坑 その所有者は長蔵さんであって、松原以来の声であるはない。だからことによると、自分を坑夫に周旋して、 ということを悟った。振り返ると、長蔵さんは遠方かあとから周旋料でも取るんだろうと思いだした。それ はす ら顏だけ斜に出して、しきりにこっちを見て、首を竪ならそれで構わない。給料のうちをいくぶんか遣れば に振っている。なんでも身体は便所の塀にかくれてい済むことだなどと考えながら用を足した。 , ーー実は自 るらしい。せつかく呼ぶものだからと思って、自分は分がこれだけの結論に到着するためには、わずかの時 間内だがこれほどの手数と推論とを要したのである。 長蔵さんの顔を目的に歩いてゆくと、 まえ このくらい骨を折ってすら、まだ長蔵さんのポン引き 「お前さん、汽車へ乗るまえにちょっと用を足したら なることをいわゆるポン引きなる純粋の意味において 善かろう と言う。自分はそれには及ばんから、一応辞退してみ会得することができなかったのは、年が十九だったか たが、なか / 、承知しそうもないから、そこで長蔵さらである。 もいなら 年の若いのは実に損なもので、こんなにポン引きの んと相並んで、きたない話だが、小便を垂れた。その 時自分の考えはまた変った。自分は身体よりほかにな近所までどうか、こうか、漕ぎ付けながら、それでも、 もしゃ好意ずくの世話ずきから起った親切じゃあるま にも持っていない。取られようにも瞞られようにも、 いかと思って、とんだ気兼をしたのは可笑しかった。 名誉も財産もないんだから初手から見込の立たない代 きよう きのう 物である。昨日の自分と今日の自分とを混同して、長実は二人して、用を足して、のそ / 二等待合所の はうきゅう 蔵さんを恐ろしがったのは、免職になりながら俸粭の入口まで来た時、自分は比較的威儀を正して長蔵さん 差し押を苦にするようなものであった。長蔵さんは教に、こんなことを言ったんである。 ふうてい ( 1 ) いちもくかた 育のある男ではあるまいが、自分の風体を見て一目騙「あなたに、わざ / \ 先方まで連れていっていたヾい 9 るべからすと看破するには教育もなにも要ったものでては恐縮ですから、もうこれでたくさんです」 第の おさえ めあて
うに人間がでぎ上っていると思うのは中庸を失した議対すると、これを叙述する方法が双方ともにどう発展 論であります。分りやすいためにこそ、こう然たるするかという問題であります。 めいりよう そのまえにちょっとお断わりをしておきますが、こ 区別はつけましたが、こう明瞭に離れる場合は、あら こではなら << を与えてあるとみて、その与えられた ゆる場合の両端に各一つずっしかないと合点しても間 よこたわ ちがい 違ではなかろうと思います。その中間に横っている多 << をいかに叙述してゆくかというのですから、叙述家 数の場合はこの両面を兼ねているでしよう。もし兼ねに < を撰択する権利がないことになります。しかしな かわたと ているのが不都合ならばある比例において入り交ってがらまえに我々の心を幅のある河に喩えた時、この川 幅の一点だけが明療になるから、明瞭になった一点た しるというが好いでしよう。 だべんろう けが意識の焦点になって、他は皆茫々の裡に通過して そうすると私は、なんだか入らざる駄弁を弄した、 独りよがりの心理学者のようになります。それでは少しまう。そうしてその焦点は注意のもっとも強いとこ 少心細いから、もう少しこの両方面を研究してお話しろにできる、そうして注意はすなわち態度であると申 たいと思う。すなわちこの単純な経験において両面をしました。だから心の態度は撰択陶汰の権を有してお ります。こゝに << を与えられたとするのは、心の態度 区別しておくほうが適当であると御納得のまいるよう にを撰択する権利がないという意味ではありません。 、この両面が漸々右と左へ分れて発展する結果つい にはたいへん違ったものに為り得るということを説明すでに撰択せられたるについての話であります。 本来ならばまえに申した両態度がいかなるふうに、 穹したいと思います。 いかなる性質の焦点を作るかを論じなければならんは の説明はなるべく単簡なほうが宜ろしいから、こ、に 一つの物でも、人でもあるとする。この物か人は与えずであります。しかしそうするとたいへん複雑な間題 になりますし、また撰択の態度は、すなわち撰択され られたものとします。すると、以上の両態度でこれに ひと 299
文 まあ安いなあと言っている。好いのになると二十円も いとつけ加えた。三重吉は文鳥のためにはなか / \ 強 するそうですと言う。二十円はこれで二返目である。 硬である。 ひきう 二十円に比べて安いのはむろんである。 それをはい / \ 引受けると、今度は三重吉が袂から さら ひなた あわ この漆はね、先生、日向へ出して曝しておくうちに粟を一袋出した。これを毎朝食わせなくっちや不可ま くろみ 黒味が取れてたん / \ 朱の色が出てきますから、 せん。もし餌をかえてやらなければ、餌を出して殻 そうしてこの竹は一返善く煮たんたから大丈夫ですよ たけ吹ておやんなさい。そうしないと文鳥が実のある などと、しきりに説明してくれる。なにが大丈夫なの粟を一々拾い出さなくっちゃなりませんから。水も毎 ねまう かねと聞き返すと、まあ鳥を御覧なさい、奇麗でしょ朝かえておやんなさい。先生は寝坊たからちょうど好 うと一一 = ロっている。 いでしようとたいへん文鳥に親切を極めている。そこ うけあ なるほど奇麗だ。次の間へ籠を据えて四尺ばかりこで自分もよろしいと万事受合った。ところへ豊隆が袂 まっしろ ぎようぎ っちから見ると少しも動かない。薄暗い中に真白に見から餌壷と水入を出して行儀よく自分の前に並べた。 える。籠の中にうずくまっていなければ鳥とは思えな こう一刧万事を調えておいて、実行を逼られると、義 いほど白い。なんたか寒そうだ。 理にも文鳥の世話をしなければならなくなる。内心で 寒いたろうねと聞いてみると、そのために箱を作っ はよほど覚東なかったが、ますやってみようとまでは たんだと言う。夜になればこの箱に入れてやるんだと決心した。もしできなければ家のものが、どうかする 言う。籠が二つあるのはどうするんだと聞くと、この たろうと限った。 粗末なほうへ入れて時々行水を使わせるのだと言う。 やがて三重吉は島籠を丁寧に箱の中へ入れて、縁側 これは少し手数が掛るなと思っていると、それから糞へ持ち出して、こ、ヘ置きますからと言って帰った。 そうじ ひやゝ をして籠を汚しますから、時々掃除をしておやりなさ自分は伽藍のような書斎の真中に床を展べて冷かに寝 よる たいじようふ ふん いっさい おぼっか とゝの まんなか うち せま たもと 179
れは当然のことで記憶さえあれば誰でもできる。そのまだかって生れたような心持がしたことがない。しか 時に、我が経験した内界の消息を他人の消息のごとくし回顧してみるとたしかに某年某月の午の刻か、寅の幻 に観察することができる。ことができるというのです時に、母の胎内から出産しているに違いない。違いな から、必すそうなるというのでもなければ、またそう いとは申しながら、泣いた覚もなければ、浮世の臭も 見なくてはならないというのでもありません。たとえかいだ気がしません。親に聞くとたしかに泣いたと申 きよう うち じようだん ば私が今日こゝで演説をする。その時の光景を家へ帰します。が私からいわせると、冗談言っちゃ可ませ 0 てから寝ながら考えてみると、私が演説をしたんじん。おおかたそりや人違いでしようと言いたくなりま ゃない、自分と同じ別人がしたように思うこともできす。そこで我々内界の経験は、現在を去れば去るほど、 るーー、できませんか。それじゃ、こういうなあどうであたかも他人の内界の経験であるかのごとき態度で観 1 レよ洋ノ 0 去年の暮に年が越されない苦しまぎれに、友察ができるように思われます。こういう意味からいう 人から金を借りた。借りる当時は痛切に借りたような と、まえに申した我のうちにも、非我と同様の趣で取 気がしたが、今とな 0 てみるとなんだか自分が借りたり扱われ得る部分が出てまいります。すなわち過去の ような気がしない。 不可ませんか。それじや私が我は非我と同価値だから、非我のほうへ分類しても差 - 」ども 小供の時に寝小便をした。それを今日考えてみると、 し支ないという結論になります。 その時の心持よ、 。しくふんか記憶で思い出せるが、どう かように我と非我とを区別しておいて、それから我 ひげ うけと も髯をはやした今の自分がやったようには受取れない。 が非我に対する態度を検査して懸ります。心理学者の これはあなたがたも御同感だろうと思います。なお溯説によりますと、我々の意識の内容を構成する一刻中 りますとーーーもうたくさんですか、しかしついでだかの要素は雑然膨大なものでありまして、そのうちの一 ら、もう一つ申しましよう。私はこの年になるが、い 点が注意に伴れて明瞭になり得るのたと申します〕こ おぼえ におい
坑夫 降参しちまった。そこで思い切って、最後の手段としといって芋のほかになにを売ってるんだったか、今は 忘れちまった。食うほうに気を取られすぎたせいかと て長蔵さんに話しかけて見た。 も田 5 う 0 「長蔵さん、これからあの山を越すんですか」 うち とつつき やがて長蔵さんは両手に芋を載せて、真黒な家から、 「あの取付の山かい。あれを越しちやたいへんだ。こ のそりと出てきた。入れ物がないもんだから、両手を れから左へ仞れるんさ」 前へ出して、 と言ったなりまたすた / 、歩いてゆく。どうも是非に 「さあ、食った」 及ばない。 「まだよッぽどあるんですか、僕は少し腹が減ったんと言う。自分は眼前に芋を突き付けられながら、たゞ ありがと 「難有う」 だが」 と、とう / 、空腹のよしを自白した。すると長蔵さんと礼を述べて、芋を眺めていた。どの芋にしようかと 考えた訳ではない。そんな選択を許すような芋ではな しめ かった。赤くって、黒くって、瘠せていて、湿っぽそ 「そうかい、芋でも食うべい」 うで、それでところる \ 皮が剥げて、剥げた中から緑 と、言いながら、すぐさま、左側の芋屋へ飛び込んだ。 とこ しよう よく約束したように、そこん所に芋屋があったもんだ。 青を吹いたような味が出ている。どれに打つかったっ さんたん じよう てんゅう おおげさ これを大袈裟にいえば天佑である。今でもこの時の上て大同小異である。そんなら一目惨澹たるこの芋の光 へきえき ありさま 出来にいった有様を回顧すると、可笑しいばかりじや景に辟易して、手を出さなかったかというと、そうで うれ ない、嬉しい。もっとも東京の芋屋のように奇麗じゃもない。自分の胃の状況から察すると、芋中の、、と しようがん ( 2 ) さっこゝろ まっくろ もいわるべきこのお薩を快よく賞翫する食欲は十分あ なかっこ。ほとんど名状しがたいくらいに真黒になっ ったように思う。しかし「さあ、食った」と突き付け た芋屋で、芋屋といえば芋屋だが、芋専門じゃない。 なが イ・
とうしても安さんのほうが って、帰るところはない。。 のか、安さんが社会に対して済まないことをしたのか あんな男らしい、すっきりした人が、そうむやみ気の毒だ。 安さんは堕落したと言った。高等教育を受けたもの に乱暴を働く訳がないから、ことによると、安さんが ちがい 悪いんでなく 0 て、社会が悪いのかもしれない。自分が坑夫になったんたから、なるほど堕落に違ない。け は若年であったから、社会とはどんなものか、その当れどもその堕落がたゞ身分の堕落ばかりでなくって、 時町瞭に分らなかったが、なにしろ、安さんを追い出品性の堕落も意味しているようだから痛ましい。安さ ( 1 ) いちろくしようふ んも達磨に金を注ぎ込むのかしら、坑の中で一六勝負 すような社会だから碌なもんじゃなかろうと考えた。 ・か′つん】第ノ ひいき 安さんを贔屓にするせいか、どうも安さんが逃けなけをやるのかしら、ジャンポーを病人に見せて調戯のか にようぼう ればならない罪を犯したとは思われない。社会のほうしら、女房を抵当に , ーーまさか、そんなこともあるま ぐろう きのうつ い。昨日着き立ての自分を見て愚弄しないもののない で安さんを殺したとしてしまわなければ気が済まない。 ようりよう うちで、安さんだけは暗い穴の底ながら、十分自分の そのくせ今言うとおり社会とは何者だか要領を得ない。 たヾ人間たと思っていた。その人間がなぜ安さんのよ人格を認めてくれた。安さんは坑夫の仕事はしている が、心までの坑夫じゃない。それでも堕落したと言っ うな好い人を殺したのかなおさら分らなかった。だか しようがし た。しかもこの堕落から生涯出ることができないと言 っこう社会 ら社会が悪いんたと断定はしてみたが、い か・わいそう った。堕落の底に死んで活きてるんだと言った。それ が憎らしくならなかった。たヾ安さんが可哀想であっ た。できるなら自分と代ってやりたかった。自分は自 ほど堕落したと自覚していながら、生きて働いている。 分のかってで、自分を殺しにこ、まで来たんである。 生きてかん / 、敵いている。生きて・ーー自分を救おう さしつかえ になれば帰っても差支ない。安さんは人間から殺さとしている。安さんが生きてる以上は自分も死んでは詔 ならない。死ぬのは弱、 れて、仕方なしにこに生ているんである。帰ろうた しかた す だるま 0
ちがい て長蔵さんは平生の顔付で帰ってきた。 逃げ出しここ違よ、。 / 冫、オしそれなら万事こう儿帳面に段落 「さあ、これがお前さんの分た」 を付けるかと思うと、そうでないから困る。第一長蔵 ・と言いながら赤い切符を一枚くれたぎりいくら不足ださんや茶店のかみさんに浄 0 た時なんぞは平生の自分 ぎま ( 3 ) ぐうね ・ともなんとも言わない。極りが悪かったから、自分も にも似す、隅の音も出さずに心から大人しくしていた。 ( 4 ) きゲい 議論も主張も気慨もなにもあったもんじゃありやしな ありがと 「難有う」 、。もっともこれはだいぶ餓じい時であったから、少 うけと たて ・と受取 0 たぎり賃銭のことはロ〈出さなか 0 た。蟇ロしは差引いて勘定を立るのが至当だが、決して空腹の のこともそれなりにしておいた。長蔵さんのほうでも ためばかりとはえない。・ とうも矛盾ーーまた矛盾が ロのことはそれつきり言わなかった。したが 0 て蟇出たから廃そう。 ロはついに長蔵さんに遣ったことになる。 自分は自分の生活中もっとも色彩の多い当時の冒険 ふたり それから、とう / \ 二人して汽車〈乗 0 た。汽車のを暇さえあれば考え出してみる癖がある。考え出すた ・中では別にこれという出来事もなか 0 た。たゞ自分のびに、昔の自分のことだから遠慮なく厳密なる解剖の あばた ふる 隣りに腫物だらけの、腐爛目の、痘痕のある男が乗 0 刀を揮 0 て、縦横十文字に自分の心緒を切りさいなん むこがわ せんべんいちりつ たので、急に心持が悪くなって向う側へ席を移した。 でみるが、その結果はいつも千遍一律で、要するに ・どうも当時の状態を今からよく考えてみるとよ 0 ぽどらないとなる。昔だから忘れちま 0 たんだなどとい 0 かけおち 可笑しい。生家を逃亡て、坑夫にまで、なり下る決心ては下可ない。このくらい切実な経験は自分の生涯 へきえき ちゅう なんだから、たいていのことに辟易しそうもないもん中に二度とありやしない。→一十以下の無分別から出た そば むちゃ 」だがや 0 ばり醜ないものの傍へは寄りつきたくなか 0 無茶だから、その筋道が入り乱れて要領を得んのだと た。あの按排では自殺の一日まえでも、腐爛目の隣を評してはなお不可ない。経験の当時こそ入り乱れてめ かおっき さしひ おとな きちょうめん
くちびる で煙管を握って、薄い唇のあいだから奇麗な歯を時々くる話のためか、ちょっと分りにくいが、なにしろ妙 あらわして、 こんなことを言った。句の順序や、 な目だった。しかもこの目が鋭く自分を見詰めている 9 ( 2 ) ちんぎん 単語の使い方は、慥かな記憶をそのま、写したものでそうしてその鋭いうちに、懐旧というのか、沈吟とい ある。たゞ語声だけはどうしようもない。 うのか、なんだか、人を引き付けるなっかしみがあっ ( 1 ) かめ た。この黒い坑の中で、人気はこの坑夫たけで、この 「亀の甲より年の功ということがあるだろう。こんな 賤しい商売はしているが、まあ年長者のいうことだか坑夫は今や目だけである。自分の精神の全部はたちま おぼえ 、つこ AJ ら、参考に聞くがいし 。青年は情の時代だ。おれも覚ちこの眼球に吸い付けられた。そうして彼のい にへんく がある。情の時代には失敗するもんだ。君もそうだろを、とっくり聞いた。彼はおれもを二遍繰り返した。 きま 。己もそうだ。誰でもそうに極ってる。だから、察「おれも、元は学校へ行った。中等以上の教育を受け たこともある。ところが二十三の時に、ある女と親し している。君の事情と己の事情とは、どのくらい違う くなって , ーー詳しい話はしないが、それが基で容易な か知らないが、なにしろ察している。咎めやしない。 同情する。深い事故もあるだろう。聞いて相談になれらん罪を犯した。罪を犯して気が付いてみると、もう すいきよう る身体なら聞きもするが、シキから出られない人間じ社会に容れられない身体になっていた。もとより酔興 や聞いたって、仕方なし、君も話してくれないほうがでしたことじゃない。已を得ない事情から、已を得な いい。おれも・ : : ・」 い罪を犯したんだが、社会は冷刻なものだ。内部の罪 みのが はいくらでも許すが、表面の罪は決して見逃さない。 と言い掛けた時、自分はこの男の目付が多少異様にか きらい がやいていたということに気がついた。なんだかたい おれは正しい人間だ、曲ったことが嫌だから、つまり へん感じている。これが当人の言うごとくシキを出らは罪を犯すようにもなったんだが、さて犯した以上は、邱 、、、あと れないためか、または今言い掛けたおれもの後へ出てどうすることもできない。学間も棄てなければならな からだ しかた めつき めだま
の特性をあらわしておって、だいぶ複雑であるのみなて決せられるものたということは、一句や二甸の例で らす、その内容を形づくっている文章がすでに純粋に はありません。ちと比例を失するような大きな例にな引 何々派をあらわしておらんから、とうてい私の展開さるかもしれませんが、ちょっと御判断を願うためにお さかん せた両翼と全然一致しようがないのであります。けれ話を致します。ドイツで浪漫主義の熾に起った時、御 どもだいたいの傾向をいえば、こう分布排列しても無承知のとおり、有名なカロリーネというシュレーゲル おっとほうゆう 理はないと思います。 の細君がありました。この細君が夫の朋友のシェリン ところで普通の人間は今申すとおり、この両極端のグと親しい仲になりまして、とう / \ 夫と手を切って、 ( 3 ) あいだをうろついております。それのみならず、この シェリングといっしょになります。しかもその時この えら もうしそろ 六とおりのうちの一叙述を択んだところで、択んだの女は自分の手紙のうちに、縁はこれにて切れ申候。は は当人で、これを聞くものまたは読むものはその隣りじめより二世かけてとはもとより思い設けず候と書き うけと まゆ の叙述と受取るかもしれません。たとえば月が眉のよ ました。しかもシュレーゲルといっしょになったのが うだという叙述を本人は pe 「 ceptual と思って述べてすでに二度目なのですから、シェリングのところへ行 いても、聞く人は simile と受けるかもしれません。 くと三度目の細君になるのです。それで亭主のほうは きようき 第三者がこれを見て、どっちが間違っているとも評さどうかというと、離婚を申し込まれた時は侠気を起し れません。双方とも正しいとしなければなりません。 てさっそく承知したのみならす、離別後も常にシェリ そこでこういうことはいわれないでしようか。自然派ングと親密な音信をしていたそうであります。もう一 と浪漫派とは本来の傾向からいうとやはり左右に展開っこんなお話があります。東京近傍の在ですが、ある しゆく しているようですがあるところになると、どっちとで宿に一軒の荒物屋がありまして、荒物屋の向うに反物 かみ も解釈ができるもので、要は読者の態度いかんによっ屋がありましたそうで。ところがその荒物屋の神さん
眠りを始めて、目をあけて借金の話を聞いて、また居上げた。握り拳がぬ「とまっすぐに畳の上を擦って、 眠りの続を復習しているうちに、とう / 。、居眠りを本腕のありたけ出たところで、勢がゆるんで、ぐにやり おとさた くす とした。また寐るかと思ったら、今度は右の手を下へ 式に崩して長くなったぎり、魂の音沙汰を聞かなかっ ほお たんだから、目が覚めて、夜が明けて、世の中が土台さげて、凹んだ頬っぺたをぼり / \ 掻きだした。起き から陰と陽に引ッ繰り返 0 てるのを見るやいなや、目てるのかもしれない。そのうち、むにや , / 、なにか言 うんで、やつばり目が覚めていないなと気が付いた時、 をあいて涎を垂れて、横になったま、、じっとしてい 小僧がむくりと飛び起きた。これは真正の意味におい た。自覚があって死んでたらこんなだろう。生きてる ゅうべ けれども動く気にならなか「た。昨夜のことは一からて飛起きたんたから、どしんと音がして、根太が抜け そうに響いた。すると、さすが長蔵さんだけあって、 十までよく覚えている。しかし昨夜の一から十までが きよう むにや / 、を已めて、すぐ畳に付いたほうの肩を、肘 しぜんと延びて今日まで持ち越したとは受け取れない。 の高さまで上けた。目をばちつかせている。 自分の経験はすべてが新しくって、かっ痛切であるが、 こうなると、自分もいつまで沈んでいたって際限が その新しい痛切の事々物々がなんだか遠方にある。遠 あが 方にあるというよりも、昨夜と今日のあいだに厚い仕ないから、起き上 0 た。長蔵さんもま「たく起きた。 小僧は立ち上がった。寐ているものは赤毛布ばかりで 切りができて、 ' ル然と区別がついたようだ。太陽が出 のんき ると引き込むだけの差で、こう心に連続がなくなってある。これはまた呑気なもんで、依然として毛布から びき あて は不思議なくらい自分で自分が当にならなくなる。要大きな足を出してぐう / ・、鼾声をかいて寐ている。そ するに人世は夢のようなもんだ。とちょっと考えたもれを長蔵さんが起す。 まえ 「お前さん。おいお前さん。もう起きないとお午まで んだから、涎も拭かずに沈んでいると、長蔵さんが、 にぎこふし うゝんとをして、寐たま、握り拳を耳の上まで持ちに銅山へ行きつけないよ」 っゞき とびお ねだ ひる びじ