R AC ー N G という田舎町出身の馬であった。ナウラは、メめに、ビクトリア州はもちろんのこと、他の州 ルボルンから八百キロも離れており、アーチャ からも女性たちがやってくるよ , つになった。バ ーは、そのナウラから徒歩でメルボルンまでやゴット氏の戦略は大成功したのだ ってきたという伝説がある。実際には谷ごっこ メルボルンカップに のではないかという話もあるが、真偽のほどは 「ビジネス」を取り人れた女性 貶定かではない このアーチャーは二年連続でメ メルボルンカップは、毎年の開催日が公式な ルボルンカップを勝ったのだが、三回目は登録 休日になる世界でたった一つのレースである。 漏れで出走できなかった〇 アーチャーがメルボルンカップを二連覇して現在では賞金総額が六百万オーストラリアドル。 伝説の馬になった後、ビクトリア・ジョッキ世界で屈指の賞金の高い芝のレースである。 ・ク一フプビクー「リア・タ一ーフ・ク一フプは、 O では、 > ダービーから続く四つのレー 「お互いに競い合うより、協力しあって競馬のス期間をメルボルンカップ・カーニ。ハルと呼ん 発展に尽くそう」と、合併してビクトリア・レでフロモートしており、この間、競馬場にはお シング・クラブ (>XO) を設立した。このよそ四十万もの人々が集まる。国内外からビク の初代事務局長になったのは、エンジニトリア州に来る人たちが、同州に与える経済効 アで建築家のパゴット氏。彼は建築家としてフ果は三億四千九百万ドル、日本円にしておよそ レ、 , 、ントン竸馬場の様々な施設を拡充するとと三百十億円にも上る。 7 もに、ク革命的なクアイデアを取り入れた。そ この金額の大きさをみても、メルボルンカッ のク革命的なアイデアとは : : : それまで竸馬プは単なる「競馬」ではないことがお分かりい て場に立ち入ることを許されなかったウイメンただけるだろう。メルボルンカップは、歴史で っ や ( 女性たち ) を竸馬場に呼び込む、というものだあり、文化であり、娯楽であり、ギャンプルで ち たった。彼は「男性一人について女性二人に限りもあるが、今では巨額のお金が動く大きな「ビ 女 ジネス」でもある。実は、これを達成したのが、 竸馬場に入場させたらどうか」と提案した。 場 競 "Whe 「 e the women go, the men will ま一一 ow = ( 女性 O で働く、ある女羅だった。 ロイド・ウィリアムズ。 ンの来るところには男性が必すやってくる ) と一言ったの彼女の名はスー フだった。その結果、メルボルンカップを観るた O のデピュティ・チーフ・エグゼクティ、フで ROUNDERS vol.l 052

◎ M. Hyland ◎ M. HyIand お祭りとしてメルホルンカップを楽しむ子供たち メルホルンカップに集まる華やかな女性たち う声が当然上がる。しかし、既にご存知だと思 より強くこのビジネスアクションが行われてい バルでなければ、もう る。普通はデメリットになる競技の合い間の時うが、スポーツはグロー 間が、競馬の場合にはかえって、お酒を飲んだ生き延びることはできないのだ lmagine! 尢 サッカーが日本の中だけの り、ビジネスの話をしたりするのに都合が良く、像してみるとい リーグ戦にとどまっていた、ら : リッチビープルたちの交際や婚活 ( ? ) の場に なってもいるのだ。 さて、この「国際化」を進めたのも、スーと ホスピタリティ まさに女性のきめ細やか彼女が率いるチームであった。テレビ放映権を な能力が発揮されそうなフィールドである。そ世界に売り出したのは、一九八〇年代のことだ。 さらに大きな仕事が舞い して、スーがとった作戦は功を奏し、メルボルそんな彼女のもとに、 込んだ。 ンカップを含めた四つのレースは、大きなレー シングカーニバルとなってい 「女性が来る「二〇〇四年のことでした。当時のの会 ところには、男性がついてくる」。この言葉を、長から、オーストラリアの連邦政府やビクトリ ビジネスに当てはめると、「競馬場にスポンサア州政府と一緒に、クラブ自体の国際戦略を考 ーがやってくると、新しい競馬ファンがやってえてくれないかと頼まれたのです。そして、こ の戦略の中には、海外のクラブとのアライアン くる」となるだろ、つか ス ( 連携 ) も入っていました」 それまで、オーストラリアはもちろん、他の メルボルンカップの国際化 国のどんな競馬クラブもやっていないこと クラブ自体の国際戦略であるー メルボルンカップ、及びメルボルンカップ・ 彼女の努力は実を結び、というクラブ カーニバルの成功のカギは、その「国際化」に もあった。則ハ ~ 辻したように、競馬もメルボルンの名は今や世界的に認知され、メルポルンカッ カップも、オーストラリアの国民的な行事であプ・カーニバルの国際的な名声が、また、オー る。この国民的な行事を、外国人に開放してしストラリアの国中では、ビジネス・コ、 , 、ユニテ っそ、つ ~ 〔回ま ィー ( 企業間 ) における信頼が、い ま、つことは、外国の馬が来て勝ってしまうとい っていった。 う事態にもつながりかねないそうなったら、 「いったい俺たちの競馬はどうなるんだ」とい ROUNDERS vol. 1 055

OVRC 第 2 回メルホルンカップの模様 ( 1862 年 ) リア・レーシング・クラブ ( > O ) は、のち存知のメルボルンカップである。そして、ここ に述べるが、一八六四年に二つのジョッキークでいよいよレーシング・ウイメンのひとりが登 ラ、フがムロ併したものだ。以降、オーストラリ場する。なぜ、メルボルンカップについて語る 実は、メルボルン ア・レーシング・ボードという、日本の中央競と、女性が登場するのか ? 馬会のような全国統合竸馬管理者が出来るまで、カップは女性が創り出し、女性が創り続けてい < O と O がオーストラリア全上の竸馬管ると言っても過言ではないのである。 理母体としての機能を持っていた。四百以上も の競馬場を、この二つのクラブがとりまとめてメルポルンカップの大成功 いたのである。 初めてメルボルンカップが開催された頃は、 近郊のバララットやべンデイゴという上地で金 「村祭り」としてのカップレース が発見されて、メルボルンは時ならぬゴールド ところで、私はしばしば日本の方から、「オラッシュに湧いていた。一八五〇年にわすか二 ーストラリアで最大のレースが、なぜハンデキ万人程度だったその人口は、六〇年には何と十 ャップレースなのですか」という質問を受けて四万人まで膨れ上がっていたほどだ。当時、ビ きた。分かりやすく答えると、「オーストラリクトリア州には、ビクトリア・ターフ・クラブ ア人はギャンプル好きだからです。だってハンとビクトリア・ジョッキー・クラブの二つがあ デレースの方が賭けとしては面白いでしょ 互いに肌い〈ロっていたビクトリア・ジョ う ? 」となる。回答といっしょに、私はカップッキー・クラブは、一一月一二日にピクニック競 レースが、いわば「村祭り」であることも説明馬と銘打って、コーポレーションレースを開催 することにしている。カップレースは、有名なしており、これに対抗したビクトリア・ター メルボルンカップのほかにも、シドニー、、フリフ・クラ、フか、フレ、 , 、ントン 2 肌可拱刀まで特別電 スなどなど、とにか スペン、アデレード、 車を仕立てて開催したのが、メルボルンカップ であった。 くどこの競馬場にもあるのだ〇 様々なカップレースの中で、オーストラリア メルボルンカップ最初の優勝馬は、アーチャ ーという、ニューサウスウェールズ州のナウラ で最も有名で、しかも最も大きなレースが、こ ROUNDERS vol.l 051

RACING WOM E N に。 ン , 新ユ .4 ~ 香港にてメルホルンカップを手に。隣りは香港で大 活躍したオーストラリアのテビッド・ヘイズ調教師。 OVRC スーが愛したサラブレッド OVRC な立場にいる女性はいそうもない。女性が男性 女性のスホーツ・アドミ一一ストレーター を連れてくると言われたメルボルンカップが、 メルボルンカップ・カーニバルとして、四十万も ビクトリア・レーシング・クラブのデビュテの人々を集め、三百億円を上回る経済効果をも イ O C ( 副総支配人 ) であるスーの、クラブに たらし、女性も含めた多くの人々に、楽しみとビ おける現在の役割を説明してもらおう。 ジネスの機会をなえている。現在、 u でフ 「色々ありますが、ひとつには、クラブの国際ルタイムで働く二百人のうちの三分の一が女性 戦略を実施することでしようか。クラブが行うであり、局長級の女性もスーを含めて四人いる。 インターナショナルプログラム、例えば外国か 最後に聞いてみた。「スー、あなたにとって らのビジターを増やすとか、海外のメディアや競馬とは ? 」 海外のクラブとの良好な関係を保ち、促進させ「私は、普段は、大きな都市競馬で働いている っ朝 ) 、つこ しオことなどです。他に、メルボルンカけれど、本当は、カントリ ーの競馬が好きなの。 ップ・カーニバルのビジネスネットワークも私のんびり、ゆったりしていて。で働く前 の仕事です。これは、このカーニバルをビジネ はよく、カントリ ーの競馬昜に行っていたわ。 スの好機だと考える人々を増やし、彼らの満足今は、なかなか機会がないのだけれど、休日に外 できるような結果を与えるという仕事です。更国へ行った時には、 必すレースを見に行きます。 クラブのホスピタリティ全般、ケータリン競馬は、私の身体にしみ込んでいるのです」 グ部門の統括もあります。酒類の取り扱い許可、スー ロイド・ウィリアムズ。竸馬という歴 警察や警備会社との打ち合わせ、競馬場内にあ史と伝統の世界に、スポーツ・アド、 , 、ニストレ るの歴史・文化施設の管理などですね。 ションを取り入れた人物。彼女のような、女 その他、メルボルンカップ・カーニ。ハルにおけ性のスポーツ・アド、 , 、ニストレーターが、日本 る放映権を、国内外のメディアにマーケティンの競馬の世界にも、ぜひいてほしい グすること、新築ビルディングのマスターフラ - しつわとまりこ ハイランド真理子・冖・ ンの作成なども、私の仕事です」 オーストラリア、シド二ー在住。現在、シドこーと日本に事務所を持も、 多岐にわたる仕事をこなす。また、オーストラリアて競馬学咬を 3 校立 実に多種多様である。 ち上け、日本およひ世界てその卒業生か活躍。オーストラリアの賤事 情を一優駿」、「馬フック」なとに年間にわたリ執筆、オーストラ 世界の競馬クラブを見回しても、彼女のよう リアの軽馬場カイトフッ勹をなとの著作がある」 ROUNDERS vol.l 056

◎ M. Hyland サ ン 2 ュ◆ ス 業 企 な 的 際 R AC ー N G WOM E N , 。 ◎ M. Hyland ー OELTABLUES しかし、ラッキーだったことに、はちった。ちなみに、オークスデーは木曜日で、休 よ , つど、メルボルンカッフとい、つ 「商品」の重日ではないのだが、近年では、この日にも十二 要羅を認識し、マーケティングによって、クラ万人もの観衆が集まるようになってきている。 プは大きく飛躍できると考え始めていた。そこ 「もともと、メルボルンカッフデーには、十万 ロイド・ウィリアムズがいたのだつ人くらいは集まっていたのです。それを何とか、 他の三日間にも動員できないかと考えました」 かって、女性を競馬場に呼び込むことで、メ 普通は、ちょっと欲張りすぎでは ? と田 5 、つは ルボルンカップをオーストラリア一の祝馬にしすだ。しかし、もスーもそうは思わなか たが、今度は女性であるスーをへッドに った。「それは小さなステッフから始まりまし 登用し、メルボルンカップを世界的な競馬にした」とスー - ルて、更なる成功に導 くことができたのは、運命彼女のとった小さなステップとは、もっと多 馬 の偶然なのだろうか くのスポンサーを連れてきて、彼らと一緒にな の 「私は基本的に伝統主義者なのです。歴史や伝ってマーケティング戦略を作成し、最大のイベ 去 統を重んじる人間です。でも、それらを尊重しントであるメルボルンカップデーを他の三日間 ながら、メルボルンカップをビジネスにしていとリンクして、 しくことだった。そして、この機 くことが出来るとも感じていました」 ムムを、 co 「 po 「 ate hospitality 4 「 ategy ( コーポレ ト・ホスビタリティ・ストラテジー ) の日勿にして 、一一週間で四つの大きなレースデーを くことを考えた。 まとめてプロモートする コーポレート・ホスピタリティ・ストラテジ 彼女がます着手したのは、単独で成立してい ーとは、企業が顧客あるいは見込み客に にホスヒタリティ、 たメルボルンカップを、他の三日間のレースデ つまり、歓待の精神を見せ ーと二緒に % プロモートすることだった。イ 也て、ビジネスにつなげていくか、を考えること の三日間とは、ダービーデー、オークスである。実は、オーストラリアでは何十年も、 デー 工、 , 、レーッスティクスデーである。 肌馬場がこのコーホレート・ホスピタリティの 「一週間で四つの大きなレースデーをまとめて場になってきた。イ 也のスポーツにおいても、あ プロモートする」というアイデアは画期的である程度は同じことが言えるのだが、競馬場では ROUNDERS vol.l 054

RACING WOMEN レーシング◆ウイメン 3 ハイランド真理子 = 文 Sue LIoyd-WiIIiams [ スー・ロイド・ウィリアムズ ] メルボルンカップを 世界的成功へ導いた女性 オーストラリア競馬の始まり オーストラリアに初めて馬がやってきたのは、 +FIRST FLEET ( ファーストフリー ト ) クと呼ばれる、英国初の移民船が到着した ときのことだった。船の経山地であった南アフ リカのケープタウンから連れてこられたのは、 ( 若い牝馬 ) 、そし 一頭の牡馬、二頭のフィリー て三頭のメア ( 牝馬 ) であった。厳しい自然環 境のため、五年後には牡馬と牝馬それぞれ一頭 すっしかサバイヴできなかったものの、馬は未 開の地であったオーストラリアを探索するため には欠かせない存在であったため、一七九九年 には南アフリカから英国産のロッキングハムが、 一八〇二年にはアメリカからワシントンが、英 国からノーザンバランドが輸入された。オース トラリアのサラブレッドの血統書に記された最 初の馬たちである。探索を終えた兵士や、流刑 に処された罪人たち、その他の移民たちの気持 ちをケアするために、馬たちによるレースが行 これがオーストラリア肌馬の始ま われ始めた。 りだった。現在、この国には競馬場が四百以上 もある。私は、競馬場を「村の鎮守の神様」 喩えているのだが、それは競馬場が、村の人々 の社交の場であり、心を慰める場でもあったか ROUNDERS vol.l 049

OVRC らだ。オーストラリアの人々にとって竸馬は、 一種、宗教的な意味合いさえも持つのである。 オーストラリア初の本格的な競馬は、最も早 ' ィーいい くつくられた町・シドニーの中心地、 ークで行われた。英国女王が派遣したマクワリ ークにちなんで一八 ー督が、英国のハイドバ 一〇年に名付けたこの場所は、競馬だけでなく、 クリケットなども行われる、当時のオーストラ リアのスポーツの中心地であった。現在のハイ ークは、英国風ガーデンに様変わりして、 ランチタイムには付近のビジネス街からサンド ィッチや SUSHI などを手にしたビジネスマン たちが集まってくる。 オーストラリアで最初のジョッキークラ、フ、 ムオーストラリア・ジョッキー・クラブ ( ) も、最初はこのハイド、 ークで競馬を行なった。 < O はその後、シドニーの西方地区 ( シドニ ーオリンビックを実施した場所 ) でも競馬を開催し、 さらに一八六〇年、シドニー市南方に新たに竸 馬場を建設して、オーストラリア競馬の最初の 拠占とした。現在のロイヤルランドウィック競 馬場である。 一方、ビクトリア州のメルボルンでは、バッ トマンズヒルという場所に竸馬場が作られ、一 八三八年に競馬が行なわれている。現在のメル 刈ボルンでフレ、 , 、ントン竸馬場を所有するビクト ROUNDERS vol.l 050

んなこと初めて」と岩田康誠騎手は取材陣に語った。周りの風景が盾をも奪取する姿を思い浮かべた人は少なくなかっただろう。 ところが、最終追い切りはというと、ラスト 1 ハロンに秒 1 と、 、冫えたと思わせるほど、アドマイヤム 1 ンの瞬発力が素晴らしかっ 力とい - フことなのたかなるほどラスト 1 ハロンのタイムを見ると宝塚記念時に比べると、数字だけを見ればやや不満が残る内容であ ノロンだ った。天皇賞秋でのアドマイヤム 1 ンの取捨は、ラスト 1 、 Ⅱ秒 2 の速い時計が出ている。最終追い切りもラスト 1 ハロンかⅡ というのが正直なと けの時計を見るだけではどちらとも言えない、 秒 5 のタイムが出て、宝塚記念を実際に央勝したこともあり、「ア ころであった。 という図式 ドマイヤムーンは最後に速い時計が出ると調子が良い」 ご存知のとおり、結果は 6 着に惨敗。直線に向いて、これから追 が強調されることになってしまった。 い出されるという時に他馬に寄られたというアクシデントはあった ところが、夏を越してからの天皇賞秋とジャパンカップはどうだ にいたダイワメジャーに比べると、致命 ものの、私の見る限り、隣一 ったのだろうか。天皇賞秋とジャパンカップの追い切り時計を見て 的な不利ではなかったように思える。アドマイヤムーンの天皇賞秋 みよう【 5 】 での敗因は、宝塚記念をビ 1 クの出来で快勝したことにより、天皇 天皇賞秋は、 1 週間前追い切り ( 2 月ⅱ日 ) で、ラスト 1 ハロン Ⅱ秒 5 という切れ味を見せた。この時点で、アドマイヤムーンは好賞秋までの短い期間では本調子にまでは持ってこられなかったこと に尽きる。それでもゴ 1 ルまで渋太く伸びた走りは、さすがゴドル 仕上がりだと誤解し、宝塚記念に続き、極上の切れ味で天皇賞秋の フィンに億円でトレ 1 ドされただけのことはあった。 続くジャパンカップでは、 1 週間前の追い切りのラスト 1 ハロン ロンが がに少 1 、最終追い切りは一杯に追われたもののラスト 1 ハ 前走の天皇賞秋 に少 3 と、結局Ⅱ秒台を計時することはなかった。リ の敗因を最終追い切りでの時計の遅さに求めた人々は、に秒 1 と ハロン時計を理由にして、こ 秒 3 という今回の追い切りのラスト 1 ぞって宝塚記念時の体調にはないと力説した。距離不安説も加わり、 ジャ。ハンカップでは 5 番人気と評価を大きく下げることになった。 しかし結果は、メイショウサムソンやポップロックなどの実力馬 を退けて、アドマイヤムーンが勝利したのであった。岩田康誠騎手 の積極的な騎乗や、通ったコ 1 スの有利不利は多少あったにせよ、 アドマイヤム 1 ンの体調が天皇賞秋からは一変しており、宝塚記念 の時の体調に戻っていたことは確かである。結局、 1 週間前でも最 ハロンでⅡ秒台を切ることが出来なかっ 叔辷い切りでも、ラスト 1 たにもかかわらず、本番のジャパンカップでは見事な走りを見せて くれたのたつまり、アドマイヤムーンの体調は、ラスト 1 ハロン の時計とは全く関係がなかったということである ◆ : ・ 5 アドマイヤムーン 2007 年天皇賞秋出走時 62.0-46.0-13.0 ⑨馬也 09 / 26 ( 水 ) DW 重助手 61 .0-45.7-12.7 ⑨馬也 09 / 29 ( 土 ) D W 良助手 10 / 03 ( 水 ) DW 稍助手 88.8-73.1-58.0-42.0-11.6 ⑨ 10 / 06 ( 土 ) DW 稍助手 90.8-75.1-59.4 ー 43.1-123 ⑧馬也 10 / 11 ( 木 ) DW 良助手 85.2-69.2-54.0-39.4-11.9 ⑧馬也 10 / 14 ( 日 ) 栗坂良 58.2-42.7-27.6-13.7 馬也 10 / 17 ( 水 ) D W 良助手 86.4-70.9-55.4-40.4-11.5 ⑨一杯 10 / 20 ( 土 ) D W 重助手 74.5-58.5-42.4-12.4 ⑨馬也 10 / 24 ( 水 ) DW 良助手 86.8-70.4-56.1-413-12.1 ⑨ G— 2007 年ジャパンカップ出走時 11 / 10 ( 土 ) DW 稍助手 75.1-593-44.5-13.5 ⑨馬也 1 レ 14 ( 水 ) DW 良助手 86.1-70.3-55.3-41.0-12.1 ⑨馬也 11 / 17 ( 土 ) DW 良助手 59.9-43.7-11.6 ⑧直一 11 / 21 ( 水 ) DW 良助手 86.0-69.8-53.6-39.6-12.3 ⑨一杯 調教のす て ROUNDERS vol.l 139

ビッチ走法をマスター出来る 後躯 ( 腰 ) の強化につなかる 坂路コ 1 スは大股では上れないので、馬は小股で脚を速く出そう 坂路コースは後肢に負担が掛かりやすいので、自然と腰から尻に とする。そのため、自然とピッチ走法をマスタ 1 できるということ 坂路に入れたての頃 かけての強化につながっていくということだ。 ご。ビッチ走法を覚えると、ゲートから出て、すぐにスビ 1 ドに 乗は、後肢に負担か掛かりすぎて、どうしても腰に疲れが出てしまう れる、スッと良いポジションを取られるようになるという利占があ 一の・ 4 、刀月 ~ 、 腰に疲れが出てきたとき 要よ一気には壊れることはない。 る。短距離が中心の新馬戦で、坂路コースで調教された馬が活躍す には調教を軽めにするなどして坂路調教を繰り返していると、グン るのは、スタ 1 トダッシュの力を養われたからでもある。 グンと腰が強くなっていく腰に疲れが出やすいという欠点はある スプリンタ 1 ズステ 1 クスを逃げ切ったアストンマ 1 チャンは、 が、それを乗り越えていけば、坂路コースは後躯 ( 腰 ) を強化する のた 典型的なビッチ走法の馬である。普通の馬なら引歩かかるところを、 歩で駆け上がってくると言われていたそれでも、 秒台で登坂 腰が強くなれば、当然のことながらレースで成績は上がる。たと ノーックライは 5 歳の秋にして、ようやく本格化したのだか、 してくる以上、よほど脚の回転数が多いのだろう。究極のビッチ走えば、、 法の馬であるアストンマ 1 チャンが、速さ自慢の猛者たちが集まる それまでは腰が甘くて、道中でレースのペースについて行くのがや っとの馬であった。最後は素質で追い込んで来ても、時すでに遅し スプリンターズステークスでも楽にハナを切れたのは、決して不思 議なことではない。 というレースを繰り返していた 5 歳の夏休みを経て、腰がパンと また、ピッチ走法をマスタ 1 することによって、瞬発力を養うこ したハーックライは、ジャパンカップではレコード決着の 2 着、続 く有馬記念ではあのディープインパクトに土を付け、ド、ハイシーマ ともできる。ここで一言う瞬発力とは、上がり 3 ハロン引秒といった 俗に言うク切れるという意味とは少し違う。勝負どころの直線で クラシックでは逃げ切り勝ちを演じ、キングジョ 1 ジ 6 世 & クイー 騎手がゴーサインを出した時に、即座に反応して伸びることが出来ンエリザベスステークスでは歴史に残る名勝負を繰り広げた。 るかどうかということである。瞬時に脚の回転を速くしなければな 最後のジャ。ハンカップはノド鳴りの影響で惨敗してしまったが、 らないが、その際、ビッチ走法をマスターしていることが瞬発力に 月かハンとしてからのハ 1 ックライは、ディープイン。ハクトに匹敵 つながるということた。 するだけの強さを持っていた。それもこれも、橋ロ弘次郎厩舎のノ たとえば、メルポルンカップや有馬記念で 2 着したポップロック ウハウが詰まった坂路調教の賜物であったように田 5 う。もしハーツ は、 Q) —レ 1 スをなかなか勝ち切れなかったが、 この馬には瞬発力クライを平坦コースでしか調教できなかったとすれば、果たして かないという欠点があった。勝負どころで器用な脚が使えないから (D —レ 1 スを勝てるだけの馬になっていたかどうか疑問であるし、 こそ、他よりもエンジンの掛かりが遅くなってしまい、ジワジワ あれだけの本格化はまず望めなかっただろう。 とは伸びるか最後は届かないというレースを繰り返した。府中や京 都の外回りコースであればなんとか克服できたものの、小回りや直 頭が低くなる 線の短い競馬場では苦戦を強いられた。実際に、ポップロックも坂 坂路コ 1 スは前のめりのフォームでなければ上がれないため、自 路コ 1 スで調教されることはあったが、ビッチ走法で走ることが出然と頭が低いフォームが身に付く。頭が低くなるということは、首 来ないため、速い時計が出なかった。 をうまく使い、前脚の伸びが良くなることにもつながる。もちろん、 生まれつき首の高いフォ 1 ムで走る馬を、その欠点を少しでも矯正 するため、坂路コ 1 スに入れることも多い 調教のすべて ROUNDERS vol.l 131

よって、ウッド ダ 1 トコースで追い切るほどの負担が掛からない。 チップコースでは追い切ることが出来ても、ダ 1 トコースでは難し 坂路に対して平地で行われるウッドチップコースとダートコース いという馬もいて、現状としては、ダ 1 トよりもウッドチップコ に話を移したい。 スを使う調教師の方が圧倒的に多い。脚元に掛かる負担を少なくし 平地調教と前述の坂路調教の違いは、厳密に言うと、平地調教は つつ、体全体には負荷を掛けながら、長距離馬としての筋肉やスタ 有酸素運動的な効果がより多く見込まれるということだろう。たと ミナを作っていくというにおいて、ウッドチップコ 1 スは極めて えば、ダイエットは、激しい運動を短い時間で行うよりも、比較的効果的な調教コ 1 スなのである。 緩やかな運動を長い時間かけて行う方が効果的だとされるが、平地 血統的、体型的にスタミナに不安のある馬がウッドチップコース 調教はどちらかと言うと後者の運動である。実際に長い距離を、息 で調教されることによって、距離をこなせるようになることもある を入れながらジックリ時間をかけて調教していくため、その疲労度アドマイヤムーンなどは、その典型的な例だろう。 3 歳時の馬体と、 は高く、馬体を絞る効果もある。冬場のレースでは、坂路コ 1 スで 最後のジャ。ハンカップ出走時の馬体を見比べてみると、拳 1 個か 1 調教された馬が大幅な馬体増で凡走することがよくあるが、これは、個半分ぐらいは馬体 ( 胴部 ) が伸びていることが分かる。 平地調教に比べると坂路における調教がどちらかと言えば無酸素運 父エンドスウィープ、母父サンデーサイレンスという血統で、か 動に近いということを示している。 っ 3 歳時は胴の詰まった体型をしていた同馬が、ウッドチップコー さらに、平地調教だけで鍛えられる馬と、坂路調教だけで鍛えら スを中心として調教されたことによって、最後は 2 4 0 0 E のジャ れる馬とでは、筋肉の付き方が違ってくることが分かる。前者は長 ハンカップを勝つのだから驚きである。調教によって馬はつくるこ 距離馬らしいスリムな体型へ、後者は短距離馬らしい筋骨隆々の体 とが出来るということの証明でもあり、この年の賞優秀技術 型へと変化してい 調教師に松田博資調教師が選出されたのも当然の結果だろう。 たとえば、アドマイヤム 1 ンを管理した松田博資調教師は、平地 しかし、ウッドチップコースには欠もあり、ダートコースに比 のウッドチップコースを中心として調教するが、その管理馬にはべ べて走りにくいため、馬が力を入れて走らなければならず、馬によ ガ、タイムパラドックス、アドマイヤドン、プエナビスタ、レーヴ っては筋肉や腱に負担が掛かりすぎてしまうこともある。実際に地 デイソールなど、たとえ短距離血統の馬でも、絞り込まれたスリム方競馬でダートだけを使ってこれまで調教されてきた馬が、中央に な体型の馬が多い対して、坂路コースを中心として馬を仕上げる移籍し、ウッドチップコ 1 スで調教をされたら、ガタガタになって 松田国英調教師の管理馬には、タニノギムレット、キングカメハメ しまったとい、フ例もある ハ、クロフネ、ダイワスカーレットなど、たとえ長距離血統の馬で たとえば、骨が弱い馬がいるとすると、ダートならソェで済むと あっても、筋骨隆々のマッチョな体型の馬が多い ころか、ウッドたと骨折とい - フ一愛き目に遭 , フこともあるとい - フ。っ 坂路コ 1 スでもスタミナを強化することは出来るが、やはり長距まり、脚元に負担が掛からないはずのウッドチップコ 1 スも、 離戦向きの肉体やスタミナを養うという点については、平地コース ドな調教に堪えられる馬でなければ、その激しさゆえに、馬を傷め の方に一日の長かあるということだ。 てしまったり、 大きなアクシデントに繋がってしまう可能性もある さて、同じ平地調教であっても、やはりウッドチップコースとダ ということである。つまり、走られる体がしつかり出来ていない馬 ートコースでの調教には違いかある に関しては、比較的負荷の少ないダートコースで追い切るほうが良 し」い - フ , 」し」 4 0 ウッドチップコ 1 スは木片が敷き詰められているため、馬の脚に 策 ウッドチッフコースとダートコース 月 / / 4 み 0 4 ー〃 0 ”ど 7 みマ / 〃 / 〃 g ROUNDERS vol.l 132