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検索対象: 夏目漱石全集 10
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1. 夏目漱石全集 10

いわく言いがたい不可解な気分が最後までつきまとう。二郎自身にその気 てあるとは一言いがたし があろうとなかろうと、彼は兄からこの嫂を奪う結果にな 0 たかもしれない。単なる衝動からそう いっそそのほうが、という理由だってなかったとは言い切れまい。しかし なったかもしれないし、 作者は「そのほんとうのところ」を ( ッキリとは書いていない。その代りに、もっともっと恐ろし い事をさりげなく書いているのである。 《自分は、自分にもっと不親切にして構わないから、兄のほうにはもう少し優しくしてくれろ と、頼むつもりで嫂の目を見た時、また急に自分の甘いのに気が付いた。嫂の前へ出て、こう差 しんそこ し向いに坐ったが最後、とうてい真底から誠実に兄のために計ることはできないのだとまで思っ た。自分は言葉には少しも窮しなかった。どんな言語でも兄のために使おうとすれば使われた。 けれどもそれを使う自分の心は、兄のためでなくってかえって自分のために使うのと同じ結果に なりやすかった。自分は決してこんな役割を引き受けべき人格でなかった。自分はいまさらのよ うに後悔した》 ( 「兄」三十一 ) 嫂の心をためせ、と命じられて出てきた二郎は、結局嫂の心には十分はいり込むことができぬま ま、他でもない自分の心をためすことになるのである。それにしても、人間は言葉には少しも窮し

2. 夏目漱石全集 10

人 行 ステーツョノくるま ふたり た。二人はそれからじきに梅田の停車場へ俥を急がし た。場内は急行を待っ乗客ですでにいつばいになって のれっしゃ いた。二人は橋を向へ渡って上り列車を待ち合わせた。 列車は十分と立たないうちに地を動かして来た。 あ 「また会おう 自分は「あの女」のために、また「その娘さん」の ために三沢の手を固く握った。彼の姿は列車の音とと もにたちまち暗中に消えた。 自分は三沢を送った日また母と兄夫婦とを迎える ステーションでかけ ため同じ停車場に出掛なければならなかった。 自分から見るとほとんど想像さえ付かなかったこの でき′こと 出来事を、はじめから工夫して、とう / ・ \ それをもの にするまで漕ぎ付けたものは例の岡田であった。彼は 平生からよくこんな技巧を弄してその成効に誇るのが 好であった。自分をわざ / 、電話ロへ呼び出して、そ のうちぎっと自分を驚かして見せると断ったのは彼で ある。それからほどなく、お兼さんが宿屋へ尋ねて来 て、その訳を話した時には、自分も実際驚かされた。 「どうして来るんです」と自分は聞いた。 自分が東京を立つまえに、母の持っていた、ある場 とおみち 末の地面が、新たに電車の布設される通り路に当ると かでその前側を幾坪か買い上られると聞いたとき、自 すき あくるひ あけ っ

3. 夏目漱石全集 10

人 行 って、あすの晩の急行だから、もうじきです。そのう おちっ 罕四 えで落付いて僕の考えも申し上けたいと思ってますか けんこっ ら」 自分はその時場合によれば、兄から拳骨を食うか、 あびか 「それでも好い」 または後から熱罵を浴せ掛けられることと予期してい 兄は落付いて答えた。今までの彼の癇を自分の信 た。色を変えた彼を後に見捨てて、自分の席を立った・ 用で吹き払い得たごとくに。 くらいだから、自分は普通よりよほど彼を見縊ってい ちがい 「ではどうか、そう願います」と言って自分が立ち掛たに違なかった。そのうえ自分はいざとなれば腕力に うな そな けた時、兄は「あゝ」と肯ずいて見せたが、自分が敷訴えてでも嫂を弁護する気概を十分具えていた。これ もど 居を跨ぐ拍子に「おい二郎」とまた呼び戻した。 は嫂が潔白だからというよりも嫂に新たなる同情が加 「詳いことは追って東京で聞くとして、たゞ一言たけわったからというほうが適切かもしれなかった。言い ようりよう 要領を聞いておこうか」 換えると、自分は兄をそれだけ軽蔑しはじめたのであ ねえ てきがいしん 「姉さんについて : : : 」 る。席を立っ時などは多少彼に対する敵愾心さえ起っ 「むろん」 ゆかたた、 「姉さんの人格について、お疑いになるところはまる 自分が室へ帰ってきた時、母はもう浴衣を畳んでは ( ー ) こり でありません」 いなかった。けれども小さい行李の始末に余念なく手 てもと 自分がこう言った時、兄は急に色を変えた。けれどを動かしていた。それでも心は手許になかったと見え もなんにも言わなかった。自分はそれぎり席を立ってて、自分の足音を聞くやいなや、すぐこっちを向いた。 しまった。 「兄さんは」 「今来るでしよう」 こ 0 へや あによめ 卩 3

4. 夏目漱石全集 10

かった。彼は今でも「あの女」のことを考えていると しか思われなかった。 「あの女は君を覚えていたかい」 三沢はたゞこう言った。そうして夢に見ないさきか さび 「覚えているさ。このあいだ会って、僕からむりに酒らすでに「あの女」の淋しい笑い顔を目の前に浮べて を呑まされたばかりだもの」 いるように見えた。三沢に感傷的のところがあるのは 「恨んでいたろう」 自分もよく承知していたが、単にあれだけの関係で、 今まで横を向いてそっぽヘロを利いていた三沢は、 これほどあの女に動かされるのは不審であった。自分 この時急に顔を向け直してぎっと正面から自分を見た。は三沢と「あの女ーが別れる時 どんな話をしたか、 まじめ その変化に気の付いた自分はすぐ真面目な顔をした。詳しく聞いてみようと思って、少し水を向け掛けたが、 ふたり けれども彼があの女の室に入った時、二人のあいだに なんの効果もなかった。しかも彼の態度が惜しいもの どんな談話が交換されたかについて、彼はついに何事を半分他に配けてやると、半分なくなるからたとい をも語らなかった。 うふうに見えたので、自分はます / \ 変な気持がした。 「あの女はことによると死ぬかもしれない。死ねばも「そろ / \ 出掛けようか。夜の急行は込むから」とと う会う機会はない。万一癒るとしても、やつばり会う うとう自分のほうで三沢を促がすようになった。 機会はなかろう。妙なものだね。人間の離合というと 「まだ早いーと三沢は時計を見せた。なるほど汽車の おおげさ 大袈裟たが。それに僕から見れば実際離合の感がある出るまでにはまだ二時間ばかり余っていた。もう「あ の女」のことは聞くまいと決心した自分は、なるべく んだからな。あの女は今夜僕の東京へ帰ることを知っ ごきげん なまえ ねころ て、笑いながら御機嫌ようと言った。僕はその淋しい病院の名前を口へ出さすに、寐転びながら彼と通り一 行わらい 笑を、今夜なんだか汽車の中で夢に見そうた」 遍の世間話を始めた。彼はその時人並の受け答をした。 っ さび ひとわ とお

5. 夏目漱石全集 10

人 行 ろがあった。 自分は行李を絡げる努力で、顔やら背中やらから汗 そで がたくさん出た。腕捲りをしたうえ、浴衣の袖で汗を 容赦なく拭いた。 「おい暑そうだ。少し扇いでやるが好い」 しすか 自分は兄夫婦の仲がどうなることかと思って和歌山 兄はこう言って嫂を顧みた。嫂は静に立って自分を はす から帰ってきた。自分の予想ははたして外れなかった。 扇いでくれた。 自分は自然の暴風雨についで、兄の頭に一の旋風が 「なによござんす。もうじきですから」 自分がこう断っているうちに、やがて明日の荷造り起る徴候を十分認めて彼の前を引き下った。けれども その徴候は嫂が行って十分か十五分話しているうちに、 はでき上った。 おたや ほとんど警戒を要しないほど穏かになった。 まりねすみ 自分は心のうちでこの変化に驚いた。針鼠のように とが 尖ってるあの兄を、わずかのあいたに丸め込んだ嫂の 手腕にはなおさら敬服した。自分はようやく安心した はれん、 ような顔を、晴々と輝かせた母を見るだけでも満足で あった。 きげん 兄の機嫌は和歌の浦を立っ時も変らなかった。汽車 の内でも同じことであった。大阪へ来てもなお続いて いた。彼は見送りに出た岡田夫婦を捕まえて戯談さえ あが うでまく あお 歸ってから あによめ さか しようだん 135

6. 夏目漱石全集 10

せその話を今まで自分に聞かせなかったと汽車の中で兄に聞いた 0 間われた時、すでに苦い顔をして必要がないからだと 「実際間題というと、どういうことになるんですか 答えたばかりであった。 ちょっと僕には解らないんですが」 「例の接吻の話ですか」と自分は聞き返した。 兄は焦急たそうに説明した。 あと 「いえ接吻じゃない。その女が三沢の出る後を慕って、 「つまりその女がさ、三沢の想像するとおりほんとう 早く帰ってきてちょうだいと必ず言ったというほうの にあの男を思っていたか、またはさきの夫に対して言 話さ したかったことを、我して言わすにいたので、精神 おもしろ 「僕には両方とも面白いが、接吻のほうがなんたかよ病の結果ふら / \ と口にしはしめたのか、どっちたと うというんた」 り多く純粋でかっ美しい気がしますね」 この時自分達は二階の梯子段を半分ほど降りていた。 自分もこの間題ははじめその話を聞いた時、少し考 とま 兄はその中途でびたりと留った。 えてみた。けれどもどっちがどうたかとうてい分るべ あきら 「そりや詩的にいうのだろう。詩を見る目でいったら、きはすのものでないと諦めて、それなり放ってしまっ おれ 両方とも等しく面白いだろう。けれども己のいうのは た。それで自分は兄の質間に対してこれというほどの そうじゃない。もっと実際間題にしての話た」 意見も持っていなかった。 「僕には解らんです」 「そうか」 自分には兄の意味がよく解らなかった。黙って梯子 兄はこう言いながら、やつばり風呂にはいろうとも あとっ 既の下まで降りた。兄も仕方なしに自分の後に跟いてせす、そのま、立 0 ていた。自分も仕方なしに裸にな ぎた。風呂場の入口で立ち留った自分は、振り返ってるのを控えていた。風呂は思ったより小さくかっ多少 はしごたん わか

7. 夏目漱石全集 10

しいあるものを発見した。自分はなんとか答えなけれの満足を買うわけにはゆかなかった。自分はすかさず ばならなかった。しかしなんと答えて好いか見当が付またこう言った。 うち 「やつばり家の血統にそういう傾きがあるんですよ。 なかった。たヾ問題が例の嫂事件を再発させてはたい とう ひきよう へんたと考えた。それで卑怯のようではあるが、間答お父さんはむろん、僕でも兄さんの知っていらっしゃ るとおりですし、それにね、あのお重がまた不思議と、 がそこへ流れ入ることを故意に防いだ。 「兄さんが考えすぎるから、自分でそう思うんですよ。花や木が好きで、今じや山水画などを見ると感に堪え たような顔をして時々眺めていることがありますよ」 それよりかこの好天気を利用して、今度の日曜ぐらい に、どこかへ遠足でもしようじゃありませんか」 自分はなるべく兄を慰めようとして、 . いろ / 、な話 しらせ 兄はかすかに「うん」と言って慵げに承諾の意を示をしていた。そこへお貞さんが下からタ食の報知に来 うれ した。 た。自分は彼女に、「お貞さんは近ごろ嬉しいと見え て妙ににこ / ( \ していますね」と言った。自分が大阪 げじよべやすみひっこ から帰るやいなや、お貞さんは暑い下女室の隅に引込 兄の顔には孤独の淋しみが広い額を伝わって瘠けたんで容易に顔を出さなかった。それが大阪から出した 牋おみなぎ がっぺいえはがき 頼に漲っていた。 みんなの合併絵葉書のうちへ、自分がお貞さん宛に おれ 「二郎己は昔から自然が好きだが、つまり人間と合わ「お目出とう」と書いた五字から起ったのだと知れて やむ ないので、巳を得す自然のほうに心を移すわけになる家内中大笑いをした。そのためか一つ家にいながらお んだろうかな」 貞さんは変に自分を回避した。したがって顏を合わせ 自分は兄が気の毒になった。「そんなことはないでると自分はことさらになにか言いたくなった。 おもしろ しよう」と一口に打ち消してみた。けれどもそれで兄「お貞さんなにが嬉しいんですか」と自分は面白半分 さみ ものう さいほっ こ あて ノ 44

8. 夏目漱石全集 10

人 行 ききたゞ あによめ れた。山門の裏には物寂びた小さい拝殿があ 0 た。よ自分はいっか折を見て、嫂に腹の中をとっくり聴糾し ほりつ たうえ、こっちからその知識をもって、積極的に兄に ほど古い建物と見えて、軒に彫付けた獅子の頭などは や むか 向おうと思っていた。それを自分が遣らないうちに、 絵の具が半分剥げか、っていた。 もし兄から先を越されでもすると困るので、自分はひ 自分は立って山門を潛って拝殿の方へ行った。 「兄さんこっちのほうがまだ涼しい。こ 0 ちへ入ら 0 そかにそこを心配していた。実をいうと、今朝兄から ふたり 「二郎、二人で行こう、二人ぎりで」と言われた時、自 ( 2 ) けねん 兄は答えもしなかった。自分はそれを機に拝殿の前分はあるいはこの問題が出るのではあるまいかと掛念 しようよう さえぎ ( ー ) ときわ 面を左右に逍淦した。そうして暑い日をる高い常磐しておのすと厭になったのである。 木を見ていた。ところへ兄が不平な顔をして自分に近「嫂さんがどうかしたんですか」自分は巳を得す兄に 聞き返した。 づいてきた。 はれ 「直はお前に惚てるんじゃないか」 「おい少し話しがあるんだと言ったじゃないカ 自分は仕方なしに拝殿の段々に腰を掛けた。兄も自兄の言葉は突然であった。かっ普通兄の有っている 品格にあたいしなかった。 分に並んで腰を掛けた。 「どうして」 「なんですか」 「どうしてと聞かれると困る。それから失礼だと怒ら 「実は直のことだがね」と兄ははなはだ言いにくいと せつぶん ころをやっと言い切ったというふうにみえた。自分はれてはなお困る。なにも文を拾ったとか、接吻したと 「直」という言葉を聞くやいなやひやりとした。兄夫ころをみたとかいう実証から来た話ではないんだから。 お・もてむき あいだがら やしくも夫 婦の間柄は母が自分に訴えたとおり、自分にもたいてほんとういうと表向こんな愚劣な間を、い かけ むか たる己が、他人に向って掛られた訳のものではない。 いは呑み込めていた。そうして母に約束したごとく、 ねえ おれ せん おり ふみ

9. 夏目漱石全集 10

決してそれを悪く思うはすはなかった。彼女の結婚が 「お凸額や眼鏡は写真で十分だわ。なにも兄さんから うちじゅう 家中の問題になったのもつまりはそのためであ 0 た。聞かないだ 0 て妾知 0 ててよ。目があるじゃありませ お重はこの間題についてよくお貞さんを捕まえて離さんか」 なかった。お貞さんはまたお重には赤い顔も見せすに、 彼女はまだ打ち解けそうな口の利き方をしなかった。 おの いろ / 、の相談をしたり己れの将来をも語り合ったら自分は静かに端書と筆を机の上へ置いた。 「ぜんたいなにを聞こうというのだい」 あが あなた ある日自分が外から帰ってきて、風呂から上ったと 「ぜんたい貴方はなにを研究していらしったんです。 ころへ、お重が、「兄さん佐野さんていったいどんな人佐野さんについて」 なのと例の前後を順慮しない調子で聞いた。これは お重という女は議論でも遣りだすとまるで自分を同 自分が大阪から帰ってから、もう二度目もしくは三度輩のように見る、癖たか、親しみだか、猛烈な気性だ 目の質間であった。 か、稚気だかがあった。 やふ まえ 「なんたそんな藪から棒に。お前はいったい軽卒で不「佐野さんについてって : ・ : ・」と自分は聞いた。 け 可ないよ」 「佐野さんの人となりについてです」 怒りやすいお重は黙って自分の顔を見ていた。自分自分はもとよりお重を鹿にしていたが、こういう あぐら やはがき は胡坐をかきながら、三沢へ遣る端書を書いていたが、真面目な質間になると、腹の中でどっしりした何物も たくわ まきたばこ この様子を見て、ちょっと筆を留めた。 貯えていなかった。自分は済まして巻煙草を吹かした くや 「お重また怒ったな。 , ーー佐野さんはね、このあいだした。お重は口惜しそうな顏をした。 きんぶらめがね 言ったとおり金縁眼鏡を掛けたお凸額さんだよ。それ「だってあんまりじゃありませんか、お貞さんがあん なんべん で好いじゃよ、 オしか。何遍聞いたって同じことた」 なに心配しているのに」 まう おんな あたし や 148

10. 夏目漱石全集 10

( 1 ) ごしゅん 時自分は「岡田君この呉春は偽物だよ。それだからあった。彼等はかようにして互に顔を知り合ったのであ ~ ・りカい の親父が君に呉れたんた」と言って調戯半分岡田を怒る。が、顏を知り合ってから、結婚が成立するまでに、 らしたことを覚えていた。 どんな径路を通ってきたか自分はよく知らない。岡田 ふたり こども 二人は懸物を見て、当時を思い出しながら子供らしは母の遠縁に当る男たけれども、自分の宅では書生 く笑った。岡田はいつまでも窓に腰を掛けて話を続け様にしていたから、下女達は自分や自分の兄には遠慮 ンヤッズ / るふうに見えた。自分も襯衣に洋袴だけになってそこして言い兼ねることまでも、岡田に対してはつけ / \ わころ ( 2 ) てんがちゃ に寐転びながら相手になった。そうして彼から天下茶と言ってのけた。「岡田さんお兼さんが宜しく。など や 屋の形勢だの、将来の発展たの、電車の便利だのを聞という言葉は、自分も時々耳にした。けれども岡田は いっこう気にも留めない様子たったから、おおかたた かされた。自分は自分にそれほど興味のない間題を、 ( 5 ) いたすら たの徒事だろうと思っていた。すると岡田は高商を卒 たヾ素直にはい / \ と聴いていたが、車の通じる所 ひとり へわざ / \ 俥へ乗 0 て来たことだけは、碍らしいと業して一人で大阪のある保険会社へ行 0 てしま 0 た。 お 思った。二人はまた二階を下りた。 地位は自分の父が周旋したのたそうである。それから ひょうん やがて細君が帰って来た。細君はお兼さんといって、一年ほどして彼はまた飄然として上京した。そうして 器量はそれほどでもないが、色の白い、皮膚の滑らか今度はお兼さんの手を引いて大阪へ下って行った。こ とおみ な、遠見のたいへん嬢い女であ 0 た。父が勤めていたれも自分の父と母が口を利いて、話をめてや 0 たの こうしうし ある官省の属官の娘で、そのころは時々勝手口から頼だそうである。自分はその時冨士へ登 9 て甲卅路を歩 あと 人 まれものの仕立物などを持って出入をしていた。岡田く考えで家にはいなかったが、後でその話を聞いてち しよっかく ( 8 ご一てん・は よっと驚いた。勘定してみると、自分が御殿場で下り はまたその時分自分の家の食客をして、勝手口に近い ( 何しよせいべや 書生部屋で、勉強もし昼寐もし、時には焼芋なども食た汽車と擦れ違って、岡田は新しい細君を迎えるため かけもの くるま したてもの かね なめ 一口