作 白ガーニヤが、わなにかかったアグラーヤに得々として結婚 事件が主としてアグラーヤ、ガーニヤ、 z ・、その他の陰のこと、すなわち自分との結婚のことを口からすべらしたと ーリヤその他き、アグラーヤは答えていう。「あなたと結婚するのはなん 謀に関している間は、公爵と子供ら、例えばコ との関係はそれとなしに、ほとんど謎のように語ったほうがてっても不体載だわ」 「わたし潔白な女になる勇気がない」と Z ・がいう。 よくないだろうか。クラブのことにいたっては言及しないこ と。しかし遠回しに噂で予告しておいて、ふいに幕を切って ( レーベジェフと公爵 ) ( レーベジェフの家庭 ) レーベジェフは哲学者。のべっ公爵をだます。彼の一特 落し、公爵がその中に王者のごとく控えているところを見せ 質。レーベジェフの子供ら。 てはいかに ? 第五編か第六編あたりで。 公爵、罪ある人々についていう、みんな病人なのだ、介抱 物語のぜんぶを通いて公爵の人物を謎のように取 してやらなくちゃならない。 り扱い、時々枝葉末節で真相をほのめかしながら ( なるべく 食人種。 幻想的に、設問的に、好奇心を刺激するようにしながら ) 、 Z ・のもとで黙示録、祈蒋、キリストについて。 最後にいたってとっぜんその全貌を明らかにしてはどうか、 それともその反対か。 ひと ( 一 ) 「あの女はどこにいるのです ? ーーーあそこでは何ご その他の人物は最初からできるだけ明瞭に示し、 とが起ったのです ? 行きましよう、行きましよう ! 」 読者に説明しながら ( 例えばガーニヤのごとき ? ) ( 一一ペー ラゴージンが彼に Z ・の死骸を見せたとき。 彼女は叫んだ。 死骸に接吻する 「ばくは彼女のところへいくからそれで訴えないだけなん だ。そんなことをしたらどうしてばくが彼女のところへ行け るんだ ? 」 「死骸の匂うのはあたりまえよ」足に接吻する 「え、なんだって、おまえ、水なんかがいるんだ ? よくど なったもんだったつけ、 いますぐ、いますぐーーー」 三月十二日 この小説の中には三つの愛がある。 ( 一 ) 情熱的、本能的な愛ーー・ラゴージン。 ( 二 ) 虚栄心から出た愛ーーー・ガーニヤ。 ( 三 ) キリスト教的な愛ーー・公爵 ( 一二ページ ) ノタ・・ヘネとちょっとした一一「ロ葉 あれ 253
アグラーヤは返事をするだけの値うちもないという態度を けたのです。そんなことはあの女の性質として不向きなんで すよ。プチーツインが日本人を比喩に持ってきたのは実にう見せる。しかし十万ループリのことを口にし、ガーニヤを責 めたのは自分が悪かったかも知れないという。ガーニヤの冷 がっています。いま、あの女はなによりも後悔しています、 悩み、嘆いています、自分がなにかで公爵を破滅させたのだ静。 ( 二二ページ ) アグラーヤがガーニヤを置いて去り、自分にかまわないで と思うと、気も狂いそうになってくるのです。自分はそんな 値うちもないのに、公爵が自分を愛していて、一生涯を自分くれと頼んだ時。 きわめて慇懃でデリケートではあるけれど角立った公爵の のために犠牲にしようとまで覚悟していると思うとね。よし んばあの女のほうには愛もなければ嫉妬もないにしても、こ答えは彼女に前後を忘れさせる。 れはやりきれない気分ですよ。あの女はあなたのことを根掘そういうわけで・を訪問に出かけることは、神経的な り葉掘りしていました。よくわれとわが頭を両手でつかみな向こう見ずの場面である。 がら『わたしはなんてことをしてしまったんだろう、なんて要するに三か月間にわたる求婚で、アグラーヤはだれよ ことをしてしまったんだろう ! 』と叫ぶのです。ときによるりもはっきりと突きとめ見きわめた。問題のいっさいは Z ・ と何もかも自分のせいにして、クセーニン邸の場面 ( 十万ルに関連している。 ープリ ) を毒々しく冷笑しています。『わたしは自分を受難第三編においてラゴージンの人物は神秘的。 レーベジェフ ? 拳闘先生 ? 者のように、トーツキイの犠牲のようにして見せたけど、わ たしこそ人間のうちでも一ばんくずなんだわ』といいまして 重大なこと。 ね、云々」 ( 一 ) アグラーヤはあけすけに両親に向かって、あなた方 アグラーヤは相手の考えを見抜こうとしてくい入るように はわたしの顔に泥を塗ってしまいなすった、わたしは確かに ガーニヤを見つめていた。 アグラーヤは憎悪の念をもってこれだけのことを聴き終っ聞き込んだけれども、公爵は Z ・でいっしようけんめいだ た ( しかし口にはださない ) 。ガーニヤも強情に『なんのたそうだ、という。 一めにアグラーヤはこんなに細々と問いただすのだろう』とい (ll) まったく目下のところ、公爵の行動、善行、子供の ことなどは、ただ風説が行われているにすぎない ( そういう 作う好奇心を表に現わさない けれども Z ・に対する押しつけがましくはないが、深いわけで、いっさいは最後にいたって明瞭となる ) 。 しかし、 白尊敬の念を示しながら物語る。 259
ャーシャ、打て ! 」白痴、平手打ちをくう。「あれをお打ちで。 やしないご 、、くはそういうわけにいきません」叔母は娘と養女息子は向こう見ずな人間の odeur ( 匂い ) を持っている。 なさしー 子供らは彼をあまり尊敬せず恐れている。白痴と彼女との場 にすっかり腹を立てて去る。 白痴、子供たちと最初の会話「ばくたちはあなたの面は第二章に、そしてあらかじめ田舎における以前の恋につ いて一章。 ことを、とても退屈な人だと思っていましたよ」フヨードル・ イヴァーノヴィチのこと、モン・プランのこと、スイスのこ第三編において白痴は少年園、婦人部 ( 婦人の労働 ) 宿泊 と、ある教師の身の上話、あの少年のこと、オリガ・ウメー部と通勤部。 やしないご ッカヤのこと、神の存在のこと、最後に養女のこと、彼女の おもな変更。息子にはより多く狂暴性。 将来の位置のこと、彼女と少年たちを和解させる。将軍のこ とも話す。連盟が結ばれる ( 息子は淫奔女と結婚しようとし将軍は ( 今のところそこには学校がある ) 結局ウメーッカ ている。子供たちはぞっとして話し合う ) 。ャーシャの告ヤと結婚する。 白。そこへウメーッカヤ、叔母、息子の出現、女を、ヤーシ彼らがナスチャを追跡した時 ( 息子は彼女と結婚したかも ヤを打つ、等。 しれない ) 息子は父に、父の妻はっ注と語略語。 それを知っていると叫ぶ。 白痴「あやまりなさい」 必ず、白痴の人物を巧妙に描きだすこと。 将軍は彼に出会い、彼と話しながらいろいろと過去を語る。 ウメーツキイ一家。 これもやはり子供たちの会話のテーマ。 子供たち。 白痴 ( 最初の出現 ) 興味ある物語で小説のつづきを切ること。 小説になるたけ重みを加えること。 将軍は醜態であり、ロシャ的魂の所有者。 白痴の人物。 ( 一二三ページ ) 将軍、娘に「家の中の乱雑は望まない」 ( ご三ページ ) ノ なおいくつかの点 作 Nota-bene 第一編は田舎で。 ( かも知れぬ。 ) 大いに圧縮する必要あり。 白彼女が洗濯女から淫蕩に向かうことについてーー・・第二編白痴と彼女および子供たちの発端、面会、第二章の場面、 233
「ロに出すのもおっかないようですよ」と夫人も同様に早ロ いね」 でいった。「けれど、わたしの考えでは、わかりきったこと この最後の一句を、アグラーヤは特に力を入れていった。 です」 父や母や姉たちが客間へはいったとき、これらすべてを見 「わたしの考えでもわかりきったことだ。火をみるより明らもし、聞きもすることができた。で、この「なんの足しにも かだ。恋してる ! 」 ならないようなばかげたこと』は、一同を驚かしたのである。 「恋してるどころじゃありません、首「たけですわ ! 」とアが、それよりも、こういったときのアグラーヤのまじめな気分 レグサンドラが応じた。「だけど、まあ、相手もあろうにねは、なおさら人々をあきれさした。一同は不審そうにたがい に顔を見合わせた。しかし、公爵はこの言葉の意味を悟らな 「ああ、神さま、あれの運命がそうな「てるなら、仕方があか 0 たらしく、まるで幸福の頂上に立ったかのようであった。 りません、あの子を祝福してやってください ! 」と夫人はう 「なんだってそんなことをおっしやるんです」と彼はつぶや ゃうやしく十字を切った。 いた。「なんだってあなたは : : : そんな : : : おわびなんかな 「つまり、運命なんだね」と将軍が確かめるように言った。 さるんです : : : 」 「運命ならのがれるわけには、 しかないよ」 彼はおわびなんかいっていただく資格はない、とさえいお で、一同は客間へおもむいた。と、ここでもまた思いがけ うと思った。あるいは彼とても『なんの足しにもならないよ ない光景が彼らを待っていた。 うなばかげたこと』という意味を、悟ったかもしれない。け アグラーヤは自分で恐れていたように、公爵に近寄りながれど、畸人の常として、むしろそれを喜んで聞いたかもしれ ら、吹きださなかったばかりカ : ほとんどおずおずしたよう ない。だれにも妨げられることなしに、アグラーヤのところ なふ、つで、一、つししオオ へ遊びに来て、彼女との対談や、同席や、散歩を許してもら 「どうかこのばかで、意地悪な、わがまま娘をゆるしてくだ うということだけでも、彼にとっては疑いもなく幸福の頂上 さい ( と彼女は公爵の手を取 0 た ) 。そして、あたしたちがであ 0 た。そして、一生涯それだけで満足していたかもしれ みんな、心からあなたを愛してる 0 てことを信じてくださぬ ! ( この満足をリサヴ = ータ夫人は心の中で恐れていた。 い。あたしがあなたの美しい : ・ : ・善良で単純な心持ちを、生夫人は彼の人となりを見抜いていた。彼女は心の中でいろん 意気に笑いぐさなんかにしたのも、ただ子供のいたずらだと なことを恐れていたけれど、思いきってロへ出すことができ 思 0 てゆるしてくださいまし。あんなばかばかしい、なんのなか 0 たのである ) 足しにもならないようなことを主張したのをゆるしてくださ その晩、公爵がどのくらいいきいきと元気・ついたか、想像
ラがつぶやいた。 からなお嬉しいわ : : : ねえ、公爵、失礼ですが、もしあなた がそういう『考えをいだいて』らっしやるとすれば、なんで「財産 : : : つまり金ですね ? 」と公爵はあきれた。 あたしに幸福を与えようとお思いですの、聞かしてください 「そうですの」 「ばくのところには : : ばくのところには、いま十三万五千 「ばくはまったく、なんとお答えしていいやらわからないんループリあります」と公爵はまっかになってつぶやいた。 です、アグラーヤさん。この場合 : : この場合なんとお答え 「たった ? 」とアグラーヤはあかい顔もせずに、大きな声で したらいいのでしよう ? それ に : : : そんな必要があります露骨な驚きの声を発した。「もっとも、それだけあればまあ かしらん ? 」 まあいいでしよう。ことに経済にやって行きましたらね : 「あなたはどうやらのばせて、息切れがするようですのね。勤めでもなさるおつもり ? 」 すこし休んで元気を回復なさいな。水でもめしあがったらい 「ばくは家庭教師の試験を受けたかったんですが : かが。もっとも、今すぐお茶をさしあげますけど」 「たいへん結構ですわ。むろん、それは非常に家計の助けに 「ばくはあなたを愛しています。アグラーヤさん、非常に愛なりますわ。侍従武官になる気がおありですの ? 」 しています、あなたひとりを愛しています : : : どうぞ冗談を 「侍従武官 ? ばくはそんなことは考えてもみなかったです いわないでくださし 、。ばくは非常にあなたを愛しているのでが、 けれども、このときふたりの姉はとうとうがまんしきれな 「けれど、これは重大なことがらですからね。あたしたちは くなって、ぶっと吹きだした。アデライーダはも、フさきほど 子供ではありませんから、実際的に物ごとを見きわめなくちから、びくびくと引っつるアグラーヤの顔面筋肉に、こらえ ゃなりません : : : おいやでしようが、ひとっ合点のいくようきれない激しい笑いをけんめいに押し殺しているような表情 に説明してくださいな、いったいあなたの財産はどれくらいを認めていた。アグラーヤは笑いこけるふたりの姉を、こわ なのでしよう ? 」 い顔をしてにらんでいたが、自分でも一秒とがまんできなく 「これ、これ、アグラーヤ ! おまえはなんです ? そんな なり、きちがいじみた、ほとんどヒステリッグな哄笑を発し ことはどうだっていいんだよ、そんなことは : : 」とイヴァ た。ついに彼女は飛びあがって、部屋をか、けだしてしまっ 痴ン将軍はおびえたようにロ走った。 「なんてつらよごしだろう ! 」夫人は高い声でつぶやいた。 「わたしははじめつから、あんな笑いよりほかなんにもない 白「気がちがったのよ ! 」と、これも大きな声でアレグサンド だろうと思ったわ ! 」とアデライーダは叫んだ。「はじめつ 学 ) 0 6
「にいさんどうしたの ? まあ、どこへ行くの ? 」と彼女はたのお父さまにぜひお目にかかりたいとぞんじています』っ いった。「おとうさんをいま放したら、方々へ出かけて行って、そういうじゃありませんか。そのロぶりがいやにまじめ て、よけいいやなことをしでかしてよ ! でね、そりやおかしいのよ : : : 」 「いったい何をあそこでしでかしたんだ ? 何をいったん「ひやかしてるんじゃないか ? ひやかしてるんじゃない カ ? 」 「あそこの人も自分で話ができなかったのよ、よくわけがわ「ところが、そうでないんだから、なおおかしいじゃありま からなかったらしいの。ただもう皆びつくりしてしまったんせんか」 でしよう。将軍とこへ行ってみると、留守だったもんだか 「あのひとはおやじのことを知ってるのか、知っていないの ら、リザヴェータ夫人を呼び出したんですって。はじめのう か、おまえど、つ田 5 , っ ? 」 ちはロをさがしてくれ、勤めにつきたいといったそうです「あすこの家でだれも知らないってことは、間違いっこない が、しまいにわたしたちのことを、 うちの人のことだ と思うわ。だけど、にいさんが今わたしにヒントを与えてく の、わたしのことだの、とくべっ兄さんのことを愁訴したんれたのよ。もしかしたら、アグラーヤさんだけ知ってるかも ですって : : : なんだかかだか、いろんなことをいったんでしわからなくってよ。あのひとがひとり知っているというのは よ、つしよ」 ね、あのひとが大まじめで、おとうさんによろしくといった 「おまえ、どんなことだか聞くわけに行かなかったのか とき、ねえさんたちもやはりびつくりしていましたもの。何 い ? 」ガーニヤはヒステリイでもおこしたように、ぶるぶるのためにおとうさんひとりによろしくなんていうんでしょ とからだをふるわした。 う、わけがわからないわ。もしあのひとが知っているとすれ 「どうしてそんなことが ! おとうさんも自分で自分が何をば、それは公爵が教えたのよ」 したか、ろくろくわからないんですもの。それに、あすこで「だれが教えたなんて、そんなこと詮索してなにがおもしろ もすっかりは教えてくれなかったかもしれないわ」 どろばう ! これだけはまさかと田 5 ってた。うちじ ガーニヤは両手で頭をつかんで、窓の方へかけだした。ヴや、家の中にどろばうがいるんだ、しかもそれが「一家のあ アーリヤはいま一方の窓ぎわに腰をおろした。 るじ』なんだからなあ ! 」 痴「アグラーヤさんて妙な人」とっぜん彼女はこういしオ 「まあ、ばかなことおっしや、 し ! 」とヴァーリヤはすっかり た。「急にわたしを引きとめてね、コ」両親にあたしから特別腹を立てて叫んだ。「酔ったまぎれの出来心じゃないの、そ によろしくおっしやってください。あたし近日ちゅうにあなれだけのことだわ ! それに、こんなことを考え出したのは
「きみが今リザヴェータ夫人に会ったんですって ? 」公爵はという名称を用います。それは尊卑と区別を明らかにするた 自分の耳を信じかねてこう訊いた。 めです。なぜと申しまして、純潔で高尚な将軍令嬢と、そし カメリヤ 「いま会って、平手打ちをくらったのです : : : その精神的のて : : : 椿姫とのあいだには、たいへんな相違がありますもの やつをね。奥さんは手紙を突き返されました。封も切らないね ) で、その手紙はという頭字の「おかた』から出たの でたたきつけなすったのです : : : そして、おととい来いと追です : : : 」 ん出されましたよ : : しかし、それもただ精神的にでして、 「どうしてそんなことが ? ナスターシャさんに ? ばかば 肉体的に追ん出されたのではありません : : : もっとも、ほと かしし ! 」と公爵は叫んだ。 んど肉体的といってもいいくらいですが、いますこしという 「あるのです、あるのです。しかし、あのひとにあてたのじ ところでした」 ゃなくって、ラゴ・ージンです。ラゴージンにあてたも同じこ 「どんな手紙を奥さんが、たたきつけなすったんです、封もとです。一度なぞは、イツポリートにあてたのさえありまし 切らないで ? 」 た。その、ことづけのためにね、という頭字のおかたか 「おや、ほんとうに・ : へへへ ! じゃ、まだあなたにお話ら」とレーベジェフは目をばちりとさして、薄笑いを浮かべ ししなかったのですね ! わたくしはもうお話ししたことだ と思ってました : : じつは手紙を一通ことづかってるのです この男はよく一つの話題から別な話題へひょいひょい飛ん で行って、話のまくらがどうだったか忘れてしまうたちなの 「だれから ? だれにあてて ? 」 で、公爵はいうだけいわせてみようと思って、黙って控えて しかし、レーベジェフの説明はおそろしくごたごたしてい いた。しかし、そんな手紙がじっさいあったとすれば、はこ て、そこからなにかすこしでも汲み取ろうというのは、きわして彼の手を通って行ったのか、ヴェーラの手を通って行っ めて困難なことであった。けれど、公爵はいろいろとできるたのか、そのへんのところがどうもはっきりしない。とはい だけ想像して、その手紙はけさヴェーラが女中の手を通しえ、彼が自分の口から、「ラゴージンにあてるのは、ナスタ て、宛名の人に渡してほしいという依頼とともに受け取った ーシャにあてるのと同様だ』といいきった以上、手紙は彼の これだけの意味が判じられた。 手を通ったものでない、とみたはうが確かである。ところ 痴「前と同じようです・・ : ・・前と同じように、例のおかたから、 で、どういうふうでこの手紙がいま彼の手に落ちたか、そこ 例の人物にお出しなすったので : : : ( わたくしはあのふたり はまったく合点がいかなかった。おそらく彼がどうかしてヴ 白のうち、ひとりにはおかた』、いまひとりにはただ「人物』エーラの手から盗み取って : : : そっと取り出して、なにかあ
察しのとおりですの。ほんとに感謝しますわ。もしかしたえをろくな目に会わしやしないよ」 ら、あたしはあなたのところへ行くかもしれません、それも ポリーナはばっと赤くなった。わたしは思わずびくりとし 近いうちにそうするかもしれないほどですわ、まったくのと た。 ( みんな知ってる ! してみると、おれひとりだけがな ころ。でも、今はある事情が : : : しかも、重大な事情でござんにも知らないんだ ! ) いまして、今すぐという決心がつけられませんの。もしお祖 「まあま、そんなに顔をしかめなさんな。あまりしつこくは 母さまが、せめて二週間も滞在なさるようでしたら : : : 」 いやしないから。ただ気をおつけ、悪いことにならないよう 「つまり、いやなんだね ? 」 にね。わかったかえ ? おまえさんは利ロな子なんだから。 「つまり、できないんでございます。それに、どちらにした さもないと、おまえがかわいそうになってくるから。さあ、 って、あたしは弟と妹をうっちゃってはまいれませんの。と もうたくさん、おまえたちの顔なんか、だれのだって見たく : レ」い , つのは・ い , つのは・ : というのは、ほんとうのとこないんだよ ! さあ、お行き、さよなら ! 」 ろ、あの子たちはだれも構い手がないような身の上になるか 「あたしは、お祖母さま、まだお見送りしますわ」とポリ もしれないんですもの : : : その時は、もしあの小さいものとナはいった。 っしょにあたしを引き取ってくだされば、もちろんお祖母「いらないよ、じゃましないでおくれ。それに、おまえさん さまのところへまいりますわ。そして、誓って申しますが、 たちにはもうあきあきしたよ」 ポリーナはお祖母さんの手に接吻したが、こちらはその手 必すそのご恩返しはいたします ! 」と彼女は熱心につけ加え た。「子供をつれすには行かれませんわ、お祖母さま」 を振り離し、自分のほうからポリーナのほおに接吻した。 「ふん、泣きごとをいいなさんな ! ( ポリーナは泣きごとな わたしのそばをとおりぬけながら、ポリーナはちらとわた ぞいおうとも思っていなかった。それに、、 カって泣きごとをしのほうを見て、すぐ目をそらした。 いったことがなかった ) あんなひなっ子どもにも、居場所「じゃ、アレクセイ・イヴァーノヴィッチ、あんたにもさよ はできるよ、大した鶏小屋はいりやしない。それに、あの子うならをいっておこう。出発までもう一時間しかありやしな らも学校へあがるころだからね。じゃ、今度は行かないんだ それに、おまえさんもわたしの世話でくたびれたたろう ね ? いいかえ、プラスコーヴィヤ、気をおつけ ! わたしよ。さあ、この金貨を五十枚とってお置き」 はおまえのためよかれと思ったのに。なぜおまえさんが行か 「ありがと , っ・こざいます、お祖母さん、しかしど、つも気がさ ないのか、そのわけは知ってるよ ! だって、わたしや知っして : : : 」 てるんだもの、プラスコーヴィャ。あのフランスつばはおま 「さあ、さあ ! 」とお祖母さんは叫んだ。しかも、声を激ま 4 ノ 6
「どうして達するかですって ? ばくはあなたに奴隷として 「なんとでもお好きなように考えてちょうだい」と彼女は答 ・一うべ でなく、別様の目で見てもらいたい、それをいかなる方法で え、傲然と頭を反らした。 「奴隷的理論はがまんできないくせに、奴隷的屈従を要求な達成するかという問題ですが、あなたはそれさえおわかりに さるんですね。『すなおに返答すればいいんだ、理屈をこねならないんですか ! さあ、それがばくいやなんですよ、そ うしたさもおどろいたような、合点がいかぬといったような るんじゃない ! 』ってわけですね。よろしい、そういうこと にしましよう。いったいなぜお金がいるのかとおききになる顔つきが ! 」 「あなたは、その奴隷的屈従が快楽だとおっしやったじゃあ んですね ? なぜもくそもありません ! 金はいっさいじゃ ありませんか ! 」 りませんか。あたし自分でもそう思っていましたわ」 しか、らっ 「あなたもそう思っていられるんですって ! 」とわたしは一 「そりやわかっててよ。でも、いくらお金がほし、 て、そんなきちがいめいたところまで落ち込むことはありま種奇怪な快感を覚えながら叫んだ。「ああ、あなたからそう せんわ ! だって、あなたは夢中になるほど、宿命論になる いう素朴さを見せてもらうのは、じつにうれしいですねえー いや、そうですとも、そうですとも、ばくにとっては、あな ほど深入りしてらっしやるんですもの。そこには何か日くが たから奴隷扱いされるのが快楽なのです。たしかに、たしか あるわ、何か特別な目的があるんだわ。まわりくどいことは 抜きにして、きれいさつばりといっておしまいなさい、あた 、屈辱と卑下のどんづまりに快感がありますよ ! 」とわた しそうしてほしいの」 しはうわ一言をつづけた。「なあに、その快感はむちの中にあ 彼女はどうやら腹を立ててきたらしい。彼女がこんな具合るかもしれやしない、むちが背中に食い込んで、肉をずたす たに弓きちぎるときにね : : : しかし、ばくはもしかしたら、 にむっとした様子で詰問するのが、わたしはたまらないほど 好きなのであった。 まだ別の快感を望んでいるかもしれませんよ。さっき将軍は 「もちろん、目的がありますとも」とわたしはいった。「し食事の時、あなたのいる前で、きみはまだ年七百ループリの かし、それが果してなにかってことは、ばくにはうまく説明俸給さえわしからもらえないかもわからないんだぞといっ グリエ侯爵は眉を ができないです。つまり、金があれば、ばくはあなたに取って、一場の教訓を授けてくださった。ド・ ても奴隷ではなく、別個の人間になる。ただそれだけのこつ上げて、ばくの顔をじろじろ見たが、それと同時に、ばくの てすよ」 存在を無視していたものです。ところが、ばくはばくで、あ ・グリエ侯爵の鼻をつまん なたを目の前にすえておいて、 「まあ ? どうしてあなたは、その目的をお達しになるつも でやりたくてたまらなかった ! 」 349
将軍は立ちどまって振り返り、片手をさし伸べながら叫んは、あまり長くつづかなかった。将軍も種類こそ違え、やは田 りあまりにも「間歇的』すぎる人間であった。彼は通常、家 庭内の悔いに満ちた無為の生活に堪えきれなくなり、ついし 「この家はわしののろいを受けるんだそ ! 」 「なんでもせりふじみなくちゃ承知しないんだ ! 」がたんとは謀叛に走ってしまうのであった。狂憤に襲われると同時 窓の戸をしめながら、ガーニヤはつぶやいた。 に、自分でも悪いこととは知りながら、やはり押しこらえる ことができなかった。口論をはじめる、大ぎような調子でと 近所の人はほんとうにこの騒ぎを聞きつけた。ヴァーリヤ うとうと弁じ立てる、無理なぐらい無限の尊敬を要求する。 は部屋をかけだした。 妹が出たとき、ガーニヤはテープルから手紙を取り上げそして、とどのつまりは、家からどろんを決めこむのだ。と て、ちょっと接吻して舌を鳴らし、とんと跳躍をするのできによると、長いあいだ帰って来ないこともあった。最近二 あった。 年間、彼は家庭内のことがらについては、。 こく概括的に聞き かじるくらいのもので、けっして詳しく立ち入って聞こうと 3 しなかった。そんなことは自分の任でないのを、よく承知し ていたので。 将軍の乱痴気さわぎも平生ならば、別段なんのこともなし しかし、今度ばかりは『将軍の乱痴気騒ぎ』の中に、よに にしりがついたかもしれない。以前とても、この種のばか騷 かしらひと通りでないところがあった。みんな何かあるもの ぎがとっぜんもちあがることもあったが、そんなことはきわを承知していながら、それを口にするのを恐れているような めてまれであった。なぜなら、総じて彼はおとなしい、ほと具合であった。将軍はつい三日まえ『正式に』自分の家庭 んど善良といっていいくらいの気質だったからである。彼はヘ、つまりニーナ夫人のもとへ出頭したばかりである。しか 晩年にいたって、自分を征服しはじめた不規律と、いくど戦し、いつもの「出頭』のときのように、あきらめて後悔した ったかしれぬほどである。とっぜん自分が「一家のあるじ』色は見えないで、おそろしくいらいらしていた。彼はやたら であるということを思い出し、妻と仲直りして心から涙を流にそわそわして、ロ数が多く、行き会う人ごとに、熱した噛 しかしその話題がまちま すこともあった。彼はニーナがつねに無言で自分を許してくみつくような調子で話しかけたが、 れるのみか、自分が零落して道化者のようになっても、なおちで、しかもとっぴなので、いったいどうしてそんな気にな 変わりなく愛してくれるので、ほとんど崇拝ともいうべき敬るのか、合点がいかないくらいであった。ときどき急にはし 意を表していた。しかし、このりつばな「不規律』との戦やぎだすが、どちらかというと、考えこんでいるほうが多か アントラシャー