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検索対象: 夏目漱石全集 11
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1. 夏目漱石全集 11

たじけなく切り詰めた無弾力性のものではなかった。 んかまるで無いんでしよう」 「そうでしよう」と私は言った。 先生が私の家の経済について、間らしい間を掛けた 「そりやそのくらいの金はあるさ。けれども決して財 のはこれがはじめてであった。私のほうはまだ先生の むき 暮し向に関して、なにも聞いたことがなか 0 た。先生産家じゃありません。財産家ならもっと大きな家でも 造るさ」 と知合になったはじめ、私は先生がどうして遊んでい この時先生は起き上って、縁台の上に胡坐をかいて られるかを疑ぐった。その後もこの疑いはたえず私の あらわ いたが、こう言い終ると、竹の杖の先で地面の上へ円 胸を去らなかった。しかし私はそんな露骨な間題を先 のようなものを描きはじめた。それが済むと、今度は っ 生の前に特ち出すのをぶしつけとばかり思って、い まっすぐ でも控えていた。若葉の色で疲れた目を休ませていたステッキを突ぎ刺すように真直に立てた。 「これでも元は財産家なんだがなあ」 私の心は、偶然またその疑いに触れた。 ひとりいこと 先生の言葉は半分独言のようであった。それですぐ 「先生はどうなんです。どのくらいの財産を有ってい ゅそこ あとに尾いて行き損なった私は、つい黙っていた。 らっしやるんですか」 「これでも元は財産家なんですよ、君ーと言い直した 「私は財産家と見えますか」 なり 先生は平生からむしろ質素な服装をしていた。それ先生は、次に私の顔を見て微笑した。私はそれでもな ( 2 ) ぶちょうほう に家内は小人数であった。したがって住宅も決して広んとも答えなかった。むしろ不調法で答えられなかっ よそ たのである。すると先生がまた間題を他へ移した。 くはなかった。けれどもその生活の物質的に豊なこと うちわ 「あなたのお父さんの病気はその後どうなりました」 は、内輪にはいり込まない私の目にさえ明らかであっ 私は父の病気について正月以後なんにも知らなかっ た。要するに先生の暮しは贅沢といえないまでも、あ こにんす あが あぐら

2. 夏目漱石全集 11

なんの縁故もない新聞記者までも、必ず同様の質間を は彼の生前に雑司ヶ谷近辺をよくいっしょに散歩した 私に掛けないことはなかったのです。私の良心はその ことがあります。にはそこがたいへん気に入ってい ( 1 ) じようだん たのです。それで私は笑談半分に、そんなに好ならたびにちく / 、刺されるように痛みました。そうして おにえ 死んだらここ〈埋めてやろうと約東した覚があるので私はこの質間の裏に、早くお前が殺したと白状してし まえという声を聞いたのです。 す。私も今その約東どおりを雑司ヶ谷へ葬ったとこ 私の答はだれに対しても同じでした。私はたゞ彼の ろで、どのくらいの功徳になるものかとは思いました。 ひざ あて けれども私は私の生きているかぎり、の墓の前に跪私宛で書き残した手紙を繰り返すだけで、ほかに一口 つけくわ ざんげ まずいて月々私の懺悔を新たにしたかったのです。今も付加えることはしませんでした。葬式の帰りに同し ふところ 問を掛けて、同じ答を得たの友人は、懐から一枚の まで構い付けなかったを、私が万事世話をして来た という義理もあったのでしよう、の父も兄も私の言新聞を出して私に見せました。私は歩きながらその友 人によって指し示された個所を読みました。それには うことを聞いてくれました。 えんせいてきかんがえ が父兄から勘当された結果厭世的な考を起して自殺 したと書いてあるのです。私はなんにも言わずに、そ 「の葬式の帰り路に、私はその友人の一人から、の新聞を畳んで友人の手に帰しました。友人はこのほ かにもが気が狂って自殺したと書いた新聞があると がどうして自殺したのだろうという質間を受けました。 事件があ 0 て以来私はもう何度となくこの質間で苦し言 0 て教えてくれました。忙がしいので、ほとんど新 められていたのです。奥さんもお嬢さんも、国から出聞を読む暇がなかった私は、まるでそうした方面の知 て来たの父兄も、通知を出した知り合いも、彼とは識を欠いていましたが、腹の中では始終気にかゝって そ ) し ひとり 2 囲

3. 夏目漱石全集 11

「どうしてそう一度に死なれたんですか」 さえぎ 奥さんは私の間に答えようとした。先生はそれを遮 くぎりつ 私は立て掛けた腰をまた卸して、話の区刧の付くま で二人の相手になっていた。 「そんな話はお止しよ。つまらないから」 うちわ 「君はどう思います」と先生が聞いた。 先生は手に持った団扇をわざとばた / \ 言わせた。 先生が先へ死ぬか、奥さんが早く亡くなるか、もとそうしてまた奥さんを顧みた。 より私に判断のつくべき間題ではなかった。私はたゞ 「静、おれが死んたらこの家をお前に遣ろう」 笑っていた。 奥さんは笑い出した。 わか 「寿命は分りませんね。私にも」 「ついでに地面も下さいよ」 「こればかりはほんとうに寿命ですからね。生れた時 「地面は他のものたから仕方がない。その代りおれり きま にちゃんと極った年数をもらってくるんだから仕方が持ってるものは皆なお前に遣るよー とう かあ ないわ。先生のお父さんやお母さんなんか、ほとんど 「どうも有難う。けれども横文字の本なんか貲っても 同なじよ、あなた、亡くなったのが」 しようがないわね」 「亡くなられた日がですか」 「古本屋に売るさ」 「まさか日まで同なじじゃないけれども。でもまあ同「売ればいくらぐらいになって」 ろなじよ。だって続いて亡くなっちまったんですもの」 先生はいくらとも言わなかった。けれども先生の話 この知識は私にとって新らしいものであった。私は は、容易に自分の死という遠い間題を離れなかった。 こった。 不思議冫 そうしてその死は必す奥さんのまえに起るものと仮定 こ ふたり 三去 おら っこ 0

4. 夏目漱石全集 11

それ以外のもので、文壇の偉い人の書いたものはたい てい偉いのです。決して悪いものじゃありません。西要するにどっちのほうが大切であろうかというと、 洋のものに比べてちっとも驚くに足らぬ。ただ竪に読両方が大切である、どっちも大切である。人間には裏 むと横に読むだけの違いである。横に読むとたいへんと表がある。私は私をこ、に現わしていると同時に人 巧いように見えるというのは誤解であります。自分で 間を現わしている。それが人間である。両面を持って それほどのオリジナリテーを持っていながら、自分の いなければ私は人間とは言われないと思う。たゞどっ オリジナリテーを知らすに、あくまでもどうも西洋はちが今重いかと言うと、人といっしょになって人の後 偉い / 、と言わなくても、もう少しインデベンデント に喰っ付いて行く人よりも、自分から何かしたい、 になって、西洋をやつつけるまでにはゆかないまでも、ういうほうが今の日本の状況から言えば大切であろう 少しはイミテーションをそうしないようにしこ、。 芸と思うのであります。 術上ばかりではない。私は文芸に関係が深いからとか文展を見てもどうも、そっちのほうが欠乏している く文芸のほうから例を引くが、その他においても決しように見えるので、特にそういう点に重きを置いて、 て追っ着かないものはない。金の間題では追っ着かな御参考のために申し上げたような次第であります。 いかしらぬが、頭の間題ではそんなものではないと思 ( 第一高等学校校友会雑誌所載の筆記による ) っている。あなたがたも大学をお遣りになって、そう してます /. 、インデベンデントにお遣りになって、新 しいほうの、本当の新しい人にならなければ不可ない。 なしかえ 蒸返しの新しいものではない。そういうものではいけ たて 2 矼

5. 夏目漱石全集 11

が大切なのである。 capitalist から金をとり上げれば ない。人格といったってえらいということでもなけれ ゼロである。なんにもできない。同様にあなたがたか ば、偉くないということでもない。個人の思想なり観 ら腕をとり上げても駄目である。吾々は腕も金もとり 念なりを中心として考えるということである。 上げられてもい、が、人間をとり上けられてはそれこ 一口に言えば、文芸家の仕事の本体すなわち es ・ そ大変である。 sence は人間であって、他のものは付属品装飾品であ あなたがたのほうでは技術と自然との間になんらのる。 矛盾もない。しかし私共のほうには矛盾がある。すな この見地より世の中を見わたせば面白いものです。 わちごまかしがきくのです。悲しくもないのに泣いた こういうのは私一人かもしれませんが、世の中は自分 おこ り、嬉しくもないのに笑ったり、腹も立たないのに怒を中心としなければいけない。もっとも私は親が生ん ったり、こんな講壇の上などに立ってあなたがたからたので、親はまたその親が生んだのですから、私はた また 偉く見られようとしたりするのでーーこれはある程度だ一人でぼつりと木の股から生れたわけではない。そ まで成功します。これは一種の a 「 ( である。 art と人こでこういう間題が出てくる。人間は自分を通じて先 間のあいたには距離を生じて矛盾を生じやすい。あな祖を後世に伝える方便として生きているのか、または ろう たがたにも人格にない a 「 ( を弄していることがたく自分そのものを後世に伝えるために生きているのか。 ねむ さんある。すなわちねないのに、睡くないようなふり これはどっちでもい、ことですけれども、とりようで をするなどはその一例です。かく art は恐ろしい は二様にとれる。親が死んだからその代理に生きてい 吾々にとっては art は二の次で、人格が第一なのでるともとれるし、さようでなくて己は自分が生きてい す。孔子様でなければ人格がない、なんていうのじゃるんで、親はこの己を生むための方便た、自分が消え おのれ 260

6. 夏目漱石全集 11

えていなかったのです。もし考えていたとすれば、、 つものとおりお嬢さんが間題だったかもしれません。 そのお嬢さんにはむろん奥さんも食っ付いていますが、 近ごろでは自身が切り離すべからざる人のように、 私の頭の中をぐる / 、、回って、この間題を複雑にして おぼ , っげ いるのです。と顔を見合せた私は、今まで朧気に彼「はなか / \ 奥さんとお嬢さんの話を己めませんで じゃま した。仕舞には私も答えられないような立ち入った事 を一種の邪もののごとく意識していながら、明らか めんどう にそうと答えるわけにいかなかったのです。私は依然まで聞くのです。私は面倒よりも不思議の感に打たれ として彼の顔を見て黙っていました。するとのほうました。以前私のほうから二人を間題にして話しかけ からっか / 、と私の座敷へ入って来て、私のあたってた時の彼を思い出すと、私はどうしても彼の調子の変 いる火鉢の前に坐りました。私はすぐ両肱を火鉢の縁っているところに気が付かずにはいられないのです。 きよう から取り除けて、こ、ろもちそれをのほうへ押し遣私はとう / 、、なぜ今日にかぎってそんな事ばかり言う るようにしました。 のかと彼に尋ねました。その時彼は突然黙りました。 くちもと はいつもに似合わない話を始めました。奥さんとしかし私は彼の結んた口元の肉が顫えるように動いて お嬢さんは市ヶ谷のどこへ行ったのだろうと言うので いるのを注視しました。彼は元来無ロな男でした。平 す。私はおおかた叔母さんの所だろうと答えました。 生から何か言おうとすると、言うまえによく口のあた >< はその叔母さんはなんだとまた聞きます。私はやは りをもぐ / 、、させる癖がありました。彼の唇がわざと たやすあ り軍人の細君だと教えてやりました。すると女の年始彼の意志に反抗するように容易く開かないところに、 っ や すぎ はたいてい十五日過だのに、なぜそんなに早く出掛け たのだろうと質間するのです。私はなぜだか知らない あいさっ と挨拶するよりほかに仕方がありませんでした。 しかた ふたり ふる や くちびる 17 イ

7. 夏目漱石全集 11

ちよくせつ 葉を用いる代りに、もっと直截で簡単な話をに打ちていませんでした。にも宗教家らしい様子がまった 明けてしまえば好かったと思い出したのです。実をい く見えなくなりました。おそらく彼の心のどこにも霊 うと、私がそんな言葉を創造したのも、お嬢さんに対がどうの肉がどうのという間題は、その時宿っていな いそ する私の感情が土台になっていたのですから、事実を かったでしよう。二人は異人のような顔をして、忙 蒸留して拵らえた理論などをの耳に吹き込むよりも、 がしそうに見える東京をぐる / \ 佻めました。それか ( 2 ) しやも 原の形そのま、を彼の目の前に露出したほうが、私にら両国へ来て、暑いのに軍鶏を食いました。はその はたしかに利益だったでしよう。私にそれができなか勢で小石川まで歩いて帰ろうと言うのです。体力か ったのは、学間の交際が基調を構成している二人の親らいえばよりも私のほうが強いのですから、私はす ぐ応じました。 しみに、おのずから一の惰性があったため、思い切 うち ってそれを突き破るだけの勇気が私に欠けていたのだ 宅へ着いた時、奥さんは二人の姿を見て驚ろきまし ということをこ、に自白します。気取りすぎたと言っ た。二人はたゞ色が黒くなったばかりでなく、むやみ ても、虚栄心が祟ったと言っても同じでしようが、私に歩いていたうちにたいへん瘠せてしまったのです。 じようぶ のいう気取るとか虚栄とかいう意味は、普通のとは少奥さんはそれでも丈夫そうになったと言って賞めてく し違います。それがあなたに通じさえすれば、私は満れるのです。お嬢さんは奥さんの矛盾が可笑しいと言 ってまた笑いだしました。旅行前時々腹の立った私も、 足なのです。 まっくら 我々は真黒になって東京へ帰りました。帰った時はその時だけは愉快な心持がしました。場合が場合なの 私の気分がまた変っていました。人間らしいとか、人と、久し振に聞いたせいでしよう。 間らしくないと力いう月 、理屈はほとんど頭の中に残っ ふたり いきおい ひさぶり や ノ 00

8. 夏目漱石全集 11

なものかと言うと、決してさようではないと言うのでができない。かく芸を離れて当人になってくるのは角 あります。 カか役者に多い。作物になるとさほどでもないように かようにあなたがたの出発点と吾々文芸家の出発点もみえる。 とは違っている。 これほどまでに芸術とか文芸とかいうものは per ・ sonal である。 personal であるから自己に重きを置く。・ そのものの性質より = 白えば、吾々のほうのものは personal のもので、作物を見て作った人に思い及ぶ。自己がなくなったら personal でなくなるのはあたり まえ 前であるが、その自己がなくなれば芸術は駄目である。・ 電車の軌道は誰が敷いたかと考える必要はないが、芸 とうと あなたがたに尊ぶことは、自己でなくして腕である。・ 術家のものでは、誰が作ったということがじき問題に おわ なる。したがって製作品に対する情緒がこれにうつつ腕さえあれば能事了れりと言うてもよい。工場では人 間がいらないほどあっても、その人間は機械の一部分 て行って、作物に対する好悪の念が作家にうつって行 のようなものである。 mechanical に働く、機械より く。なおひろがって作家自身の好悪となり、けつきょ く道徳的の間題となる。それゆえ当然作物からのみ得も巧妙に働く、腕が必要である。が、吾々のほうは人 ( 1 ) 間であるということが大切なことで、社会上より言う られべき感情が作家に及ぼして、仕舞には justice と いうことがなくなって、贔屓というものができる 0 芸ときはお互に社会の一員であるけれども、吾々のほう すもう あなた 人にはこの贔屓が特に甚たしい。相撲なんかそれです。は貴方がたに比べて人間ということが大事になる。 ところがこ、、に腕の人でもなく頭の人でもない一種 私の友人に相撲のすきな人があるが、この人は勝った の人がある。資本家というものがそれである。この ほうがすきだと申します。この人なんか正義の人で、 ( 2 ) 公平で、決して贔屓ではない。贔屓になるとこんな事 capitalist になると、腕も人間も大切でなく、たゞ金 はなは 265

9. 夏目漱石全集 11

る。道念ではない。その最後の一瞬は何であるか、常て見よう。 第一の目においては、自分は先生の筆にほとんど 先生が 人に在っては金、非常人にあっては恋」。 なんらの不満をも感じない。、そこには一人の女に対す 「こ、ろーにおいて具象しようとした田 5 想は、たいてい 以上の言葉に尽きている。しかし、先生の取扱った間る競争者として現れた二人の男が描かれている。それ 題は、単にそこまで行 0 ただけで止まなか 0 た。先生らの男の一方は、自己の恋愛感情を満足させようとい うイゴイスチックな動機から、表面にはきわめて美し はさらに今一歩を進めた。日く、「イゴイズムを満足 はんい い友情と正義との仮面を被りながら、裏面にあっては しえた後の道念の反噬」ーーある意味において、それ 性格上に有する相手の男の弱点に乗じて、あくまでこ はかって「門ーの宗助が逢着した間題であり、「こ けおと ろ」にあ 0 ては、「こ、ろ」の主人公が出会した間題でれを蹴落すべく努力しようとする。この複雑なる心理 ついしよう の推移を追蹤して、先生の筆はきわめて精到に、きわめ ある。和辻哲郎氏は言う、「利己主義と正義との争い て深刻に動いている。ことに、よく描けていると思う ぜんん 以上の見地に立っと、「こ、ろ」は尠くとも二つの視のは、の女に対する態度に対して漸々不安を感じて 行くようになる径路や、に先手を打たれた後に「万 点から観察せらるべきである。すなわちその一つは、 ねら 、こしてその威力真休す」と思いながら、なおの精神的な間隙を覘い 恋愛の試練に依るイゴイズムが、し / ~ 評を振うたかということ、今一つは、道念の反噬に依るその上に押し蒐って相手を圧倒しようとする執念深い 気持などである。この意味において、三百六十五頁か 人苦悶がいかにして破減にまで導いたかということ 初版本『心』 に亘る精緻な描写は、「こ のページ数 時この複雑なる心理が、先生の筆に依 0 て果して必然的ら三百七十一頁〔 はつらっ な解剖を得たかどうか。それについていささか観察しころ」一巻の中に在って最も滲刺たる生気を持った場

10. 夏目漱石全集 11

町七番地より府下青山原宿百七十番地十四号森次太郎 七月ニ十八日 ( 火 ) 牛込区早稲田南町七番地より京 へ 橋区滝山町四番地東京朝日新聞社内山本松之助へ 君のほうに好い家はありませんか。 拝復御心配をかけてまことに相済みません。私は おぼえ かわり ( 1 ) まちがい 拝復暑中お変もなく結構です。霽月は尋ねてくれ回数に間違をした覚がないのですが、百二百四とっゞ そこっ ました。あの結婚間題も聞きました。私は血族でも構けてみると、つヾくようですからまったく私粗忽から わんと思うがど 5 ですかね。 生じたことと存じます。恐縮いたします。百四を百三一 と御訂正のうえ御掲載願います。 私の小説を暑いのに一度に読んでくださるあなたは うけたま なおその以後の分は一回ずつぐれることになります 私にとってありがたいお得意です。御批評も承わりま した。なんだか一揚一抑一擒一縦といったふうの書きが、私のほうは間違なりに進行いたさせますから、あな わか たのほうで一つずつお直しくださることを希望いたし 方で悪口だか賛辞だか分りませんね。 ます。私が正すとかえって混雑するかと思いますから。 はやく小説 ( ) を書いてしま 0 てほかの事がした ぶんど もうしあげ いと思います。霽月から明月の二幅を分捕ったそうじ ついでに申上ます。里見、武者小路、野上、久保田、 ゃありませんか。今度お見せなさい。取りはしません後藤ことん \ く承諾いたしました。原稿料をきめずに から。以上 頼みましたが、これは一列一体に同しにするか、等級 七月二十八日 をつけるか、なんだか面倒になりそうです。比較的好 夏目金之助 ( 2 ) さしつかえ 森円月様 い稿料を払えば一列不別で差支ないでしようが、そう でないと文句が出るかもしれないと思います。それは 七三朝日の新人短編連載 ( 八 ) おって御相談いたします。なにしろすぐ金に替えなく せいげつ 327