んとかあ、一と言うばかりで、時々怖い目をして、おれこう校長がなにもかも責任を受けて、自分の咎だとか 不徳だとかいうくらいなら、生徒を処分するのは、や の方を見る。おれも負けずに睨め返す。 ところへ待ちかねた、うらなり君が気の毒そうにはめにして、自分からさきへ免職になったら、よさそう めんどう なもんだ。そうすればこんな面倒な会議なんそを開く いって来て少々用事がありまして、遅刻致しましたと いんぎんたぬき 慇懃に狸に挨拶をした。では会議を開きますと狸はま必要もなくなるわけた。第一常識から言 0 ても分 0 て ず書記の川村君に蒟蒻版を配付させる。見ると最初がる。おれが大人しく宿直をする。生徒が乱暴をする。 処分の件、次が生徒取締の件、その他二三か条である。わるいのは校長でもなけりや、おれでもない、生徒た 、きりよう もったい 狸は例のとおり勿体ぶって、教育の生霊という見えでけにきま 0 てる。もし山嵐が扇動したとすれば、生徒 たくさん こんな意味の事を述べた。「学校の職員や生徒に過失と山嵐を退治ればそれで沢山だ。人の尻を自分で背負 ( 1 ) かとく い込んで、おれの尻だ、おれの尻だと吹き散らかす奴 のあるのは、みんな自分の寡徳の致すところで、何か が、どこの国にあるもんか、狸でなくっちやできる芸 ま件があるたびに、自分はよくこれで校長が勤まると ( 2 ) ざんき びそかに慚愧の念に堪えんが、不幸にして今回もまた当じゃない。彼はこんな条理に適わない議論を吐いて、 とくいけ が、る騒動を引き起したのは、深く諸君に向って謝罪得意気に一同を見回した。ところが誰も口を開くもの からす がない。博物の教師は第一教場の屋根に烏がとまって しなければならん。しかし一たび起った以上は仕方が なが ない、どうにか処分をせんければならん、事実はすでるのを眺めている。漢学の先生は蒟蒻版を畳んたり、 に諸君の御承知のとおりであるからして、善後策につ延ばしたりしてる。山嵐はまだおれの顔をにらめてい る。会議というものが、こんな馬鹿気たものなら、欠 ゃいて腹蔵のない事を参考のためにお述べください」 ひるね 。おれは校長の言葉を聞いて、なるほど校長だの狸た席して昼寐でもしているほうがましだ。 おれは、じれったく成ったから、いちばん大いに弁 のというものは、えらい囈を言うもんだと感心した ( こわ かな ばかげ とが
おかし あざけ となく可笑い。しかのみならす油断をするな士官、下 と嘲るごとくに答えた。なるほど我輩は三十八た。こ しもく の点においては暗にお母さんの聡明なるに驚いた。し士官とはなんだ。まるで狂歌の下の句みたようだね」幻 がし不孝なる我輩はいまだかってこのお母さんのお年「しかし士官、下士官と士官を重ねたところが甘いだ ・がいくつであるか毫も思い及ばなか 0 た。多芸多能なろう」「おそらく三日三晩苦心したのたろう」「なにそ んなに名句のつもりでもないのさ。そのくらいなこと る男はいつのまにか某教授の仮色をやめた。今度は一 躍して魚河岸の兄いと変化した。「駄目だーな、とては朝食前の芸さ」なんでも腹の減 0 ている時の句に あいづち も折れねーや」「うむ、とても折れねー」と合槌を合相違ないと思 0 た。まずこれ等は進めや進めと敵は幾 ねころ とう せる。たゞしお母さんかお父さんかは我輩の知るかぎ万の間に寐転んでいて、この日や天気晴朗と来ると必 いっぴょう りでない。するとまた一人が「なにもうじきに折れるず一瓢を腰にして滝の川に遊ぶ類の句だね、しかし戦 - よ。大丈夫た」と言う。なにが大丈夫なのかこれまた争の詩歌もだん / 、できたようだがなか / 、面白いの ごうまん やっ があるよ。先だって僕の知っている奴でいやに傲慢な 分らなかった。 人を財鹿にする男が、御多分に洩れすすこぶるまずい 新体詩、「僕は新体詩を作 0 たから見てくれたまえ。詩を作 0 たのさ。ところがその男がむやみやたらに剛 従軍行というのだ。帝国文学へ投書したからいまに出慢とか無礼とかいろ / \ な形容詞を使ってロシアの悪 おもしろ 口をついている。御当人はお世辞の圏点をもらってす るだろう」「それは面白いだろう見せたまえ。エーな あだ こぶる得意のようだが、それが自画自賛の圏点だから んだって、そもそも敵は讐なれば、なるほどごもっとも こつけい だ。油断をするな士官、下士官、なんだか妙だね」「敵滑稽だ。自分で自分の悪口をいって、その悪口が当っ ているので人に褒められて喜んでいる。世はさまみ、 は讐だというのだから別に妙な事もないじゃないか」 「それがあまりもっともすぎて妙だというのさ。なんのものさ。それから見ると君の新体詩のほうが下手と
( 1 ) ないとう どはしなかった。僕だけどういうものか交際したし一 おったらしい。たしか内藤さんといっしょに始終やっ つは僕のほうがえ、加減に合わしておったので、それ ていたかと聞いている。 彼は僕などより早熟で、いやに哲学などを振り回すも苦痛なら止めたのだが、苦痛でもなかったから、ま あできていた。こちらがむやみに自分を立てようとし ものだから、僕などは恐れを為していた。僕はそうい うほうに少しも発達せす、まるでわからんところへ持たらとても円滑な交際のできる男ではなかった。たと それを頭からけなしちゃ 0 て来て、彼は ( ~ ) ルトマンの哲学書かなにかを持ち込えば発句などを作れという。 いかない。けなしつつ作ればよいのだ。策略でするわ み、だいぶ振り回していた。もっとも厚いドイツ書で、 外国にいる加藤恒忠氏に送ってもらったもので、ろくけでもないのだが、しぜんとそうなるのであった。っ まり僕のほうが人が善かったのだな。今正岡が元気で に読めもせぬものをしきりにひっくりかえしていた。 いたら、よほど二人の関係は違うたろうと思う。もっ 幼稚な正岡がそれを振り回すのに恐れを為していたほ ともその他、半分は性質が似たところもあったし、ま ど、こちらはいよ / ( 、幼稚なものであった。 きぐらい 妙に気位の高かった男で、僕などもいっしょにやはた半分は趣味の合っていたところもあったろう。も一 むこ り気位の高い仲間であった。ところが今から考えると、つは向うの我とこちらの我とが無茶苦茶に衝突もしな 両方ともそれほどえらいものでもなかった。といってかったのでもあろう。忘れていたが、彼と僕と交際し よせ いたずらに吹き飛ばすわけではなかった。当人は事実はじめたも一つの原因は、二人で寄席の話をした時、 をいっているので、事実えらいと思っていたのだ。教先生も大いに寄席通をもって任じている。ところが保 員などは減茶苦茶であった。同級生なども減茶苦茶でも寄席の事を知っていたので、話すに足るとでも思っ たのであろう。それから大いに近よって来た。 あった。 非常に好き嫌いのあった人で、めったに人と交際な彼は僕にはたいていな事は話したようだ。 ( 其例一 よせつう ふたり かげん
簡 書 六七漱石手紙作法 一月四日 ( 水 ) 午後五時本郷区駒込千駄木町五十七 番地より麻布区三河台町島津男爵邸内野間真綱へ ちょにく 君がくれた猪肉で伝四を御馳走し、昨夜はまた虚子、 おもしろ 四方太、橋ロ兄弟を御馳走した。昨夜はだいぶ面白か かげ った。これも君のお蔭とあえて一書を奉呈して感謝の すぎ 合 意を表する。いずれ八日過になったら来たまえ。皆川 場 ぞうに けさ ( 1 ) ( 2 ) の と三人で雑煮でも食うかね。今朝小野君が来て英米名 等 同 家詩抄というのを一部くれた。 なあてにんなまえ 人のところへ手紙をよこすに、名宛人の名前たけを かいて自分は姓だけかくなんてえのは失敬たよ。自分 ま合 合場 一月四日 の事はたいていの場合には ( 真綱 ) とばかりかいて姓場る のや もか、ないのが礼儀である。先方を尊敬しようとする 意へ 懇下金之助様 場合には、向うの姓だけかいて名を略す、あるいはそ ~ 、目 の人の号をかく。自分の号を書くのはやはり失礼にな これが昔の礼儀であります。 一月四日 真綱様 ごちそう 尊敬の場合 一月四日 夏目様 第二号 一月四日 夏目金之助様 第一号 真 野間真綱 真 金之助 綱 3
ろうこう とんじゃく そんな事に頓着する必要はない。かような陋巷におっちっと人間の背いに税をかけたら少しは倹約した小さ ( 2 ) よたか ( 1 ) ひつば たって引張りと近づきになったこともなし夜鷹と話をな動物がでぎるだろうなどと考えるが、それはいわゆ むこ まけお ぐち うけあ したこともない。、 心の底までは受合わないがまず挙動る負惜しみの減らずロという奴で、公平なところが向 だけは君子のやるべき事をやっているんだ。実に立派うのほうがどうしても立派だ。なんとなく自分が肩身 ころも にんげんなみはす の狭い心持ちがする。向うから人間並外れた低い奴が なものだとみずから慰めている。 しめ 来た。占たと思ってすれ違ってみると自分より二寸ば しかしながら冬の夜のヒュ 1 / ・、風が吹く時にスト まっくろ くすぶ ぎやくもど へや けむ 1 プから烟りが逆戻りをして室の中が真黒に一面に燻かり高い。こんどは向うから妙な顔色をした一寸法師 すがたみ ( 3 ) だいこう すきま が来たなと思うと、これすなわち乃公自身の影が姿見 るときや、窓と戸の障子の隙間から寒い風が遠慮なく やむをえす また はいりこんで股から腰のあたりがたまらなく冷たい時に写ったのである。不得已苦笑いをすると向うでも苦 せんきもちしり や、板張の椅子が堅くって疝気持の尻のように痛くな笑いをする。これは理の当然だ。それから公園へでも ( 4 ) かくべえじし 行くと角兵衛獅子に網を被せたような女がぞろ / \ 歩 るときや、自分の着ている着物がだん / 、変色してく る るにつれて自分がだん / 、下落するような情ない心持行いている。そのなかには男もいる。職人もいる。感 のする時は、なんのためにこんな切り詰めた生活をす心に大概は日本の奏任官以上の服装をしている。この るんだろうと思うこともある。工 1 構わない。本もな国では衣服では人の高下が分らない。牛肉配達などが にも買えなくても善いから為替はみんな下宿料にぶち日曜になるとシルクハットでフロックコートなどを着 よ ( 5 ) じんき すま 込んで人間らしい暮しを仕ようという気になる。それて澄している。しかし一般に人気が善い。我輩などを の、し ひとり からステッキでも振り回わしてその辺を散歩するので捕えて悪口をついたり罵ったりするものは一人もおら あやっ ある。向へ出てみると逢う奴も / \ 皆んな厭にゴ月いがん。ふり向いても見ない。当地では万事鷹揚に平気に あいきよう 高い。おまけに愛嬌のない顔ばかりだ。こんな国ではしているのが紳士の資格の一つとなっている。むやみ むこう かわせ 4 ~ いギれし かぶ わか おうよう 196
辻邦生 私が夏目漱石の著作のなかで、最初に読んだのが「坊 0 ちゃん、であり、最後に手にしたのが 「文学論」だ 0 たことは、漱石文学の性格を示す一つの読書例になりはしまいか、と考えることが ごく私たちの身近にありつづけた。 ある。漱石文学はあの岩波版の忘れがたい装幀の映像とともに、 そんな漱石文学の性格をこうした読書の順序が示してはいまいか、と私は考えるのである。たとえ ば私は、自分が文学について考え、模索していた当時、漱石の「文学論」を精読することに思い及 ばなかったが、自分の怠慢もさることながら、それは、全集のなかの、最も読まれにくい部分とし て「文学論」がつねに身近に存在していたためでなかっただろうか。愚かにも私は、それがこうし て身辺にあり、かっ漱石の小説群の魅力のかげで、何となく埃をかぶったいかめしい冷ややかな書 巻として初めから存在するゆえに、あえて手にとり開いてみようと試みなかったのではあるまいか。 作品論 「文学論」と「坊っちゃん」の間
ごうじよっぱ 上っぽど剛情張りだと答えてやった。それから二人の 「なんでもい、、送別会へ行くまえにちょっとおれの いだにこんな間答が起った。 うちへお寄り、話があるから」 「君はいったいどこの産た」 山嵐は約東どおりおれの下宿へ寄った。おれはこの 「おれは江戸っ子だ」 あいたから、うらなり君の顔を見るたびに気の毒で堪 「うん、江戸っ子か、道理で負け惜しみが強いと思っらなかったが、いよ / \ 送別の今日となったら、なん ・た」 だか憐れつぼくって、できることなら、おれが代りに 「君はどこだ」 行ってやりたいような気がしだした。それで送別会の さかん 「僕は会津だ」 席上で、大いに演説でもしてその行を盛にしてやりた きよう 「会津つぼか、強情なわけた。今日の送別会へ行くの いと思うのだが、おれのべらんめえ調子じゃ、とうて , 力い」 い物にならないから、大きな声を出す山嵐を雇って、 あらぎもひし 「行くとも、君は ? 」 いちばん赤シャツの荒胆を挫いでやろうと考え付いた 「おれはむろん行くんだ。古賀さんが立っ時は、浜ま から、わざ / 山嵐を呼んたのである。 で見送りに行こうと思ってるくらいだ」 おれはまず冒頭としてマドンナ事件から説きだした おもしろ 「送別会は面白いぜ、出てみたまえ。今日は大いに飲が、山嵐はむろんマドンナ事件はおれより詳しく知っ のりがわ むつもりだー ている。おれが野芹川の土手の話をして、あれは鹿 やろう 「かってに飲むがいゝ 。おれは肴を食ったら、すぐ帰野郎たと言ったら、山嵐が君はたれを捕まえても馬鹿 「る。酒なんか飲む奴は馬鹿だ」 呼わりをする。今日学校で自分の事を馬鹿と言ったし けんか 「君はすぐ喧嘩を吹き懸ける男だ。なるほど江戸っ子やよ、 オしか。自分が馬鹿なら、赤シャツは馬鹿じゃない。 ・の軽跳なふうを、よく、あらわしてる」 自分は赤シャツの同類じゃないと主張した。それじゃ ( 1 ) さかな ふたり あわ ぢようし たま
むか が求ールドに向って一生懸命説明していると、後からごともでぎないから、まず人の信用を得なければなら チコーク ない。信用を得るにはどうしても勉強する必要がある。 白墨をもってその背中へ怪しげな字や絵を描いたり、 まっ また授業の始まる前にことん \ く教室の窓を閉めて真と、こう考えたので、今までのようにうつかりしてい くらところ 暗な処に静まり返っていて、入って来る先生を驚かしてはだめだから、いっそ初めからやり直したほうがい ともだち うれ いと思って、友達などが待っていて追試験を受けろと たり、そんなことばかり嬉しがっていた。予科のほう は三級、二級、一級となっていて、最初の三級は平均しきりに勧めるのも聞かず、自分から落第して再び二 ~ 、りネ・え 級を繰返すことにしたのである。人間というものは考 点の六十五点も貰ってやっとこさ通るには通ったが、 やはり怠けているからなにもできない。ちょうど僕がえ直すと妙なもので、真面目になって勉強すれば、今 わか ( 1 ) こうぶ 二級の時にエ部大学と外国語学校が予備門へ合併したまで少しも分らなかったものもはっきりと分るように なる。まえにはできなかった数学なども非常にできる ので、学校は非常にゴタ / \ してずいぶん大騒ぎだっ あるひ だれ ようになって、一日親睦会の席上で誰は何科へ行くだ た。それがだん / 、、進歩して現今の高等学校になった のであるが、僕はその時腹膜炎をやってとう / \ 二級ろう誰は何科へ行くだろうと投票をした時に、僕は理 の学年試験を受けることができなかった。追試験を願科へ行く者として投票されたくらいであった。元来僕 たち とつべん ったけれど、合併の混雑ゃなんかで忙しかったとみえ、は訥弁で自分の思っていることが言えない性だから、 教務係の人は少しも取合ってくれないので、そこで僕英語などを訳しても分っていながらそれを言うことが は大いに考えたのである。学課のほうはちっともできできない。けれども考えてみると分っていることが言 ないし、教務係の人が追試験を受けさせてくれないの えないというわけはないのだから、なんでも思い切っ ます も、にしいためもあろうが、第一自分に信用がないかていうに限ると決心して、その後は拙くてもかまわず らだ。信用がなければ、世の中へ立ったところでなに どし / \ 言うようにすると、今までは教場などで言え とりあ 263
まい・ことぐち が考えた、また自分が多少実行し来りたる処世の方針迷言や愚癡はロの先ばかりでない腹の中にもたくさん はどこへ行った。前後を切断せよ、みだりに過去に執なかった。それで少々得意に成ったので外国へ行って ( 2 ) いったんし ひょういんんのんき をやらく 着するなかれ、いたずらに将来に望を属するなかれ、も金が少なくっても一簟の食一瓢の飲然と呑気に洒落 だいこう うぬぼれ 満身の力をこめて現在に働けというのが乃公の主義な にまた沈着に暮されると自負しつあったのだ。自惚 ( 3 ) のである。しかるに国へ帰れば楽ができるからそれを自惚 ! こんな事では道を去ること三千里。まず明日 かんがえ 楽しみに辛防しようというのは果敢ない考だ。国へ帰 からは心を入れ換えて勉強専門の事。こう決心して寝 うけあ れば楽をさせると受合ったものは誰もない。自分がきてしまう。 ありさま むさくる めているばかりだ。自分がきめてもい、から楽ができ かゝる有様でこの薄暗い汚苦しい有名なカン ' ハーウ きはう きよう なかった時にすぐ機鋒を転じて過去の妄想を忘却し得エルという貧乏町の隣町に昨年の末から今日までおっ ればいゝが、今のように未来にお願い申しているよう たのである。おったのみならず、このさきも留学期限 ではとうていその未来が満足せられずに過去と変じたのきれるまではここにおったかもしれぬのである。し 時にこの過去をさらりと忘れることはできまい。のみかるにここにある出来事が起って、いくらおりたくっ ならす報酬を目的に働らくのは野暮の至りだ。死ねばても退去せねばならぬこととなった、というとなにか はす 天堂へ行かれる、未来は雨蛙といっしょに蓮の葉に往小説的だが、その訳を聞くとすこぶる平凡さ。世の中 生ができるから、この世で善行をしようという下卑たの出来事の大半は皆平凡な物だから仕方がない。この ろうれつ 考と一般の論法で、それよりもなおいっそう陋劣な考家はもとからの下宿ではない。去年までは女学校であ だ。国を立つまえ五六年のあいだにはこんな下等な考ったので、こ、の神さんと妹が経験もなく財産もなく は起さなかった。たゞ現在に活動したゞ現在に義務を将来の目的もしかと立たないのに自営の道を講ずるた つくし現在に悲喜憂苦を感ずるのみで、取越苦労や世めにこの上品のような下等のような妙な商買を始めた しんぼう あまがえる ぎた とり - 」し よ
などというのは大ぎな失体である。生徒は生徒として、なまじい、・ おれの言うとおりになったのでとう / \ 大 この点については校長からとくに責任者に御注意あら変な事になってしまった。それはあとから話すが、校 んことを希望します」 長はこの時会議の引き続きだと号してこんな事を言っ 妙な奴だ、ほめたと思ったら、あとからすぐ人の失た。生徒の風儀は、教師の感化で正していかなくては 策をあばいている。おれはなんの気もなく、前の宿直ならん、その一着手として、教師はなるべく飲食店な が出あるいたことを知って、そんな習慣たと思って、 どに出入しないことにしたい。もっとも送別会などの つい温泉まで行ってしまったんだが、なるほどそう言節は特別であるが、単独にあまり上等でない場所へ行 そばや われてみると、これはおれが悪るかった。攻撃されてくのはよしたい たとえば蕎麦屋だの、団子屋だの も仕方がない。そこでおれはまた起って「私はまさに と言いかけたらまた一同が笑った。野たが山嵐を てんぶら 宿直中に温泉に行きました。これはまったくわるい 見て天麸羅と言って目くばせをしたが山嵐は取り合わ きび あやまります」と言って着席したら、一同がまた笑い なかった。い、気味だ。 だした。おれが何か言いさえすれば笑う。つまらん奴 おれは脳がわるいから、狸の言うことなんか、よく 等た。貴様等これほど自分のわるい事を公けにわるか分らないが、蕎麦屋と団子屋へ行って、中学の教師が しんぼう ったと断言できるか、できないから笑うんだろう。 勤まらなくっちゃ、おれ見たような食い心棒にやとう それから校長は、もうたいてい御意見もないようでていできっこないと思った。それなら、それでい、か ( 1 ) しょて ありますから、よく考えたうえで処分しましようと言ら、初手から蕎麦と団子の嫌なものと注文して雇うが ( 2 ) やった。ついでだからその結果をいうと、寄宿生は一週 いゝ。だんまりで辞令を下げておいて、蕎麦を食うな、 「間の禁足になったうえに、おれの前へ出て謝罪をした。団子を食うなと罪なお布令を出すのは、おれのような ほかに道楽のないものにとっては大変な打撃た。する 謝罪をしなければその時辞職して帰るところたったが やっ だんごや