いの生活費を受けておられます。これをお金に直して見ますた。ええ、わたし請け合ってもよう ) 」ざんすわ、あなたはあ と、千五百ループリになります。そうじゃありません ? この結婚がしたくてたまらなかったのです。それはあなたの顔 れにまた臨時費の三百ループリを加えますと、ちょうど三千に描いてありました。そして、まったくのところ、思い切っ ループリかっきりになります。あなたには一年分これだけでて下品な表情でしたよ。わたしがその時すぐにこのことをい 十分でしよう。少なくはないでしようね ? もっとも、ごく わなかったのは、ただ思いやりのためだったんですよ。が、 ごく臨時の場合には、また増して上げますよ。ですから、おとにかく、あなたは結婚を望んでいました、ええ、望んでい 金を取って、わたしの召使どもを返してくだすって、ご自分ましたとも、わたしのことだの、ご自分の花嫁さんのことな で勝手に、どこでなりと暮らしてください。ペテルプルグでど、内証の手紙の中にさんざん聞き苦しい文句をお書きにな もよし、モスクワでもよし、それともまた、ここでもよ、つ ったくせに : : : 今度はあんなこととはまるで違いまツ。その ござんすが、ただわたしの家はいけません、ようござんすなんとかの墓の上で踊るドン・コサッグとやらは、いっこい なんのために引合いにお出しになったんですの ? なんの比 「ついこのあいだ、同じあなたの口から、同じような執拗な喩だかちょっともわかりやしない。それどころか、あなたは 性急な調子で、まるつきり別な要求が発しられました」愁わけっして死んだりなんかしないで、末長くお暮らしなさいま しげな、しかも明晰な調子でスチ = バン氏はゆっくりといっすよ。できるだけ長くお生きなさい。わたしはそれを嬉しく た。「で、わたしは諦めて : : : あなたのお気に入るようにと、 思いますわ」 コサッグ踊りを踊りました Qui, la comparaison peut étre 「養老院でね ? 」 permise. C ・était comme un petit cozak du Don, qui 「養老院で ? 三千ループリの年収を持って養老院へ行く人 sautait sur sa propre tombe. ( そうです、もし比喩が許されは、あまりないようですね。あっ、思い出した」と夫人はに ートル・スチェ るならば、ちょうど自分の墓の上で踊りを踊る、ドン・コサックのよやりと笑った。「本当にいつだったか、ビョ うなものです ) ところが、今は : パーノヴィチが、養老院のことで冗談をいったことがありま 「お待ちなさい。スチ = ・ハン・トロフィーモヴィチ。あなたすよ。まあ、本当にそれは何か特別な養老院だったつけ。一 は恐ろしく口数が多う ) 」ざんすね。あなたは踊りを踊ったどど考えてみる値打ちがあるようだ。なんでも、それはごく立 ころか、かえって新しいネグタイをして、新しいシャツを着派な人たちのために建てたもので、陸軍大佐くらいの人もい 込み、新しい手袋を嵌めて、頭に油をつけたり、香水を匂わるそうだし、ある将軍も入るとかいってるそうですよ、もし したりしながら、わたしのところへ出ていら「しゃいましあなたがご自分の財産をす 0 かり持 0 てそこへお入んなす 0
あ、結婚でもした上、ここのクラブ員にでもなり、祭日ごと スタヴローギンはまじめに聞き終わった。 にこの修道院に参詣しながら、一生無事で終わるようにと望「あなたはその修道院へ行って僧侶になれと、ばくにおすす んでいらっしやるんでしよう。まあ、いわば贖罪の難行ですめなさるんですか ? 」 な ! そうじゃありませんかー もっとも、あなたは人間の 「あなたは修道院へ入ってしまうこともいらなければ、僧侶 魂の透視者だから、きっとそうなるに違いないと、予感してになることもいりません。ただ聴法者になればよいのです。 いられるのかしれませんね。肝腎なのは、いま見せしめに、 それも表面には現われぬ秘密の聴法者なのですよ。或いは初 よおっくばくにお灸を据えておくことなんですよ。なにしめから世間で暮らしながら、戒を守ることもできるので」 ろ、ばく自身もただそれだけを渇望してるんですからね。そ「よしてください、チーホン僧正」とスタヴローギンは気む うじゃありませんか ! 」 ずかしげに相手をさえぎって、椅子から立ちあがった。チー 彼は毀れたような薄笑いを洩らした。 ホンも同じく席を離れた。 「いや、その難行ではない、リ 男なものを考えておるので「あなたどうしたのです ? 」ほとんど驚愕の表情でチーホン す ! 」スタヴローギンの冷笑や皮肉にはいささかの注意も払の顔を見入りながら、彼はふいにこう叫んだ。こちらは掌を わず、チーホンは熱のこもった声でいった。「わたしは一人前にして両手を組みながら、客の前に立っていたが、あたか の長老を知っております。この土地ではない、 ここからはども異常な驚愕に打たれたような病的な痙攣が、稲妻のごとく 遠からぬところに住んでおる隠者だが、あなたやわたしなどその顔を走ったようにみえた。 には考えも及ばぬような、キリスト教の叡智にみちたお方で「どうしたのです ? どうしたのです ? 」僧を支えようとし す。その方はわたしの願いを聞いてくださるだろうから、わて、その傍へ馳せ寄りつつ、スタヴローギンはくり返した。 たしはその方にあなたのことをすっかり話しましよう。一つチーホンが倒れそうに思われたのである。 その方のところへ修行に出かけて、五年でも七年でも、必要「わたしには見える : : : まるでうつつのように見える」チー と思われるだけ、その方の戒を守ってごらんなさい。必ず掟ホンは深い悲痛な表情を浮かべ、魂へ滲み入るような声で叫 どおりに暮らすという誓いを立ててごらんなさい。すれば、 んだ。「ああ、気の毒な破滅した青年、あなたは今のこの瞬 その偉大な犠牲によって、あなたの渇しておられるもの、 間ほど、新しく大きな犯罪に近づいたことは、これまでかっ 震や、あなたの期待しておられぬものまでも、あがない得るこてなかったくらいですそ」 とができましようぞ。まったくどのような結果を得られる「落ちついてください ! 」僧正の身に心からの不安を感じた スタヴローギンは、しきりにこ、ついってなだめた。「ばくは 悪か、今のところ想像することもできぬくらいですて」
て、真面目な怪訝の色を浮かべながら、相手のほうへ一歩す言葉は何より確かですからね」 すみ寄った。こちらは差し伸べられた手を握ろうともせず、 「それはまったくそれに相違ありません」 無器用らしい手つきで椅子を引き寄せると、坐れともいわな 「ところが、あのひとは、よしんば結婚の式上で聖壇の前に いのに、主人よりさきに腰をかけてしまった。ニコライは寝立っていても、もしあなたが声をかけたら、わたしを捨て、 いすへはすかいに座を占めて、マヴリーキイの顔を見つめなすべての人を捨てて、あなたのところへ走ってしまいます」 がら、言葉を発しないで待ちかまえていた。 「結婚の式上で ? 」 「もしできることなら、リザヴータ・ニコラエヴナと結婚「結婚式の後でも」 してください」とっぜん客は叩きつけるようにこう切り出し 「お考え違いじゃありませんか ? 」 た。それに、何よりおかしいことには、声の調子だけでは、 「いや、あなたに対するやみ難い憎悪の陰から、 強い真 頼んでいるのやら、推薦しているのやら、譲歩しようという 剣な憎悪の陰から、絶え間なく愛がひらめいています : : : 気 のやら、もしくは命令しているのやら、かいもく見当がっかちがいめいた : : : 心底からの深い深い愛、ーーっまり、気ち よゝっこ。 がいめいた愛です ! それと反対に、あのひとがわたしにい ニコライは依然として黙っていた。が、客はもう来訪の目だいている愛、やはり愛の陰から、絶え間なしに憎悪がひら 的である要件をすっかりいってしまったらしく、返事を待つめき出ています、ー・ー限りなき憎悪です ! 以前だったら、 ようにじっと相手を見つめていた。 わたしはこんな : : メタモルフォーズを理解するようなこと 「しかし、わたしの思い違いでないとすれば ( もっとも、こ はなかったのですが」 れは正確すぎるくらいの話ですが ) 、リザヴェータ・ニコラ 「が、それにしても、どうしてあなたは、リザヴェータ・ニ エヴナとあなたは、もう婚約ができてるのじゃありませんコラエヴナの一身について、指図がましいことをいいに来ら か」とついにスタヴローギンはロを切った。 れたのか、それがわたしは不思議ですね。そういう権利を持 「婚約して、固めまでしたのです」マヴリーキイはきつばり っておられるんですか ? それとも、あのひとが委任された した明瞭な調子で、相手の言葉を確かめた。 のですか ? 」 「あなた方はいさかいでもなすったのですか ? ・ ・ : 失礼なこ マヴリーキイは顔をしかめて、ちょっと首をたれた。 とをおたずねするようですが」 「それはあなたとして、ただの辞令にすぎないです」とふい 「いや、あのひとはわたしを『愛しもし尊敬もし』ていまに彼はいった。「うまくやつつけてやったという、勝ち誇っ す、これはあのひと自身のいったことなのです。あのひとのた言葉です。あなたは言外の意味を汲み取ることのできる人
「じゃ、ばくもいっしょに ~ 行きましょ , つ」 「どこへ ? 」とわたしも同じく躍りあがった。 ンエル 「レムプケーのところだ。きみ、それはわたしの義務だ、本「きみのその親切はわたしも予期していた。よろこんできみ 務だ ! わたしは公民だ、一個の人間だ、けっして木の切れの犠牲を受納しよう。真の友人の犠牲だからね。けれど、向 つばしじゃない。わたしは権利をもっている、自分の権利をこうの家までだよ。ほんの家までだよ。きみはそれ以上わた しと行動をともにして、自分を不利に陥れるわけにはい ) よ 要求するのだ : : : わたしは二十年間、自分の権利を要求しな : けれ そんな権利を持ってないよ。 O, croyez mo 一 . お serai かった、これまで罪深くもそれを忘れていたのだ : calme! ( 大丈夫、安心してくれたまえ、わたしは平静を持しているか ど、今こそそれを要求する。レムプケーはわたしに向かっ ら ! ) わたしは今この瞬間、 la hauteur de tout ce qu ・ ilY て、何もかも明言する義務があるのだ、本当に何もかもー a plus sacré ( まるでこの世にありとあらゆる最も神聖なものの、 あの男は電報を受け取ったに相違ない。あの男にこうわたし 高い頂きに立っている ) ような気がするのだ : : : 」 を苦しめる権利はない。それができなければ、捕縛するがい 「ばくはことによったら、あなたといっしょに、あの家へ入 、捕縛するが ! 」 捕縛するがいし 彼は妙な金切り声を立ててわめきながら、地だんだを踏んるかもしれませんよ」とわたしは彼の言葉をさえぎった。 「昨日ヴィソーツキイを通じて、例の馬鹿げた委員会から知 みんな当てにしているから、ぜひ 「ばくはあなたの考えに賛成です」わたしはだいぶ彼の身のらせがあったのです、 上が気がかりだったけれど、わざとできるだけ落ちつき払っあすは幹事、ではない、なんといいますか : : : つまり、赤と ていった。「まったく、こんなに気を腐らせながら家にいる白のリポンで作った蝶結びを左の肩につけて、盆の監督をし たり、貴婦人がたのお世話を焼いたり、来客の席割をしたり よりか、そのほうがずっと気が利いてますよ。しかし、あな する役目を仰せつかった六人の青年の仲間として、慈善会に たの今の気分には賛成しかねますね。まあ、ご覧なさい、い ったいなんという顔色でしよう。それで、どうしてあすこへ出てくれというのです。ばくは断わろうと思っていました が、今の場合、ユリヤ夫人と直接相談したいというロ実で、 行けますか ? II faut étre digne et calme avec Lembke. ( レムプケーに対しては、もう少し品位を持してゆったりと落ちつい あの家へ入って行かないのは馬鹿な話です。こういうふうに して、いっしょに入って行こうじゃありませんか」 てなきゃいけませんよ ) 本当にあなたは今あすこへ行ったら、 彼はうなずきながら聞いていたが、なんにもわからなかっ 豊だれかに飛びかかって、食いっきもしかねない様子ですよ」 「わたしは自分で自身を危地に陥れるのだ。わたしは獅子のたらしい。わたしたちは閾の上に立っていた。 シェル 「きみ」と彼は片隅の燈明のほうへ手を差し伸べた。「シェ引 悪あぎとへ入って行くのだ : ・・ : 」
「まるつきり忘れていた、しかも、一ばん大切なことだ。ば にしたほうがよかありませんか、え ? 」 くたったいま聞いたんですが、ばくらのトランクがペテルプ「よろしい、じやばくはもういいますまい」とニコライは答 ルグから着いたそうですね」 えた。 「とい , フと ? 」ニコライはムロ点がゆかないで、じっと相手を ピヨートルはにこりと笑って、帽子でばんと膝をたたき、 見つめた。 足をちょっと踏み変えて、以前と同じ姿勢をとった。 「つまり、あなたのトラングです。あなたの荷物です。燕尾「だって、今ここの人はばくのことを、リザヴェータ・一一 服や、ズボンや、肌衣が、着いたそうじゃありませんか ? コラエヴナに対するあなたの競争者のようにいってるんです 本当ですか ? 」 からね、ばくだってちっとは様子をかまわんわけにゆかない 「そう、なんだかそんなことをいってたつけ」 じゃありませんか」と彼は声を立てて笑った。「しかし、だ 「では、今すぐ、いけないですか」 れがそんなことをあなたに密告するんだろう。ふむ ! ちょ 「アレグセイに聞いてみたまえ」 うど八時だ。さあ、そろそろ出かけましよう。ばくはヴァル 「いや、明日にしましようね、明日に ? あの中にはあなたヴァーラ夫人のところへ寄る約東をしたけれど、すつばかす の物といっしょに、ばくの背広と、燕尾服と、それからズボことにしましよう。あなたもお休みなさい。そうすれば、明 ンが三着はいってるはずです。ほら、あなたの紹介で、シャ 日はもっと元気が出ますよ。そとは雨が降って真っ暗だけれ ルメルで作った分ですよ、おばえていますか ? 」 ど、なに大丈夫、ばくには馬車があります。だって、ここは 「噂によると、きみはここでだいぶん紳士ぶってるってね ? 」夜になると往来が物騒ですからね : : : ああ、それはそうと、 ニコライはにやりと笑った「調馬師について馬の稽古をするちか頃この町の近辺を、囚人のフェージカというのがうろう というのは本当のことですかね ? 」 ろしてるんですよ。シベリヤから逃げ出したんですがね。十 ピヨートルはひん曲ったような薄笑いを浮かべた。 五年まえ、うちの親父が兵隊にたたき売って金にした下男な 「ねえ」と彼は妙に慄えを帯びた、とぎれとぎれな声で、突んですよ。なかなか面白いしろ物でしてね」 然せき込みながら、こういった。「え、ニコライ・フセーヴ 「きみは : : : その男と話してみましたか ? 」ニコライは急に オロドヴィチ、お互いに個人的にわたる話はやめようじゃあ視線を上げた。 りませんか、え、今後永久にね ? もちろん、あなたがおか 「話しましたよ。ばくが目をつけたら、隠れつこはありませ しいと思ったら、いくらばくを軽蔑なすってもかまわんですんよ。なんでも平気といったしろ物です、まったくなんでも 、しかし、しばらくの間は個人的にわたる話をしないようね。もちろん、ぜに金すくですが、それも一種の信念を持っ
りませんか。それこそ奇蹟だと思います。 et オ commence ま、あなた往来の真ん中で「だれがわたしを慰めてくれるの croire ( わたしはまた信仰を回復しそうです ) 」 だ』などとわめいていらっしやるところを見ると、まだやっ 「 En Dieu ~ En Dieu, qui est lå-haut et qui est grand ばり不仕合わせでいらっしやると見えますね ? 不仕合わせ et sibon? ( 神に対する信仰でしよう、高き所にあり、偉大にしてかなんでしよう、ね、・そうでしよう ? そうでしよう ? 」 っ善良なる神に対する信仰でしよう ? ) ねえ、あたしあなたの講「今はもう仕合わせになりました : : : 」 義をすっかり暗記していますの。マヴリーキイさん、この方「小母さまが失礼なことをなさるんですの ? 」と彼女は相 はね、その頃あたしに偉大にして善良なる神に対する信仰を、手の言葉に耳を藉さないで、勝手に話しつづけるのであっ 熱心に説いてくだすったものよ ! あなた覚えていらっしゃ た。「いつもいつもあのとおり意地の悪い、勝手な人ですけ って、コロンプスがアメリカを発見した時、みんなが陸地陸れど、いつまでたってもあたしたちにとって大切な人は、あ 地と叫んだ話をしてくだすったのを ? あたしは後でその晩の小母さまですわねえ ! 覚えていらしって ? あなたがよ 夢中になって、うわごとに陸地、陸地といったって、乳母のく庭の中でいきなり飛びかかって、あたしを抱きしめてくだ アリヨーナ・フローロヴナが話して聞かせましたの。それかさると、あたしは泣きながら、あなたを慰めたものですわね ら、王子ハムレットの話を聞かせてくだすったのを、覚えてえ。ああ、マヴリーキイさんを怖がらないでくださいな。こ いらっしゃいます ? ああ、そしてまた哀れな移民たちが、 の人はあなたのことを、とうの昔からすっかり知ってらっし ヨーーロツ。、、 ノカらアメリカへ輸送される光景を、くわしく目に やるんですもの。あなたこの人の肩にもたれかかって、いく 見えるように教えてくださいましたわねえ、だけど、あれはらでも足りるほどお泣きになってよござんすの。この人は幾 みんな嘘でしたわ。あたしその後、ほんとの輸送の模様を見時間でもじっと立ってますから ! ・ : まあ、帽子を少し持ち ましたもの。けれどね、マヴリーキイさん、この方はその時上げて、いえ、ちょっとの間すっかり脱いでくださいな。そ どんなに上手に嘘をおっきになったでしよう。本当よりもい して、首を伸ばして爪立ちをしてくださいな。あたしすぐに いくらいですわ。スチ , パンさま、なんだってそんなにマヴあなたの額を接吻しますから。ちょうど最後のお別れにした ) ーキイさんを一生懸命に見ていらっしゃいますの ? このようにね。ご覧なさい、あのお嬢さんが窓の中から、あたし 方は地球全体の人間の中で、一等すぐれた、一等誠実な方でたちを不思議そうに眺めていますわ。さあ、もっと、もっと すから、あなたもぜひあたし同様に、かわいがってあげてく寄ってちょうだい ! あらまあ、なんて白髪におなんなすっ ださいなー il fait tout ce que je veux ( この人はあた たのでしよう ! 」 しの望むことを何でもしてくださいますの ) ときにスチェパンさ 彼女は鞍の上から身をかがめて、スチェパン氏の額を接吻
ーギンはロの中でつぶやいたが、やっと押しこたえて、黙っ るきみの仲間は、だれよりも一番まじめな人たちだと、信じ てしまった。 てるんですよ」 「いくらかかるか ? あなたはなんといったのです ? 」とビ 「『気むずかしい鈍物ども』でしよう。これはいっかあなた ヨートルは躍りあがった。 のいった評言ですよ」 「ばくはね、きみなんかその秘密とやらを持ってどこなと行 「でも、人によっては、「気むすかしい鈍物』ほど愉央なも とこういったのさ ! それよりか、きみ、あすこ のはないね」 へどういう人が来るんです ? むろん、命名日に呼ばれて行 「それは、あのマヴリーキイのことをいってるんでしよう ! あの人は今あなたに婚約の女を譲りに来たんでしよう、それくってことは、ばくもちゃんと知ってますがね、いっこいだ に相違ない、ね ? 実は、ばくが間接に、あの男をけしかけれだれがやって来るんです ? 」 たんですよ、驚いたでしよう。しかし、あの男が譲ってくれ「ああ、それはもう思いきって有象無象の集まりなんでさ あキリーロフもやって来ますよ」 なけりや、ばくらは自分であの男の手から取るだけでさあ、 「みんな各支部の会員ばかり ? 」 ね ? 」 こういう小細工を弄するのが、危険だということは、むろ「ちょっ、馬鹿馬鹿しい、あなたもずいぶんせつかちですね ん百も承知しながら、ピヨートルはいつも興奮に駆られるえ ! まだ支部なんてものは、一つも成立してやしませんよ」 と、 「へえ、だって、きみはすいぶん檄文を撒き散らしたじゃあ いっそ何もかも犠牲にしたってかまわない、未知の境に りませんか ? 」 立たされるよりはましだ、という気になるのであった。ニコ 「いまばくらが出かけているところには、皆で四人だけ会員 ライはただからからと笑った。 がいます。あとの連中はみんなあるものを待ちかまえなが 「じゃ、きみは今でもやはり、ばくの手伝いをするつもりな ら、互いに競争で探偵し合っては、そいつをばくに報告する んですか ? 」と彼はたずねた。 「もしあなたのお声がかりがあったら。しかしねえ、ここにんですよ。なかなか有望な連中です。とにかく、みんなまだ 材料にすぎないんだから、こいつを組織立てて、整理しなき 一つ何よりうまい方法があるんですがね」 ゃならないんです。もっとも、あなたは自分で規約を書いた 「きみの方法なんかちゃんとわかってる」 「へえ、しかし、これは当分秘密です。ただね、おばえておんだから、あなたに説明なんかする必要はありませんね」 ってください 「どうです、なかなかうまく進行しませんか ? 一頓挫きた この秘密は金がかかるんですよ」 したんですか ? 」 悪「いくらかかるかとい、つことまでわかってらあ」とスタヴロ
信じています。まったくのところ、あのひとは、あなたのこあの男をひどい目に遭わすもんだから、つまり、うんと恥を とをどんなことでもできる人のように想像していますよ。け掻かせてやるもんだから、奴さん目ばかりばちくりさせてま れど、今あなたはこれまでにも増して、謎めいた小説的な人すよ。ュリヤ夫人はかえってそれを奨励してるんです。あ 物になっているのです。ーーー実にきわめて有利な立場といわあ、ついでにいっときますが、ガガーノフは恐ろしくあなた なきゃなりませんよ。だれも本当になりかねるほど、あなたに腹を立てていますよ。昨日、ドウホヴォ村でばくに向かっ て、あなたのことを思いきり悪くいってましたつけ。ばくは の出現を翹望しています。ばくはこんど旅行したでしよう、 その前もやはり熱心なことは熱心なものでしたが、今はすぐに事実ありのままをいってやりました。といっても、む まだまだ盛んです。ときに、もう一ど手紙のお礼をいっときろん、本当の事実ありのままじゃないんですよ。ばくは一日 ドウホヴォ村のあの男の家で暮らしましたが、なかなか立派 ます。あの連中はみんな伯爵を怖がってるのです。どうで な領地ですね、いい家ですよ」 しよう、あの連中はどうもあなたを間諜扱いにしてるらしい 「じゃ、あの男は今でもドウホヴォ村にいるんですね ? 」突 ですよ ! ばくはそれに相槌を打つようにしてるんですが、 然ニコライは躍りあがって、烈しく前のほうへ乗り出すよう あなた怒りませんか ? 」 「かまいません」 「かまわないんですよ。これがさきで非常に役に立つんです「いや、今朝ほどばくをこちらへ送って来てくれました。ば からね。ここの連中には一種特別な方式があるんですよ。ばくらはいっしょに帰ったのです」ニコライの刹那の惑乱には っこう気もっかぬ様子で、ピヨートルはこういった。「お くはもちろんそれに賛成でさあ。ュリヤ夫人を初めとして、 ガガーノフもやつばりそれです : : : あなた笑っていますね ? や、ばくは本を落っことした」彼は自分がさわって落とした 実際、ばくには術があるんですよ。さんざ法螺を吹き散らし本を、かがみ込んで拾い上げた。「パルザッグの女たち、挿 ておいて、ちょうどみんなが求めている頃を見計らって、出絵入りだな」とふいに彼はページを繰って見た。「読んだこ レムプケーもやつばり小説を書いてますよ」 しぬけに一つ気の利いたことをいってやる。と、奴さんたとがない。 ち、四方からばくを取り巻くんです。そこで、ばくはまた法「へえ ? 」とニコライは興味を感じたもののようにきき返し 螺を吹き始める。で、とうとうみんながばくに愛想をつかし て、「才能はあるんだが、どうも天から降ったような男で「ロシャ語でね、もちろん内証です。ュリヤ夫人は知ってい ね』てなことをいう。レムプケーはばくを匡正しようと田 5 っ ながら、大目に見てるのです。先生のろまではあるが、態度 て、勤めにつくようにすすめていますよ。ところがね、ばく だけはなかなか立派ですよ。なかなかよく練りあげたもんで 2 ~ 8
統くんですわね。鋏でちょんちょん切ったようにね。ねえ、 かいをしてしまいまして。何もけっしておかしいことはない あたしとても古い話を持ち出すでしよう、けれど、この中にんですの、ただその : : : 」彼女は顔をあかくし、どぎまぎし はずいぶん真理がありますわ ! 」 てしまった。「もっとも、あなたが立派な方だからって、何 彼女は薄笑いを浮かべながら、わたしを見た。もう彼女はも恥ずかしがることはありませんわねえ。それはそうと、マ 幾度となくわたしに目をつけたが、スチェ・ハン氏はすっかりヴリーキイさん、そろそろお暇しましよう ! スチェパンさ のばせてしまって、わたしを引きあわせるという約束を忘れま、もう三十分たったら宅へいらっしやらなくちゃいけませ ているのであった。 んよ。ねえ、うんと話しましようよ ! もう今度はあたしが あいくち 「ですが、なんだってあたしの肖像は、匕首の下にかかって相談柱ですよ、すっかり話しましようね。すっかり。よござ るんでしよう ? まあ、なんだってあなたは匕首や刀を、あんすか ? 」 んなにたくさんもってらっしやるの ? 」 スチエバン氏はたちまちもう泡をくった。 「おお、マヴリーキイさんはみんな知ってらっしやるんです 実際、なんのためだか知らないが、壁には二ふりのトルコ 剣が、十字形に組み合わせてかかっている上に、本物のチェ の。この方にご遠慮はいりませんわ ! 」 ルケス刀まで飾ってあった。こんなことを聞きながら、彼女「何を知ってらっしやるんです ? 」 はひたとわたしのほうを見つめるので、わたしも何か返事し 「まあ、あなた何をおっしやるんですの ! 」と彼女は驚いて ようとしたが、ロごもってしまった。スチエバン氏はやっと叫んだ。「なるほど、みんなが隠してるっていうのは、まっ 気がついて、わたしを紹介した。 たくなんですわね。あたし本当にできなかったわ。ダーシャ 「知ってます、知ってます」と彼女はいった。「まったく嬉まで隠そうとしてるのよ。小母さんたら、さっきあたしを、 しゅうございますわ。母もやつばりあなたのことを、いろい ダーシャに会わしてくださらないんですもの。あの娘は頭が ろ伺って承知していますの。マヴリーキイさんとも近づきに痛いとかいってね」 なってあげてくださいな、それはいい人なんですから。あた 「しかし : : : どうしてあなたそんなことを知ったのです ? 」 しね、あなたという人のことで、おかしな概念を作り上げて「まあ、何をおっしやるの、皆と同じように知っただけです しまってるんですの。だって、あなたはスチェパンさまの相わ。なにも大して知恵なんか、いりやしませんよ ! 」 談柱でしよう ? 」 「え、皆が : : : 」 わたしはあかくなった。 「そうですわ、なぜ ? もっとも、最初はお母さんが、乳母 愿「ああ、どうか堪忍してくださいましね、あたし妙な言葉づのアリヨーナから聞きましたの。そして乳母にはね、お宅の
ーズ、緑色がかった小さなウォートカのびん、長いポルドー 化粧をしたくらいですからなあ」と彼はロを歪めて、ふざけ こういうものがすべて小綺麗に、順序をわき た薄笑いを浮かべようとしたが、すぐにまた引っ込めてしま酒のびん、 つ、 ) 0 まえて、手際よく配列してあった。 「全体として ? どんなふうだね ? 」ニコライは顔をしかめ「これはきみのお骨折りかね ? 」 「わたしでございます。もう昨日からかかって、できるだけ ながらきいた。 「全体として ? それはご自分でご承知のとおりです ( と彼のことをしましたので : : : あなたに敬意を表しようと思って : マリヤはこういうことになると、ご承知のとおり無頓着 は気の毒そうに肩をすくめた ) 。ところで、今は : : : 今はじ でございますからなあ。まあ、とにかく、あなたご自身のお っと坐って、カルタの占いをしております : : : 」 「よろしい、後にしよう。まずきみのはうから片づけなきや恵みでできたもので、あなたご自身のものでございます。な ぜといって、この家のあるじはあなたでして、わたしじゃあり ならない」 ませんからね。わたしなんぞはまあ、あなたの番頭といった ニコライは椅子に腰を据えた。 大尉はもう長いすに坐る勇気がなくて、すぐに自分も別なような格でございます。しかし、なんと申しても、なんと申 椅子を引き寄せた。そして、びくびくもので、相手の言葉をしても、ニコライさま、なんといっても、わたしは精神的独 立をもっております。どうか、たった一つ残ったわたしのこ 待ち設けながら、体をかがめて謹聴の態度を取った。 。いったの財産を取り上けないでください ! 」彼は一人で悦に入りな 「あの隅っこのはうにグロースがかぶせてあるのま、 がら言葉を結んだ。 いなんです ? 」突然ニコライは気がついて、こうたすねた。 「あれで′」ざいますか ? ・」レビャードキンも同じく振り向い 「ふむ : : : きみはまた坐ったらどうだね」 「いや、ど、つもありがと、つ 1 」さいます。ありがと、フは′」ギ、し た。「あれはあなたご自身のお恵みでできたものでございま す。いわばまあ、引っ越し祝いといったようなわけで : : : そますが、それでも独立性をもった人間です ! ( 彼は坐った ) おお、ニコライさま、わたしのこの胸は煮えくり返るよう れに、遠路のところをわざわざお運びくださることですし、 また自然それに伴うお疲れなども考えましてな」と彼は恐悦で、とてもご光来が待ちきれないだろう、と思われるくらい げにひひひと笑った。それから席を立って、爪立ちで片隅のでございました ! さあ、今こそ運命を決してください、わ たしの運命と、そして : : : あの不幸な女の運命を : : : そのう テープルに近寄り、そ , つつとうやうやしげにクロースを取り えで : : : そのうえで昔よくやったように、あなたの前にすべ のけた。 悪その下からは用意の夜食が現われた。ハム、犢肉、鰯、チてを吐露してしまいます、ちょうど四年以前と同じようにお えっ