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検索対象: 夏目漱石全集 14
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1. 夏目漱石全集 14

ってこれを例せんに、先に文学的手段として述べたるひにこれを利用するの機なかりき。推移とは少なくと 対置法中の緩和法はほゞこの種の推移をあらはすものもとドの二状態を得ざれば論ずるあたはざる題目な いきほひそ なり。緩和法はにドを加へて前者の勢を削ぐにほ、 カるがゆゑなり。 ならず。勢を削ぐはの過重なるを示す ( の動かざ この章において吾人の得たる推移の法則を一括すれ るとぎ ) もしくはの極度なるを示すの動くと ば左のごとし。 き ) 。の過重なるときはこれに対照するドは急速度 C 吾人意識の推移は暗示法によって支配せらる。 あまた をもってしだいに焦点にせまり、の極度なるときは 吾人意識の推移は普通の場合において数多の⑩の これに対照せるドはその度に応じてしだいに焦点にせ 競争を経 ( ある時はとドの両者間にも競争あるべ まるがゆゑに、の自己を消耗するの結果に至っては 同一なりとす。こゝにおいて緩和法は単に緩和の効果この競争は自然なり。また必要なり。この競争的 を有するのみならす、の推移上もっとも便利なる組暗示なき時は @吾人は習慣的にまた約東的に意識の内容と順序を 織の一となる。 繰り返すにすぎす。 余は集合意識の推移を究めんと欲して、まづその基 国推移は順次にして急劇ならざるを便宜とす ( 反動 礎たるべき波動の原則に帰ってその推移の法則を明ら は表面上急劇にして実は順次なるものなり ) 。 め、かっこれを証するに余がいはゆる文学的手段をも 因推移の急劇なる場合は前後両状態の間に対照ある ってしたり。しかして余の挙げたる表現法はことみ、 を可とす ( 対照以外にこれと同等なるまたは同等以 くこれをこ、に応用しうるを発見せり。たゞし最後の 写実法に至ってはを説明するにドをもってする 上の刺激あるときはこのかぎりにあらず ) c 両材料を合して成るーー方法にあらざるをもって、つ 焦点波動の説は吾人意識の一分時についていふを得

2. 夏目漱石全集 14

を味はひうべしとは彼の名言なり。しかれどもこの恐 これによってこれを観れば吾人は苦痛を逃がれんが れより生じ来る苦痛の裏になんらの遁路なきことを自ために苦痛を愛するものなり。されども逃がれんがた くわちゅう 覚する時吾人の心理状態は俄然一変するものにして、 めに一たび苦痛の渦中に投ずる時は、逃がるるといな 先に名言を吐きて得意たりし Malthus もつひにこのとに関せず、苦痛そのものより回避して退却するを得 やむをえざるあ けふじゃ 心機一転の不得止に遇へり。彼は自白せるごとく怯者ず。いったん苦痛の因果をもって己れを縛したる以上 けふ もてあそ くぎづ なり、怯なるがゆゑに恐れを弄ぶを喜ぶものとす。 は知らぬまに苦痛に釘付けにせらるるに至る。 うらや 「余は怯なり、これを茨め」とは彼が Geraldine に告 悲劇は一種の意味において苦痛の発展なり。この発 げしところなり。彼のごとき怯者の愉快とは、その最展を目撃する吾人は主人公のいかにこれを解決するや おそ きづか も怖るる死地に入りて、やがて生路に再出するの快をを気遣ふのみならず、その苦痛のわれに快なると不快 予期するにあり。すなはちその生死の際判然たらざるなるとを疑ふの余裕さへなく、たゞ眼前の苦痛に釘付 : ん、ん よひ 苦癘熕悶を想起しえんがためなり。さればある宵会長けにせられてつひに目を転するを得ざるに至る。悲劇 せつな より渡されたる札を眺めたる刹那を叙して Stevenson はこの強烈なる注意力を看客のうへに喚起するがゆゑ はか ~ 、いへ 。 2 a horrible noise, like that Of some- に戯曲中において優勢なる権力を占むるにあらざるか。 thing breaking, issued from his mouth 一 and he 上述のほかなほ一の人間ありて苦痛を好み困難を rose ( 「 om his seat and & ( down again, with no 愛す、されど別に病的と名づくるあたはざれば余はし すきの sign 0f his paral) 「 sis. lt was the ace of spades. ばらくこれを苦痛の道楽者または数寄者と名づくべし。 The honorary member had trifled once too often これ等の道楽者が求むる苦痛は決して深酷なるものに with his terrors." この一節よくこの石火の変を写しあらす、一定の度を越ゆればたちまちにしてこれを避 - 」うけい て肯綮に中るを覚ゅ。 けんとす。邇路あるにか、はらす、みづから進みて難 一んろ み おの 0

3. 夏目漱石全集 14

魚逃る。世相またしかり、文章またしかり。 ゃうやく下りて、はじめて瞬時の安きを得。読者左の ( 3 ) わ 緩和法は多少の面積中にあ 0 てはじめて必要を生ず一節のいかに和の気に充つるかを思へ。しかして前 あんたん るがゆゑに、その適例を一語一句の短文に求むること 節のいかに暗澹たるかを思へ。さらに後段のいかに怪 難し。ゅゑに例を長編にとる。 scott の作れる Bride 光陸離たるかを思へ、鬱血淋漓たるを思へ。もしこの きミきま、は男女の相思を叙す。恋愛の不成立を一節をかかば吾人はまさにその毒気の漲るに堪へす半 おは 叙す。無惨の最後を叙す。だいたいにおいてきはめて途にして巻を掩ふて他を語らんとす。 酸鼻の悲劇なり。こゝにおいてか作者は一個の滑稽人 。 ~ 0 ド 0 ド This castle hath a pleasant seat; the らつぎた 物を拉し来って所々にこれを点出す。この一人物を得 て全編の緩和的分子は成る。緩和的分子成って読者の Nimbly and sweetly recommends itself ( 1 ) きんきゅう さをう 興味に窘窮切迫の不安なし。さらに一例を加ふ。沙翁 UntO our gentle senses. せいき のミ be は、特にこの法を利用して満幅の凄気を 3 。ミさ . This guest of summer, あやふ えうま やと 一髪の危きに救へり。沙翁は冒頭より一群の妖魔を雇 The temple ・ haunting martlet, does approve, はじめ せいふうつ ひ来って首に全編の定音を拈出したる後、腥風に継ぐ By his loved mansionry, that the heaven's りんくわ breath に暗雨をもってし、鬼気に加ふるに燐火をもってし、 ( 2 ) まうりゃう しきりに魍輛の影を紙上に躍らして読者の胆を奪ふこ Smells wooingly here 【 no jutty, frieze, と一再ならず。つひに彼等をして送迎に動心し、去来 But → ress, nor coign of vantage, but this bird きゃうはくゐふ に驚魄し畏怖の念一歩を超ゆるあたはざるに至らしめ Hath made his pendent bed and procreant cra ・ じしダせ人 へんへき dle 【 て爾時俄然として片碧の浄空を天の一方に現出し、一 脈の和気を忙中に投入せり。読者の神こ、においてか 舅「 h 讐 e they most breed and haunt, I have のが こ ねんしゆっ をど こつけい うつけつりんリ

4. 夏目漱石全集 14

得 の似 て て質たか め せも い図 て 巳や む 移懸も移 れ当 に す 原こ ぎ ずひ は向ずな は部 のき 例 F あな Fn 仮 に定強た の観 外び 平す 同移 て強 を認 せ然 べ ( よ づ成 れせ木湯文れ 恐 る後成偉 ばを国得うたの るも べ幾余次 がを就業 しな突間 旨大 の る漸放後 状 と例 日次 し化 な に捨 と幾 り 功て かす か い企 、を し て拾 ざ非も観 しきイム同 に先 の 活 っ注 来国一推 へ急 カ の移 き坤 て入 に静 る偉 は 、な に果 を識時業人階と 西ば ら時突皂賛を然功れ 洋ざ はす 主る をにせ近 し は要 じすも る に も F' も つ に に 至 て 衡を 保む 、ら の向認 っ て 々移時 の の に命 る と く に 変 ず と ク ) な娯 り 弓 、道 ひ化再曲発 な / り 日 F - ま た F 徐漸 と し Fn っ て 歩 を 移 にむ討 し 同 に 烈 る ご刺 激 く F 自 、復以や謳穹 の 楽 に 徴 て柔も流者 の謡再 の と流来 行 と り こ傾を移果向 を べ尋て る に F' は て則の徐急た と し て と し F よ り ド 々変き せ り と な向し烈 って て は歩変刺 を後激 移の のす推結 をに 。得う泰 を唾だ画茶や こ棄き るわ反 るの骨豸活外 を董らと の 態再道 び楽 芥と 。溜 2 な術す に は つ ひ に り にがす を る な 、る の せ る 西英を し て に 、近 づ り に り てを漸 っ 、は説す 明 せ ん に F と と は ま そ に 0 、 る と は し く 自 然 の 傾 む る ・つ て と てそ の れ帰 を着 る と ろ 、を推 じ う す る る樹た反 つ も 急 変 後 を れ し 、ら る る あ り と へ ど る せき外 暗 爪 の 急 に 制 がき就 も し の見激例再な変 の い変起烈べた反 な る 朝 の 一刺の よ り し る と も っ に す る の こ労 を せ ・る し 一認か め 。を 、ざ述は を 外冫 そ 説で然 重す全 を時は る てを変 類冫 種 F し く に新 し るず る る動 の よ り 来 及 欧 の と と も に本 う や く に し て 日 、る本学旧 し あ 歌か人 せ 本 の 文 も 少、 く る沈れ の 身 命 を あ へ て し て 命 し年地 の に は は ゆ る イ阜 : 業 と 効 る オよ き に 似 いた改 り と ど も 自 て 漸 を と て 革 を つ る と は至 赫る と き 変 し て が た き 人 冫こ は に の 力、 に のゆ待 の々く。目 の の っ て 漸 々 と 成 め後就変れ せ ま の 意 眩えに に て し か も そ の の 常 に な 0 よ て り と な す し ど は ゆ る の 、ず日飛び同収な と し し て 。成 . る の いあ擲 る 比 れ を 。世 の に 力、 り に と乾え 、を る

5. 夏目漱石全集 14

文学論 { のみ存在して、それに相応すべぎを認めえざ る場合、いはゆる : fear 0 ( everything and fear ま nothing" のごときもの。すなはちなんらの理由なく して感ずる恐怖など、みなこれに属すべきものなり。 第一編文学的内容の分類 Ribot はその著「情緒の心理』にこの種の経験を四大 別してさらに付記して日く「かくのごとく人体諸機能 第一章文学的内容の形式 の合成的結果すなはち普通感覚の変化に基づき毫も知 およそ文学的内容の形式は ( F 十 3 なることを要的活動の支配を受けざる一種純正、しかも自治的方面 す。は焦点的印象または観念を意味し、はこれにを感情において見出だすことを得。」 以上三種のうち、文学的内容たりうべきはにして、 付着する情緒を意味す。されば上述の公式は印象また そな は観念の二方面すなはち認識的要素と情緒的要すなはち (F + ( ) の形式を具ふるものとす。 素との結合を示したるものといひうべし。吾人につぎ詳述せんにその適例なる幾何学の公理ある が日常経験する印象および観念はこれを大別して三種ひは Newton の運動法則「物体は外よりカの作用す るにあらざれば静止せるものは終始その位置に静止し、 となすべし。 ありてなき場合すなはち知的要素を存し情的運動しつ、あるものは等速度をもって一直線に進行 要素を欠くもの、たと〈ば吾人が有する三角形の観念す」のごとき文字は単に吾人の知力にのみ作用するも のごとく、それに伴なふ情緒さらにあることなきもの。のにしてその際毫もなんらの情緒を喚起せず。あるひ に伴なうてを生ずる場合、たと〈ば花、星等はいふ、かの科学者が発見もしくは間題解決に際し最 高度の情緒を感じうるの理いかん。しかりこの情的要 の観念におけるがごときもの。 ごじん

6. 夏目漱石全集 14

ぎりゃう のその内容のいかにをさて措き、まづその作家の技倆に思はしめうる場合にして、この場合にてはを写す に感じ入るべし。たとへばかの Thackeray の Bea- にその半面を写して他を委却するにより、は読者に ( 2 ) trice のごとく、あるひは Dickens の Pecksniff, よりともともなりうるといふ義なり。を例にて さいふ M 「。 . Gamp のごとし。さらに長き纏まりたる作例を示せば、人あり、旅館にて財布を座敷に撼り出して入 挙ぐれば、かの Shelley の Cenci のごとし。この劇浴したるためその金を盗まれたりとせよ。これを写し ばうれい かれん の内容はその根本において暴戻無道なる父とその可憐出す時、この人を褒むるも、責むるも、財鹿といふも はんん の娘との間に湧き出でたる徳義の熕悶なれば、かくの聖人といふも作家の勝手次第にして、いかやうにも理 ごときものがはたして文学的作物として成功しうるや屈をつけうべし。されどもにありては人情、人事の いなやは吾人が即答しあたはざるところなり。されど複合体より都合よきもののみをとり出して陳列するも も余かって英国にありしころ、ある人とこの劇につきのゆゑ、しからず。今ここに一人あり、その人の生れ 会談したることありしが、その人はこれを毫も苦痛とし当時より死に至るまでの間すべて彼が病気に罹りた 物っ 感ぜすといへり。とにかく天下にかくのごとき読者ある時の事項のみを拾ひ蒐めて列挙するとせよ、相応健 るより推せば、この不快の材料も詩人の表出法により 康に暮らしたるにもか、はらずこの人はあたかも病気 おもひ いくぶんたりとも美化せられたるものと認めざるを得に罹るため浮世に生れでたるかの思あるべし。こし とりはからひ ず。 作者の取計にてこの男を病人化したればなり。またこ C こは作家が不快なる、嫌悪すべきまたは自分に都の人の失敗のみをあつめて陳列せばこの人はたちまち 合悪しき部分を除去して叙述に快感を与へしむる場合に失敗家たる定評あるに至るべし。 Hugo のト es にして、 C の場合と相似たるところなきにあらず。そミき es の主人公 valjean の半面は慈善家なり、 の差をいへば C はを写して読者にとも o とも任意博愛の君子なり、されどもその暗黒なる他の一面を窺 かって 116

7. 夏目漱石全集 14

—Shakespeare, T ミ e ミ、 ~ 4 Act II. この内容はもとより忍耐に限らるるにはあらざれど sc. iv. ll. 96 ー 9. も、忍耐と恋の混和を巧みに描き出せる好例なりとす。 あだ Viola これをきき他し恋にことよせ、おのが切なき心 前者は恋を包むための忍耐なれども、こゝにはこ 情を打ち明くる。公間うて言ふ れと少しく趣を異にする堪忍の例を紹介すべし。そは 2 And whaes her history 7 妻が夫に対し柔順の徳を守るところにあらはれたるも えら ミ 0 ぶ . A blank, my lord. She never told her のにて、余が特にこゝにこの例を選みたるはこの情が よく文学的内容たりうるを証すると同時に他に一二の But let concealment, like a worm i' the bud 主意なきにあらず。夫人崇拝の西洋にありて、かゝる Feed on her damask ・ cheek 】 she pined in 例ははなはだ奇異の観あるべく、現に近世英文学にお thought. いてはかくのごときものを求むるもたうてい得がたか And with a green and yellow melancholy るべし。もとより桒が夫に対し堪へ忍ぶは世の常態な She sat, like patience on a monument, れば、いづれの世にもこの種の文学的内容多きはいふ Smiling at grief. Was not this love indeed ~ を待たざれども、こ、に述べんとする例のごときはま 】 ay say more, 「 ear ・ ことに西洋文学中無類のものなるべく、近代の婦人が はた deed 決して堪へあたはざる苦しさを堪へ果せるを描きしも 0 shows are more than will; for still we のなり。 Patient GriseIda (Maria Edgeworth の小説 prove 中 0 き G ミなるものあれども、その内容に 多大の類似あるにはあらず ) の物語は古来三大文豪の Much in our vows, but little in our 一 ove. ・ —ll. 112 ー 21. 手に触れたるものにして、① Boccaccio の『十日物 ( ママ ) た

8. 夏目漱石全集 14

0 0 0 0 0 るべからすと変ずるを得。⑩とは焦点に存在するものがごとし。 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 い有力なるを加へざるときは、は自己の有する の意味を有せず、識末もしくは識域下にあるものをか 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 ね称す。かくのごとくのドに移るには幾多の⑩より自然の傾向に随ってドに移る。しかして自然の傾向と 中し込を得て、そのうちよりもっとも優勢なるものもは経験の度をもっとも多く重ねたる順序に従って、経 しくはの傾向に適したるものを採用するがゆゑに、験の度をもっとも多く重ねて自己に追陪せるドに移る この意味において吾人の意識焦点の推移は暗示法に支といふにすぎす。換言すれば吾人の意識推移は習慣の 配せらるといひうべきに似たり。、、 しカんとなればドは結果によって連結せられたる内容を、習慣の結果によ 突然としてを追うて、焦点に上るものにあらす、吾 って得たる秩序に排列しつ、進行して、これを繰り返 めいれう 人が明瞭にこれを意識するまへすでにかすかに階示せすを常とするものなり。たとへば一両の人力車が吾人 らるるがゆゑなり。 の焦点に上るとき、吾人は習慣の結果として次には車 @吾人は 0 の傾向を仮定し、またの強弱を仮定し夫を焦点に置くがごとし。しかして普通人民の意識は たり。またの性質に差違あるべきを仮定したり。 O 常態において特別なるを受くることなきがゆゑに、 の傾向を仮定すると同時にの傾向をも仮定せざるをたいていはこの自然の傾向に従って推移するにすぎす。 得ず。の性質の差違と強弱の程度を仮定すると同時この点において彼等の意識は模擬的に出立して約東的 にドについても同様の仮定を下さざるべからず。これに進歩するものといふべし。模擬的意識と約東的意識 えんえき 等の仮定より出立して吾人は二三の演繹を得べく、しとはその内容と順序において一致すること多きがゆゑ かしてその演繹するところはたゞに日常の経験に徴しに一をもって他に代用するを妨けざるに似たり。これ あ こ事実なるのみならず、その範囲を狭く文学にってを文学に応用して説明するときその例証は挙げて数ふ その応用を検するときはすこぶる興味ある結論を得るべからず。「鳥が鳴く」の後には必す「東の空」を思

9. 夏目漱石全集 14

文学論 肆の懇望にあひその出版を許容したりといへども、も とより先生に完全を期する意なく、したがってその校 正のごときも最初一二編は単に字句の修正にのみ限ら れしも、中ごろ、整理の際、省略にすぎ論旨の貫徹を はじめこの著は昨年内を限りとして出版の予定なり しも幾多の事情のためその期を過ぐること三月にして欠く節多かりしをもって、先生の筆を添ふることやう 今やうやくこれを公にするを得たり。遅延の主因としやく密に、つひに第四編の終り二章および第五編の全 部に至りては、ことみ \ く先生により稿を新にせざる ては左のことあり。 原稿整理の嘱をうけし余に日々の業務ありて、時べからざりしなり。ゅゑに前後両半を比すれば議論の 繁簡の程度一様ならず、また先生が原稿に加へし改訂 間の全部をもって、これに当るあたはざりしこと、 原稿は整理の成るにしたがって先生の校閲を乞ひ増補も、その身辺の事情の推移に伴ひ、章節により著 しも、改訂を要する節すこぶる夥く、ことに最後のしく精粗の差あり、しかしてその精ならざる章にあり わづらは あらた 一編のごとき新に全部先生の起稿を熕すに至り、しては、議論の発展に滑かならざる跡なきを保せす。全 さかのぼ いそが かしてこの間先生は創作に忙はしくして、これに用部の訂正を終り、先生さらに遡って、初めに簡なりし ふべき日子のきはめて得がたかりしこと、 部分を改むるの意ありしといへども、参考すべき前半 あた これを印刷に付するに方りても原稿の全部を挙げはすでに印刷を了へたるものなりしをもって、またい て託することあたはざりしをもって、いきほひそのかんともなすあたはざりしなり。諸編に散見する文体 の不一致のごとき、またかくのごとき事情に基くこと 進捗遅々として督促その効を致さざりしこと。 この著に収むる諸編は元来大規模の研究の一部をな多し。 しょ すものにして全然未定稿なりしなり。先生たま / 、書菲才浅学にして先生を労することはなはだしくつひ しんちよく こ ひさい

10. 夏目漱石全集 14

論文中「自己の投出」に関して左の記述あり。参考の ためこれを左に訳出す。 「吾人の内的経験を投出して日常目撃する実在物体に うんぬん 適用する作用を云々するに至りしは、まったく近世美 学の発見に係るものにして、もちろん古来幾多の心理 学者、詩人の、時に触れ、多少意をこ、に注ぎしもの And multitudes of dense white fleecy clouds なきにはあらざりしも、この方面に確然たる議論を試 Were wandering in thick flocks along the ( 3 ) mountains み、適当の命題を樹立しえたるは Lotze をもって嚆 矢となす。彼は約五十年前その名著ミ斗 2 き s 中 Shepherded 等 the slow, unwilling wind.' ー、 . Act II. sc. 一 . =. 145 ー 7. に述べて日く、『すべて世の中に、ありとあらゆるもの は、吾人の想像力により、皆ことん \ く吾人と多少の ともに同人の同一の劇より抜き出だせるものなれど も、前者は単に一種平凡なる平行的比較を用ゐたるに接触を保ちうるものにして、吾人はかくしてそれ等物 がてん すぎず。なるほどと合点はゆけども、たうてい趣味あ体の本質を窺ひ識ることを得るなり。しかして他物に る感興を喚起する妙味なし。しかるに後者に至りては、自己を入り込ましむる可能力の範囲は、必すしも吾人 いろあび 雲の重畳せるさま、その色合、いち / \ 適切なる類似に類似の生活状態を営むものに限らるるものにあらず、 しはゆる「文芸上の真」軟体動物のごときにも同様の現奐を生ずることを得。 を発揮しえたるものなれば、、 お ある時は木に枝の生ひ出・つるさまを自己に引き直し、 より見てすこぶる価値あるものと賞しうべし。 一九〇四年四月発行 The 0 ~ ミミ R き。第三九ある時は建物の部分を人体の部分に当て嵌む、これす 八号所載の vernon Lee 氏の」、最近美学』と題するなはち自己を樹木に投出し、建物に投出する実例な To their folds them compelling, ln the depths 0 「 the dawn,' —Shelley, P 、ミ e U 0 ミミ , Act IV. II. 1 ー 4. か、、は 198