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検索対象: タックス・イーター : 消えていく税金
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1. タックス・イーター : 消えていく税金

が関の制度疲労の状況を考えれば、官僚に頼らずにやろうとしたことには無理もない面はある。 だが、それにしても官僚機構の使い方が拙劣であり、官僚抜きで事を運ぼうとして失敗したケ ースがあまりにも多かった。 日本でも戦前の民政党と政友会との二大政党時代には、英国スタイルの政権交代があった。 このとき霞が関の中では、二大政党のそれぞれに付いて省内を二分する派閥抗争があり、熾烈 をきわめたという。そのため戦後の霞が関では、官僚機構内部での派閥抗争を回避するべく 様々な仕組みが工夫されていた。同期の結束を最優先する新人教育などが典型である。しかし、 自民党一党支配時代にはそれも機能していたが、現実に政権交代が起こってみると霞が関にと ってはすべてが未知の体験であった。民主党が非常に強い官僚不信を示したのと同様、霞が関 の側も民主党の政権担当能力に深い疑念をいだいた。政と官との間合いの難しさである。 この点、同じ議院内閣制を採用し、キャリア・システムとしての官僚制を具備する英国とは、 似て非なるものがある。事柄の本質は国民の政治的叡智にかかわるのであろう。もっとも、そ の英国とて一〇〇年以上前に遡れば政治的腐敗が悪評ふんぶんの時代もあったのであり、「ロ ーマは一日にしてならずーという格言はやはり真実なのである。 税制は政治そのものである、という。しかし、そうであるがゆえに、政治に携わる者には一

2. タックス・イーター : 消えていく税金

活動に血道を上げる必要がなくなり、将来の閣僚候補として研鑽を積むことができるのである。 このようなことであるから、政治家は官僚機構をうまく使いこなせるようになる。官僚の方で も心得ていて、与党と野党が入れ替わることがあっても、そのときどきの政府の政策方針に素 直に従う。政権交代がスムーズに進むのはこのためである。 こうした仕組みであるため、日本のように党が政府の政策に容喙し、政府を差し置いて独自 に何かを決めることはありえない。典型的には予算編成の最終方針の決定の場面が挙げられる。 最終局面では、ロンドン近郊のマナー ハウスに閣僚級六人ほどが立て籠もって最終案を練る。 その際、党の人間はおろか、英国大蔵省の幹部といえども呼ばれることはない。 当然ながら、こうした制度を導人したからといって悪弊が一掃されるわけではない。英国の 政治も一〇〇年以上前には「腐敗政治」と言われた暗黒の時代があった。それを脱して今日が あるのは、有権者の政治的叡智のゆえである。したがって、我々自身の叡智を磨かないかぎり、 鉄のトライアングルはいつまでも存在しつづけるのである。 時代の変わり目に ただし、見逃してはならない変化も一方では進んでいる。トライアングルの一角を占める財 100

3. タックス・イーター : 消えていく税金

記稽 ~ を記 長谷川公一 震災日録 森まゆみ脱原子力社会へ 録する 社会 原発をつくらせない人びと山秋真希望は絶望のど真ん中にむのたけじ e むのたけじ ひとり親家庭 赤石千衣子社会人の生き方暉峻淑子戦争絶滅 ~ 、人間復活 ~ 黒岩比佐子聞き手 女のからだ 荻野美穂豊かさの条件 暉峻淑子福島原発と人びと広河隆一 ズム以後 暉峻淑子アスベスト広がる被害大島秀利 〈老いがい〉の時代天野正子豊かさとは何か 科学技術社会松本三和夫原発を終わらせる石橋克彦編 子どもの貧困Ⅱ阿部彩構造災 くに潜む危機 大震災のなかで 子どもの貧困 内橋克人編 芹沢俊介 阿部彩家族という意志 私たちは何をす。へきか 性と法律 角田由紀子 ~ ポ良心と義務田中伸尚日本の食糧が危ない中村靖彦 ~ イト・スピーチとは何か師岡康子靖国の戦後史 田中伸尚ウォーター ・ビジネス中村靖彦 書生活保護から考える稲葉剛日 0 丸・君が代 0 戦後史田中伸尚勲章知られざる素顔栗原俊雄 宮内泰介 波 かつお節と日本人 藤林泰飯舘村は負けない松野光仲生き方の不平等白波瀬佐和子 岩 風間孝 家事労働 ( ラスメント竹信三恵子夢よりも深い覚醒 ~ 大澤真幸同性愛と異性愛 河口和也 本間義人 ~ ポ雇用劣化不況竹信三恵子不可能性の時代大澤真幸居住の貧困 福島原 山田登世子 発事故県民健康管理調査の闇日野行介 3 ・複合被災外岡秀俊贅沢の条件 電気料金はなぜ上がるのか朝日新聞経済部子どもの声を社会 ~ 桜井智恵子プランドの条件山田登世子 森岡孝二新しい労働社会濱ロ桂一郎 おとなが育っ条件柏木惠子就職とは何か 上野千鶴子 在日外国人〔第三版〕田中宏働きすぎの時代森岡孝二 世代間連帯 辻元清美「 原研哉 まち再生の術語集延藤安弘日本のデザイン 中西正司 当事者主権 上野千鶴子 ポジティヴ・アクション辻村みよ子

4. タックス・イーター : 消えていく税金

ハイ・ポリティクスにおける軍事面はアメリカに委ね、国内の人的・物的資源をすべて経済 ・ポリティクスに重点を置く。わかりやすく言い換えれば、敗戦による軍 復興に集中し、ロー 部の消滅を逆手に取り、ヒト・モノ・カネのすべてを経済復興にまわすことで、国力の早急な 回復と向上に努める戦略である。いわゆる「傾斜生産方式ーはその初期の象徴であった。吉田 の決断したこの戦略が、のちに「日本の奇跡」と呼ばれた高度成長の礎を築く。 吉田ドクトリンは自民党一党支配の時代を貫く明確な国家戦略であり、日本はその戦略にも とづいて世界第二位の経済大国にのぼりつめた。ところが、その成功体験が呪縛となる。高度 源 起成長が永遠につづくものと思い込み、税収はいつまでも増えつづけるという固定観念が形成さ 一れたのである。高度成長の時代から日本の経済と財政は、多額の税収に群がるタックス・イー ターというシロアリに屋台骨を蝕まれていった。驚くべきことであるが、このタックス・イー イ ターたちは、高度成長などとうの昔に終わり、税が自然に増えるどころか税収不足・歳人不足 ス ク の時代に突入してもなお、税を食いつぶしつづけているのである。 タ 章 高度成長の時代 第 一九四九年、カール・シャウブを団長とするシャウブ使節団が来日した。使節団の目的は、

5. タックス・イーター : 消えていく税金

岩波新書新赤版一〇〇〇点に際して その先にいかなる時代を展望するのか、私たちはその輪郭すら描きえてい ひとつの時代が終わったと言われて久しい 二〇世紀から持ち越した課題の多くは、未だ解決の緒を見つけることのできないままであり、二一世紀が新たに招きよせ ーバル資本主義の浸透、憎悪の連鎖、暴力の応酬ーー世界は混沌として深い不安の只中にある。 た問題も少なくない。グロ 現代社会においては変化が常態となり、速さと新しさに絶対的な価値が与えられた。消費社会の深化と情報技術の革命は、 種々の境界を無くし、人々の生活やコミュニケーションの様式を根底から変容させてきた。ライフスタイルは多様化し、一面で は個人の生き方をそれぞれが選びとる時代が始まっている。同時に、新たな格差が生まれ、様々な次元での亀裂や分断が深まっ ている。社会や歴史に対する意識が揺らぎ、普遍的な理念に対する根本的な懐疑や、現実を変えることへの無力感がひそかに根 を張りつつある。そして生きることに誰もが困難を覚える時代が到来している。 しかし、日常生活のそれぞれの場で、自由と民主主義を獲得し実践することを通じて、私たち自身がそうした閉塞を乗り超え、 いま求められていることーーそれは、個と個の間で 希望の時代の幕開けを告げてゆくことは不可能ではあるまい。そのために、 開かれた対話を積み重ねながら、人間らしく生きることの条件について一人びとりが粘り強く思考することではないか。その営 みの糧となるものが、教養に外ならないと私たちは考える。歴史とは何か、よく生きるとはいかなることか、世界そして人間は どこへ向かうべきなのか こうした根源的な問いとの格闘が、文化と知の厚みを作り出し、個人と社会を支える基盤としての 教養となった。まさにそのような教養への道案内こそ、岩波新書が創刊以来、追求してきたことである。 岩波新書は、日中戦争下の一九三八年一一月に赤版として創刊された。創刊の辞は、道義の精神に則らない日本の行動を憂慮 し、批判的精神と良心的行動の欠如を戒めつつ、現代人の現代的教養を刊行の目的とする、と謳っている。以後、青版、黄版、 新赤版と装いを改めながら、合計二五〇〇点余りを世に問うてきた。そして、いままた新赤版が一〇〇〇点を迎えたのを機に、 人間の理性と良心への信頼を再確認し、それに裏打ちされた文化を培っていく決意を込めて、新しい装丁のもとに再出発したい と思う。一冊一冊から吹き出す新風が一人でも多くの読者の許に届くこと、そして希望ある時代への想像力を豊かにかき立てる ことを切に願、つ。 ( 二〇〇六年四月 )

6. タックス・イーター : 消えていく税金

それから三〇年ほどが経った。その間には大蔵省の解体、省庁再編、小泉改革、自民党の迷 走衰退と政権交代などがあった。現在は状況も変わり、その内訳も変わったことであろう。し しまだ聞かない。民主党政権が崩壊し、自民党が政 かし、族議員が消えていなくなったとは、 ) 権に返り咲いたことで、かっての族議員がふたたび息を吹き返しつつあるともいわれる。たと えば、全中 ( 全国農業協同組合中央会 ) の指導権のはく奪は安倍総理の強い指示であったが、 農水族にはそれをひっくり返せるだけのパワーがいまだある。利権をめぐって繰り広げられる ここでは筆者の官僚時代の見聞にもとづいて族議員の生態、とく 者構図になんら変わりはない に「五族」に焦点を当てて、その一端を見てみよう。 タ 農林族 ( 農水族 ) イ いまではその凋落ぶりに往時のパワ 1 はさすがに見られないが、かって族議員といえば「農 ス ク 林族ー ( 農水族 ) は間違いなくその筆頭であった。政治力にまかせて確保した既得権益としての タ 農林予算は、まるで分厚い根雪のようであった。いくら削っても底が見えないカネの山を背景 章 に、その権勢には絶大なるものがあった。 第 昭和四〇年代には、農林政務次官のポストは莫大な利権が付いてくるポストだった。内閣改

7. タックス・イーター : 消えていく税金

るものであって、特定の所管分野をもち、予算がなければ事業を遂行していくことができない 官庁である。農水省、建設省、運輸省、厚生省はその典型であった。 このような政官業の鉄のトライアングルの仕組みは、田中角栄内閣の発足までには、ほぼ出 来上がっていたと考えられる。金権政治の権化のように言われる田中角栄だが、田中内閣の時 ひとみ 代は画竜に睛を入れたに過ぎない 税の自然増収はもはや期待できない大きな時代の変革期のただ中で、カネを必要とする事業 官庁の鉄のトライアングルが強力に機能しはじめた。これは別の見方をすれば、各省の官僚が 源 起族議員に振り回されるようになったということでもある。 『官僚たちの夏』の最終章は「冬また冬」という表題である。小説は実在の通産官僚をモデ タ 一ルとしているようだが、通産官僚のみならず霞が関の官僚全体にとって、高度成長の終焉とと もに「坂の上の雲」の時代は終わりを告げ、「冬また冬」の時代が到来していた。鉄のトライ ス ク . アングルが強固になるのと裏腹に、官僚は志を失い、組織の腐蝕が進むなかで、タックス・イ タ ーターの温床が着実に肥大していったのである。 章 第

8. タックス・イーター : 消えていく税金

一九五五年頃から高度成長の時代を迎えた。この時代は一九六四年の東京オリンピックを境に、 それ以前とそれ以後の二つの時期に分かれ、それぞれ特色の差を見ることができる。 前半期の政策の中でも出色のものは、一九六〇年に閣議決定された池田勇人内閣による所得 倍増計画であろう。向こう一〇年で国民所得を倍増させるというこの計画は、わずか七年で達 成された。東京オリンピックまでの日本経済は「投資が投資を呼ぶー成長パターンを示したの が特徴である。 画期は一九六五年に訪れる。オリンピック直後の昭和四〇年不況に際して、それまでは禁じ 源 起手とされていた国債が発行されるようになった。後半期の成長パターンは、輸出による経済成 一長か、財政による景気浮揚か、そのいずれかに依存するという形が顕著である。輸出による経 済成長は、恒常的に貿易摩擦の原因となる。一方、財政の発動による景気浮揚策は、財政状況 イ の極端な悪化への伏線となる。この頃から民間内需の主導による経済成長が見られなくなり、 ス ク 高度成長にやや陰りが見えてくるようになった。 タ 章 税の自然増収 第 高度成長の時代を考えるうえで重要な鍵となるのは、税の自然増収である。後述するように、

9. タックス・イーター : 消えていく税金

れだけ上乗せさせるかという考え方になる。これを「増分主義」という。高度成長による税収 の伸びを背景に、財政需要をどんどん膨らませた時代の名残である。主計局が査定をするのは、 そうした新規要求の増分に対してである。その意味で「ゼロからの積み上げ」はあくまで建前 といえる。増分主義に凝り固まった各省庁の既得権を引きはがして、本当のゼロから予算を編 成する意思も力もない。そもそも、そういう発想すらない このような時代錯誤で矛盾した考え方の下で予算編成はおこなわれ、全体構造を考えること もなければ、将来の国民の負担を見据えることもなく、タックス・イーターに予算をばらまく 編成方式がずっと維持されてきたのである。 策 補正予算 所補正予算の編成は、例外なく毎年おこなわれる年中行事である。災害などがあると第三次や 題第四次補正予算まで組まれることがある。そうして補正予算を編成するたびに、財政規律の箍 が外れてい 章 ーリングがあるから、要求側の官庁も賢く ( 小狡く ) 対応するようにな 7 当初予算では厳しいシ 第 っている。どうしても必要な経費については当初予算ではあえて要求しないか、頭出しの小さ

10. タックス・イーター : 消えていく税金

の規制金利に馴染んできた戦前生まれの課長クラス以上は激しい衝撃を受けていた。日本の財 政運営は明らかに大きな曲がり角を曲がっていたのである。 赤字国債のもうひとつの意味 国債の発行は何がなんでも悪いわけではない。国債発行の役割の一つに、長期金融市場の振 興がある。国債大量発行時代を迎える前の長期債市場としては、電力会社の社債である電力債 がほとんど唯一であった。規制金利などもあって市場規模は小さかったが、大量発行時代に人 ると、金融自由化とあいまって長期債市場は活匪化するようになった。 ただし、現下のように長期債務残高がの二倍を超える状態となってしまっては、話は 別である。ポール・クルーグマンのように他人の国だからどうでも ) しいと思って「国債をもっ と発行しろ」というような無責任な発言は論外である。 本書のはじめにでも述べたが、財政当局は、そのときどきで一定の指標を選んで財政健全化 目標とする。すぐに達成できるものでは財政規律を維持する役割を期待できないし、達成が不 可能と思われる目標では意味がない。そこで、現在の財政当局はプライマリー ハランスに焦 点を当てているのである。二〇二〇年度までにプライマリー・ 、ハランスの均衡を達成すること