聖路加病院は明石町の、ちょうど僕が通って ちばん軽かったからです。 でもタクシーの連転工卞も不安なんですよ。誰 いた学校の隣にあります。だから運転手よりは が金を払うのかわからないし、どこに行けばい僕の方がそのへんの道には詳しい。交通渋滞が いのかもわからないんだから。お巡りさんが一すごいから近道を指小しました。「新大橋通り 人その辺にいたので、「どこに行けばいいんでは行かず、横から行って新川へ抜けて裏から行 すか ? 」って運転手が訊きました。呂は血くといい」という具合に。 で問い合わせてから、「聖路加病院に行って下運転手も異常事態であることはわかってい さい」って返事しました。あとになって考えてました。だからもうおたおたしていた。後ろの みたら位聖曷には三井記念燒の方が近いです人が吐いていても何も言いません。でももうひ こ進まないんで よ。小伝馬町だから、ちょっと戻ればいいだけどい渋滞で、車がぜんぜん前 ! です。でも目が「聖路加に行けって一一一口うかす。距離にしたらたったせいぜい一一キロくらい なんだけれど、帛でメーターは一一千円を超え ら、聖路加に何くことになった。 それで行き先はわかったけど、誰が料金を払てしまいました。僕は追加分を払おうとしたん うのかはまだわからない。年輩の運転手は迷っですが、運転手は「いや、もういいです」って ている。後ろの人はひどい甃 ~ で、もうげえげそのままメーターを切っちゃった。 正え吐いちゃっています。僕はポケットから一一千後部席の人は気の毒だったですね。見ていら 伊円を出して「いいから、これで行ってくれ。とれないような総だった。三人のうちの一一人が にかく大変なことなんだから」って言いましとくにひどかったんです。最初はうんうんうな 」 0 っていたけれど、そのうちにぐったりしてきち
肥ようにするわけです。脚立を使って、木の上のしが来るよりは、家内がうちに帰ってきて 方までやります。けっこう仕事し J しては大変だ手訥を取る方が先だったです。 けど、うちなんか数が少ない方です。リンゴの景もがっかないので、本署から駐在に 手訥がいって、そっちから矗に探しに行って 中圉にも入れてもらえないくらいだ。 長男は一緒に暮らしていますが、棟は別でくれと言うことになった。それで家内が霹請を す。食事なんかも別にしています。そっちの方していたら、そこに駐在さんがやってきた。 に嫁が「禛と一緒にいます。だからうちで手岦訥 が鳴っても、そっちにまでは聞こえないんで ( 母 ) 急にそんなことを教えて、畑でばったり す。いずれにせよの嫁の方もちょうど妊娠と倒れられても困るから、私はリンゴ畑まで行 って、お父さんに「ちょっとこっちに来て」と していて、縢に薬を取りに行っていて留寸に していたんですが。 言いました。それですまでひつばってきたん しかしはそのときラジオを聴いていましです。そして中央薯からかかってきている た。というのは曲に勤めていて、番が ~ に出しました。そしたらお父さんは、わけ がわからなくなってしまった。 の員で、農家の方が仕事の相手ですから、 畑にいつも出ているのです。そしてラジオを聴「東京の中央警察署からこうだって電話がか きながら仕事をしておったんです。そうしたらかってきているけど、俺は頭が回らねえ。馬鹿 「和田栄一一」という名則が出てきた。それでうになっちゃってる。何を書いていいだかわから ちに飛んできた。いくら手訥しても誰もでないねえ。ちょっとあんた書いてくれ。どこに行け ゝばいいだか、書いてくれ」と一一一口うだけです。そ んで、これは畑に出ているなって思って。しカ
ているのだ。そう感じた。大事な何かだ。でも 「いい」と彼女は言った。 私は彼文の小さな手のーー・まるで「ハのよう・女にはうまくそれを出すことができない。そ な小さな手だーー手のひらの中に自分の四本のれを表出することを可罷にするための力と ) ~ ~ 葮 指の先を置いてみる。彼女の指がまるで眠りに が、一物にせよ彼の中から失われてしまっ ている。でもその何かは、壁に囲まれた彼女の っ , く花の花びらのように、静かに閉じられてい く。温かい、ふつくらとした、若い女性の指だ。中の場所の中に、傷を負うこともなくしつかり その指の力は予想していたよりずっと強いものと存在している。彼女は誰かの手を握って、 婆は私の王スしばらくのあいだぎゅっ「それがそこにあるのだ」ということを静かに と握っている。おっかいに行くヱ虚ハが、「大事伝えるしかないのだ。 なもの」を握りしめるみたいに。そこにははっ彼女はいつまでもじっと私の手を握ってい きりとしたひとつの亠のようなものが感じらた。 れる。それは明らかに何かを求めている。とい 「ありがとう」と私が言っと、また少しずつ静 っても、おそらくは私に向かって求めているわかに指が開かれていった。 けではない。私の向こうにある「別のもの」に 子向かって求めているのだ。でもその「別のも「こうして日々そばについていますと、回復ぶ 志の」はぐるっとまわって、私のところに戻ってりはほんとうに遅々としたもので、その歩みは 明くるはずのものだ。わかりにくいで申し訳なかなか目には見えません。しかし長い目で見 ないのだが、ふとそういう気がした。 れば、士子は確実に回復しています。その進 きっと彼女の頭の中で、何かが外に出たがっ展がなかったとしたら、このような毎日のつら
ある日の午後、たまたまテープルの上にあったその雑誌を手に取り、ばらばらとページを 繰ってみた。いくつかの記事を流し読みし、それから投圭牘にされていた読者の手紙に ひとつひとつ目を通してみた。どうしてそんなことをしたのか、よく思い出せない。たぶん ちょっとした気まぐれだったのだろう。あるいはよほど暇だったのかもしれない。 女性誌を 手に取ることも、また投圭を読むことも、私にとってはけっこう珍しいことだから。 手紙は、地下鉄サリン事件のために職を失った夫を持つ、一人の女性によって書かれてい 彼女の夫は〈在に通勤している帛で連悪くサリン事件に遭遇した。倒れて病院に連び 込まれ、数日後に退院はできたものの、不幸にも後遺症が残り、思うように仕事をすること ができなくなった。最初のうちはまだ良かったのだけれど、事時間が経っと、上司や同 僚がちくちくと嫌みを一一一口うようになった。夫はそのような冷たいに耐えきれずに、ほと んど追い出されるようなかっこうで仕事を辞めた。 雑誌がいま手兀に見つからないので、正確な文章までは思い出せないけれど、だいたいそ ういらノ内 ~ 谷だったと田 5 , つ。
自分が何かに乗って密林を抜けて、島か海にす恐ろしい夢を見ていても、この宀丁さえあれば うっと出ていくと、そこらじゅうに執市の花が消えるんだと。 咲いて、熱帯の鳥がいます。色がすごく美しい テニスをやっているからきっと羣が強 んです。一種の見症状のようなものですね。 いのでしようね。 の見し J いうのはああいうものではない かと思いました。その夢を見ながら、自分でも そうなんでしようね。でもその宀勾于がなかな 「これは見だ、これは幻覚だ」といつも思っ ていました。 か思うように出てこないのです。工す化あげよう 恐ろしい夢の方は、何かに後ろから引っ張らとしても、思うように上がらない。でも最後に れるんです。目の前に ~ 暈が停まる夢も見ましはやっと手が出てきます。手さえ出れば、その たね。すると何かに誘われるような感じになり何かは消えてしまいます。だからそれがわかる ます。後ろから押し出されるような嫌な」ちと、もう則ほどは怖くありませんでした。そ がします。それで王」あげてわあっと払ったんの夢は破られるんだということがわかっていま したから。 ですよ。そしたらそれがすっとなくなった。 でもいずれにせよ長いあいだ、熟睡はできま 同じような状況なんですが、今度は後ろから 呼ばれるような夢を見ました。薄気味悪かったせんでした。ときどき天井が赤くなったり、自 ですね。それも手でわっと払いますと、ふっと分の体が赤くなったりもしました。それでナー 消えてしまいます。それで「この ~ 型卞さえあれスコールして、「見てよ、天井があんなに赤く なってるけど、どうしてなの ? 」って、鷹 ば大丈夫だ」と思うようになりました。いくら
なにかなとは思っていたんです。でもほとん 肪た。いったいどうしたんだろうと不田議に思っ ていたら、アナウンスで「八丁堀の駅で爆発事ど気にもとめなかった。もともと根が楽天家な 故があったので、しばらくここで停車します」ものだから ( 笑 ) 。最初に頭に浮かんだのは、 というようなことを一一一口われた。爆発事故なら当「ああ、これで今日は学校に行かずにすむな」 分は ~ 里里も出ないだろうなと思いながら、地下と、そういうことだったんです。地下鉄がとま 鉄の表小板を見ていたら、突然がバノ ったんだから、言いわけがたちます。 と暗くなっちゃった。そのときはとくに気にもでも実際にはその手里里はとまらなかった。 とめなかったんだけれど。 一胃に乗っていた崟各を降ろしただけで、その 駅のホームにある公衆岦訥で家に罌をしなまま次の駅に向けて進んでいっちゃった。「い くちゃと思ったけど、そこにはすごくたくさんちばん前の車両には乗らないでください。あと の人が並んでいたものだから、どうすればいし の里里がつつかえていますから」っていうこと のかなと考えているうちにまたアナウンスがあで。だから一 = ・胃から後ろにはたぶん人は乗っ りました。こんどは「この駅でも前のほうで人ていたと思います。でも僕はそのとき霞ヶ関ま が倒れました。悪性のイブツがありますので、でいっちゃうと、丸ノ内線に乗りかえなくては 上に避難してください」というものだった。 ならないし、学校には行きたくないから、手里里 を降りてその場に残ったんです。 「悪性のイブッ」って一一 = れてどんなも家に手岦訥をかけるために改札を出て、地上に のを想像したんだろう ? あがりました。駅の出口からすぐのところに電 話ポックスがあったので、そこから家に ~ 岦叫化
た。べッドに寝ていますと、枠の。ハイプの縁が ですが、何も覚えていない。 旨ロ憶がなんとかまともにつながりだしたのありますね。あの。ハイプをさわりますと、何か は、八日目くらいからでしたね。それくらいか濡れた手で闇の中にひきずりこまれそうな気が らやっとものが食べられるようになりました。するんです。昼間は明るいし、まわりに誰かが 入院しているあいだ、物理的には何の ~ もあいてくれるから、そういうことはないんです りませんでした。目が痛い、頭が痛いというよが、夜になって眠ろうとして、手や足が。ハイプ うなこともありません。痛くも痒くもないんでに触れると、濡れた手が伸びてきて、ぐ , つつと す。ただ視力が少しおかしくなっていたかな。 引き込まれていくような感じがするんですね。 それも自分ではおかしいとは思わなかったんで亠がはっきしてきて、「 ~ のつながりが出て すがね。 くればくるほど、その恐怖の度合いがひどくな こんなことを言ったらまずいけれど、を婦ってきました。自分では幻宀見であることに さんがみんななにしろ美人さんばかりなんで気づかず、ひょっとしてここの病室で死んだ人 し , らっしゃい」 す。それで家内にも「なんとかさんとい , スがいて、それが「いらっしゃい、、 婦さんが美人でねえ、美人は冷たいっていうけをやっているんじゃないかとも思いました。怖 れど、これが親切な人なんだ」って言ったりしいんです、とにかく。でもみつともなくて、と 重 廣ていたんですが、しばらくしてがまともにてもそんなことは一 = ロえません。私は並晟、家の 菅なってくると : : : そのあいだ世の中すべて美中では ~ 〕 ~ 関白の人間ですから、「怖い」なん しかったのかもしれませんね ( 笑 ) 。 て口には出せないんです ( 笑 ) 。 でも病院での夜はずいぶん怖い思いをしまし だから少しでも早くこの病院を出なくてはと
をもっていきます。〈一狂が残りの六五。ハーセンのメリットでもって、お客を引き込むんです。 トを取ります。〈在はその六五バーセントを取そっちから王薮料を取る。大犇に対しては るために、机と岦訥を与えているのです。そ , つ「お宅の方の手数料はけっこうです。いりませ しう人が一人だけですが、うちにもいます。 ん」と。誰だって、手数料を取るところと取ら ないところがあれば、取らない方に行っちゃい この丗界の。は激しいですよ。とくに最近ますよね。 は商社が先頭に立って、自分で店を持って大昱 なんかの商いをやっているんです。ですから今 ーー商品先物取引というと、私みたいに何も までうちが一手に扱ってきたところが、よそに知らない人間が何百万か現金を持ってきて、 1 しちゃうわけです。僕らがいただく手数料「よくわからないけど、何か適当なものを買っ の率というのはちゃんと決まっているんですてください」なんてことはないんでしようね。 が、今はそれ、朋れてきて、率なんてあってな きがごときものです。うちは普通にきちんと手めったにないです。一般の人が入ってくるの 数料をもらっていますが、鑈な例だと、「うは、正直言ってかなりむずかしいです。この前 ちはエ ~ 数料はまったくいりませんーというとこもあるお客が僕のところに来て、五 OO 万人れ ろもあります。手数料がなくてどうやって儲けてあっというまになくしてしまいました。結局 ギョク を出すのかというと、「うちは商社の玉を持っ六五〇万くらい川で足を出して、足りない一 ているぞ。うちは三菱の玉が人っている。うち五〇万は手兀にないので、何とか分割してくれ は物産の玉が入っているよーというようなという話になりましたね。ですからやっている
明日香にもスキーを教えようと思うんです。 主人もヱ - にすごくスキーを教えるんだって言 っていましたからね。主人が着ていたウェアを 着て、この子にスキーを教えてやりたいです ね。私と主人とはが同じくらいだから、夫 婦兼用で服が着られたんですよ。そうですね、 来シーズンくらいから行きたいですね。主人が いちばんやりたかったはずのことを、私が代わ りにやってあげたいし : ヱ・の手が離れたら、何か手に職をつけたい と思っています。今は父の収入もありますの で、十分やっていけるんですが、もし何かあっ 子て私たち一一人にな「ちゃったときにね・ : 嘉つばり「亠にばかり目をかけていても、私、自 和分のし - 」同じようになっちゃうような気がす るんです。それだとヱ復もでしようし。こ の子が小子校にあがったら、自分でもこれから どうするか決めていきたいなと思っています。
たんです。私のまわりを、「行くな。お前、行っまったかもしれないわけですからね。私はいっ ちゃいけよい ! 」という風に。しばらくのあいも前から三一胃 / 、らいの車両に乗りますし、そ だ、私は勣、 ) さもできませんでした。おじいされはまさにサリンの置かれた車両なんです。あ んは生きているとき、私のことをとても可 - 愛がとでそれを知って、心の底からぞっとしまし ってくれていたんです。 でも私は、それをなんとか無理に振り払うよ その日の服装はよく覚えています。コート うにして家を出ました。とにかく〈在は休めな い、一何かなくてはいけないんだ、という思いがと、スエードのプーツ。下はアーガイルのチェ 強かったんです。正直に言って、私はそのころックのセーター、グレーのスカートです。〈一 自分が今やっている仕事に少し疑問みたいなもでは、会議の時なんかを別にすれば、とくにフ の持っていまして、「〈在に行きたくない」とオーマルな格好をする必要はありませんでし いう ~ ちはなくはなかったと思います。でもた。 さっきもお話ししたように、小伝馬町の駅で その朝に私がしたのは、それとは別のもの でした。ほんとうに、嫌な感じだったんです。サリンを吸い込んだみたいで、手里里が小伝馬町 つを出たあたりから、だんだん気分が悪くなって しかしそのおかげで支度に ~ 簡取って、い 子 きました。それで手暈の手すりにもたれ掛かっ 慎もより一ム邃い手墨に乗ることになってしまい 平ました。でもそれは仕輿的に不幸中の幸いでして、立ったまま目を閉じていたんです。とにか くむかむかするんです。吐き気というんじゃな た。もしいつもの時間の里里に間に合っていた ら、サリンの載っていた里里に乗り合わせてしくて、胃の上の方がむかむかする。