たっていたのである。もっとも式のあとでは、招待をしない が耳にはいったので、ケルレルはもう相当の言葉を返してや ことになっていた。式に列するために必要な人々をのけるるつもりで、群集のほうをふり向いた。しかし、さいわいプ ルドーフスキイと、玄関から飛びだしたあるじのダーリヤが と、プチーツイン夫妻、ガーニヤ、アンナ勲章を首にかけた 医師、それからダーリヤ、こんな人が、レーベジェフから招おしとどめて、無理やりにつかまえて中へ引っ張りこんでし 待を受けたくらいなものである。公爵が、なぜ、『はとんどまった。ケルレルはいらいらして、やたらに急いでいた。ナ 他人同様の』医師を呼ぶ気になったか、とたすねたとき、レスターシャは立ちあがって、もう一度鏡を見ながら、『ひん ーベジェフは得意然として答えた。『首に勲章なんかかけた曲がったような』微笑を浮かべて ( これはあとでケルレルの : 』といって話したことだが ) 『青い顔、まるで死人のようね』といった。 りつばな人ですから、ちょっと体裁のために : それからうやうやしく聖像を拝んで、玄関口へ出た。わっと 公爵を笑わした。燕尾服に手袋をつけたケルレルとプルドー フスキイも、なかなか恰幅よく見えた。ただケルレルは、家 いうどよめきが、彼女の出現を迎えた。もっとも、最初の一 のまわりに集まっている閑人どもを、おそろしくすごい目っ瞬間は笑い声や、拍手や、ロ笛すらも聞こえたが、すぐにも きでにらみながら、喧嘩ならいつでもこいという様子が、あう別な声が響きわたった。 りありと見えるので、公爵はじめその他の彼を推薦した人々 「なあんて美人だろう ! 」という叫びが群集の中で聞こえ を当惑させた。 ついに七時半、公爵は箱馬車に乗って、教会へおもむい 「なあに、なにもこの女ひとりきりじゃないさ ! 」 た。ついでにいっておくが、公爵自身も在来のしきたりや風「婚礼でなにもかも隠そうてんだ、まぬけめ ! 」 習を、一つも略したくないと特に決めたので、すべてのこと「黙れ、きさまひとつあんな別嬪を目つけてみろ、わあ かた が公然とあからさまに、『式のごとく』取り行なわれたので し ! 」いちばんそばの連中がわめいた。 ある。教会では、絶え間ない群集のささやきや、叫び声の中「よう、公爵夫人 ! こういう美人のためなら、命でも売っ を縫いながら、左右へじろじろと恐ろしい視線を投げるケル て見せらあ ! 」とどこかの書記らしいのが叫んだ。「『命もて レルに手をひかれて、公爵はしばらく祭壇の中へ隠れた。ケあがなわん一夜のなさけ』キン ルレルはナスターシャを迎いに行った。と見ると、ダーリヤ ナスターシャはまったくハンカチのように青い顔をして出 の玄関先に集まった群集は、公爵の家より二倍も三倍も多いて来た。しかし、その黒い目は赤熱した炭火のように、群集 ばかりでなく、二倍も三倍もずうずうしいようなふうだっ に向かって輝いた。この視線に群集はかぶとをぬいだのであ 。階段を昇っていると、とてもがまんできないような言葉る。憤慨は歓呼の声と変わった。もう馬車の戸が開いて、ケ
齢でもって説明できるかもしれません。十五の子供だった があるものかと怒号するに相違ありません。しかし、これを ら、そんなことはたぶんなかったでしよう、いや、きっとそ新聞紙上で事実として読んでいるうちに、こういう事実から うに違いないです。なぜといって、もしわしが十五にもなっ してほんとうにロシャの現実を学ぶことができるものだと、 。ししと ) ておったら、ナポレオン入京の日にモスグワを逃げ遅れて恐しみじみ感心してしまいます。まったく、あなたま、 ろしさにぶるぶるふるえている母のそばを離れ、スターラろにお気がっきました」まざまざと顔をあかくする機会を免 ヤ・パスマンナャ街にある木造の家をぬけ出すようなことはれおおせたのを喜びながら、公爵は熱くなってこう結んだ。 しなかったでしようからなあ。十五にもなっておったら、お「そうでしよう ? そうでしよう ? 」と将軍は満足のあま じけがついたに相違ありません。ところが、わずか十にしか り、目さえ輝かせながら叫んだ。「で、危険ということを知 ならないわしは、何ものにも驚かなかったです。そして、ナらない子供は、光りかがやく軍服や、供奉の人や、前からう ポレオンが馬をおりようとしているとき、群集を分けて、宮んと話に聞いていた偉人を見ようと思って、群集を押し分け 殿の玄関さして進みました」 て進みました。なぜというに、二、三年まえからみんな口を 「年が十だから恐れなかった、ということにお気がついたの揃えて、この人のことばかり話しておりましたからな。世界 、疑いもなく卓見でしたね : : : 」と公爵はばつを合わせた じゅうがこの人の名で満たされていたのです。わしはまあ、 が、今にもあかい顔をしはせぬかと、びくびくしながら気を いわばこの名を乳といっしょに飲んでおったようなもので もむのであった。 す。ナポレオンは二、三歩へだたったところを通りすがりな 「まったく疑う余地もありません。この事件はすべて実際にがら、ふとわしの視線を見わけました。わしはそのとき貴族 おいてのみおこりうるように、自然にかっ単純に運んだのでの子供らしい服を着ていたのです。平生から身なりはぜいた すよ。もしこの事件に小説家が筆を染めたら、きっとありう くにしておったのでな。つまり、そうした群集の中でわしが ひとり : べからざる空想を織りまぜるに相違ありません」 : な、お察しがつくでしよう : 「おお、それはじっさいそのとおりですよ ! 」と公爵は叫ん「それはおっしやるとおり、ナポレオンの目にとまるはずで だ。「それはばくも大いに痛感した思想なんです、おまけにす。なぜって、その事実から推して、だれも彼も町を棄てて つい近ごろ、ばくはたった一つの時計のために、人を殺した走ったわけじゃない、貴族の人たちも子供を連れて居残って 痴ほんとうの話を知っていますが、 これはもう新聞にも載いる、ということが証明されますからね」 っています。もしこんなことを小説家が作り出そうものな 「そこです、そこです ! 彼は貴族を引き寄せたかったので 白ら、民衆生活研究の大家や批評家連はかならず、そんなことすな ! ナポレオンがその鷲のような視線を投げたとき、わ
けがれたる : : : さよう、けがれたる老人に対して、自分のくのであった。 「かがめ、おい、かがめというに ! 」と彼はささやいた。 父親にたいして、礼儀を失わずにおります : : : ああ、おま ル・ロア・ド・ローム : ローマ王か : : : お「おまえにすっかり教えてやるから : : : なんという悪名だろ えにもこんな子供ができるだろうが : かがめ : : : 耳を、耳を貸さんか、そっと耳うちをする お、『この家はわしののろいを、わしののろいを受けるんう : : : から : : : 」 だそ ! と 「いったいなんですか ! 」とはいえ、やはり耳をさし出しな 「ああ、ほんとうにいったい何ごとがおこったんです ! 」と ヤはひどくおびえた声でいった。 コーリヤは急にじりじりしはじめた。「いったい . 何ごとがおがら、コーリ ル・ロア・ド・ローム こったんです ? なぜ今うちへ帰るのがいやなんです ? い マ王 : : : 」同じく全身をふるわせつつ、将軍はささ ゃいた。 ったい気でもちがったんですか ? 」 ル・ロア・ド・ローム マ王 「わしがすっかり聞かしてやる、わしがおまえに聞かしてや「なんですって ! まあ、なんだか知らないが、ロ : なんですか ? 」 る : : : わしがおまえにすっかり話してやるから、大きな声をの一点張りですね ? : ル・ロア・ド・ローム しだいに強く「うちの男の子』の マ王か : : : おお、息「わしは : : : わしは : するな、人が聞くじゃないか : 肩にしがみつきながら、将軍はふたたびささやいた。「わし が古し、、 ( : いい は : : : おまえに : : : すっかり、マリヤ、マリヤ : : : ベトロー 『乳母よ、おまえのお墓はどこにある ! 』 コーリヤは振りきって、今度は自分のはうから将軍の肩を つかみ、狂人のような目つきで父をにらんだ。老人は顔を紫 これはいったいだれが叫んだのだ、コーリヤ ? 」 「知りません、だれが叫んだのか知りません ! すぐ家へ行色にして、くちびるも青ざめ、小刻みの痙攣がその顔を走る ばくガンカをぶんなぐってやりまのであった。そして、だしぬけに前へのめって、静かにコー きましよ、フ、ムフすぐ ! す、もし必要があったら : : : おや、またどこへ行くんですよリヤの手に倒れかかった。 「発作だ ! 」やっと、ことの真相に気づいたコーリヤは、町 しかし、将軍は最寄りの家の玄関口へ彼をしよびいて行っじゅうへ響くような声で叫んだ。 5 「おとうさんどこへ ? これはよその玄関ですよ ! 」 1 ヤの手を引 将軍は階段に腰をおろして、いつまでもコー丿
ってみ っこ。「いってみろ、父ののろいを覚悟して : : : い ようなことを、町じゅう触れまわしてさえくださらなけり や、よかったんですがね ! 」 「へ、ばくがあなたののろいに驚くと思ってるんですか ! 「なんだって、わしがきさまの顔をつぶす ! 青二才めが ! わしはきさまに名誉をかけこそすれ、顔をつぶすなんてことあなたがもうこれで八日間というもの、まるできちがい同然 になってるからって、だれの知ったことですか ? ええ、 ができるものか」 もう八日になります、ばくはちゃんと日にちまで知っていま 彼は叫び出した。人々ももう彼をおさえることができなか 、、まくをぎりぎりの線までやらな 気をつけなさしー った。が、ガーニヤも見受けたところ、がまんしきれなくなす。 いようにね、そうなったら、すっかりいってしまうから : ったらしい 「こんなになってから、名誉を口にするなんて ! 」と彼は毒おとうさんは何のためにきのうエバンチン家へ、のこのこ出 しい年をして、髪も白くなり、おま かけて行ったんです ? 毒しく叫んだ。 いや、じっ に一家のあるじといわれる身でありながら , 「何をいった ? 」将軍はまっさおになって、一歩ふみ出しな に結構なことでさあ ! 」 がらこうわめいた。 ーリヤがわめいた。「およしよ、 : 」とっぜ「およしよ、ガンカ ! 」とコ 「いえね、ばくがちょっと口をあけさえすれば : んガーニヤは甲走った声で叫んだが、さすがしまいまではい ばくがいったいこの人をどう侮辱したと いきらなかった。 1 レか、も、 いうんです ? 」とイツポリートはいいつのったが、 ふたりは面と面と相対して突っ立った。両方とも度はずれ 相も変わらず、例の人をばかにしたような調子であった。 に逆上しているが、ガーニヤのほうはことにひどかった。 「なんだってこの人はばくをねじ釘だなんていうんでしょ 「ガーニヤ、まあ、どうしたの ! 」と、ニーナ夫人は飛びか う、ね、みなさんお聞きになったでしよう ? 自分からばく かって、息子をおさえながら叫んだ。 「どちらを向いても、ばかばかしいことばかりだわ ! 」とヴにつきまとって来たくせに。こうなんですよ。いまばくのと カビタン ころへやって来て、大尉ェロペーゴフとかいう人の話を持ち アーリヤは歯がゆそうに、断ち切るようにいった。「たくさ 出したんです。ばくはね、将軍、けっしてあなたのお仲間に んだわ、おかあさん」ヴァーリヤは母をおさえた。 痴「ただおかあさんに免じて許しておきます」とガーニヤは悲入りたくないんですから、以前もなるべく避けるようにして たのは、あなたも自分でご承知でしよう ? だって、大尉工 劇的な声でいった。 「いってみろ ! 」と将軍はすっかりのばせあがって、ほえ猛ロペーゴフなんか、ばくに何の用があります、察してもくだ幻 白 めん
「ばくは親友としてあなたに提供しているんですよ。ばくは田 の時ふいと彼女のことを想い出した。 彼女は相変らず身動きもせずに、同じ場所にすわっていたあなたに命さえ提供しているんです」 が、じっとわたしのしぐさを目で追 0 ていたのである。その彼女は試すような眼ざしで、ながいあいだわたしを見つめ 顔の表情は何か奇怪なものだ 0 た。わたしはその表情が気にていた。さながらその視線でわたしを突き刺そうとでもする くわなかった ! その中には憎悪があった、といってもあやように。 「あなたはずいぶん気前がいいのね」と、彼女は薄笑いしな まりではあるまい。 がらいった。「ド・グリエの情婦は、五万フランの値うちな わたしはつかっかとそのそばへ寄った。 これだけんてないわ」 「ポリーナ、さあ、これが二万五千フロリン、 「ポリーナ、どうしてばくにそんな口がきけるの ? 」とわた で五万フラン、いや、もっとたくさんあるくらいだ。これを しは非難をこめて叫んだ。「、つこいばくがド・グリエとお 持ってって、明日やつの顔へたたきつけておやんなさい」 なじような人間だと思うの ? 」 彼女は返事をしなかった。 「もしなんなら、ばくが自分で持ってってやりますよ、朝早「あたしあなたが憎いの ! そうよ : : : そうよ ! ・ : あたし あなたもド・グリエ以上に愛しちゃいないんだから ! 」と彼 く。そうする ? 」 女はふいに目をぎらぎら光らせながら叫んだ。 彼女はだしぬけに笑い出した。長いこと笑いつづけた。 そのとき彼女はとっぜん両手で顔をおおった。と、ヒステ わたしは驚きと悲しみにうちひしがれんばかりになって、 リイの発作がはじまった。わたしはそのそばへ飛んで行っ その様子をながめていた。その笑いは、つい近ごろまでよく こそっくりそのままであった。わたしが熱情た。 聞かされた冷笑 ~ わたしは、自分のいないまに何か彼女の身に起ったに相違 をこめて、思いのたけをうち明けている最中に浴びせかけ ないと悟った。彼女はまるで正気でないように見受けられ た、あの冷笑なのだ。ついに彼女は笑いやめて、眉をしか め、きびしい目つきで額ごしにわたしを見つめた。 五万フラ 買いたい ? 、買いたい ? 「あたし、あなたのお金を貰いませんよ」と彼女はさげすむ「あたしを買うがいし ・グリエのように ? 」という叫びが、痙攣的な慟哭 ンで、 ような語調でロを切った。 とともに、彼女の口からもれた。 「えっ ? そりゃなんのこってす」とわたしは叫んだ。「ポ わたしは彼女を抱きしめ、その手や足に接吻し、その前に ) ーナどうして ? 」 ひざまずいた。 「あたしただでお金は貰わないの」
ら、ベルが鳴ってる ! わたしは自分でちゃんと心得てして『、つこ、、 しオしこのひとはまたゼロでもうけるつもりなのかし るんだからね」とお祖母さんは興奮のあまり、ぶるぶるふるらん ? 』とわたしはあきれてお祖母さんを見つめたまま、心 え出したほどである。 の中で考えた。まごう方なき勝利の確信が、今にもすぐゼロ 「ゼロには、十二フ リードリッヒ・ドル以上は賭けられない が出るに相違ないという期待の色が、彼女の顔に輝いてい さあ、者けまた、 規則になっているのですよ。お祖母さん、 玉は穴に飛び込んだ。 したよ」 「ゼロ ! 」と監督は叫んだ。 「え、賭けられないって、いったいおまえさんでたらめいっ 「どうだえⅢ」とお祖母さんは、物すごいほど得々とした表 てるんじゃないかえ ? ムシウ ! ムシウ ! 」自分の左側に 情でわたしのほうを振り向いた。 すわっていて、これから盤をまわそうとしている監督をつか わたし自身も賭博者に生れついた人間だった。わたしはそ まえて、小突きまわしながら、「 Combien 3 ~ Douze ~ Dou 、 の瞬間それを感じたのである。手足がわなわなとふるえて、 ~ ( ゼロはいくら ? 十二 ? 十二 ? ) 」 血が頭にさっと逆流した。わずか十回ばかりの間に、ゼロが わたしは急いでこの質問をフランス語で説明した。 三度も出るなどということは、もちろん、めずらしい偶然に 「 Ou 一 . madame ( はい、そうです、奥さん、 ) 」と監督はうやう相違ない。しかし、それはかくべっ驚くほどのことでもない やしく答えた。 ので、自分でもちゃんと目撃したことだが、一昨日はゼロが 「それから、また規則によりまして、一回の賭は四千フロリ つづけて三回出たことがある。その時、熱心に当りの数を紙 ン以上許されないことになっております」と彼は説明を補足に書き留めていたひとりの賭博者が、つい昨日はこのゼロが 一昼夜にたった一度しか出なかったのにと、大きな声でいっ たものである。 「じゃ、仕方がない、十二枚だけお賭け」 「 Le ) 2 est fait ( 勝負の始まり ! ) 」と監督は叫んだ。円盤は お祖母さんはいちばん大きな当りを取った人というので、 回転をはじめて、十三が出た。負けである ! 特別の注意と敬意を払って計算してもらった。彼女の取り前 「また ! また ! また ! またお賭け ! 」とお祖母さんは はちょうど四百二十フリードリッヒ・ドル、すなわち、四千 叫ぶのであった。わたしはもうさからわないで、肩をすくめフロリンと、二十フリードリッヒ・ドルであった。彼女は二 者ながら、十二フリードリッヒ・ドルを賭けた。円盤は長いあ十フリードリッヒ・ドルを金貨で、四千フロリンを紙幤でも いだまわっていた。お祖母さんはじっとそれを見守りながらった。 諸ら、ただもう武者ぶるいしていた。 今度はもうお祖母さんも、ボタープイチを呼ばなかった。 397
てひとに付きまとうんだろう」と、お祖母さんはどなつわたしはおりおり助け船に出て通訳した。まじめらしい行員 は、じっとわたしたちふたりを見つめながら、黙って首をひ た。「そんな暇はないっていってるじゃないか ! 」 「さあ、来ました、お祖母さん ! 」と私はさけんだ。「ここねっていた。お祖母さんを見る目つきはあまりにも好奇心を むき出しにして、しかも、吸いついたように離れないので、 です ! 」 もうぶしつけといっても、 ししほどであった。とうとうしまし わたしたちは安楽いすを銀行の入口へ押して行った。わた には、にやにや笑い出した。 しは両替に入って行き、お祖母さんは車寄せで待っていた。 ・グリエと、将軍と、プランシュ嬢は、ど、フしたらいいカ 「とっとと行っておしまい ! 」とお祖母さんは叫んだ。「ひ わからないので、わきのほうにたたずんでいた。お祖母さんとの金で腹をふくらまそうと思ったって、のどにひっかけて がこわい目でにらみつけると、彼らは停車場のほうへ行って息をつまらすのがせきのやまだよ ! アレグセイ・イヴァー しまった。 ノヴィッチ、両替してしまいなさい 、もう時間がない、それ とも、ほかの銀行へいって見るかねえ : : : 」 割引の歩合は恐ろしいものだったので、わたしは独断では 「あの行員の話だと、ほかじゃもっと安いってことですよ」 はかりかねて、指令をあおぐため、お祖母さんのところへ引 つかえした。 その時の割引歩合をはっきりと覚えてはいないが、とにか くひどいものであった。わたしは金貨紙幤とり交ぜて一万二 「ちょっ、なんて強盗どもだろう ! 」と彼女は両手を打ち鳴 らして叫んだ。「でも、かまわない、両替しておもらい ! 」千フロリン両替し、計算書を持ってお祖母さんのところへ引 と彼女はきつばりと命じた。「ああ、ちょっと待っておくれ、つ返した。 。しりやしな 「いや、いや、いや ! 勘定なんかすることよ、、 ここへ頭取を呼んでもらおう」 い」と彼女は両手を振った。 「行員のだれかを呼ぶんでしよう、お祖母さん ? 」 「まあ、行員でもいい、おんなじことだ。ちょっ、なんて強「早く、早く、早く ! 」 盗だろう ! 「もう一一度とあのいまいましいゼロに賭けやしない。そし 行員は、自分で歩くことのできない病身の老伯爵夫人と聞て、赤もおやめだ」と停車場に近づいた時、彼女はこんな言 いて、出て来ることを承知した。お祖母さんは長いこと、 葉をもらした。 こんど、わたしは言葉をつくして、できるだけ少なく賭け 者かにも腹の立つらしい大きな声で、ロシャ語とフランス語と 博ドイツ語とちゃんばんに使いながら、銀行は詐欺だ強盗だとるように、運がまわって来たらいつでも大きく賭けることが できるのだから、と勧めた。しかし、お祖母さんはまるでこ 賭ののしりながら、いろいろ押問答をつづけた。そのあいだ、 4 〃
おまえここで、何をしておいでだえ ? 」 ってくれるよ。おやおや、おまえさんは大した部屋を借りた 「しばらくでした、お祖母さま」とポリーナは、そばへ寄りもんだねえ ! 」と彼女はあたりを見まわしながら叫んだ。 「いったいまあどんなお金でまかなってるの ? だって、お ながらいった。「出発なすってからだいぶになりますの ? 」 まえさんの領地はすっかり抵当にはいってるんじゃないの ? 「そら、この子がだれよりもいちばん利ロなたずね方をした このフランスのやっこさんだけにだって、どれはど借金して よ。はかのものったら、ただ『あら、あら ! 』ばかりなんだ るかしれないじゃよ、 オしか ! ああ、わたしはなにもかも知っ からねえ。じつはこうなんだよ。ずいぶん長く寝ていてね、 いろいろ療治をしてもらったけれど、とうとう医者たちを追てるよ、何もかも ! 」 つばらって、ニコラ教会の寺男を呼んだのさ。それがね、や「わたしは、伯母さん : : : 」と将軍はすっかりまごっいてし はり同じ病気で困ってるどこかの女房を、乾草をもんだ粉でまっていい出した。「どうも驚きましたね、伯母さん : : : わ たしだって人から監督を受けずに : : : なにしていけるはずで なおしたんだそうだよ。ところが、わたしもやつばりそれが すがね : : : それに、収入以上の支出はしないから、わたした 効いてね、三日目になったら、からだじゅうに汗をかいて、 床上げしちゃったのさ。そこで、またそろドイツ人どもが集ちはここで : : : 」 まってさ、眼鏡をかけて評定を始めたもんだよ。『いま外国「え、おまえさんが収入以上の支出をしないって ? よくも の温泉へ行って鉱泉療法をしたら、秘結もすっかりいえるでいったもんだねえ ! きっと子供たちの分け前まで、きれい オしか。で、わたしも、行ってもよかろさつばり失敬してしまったんだろうよ、結構な後見人もあれ ーしよ、つ』レ」い , っド ) やよ、 う、と田 5 ったわけさ。ドウリ・ザジーギンなんて連中は、あばあるものさ ! 」 「そんなことをおっしやると、そういう一一一一口葉を聞かされた以 っとばかりおったまげて、『あなたが出かけたって、どこへ 行きつけるものですか ! 』といったけれど、よし今に見てい上 : : : 」と将軍は憤然としていい出した。「わたしはもうそ れこそ・・ : : 」 ろ ! というわけでね、一日のうちに支度をしてしまった。 ここじやさそルレ 「おやおや、『もうそれこそ』ときたー 使とボタープイチと、下男のフョ 先週の金曜日に、、 ットにへばりついていることだろうね ? すっからかんには ルを連れて出発したのだがね、あのフヨードルはベルリンか ら追い返してしまったよ。あれなんかまるで用がなくて、わたき上げたことだろうね ? 」 将軍は度胆を抜かれてしまい、興奮のあまり胸が一杯にな たしひとりだって行けるってことがわかったものだからさ。 汽車はいつも特別室へ乗るようにしたし、人夫はどこの駅につて、ほとんどむせ返らないばかりであった。 もいるから、二十コペイカ出したら、どこへでもかついで行「ルレットですって ! わたしが ? この身分でいてですか
にだけでも、おれの利害にあずかると思ったからなんだ。とんでたらなあ、ーー・傲慢から出た無知とでもいおうか、いノ ころが、なかなか煮ても焼いても食えんやつだ ! 今こそすや、どうもじつにお話にならん ! あれはビロゴフ中尉だ、 0 かりあいつの根性を見抜いてしま 0 た。こんどの窃盗事件悲劇のノズドリョフ 27g 」だ、いや、なんかといお も自分の母親から、大尉夫人から聞いたのさ。おやじがあんうよりーー生意気な小僧っ子 だ ! おお、あのときおれがあ なことを思いきってやったのも、つまり大尉夫人のためなん いつの度胆を抜くために、あいつをうんとぶちのめしてやっ だ。あいっ何のきっかけもなく、出しぬけに、いだすじゃな どんなに気が清々したこったろう。あのときうまく行 いか、『将軍がばくの母に四百ループリくれるって約東しまかなかったために、あいつはいまみなに仕返しをしてるんだ したよ』なんて、まったく出しぬけにぶつきらばうにいうん : しかし、あれはいったいなんだ ? また二階で騒々しい だよ。そこで、おれはいっさいのいきさつを悟っちまったん物音がするぜ ! ほんとうにまあ、いったいどうしたってん だ。そのとき、あいつはなんだか愉央そうに、じいっとおれだろう ? じっさい、おれはもう辛抱しきれない。プチーツ の顔を見つめるじゃないか。おかあさんに告げ口をしたのイン君 ! 」と彼は部屋へ入って来るプチーツインに向かって も、きっと、ただ、おかあさんの心をかきむしるのがおもし叫んだ。「いったいあれはどうしたんだ、家の中はしまいに ろくてのことなんだ。いったいどうしてあいっ死なないんどうなるんだろう ? ほんとうに : : はんと、つに・ だ ? ひとっ教えてくれないか。だって、三週間たったら、 しかし、物音は急激に近づいて来た。とっぜん戸がさっと ぜひとも死ぬはずだったんじゃないか。それだのに、こちら開いて、イヴォルギン将軍が憤怒のあまり顔を紫色にして、 へ来てからよけい肥ってきたぜ ! せきもしなくなったし からだじゅうわなわなふるわせながら、われを忘れて同じく ね。ゅうべ自分でもそういってたよ。あの翌日からさっそくプチーツインに飛びかかった。 喀血しなくなったとさ」 そのあとから、ニーナ夫人とコーリヤ、、ちばん尻のほう 「追い出しておしまいなさいよ」 トがつづいて入って来た。 「おれはあいつを憎みやしない、ただ軽蔑してるんだ」と誇 らしげにガーニヤはいった。「いや、まあ、 しまあ、 2 い、憎んでいるとしてもかまわないさ、まあ、いいさ ! 」ふ いに恐ろしく猛烈な勢いで、彼は叫んだ。「おれはあいつに ィッポリートがプチーツインの家へ越して来てから、もう まわ 面と向かってそういってやる、あいつが臨終の床についてる五日になる。このことはまったくしぜんに運んだので、彼と あつれき ときだってかまわないよ ! もしおまえがあの『告白』を読公爵とのあいだには、ほとんど格別の言い合いも軋轢もなく
目。ド ( 友愛か死か ) 二百万の蒼生よ ! 』と叫んでいます。そた。「きみはことによったら : : : 隠遁生活のために熱しやす くなったのかもしれませんて。もすこし世間へ出て、多くの れは彼らのすることを見ればわかります ! そして、そんな ことはわれわれにとって、たいして恐ろしくない、無邪気な人とまじわって、そして人からりつばな青年だと、ちやほや から騒ぎだ、などと思ったら大変です。それどころか、今すされるようになったら、むろんそんな興奮もしずまって、世 間のことは存外簡単なものだと、悟られるに相違ないですよ ぐ支柱が必要なのです、一分も猶予してはいられません ! : それに、わしの見解では、あんな類の少ないできごと われわれが保存して来たロシャのキリストを。・ーー彼らの今ま で知らなかったロシャのキリストを、西欧文明に対抗して輝も、一部分はわれわれの飽満から、一部分は : : : 倦怠のため かさなくちゃなりません ! のめのめとカトリッグ教徒の罠に生じるのですな : にかかることなく、ロシャの文明を彼らの前に捧げつつ、わ「そうです、まったくそうです」と公爵は叫んだ。「それは じつに優れたご意見です ! まったく『俺怠のため、ロシャ れわれはいま彼らの前に出現すべき時なのであります。そし て、いまだれかのいわれたように、カトリッグ教徒は優美だの倦怠のため』です。もっとも、飽満のためではありません。 むしろその反対に渇望から来ているので : : : けっして飽満の などと、いう人のないようにしたいものです : : : 」 「失礼ですが、失礼ですが」アングロマンはおそろしく泡を結果じゃありません。この点であなたは考え違いをしていら くって、すこしおじけづいたようにあたりを見まわしながられます ! 単に渇望のためのみでなく、激情のためといって もいいくらいです、熱病のような渇望の結果なんです ! そ いった。「あなたの議論は、じつに愛国心に満ちたりつばな ものです。しかし、非常に誇張されております : : : むしろこれに : : : それに、ただ笑ってすますことのできるような些細 な形式をとっている、などと思ってはいけません。生意気な の問題は、他日に譲ったほうがよさそうですね : : : 」 言葉ですが、ことを未然に悟る力がなくちゃだめです ! ロ 「、、え、誇張されてはいません、かえって控え目すぎるく シャ人は岸へ泳ぎついて、これが岸だなと信じると、もう有 らいです。まったく控え目すぎるくらいです。なぜって、ば 頂天に喜んでしまって、どんづまりまで行かなくちゃ承知し くは表現の力がないから、しかし : : : 」 。したしどういうわけでしよう ? あなたがた 「しつれいですが ! 」 公爵はロをつぐんだ。彼はいすの上にそり返って、燃えるは今パヴリーシチェフ氏の行為にびつくりして、その原因を 同氏のきちがいじみた、人の好い性格に帰しておしまいにな ような目つきでアングロマンを見つめるのであった。 「きみはどうも、恩人の改宗事件にあまり驚きすぎたようでりましたが、あれは間違っています ! まったくそういう場 合、単にわれわればかりではなくヨーロッパぜんたいが、わ 白すな」と老政治家はまだ忍耐を失わないで、もの優しくいっ