ンドの法人税は一二・五 % しかないから、それだけでも十分節税にはなるが、ここからが手練 のタックス・プランナーの腕の見せどころとなる。 ③販社で計上した収益を、統括会社ヘライセンス料という形で移転する。ただし、単 に社から < 社に収益を移転するのでは、アイルランド税法にもとづく租税を負担しなければ ならない。そこで、これを避けるために、社と社の間にオランダの導管会社 O を差し挟む。 o 社には外国からの資金の出人りに源泉課税がかからない。オランダ政府は自国で設立される 会社がこういう用途に使われることを期待して、特別の税制を設けているからである。 ④社は、計上した収益をライセンス料という形で O 社に支払う。 O 社はそのライセンス 料を丸ごと社に支払う。それで「導管法人」などと呼ばれる。 ⑤ここで、アイルランドの統括会社 < の課税関係はどうなっているであろうか。アイルラ ンドの法人税制は管理支配地主義である。そこで、アイルランドの < 社はバミューダの管理会 社に管理支配されていることにする。これによって、 < 社はアイルランド政府に課税される ことがなくなる。他方、バミューダの法人課税はゼロである。このようにして、社で計上し た収益は、社を経由することによって、ほとんど無税で < 社に移転される。 ⑥では、社は米国政府から課税されないのであろうか。米国の法人課税は設立準拠法主 144
義なので、アイルランド法人である社に対して米国法人税が課されることはない。そこで、 最後に残る技術的間題は、カリフォルニアにある本家本元の米国本社に対するタックス・ヘイ プン対策税制の適用をどう回避するかである。この問題に対しては、米国の「チェック・ザ・ ポックス・ルール」という特別ルールを用いて、「アイルランドの統括会社は、内国歳人法 という取扱いを選択する。これによって、米国本社はタック 典の見地からは法人ではない ス・ヘイプン対策税制の適用を免れることができる。 以上のように、自社の無形資産を海外に切り出し、アイルランド、オランダ、バミューダと いうタックス・ヘイプンを利用することで、アップルはどこの国にも納税せずに済むようにな っている。実際にはそこかしこで源泉課税など少しずつ何らかの租税負担があるので、完全に はゼロにならないが、実効税率は米本国で納税する場合と比べて半分以下である。 て え こうした状況を受けて二〇一四年九月、欧州委員会は、アイルランド政府がアップルに対し 越 境て適用した優遇措置は、公正な競争を定めるの規約に違反するとの見解を示した。国際的 国 租税回避をめぐる攻防は水面下で着実に進行している。 章 ところで、アップルもそうだが、さきほどのスターバックスなど、多国籍企業はなぜオラン 第 ダに会社を置くのであろうか欧に ( イにいくつも候補地があるにもかかわらず、なにゆえ 145
とクックが憤激して答弁する映像が世界中に流された。 アップルが用いていたとされる租税回避手法は、「ダブル・アイリッシュ・ウイズ・ア・ダ ッチ・サンドウィッチ」というものである。アイルランドに二つの会社 ( ダブル・アイリッシュ ) を作って、その間にオランダの導管会社 ( ダッチ・サンドウィッチ ) を挟ませることから、このよ うな呼び名がある。伝え聞くところによると、アップルはこうした租税回避手法を一九八〇年 代の後半には開発し運用していたという。 ポイントは、世界各国のマーケットから上がってくる収益にかかる租税負担をどう減らすか である。そのカラクリを図 5 ー 2 に掲げる。これもなかなか手が込んでいるので、順を追って 説明していこう。 ①まず、アイルランドに二つの会社 ( 統括会社、販社 ) を、オランダに導管会社 0 をそ れぞれ設立しておく。その際、小会社 < には「無形資産の譲渡ーという形で、本来は米国本社 に属する知的財産権、プランド、ノウハウ、ライセンス使用権などを付け替えておく。そのう えで、社と社にライセンス契約を結ばせ、社からライセンス料を徴収するようにしてお く。これが前段階である。 ②各国のマーケットから上がってくる収益をアイルランドの販社に集中する。アイルラ 142
米国本社 第 管理会社 D 無形資産譲渡 第 、ミューダ ( 無税 ) 統括会社 A ライセンス供与 導管会社 ライセンス料支払い アイルランド ( 法人税 12.5 % ) オランダ ( 無税 ) 販社 B 収益集中 グローバル・マーケット 図 5 ー 2 ダブル・アイリッシュ・ウィズ・ア・ダッチ・ サンドウィッチ アップルが用いていた国際的租税回避手法 . アイルランドに 2 つの会社 ( ダブル・アイリッシュ ) を作って , その間にオランダ の会社を挟ませる ( ダッチ・サンドウィッチ ) ことから , この呼 び名がある . 143
法人税をめぐる議論 法人税については、その税率を引き下げるかどうかが大間題となっている。法人税の引き下 げは世界的な趨勢になっているが、これは二〇〇三年、経済停滞に苦しむアイルランドが企業 誘致のために法人税率を一二・五 % に引き下げたことに始まる。今では隣の英国も二〇 % に引 き下げなければならないところに追い込まれてしまった。 法人所得税は、経済理論から見る場合には難しい問題を含む。経済学的には「効用」という ものを考えることができるのは個人だけである。同様に、「税の負担、というものを考えるこ とができるのも個人だけである。そうすると、法人については税の負担は考えることができな いので、法人所得税という税目は個人所得税の前取りであるという説明になる。しかし、最終 的にどの個人が法人所得税を負担していることになるのかという問題も、一概には判断がっか このような問題を理論的に取り扱う場合、「法人一一重課税論」などと呼ぶのが通例であ る。 この理論そのものについても議論が多様に分かれるので、各国の法人税制もてんでんバラバ ラである。法人二重課税を徹底的に排除しようとすると、改正前のドイツが採用していたイン ピュテーション方式という方式がある。これはすべての法人の所得を各株主個人の所得に上乗
多国籍企業の租税回避 キプロス危機 前著『タックス・ヘイプン』が出版された二〇一三年三月の同じ週、キプロスが金融危機に 陥ったとのニュースが世界を駆けめぐった。キプロスは小国なりといえども、加盟二八カ 国、ユーロ圏一七カ国のひとつである。折しも、—— ( ポルトガル、イタリア、アイルラン ド、ギリシャ、スペイン ) の財政経済事情の悪化のためには危機のさなかにあり、たちまち 騒然となった。キプロスとギリシャは歴史的につながりが深く、金融機関はギリシャ国債を大 量に保有しており、ギリシャ国債の暴落とともにキプロスは一気に金融危機に陥ったのである。 救済の過程で、世界を唖然とさせるデータが明らかになった。キプロスの金融機関の資産が、 同国のの八倍もあるというのである。米国ではほぼ等倍、日本では四倍であるから、キ プロスがいかに小国とはいえ、明らかに異常な数値であった。また、そのうちロシアに関係す るものが三分の一を占めることも明らかにされた。 136
ュ・ヴァージン・アイランド ( — ) を中心とするタックス・ヘイプンのデータである。 が保有しているデータは順次ネット上で公開されており、ウエプサイトにアクセス すれば国別のデータが簡単に閲覧できる ( h をミ/oデhoreleaks.一cij.org ) 。日本とて例外ではなく、 検索ウインドウで「」を選択すれば直ちに見ることができる。 画面は縦に三つの欄に分かれている。左欄はタックス・ヘイプンにある口座の管理者と仲介 者であり、中央欄はオフショア事業体のリストであり、右欄は利用者の個人データである。個 人データについては住所が公開されているが、個人名は表面上は明らかではない ートナーシ 各欄の個別名をクリックすると、関係者の個人的つながりと、関係する事業体 ( パ ップや信託、法人など ) その他のデータがチャートになって出てくる。東京電力や東北電力がラ プアン島やオランダの導管法人を利用して投資をしていたり、資金を蓄えたりしている実情も、 彼らの追及によって明るみに出された。 — 0 —の構成メンバーである英国のガーディアン紙は、主要諸国の要人やセレプが— に口座を保有していることを明らかにし、またフィナンシャル・タイムズ紙も連載特集を組ん だ。ガーディアン紙の記事には英国外務省も関与している旨のパラグラフがあるが、これは英 国情報部の関与を暗示するものである。 152