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検索対象: ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)
137件見つかりました。

1. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

たんです ? まさかひとりでのつかったわけでもありますま 間には、勝れた人物が加入しないんでしよう。なんだってだ い ? もしそうとすれば、なんだってあなたはばくをそういれもかれも大学生だの、二十二かそこらの小僧っ子ばかりな じめるんです ? 」 んでしよう ? それにそんなに多いんですかね ? 何百万と 彼は痙攣的に額の汗をハンカチで押し拭った。 いう大がさがし廻っているにもかかわらず、あまり挙がって こないじゃありませんか。七人かそこいらのもんでしよう。 「わたしにも多少は知れてることがあるかもわからんさ 」とレムプケーは巧みにごまかした。「しかし、そのキまったく情けなくなってきますよ」 リーロフというのは何者だね ? 」 レムプケーは注意ぶかく聴いていたが、「昔話じゃ鶯は飼 「ええ、それはよそからやって来た技師で、例のスタヴロー えないぞ』というような表情をしていた。 ギンの介添人をした男です。夢中になってものに凝る、気ち 「しかし、失敬だが、きみの確信するところによると、この がいみたいな人間ですよ。あの中尉が、本当に熱に浮かされ手紙は外国へ宛てて出したというのだね。けれど、ここに宛 た一時的の精神錯乱とすれば、まあ、この男なそは正真正銘名がないじゃないか。この手紙がキリーロフ氏に宛てたもの の立派な気ちがいです、その点はばく十分に保証します。ねで、しかも外国へ向けて出したということが、どうしてきみ え、知事公、政府のほうでも、この連中が実際どんな人間か にわかったんだろう。それに : : : それに、はたして本当にシ ってことを確かめたら、まさか手を下す気にはならなかった ャートフ野、が圭冖いたとい , っことが : でしよう。あんなやつはみんな残らず、そのまま癲狂院へで「じやさっそく、シャートフの筆蹟をさがして、ご覧になっ も送ってやったらいいですよ。ばくはスイスにいる時もいろたらいいでしよう。何かシャートフの署名が一つくらい、き んな集会で、あんな連中を飽き飽きするくらい見ましたよ」 っとあなたの事務所にあるはずですからね。またキリーロフ リーロフが当時ばくに見せ 「あちらで ? ここの運動を支配してる本場で ? 」 に当てたということは、本人のキ 「え、いったいだれが支配するんです ? 三人半ばかりの人てくれたのでわかります」 間ですか。実際あの連中を見てると、しみじみ情けなくなり 「じゃ、きみが自分で : : : 」 ますよ。それに、ここの運動って、全体どんな運動があるん「ええ、ええ、もちろんばくが自分で見たのです。ばくには です ? 檄文のことでもいわれるんですか ? それに、どん いろんなものを見せてくれましたよ。ところで、この詩です 電な人間が加入してるんでしよう ? 熱に浮かされた中尉殿 な、これは亡くなったゲルツェンが、まだ外国を放浪してい 、二人か三人の大学生ですかね ? あなたは聡明なかたでる時分に、邂逅の記念のためだか賞讃のためだか、それとも 悪すから、一つ質問を提出しましよう。どうしてあの連中の仲紹介のつもりだか、まあ、そんなことは知りませんが、なん舅

2. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

誤解されていた人物の、新しい一面が照し出されたのだ。そな地主という事実だ 0 た。こういう人がどうして一世の支柱 れはほとんど理想的に厳正な理解を持った人物である。一人となり、国士としての活動をせずにいられよう、というの の大学生、もう今は奴隷でもなんでもない教育ある人間か だ。もっとも、わたしは前にちょっとことのついでに、わが ら、死にも価する侮辱を受けながら、彼はこの侮蔑を蔑視し国の地主の心持ちを語っておいたはずである。 一同は夢中になってしまった。 た。それは侮辱を与えた当人が、わが家のもとの奴隷だから である。世間では大騒ぎして、陰口を叩いている。軽率な世「あの男はその大学生に決闘を申し込まなかったばかりか、 間は生面を打たれた男を侮辱の目をもって眺めている。けれかえって手をうしろに引っ込めましたよ。これをとくにご注 ど、彼は真正な理解をもちうるまでの発達を遂げずに、しか意ください、閣下」ともう一人が指摘した。 も、それを喋々する世間の輿論を蔑視しているのだ。 「また新法律で改正された裁判所へ、突き出そうともしなか 「それだのに、イヴァン・アレグサンドロヴィチ、わたしら った」と別な一人がつけ足した。 はお互いに真正な理解を説いたり、論じたりしてるんです「改正裁判所が貴族たるあの人の個人的侮辱に対して、金十 よ」と、一人の年とったクラブ員は、高潔な自己譴責の発作五ループリ也の科料を、相手に宣告してくれるにもかかわら に駆られて、相手のものにこういっこ。 ずですかね、へへへ ! 」 「そうですよ、ビヨートル ・ミハイロヴィチ」と相手のもの 「いや、それなら、わたしが改正裁判所の秘密を教えましょ は愉央そうに相槌を打った。「それで、若い連中のことを云 う」とある一人はのばせあがって、「もしだれか泥棒なり詐 云してるんですからなあ」 欺なりをして、それを明白に突き留めて見あらわされたら、 「この場合、若い連中が問題じゃないんですよ、イヴァン・ 隙のあるうちに大急ぎで家へ駆け出して、母親を殺すに限り アレグサンドロヴィチ」別な一人が横合からロを挾んだ。 ますよ。さっそくなにもかも弁明してくれて、傍聴席の貴婦 ′チスト いや、ま 「この場合、若い連中が問題じゃない。一個の明星です。け人たちは絹麻のハンカチを振り立てますから、 っしてそんじよそこらの若い連中の仲間じゃありません。こ ったくの真理ですよ ! 」 「真理、真理 ! 」 の事実はこういうふうに解釈すべきです」 「またああいう人が必要なんですよ。人材が乏しくなってし 同時にまたさまざまな噂の種も出ずにはすまなかった。ニ まいましたからねえ」 コライと伯爵との関係も、人々の記憶に蘇った。今度の改 しかし、何より肝腎なのは、この「新人』がなおそのほか革に対する伯爵の非公式な、とはいえ厳な意見は、世間に に、「正真正銘の貴族』であって、おまけに県内一番の富裕知れていた。また最近にいたって、いくぶん弛緩したけれ いきづら

3. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

掃除をいいつけたんだがね。それに、本まで床にごろごろし し、ほんのそれだけのことらしい。ダーリヤに関する讒謗に ている。 la pauvre amie ( あの不幸な女友だち ) はわたしの いたっては、もうまったく馬鹿馬鹿しい話で、リプーチンの ごみ ところが埃だらけだといって、始終おこり通していたつけが畜生のこじつけにすぎない。少なくも、キリーロフがむきに : ああ、もうこれからはあのひとの声も響くことはないのなって、その噂を否定している以上、われわれはその言葉を おやこ だ ! 二十年 ! ところが、あの母娘の者は、無名の手紙を信じないわけにいかない。 幾本も持ってるらしい、実に驚いてしまうじゃないか。ニ スチェパン氏はまるで、自分にはなんのさし触りもないよ コラスがレビャードキンに領地を売ってしまったなんて。 うな、ばんやりしたふうでわたしの説明を聞いていた。わた アンファン C'est un monstre ( まったくどえらいことだよ ) つまり、レピしは話のついでに、キリーロフとの対話を物語って、あの男 ャードキンとは何者かという問題なんだ。 Lise は一生懸命はことによったら気ちがいかもしれぬ、といい足した。 に聴いてるんだ ! 夢中になって聴いてるんだ。わたしがあ「あの男は気ちがいじゃなくて、お手軽な思想を持った連中 の哄笑をゆるしたのも、つまり、その聴いてる顔つきが真剣の仲間なのさ」と彼はさも大儀そうなだらけた調子で、ロの だったからさ。ところが、 ce MauriceC あのモー リス ) ・ : ・ : わ中でもぐもぐいった。「 Ces gens ・ lå supposent la nature たしは今のあの男の役には廻りたくないよ。 brave homme et la société humaine autres que Dieu ne les a faites tout de méme ( とにかく正直な男だが ) 、少し内気すぎるよ。 et qu ・ elles ne sont réellement ( ああいう連中は自然や人間 だが、あんな男のことなぞどうだってかまわないさ 社会を、神が造ったものとも、また実際におけるものとも、別なふ うに想像している ) よく人はああいう連中と遊びたがるものだ 彼はロをつぐんだ。彼は疲れて、しどろもどろになり、ぐ ったりしたように、じっと床を見つめながら、カなくかしらが、少なくともスチェパン・ヴェルホーヴェンスキイはそん を垂れて坐っていた。わたしは言葉の切れ目を幸いに、例のなことをしない。わたしは avec cett chére amie ( わが親 フィリッポフの持ち家訪問を物語った。そのついでに、ぶつ愛なる女友だちといっしょに ) 、。 へテルプルグであの手合いに会 ったが ( 当時、わたしは実際あのひとを侮辱したものだ ! ) 、 きら棒なそっけない調子で、自分の考えを話してみた。ほか でもない、あのレビャードキンの妹は ( もっとも、自分で会わたしはあの手合いの罵倒ばかりでなく、賞讃の言葉にさ ったことはないけれど ) 、ニコラスがリプーチンのいわゆるえ驚かなかった。今でも驚きやしないよ。 mais parlons d ・ autre chose ( しかし、もうほかの話をしよう ) : ・・ : わたしは 電謎の生活を送っていた時代に、実際、彼の犠牲になったのか もしれない。そして、レピャードキンがなぜかニコラスからどうも恐ろしいことをしでかしたような気がする。まあ、ど 金をもらっているというのも、大いにありうることだ。しか うだろう、わたしは昨日ダーリヤに手紙を出したんだ。そし〃 ヴ . アンタン

4. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

彼らを恐れているらしかった。しかし、見るから暇がないと には犀利な機知がないということになる。 いうようなふうだった。また、ヴァルヴァーラ夫人が久しい 彼はまた二、三の連名抗議文に署名をしいられて ( 何に対 前から、みやびやかな交際をつづけていた前時代の著名な文する抗議やら、彼自身も知らない ) 、署名をした。ヴァルヴ 学者で、当時ペテルプルグに居合わせた人たちも、二、三顔 アーラ夫人も、何かしらけがらわしい仕事』に署名をしい を見せた。けれど、驚いたことには、こうした本当の大家、られて、これも同様に署名した。もっとも、これらの新しい 疑う余地のない大家が、水よりも静かに、草の葉よりもつつ人たちの大多数は、ヴァルヴァーラ夫人を訪問には来るけれ ましやかなのであった。中には明らかに、今のわいわい連にど、なぜか隠しきれない嘲りと軽蔑の念をもって、夫人を見 付和電同して、意気地なくその鼻息をうかがっているようなおろすのを義務と心得ていた。その後スチ = パン氏が心安か のもあった。 らぬ折々に、わたしにほのめかすところによると、夫人はこ 初めのうち、スチ = パン氏は廻り合わせがよかった。彼はの時から彼を羨み始めたのだそうである。もちろん、夫人も 方々から引張り凧になって、いろいろな文学会の席へ引き出こんな連中を相手にすべきでないことは、自分でよく承知し されるようになった。初めてある公開の朗読会で、朗読者のていたけれど、それでも婦人特有のヒステリッグな焦躁をも 一人として演壇に現われたとき、割れるような拍手が起こっ って、夢中になってこの連中を迎えた。何よりも、しじゅう て、ものの五分間ばかり鳴りもやまなかった。彼は九年後に何ものかを待ち設けるような心持ちが、強かったのである。 涙とともにこのことを思い出した、 もっとも、それは感こうした夜の集会では、夫人はあまり多く話さなかった。む 謝の涙というより、むしろ持ち前の芸術的性情から出たことろん、その気にさえなれば、話すこともできたのだが、どち である。「本当だよ、誓ってもいい、賭でもするよ』と彼はらかといえば人の話を傾聴するほうが多かった。その連中の わたしにい 0 た ( これはわたし一人にだけ秘密でうち明けた話題といえば、検閲の撤廃、硬音符音に終わる語の後 ) のである ) 。『この聴衆の中で、わたしのことを少しでも知っ止、ロシャ文字を廃してラテン文字を代用すること、きのう ているものは、まるつきりいなかったんだからねえ ! 』これだれやらが追放されたという話、勧工場で見苦しい騒ぎが始 はなかなか意味深い告白である。もし彼が当時演壇に立ったまったという噂、自由な連邦組織の下にロシャを民族別で分 刹那、感激に溢れた心をいだきながら、そのくらい明確に自立さしたほうが有益だという説、陸海軍を廃止すること、ド 己の地位を意識しえたとすれば、つまり犀利な機知を持ってネープル流域のポーランドの土地復興、農民改革と檄文の配 いるということになる。が、同時に、九年もたった後、侮辱付、相続制度、家族制度、親子関係、僧侶制度などを全廃す の感なしにこれを回想することができなかったとすれば、彼ること、婦権を高唱すること、万人が異ロ同音にその非を鳴

5. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

てなろうと思わない。一八四七年のことだ。外国におったペ 知に富んだ、自由主義的な』、古いロシャ式のでたらめが、 のべっその辺に響いていないだろうか、諸君もっていかんとリンスキイが、ゴーゴリにかの有名な手紙を寄せて、ゴーゴ なす ? リが「なんだか妙な神なんてもの』を信じているといって、 わが指導者は神を信じていた。「どうしてここの人がみな、手きびしく非難したものだ。 Entre nous so 洋 dit ( ここっきり わたしのことを不信心者と銘打ってしまったのか、とんと合の話だが ) ゴーゴリが ( 当時のゴーゴリだよ ! ) この一節を読 いいいした。「わたしみ : : : この手紙の全文を読み終わった瞬間以上に滑稽なもの 占 ~ がいかないよ」ときどき彼はこ , 2 一「ロ は神を信する。 Mais distinguons ( しかし断わっておくが ) わを、わたしはちょっと想像することができないよ ! しか たしはただわたしの中にあって自己を意識する存在物としてし、滑稽などいう感じは棄ててしまって ( 実際、わたしはこ のみ、神を信じているのだ。実際うちのナスターシャ ( 女中 ) との本質には同感なんだからね ) 、直截に断言するが、こう や、どこかの地主などのように、「万一の用心のため』に、 いう人たちこそ本当の人間だったのだ。彼らは自国民を愛す 神を信ずるわけにはゆかないからね。それから、それからまることができた、自国民のために苦しむことができた、自国 た、かの親愛なるシャートフのような信じ方もできない、 民のためにいっさいを犠牲にすることができた、しかもそれ いや、しかし、シャートフは勘定に入れまい と同時に、必要な場合には、自国民に接近しないでいること フはモスクワのスラブ主義者のように、強制的に信じてるができた、ある種の観念に対してはけっして仮借しない、と んだからね。そこでキリスト教はどうかというに、わたしは いう態度を取ることができた。まったくべリンスキイも、精 衷心からこれに尊敬をいだいてはいるけれど、しかし、キリ進パターや、豌豆と大根の煮つけなどの中に、救いを求める ことはできなかろ , フじゃないかー スト教徒じゃない、わたしはどちらかというと、大ゲーテか が、ここでシャートフが口をいれた。 または古代ギリシャ人のような古い異教徒なんだ。それは、 キリスト教が女を解しなかったという、この一つだけでも立「いや、あんな連中はけっして国民を愛したことはないで 派な理由になるよ、このことは、 ジョルジュ・サンドがす、国民のために苦しんだこともないです、何一つ犠牲にし その天才的な作品の一つで、立派に指摘しているとおりだ。 たこともないです。いくらあの連中が自分の気休めに、そん また礼拝だの、精進だの、その他なんだのかだのということ なことを考えたって駄目です ! 」と彼は目を伏せたまま、じ にいたっては、どういうわけで人からそんなことを干渉されれったそうに椅子の上で体を捻じ向けながら、気むずかしげ るのか、いっこうに合点がいかないよ。ここの告げロ屋どもに唸るようにいった。 がどんなに騒いだって、ジェスイット教徒なんかにはけっし 「え、それはあの人たちが、国民を愛しなかったというのか

6. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

でもシャートフに書いてやったんだそうです。それで、シャ こで檄文事件でつかまったのは、大学生が二人に中学生が一 ートフはこいつを若い連中の間に吹聴して廻ってるんです。人、はたちばかりの貴族が一人に小学教師が一人、それから これがゲルツェン自身のばくに関する意見だ、とかいってね」酒のために耄碌した六十ばかりの退職少佐、これだけなんで 「な、な、な」やっとのことで、レムプケーはすっかり腑にす。まったくのところ、これつきりなんですからね。しか 落ちた。「それでわたしも変に思ったんだよ。檄文、ーー・そし、六日の日数がいりますね。ばくはもう算盤をはじいて見 れだけならわかってるが、詩なんか、いったいなんのために たが、六日はかかります。それより早くというわけにいきま 刷ったんだろうと思ってね」 せん。もし何かまとまった結果が見たかったら、六日の間は ひと 「まあ、あなたはどうして合点がゆかないんでしよう。ちえあの連中をそっとしておいてくださし冫 、。まくは一網にすっか つ、馬鹿馬鹿し、 し、いったいばくはなんのために今まであなり挙げてしまいます。もしそれより以前に手を出したら、せ しいです・か、どうかば′、に たにしゃべり立てたんだろうー つかくの巣を散らしてしまいますよ。しかし、シャートフは く冫くたさし冫 シャートフを渡してください。もうこうなったら、ほかの連ばこ 、。まくはシャートフのためになら : : : 一番し 中なんかどうなろうとかまやしない。キリーロフだってどうい方法としては、秘密にあの男を呼び寄せて、親友的な態度 なと勝手になさい。あの男は、シャートフの住まっているフでこの書斎なり、どこなりへ通してですね、彼らの内幕をさ ィリッポフの持ち家に閉じこもって、じっと隠れ込んでるのらけ出して見せて、一つ試験してやるんですな : : : そうすれ です。あの男はばくを好かないんですよ。なぜって、ばくがば先生、きっとあなたの足もとに身を投じて、声をあげて泣 こちらへ帰って : : : とにかく、シャートフのことだけは ーくき出すに相違ありません ! あれは神経質で不幸な男なんで に約東してください。その代わり、ほかの連中は一皿に盛りす。あの男の細君は、スタヴローギンと勝手な真似をしてい 上げて、あなたの膳にすすめますよ。ばくだって役に立ちまるんですからね。実際すこし優しくしてやったら、あの男は すぜ、知事公 ! ばくの考えでは、あのみじめな連中はみなすっかり自分のほうからぶちまけてしまいますよ。しかし、 で九人か、ーー十人くらいのものだと思います。ばくはあの六日の猶予はどうしても必要です : : : ところで、何よりも、 連中の様子を探ってるんです。個人としてね。今のところ、 その、何よりも奥さんに一言半句も洩らさないことが、もっ 三人だけわかっています。シャートフと、キリーロフと、そとも肝腎な点なのですよ。秘密が守れますか ? 」 れからあの中尉さんです。後の連中はまだやっと見当をつけ 「なんだって ? 」とレムプケーは目を剥き出した。「きみは ているところで : : : ばくもまんざらの近眼じゃありませんュリヤにもまだ何も・ ・ : : うち明けていないのかね ? 」 よ。まあ、ちょうどあの県と同じようなもんですよ。あそ「奥さんにですか ? とんでもない ! ねえ、知事公 ! 一

7. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

してはばからないね。いったいロシャ人は、自分の労力で生 れた。その時スチェパン氏はさんざんにこれを冷笑した。 「諸君よ」と彼はわたしたちに説いて聞かせた。「わが国民活できない国民なんだ。ぜんたいなんだってあの連中は、ふ 性なんてものは、かりにいま新聞などで喧しくいってるとおいに天から降ってでも来たように、だしぬけに「生まれて来 り、本当に生まれ出たものとしても、まだやっと小学校時代た』社会的意向なんてものを担いで、騒ぎ廻っているんだろ だよ。ドイツ学を基礎としたペテルシ = ール ( ピ ' ートル大帝 ) あう ? 一つの意見を獲得するためには、何よりもまず第一に 冫しつもい労力、自分自身の労力と、事業に対する自己の創意と、自分 たりで、ドイツ語の本をかかえながら一生懸命 つも変わりのないドイツ語の学課を暗記してるといったとこ自身の実践が必要だということを、いったいあの連中は会得 さ。そして、ドイツ人の教師は必要な場合、罰として膝をつしないのかね ? なんだって、ただで得られるものは一つも かすこともあるんだよ。わたしはドイツ人の教師を賞めてやありやしない。なんでも努力するんだね。そしたら、自分の 、一ばん確意見をも持っことができる。ところが、われわれはけっして るよ。しかし、何事も起こらなかったというのカ かなところさね。何ものも生まれなかったんだよ。そして、努力しないから、われわれに代わって今まで努力したもの すべ・ては旧態依然たりさ、つまり神の守護の下に生活してるが、われわれに代わって自己の意見をも持ってくれる。それ のさ ! わたしの意見では、ロシャにとっては、 pournotre は依然として、例の西欧だ。例のドイツ人だ。つまり、二百 sainteRussie ( わが神聖なるロシャにとっては ) それでたくさ年来のわれわれのお師範役なのだ。おまけにロシャという国 んなんだよ。それに、このスラブ主義や国民性なんてものは、ドイツ人の力を借りずして、彼らの努力を待たずして、 は、新しきものとなるべくあまりに古すぎるよ。もし強いてわれわれの自力で解決するにはあまりに大きな謎なのだ。わ 国民性がお望みなら、それは地主たち、しかもモスグワの地たしももうこれで二十年間、警鐘を鳴らして働けと叫んでい 主たちのグラブの思いっき、というような形を取って現われる ! この警報のために自分の一生を捧げて、馬鹿馬鹿しく もその効果を信じていたのだ。今ではもうそんなことを信じ たくらいのもので、ほかにはけっしてない現象だからね。も ちろん、わたしはイーゴリ公時代 ( 計しのことをい 0 てるんないけれど、警鐘は今でも鳴らしている。死ぬまで鳴らしつ じゃないよ。そして、最後に注意すべきは、すべては安逸かづけるつもりだ。人がわたしの法会に鐘を鳴らしてくれるま で、繩が切れても鳴らしつづけるつもりだ ! 」 ら生じるということだ。ロシャではすべてが、善きにつけ、 悲しいかな ! われわれはただ合槌を打つばかりであっ 電悪しきにつけ、すべて安逸から生まれるんだよ。何もかも口 シャ独特の地主的な、教養のある、愛すべき、気まぐれな安た。われわれはこの指導者の言にわけもなく喝采した、しか 悪逸から生じるんだ。わたしは三万年間でも、このことを断言も夢中になって喝采した ! 今でもこうした「愛すべき、機 メザミ

8. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

者や狂信者にならない権利を持っています。その自然の結果いたらいいでしよう。ああ、スチ , パン・トロフィーモヴィ田 として、わたしは世の終わりまでいろいろな人から憎まれるチ、わたくしはあなたに真面目でお話しようと思って、帰っ ことでしょ , つ。 et puis, comme on trouve toujours plus て来たんですよ」 っでも道理より坊主の多「 Chöre, chöre amie 一 ( あなた、あなた ) 」 de moines que de raison ( それに、、 「今あんなレムプケーとか、カルマジーノフとかいう連中 いたとえでね ) というわけで、わたしはそれにぜんぜん同意な ・ : ああ、本当にあなたはなんてまあ箍が弛んでしまっ んですから・ : ・ : 」 たものでしよう ? あなたがどんなにわたしを苦しめていら 「え、え、あなたなんといったのです ? 」 っしやるか、とてもおわかりにならないでしよう ! わたし 「いつでも道理より坊主の多いたとえだといったのです。と はあんな連中が、あなたに尊敬の念を起こすようにしたいの いうわけで、わたしはそれに : 「それはきっと、あなたのいったことじゃありますまい。大です。だって、あんな人たちは、あなたの小指の先はどの値 打ちもないんですもの。ところが、あなたの態度ったらどう 方どこからか取って来たのでしよう ? 」 でしよう ! あの連中が見たら、なんといいます ? わたし 「これはパスカルのいったことです」 「そうだろうと思ってました : : : あなたのいったことじゃあどうしてあの連中に引き合わしたらいいんでしよう ! 高潔 りますまい。なぜあなたはいつも簡潔に、びったりとうがつな生ける証明として、一世の風潮に逆らって立ち、人の模範 たる生活をつづけようとはしないで、やくざな連中に囲ま たものの言い方をしないで、ああだらだらと冗漫な話つぶり をするんでしよう。このほうがあんな行政的感興より、どれれ、何かこう我慢のならない癖がしみついて、だんだん老い ばれていらっしやるじゃありませんか。酒とカルタなしじゃ だけ気が利いてるかわかりませんよ : : : 」 ・ド・コッグばか 「 Ma foi, chére ( まったくです、あなた ) ・ : : ・ いったいそれは夜も日も明けないのです。あなたはポール り読んで、猫も杓子も争って書く今の世に生まれながら、ま なぜでしよう。まず第一には、なんといってみたところで、 わたしが・ハスカルでないからでしよう。 etpuis ( それから ) るで何も書かないじゃありませんか。あなたの時間はすっか : それから第二には、われわれロシャ人というやつが、自分りおしゃべりに潰れてしまってるんです。いったいまあ、あ の国の言葉では何一つろくなことがいえないからです : : : 少なたの腰巾着になっているリプーチンみたいな、あんなやく なくとも、今まで何一ついったことがありませんからね : : : 」ざ者と友だちづき合いなんかしていいものですか、許さるべ きことですか ? 」 「へえ ? それは本当でないかもしれませんよ。とにかく、 あなたは話の時の用意に、そんな言葉を書き留めて、覚えと 「なぜあの男がわたしの腰巾着なんです ? 」とスチェ・ハン氏

9. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

の会が新しい計画によって組織の変更をしたとき、ちょっと昧で、人の意表外に出るから、まったくのところ、ロシャで はなんでもやってみることができますよ。きみも気がついた それに関係しただけなんです、それつきりです。ところが、 今あの連中は考えを変えて、ばくという人間もやはり手放しでしようが、ヴ , ルホーヴ = ンスキイは執念ぶかい男ですか ては危険だと、内々決議した。だから、ばくも同じ宣告を受らね」 「あいつは南京虫だ、下司だ、ロシャのことをなに一つ知ら けているらしいんです」 ない馬鹿者だ ! 」とシャートフは毒々しく叫んだ。 「おお、やつらはなんでもかでも死刑です、なんでもかでも 「きみはあの男をよく知らないのです。そりや全体として、 指令で決まるんです。何かの紙切れに印を捺して、三人半ば かりの人間が署名するんだ ! で、きみはやつらにそんなこあの連中がロシャについて知るところが少ないのは事実だ が、しかし、きみやばくよりほんの少しばかり、知り方が少 とができるとお思いですか ? 」 ないというだけのこってすよ。それに、ヴェルホーヴェンス 「きみのいうことはなかば正しく、なかば違っていますね」 スタヴローギンは相変わらす気のない調子で、むしろ大儀そキイは熱情家ですよ」 「ヴェルホーヴェンスキイが熱情家ですって ? 」 いつでもこういう場合に見受 うに言葉を次いだ。「そりや、 「ええ、そうですとも。ある一つの点があって、それを踏み けられるように、愚にもっかない空想がたぶんに含まれてる のはもちろんです。一塊りぐらいの人間が、その発達や勢力越えると、もうあの男は道化じゃなくなって、その : : : 半き ちがいになるのです。「一人の力がいかに偉大なるかをきみ を誇張して考えてるんですよ。遠慮なくいわしてもらうと、 ヨートル・ヴルホーヴェンスキイ一は知りたもうや ? 』といったきみ自身の言葉を思い出したら あの連中の仲間は、ピ しいでしよう。どうか、笑わないでくれたまえ。あの男はい 人きりなんです。ところが、当のあの男さえ、自分はある会 の代表者にすぎないと、こんなことを考えてるはどのお人好ざとなったら、引き金を下ろす力をもってるんだから。あの しなんですからね。しかし、根本の理想は、他の同種類のも連中はばくを廻し者と信じ切っています。あの連中はだれも くぶん気が利いているようです。あの連かれも、自分でうまく仕事を運ぶ腕がないものだから、人を のに比較すると、い 中は、インターナショナルと連絡を保って、ロシャ各地へ巧間諜よばわりするのが、恐ろしく好きなんですよ」 みに代表者を置いたものです。しかも、ずいぶん奇抜な方法「しかし、きみは恐ろしくないですか ? 」 ししゃ : : : ばくは大して恐ろしくないです : : : しかし、 : しかし、もちろん、理論のみに を考えついたようですが : とどまっている。ところで、この土地における彼らの計画はきみの場合は全然べつです。とにかく、ばくはきみがこのこ どうかというと、わがロシャではそうした結社運動が実に曖とを頭におくように、前もって注意しておきますよ。ばくに

10. ドストエーフスキイ全集9 悪霊(上)

「進行 ? たやすいことこのうえなしでさあ。一つあなたををばかんと口を開けて見てるようなやつは、引っかけて来ず 2 笑わしてあげましようか。まず何より彼らにききめがあるの にいられないじゃありませんか ? どうもあなたは成功の可 ほかでもない官僚式です。官僚式以上に、よく利く 能を、真面目に信じていないようなふうですね。なに、信念 ものはありませんね。ばくはわざと官等や職務を考え出してはあるんです。ただ欲望が必要なんですよ。つまり、ああい るんです。秘書官もあれば、秘密監視もあり、会計係もあれう連中が相手だから、成功が可能なんです。ばくはあえてい ば、議長もあり、記録係もあれば、その助手もありというふ いますがね、あの連中なら火の中でも潜らしてみせますよ。 それが大変お気に召して、恐ろしく歓迎されたんただお前の自由思想はまだ不十分だ、とこうどなりつけさ ですよ。それに次ぐ力は、もちろん感傷主義です。ねえ、ロ えすりやいいんでさあ。馬鹿者どもはばくが中央本部だの、 シャに社会主義がひろまったのは、主として感傷主義のため「数限りない支部』だのと出たらめをいって、この町の連中を ですからね。ただ困ったことには、例の咬みつき少尉みたい だましたと非難しています。現在あなたも、いっかそのこと な連中が出て来ます。ちょいと汕断してると、すぐもう鎖をでばくを責めたでしよう。しかし、それにいったいどんな嘘 切ってしまうんですからね。その次は本当の詐欺師連です。 があるのです。中央本部はばくとあなたです。支部なんかは これはなかなかいいです。時によっては、大いに役に立ちま いくらでもできまさあね」 す。が、その代わりこの連中には、ずいぶん時間が潰れるん「それがどれもこれも、あんなやくざ者ばかりだ ! 」 です。ちょっとも油断なしに、監督しなくちゃなりませんか「材料ですよ。あれだって役に立っこともあります」 らね。ところで、最後に最も重要なる力は、 はかじゃあ「で、きみはやはりばくを当てにしてるんですか ? 」 りません、自分自身の意見に対する羞恥です、 これはい 「あなたは領袖です、カです。ばくはただあなたの傍につい っさいを結合させるセメントです。実に素晴らしいカですてる一介の秘書官にすぎません。ねえ、ばくらはあの小舟に ぜ ! 実際、だれ一人の脳中にも、自己の思想というものが乗り込むんですよ。かえでの櫂に絹の帆張りで、艫には麗し 一つも残らなくなったとま、、 冫しったいまあだれが努力した結乙女子の、リザヴェータのきみぞ坐したもう : : : とかなんと 果なんでしよう ? いったいどこの「感心な男』の仕業なんかいうんだったね、あの歌は : : : ええ、どうだっていいや」 でしよう ? まるで恥辱のように思ってるんですからねえ」 「つまっちゃった」とスタヴローギンは高笑いした。「いや、 「そういうわけなら、きみはなんだってそんなにやきもきしそれよりももっといいお話をしよう。きみはいま指を折っ てるんです ? 」 て、会を成立させる力を数えましたね。その官僚式とか感傷 「でも、何をするでもなく暢気に寝そべって、人のすること主義とかいうものも、むろん立派な糊に相違ないだろうが、