態度 - みる会図書館


検索対象: 夏目漱石全集 11
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1. 夏目漱石全集 11

面目な事を知っていました。私はこれから私の取るべがて門前で留まりました。 ゅうめし き態度を決する前に、彼について聞かなければならな私がタ飯に呼び出されたのは、それから三十分ばか い多くを有っていると信じました。同時にこれからさり経ったあとの専でしたが、まだ奥さんとお嬢さんの はれぎぬ き彼を相手にするのが変に気味が悪かったのです。私晴着が脱ぎ棄てられたま、、、次の室を乱雑に絵どって ふたりおそ す は夢中に町の中を歩きながら、自分の室にじっと坐っ いました。二人は遅くなると私達に済まないというの ようぼう ている彼の容貌を始終目の前に描き出しました。しかで、飯の支度に間に合うように、急いで帰って来たの もいくら私が歩いても彼を動かすことはとうていできだそうです。しかし奥さんの親切はと私とにとって ないのだという声がどこかで聞こえるのです。つまり ほとんど無効も同じ事でした。私は食卓に坐りながら、 ことば あいさっ そっけ 私には彼が一種の魔物のように思えたからでしよう。 言葉を惜しがる人のように、素気ない挨拶ばかりして ( 2 ) かげん 私は永久彼に祟られたのではなかろうかという気さえ いました。は私よりもなお寡言でした。たまに親子 しました。 連で外出した女二人の気分が、また平生よりはすぐれ 私が疲れて宅へ帰った時、彼の室は依然として人気て晴やかだったので、我々の態度はなおのこと目に付 のないように静でした。 きます。奥さんは私にどうかしたのかと聞きました。 私は少し心持が悪いと答えました。実際私は心持が悪 かったのです。すると今度はお嬢さんがに同じ間を くるま 「私が家へはいるとまもなく俥の音が聞こえました。掛けました。は私のように心持が悪いとは答えませ ( 1 ) イムわ 今のように護謨輪のない時分でしたから、がら / \ い ん。たゞ口が利きたくないからだと言いました。お嬢 いやひき う厭な響がかなりの距離でも耳に立つのです。車はやさんはなぜ口が利きたくないのかと追窮しました。私 じめ うち ひとけ ろれ へや ノ 78

2. 夏目漱石全集 11

「こゝろ」においては、先生の観照的態度がはじめて直 接的になった。言葉を換えて言うと、「こ、ろ」におけ託 る先生は、真正面に「こ、ろ」を観、肉迫的に「こ、 ろ一の本質を刳り出そうとする惨酷な心理解剖家とな っこ c 「こ、ろーに表れている先生の態度は、一 赤木桁平 分の回避すら許さない、一髪の隠蔽すら認めない峻厳 「こゝろ , は人間の「心霊 , に対する、もしくは、人な裁判官のそれである。 しかし、その結果として、先生は「こ、ろ」の中に 間の「精神」に対する、もっと分り易く言うと、人間 の「ころ」そのものに対する、最も精到な、最も深はたして何を認めたか、先生の答えは単調である。日 く「イゴイズム」。 刻な洞察を徹底せしめようとする、漱石先生畢生の大 人間の本性を支配するイゴイズムの威力と醜悪とに 努力を徴するものである。 「こ、ろ」の本質は如何、「こ、ろ , の真当の相は何でついて、先生はこれを盲動的な本能として「彼岸過迄」 あるか。この間題は「彼岸過迄」において、また、「行の中に描いた。「こ、ろ , に至っては、それよりも一歩 さつか のうり 人」において、すでに幾度となく先生の脳裏を擦過し、を進めて、さらに意識の上に現前する動かしがたい事 すでに幾度となく先生の研究的対として取扱われた実としてこれを描いた。「人間の本性を支配するもの ものであるが、それらはすべて「こ、ろ」の外部におには道念もある。しかし、道念の力は未だイゴイズム には及ばない。最後の一瞬において、人間の意思を駆 ける摸索から初まって、漸次内部に立入ろうとする間 役し人間の方向を決定するものは常にイゴイズムであ 接的な態度たるを免れない傾向があ 0 た。しかし、 同時代人の批評 ぜんじ ほんとうすがた

3. 夏目漱石全集 11

態度が、どっちも偽りではないのだろうと考え直してもその信用は初対面の時からあったのだという証拠さ たがいちがい きたのです。そのうえ、それが互違に奥さんの心を支え発見しました。他を疑ぐりはじめた私の胸には、こ 配するのでなくって、いつでも両方が同時に奥さんのの発見が少し奇異なくらいに響いたのです。私は男に 胸に存在しているのだと思うようになったのです。っ比べると女のほうがそれだけ直覚に富んでいるのだろ まり奥さんができるだけお嬢さんを私に接近させよう うと思いました。同時に、女が男のために、欺まされ としていながら、同時に私に警戒を加えているのは矛るのもこ、にあるのではなかろうかと思いました。奥 貭のようだけれども、その警戒を加える時に、片方のさんをそう観察する私が、お嬢さんに対して同じよう 能 ( 度を忘れるのでも翻えすのでもなんでもなく、やは な直覚を強く働らかせていたのたから、今考えると可 り依然として二人を接近させたがっていたのだと観察笑しいのです。私は他を信じないと心に誓いながら、 したのです。たゞ自分が正当と認める程度以上に、二絶対にお嬢さんを信じていたのですから。それでいて、 人が密着するのを忌むのだと解釈したのです。お嬢さ私を信じている奥さんを奇異に思ったのですから。 薯ざ んに対して、肉の方面から近づく念の萌さなかった私私は郷里の事についてあまり多くを語らなかったの は、その時入らぬ心配だと思いました。しかし奥さんです。ことに今度の事件についてはなんにも言わなか を悪く思う気はそれからなくなりました。 ったのです。私はそれを念頭に浮べてさえすでに一種 の不愉快を感じました。私はなるべく奥さんのほうの 話たけを聞こうとカめました。ところがそれでは向 ) 「私は奥さんの態度をい , っ / \ 総合して見て、私がこ が承知しません。何かにつけて、私の国元の情を知」 この家で十分信用されていることを確めました。しか りたがるのです、私はとう / \ なにもかも話してしま・ ひるが むこ

4. 夏目漱石全集 11

もっと詳しい話をしたいが、彼の都合はどうだと、と果はじめは向うから来るのを待つつもりで、暗に用意 ふすまごし うとうこっちから切り出しました。私はむろん襖越にをしていた私が、折があったらこっちでロを切ろうと そんな談話を交換する気はなかったのですが、 >< の返決心するようになったのです。 答だけは即座に得られることと考えたのです。ところ 同時に私は黙って家のものの様子を観察してみまし さっき そぶり がは先刻から二度おいと呼ばれて、二度おいと答えオ こ。しかし奥さんの態度にもお嬢さんの素振にも、別 すなお たような素直な調子で、今度は応じません。そうたな に平生と変った点はありませんでした。の自白以前 しふ かれら 、めと低い声で渋っています。私はまたはっと思わせらと自白以後とで、彼等の挙動にこれという差違が生し れました。 ないならば、彼の自白は単に私だけに限られた自白で、 肝心の本人にも、またその監督者たる奥さんにも、ま だ通じていないのは慥でした。そう考えた時私は少し こしら 「の生返専は翌日になっても、その翌日になっても、安心しました。それでむりに機会を拵えて、わざとら 彼の態度によく現われていました。彼は自分から進んしく話を持ち出すよりは、自然の与えてくれるものを けしき にが で例の間題に触れようとする気色を決して見せません取り逃さないようにするほうが好かろうと思って、例 でした。もっとも機会もなかったのです。奥さんとおの間題にはしばらく手を着けすにそっとしておくこと そろ うちあ にしました。 嬢さんが揃って一日宅を空けでもしなければ、二人は おちっ ゆっくり落付いて、そういう事を話し合うわけにもい こういってしまえばたいへん簡単に聞こえますが、 かないのですから。私はそれをよく心得ていました。 そうした心の経過には、潮の満干と同じように、色々 たかびく 心得ていながら、変にいら / \ しだすのです。その結の高低があったのです。私はの動かない様子を見て、 なまへんじ もこ おり みちひ

5. 夏目漱石全集 11

まむき も留まりました。私はその時やっとの目を真向に 見ることができたのです。は私より背の高い男でし 「私はと並んで足を運ばせながら、彼のロを出る次たから、私はいきおい彼の顔を見上げるようにしなけ ことば の言葉を腹の中で暗に待ち受けました。あるいは待ちればなりません。私はそうした態度で、狼のごとき心 伏せといった方がまだ適当かもしれません。その時のを罪のない羊に向けたのです。 や 私はたといを騙し打ちにしてもかまわないくらいに 『もうその話は止めよう』と彼が言いました。彼の目 思っていたのです。しかし私にも教育相当の良心はあにも彼の言葉にも変に悲痛なところがありました。私 ひきよう あいさっ りますから、もしだれか私の傍へ来て、お前は卑怯た はちょっと挨拶ができなかったのです。するとは、 ひとことさ、や と一言私語いてくれるものがあったなら、私はその瞬『止めてくれ』と今度は頼むように言い直しました。 間に、はっと我に立ち帰ったかもしれません。もし私はその時彼に向って残酷な答を与えたのです。狼が すき のどぶえくら がその人であったなら、私はおそらく彼の前に赤面し隙を見て羊の咽喉笛へ食い付くように。 たでしよう。たゞ X は私を窘めるにはあまりに正直で 『止めてくれって、僕が言いだしたことじゃない、も した。あまりに単純でした。あまりに人格が善良だっ ともと君のほうから持ち出した話じゃよ、 オしか。しかし たのです。目のくらんだ私は、そこに敬意を払うこと君が止めたければ、止めても可いが、ただロの先で止 を忘れて、かえってそこに付け込んだのです。そこをめたって仕方があるまい。君の心でそれを止めるだけ 利用して彼を打ち倒そうとしたのです。 の覚悟がなければ。、 しったい君は君の平生の主張をど はしばらくして、私の名を呼んで私の方を見ましうするつもりなのか』 た。今度は私のほうで自然と足を留めました。すると 私がこう言った時、背の高い彼は自然と私の前に萎 たしな っ おおかみ 6

6. 夏目漱石全集 11

それでいて、限前にせまりつつある死そのものには気しかしロのさきではなんとか父を紛らさなければなら よ、つこ 0 / 、刀ュ / が付かなかった。 なお 「いまに癒ったらもう一返東京へ遊びに行ってみよう。「そんな弱い事を仰しやっちや不可せんよ。いまに癒 ったら東京へ遊びに入らっしやるはすじゃありません 人間はいっ死ぬか分らないからな。なんでも遣りたい 事は、生ぎてるうちに遣っておくに限る」 か。お母さんといっしょに。今度入らっしやるとぎつ びつくり 母は仕方なしに「その時は私もいっしょに伴れてい と吃驚しますよ、変っているんで。電車の新らしい線 っていたゞきましよう」などと調子を合せていた。 路たけでもたいへん増えていますからね。電車が通る さみ 時とするとまた非常に淋しがった。 ようになれば自然町並も変るし、そのうえに市区改正 ( 1 ) にろくじちゅう 「おれが死んたら、どうかお母さんを大事にしてやつもあるし、東京がじっとしている時は、まあ二六時中 てくれ」 一分もないといって可いくらいです」 私はこの「おれが死んだら」という言葉に一種の記私は仕方がないから言わないで可いことまで喋舌っ むか た。父はまた、満足らしくそれを聞いていた。 憶を有っていた。東京を立っ時、先生が奥さんに向っ なんべん て何遍もそれを繰り返したのは、私が卒業した日の晩病人があるので自然家の出入も多くなった。近所に わらい えんぎ いる親類などは、二日に一人ぐらいので代る代る見 の事であった。私は笑を帯びた先生の顔と、縁喜でも おも ないと耳を塞いた奥さんの様子とを憶い出した。あの舞に来た。なかには比較的遠くにいて平生疎遠なもの 時の「おれが死んだら , は単純な仮定であった。今私もあった。「どうかと思ったら、この様子じや大丈夫 だ。話も自由だし、たいち顔がちっとも瘠せていない が聞くのは、いっ起るか分らない事実であった。私は 先生に対する奥さんの態度を学。ふことができなかった。じゃないか」などと言って帰るものがあった。私の帰 かあ おっ まちなみ ふつか いけま

7. 夏目漱石全集 11

きげんさから べく父の機嫌に逆わずに、田舎を出ようとした。父は ちて来ないとっていた。けれども専情にうとい父は また私を引き留めた。 またあくまでもその反対を信していた。 わすか 「お前が東京へ行くと宅はまた淋しくなる。なにしろ 「そりや僅のあいだの事たろうから、どうにか都合し おれ てやろう。その代り永くは不可いよ。相当の地位を得己とお母さんだけなんたからね。そのおれも身体さえ 次第独立しなく 0 ちゃ。元来学校を出た以上、出たあ達者なら好いが、この様子じゃいっ急にどんなことが ひと ないとも言えないよ」 くる日から他の世話になんぞなるものじゃないんだか 私はでぎるたけ父を慰さめて、自分の机を置いてあ ら。今の若いものは、金を使う道だけ心得ていて、金 る所へ帰 0 た。私は取り散らした書物のあいだに坐っ を取るほうはまったく考えていないようだね」 いくたびく 父はこのほかにもまだ色々の小言を言 0 た。そのなて、心細そうな父の態度と言葉とを、幾度か繰り返し せみ かには、「昔の親は子に食わせてもら 0 たのに、今の眺めた。私はその時また嬋の声を聞いた。その声はこ ことば のあいだじゅう聞いたのと違って、つく / 、、法師の声 親は子に食われるたけだ」などという言葉があった。 であった。私は夏郷里に帰 0 て、煮え付くようなの それ等を私はたゞ黙って聞いていた。 小言がひととおり済んだと思 0 た時、私は静かに席声の中にじっと坐 0 ていると、変に悲しい心持になる を立とうとした。父はいつ行くかと私に尋ねた。私に事がしば / 、あ 0 た。私の哀愁はいつもこの虫の烈し い音とともに、心の底に沁み込むように感ぜられた。 は早いだけが好かった。 ひとり かあ 私はそんな時にはいつも動かすに、一人で一人を見詰 「お母さんに日を見てもらいなさい」 めていた。 「そう為ましよう」 私の哀愁はこの夏帰省した以後次第に情調を変えて その時の私は父の前に存外大人しかった。私はなる おとな

8. 夏目漱石全集 11

きた。海ルの声がつく / 、法師の声に変るごとくに、 ( 1 ) りんね 私を取り巻く人の運命が、大きな輪廻のうちに、そろ 私がいよ / \ 立とうという間際になって、 ( たしか そろ動いているように思われた。私は淋しそうな父の 態度と言葉を繰り返しながら、手紙を出しても返事を二日まえの夕方のことであ 0 たと思うが、 ) 父はまた こう ~ 、りれ・え おも 寄こさない先生の事をまた憶い浮べた。先生と父とは、突然引 0 繰返 0 た。私はその時書物や衣類を詰めた行 李をからげていた。父は風呂へ入ったところであった。 まるで反対の印象を私に与える点において、比較のう のに いっしょに私の頭に上りや父の背中を流しに行った母が大きな声を出して私を呼 えにも、連想のうえにも、 うしろ んだ。私は裸体のま、母に後から抱かれている父を見 すかった。 もど 私はほとんど父の凡ても知り尺していた。もし父をた。それでも座敷へ伴れて戻 0 た時、父はもう大丈夫 ぬれてぬぐい まくらもとすわ じようあい だと言った。念のために枕元に坐って、濡手拭で父の 離れるとすれば、青合のうえに親子の心残りがあるだ けであ 0 た。先生の多くはまだ私に解 0 ていなか 0 た。頭を冷していた私は、九時ごろにな 0 てようやく形ば 話すと約東されたその人の過去もまた聞く機会を得すかりの夜食を済ました。 翌日になると父は思ったより元気が好かった。留め 」いた。要するに先生は私にとって薄暗かった。私は ぜひともそこを通り越して、明るいところまで行かなるのも聞かすに歩いて便所へ行 0 たりした。 「もう大丈夫」 ければ気が済まなかった。先生と関係の絶えるのは私 こと なか 父は去年の暮倒れた時に私に向って言ったと同じ言 にとって大いな苦痛であった。私は母に日を見てもら をまたり返した。その時は、はたしてロで言った って、東京へ立つ日取を極めた。 とおりまあ大丈夫であった。私は今度もあるいはそう わか さび ふろ まぎわ だいじよう -

9. 夏目漱石全集 11

いのかと追窮しに掛りました。奥さんは微笑しながら また私の顔を見るのです。 はじめ 私は食卓に着いた初から、奥さんの顔付で、事の成「私はそのま二三日過ごしました。その二三日のあ すき いだに対する絶えざる不安が私の胸を重くしていた 行をほゞ推察していました。しかしに説明を与える ために、私のいる前で、それをことん・ \ く話されてはのはいうまでもありません。私はたゞでさえなんとか 堪らないと考えました。奥さんはまたそのくらいの事しなければ、彼に済まないと思ったのです。そのうえ を平気でする女なのですから、私はひや / \ したので奥さんの調子や、お嬢さんの態度が、始終私を突ッっ す。さいわいにはまた元の沈黙に帰りました。平生くように刺激するのですから、私はなお辛かったので そな より多少機嫌のよかった奥さんも、とう / \ 私の恐れす。どこか男らしい気性を具えた奥さんは、いっ私の すっぬ を抱いている点までは話を進めすに仕舞いました。私事を食卓でに素ば抜かないともかぎりません。それ はほっと一息して室へ帰りました。しかし私がこれか 以来ことに目立つように思えた私に対するお嬢さんの らさきに対して取るべき態度は、どうしたものたろ挙止動作も、の心を曇らす不審の種とならないとは うか、私はそれを考えずにはいられませんでした。私断言できません。私はなんとかして、私とこの家族と は色々の弁護を自分の胸で拵らえてみました。けれどのあいだに成り立った新らしい関係を、に知らせな りんりてき もどの弁護もに対して面と向うには足りませんでしければならない位置に立ちました。しかし倫理的に弱 ひきよう ろた。卑怯な私はついに自分で自分をに説明するのが点をもっていると、自分で自分を認めている私には、 いや ゝ それがまた至難の事のように感ぜられたのです。 厭になったのです。 私は仕方がないから、奥さんに頼んでに改ためて かおっき 四霎 す たね 195

10. 夏目漱石全集 11

も、めったに返事をしたことがありませんでした。 「私はお嬢さんの立ったあとで、ほっと一鶯するので 時たまお嬢さん一人で、用があ 0 て私の室へはい 0 す。それと同時に、物足りないようなまた済まないよ たついでに、そこに坐って話し込むような場合もその うな気持になるのです。私は女らしかったのかもしれ うちに出て来ました。そ ういう時には、私の心が妙に ません。今の青年の貴方がたから見たら、なおそう見 不安に冒されてくるのです。そうして若い女とたヾ差えるでしよう。しかしそのころの私達はたいていそん むか 向いで坐っているのが不安なのだとばかりは思えませなものたったのです。 んでした。私はなんたかそわ / く \ したすのです。自分奥さんはめったに外出したことがありませんでした。 うちるす で自分を裏切るような不自然な態度が私を苦しめるのたまに宅を留守にする時でも、お嬢さんと私を二人ぎ です。しかし相手のほうはかえって平気でした。これ り残して行くようなことはなかったのです。それがま が琴を浚うのに声さえ碌に出せなかったあの女かしら た偶然なのか、故意なのか、私には解らないのです。 と疑がわれるくらい、恥すかしがらないのです。あま私の口からいうのは変ですが、奥さんの様子をよく観 り長くなるので、茶の間から母に呼ばれても、『はい』察していると、なんたか自分の娘と私とを接近させた と返事をするだけで、容易に腰を上けないことさえあが 0 ているらしくも見えるのです。それでいて、ある こども りました。それでいてお嬢さんは決して子供ではなか 場合には、私に対して暗に警戒するところもあるよう ったのです。私の目にはよくそれが解っていました。 なのですから、はじめてこんな場合に出会った私は、 こんせき よく解るように振舞って見せる痕迹さえ明らかでした。時々心持をわるくしました。 っ 私は奥さんの態度をどっちかに片付てもらいた、 たのです。頭の働きからいえば、それが明らかな矛盾 さら ふるま ひとり わか かた・つけ わか ふたり 132