た ! ねえ、どうでしよう、ばくの見るところでは、将車は 園の噴水のほうへと足を向けた。 しかし、わたしはかくべっ興奮していたので、いきなりぶ首ったけほれ込んじまってるから、もしプランシュ嬢に捨て つつけに、ばかげた無作法な質問をたたきつけた。「なぜあられたら、おそらくビストル自殺くらいやりますよ。あの年 のド・グリエ侯爵 ( フランス人先生 ) は、今あなたが外へ出で、ああいうほれ方をするのは危険ですからね」 「あたしもやつばり、何か事が起りそうな気がしてなりませ るというのに、ついて来ないばかりか、この二三日、まるつ んの」とポリーナは物田 5 わしげに、つこ。 きりあなたと口さえきこうとしないのです ? 」 「しかし、どうも結構なこってすね」とわたしは叫んだ。「あ 「それは、あの人が卑劣な人間だからです」と彼女は奇怪な の女がただ金のためのみに結婚を承諾したってことを証明 返答をした。 グリエをこんなふうに評した言するのに、それ以上無作法な方法はないでしよう ! そこに 今まで彼女の口から、ド・ は世間並みの体面というものさえ守られていないんですから 葉を聞いたことがないので、わたしはこうしたいらだたしさ と一 ね、体裁も何もあったものじゃない。たいしたものだー の原囚を突きとめるのを恐れて、黙っていた。 ころで、お祖母さんのほうですね、あとからあとからと電報 「あなた気がおっきになりましたか、あの男が今日、将軍と をうって、まだ死なないかときくなんて、これ以上こつけい イたがいしてるようなのに ? 」 「あなた、それがどういうわけか知りたいんでしよう」と彼な、これ以上けがらわしい話がまたとあるでしようか ? え、いかがです、ポリーナ・アレグサンドロヴナ ? 」 女はそっけないかんの立った声で答えた。「あなただってご ありったけ 「そんなこと、みんなつまらない話ですわ」と彼女はわたし ぞんじでしよう、将軍が何もかもすっかり、 をさえぎって、忌まわしげにこういった。「あたしそれよ の領地をあの人に担保に入れてるってことは。だから、もし か、かえって、あなたがそんなに大浮かれに浮かれてらっし お祖母さんが死ななかったら、あのフランス人は担保に取っ やるのが、不思議なくらいよ。いったい何が嬉しいんです たものを、さっそく残らずわがものにしてしまいますわ」 「ああ、それじややつばりほんとうなんですね、全部担保にの ? まさかあたしの金を勝負ですってしまったからじゃな はいってるってことは ? ばくもうす、フす聞いてはいたけれいでしよ、フ ? 」 「じゃ、なぜばくに任せてすらしたんです ? ばくはちゃん ど、全部なにもかもってことは知らなかった」 「でなくってどうします ? 」 とそういったじゃありませんか、人のために勝負をすること はできないって、ましてあなたのためにはなおさらです ! 「そうなると、プランシュ嬢はおさらばですね」とわたしは ばくはあなたから何を命令されても服従しますが、ただ結果 いった。「そうなると、あのひとは将軍夫人になりつこなし
る ( 一特質 ) 。 発する前酔っぱらったまぎれに結婚させられたのである ( そ それから、妻帯しているといって叔父を揶揄する。 の後判明したところによれば、彼は同情の念から結婚したの ( 叔父は妻とウメーッカヤに。 ) 彼は彼らのもとを去ってとで、彼は彼らを養っていたとのこと ) 。 つじよあたかも鎖を切って暴れだしたもののように、将軍、 だれひとりとして、最後まで、彼に妻があることを知らす 女主人公のはうへ飛んで行く、彼は女主人公を愛していな にいる。彼は嫡子。 しかしなんとなく : : すべての人を掌握し、すべての人彼がペテルプルグからスイスへ出かけたのは、コスチェン を征服し、すべての人に復讐すること ( なんのためかは不キーヌイチが幸便に託したのである。叔父は留守であった。 明 ) 。 ( 彼は私生児 ) 。 彼は妻のために立身を妨げられたと思っている。しかし彼 彼は女主人公が逃げだすようにし向ける。妻は女主人公おは妻をいじめるのが快いのだ。 よびウメーッカヤのもとに。彼は公然と女主人公を恋し、彼は自尊心のためにすべての人を恐れている。彼は第一流 に譲る。 ( なんとなく奇怪 ) の地位を欲する。叔父からはもらおうとしない。 それとも、ー・ーー彼の妻のことはだれにも知られて いない、女主人公も叔父も兄も知らない。 もう最後に近くな 女主人公は絶えず冷笑と媚態で彼をかきむしる。自 ってウメーッカヤが叔父にうち明ける。 分でもそれと知らず、計画的に息子を愛している。ようやく 重要なこと。すべての人を自己に屈服させること、 初最近になってとつじよ彼に向って、あなたを愛していますと め兄と叔父を ( 妻には暴君のごとく振舞う、ウメーッカヤに うち明ける。 も ) 、後に将軍夫妻を、それから女主人公を。 ( 二一ページ ) 彼は女主人公を追い払って、その嘲笑と、彼女が自分のも のとなり得なかったことに対して復讐する。彼は彼女が自分 白痴、息子に、なぜ自分が白痴と呼ばれるようになったかを愛し得るなどと信じていない。 を物語る。若いころ病気したのである。「ウメーツキイの家彼は自分の容貌風姿を恐ろしいもののように考えている、 の人たちが始終手紙で、ばくのことを白痴だといってやつで、人があなたはむしろ奸男子です、気持ちのいい顔をして 一て、治療代を絞り取っていたのです。あのころのばくのよう いるといってもほんと、つにしない。 作に叔父にうるさくつきまとったものはかってほかにないでし スイスにはただ二年間だけ。 よう」彼は様子を知るために人を送ると約束したが、自身親妻を抱擁して接吻し、おのれの悩みをうち明けるが、やが 白しく取調べもしなければ人を送りもしなか 0 た。スイスへ出て突き放して、なぜ自分は女主人公を愛するのか、と彼女を
しまった。夫人は夫や娘たちが言葉をつくしてとめるのも聞れていた。イヴァン将軍はおそろしく心配そうに顔をしかめ かないで、猶予なくアグラーヤを迎えにやった。それは娘にているし、姉たちはまじめな様子で、申し合わせたように黙 ぎりぎり結着の質問を発して、明瞭なぎりぎり結着の返事をりこんでいた。とうとう夫人は出しぬけに、勢い猛に鉄道の 聞くためであった。『こんなことは一時にすっかり片づけて不備をののしって、挑むような断固たる態度で公爵を見やっ しまって、肩を抜かなくちゃならない、そして以後おくびに も出さないようにしてもらうんです ! そうでないと、わた 悲しいかな ! アグラーヤは出て来なかった。で、公爵は しは晩までも生きちゃいられません ! 』と夫人はいった。こ身の置き場がないような気がした。彼はすっかり狼狽してし のときはじめて人々は、事件がわけのわからないほどめちゃまって、やっと呂律をまわしながら、鉄道の修理は非常に有 めちゃになってしまったことを悟ったのである。しかし、わ益なことだという意見を述べかけたが、いきなりアデライー ざとらしい驚きと、公爵をはじめ、そんなことをたずねるすダがふきだしたので、公爵はまた面目をつぶしてしまった。 こんなもののほか、な この瞬間アグラーヤがはいって来た。落ちつき払って、ぎよ べての人々に対するあざけりと、 にひとつアグラーヤから絞り取ることができなかった。リザうさんなうやうやしい会釈を公爵にしたのち、丸テープルの ヴェータ夫人は床についた。そして、公爵の訪ねて来る時刻そばのいちばん目につく場所へ、揚々と腰をおろした。彼女 はいぶかしげに公爵を見やった。一同は、ついにあらゆる疑 やっと茶のテープルへ出たばかりである。彼女はじりじ りしながら、公爵を待ち構えていたので、彼がやって来たと惑の氷解すべき時が来たのを悟った。 き、夫人はほとんどヒステリーをおこさんばかりのありさま 「あなたあたしの針鼠を受け取って ? 」しつかりした、ほと んど腹立たしげな調子で、彼女はたずねた。 公爵自身もおずおずと、手探りでもするような恰好で入っ 「受け取りました」と公爵はまっかになって、はらはらしな て来た。奇妙な徹笑を浮かべながら、一同の顔色をうかがう がら答えた。 「このことについてどうお考えですか、すぐここで説明して 様子は、何か質問でも発しているようであった。それは、ア くださいませんか。これはおかあさんはじめ、家族ぜんたい グラーヤがまたしても部屋にいないのを見て、入って来るや いなやぎくりとしたのである。その晩、他人はひとりもまじの心を安めるために必要なことですから」 「これ、アグラーヤ : : : 」と将軍は急に心配しはじめた。 痴らないで、一家水入らずであった。公爵は、エヴゲーニイ のことでまだペテルプルグにいた。「せめてあの人でもいて「それは、それは常軌をはずれてるというものです ! 」と、 くれたら、何か意見があろうに』と夫人はこの人を待ちこが夫人は急になにやらぎよっとしたように叫んだ。 ろれつ
ジェフは熱くなっておさえた。「わたくしは衷心からあの人の前で取り出しますよ。ほら、これです。金もこれ、そっく田 を愛しております。そして : : : 尊敬しております。ところりここにあります。どうぞこいつをあすまでお預りくださ あすかあさって頂戴します。ところで、公爵、この金 で、今となって見ると、あなたがほんとうにされようと、さ れまいとご勝手ですが、前よりいっそうわたくしにとって大が盗まれた最初の晩、うちの庭の石の下かなにかに隠されて いたらしいんですが、あなたどうお思いでござります ? 」 事な人になりましたんで、わたくしはなおいっそうあの人を 「いいですか、あの人に紙入れが出たなんて、むきつけに、 尊敬するようになりました ! 」 レーベジェフがこういったときの調子は、あくまでまじめっちゃいけませんよ。ただもうあの人が服の裾に何もないの を見て、ひとりで悟るように仕向けたらいいんですよ」 で殊勝らしいので、公爵はとうとう憤慨してしまった。 「そ、つでしよ、つかね ? ・ いっそ見つけたといって、今まで気 「愛してるくせに苦しめるんですか ! まあ、考えてもごら がっかなかったようなふりをしたはうがよくないでしようか んなさい、あの人がその紛失品をきみのフロッグの中や、 すの下に置いて、きみの目につくようにしたということ一つねえ ? 」 しや、もう遅 い、いや」と公爵はちょっと考えて、「、、、 だけで、きみに対してけっしてずるいことをしない、正直に 、ですか、あ 、それは危険です、まったくいわないほうがいいんです あやまるという意味を知らせてるんですよ。いし やまるといってるんですよ ! つまり、あの人はきみの優しょ ! そして、あの人には優しくしておあげなさい、 : あまり目立つようにしちゃだめですよ、それに、それに い感情を当てにしてるんです。つまり、きみのあの人に対す ・わかってるでしよう : る友情を当てにしてるんです。ところが、きみはあんな : 「わかっております、公爵、わかっております。というのは 潔白このうえない人に、そういう侮辱を与えるなんて ! 」 「潔白このうえない人ですって、公爵、潔白このうえない人っまり、実行おばっかないということがわかっていますの ですって ? 」とレーベジェフは目を光らせながら叫んだ。「そで。なぜって、そうするには、あなたのような心を持ってな くちゃだめですものね。それに、当のあの人からして、かん ういう正義の言葉を発しうるのは、とりもなおさず、ご前さ ま、あなたひとりでございます ! そのために、いろんな悪しやく持ちのむら気ですので、ときどきあまりなと思うほど 行に心の腐ったわたくしでありますけれど、崇拝といってい横柄な仕打ちを見せなさる。あの人は涙つばいことをいっ ひと いくらい、あなたに信服しておるのでござります ! じゃ、 て、抱きついたりなぞするかと思うと、急に私をばかにし もう決りました ! 紙入れはあすといわず、今すぐこの場でて、こっぴどくからかいだすのです。ですから、わたくしも さがし出すことにしましよう。さあこのとおり、あなたの目そんなとき、なにくそという気になって、わざと服の裾をひ
ん、ということを悟りましたので : : : しかし、わたくしは怒ませんよ。ばくはきみの、いや、たんにきみばかりじゃあり ませんが、無邪気なのに驚いてるんですよー きみがたは恐 りはしません。ただ悲しいことに思っています」 ろしい無邪気な心持ちで、なにかしらばくから期待してるん 「レーベジェフ君、まあ、何をいうんです ? 」 「それに相違ありません ! 今もそうでした ! あなたと顔でしよう。ところが、ばくにはきみがたの好奇心を満足させ を合わしたり、また心と頭とであなたの一挙一動を注意してるようなものがなにひとつないので、きみがたに対して間の いるうちにも、いつもひとりで考えるのでした。自分は親友悪い、恥すかしい気持ちがするくらいですよ。誓っていいま として、いろんなことをうち明けていただく値うちはないもすが、ばくの身の上にはけっして変わったことはありませ のの、家主という資格で相当の時期に、予期している時分ん、ほんとうですよ ! 」 に、まあ、その : : : 命令といいますか、うち合わせといいま 公爵はまたもや笑いだした。 すか、そんなことをいろいろ聞かしていただけるものと思っ レー・ヘジェフは急に気取ってしまった。彼がときどき無邪 ておりました。なにぶんあれやこれやの事情が変わる時が、気な、というより、むしろうるさいはど好奇を出すのは事 実であるが、同時に彼はかなり狡猾なひねくれた男で、どう もうまぢかに迫っていますので : : : 」 こういってレーベジェフは、驚いて自分のほうをながめてかするとすっかり黙りこんで、底意地わるく思われる場合さ 彼よえあった。そのために、、 いる公爵を、小さな鋭い目で食い入るように見つめた。 , し しつもいつもこの男の好意をはねっ まだやはり好奇心を満足さすことができると、一縷の希望をけてばかりいた公爵は、ほとんど彼を敵にしてしまったので いだいていたのである。 ある。けれども、公爵がはねつけるのは軽蔑のためではな く、彼の好奇心の対象があまりに微妙だからである。公爵は 「何が何やらさつばりわけがわかりませんね」公爵はあやう : きみはあき く怒り出さんばかりに叫んだ。「ほんとうに : つい三、四日まえまで、自分の空想をほとんど罪悪のように れ果てた策士ですね ! 」と彼はいい、いきなり真心から出た観じていたくらいである。しかし、レーベジェフは、公爵が ような笑いかたで吹きだした。 はねつけたのを自分に対する個人的嫌悪と不信のように解釈 レーベジェフも同時にからからと笑った。そして、その急して、つねに毒念をもって公爵のもとを去るのであった。そ に輝かしくなった目つきは、自分の希望が明らかにされたのして、公爵との関係から、コ ーリヤやケルレルのみならず、 みならず、なお一倍たしかめられたことを語るかのようであ自分の親身の娘ヴェーラにさえ嫉妬を感ずるのであった。こ っ ) 0 のときも彼は公爵にとって、きわめて興味ある報知を伝える 「お聞きなさい、 じつはね、レーベジェフ君、怒っちゃいけ こともできたし、またそれを望んでいたのだが、ついに、カ
「あたしはね」しつかりした声で、一語一語、明瞭に彼女は : それほど自分の虚栄心を愛してらっしやるあなたに、公 きりだした。「あなたにどんな権利があって、あたしに対す爵を愛することができましたか ? あんなばかばかしい手紙 る公爵の感情に干渉なさるのか、それがききたいのです。どを書く暇に、なぜきれいにここを立ってしまわなかったので んな権利があって、大胆にもあたしに手紙をよこしました ? す ? またあんなにまであなたを慕って、あなたに求婚の名 どんな権利があって、あなたがこの人を愛してるってこと誉を与えたりつばな青年と、どうして結婚しようとなさらな を、わたしやこの人にうるさく広告なさるんです ? あなた いんです ? その理由はあまりに明々白々です。もしラゴー は自分でこの人を棄てたのじゃありませんか。そして、ひどジンさんと結婚すれば、汚辱などはすこしも残らないからで い侮辱と : : : 汚名を浴びながら、逃げだしたじゃありませんす。かえってあなたの得る名誉が多すぎるからです ! あな たのことをエヴゲーニィさんがそういいました、「あなたは 「あたしが公爵を愛してるなんて、ご当人にもあなたにも広あまりたくさん詩を読みすぎたものだから、あなたの : : : 身 告したことなんかありません」やっとの思いでナスターシャ分としてはあまり教育がありすぎる』、あなたは小説の女で、 はこういった。「けども、わたしがこの人を棄てて逃げだし有閑婦人ですって。これにあなたの虚栄心を加えると、理由 たのは : : : あなたのおっしやるとおりですわ : : : 」やっと聞 がすっかりそろうわけです : : : 」 こえるぐらいの声でいい足した。 「じゃ、あなたは有閑婦人でないんですね」 「どうして『ご当人にもわたしにも』広告したことなんかな事件はあまり急激に、あまり露骨に、こうした思いがーオ いのです ? 」とアグラーヤは叫んだ。「じゃ、あなたの手紙 しところまで行き着いてしまった。まことに思いがけないこ はいったいなんですの ? だれがわたしたちの仲人役を買っ とである。なぜなら、ナスターシャはこのパーヴロフスクへ て出て、この人と結婚しろとあたしに勧めたんです ? それ来る途中、むろん、いいことよりむしろ悪いことを予想して が広告でないでしようか ? 何のためにあたしたちのあいだ 。したが、それでもまだなにか、別なことを空想していたカ へ割りこんでくるのです ? あたしは、はじめのうち反対に らである。アグラーヤにいたっては、もう一瞬のあいだに憤 こう考えたのです。『あのひとはかえってあんな干渉をし 怒の浪にさらわれて、まるで坂からころがり落ちるように、 て、公爵に対する嫌悪の種を蒔いて、公爵を棄てさせようと恐ろしい復讐の快感の前にみすからを制することができなか いうのじゃあるまいか』ところが、のちになって、そのわけ た。こうしたアグラーヤを見るのは、ナスターシャにとっ がわかりました。あなたはそのいやらしいやり口でもって、 てむしろ不思議なくらいであった。彼女は相手を見つめなが 白なにかたいした手柄でもしてるような気がしたんでしよう らも、われとわが目を信じかねるような風情であった。最初
の風采はふるったもんでしたからね。とにかく、顔じゅうま若い令嬢のご機嫌をとるのも、なかなか骨の折れるもんです つかになって、一秒間に片をつけてしまいました。しかも、 ね。ばくはきようあのかたから頬打ちを頂戴しました ! 」 それがおそろしくこつけいなやり口なんですよ。ちょっと立「精 : : : 精神的のですか ? 」なぜか公爵はわれともなしに、 ちあがって、ガーニヤのム K 釈とヴァー 丿ヤの取入るような徴こんな問を発した。 笑に返しをすると、急に断ち切るような調子で、『あたしは 「ええ、肉体的のものじゃありません。どんな人だって、ば ただあなたがたの誠意ある友情に対して、自分からお礼を申くみたいな人間に、手を振り上げるようなことはしないでし したいと思いましたのでね。もしあなたがたの友情を必要と よう。今は女でもばくをなぐりやしません。ガーニヤさえな することがありましたら、そのときはあたしを信じてくださ ぐりません。もっともきのうなそは、あの男がばくに飛びか い、かならず : : : 』といって会釈しました。で、ふたりは帰 かりやしないかと、ちょっとのま考えたんですがね : : : 今あ っちまいました。ばかをみたと田 5 ったか、勝ち誇ったような なたが何を思ってらっしやるか、ばくちゃんと知ってますよ、 気になったか、そこのところはわかりません。ガーニヤはむ請け合ってもいいくらいです。今あなたは『よしこの男をな ろんばかをみたと思ったのですよ。まるで狐につままれたよぐる必要はないとしても、そのかわり寝てるところを、まく うなふうで、えびみたいにまっかになっていました ( ときどらかぬれ雑巾で窒息させることはできる、 いや、できる きあの男は驚くべき表情をすることがありますからね ! ) 。 どころじゃない、ぜひそうする必要がある』と当えてるんで しかし、ヴァーリヤはすこしも早く逃げだすにしくはない、 しよう : : : あなたの顔にちゃんと書いてありますよ、今、こ いくらアグラーヤでも、これはあんまりだと悟ったらしく、 の瞬間そう思ってらっしやることがね」 兄貴をしよっぴいて行っちまいました。あの女は兄貴より利 「そんなことけっして考えたことありません ! 」と公爵は嫌 ロですよ。で、いま大いに得意なんだとばくは信じますね。 悪の色を浮かべていった。 ところで、ばくがそこへ行ったのは、ナスターシャさんとの 「どうですかね、しかしばくゆうべ夢に見ました。ばくをぬ 会見について、アグラーヤさんと相談するためだったのです」れ雑巾で圧し殺したやつがあるんですよ : : : あるひとりの男 「ナスターシャさんと ! 」公爵は叫んだ。 がね : : : え、だれだかいいましようか、だれだと思います 「ああ ! やっとあなたは冷静な態度を棄てて、そろそろび ラゴージンなんですよ ! あなたどうお思いです、いっ つくりしだしましたね。そうして、人間らしくなりたいとい オい人間をぬれ雑巾で殺せるでしようか ? 」 う気が出たのは、なにより結構なことです。ごほうびに、ひ「知りません」 とつあなたを喜ばしてあげましよう。ところで、人格の高い 「できるそ、つですよ。しかし、まあいい、よしましよう。で 110
痴 そうにいい出した。「ばくが渡してあげましよう」 めに無名の手紙を書いて : : : あんな人の好いりつばな婦人に 、っそ、あの 「一 - も、い っそ、いっそ、ねえ、公爵さま、し 心配をかけたんです ? またなぜアグラーヤさんにしても、 : なにしたほうが : だれであろうと、自分のすきな人に手紙を書く権利を持って レーベジェフは奇妙な哀願するようなふうに顔をしかめないのです ? いったいきみはなんですか、告げロでもする つもりで、きようあすこへ出かけたんですか ? どんなとく た。そして、まるで針かなにかで刺されてでもいるように、 急にそわそわと動きだした。彼はわるごすそうに、目をばちがあると思ったんです ? なんだってそんな告げ口をする了 ばちさせながら、手でなにか仕方をして見せるのであった。簡になったんです ? 」 「なんです ? 」と公爵はこわい顔をしてきいた。 「それはただただ悪気のない好奇心と : : : 高潔な心の忠義立 ーし ! 」とレー・ヘジェフはおずおずと 「先まわりをして、あけてみたらどうです ! 」と感動をこめてから出たことです、ま、 いった。「今からは、もうすっかりあなたのものです、また たなれなれしい様子で、彼はこうささやいた。 もとのとおりにすっかり : : たとえ絞り首になりまして と、公爵はいきなりすさまじい剣幕で、おどりあがった。 レーベジェフは一目散にかけだそうとしたが、一尸口まで行っ たとき、もうおゆるしが出はしないかと待ちうけて、立ちど「きみは今のような恰好をして、リザヴェータ夫人のところ まった。 へ出かけたんですか ? 」と公爵は嫌悪の念を感じながら、ち よっとこんなことをきいてみた。 「ええ、レーベジェフ君、いったいどうしたらきみのよう いいえ : : : もっとすっきりした : に、そんな卑劣な、だらしのない気持ちになれるんです ? 」 : もっと作・法にかよっこ と公爵は愁わしげに叫んだ。 様子でした。こんな : : : 恰好になったのは、恥すかしい目に レーベジェフの顔色は急にはればれしくなった。 あったあとです」 、、まくにはかまわないでください」 「卑劣です、卑劣です ! 」われとわが胸をたたいて、目に涙「まあ、よろしし を浮かべつつ、すぐに彼はそばへ寄って来た。 しかし、『客』がやっと思いきって出て行くまでに、いく 「じつにけがらわしいことです ! 」 度となくこの頼みをくりかえさなければならなかった。もう 「まったくけがらわしいことで。一語でつくしていますー」すっかり戸をあけ放しておきながら、また引っ返して、抜き 「ほんとうになんという癖でしようね、そんな : : : 妙なこと足で部屋の真ん中へやって来ては、また手紙をあけてみろと ばかりしでかすなんて ! だって、きみは : : なんのことは いう手つきをするのであった。けれど、さすがにこれを口に 白ない、ていのいいスパイじゃありませんか ! きみは何のた出して勧める勇気はなかった。それから、静かな愛思のいい 9
てがあってリザヴェータ夫人のところへ持って行った、と想えのようなものにことづけたのなら、勝手に先方へ届けるが : とおっしゃいましてね、たいそうご立腹なされま 像するのがいちばん正確らしい。こう考えて、公爵はやっと した。だって、わたくしのようなものに、恥ずかしくもな 入口点がいた そんなことをおっしやったとすれば、つまり、ご立腹な 「きみは気でもちがったんですか ? 」彼はすっかり動顧してい、 すったに相違ございますまい。まったく短気なご気性です しまって、こう叫んだ。 「まんざらそうでもございません、公爵さま」とレー・ヘジェ 「いったいその手紙は今どこにあるんです ? 」 フはいくぶんむっとしたふうで答えた、「まったくのところ、 わたくしはよっぱど、あなたに、その忠義だてのために、お「やつばりわたくしが持っております、これ」 とアグラーヤがガーニヤにあてた手紙を、公爵に手渡しし 手渡ししようかと思いましたが : : : それよりか、おかあさま た。これこそガーニヤが二時間ばかりたったのち、大いばり に忠勤をはげんで、事情をすっかりお話ししたほうがいし と思い直したのです : : : なぜと申して、前にも一度無名の手で妹に見せた手紙なのである。 「この手紙は、きみの手もとに置くべきものじゃありませ 紙でお知らせしたことがあるんですものね。で、さきほども 紙の切れつばしに、八時二十分にご面談を願いたいと、前もん」 「あなたに、あなたにさしあげます ! あなたに贈呈いたし ってご都合うかがいの手紙を書いたときも、やはり气あなた の秘密の通信者より』と署名しましたので、すると、すぐ猶ます」とこちらはのばせたような調子で、すぐ引き取った。 「これからまたわたくしはあなたのものでございます、から 予なしに、おそろしく性急に、裏口から通してくださいまし だじゅう。ーー頭から心臟まで、すっかりあなたのものでござ た : : : おかあさまのお部屋へね」 います。ちょっと謀叛気をおこしましたが、もう今度こそあ なたの奴隷でございます ! どうそ心臟を罰して、髯を容放 「その次はもうわかりきった話です、あやうくなぐりつけ ールスのいった文句で してくださりませ。これはトマス・モ られるところでした。ほんのいますこしの瀬一尸ぎわでした。 つまり、その、ほんとうになぐりつけられたといっていいくす・・ : : あのイギリスの、大ブリテンのね。ン一 3 。 u 一を . mea ームスカヤ・ culpa ( わが罪なり、わが罪なり ) これはローマ法王のいったこ らいで。そして、手紙をたたきつけなすったので。もっと ームスキイ・ となので : : : ほんとうはそのローマ法王 : : : ですが、わたく も、ご自分の手もとへ残して置きたかったのですが ( それは リームスカヤ・′ ームスキイは露語で男性現わ ) と申します」 わたくしにもわかりました、ちゃんと気がっきました ) 、ししはローマ法王 ( リ 「この手紙は今すぐ渡さなくちゃなりません」と公爵は心配 かしまた思い返して、たたきつけられたのです。もしおま
「そうなんだよ、きみは不幸な男だ、あのひとは、きみを愛 ね。そのことはきっともうミス・ポリーナに知れているでし していたのさ。このことをわたしはうち明けたっていいと思 ようよ。だって、あのひとはいい警察をかかえているらしい う、なぜなら、きみは滅びた人間なんだから ! その上、あ から」 のひとがいまだにきみを愛している、とまでいってみたとこ 「あなたはすねているものだから、そんなばかげたことをい うんですよ」とミスター・アストレイは、ちょっと考えてかろで、 どうせきみはここに居残るんだろうな ! そう、 きみは自分で自分をほろばしたんだ。きみはある種の才能 ら、冷静にいった。「そればかりでなく、あなたの言葉には と、生き生きした性格を持っていて、まんざらわるくはない 独倉性がない」 「異存なしー しかし、高潔なるわが友よ、こうしたばくの人間だった。きみは自分の祖国のために、有用の材でさえあ こ古臭く ョブ難「が、 _> 、刀、 _s 、、かに俗悪で、いかにポードビルじみり得たのだ。きみの祖国はあれほど人材を要望しているの ていよ、つとも、 やはり、ことごとくほんとうなんです。 きみはここに居残るに相違ない、きみの生活は終っ A 」に - もか / 、 たのだ。わたしはあえてきみを責めているのではありません そこにおそるべき点が含まれているんですよー よ。わたしの見るところでは、ロシャ人というものはみんな にも、ばくらはなんら得るところがなかった ! 」 「それこそ、いまわしいノンセンスだ : : なぜって : : : なぜそうしたものか、さもなければ、そうした傾向を持っている って : : : じゃ、お聞きなさい」とミスター・アストレイは声のだから。もし、ルレットでなければ、何かそれに類したほ をふるわせ、目を輝かせながらいった。「お聞きなさい、おかのものに走るんです。例外はあまりにもまれです。労働の 聞きなさい 、この忘恩の徒、取るに足らぬちつばけな不幸ななんたるやを解しないのは、何もきみが始めてではない。 男め、これはきみのことですよ、 しいですか、わたしがわざ ( わたしはロシャ民族についていっているのではありません わざホンプルグへ来たのは、あのひとの指令によるものなのよ ) 。ルレットというやっ、 これはだいたいからして口 ですそ。きみを見て、じっくりとこころを割って話をしてみシャ的な博奕ですよ。きみはいまに到るまで、潔白で、泥坊 たうえで、何もかも、 きみの感情も、思想も、期待も、するよりもむしろ下男になろうという気になった : そして : : : 追憶も残らず報告してくれという ! 」 し、わたしはこのさきど、ついう事が起るかと思、フと、恐ろし 「まさか ! まさか ? 」とわたしは叫んだ。すると、涙が滝くなってくる。だが、もうたくさんだ。さようなら ! きみ 者のようにわたしの目からほとばしり出た。 はもちろん、金に困っているでしよう ? さあ、ここに十ル イ・ドルあります。これ以上はあげませんよ、どうせ負けて 博わたしはそれを押えることができなかった。こんなことは しまうんだから。さあ、取りたまえ、それでお別れ ! 取り 賭ほその緒を切って始めてのことらしい