかった。 です。知っていながら、まだ、やつばり担保がほしいので「ばくちょっと、包みを取って来ますから」と公爵はガーニ 痴す。あの人は信用で実行することができないんです。十万ル ヤにいった。「それから出かけましよ、つ」 ープリのかわりに、あたしから希望をとっておきたいんです。 ガーニヤはもどかしさに地団太を踏んだ。その顔は狂憤の 白それからあの人がこの手紙であの人の生涯を照らしたとかい ために黒ずんでさえ見えた。ついにふたりは往来へ出た。公

2. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

「わたしは文学のほうはあまり得手じゃないんですが、わた のみ出て米ました。すなわち以前の地主 ( 今なくなってい る ) と神学生とこの二つの階層です。ところが、それはいましの意見では、ロモノーソフとプーシキンとゴーゴリを除く カスト のほか、ロシャ文学はぜんぜんロシャ文学でないですよ」 両方とも一種特別な、国民からぜんぜん独立した階級に変化 してしまいました。それはさきへ進むにしたがって、世代よ「第一、それだけあれば少ないとはいえません。第二に、ひ り世代を追って、はなはだしくなっていきます。だから、彼とり 。モノ ) は民衆の中から出ていますが、あとのふたりは らはいろんなことをしたし、またしてもいますが、それはみ地主ですよ」とアデライーダが笑いだした。 な非国民的です : : : 」 「たしかにそうです、が、そう得意にならないでください 「なんだって ? じゃ、今まで行なわれたことは、みんな口 つまり、今までのロシャ文学者中、ただこの三人だけがそれ ぞれなにかしらほんとうに自分の言葉、だれの借り物でもな シャ的でないというのかね ? 」と公爵が抗言した。 「非国民的だよ。よしロシャ式であるとしても、国民的では い自分自身の言・果をいうことができたものですから、それで ないよ。自山主義者もロシャ的でなければ、また保守主義者この三人がたちまち国民的になったのです。ロシャ人のうち もロシャ的でない、なにもかもそうだ : : だから、ばく断言だれにもあれ、なにか自分の言葉、借り物でないほんとうに するが、国民は地主や神学生のすることを、なにひとっ承認自分の言葉をいうなり書くなり、実行するなりしたら、その しやしない、今日だって、また今後だってね : : : 」 ものはかならず国民的になります。よしそのものがロシャ語 「これはおもしろい どうしてきみはそんな逆説を断定でさえ満足に話せないとしてもです。これがわたしの原則で きるのだろう、もしそれがまじめだとすれば。ロシャの地主す。しかし、わたしどもは文学の話をはじめたのじゃありま に対するそんな突飛な議論を、ばくは黙過することができなせん。社会主義者の話から脇道へそれたのです。で、わたし 。きみ自身だってロシャの地主じゃないか」と公爵は熱は確信しますが、わが国にはひとりの社会主義者もありませ して言葉を返した。 ん。かってもなかったし、現在もありません。なぜって、ロ 「、や、ばくはきみのるようなふうに、ロシャの地主を論 シャの社会主義者はだれもご同様に、地主か神学生ばかりだ じたんじゃない。ばくがその中に属してるということだけか からです。わが国の有名な折紙つきの社会主義者は、内地に いるのにしろ外国にいるのにしろ、みな農奴制時イの地主か らいっても、地主の身分は尊敬すべきものさ。まして今日で カスト ら出た自山主義者にほかならぬのです。あなたがたはお笑い 痴は、階級としては存在しなくなったんだからね : : : 」 になりますか ? まあ、わたしにあの連中の書物を貸してく 「それに、文学にだって、ちっとも国民的のものはなかった ださい、あの連中の教義か手記を貸してごらんなさい。わた 白んでしよ、フか ? ・」とアレグサンドラがさえぎった。

3. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

であった。ずっと以前から , ーー子供の時分から、つねに自分しさに苦笑した。あたりには央いさわやかなしじまが立ちこ菊 をいざない寄せているくせに、どうしてもそばへ近づくことめて、聞こえるものとては木の葉のすれ合う響きのみであっ たが、そのためにかえってあたりがいっそうしんと、もの淋 を許さないこの歓宴、この絶え間なき無窮の大祭は、そもい しくなるのであった。彼はとてもたくさん夢を見た。それは かなるものだろう ? 毎朝これと同じ輝かしい太陽が昇り、 . 毎朝滝のおもてが虹にいろどられ、遠いかなたの大空の果てみんな不安の気に充ちたもので、彼は絶え間なしにぶるぶる に立ついちばん高い雪の峰は、毎晩むらさき色の焔に燃え立と身をふるわした。ついにひとりの女がそばへ寄って来た。 彼はその女を知っている、胸苦しいはどよく知っている。 つ。「自分のそばで、熱い太陽の光を浴びている徴々たる蠅 つでも名を呼んで、指さし示すことができるくらいである、 、どれもどれも宇宙のコーラスの一員として、おのれのい けれど、不思議にも今の女の顔は、いつも見なれている るべき場所を心得、愛し、そして幸福なのである』。一本一 本の草もつねに成長し、かっ幸福である。いっさいのものに顔とまるつきり違うようである。彼はそれをこの女の顔だと 承認するのが、もの狂おしいほどいやであった。この顔に おのれの道があり、 いっさいのものがおのれの道を心得てい る。そして唄とともに去り、唄とともに来る。しかるに、自は、悔悟と恐怖の色がみちみちて、たったいま恐ろしい罪を 分ひとりなんにも知らなければ、なんにも理解できない、人犯した大罪人かと思われるばかりであった。涙はその青ざめ 間もわからない、音響もわからない、すべてに縁のないのけた頬にふるえていた。彼女は公爵を小手招ぎして、そっと自 ものである。ああ、もちろん彼はこうした疑惑を一言葉に現わ分のあとからついて来いと知らせるように、指をくちびるに すことはできなかった。彼はつんばのように、おしのように当てて見せた。彼の、い臓は凍ったようになった。たとえどん なことがあろうとも、この女を罪びとと見るのはいやだっ 苦しんだのである。しかし、いま彼は当時の自分がこうした 考えを、すっかり同じ言葉で語ったことがあるように思われた。けれども、彼は今すぐなにかしら恐ろしい、自分の生涯 トが当時の自分の た。で、あの「蠅』のことも、イツポリー に大影響を与えるようなことが、おこりそうな気がしてなら 言葉と涙の中から取って来たような思いがした。彼はそうと なかった。見受けたところ、この女は公園のほど遠からぬと 固く信じきっていたので、そのためになぜかしら心臟の鼓吶 ころにある何ものかを、公爵に見せたいようなふうであっ が激しくなってきた : た。彼は女のあとについて行くつもりで立ちあがった。と、 彼はペンチの上で眠りに落ちたが、その不安は夢の中でも にわかに彼のそばで、だれやらの明るい生き生きした笑い声 いぜんとしてつづいた。眠りに入るちょっと前に、 が響き、だれかの手が彼の手の上に置かれてあった。彼はこ ートの十人殺しという言葉を思い出し、その想像のばかばかの手を取って、固く握りしめると、はじめて目がさめた。目

4. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

っとなった。「歯にきぬ着せない言葉も、べつに恐れやしま ヤがもう六時すぎに公園へ出たということを下女から聞く と、姉たちは空想家の妹の新しい空想を冷笑しながら、アグせんよ。なぜって、だれひとりばかにしたこともなければ、 ラーヤをさがしに公園に行ったら、あの娘はよけいおこりだまたばかにしようと思ったこともありませんからね : : : 」 「とんでもないことを、ばかにするしないは別にして、知り すだろうと母に注意した。そして、今ごろはたぶん本を持っ たいのがあたりまえです。あなたは母親ですもの。ばくたち て、緑色の・ヘンチにすわってるだろう、なぜなら、三日前に が正七時に、緑色のべンチのそばで会ったのは、きのうアグ 公爵があの・ヘンチの辺の景色にはなんの奇もないといった ために、あやうくアグラーヤと口論せんばかりであったか ラーヤさんからお招きを受けたからです。お嬢さんはゆうべ 手紙で、ぜひばくに会ったうえ、重大な件について話したい ら、といい添えた。 ふたりのあいびきを見つけたうえに、娘の奇態な言葉を聞と、こういう意志をお伝えなすったのです。ばくたちは約東 くと、リザヴェータ夫人はいろいろとわけがあって、おそろどおり会見して、まる一時間、もつばらお嬢さんおひとりの しくぎようてんした。しかし、こうして公爵をひつばって来一身に関することで話をしました、それつきりです」 「もちろん、あなた、疑いもなくそれつきりです」と夫人は てみると、急にみずから事をおこしたのを感じて、おじけづ いた。」。アグラーヤが公園で公爵に出会って話しこんだから威を帯びた調子でいった。 「りつばですわ、公爵 ! 」アグラーヤがとっぜん部屋へ入っ って、なにが悪いんだろう。よしんば前から約東した出会い であったにせよ、なにもかまったことはないはすだ』 て来て、こういった。「あたしのことを、卑劣なうそなんか 「ね、公爵」彼女はついに気を取り直して、「わたしがあんつけない女だと思ってくだすったのね。真底からお礼を申し たをここへひつばって来たのを、訊問のためだなんて思わなますわ。おかあさま、もうたくさんよ。それともまだなにか いでちょうだい : : きのうの晩のこともあったしするから、 訊問なさるつもり ? 」 当分のあいだ、あんたとは会いたくなかったくらいなんです「これ、アグラーヤ、わたしはこれまでまだ一度もおまえの からね : : : 」 まえで、あかい顔をするようなことはありませんでした。も 彼女はちょっと一言葉につまった。 っともおまえは、わたしにあかい顔をさせたほうが嬉しかっ 「しかし、それにしても、きようばくがアグラーヤさんに会たのかもしれないがね」と教訓じみた調子で夫人はいった。 ったのは、どういうわけだか聞きたくてたまらないのでしょ 「さようなら、公爵、お騒がせしてすみませんでした。どう しいきった。 う ? 」と公爵は落ちつきはらって、 ぞわたしは変わりなくあなたを尊敬しているものと信じてく ださい」 「そりゃあ、まあ、知りたいですとも ! 」と夫人はすぐにか

5. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

われたわね ! 」と傲慢ななれなれしい調子でこういうと、そはからかうようにいった。 こしらえる、夕方までにこし 「いんや、でたらめじゃない。 のまま長いすから立ちあがり、出て行きそうにしこ。 らえる : : : プチーツイン、助けてくれ、高利貸野郎、利息は ガーニヤは心臓の鼓動のとまるような苦悩を覚えながら、 いくらでも取るがいし 、十万ループリタ方までに調達してく 始終の様子をながめていた。 一万八千は取消しれ。こんなことでヘこまねえってところを見せてやるんだか 「じゃ、四万ループリ、四万ループリだ、 ら ! 」とラゴージンは夢中になるほど気負ってきた。 だ ! 」とラゴージンは叫んだ。「ヴァーニカ・プチーツイン しかしこれは全体どうしたというのだ ? 」思いも寄 とビスクープが七時までに、四万こさえてやると約東した。 すっかり一時にテープルの上にそろえてみらぬアルダリオン将車が、怒り、い頭に発してラゴージンのほ 四万ループリ ! うへつめ寄りながら、すさまじい剣幕でこうわめいた。今ま せる ! 」 一座の光景は常軌を逸して醜悪なものとなった。けれどで黙って控えていた老人のこうした突飛な言葉は、多分のフ ミズムを含んでいた。だれかのくすくす笑う声が聞こえた。 も、ナスターシャはことさらそれを長くつっておこうとする かのように、立ち去ろうともせず笑いつづけていた。ニーナ「こいつ、またどこから飛び出したんだ ? 」とラゴージンは 夫人とヴァーリヤとは、ともに同じく席を立って、どこまで笑いだした。「おい、爺さん、行こう、一杯飲ますぜ ! 」 ーリヤは恥ずかしいやらくや 「これはもうあんまりだ ! 」コ 行ったら果てることかと、おびえたように言葉もなく待ちも しいやらで、ほんとうに泣きながら叫んだ。 うけていた。ヴァーリヤの目はぎらぎら輝いていたが、ニ 「ほんとにこの恥知らすの女をここから引きずり出す人が、 ナ夫人にはこの事件がおそろしく病的に働いて、彼女は今に あなたがたの中にだれもいないんですか ! 」と憤怒に全身を も悶絶して倒れそうに、わなわなふるえていた。 「ええ、そんなら十万ループリた ! きようすぐ耳をそろえ打ちわななかせながら、ヴァーリヤがにわかにこう叫んだ。 てお目にかける ! プチーツイン、助けてくれ。おまえだっ 「恥知らずの女というのは、わたしのことですの」と相手の いうことなど気にもとめないような浮きうきした調子で、ナ て、うんと暖まるぜ ! 」 スターシャが受けながした。「わたしはまた皆さんを晩餐に 「きみ、気でもちがったのか ! 」プチーツインは急につかっ 招待に来たりなんかして、なんてばかだったんでしよう ! かと彼のそばへ寄って、手首をつかみながらささやいた。 「きみは酔っぱらってるんだ、交番へ突き出されるそ。きみねえ、ガヴリーラさん、あなたのお妹さんはあんなふうにわ たしを扱いなさるんですよ ! 」 は自分がどこにいるのか知ってるか ? 」 カーニヤは雷にでも打たれたよ 思いがけない妺の言葉に、・ 白「辭った勢いででたらめをいってるんだわ」とナスターシャ

6. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

がある。力し んです、無心じゃありません」 、っそてっとり早く仕事にかかりましよう。ひ レーベジェフの甥はすっかりのばせあがって、こう言葉をとっ皆さんにおたずねしたいのは、なぜこんな記事を新聞に ばりざんばう 結んだ。 載せたんです。だって、この中の一語一語みんな罵詈讒謗じ ゃありませんか。ばくに言わせれば、あなたがたのやりかた 「要求するんです、要求するんです。要求するんです。無心 じゃありません : ・・ : 」プルドー フスキイはまわらぬ舌を動かは、はなはだ陋劣です」 「ちょっとお待ちなさい : して叫び、蝦のように真っ赤になった。 「あなたー レーベジェフの甥が気焔を吐き終わったとき、一座の人々 ・こなどという声が、激昻 はなんとなく色めきわたって、中には憤慨の語気をもらす者「それは : : : それは : : : それは : さえあった。しかし一同はそれでもやはり、かかり合いーオ した若い客人たちの間からいっせいにおこった。 るのを避けようとしているらしかったが、レーベジェフだけ トが甲高い声でロを 「その記事のことなら」と、イツポリー は例外で、彼はまるで熱にでも浮かされているようであっ入れた、「その記事のことなら、ばくもほかの連中もけっして た。 ( 不思議なことに、レーベジェフは、疑いもなく公爵に賛成しないって、もうさっき申しあげたじゃありませんか。 味方しているにもかかわらず、いま甥の演説を聞いて、なんそれを書いたのは、ほら、この男です ( と彼はならんですわ となくこんな場合に身内の人がよくいだくような、一種の誇っている拳闘家を指さした ) 。書きかたはいかにも無作法千 りがましい満足を味わった。たとえそうでないまでも、すく万です。この男と同じ退職士官の使いそうな文句をいつば、 いれて、いかにも無学らしい書きかたです。この男がばかの なくとも、なみなみならぬ満足らしい顔つきで、一同を見ま わしたのである ) 。 うえに職人根性だってことは、ばくも異存ありません、それ は毎日むきつけにいってやることです。が、それにしても、 「ドクトレンコ君」と公爵はかなり穏かな調子で言いだ こ。「ばくの考えでは、きみのいまいわれたことは、半分くやはりこの男にもいくぶんの権利はあります。公開というこ らいぜんぜん事実です、いや、大半事実だといってもいし とは法によって認可された各人の、したがってプルドーフス らいです。で、もしきみのお言葉になにか抜けたとこがなかキイの権利です。また愚にもっかんことを書き立てたのは、 ったら、ばくはまったくきみと同意見なのでした。しかし、 この男が自分で責任を負いましようよ。それから、ばくがさ 痴いったい何が抜けていたかときかれたら、ばくも的確にそれつき一同を代表して、あなたの友人がたの同席を拒んだ件に をいい表わすことができません。しかし、ぜんぜん真実だと関しては、ぜひとも皆さんがたに申し開きしなけりゃなりま 白一言うには、きみの言葉にはもちろん、なにか不十分なところせん。ばくが抗議を申しこんだのは、単にわれわれの権利を夘

7. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

キイ君が「パヴリーシチェフ氏の息子』さんでないことがわキイ君は、たとえ「パヴリーシチェフ氏の息子 - 』さんでなく かったら、この場合、同君の要求は明白な詐欺的行為じゃあとも、はとんどそれと同じようなものです。なぜなら、同君 りませんか。 ( ただし、これはむろん同君がほんとうの事情自身もむごたらしく欺かれた人だからです。同君は真底から を知ってると仮定してですよ ! ) しかし、そこがかんじんな自分をパヴリーシチェフ氏の息子だと思っていられたんで とこで、つまりプルドーフスキイ君はだまされたんです。だす ! 皆さん、これからガヴリーラ君の話をいてくださ ル下をおしまいにしましよ、つ 。」な復なすっ そして、この事イ から、ばくもこうして同右の弁護をしようとあせってるので す。同君の正直な性質は同情に価します。同君は扶助なしにちゃいけません、そう、激昻なさるもんじゃありません、ま やっていけないというのは、ここのことです。こう解釈しなあ、すわってください ! ガヴリーラさんが今すぐに委細説 かったらプルドーフスキイ君はこの事件でかたりになってし明してくださいます。じつのところ、ばくもたいへん一部始 まいます。だから、ばくは同君が何も知らないのだと、とっ 終の話を聞きたいんです。それでね、プルドーフスキイ君、 くから確信しています ! ばくもやはりスイスへ行くまでガヴリーラさんはわざわざプスコフへきみのおかあさんに会 は、あれと同じような状態でした。あんなふうに取りとめの いに行かれたんですが、きみが心にもなくあの記事に書かれ ない言葉をどもりどもり話したり、なんかいおうと思っても たように、おかあさんはけっして死ぬような病気などにかか いえなかったり : : : そうしたふうの、い持ちはよくわかりま っちゃいられないそうですよ : : : さ、皆さん、すわってくだ す。ばくはたいへん同情します、なぜって、ばく自身ほとんさい、すわってください ! 」 どああいうふうだったんですから、こういうロをきく権利を 公爵は腰をおろし、またしても席から飛びあがろうとする 持ってるんです。しかし、ばくはやはり、 すでに「パヴプルドーフスキイの連中を、やっとのことでもとの座に着か リーシチェフ氏の息子』なるものもなく、このいっさいの事した。終わりの十分か二十分のあいだ、彼はまるで夢中にな 件がごまかしだとわかったにもかかわらず、ばくは依然決、い ってしまって、はかの人たちを圧倒しようとでもするような オがもちろん を変えないで、パヴリーシチェフ氏に対する記念として、一大きな声で、早口にじれったそうにしゃべっこ、、、 万ループリを返済するつもりです。ばくはこの事件のもちあ今では、不用意に口をすべらした二、三の言葉や臆測を、お がるまで、パヴリーシチェフ氏の記念に一万ループリの金をそろしく後悔しなければならなかった。熱中して相手をかっ 学校事業に使用するつもりだったのですが、今となっては学とさせなかったら、もし彼があれほどまで露骨に性急にああ 校事業に費やすのも、プルドーフスキイ君にお返しするのした当て推量や、いわでもの無適慮な言葉を、ロに出すはす も、道理において違いはありません。じっさいプルドーフスではなかったのだ。席につくやいなや、焼けつくような悔悟

8. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

相手の言い分がまるでわからないために生じたようなこの不はあなたに読んでいただきたいんですの」 手紙はよほど泡をくって書いたものらしかった。 審顔、この落ちつきはらった驚きの表情は、この瞬間のガー ニヤにとって、どんな強い侮蔑よりも恐ろしいようであった。 「きようはわたしの運命が決せられる日でございます、なぜ 「いったいどう書けば、いのでしよう ? 」と公爵がたずねかはあなたもごそんじのはずです。きようわたしは、生涯と り返しのつかぬ決答を与えねばなりません。もちろん、わた しはあなたのご同情をこうべきなんらの権利をも持っていま 「今あたしが申します」とアグラーヤは振りかえりながらい った。「よ , っ′」ざいますか ? 聿いいてください : 「駈けリせん。またあえてなんらの希望をもいだこうとはいたしませ ん。けれどいつでしたか、あなたがおっしやってくださいま きの相談ー。 こま乗りませぬ』そして月日を書いてくださいな。 拝見」 したひとこと、たったひとこと、あのひとことがわたしの生 涯の暗夜を照らす燈台となりました。どうか今一度同じよう 公爵はアル・ハムを渡した。 そうすれば、あなたは 「まあ、おりつばですこと ? まったくきれいに書いてくだ なお言葉をかけてくださいまし、 さいましたねえ。なんという見事なお手でしよう ! ありがわたしを滅亡の淵から救ってくださることになります ! ど とうございました。ではさようなら : : : あ、ちょっと待ってうぞわたしにいっさいを破れといってください。そうすれ くださいな」彼女はふいになにか思い浮かべたようにい、こ ば、わたしはきよ、フにもいっさいを破乗してしまいます。一 1 かれだけのことをおっしやるのが、あなたにとってどれほどの した。「あちらへまいりましよう。あたし記念としてなに あなたにさしあげたいんですから」 ~ ガで」さいましよ、つー・ この言葉の中に、わたしに対するあ 公爵は彼女のあとについて行った。しかし、ふたりが食堂なたの同情と憐憫を、せめてしるしだけでも捜し出しとうご それだけのこと、ただそれだけのことです ! ざいます、 に入ったとき、アグラーヤは立ちどまった。 「これを読んでごらんなさい」と彼女はガーニヤの手紙を渡ほかに何もありません、けっしてありません ! わたしはそ しながらいった。 の他になにか希望をいだこうなそという、大それた考えは持 公爵はそれを受け取ったが、不審げにアグラーヤを見返しちません。わたしにはそれだけの値うちがありません。しか し、あなたのひとことさえ聞かしていただければ、わたしは 「ええ、あたしにはよくわかっていますの、あなたはこの手ふたたび貧困に甘んじ、絶望すべき現在の境遇をもよろこん 紙をごらんなさらなかったでしよう。それじゃ、とてもあので堪え忍びましよう。悪戦苦闘をも欣然として迎えましょ う。そしてその中に新しき力をもってよみがえりましよう ! 男の腹心になる資格がありません。お読みなさいな、あたし

9. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

押しこたえたのである。しかし、よく見つめているうちに、 「まあいったいこの人はどうしたんだろう ! 発作でも始ま 彼は公爵が前後をわきまえずにいるのではないか、すくなく ったのかしら ? 」とリサヴェータ夫人はびつくりしてコーリ ヤにたずねた。 もなにか特別な心の状態になっているのではないか、とここ ろづいた。 「心配しないでください、奥さん、いま発作などありませ 「誓っていいますが」と彼は叫んだ。「あなたは、まるつきん。ばくもうすぐ帰ります。ばく、自分でよく知っています。 り違ったことをいおうとしていられたのです。そして、おそばくは : : : 自然にしいたげられた男です。ばくは二十四年 らくわたしではなく、ほかの人におっしやりたかったのでし 、生まれてから二十四の歳まで病人でした。どうそ今も病 、。ばくはいますぐ帰ります、 よう : : : しかし、あなたはまあどうなすったんです ? お気人の言葉として聞いてくださ 分でも悪くはないのですか ? 」 今すぐ安心してください ばくは赤い顔などしません 「そうかもしれません、大いにそうかもしれません。あなた だって、こんなことのために赤い顔をするのは変ですもの の観察は当たったかもしれません、ばくはまったくあなたとね、そうじゃありませんか ? しかし、ばくは社〈ムにおけ は違った人のほうへ近寄りたかったのでしよう ! 」 る無用人です : : : といったって、それはけっして自尊心から こういって、彼はなんとなく奇妙な、こつけいにさえ感じ申すのではありません : : : ばくはこの三日間いろいろに考え られる徴笑を浮かべた。が、急に激したように叫んだ。 たすえ、どうしてもあなたがたに会ったら、おりを見つけ 「どうかあの三日前のばくの行為を、もう思い出させないでて、まじめな高潔な態度で申しあげようと決心したのです。 くださいー ばくはこの三日間、恥ずかしくてたまらなかっ ほかでもありませんが、どうしてもばくのロにのばすことの たのです : : : ばくは自分が悪かったということを、よく承知できないような理想、しかも高遠なる理想がこの世にあると しています : : : 」 いうことです。なぜ口にのばしてま、ナよ、、 冫しレ / しカ A 」し、つ A 」、ま 「まあ : : いったい、なにをそんなに恐ろしいことをなすっ くのロにのばると、それがみなこつけいなものになってしま たんです ? 」 うからです、公爵もたった今このことをばくに注意してく ーヴルイチ。 「ばくにはわかっています、エヴゲーニイ・。ハ ださいました : : ばくには礼にかなった身振りがありませ あなたはだれよりもいちばん余計ばくのために、恥ずかしいん、感情の中庸というものがないのです。ばくの持っている 痴思いをしてらっしやる。あなたは顔を赤くしていられます言葉はことごとく見当ちがいで、思想に相当したものがあり ね。それは美しい心の特質です。ばくは今すぐ帰りますかません。これはその思想に対する侮辱です。こういうわけで 白ら、どうか安、いしてください」 すから、ばくには権利がなにもありません : : : おまけに、ば

10. ドストエーフスキイ全集7 白痴(上)

ちを打った。 「ところが、ひょっとしたら、知ってるかもしれませんぜ」 「それでシベリア行きかい ? 」 と役人はせわしげに口をはさんだ。「レーベジェフはなんで 「シベリア行きですともー シベリア行きですとも ! さつも知っとるですよ ! 旦那、あんたはわたしを責めつけなさ そくシベリア行きです ! 」 るが、もしわたしがちゃんと証明したらどうなりますね ? 「やつらはまだおれが病気だと思っている」とラゴージンはわたしがいうのは、あんたがおやじさまに杖をもって追っか 公爵に向かって言葉をつづけた。「ところが、おれは黙ってけられるもとになった、正真正銘のナスターシャ・フィリッ こっそり汽車に乗って、まだからだの具合は悪いんだけれポヴナ、姓は・ハラシュコヴァ、ずいぶん身分のいい人で、や ど、こうしてやって来たのさ。『ゃい弟、セミョーン・セミ しいくらいのかたでしてな、トーツ はり公爵令嬢といっても、 ヨーヌイチ、戸をあけろ ! 』と出かけるんだあね。あいつがキイとかいう人の思いものでしよう、大地主で財産家で、い ざんそ おやじにおれのことを讒訴しゃあがったなあ、ちゃんとわかろいろな会社や商会の関係者で、この方面のことからエバン ってるんだから。もっとも、おれがナスターシャ・フィリッ チン将軍とも非常に心安くしているアファナーシイ・イヴァ ポヴナのことで、おやじさんのご機嫌を損じたのは、うそも ーノヴィチの : : : 」 隠しもねえ、ほんとのこった。それはもうおれひとり悪いに 「ちょっ、なんてやつだ ! 」と、とうとうラゴージンはほん 相違なしだ」 とうに驚いた。「こんちくしよう、ほんとに知ってやあがる」 「ナスターシャ・フィリッポヴナのことで ? 」役人は何ごと 「なにもかも知っとりますよ。レーベジェフはなんでも知っ か思い当たったように、さも卑屈らしい調子でこういっこ。 とりますよ ! わたしはね、あんた、まるふた月というもの 「てめえなんかの知ったこってねえ ! 」とラゴージンはたま ハチョフ・アレグサーシカといっしょに、やはりおやじさ りかねて一喝くらわした。 んのなくなったあとですがね、所々方々を歩きまわったん くまぐま 「ところが、どっこい、知っとりますよ ! 」と役人は勝ち誇で、今じゃ、その、どんな隅々隈々でも、のこらずそらで知 ってるんで。だからもう、レーベジェフがいないと来た日に ったように答えた。 「一」いつは、ど , フにー しかし、ナスターシャ。フィリッポヴゃあ、何ごともひと足だって先へ出っこなしですよ。今でこ ナという名前は世間にいくらでもあらあなー ほんとにてめそアレグサーシカも債務監獄にぶち込まれておりますが、そ えはいけずうずうしい野郎だなあ ! いずれこんな野郎がすの当時はアルマンスとか、カラーリヤとか、パーッカヤ公爵 ぐにうるさく付きまとって米やがるに相違ねえと田 5 ってた夫人とか、あるいはナスターシャ・フィリッポヴナとかいう よ」と彼は公爵のほうに向いて言葉をついだ。 ような人たちを、見知るだけのおりがあったんです。まあ、