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検索対象: 夏目漱石全集 12
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1. 夏目漱石全集 12

ふたりともだち 黙っていろと父から言われます。私はまた人を欺って〇二人の友達が久しぶりに会う。昔会った旧友のこと 嫁に行くのがつらくてならないのです。 などを話しあう。「あいつはどうした」。曾遊のこと を話しあう。「あの時はどうだった」 愛の種々相 〇フレートニック・ラップ 〇 < との関係。むしろ愛より愛の形式、霊よりむし 、僕はあの女に対してたゞ。フレートニック・ラッ ろ肉。 ブを有っているたけた。 < と 0 との関係。歴史的には前者よりははるかに浅 、皮肉ナ笑い方をする。 pa ハ < の内々で道楽をす し。外部より見ればスライト・アクエインタンス。しることを知っているので。 ( 2 ) かし内部にインスタンタニアス flash < はそれに気が付いたか付かないかしきりに前言を (< 十 m) の関係は外面的に非常に近ししかし十強調する。 0) の関係は内面的にかえって近し。 ßQ 最後に自分の腹のなかにあることを打ち明けて、 きれい この時より観察せる + 0) の関係。 「いくら君がそう綺麗なことを口先で言ったって、信 ある時はハッと驚ろく。そうしてたいへんだと思う。 用ができない」という。 しっとしん ( 4 ) ある時は推察がすぐ事実と同じものになって嫉妬心を ßQ 自己を説明する。彼はその女だけに対して肉感を 起す。ある時は推察の真か偽かを疑ってたゞ不審の念起さないのだという。 そうして他の女に対して肉の感 ひとり を起す。ある時はたゞの否定に傾く。 じを起しても、ある一人の女 ( 非常に自分の愛してい 0 慣れぬ仲間の前へ出た時。 る ) に対してのみはまったくその欲から独立したもの C 神経質の人の恐怖 だということを説明する。 場慣れない人の恐怖 っ

2. 夏目漱石全集 12

書 ありと 病気をお見舞くださいまして有難うございます。私はす。それはもっとお読みくだされば解るだろうと思い 始終病気です。たゞ起きてる時と寐ている時とあるた ます。アンナカレニナは第何巻、第何章という形式で かきかた けです。 分れていますが内容からいえば私の書方となんの異な 上田敏君が死にました。十三日に葬式がありました。るところもありません。私は面倒だから一、二、 わか 人間はいっ死ぬか分りません。人から死ぬ死ぬと思わ四、とのべつにしました。それが男を病院に置いて女 れている私はまだびく / \ しています。 のほうが主人公に変るところの継目はことさらになら 私の書物なんかアメリカ人に読んでもらうようなもないように注意したつもりです。要するにあなたは常 のは一つもありません。 識で変だといい私も常識で変でないというのです。す そう / 、 ふたり 御返事まで。匇々 ると二人の常識がどこか違っているのでしようか。呵 七月十五日 厨川辰夫様 七月十八日 夏目金之助 大石泰蔵様 三六「明暗」の「お延」の書き方 ( 一 ) 三七「明暗」の「お延」の書き方 ( 一 l) 七月十八日 ( 火 ) 午後十時ー十二時牛込区早稲田南 町七番地より本所区沢町一丁目二十六番地大石泰蔵へ 七月十九日 ( 水 ) 午後五時ー六時牛込区早稲田南町 七番地より本所区亀沢町一丁目一一十六番地大石泰蔵へ 拝復「明暗」のかき方についての御非難に対して もうしあげ あなたの第二の手紙は私のあなたに対する興味を引 はなにも申上るほどのことはないようです。私はあれ うけと で少しも変でないと思っているだけです。たゞし主人き起しました。第一の書信を受取った時私は ( 実をい 公を取かえたのについては私にその必要があったのでうと ) 面倒なことをいってくる人だと思いました。黙 とり 夏目金之助 めんどう かわ めんどう つぎめ わか 365

3. 夏目漱石全集 12

きよう さしつかえ たがいかゞなものでしよう。もしお差支なくば、また 拝啓今日さきほど投函いたしました明暗 ( 二十 しまいぎわ たいしたお手数にならないならば御保存のうえ完結後四 ) のいちばん仕舞際に「その小路を行き尽して突き あた 取り纏めて同氏へ渡してやりたい・と思います。ちょっ当りにある藤井の門を潜った時、彼は突然彼の一間ば と手紙で御都合を伺います。以上 かり前に起る砲声を聞いた」というような文句があり 五月二十一日 夏目金之助 ますが、もし砲声となっていたらそれを銃声と訂正し 山本松之助様 ておいていたゞきます。もしまた砲声とも銃声ともな く他の「どんという音」とか「鉄砲の音」とかなって 三三「明暗」執筆多忙 いたらそのま、でよろしゅうございます。なんだか書 六月四日 ( 日 ) 午後一一一時ー四時牛込区早稲田南町七 いたあとでふと気が付いたようでそのくせ自分の使用 ふとく 番地より麹町区平河町六丁目五番地松山忠二郎へ〔はがした句をはっきり覚えていないようなので。つい不得 ようりよう き〕 要領なお願を致すことになりました。以上 六月十日 拝啓明日の編集会へはなるべく都合して出ますが 夏目金之助 さしくり もし出なかったら小説執筆のため時間の差繰がっかな 山本松之助様 かったことと思ってください。 三五上田敏の死 三四「明暗」の語句訂正 七月十五日 ( 土 ) 午後十時ー十二時牛込区早稲田南 ( 3 ) 町七番地より 212 West 122 Street, New York 厨川 六月十日 ( 土 ) 午後三時ー四時牛込区早稲田南町七 辰夫へ 番地より京橋区滝山町四番地東京朝日新聞社内山本松之 助へ 拝復その後いよ / \ 御勉強結構に存じます。私の いた っ とうかん

4. 夏目漱石全集 12

儘三はその輪の上にはたりと立ち留ることがあった。 ふたり げつこう 二人が衝突する大根はこ、にあった。 彼の留る時は彼の激歸がまる時にほかならなかった。 夫と独立した自己の存在を主張しようとする細君を細君はその輪の上でふと動かなくなることがあった。 見ると健三はすぐ不快を感じた。やゝともすると、 しかし細君の動かなくなる時は彼女の沈滞が融けだす はげ 「女のくせに」という気になった。それが一段劇しく時に限っていた。その時健三はようやく怒号を巳めた。 ことば たすさ なるとたちまち「なにを生意気な」という言葉に変化 細君ははじめて口を利きだした。二人は手を携えて談 あいさっ した。細君の腹には「いくら女だって」という挨拶が笑しながら、やはり円い輪の上を離れるわけにいかな たくわ っこ 0 いつでも貯えてあった。 つけ た 「いくら女だって、そう踏み付にされて堪まるもの 細君が産をする十日ばかり前に、彼女の父が突然健 三を訪間した。あいにく留守だった彼は、夕暮に帰っ あきら 健三は時として細君の顔に出るこれだけの表情を明てから細君にその話を聞いて首を傾むけた。 かに読んだ。 「なにか用でもあったのかい」 「女だから馬鹿にするのではない。馬鹿だから馬鹿に 「えゝ少しお話ししたいことがあるんですって」 するのだ、尊敬されたければ尊敬されるだけの人格を「なんだい」 拵えるがいい」 細君は答えなかった。 ロジック むか 健三の論理はいつのまにか、細君が彼に向って投け「知らないのかい」 る論理と同じものになってしまった。 「え、。また二三日うちに上ってよくお話をするから 彼等はかくして円い輪の上をぐる / ( 、回って歩いた。 って帰りましたから、今度参ったらじかに聞いてくだ さい」 そうしていくら疲れても気が付かなかった。 か」 こしら ら ( 1 ) おおね き あが

5. 夏目漱石全集 12

健三の記億はたしかにそれを彼に語り得なかった。 て、下女に味汁をよそってやるのをなんの気もなく すま なが 島田の住居と扱所とは、もとより細長い一つ家を仕眺めていた 0 きっ 切たまでのことなので、彼は出勤といわす退出といわ「それじゃなんぼなんでも下女が可哀そうだ」 も すくな ず、少からぬ便宜を有っていた。彼には天気の好い時彼の実家のものは苦笑した。 めんどう でも土を踏む面倒がなかった。雨の降る日にはを差 お常はまた以櫃やお菜のはいっている戸棚に、いっ おっくう たす す億劫を省くことができた。彼は自宅から縁側伝いででも錠を卸した。たまに実家の父が訪ねてくると、き とりよ 勤めに出た。そうして同じ縁側を歩いて宅へ帰った。 っと蕎麦を取寄せて食わせた。その時は彼女も健三も こういう関係が、小さい健三を少からす大胆にした。同じものを食った。その代り飯時が来ても決していっ おおや ぜん 彼は時々公けの場所へ顏を出して、みんなから相手にものように膳を出さなかった。それを当然のように思 すゞりばこ された。彼は好い気になって、書記の硯箱の中にある っていた健三は、実家へ引き取られてから、間食のう 朱墨をったり、小 刀の鞘を払って見たり、他に蒼蠅えに三度の食事が重なるのを見て、大いに驚いた。 いたすら がられるような悪戯を続けざまにした。島田はまたで しかし健三に対する夫婦は金の点に掛けてむしろ不 ( 2 ) きはちしよう きるかぎりの専横をもって、この小暴君の態度を是認思議なくらい寛大であった。外へ出る時は黄八丈の羽 えち 織を着せたり、縮緬の着物を買うために、わざ / \ 越 りんしよく 島田は吝嗇な男であ 0 た。羝のお常は島田よりもな後屋まで引 0 張 0 て行 0 たりした。その越後屋の店へ お吝嗇であった。 腰を掛けて、柄を択り分けているあいだに、夕暮の時 せま 「爪に火を点すってえのは、あのことだね」 間が逼ったので、おおぜいの小僧が広い間ロの雨戸を、 のち 彼が実家に帰ってから後、こんな評が時々彼の耳に両側から一度に締めだした時、彼は急に恐ろしくなっ あ ながひばちそばすわ 入った。しかし当時の彼は、お常が長火鉢の傍へ坐って、大きな声を揚けて泣きだしたこともあった。 しゆすみ 、じ さや うち ひとうるさ し おろ おつづ ちりめん かす とだな

6. 夏目漱石全集 12

ました。しかし私は黙然としていました。獅を書いた 六月ニ十ニ日 ( 火 ) 午後一一時ー三時牛込区早稲田南 時多くの人は翻案か、または方々から盗んだものを並 町七番地より京橋区滝山町四番地東京朝日新聞社内山本 べたてたのだと解釈しました。そんな主意を発表した 松之助へ ものさえあります。 啓今日 ( 二十二日 ) の十九回目の道草の仕舞から むしゃのこうじ しやくさわ 武者小路さん。気に入らないこと、癪に障ること、 二行目にある「裡に強い健三の頭」は「理に強い健三 ちりあくた 憤慨すべきことは塵芥のごとくたくさんあります。その頭」です。意味が通じなくなるからちょ 0 と御注意 れを清めることは人間のカでできません。それと戦うを願います。 うんぬん よりもそれをゆるすことが人間として立淤なものなら私の原稿が汚ないのに校正を云々するのは気の毒で ば、できるたけそちらのほうの修養をお互にしたいとすから、たいがいはそのま、にしておきます。これも よろ 思いますがどうでしよう。 そのま & で宜しいので正誤には及びません、たヾ校正 私は年に合せて気の若いほうですが、近来ようやく者にちょっと通じておいてください。以上 そっちの方角に足を向けだしました。時勢は私よりも 六月二十二日 夏目金之助 先に立っています。あなたがそちらへ目をつけるよう 山本様 になるのは今の私よりもすっと若い時分のことだろう 一八朝日へ秋声連載の件 と信じます。以上 六月十五日 夏目金之助 六月ニ十五日 ( 金 ) 午後四時ー五時牛込区早稲田南 武者小路実篤様 町七番地より京橋区滝山町四番地東京朝日新聞社内山本 松之助へ 一七朝日へ「道草」の校正ミスを 拝啓私のあとの小説につきおって御相談のお約東 りつ ! うち 352

7. 夏目漱石全集 12

らないからです。まったく営業的に近いからです ( ししいのです。それでそのまえなら少しはひまもできる かしやらなければならん時もありましようが ) 。 と思います。まだ、せひ行くとまでは決心もしていませ 右あら / 、御返事まで。匇々 んがだいぶ心は動いているのです。しかし行くとすれ うち 二月十五日 夏目金之助 ばやはり京都のどこかへ宿をとってそうして君の宅へ 芥舟様 遊びにでも出掛るわけになるのでしようか。そんな点 についてもし君の心に余裕があるなら注意してくれま 六吾が希望する書斎 せんか。僕は京都に少々知人があるが大学の人などに のんき めんどう あいさっ ニ月〔 ? 〕午込区早稲田南町七番地より牛込区矢来町 挨拶に回るのも面倒だから人に知られないで呑気に遊 三番地新潮社「新潮」へ〔応間三月一日発行「新潮」よびたいのです。その辺はお含みを願いたいのです。ま とりき だはっきりともしないのにすでに取極めたようなこと ひあた みなみむき めいそうじよう 私は日当りの好い南向の書斎を希望します。明窓浄をいって自分でも変です。 ことま 机という陳腐な言葉は私の理想に近いものであります。画を見てもらう人がいなくなったので少々困ってい ます。以上 七京都旅行計画 三月九日 夏目金之助 三月九日 ( 火 ) 午前十一時ー十二時牛込区早稲田南 津田青楓様 町七番地より京都府下深草村字大亀谷桃陽園津田亀次郎奥さんへよろしく 簡 へ 京都より夫人へ 衂安着のよし結構です。僕も遊びに行きたくな 0 た。 小説は四月一日ごろから書きたせばどうか間に合うら 三月ニ十八日 ( 日 ) 午後九時ー十時京都市三条木屋 でかけ 343

8. 夏目漱石全集 12

草 った時に、彼は返事をしないで、たゞ自分の着ている れを夫に渡した。 ( 2 ) ろ さび なが 羽織を淋しそうに眺めた。その羽織は古い絽の紋付に 「のまうにや仕舞 0 ておくところがないよ、 やふ 彼の周囲は書物でいつばいになっていた。手文庫に違いなかったが、悪くいえば申し訳のために破けずに つま ふみがら いるくらいな見すぼらしい程度のものであった。懇意 は文穀とノートがぎっしり詰っていた。空地のあるの さりよう ( 3 ) ほしおか ひろうまね とだな やぐふとん な友人の新婚披露に招かれて星が岡の茶寮に行った時 は夜具蒲団の仕舞ってある一間の戸棚だけであった。 あが も、着るものがないので、袴羽織ともすべて兄のを借 細君は苦笑して立ち上った。 ま あわ あにい 「お兄さんは二三日うちきっとまた入らっしゃいますりて間に合せたこともあった。 彼は細君の知らないこんな記憶を頭の中に呼び起し た。しかしそれは今の彼を得意にするよりもかえって 「あのことでかい」 ありきたりことば ( 4 ) こんじゃく 「それもそうですけれども、今日お葬式に行らっしゃ悲しくした。今昔の感ーーーそういう在来の言葉でいち じようしょ あらわ る時に、袴が要るから借してくれって、こゝで寧いてばんよく現せる情緒がしぜんと彼の胸に湧いた。 「袴ぐらいありそうなものたがね」 いらしったんですもの。きっとまた返しに入らっしゃ きま 「みんな長いあいだに失くしておしまいなすったんで るに極っていますわ」 しよう」 健三は自分の袴を借りなければ葬式の供に立てない 兄の境遇を、ちょっと考えさせられた。はじめて学校「困るなあ」 を卒業した時彼はその兄から貰 0 たべろ / \ の薄羽織「どうせ宅にあるんだから、る時に貸してあげさい ともだち 毎日使うものじゃなし」 を着て友達といっしょに池の端で写真を撮ったことをすりやそれで好いでしよう。 むか 「宅にあるあいだはそれで好いがね」 まだ覚えていた。その友達の一人が健三に向って、こ 細君は夫に内所で自分の着物を質に入れたついこの のなかでいちばん先に馬車へ乗るものは誰たろうと言 よ きよう にん な

9. 夏目漱石全集 12

及ばないような問題を一人で考えていた。彼は最初かて、竹の皮のまゝ双方から突っ付き合った。 もっ ら理科へ k る目的を有ていながら、好んで哲学の書物大学を卒業するとまもなく彼は地方の中学に赴任し幻 などを繙いた。私はある時彼からスペンサーの第一原た。私は彼のためにそれを残念に思った。しかし彼を 知らない大学の先生には、それがむしろ当然とみえた 理という本を借りたことをいまだに忘れすにいる。 ふたり あきびより かもしれない。彼自身はむろん平気であった。それか 空の澄み切った秋日和などには、よく二人連れ立っ て、足の向く方へかってな話をしながら歩いていった。ら何年かの後に、たしか三年の契約で、支那のある学 そうした場合には、往来へ塀越に差し出た樹の枝から、校の教師に雇われて行ったが、任期が充ちて帰るとす ぐまた内地の中学校長になった。それも秋田から横手 黄色に染った小さい葉が、風もないのに、はら / \ と うつ ( 3 ) かばふと けしき に遷されて、今では樺太の校長をしているのである。 散る景色をよく見た。それが偶然彼の目に触れた時、 彼は「あッ悟った , と低い声で叫んたことがあった。 去年上京したついでに久しぶりで私を訪ねてくれた うけと たゞ秋の色の空に動くのを美しいと観するよりほかに時、取次のものから名刺を受取った私は、すぐその足 能のない私には、彼の言葉が封じ込められたある秘密で座敷へ行って、いつものとおり客より先に席に着い ひゞき へや ていた。すると廊下伝いに室の入口まで来た彼は、座 の符徴として怪しい響を耳に伝えるばかりであった。 「悟りというものは妙なものたな」と彼はその後から蒲団の上にきちんと坐っている私の姿を見るやいなや、 ひとり・」と 平生のゆったりした調子で独言のように説明した時も、「いやに澄ましているな」と言った。 あーさっ むこうことば 私には一口の挨拶もできなかった。 その時向の言葉が終るか終らないうちに「うん」と ( 2 ) おおカんのんそば 彼は貧生であった。大観音の傍に間借をして自炊し う返事がいっか私のロを滑って出てしまった。どう からざけ あいさっ ていたころには、よく干鮭を焼いて侘びしい食卓に私して私の悪口を自分で肯定するようなこの挨拶が、そ にまめ を着かせた。ある時は餅菓子の代りに煮豆を買ってきれほどしせんに、それほど雑作なく、それほど拘泥わ ひもと ひとり ぶとん わるくち っ っ み

10. 夏目漱石全集 12

ぜん さむけ ( 1 ) たいぎ て膳に向った時、彼には微かな寒気が背筋を上から下起きて顔を洗う段になると、いつもの冷水摩擦が退儀 だる あと へ伝わってゆくような感じがあった。その後でしい なくらい身体が倦怠くなってきた。勇気を鼓して食卓 《さみ あさめし が二つほど出た。傍にいる細君は黙っていた。健一一一に着いてみたが、朝飯は少しも旨くなかった。いつも ぜん もなにも言わなかったが、腹の中ではこうした同情に は規定として三膳食べるところを、その日は一膳で済 あとうめぼし 乏しい細君に対する厭な心持を意識しつ & を取った。 ました後、梅干を熱い茶の中に入れてふう / 吹いて 細君のほうではまた夫がなぜ自分になにもかも隔意な呑んだ。しかしその意味は彼自身にも解らなかった。 そばすわ く話して、能働的に細君らしく振舞わせないのかと、 この時も細君は健三の傍に坐って給仕をしていたが、 そのほうをかえって不愉快に思った。 別になんにも言わなかった。彼にはその態度がわざと あきら かせきみ その晩彼は明かに多少風邪気味であるということに冷淡に構えている技巧のごとく見えて多少腹が立 0 た。 せき 気が付いた。用むして早く寝ようとっこ・、、 オカついし彼はことさらな咳を二度も三度もしてみせた。それで かけた仕事に妨けられて、十二時すぎまで起ぎていた。も細君は依然として取り合わなかった。 みんな 彼の床に入る時には家内のものはもう皆寝ていた。熱健三はさ 0 さと頭から白襯衣を被 0 て洋服に着換た うち い葛湯でも飲んで、発汗したい希望をもっていた健三 なり例刻に宅を出た。細君はいつものとおり帽子を持 やむ つめた うち、もだ、 は、巳を得すそのま、冷い夜具の裏に潜り込んだ。彼 0 て夫を玄関まで送ってきたが、この時の彼にはそれ ねつき は例にない寒さを感じて、寝付がたいへん悪かった。 がたゞ形式だけを重んずる女としか受取れなかったの しかし頭脳の疲労はほどなく彼を深い眠りの境に誘っで、彼はなおな心持がした。 おかん こ 0 外ではしきりに悪感がした。舌が重々しくばさつい あくるひめ 翌日目を覚した時は存外安静であった。彼は床の中て、熱のある人のように身体全体が俺怠か 0 た。彼は なお で、風邪はもう癒ったものと考えた。しかしいよ / \ 自分の脈を取ってみて、その早いのに驚いた。指頭に さまた かす からだ うけと 0