明 第ノつ、ルり・ 「叔父さんはね、あたしのような空疎ものには解らな こんなことで、二人のあいだに優劣を付ける気楽な きさま いが、お延にならぎっと解る。あいつは貴様より気が叔父を、お住とお延が馬鹿にして冷評した。 利いてるからって仰やるんだよ」 「ねえ、叔母さんだってそのくらいのことならたいて しかた お延は苦笑するよりほかに仕方なかった。彼女の頭い見当が付くわね」 おぼろげ おくそく ほめ うれ にはむろん朧気ながらある憶測があった。けれども強「お前もお賞にあすかったって、あんまり嬉しくない りこうふ いられないのに、悧巧振ってそれを口外するほど、彼だろう」 はすは ありがた 女の教育は蓮葉でなかった。 「えちっとも有難かないわ」 「あたしにだって解りつこないわ」 お延の頭に、一座を切り舞わした吉川夫人の斡旋振 あ がまた描き出された。 「まあ中ててごらん。たいてい見当は付くだろう」 どうしてもお延のほうからさきになにか言わせよう「どうもあたしそうだろうと思ったの。あの奥さんが おしもんどう とする叔父の気色を見て取った彼女は、二三度押間答始終継子さんと、それからあの三好さんてかたを、引 ほねお の末、とう / ( \ 推察のとおりを言った。 き立てよう、引き立てようとして、骨を折っていらっ みあい 「見合じゃなくって」 しやるんですもの」 「どうして。 お前にはそう見えるかね」 「ところがあのお継ときたら、また引き立たないこと おびた お延の推測を百肯うまえに、彼女の叔父から受けた夥しいんだからな。引き立てようとすれば、かえっ かんぶくろかふ ねこみ 反間がそれからそれへと続いた。しまいに彼は大きなて引ぎ下がるだけで、まるで紙袋を被った猫見たいだ 声を出して笑った。 ね。そこへいくと、お延のようなのはどうしても得だ あた すくな とうせいむき 「中った、中った。やつばりお前のほうが住より悧巧よ。少くとも当世向だ」 だね」 「厭にしゃあ / ( 、しているからでしよう。なんだか賞 けしき うけが おっし し ふたり ばか ひやか あっんぶり 131
明暗 ことばか 別、もしそれさえできないというなら、これからさき をほかの言葉で掛け直した。 みあわ 「兄さんはお父さんが快よく送金をしてくださると思の送金も、見せしめのため、当分見合せるかもしれな いというのが父の実際の考えらしかった。してみると、 っていらっしやるの」 つくろ かきね このあいだ彼のところへそう言ってきた垣根の繕いだ 「知らないよ」 うそ とゞ - 」お とか家質の滞りだとかいうのは嘘でなければならなか 津田は・ふつきら棒に答えた。そうして腹立たしそう った。よし嘘でないにしたところで、単に口先の言い に後を付け加えた。 まえ 「だからお母さんはお前のところへなんと言ってきた前と思わなければならなかった。父がまたなんで彼に 対してそんなしらみ、しい他人行儀を言って寄こした かって、さっきから訊いてるじゃないか」 お秀はわざと目を反らして縁側の方を見た。それはものだろう。叱るならも 0 と男らしく叱 0 たら宜さそ しよさ 彼の前であ \ あ、と嘆息して見せる所作の代りにすうなものだのに。 やぎひげは 彼は沈吟して考えた。山羊髯を生やして、万事に勿 ぎなかった。 きら 「だから言わないことじゃないのよ。あたしはじめか体を付けたがる父の顔、意味もないのに東髪を嫌 0 て 髷にばかり結いたがる母の頭、そのくらいの特色はこ らこうなるだろうと思ってたんですもの」 の場合を解釈するなんの手掛りにもならなかった。 九奎 「いったい兄さんが約東どおりになさらないから悪い 津田はようやくお秀宛で来た母の手紙の中に、どんのよ」とお秀が言った。事件以後何度となく彼女によ ことば な事柄が書いてあるかを聞いた。妹の口から伝えられって繰り返されるこの言葉ほど、津田の聞きたくない はげ たその内容によると、父の怒りは彼の予期以上に烈しものはなかった。約東どおりにしないのが悪いくらい似 いものであった。月末の不足を自分で才覚するなら格は、妹に教わらないでも、よく解っていた。彼はたゞ はらだ しか てがか わか もっ
明 「社会主義者 ? 」 小林の語気は、貧民の弁護というよりもむしろ自家 小林はわざと大きな声を出して、ことさらにイン・ハ の弁護らしく聞こえた。しかしむやみに取り合ってこ きすっ ネスの男の方を見た。 っちの体面を傷けられては困るという用心が頭に働く 「笑わかせやがるな。こっちゃ、こう見えたって、善ので、津田はわざと議論を避けていた。すると小林が おっ 良なる細民の同情者だ。僕に比べると、乙に上品振っなお追懸てきた。 たち て取り繕ろってる君達のほうがよっぽどの悪者だ。ど 「君は黙ってるが僕のいうことを信じないね。たしか かおっき っちが警察へ引っ張られてしかるべきだかよく考えてに信じない顏付をしている。そんなら僕が説明してや ( 2 ) みろ」 ろう。君はロシアの小説を読んだろう」 鳥打の男が黙って下を向いているので、小林は津田 ロシアの小説を一冊も読んだことのない津田はやは に喰ってか & るよりほかに仕方がなかった。 りなんとも言わなかった。 「君はこうした土方や人足をてんから人間扱いにしな 「ロ . シアの小説、ことにドストエフスキーの小説を読 いつもりかもしれないが」 んだものは必す知ってるはすだ。いかに人間が下賤で 小林はまたこう言い掛けて、そこいらを見回したが、 あろうとも、またいかに無教育であろうとも、時とし ありがた あいにくどこにも土方や人足はいなかった。それでもてその人の口から、涙がこぼれるほど有雌い、そうし つくろ 彼はいっこう構わずに喋舌りつづけた。 て少しも取り繕わない、至純至精の感情が、泉のよう 「彼等は君や探偵よりいくら人間らしい崇高な生地をに流れ出してくることを誰でも知ってるはすだ。君は うぶのま、有ってるか解らないぜ。たゞその人間らしあれを虚偽と思うか」 よご ほこり い美しさが、貧苦という塵埃で汚れているだけなんだ。「僕はドストエフスキーを読んだことがないから知ら つまり湯に入れないから穢ないんだ。財鹿にするな」ないよ」 わか しかた おっかけ
明 ころ 女の運命は、叔父の手にある諾否の賽が、畳の上に転「じゃあたしが引くから、あなた自分でお極めなさい がり次第、今明日中にでも、永久に片付けられてしまね。なんでも今あなたのお腹の中で、いちばん知りた 、と思ってるごとがあるでしよう。それにするのよ、 うのであった。 あなたのほうで、自分かってに。可くって」 お延は微笑した。 きよう お延は例のとおり継子の机の上に乗っている彼等夫 「継子さん、今日はあたしがお神籖を引いてあげまし 婦の贈物を取ろうとした。すると継子が急にその手を うか」 抑えた。 「なんで ? 」 「厭よ」 「なんでもないのよ。たゞよ」 つま お延は手を引込めなかった。 「だってたゞじゃ詰らないわ。なにか極めなくっち 「なにが厭なの。可いからちょいとお借しなさいよ。 うれ 「そう。じゃ極めましよう。なにが可いでしようね」あなたの嬉しがるのを出してあけるから」 しゅうじゃく 「なにが可いか、そりゃあたしにや解らないわ。あな神籤になんの執着もなかったお延は、突然こうして たわむ 継子と戯れたくなった。それは結婚以前の処女らしい たが極めてくださらなくっちゃ」 なかだち 継子は容易に結婚間題を口へ出さなかった。お延の自分を、彼女に憶い起させる良い媒介であった。弱い ものの虚を衝くために用いられる腕の力が、彼女を男 ほうからむやみに言い出されるのも苦痛らしかった。 おさ けれども間接にどこかでそこに触れてもらいたい様子らしく活濃にした。抑えられた手を跳ね返した彼女は、 よろ があり / 、と見えた。お延は従妹を喜こばせてやりたもう最初の目的を忘れていた。たゞ神籤箱を継子の机 まえ あと か 0 た。とい 0 て、後で自分の迷惑になるような責任の上から奪い取りたか 0 た。もしくはそれを言い前に、 たゞ継子と争いたかった。二人は争った。同時に女性 を持つのは厭であった。 みくじ かたろ おさ かつばっ ひっこ なか
それを君に話したってお互いの位地が変るわけでもな 「よかろう」 いんだから仕方がないようなものの、これから朝鮮へ 「よくないたって、僕のような一文なしじやほかにな おり 行けば、僕はもう生きて再び君に会う折がないかもしにも置いていくものがないんだから仕方がなかろう」 れないから : : : 」 「だから可いよ」 小林はこゝまで来て少し興奮したような気色を見せ「黙って聴くかい。聴くなら言うがね。僕は今君の御 あと たが、すぐその後から「いや僕のことだから、行って馳走になって、こうしてばく / \ 食ってるフランス料 ・こしようたい みると朝鮮も案外なので、厭になってまたすぐ帰って理も、このあいだの晩君を御招待中して叱られたあの きた こないとも限らないが」と正直なところを付け加えた汚ならしい酒場の酒も、どっちも無差別に旨いくらい ので、津田は思わず笑いだしてしまった。小林自身も味覚の発達しない男なんだ。そこを君は軽蔑するだろ とんざ いったん頓挫してからまた出直した。 う。しかるに僕はかえってそこを自漫にして、軽蔑す 「まあ未来の生活上君の参考にならないとも限らない る君を逆に軽蔑しているんだ。いいかね、その意味が から聴きたまえ。実をいうと、君が僕を軽蔑している君に解ったかね。考えてみたまえ、君と僕がこの点に とおりに、僕も君を軽蔑しているんだ」 おいてどっちが窮屈で、どっちが自由だか。どっちが 「そりや解ってるよ」 幸福で、どっちが東縛をよけい感じているか。どっち 「いや解らない。軽蔑の結果はあるいは解ってるかもが太平でどっちが動揺しているか。僕から見ると、君 しれないが、軽蔑の意味は君にも君の細君にもまだ通の腰は始終ぐらついてるよ。度胸が坐ってないよ。厭 じていないよ。だから君の今タの好意に対して、僕は なものをどこまでも避けたがって、自分の好きなもの おっか また留別のために、それを説明していこうてんだ。どをむやみに追懸けたがってるよ。そりゃなぜだ。なぜ 懸いたく うだい」 でもない、なまじいに自由が利くためさ。贅沢をいう たが けしき ちそう
こんがら むか に困絡かって、離すことのできない事情の下にある意お秀はやがてきちりと整った目鼻を揃えて兄に向っ 味合を、お秀よりもよく承知していた。彼はどうしてた。 「それで兄さんはどうなすったの」 も積極的に自分から押して出なければならなかった。 「どうもしようがないじゃないか」 「なんと言ってきたい」 とう 「お父さんのほうへはなんにも言っておあげにならな 「兄さんのほうへもお父さんからなにか言ってきたで かったの」 しよう」 「うん言ってきた。そりや話さないでもたいていお前津田はしばらく黙っていた。それからさも已を得な わか いといったふうに答えた。 に解ってるだろう」 「一 = ロってやったさ」 お秀は解っているともいないとも答えなかった。た ・、ちもと 「そうしたら」 だかすかに薄の影を締りの好い口元に寄せて見せた。 それがいかにも兄に打ち勝った得意の色をほのめかす「そうしたら、まだなんとも返事がないんだ。もっと うち しやく ように見えるのが津田には癪だった。平生は単に妹でも家へはもう来ているかもしれないが、なにしろお延 あるという因縁すくで、少しも自分の目に付かないおが来てみなければ、そこも分らない」 秀の器量が、こういう時にかぎって、悪く彼を刺激し「しかしお父さんがどんなお返事をお寄こしになるか、 た。なまじい容色が十人並以上なので、この女はよけ兄さんには見当が付いて」 ひと い他の感情を害するのではなかろうかと思う疑惑さえ、津田はなんとも答えなかった。お延の拵らえてくれ どてらえり 彼にとっては一度や二度の経験ではなかった。「お前 た褞袍の襟を手探りに探って、黒八丈の下から抜き取 しようい は器量望みで貰われたのを、生涯自慢にする気なんだ った小楊枝で、しきりに前歯をほじくりはじめた。彼 ろう」と言ってやりたいこともしば / 、あった。 がいつまでも黙っているので、お秀は同じ意味の質間 うすわらい もと わか そろ やむ 200
明 おそ 信ずるだけに、下女の遅いのをいっそう苦にしなけれ「まあ行ってごらんなさい」 ばならなか 0 た彼は、ふかし掛けた草を捨てて、縁「行 0 てごらんなさいって、行 0 ても好いのかい。そ 側へ出たり、なんのためとも知れず、黙って池の中をの返事をさっきからこうして待ってるんじゃないか」 ひ・こいなが かんじん 動いている緋鯉を眺めたり、そこへしやがんで、軒下「おやどうも済みません、肝心のお返事を忘れてしま はなづら に寐ている犬の鼻面へ手を延ばしてみたりした。やっ どうぞお出くださいましって」 かどきこ じようだん たちあが とのことで、下女の足音が廊下の曲り角に聴えた時に、 やっと安心した津田は、立上りながらわざと冗談半 つくろ わざと取り繕った余裕を外側へ示したくなるほど、彼分に駄目を押した。 の心はそわ / ( 、していた。 「ほんとうかい。迷惑じゃないかね。向へ行ってから 「どうしたね」 気の毒な思いをさせられるのは厭たからね」 まちどお うたぐ だんなさま 「お待遠さま。たいへん遅かったでしよう」 「旦那様はずいぶん疑り深いかたですね。それじゃ奥 「なにそうでもないよ」 さんもさぞーーー」 だれ 「少しお手伝いをしていたもんですから」 「奥さんとは誰たい、関の奥さんかい、それとも僕の 「なんの ? 」 奥さんかい」 かたづ 「お部屋を片付けてね、それから奥さんのお髪をっ 「どっちだか解ってるじゃありませんか」 てあげたんですよ。それにしちゃ早いでしよう」 「いや解らない」 まげ ぞうさ 津田は女の髷がそんなに雑作なく結えるわけのもの 「そうでございますか」 でないと楓った。 兵児帯を締め直した津田の後ろへ回った下女は、室 いちょうがえ まるまげ 「銀杏返しかい、丸髷かい」 を出ようとする背中から羽織を掛けてくれた。 下女は取り合わずにたゞ笑いだした。 「こっちかい」 ぐし へこおび わか むこう イ 15
どまた損得利害をよく心得ている男は世間にたんとな 「けれどもそこはまた兄次第だろう」 いんだ。たゞ心得てるばかりじゃない、君はそうした 「いくら兄だって、少しは腹の立っ場合もあるよ」 小林はにや / く、笑っていた。 心得の下に、朝から晩まで寐たり起きたりしていられ すくな ナカいくら君だって、今お秀さんを怒らせるのがる男なんだ。少くともそうしなければならないと始終 得策だとは思ってやしまい」 考えている男なんだ。好いかね。その君にして・・・・・ー」 あたまえ めんどうくさ 「そりや当り前だよ。好んで誰が喧嘩なんかするもん津田は面倒臭そうに小林を遮ぎった。 か。あんな奴と」 「よし解った。解ったよ。つまり他と衝突するなと注 小林はます / 笑った。彼は笑うたびに一調子ずつ意してくれるんだろう。ことに君と衝突しちゃ僕の損 余裕を生じてきた。 になるだけだから、なるべく事を穏便にしろという忠 「けだし巳を得なかったわけだろう。しかしそれは僕告なんだろう、君の主意は」 小林は惚けた顔をして済まし返った。 のいうことだ。僕は私と宣嘩した 0 て構わない男だ。 ちんりん 「なに僕と ? 僕はちっとも君と喧嘩をする気はない 誰と喧嘩したって損をしつこない境遇に沈淪している 人間だ。喧嘩の結果がもしどこかにあるとすれば、そよ」 「もう解ったというのに」 れは僕の損にゃならない。なんとなれば、僕はいまだ かって損になるべき何物をも最初から有っていないん「解ったらそれで可いがね。誤解のないように注意し だからね。要するに喧嘩から起りうるすべての変化は、ておくが、僕はさっきからお秀さんのことを問題にし みんな僕の得になるだけなんだから、僕はむしろ喧嘩ているんだぜ、君」 を希望しても可いくらいなものだ。けれども君は違う「それも解ってるよ」 よ。君の喧嘩は決して得にゃならない。そうして君ほ「解ってるって、そりや京都のことだろう。あっちが やむ びと
明 なところが出てきようはずがないじゃないか。由雄さ んー 「だいぶ八釜しくなってきたね。黙って聞いていると、 「そういうふうにてっとりばやく真面目になれるかが 叔母甥の対話とは思えないよ」 問題でしよう」 ふたり 「なれればこそ叔母さんなんぞはこの藤井家へお嫁に 二人のあいだにこう言って割り込んできた叔父はそ ぎようじ 来て、ちゃんとこうしているじゃありませんかー の実行司でも審判官でもなかった。 てきがいしん 「なんだか双方敵愾心をもって言い合ってるようだが、 「そりや叔母さんはそうでしようが、今の若いものは けんか 喧嘩でもしたのかい」 そな 彼の質間は、単に質間の形式を具えた注意にすぎな 「今だって昔だって人間に変りがあるものかね。みん だま ころ ぬす かった。真事を相手にビ 1 玉を転がしていた小林が偸 な自分の決心一つです」 むようにしてこっちを見た。叔母も津田も一度に黙っ 「そういったひにやまるで議論にならない」 「議論にならなくっても、事実のうえで、あたしのほてしまった。叔父はついに調停者の態度でロを開かな ければならなくなった。 うが由雄さんに勝ってるんだから仕方がない。いろい あと まえみ 「由雄、お前見たような今の若いものには、ちょっと ろ選り好みをしたあげく、お嫁さんを貰った後でも、 うそっ まだ選り好みをして落ち付かずにいる人よりも、こっ理解できにくいかもしれないがね、叔母さんは嘘を吐 わか いてるんじゃないよ。知りもしない己のところへ来る ちのほうがどのくらい真面目だか解りやしない」 さっきから肉を突ッついていた叔父は、自分のロをとき、もうちゃんと覚悟を極めていたんだからね。叔 あと 出さなければならない時機に到着した人のように、皿母さんはほんとうに来ないまえから来た後と同しよう まじめ から目を放した。 に真面目だったのさ」 ごの さら やかま おれ
明 を前に、胡坐を掻いている剽軽な彼の顔を、過去の記「どうだかあたしよく解らないわ。なぜまたそんなこ まじめくさ げな歩 とを真面目腐ってお訊きになるの」 念のように懐かし気に眺めた。 りようけん 「だ 0 てあたしの悪口は叔父さんのお仕込しゃないの。「少しこ 0 ちにも料簡があるんだ、返答次第では」 こわ おぼえ 「お、怖いこと。じや言っちまうわ。由雄はお察しの 津田に教わった覚なんか、ありやしないわ、 とおり厳格な人よ。それがどうしたの」 「ふん、そうでもあるめえ」 こと 「ほんとうにかい」 わざと江戸っ子を使った叔父は、そういう種類の言 を、い 0 さい家庭に入れてはならないもののごとく「え。ずいぶん叔父さんも苦呶いのね」 に忌み嫌う叔母の方を見た。併から注意するとなお面「じゃこ 0 ちでも簡潔に結論を言 0 ちまう。はたして 白が 0 て使いたがる癖をよく知 0 ているので、叔母は由雄さんが、お前のいうとおり厳格な人ならばた。と 素知らぬ顔をして取り合わなか 0 た。すると目標が外うてい悪口の達者なお前には向かないね」 むか こう言いながら叔父は、そこに黙って坐っている叔 れた人のように叔父はまたお延に向った。 あ・こ 母の方を、頷でしやくって見せた。 「いったい由雄さんはそんなに厳格な人かね」 むき あっ 「この叔母さんなら、ちょうどお誂らえ向かもしれな お延は返事をしずに、たゞにや / \ していた。 うれ いがね」 「は、あ、笑ってるところを見ると、やつばり嬉しい 淋しい心持が遠くから来た風のように、不意にお延 んだな」 の胸を撫でた。彼女は急に悲しい気分に囚えられた自 「なにがよ」 わか 「なにがよって、そんなに白ばっくれなくっても、分分を見て驚ろいた。 だがほんとうに由雄さんはそんな「叔父さんはいつでも気楽そうで結構ね、 っていらあな。 津田と自分とを、好すぎるほど仲のい夫婦と仮定 に厳格な人かい」 ( ー ) えど こ しら おも さび おど わか とら 127