はその後も追及の手をゆるめず、二〇一四年一月には、中国関係のデータを調べて、 国家主席、首相を含む政府や党の要人の親族が、シンガポール経由でクック諸島やサモア、 などのタックス・ヘイプンに資産を保有していることを明らかにした。 一方、英国政府は、米国 z のエドワード・スノウデンによる暴露記事を掲載しつづけ るガーディアン紙に圧力をかけているが、ガーディアンはタイムズ紙とデータを共有する ことによって情報の封殺を防ぐとともに、英国憲法には表現の自由を保護する規定はないのか と言って抵抗をつづけている。 3 税源浸食と利益移転 て え LLJ Q- Ø 越 境租税委員会の下部機構に ()O 「 umofTaxAdministration) がある。各国の課税庁長 国 官会議である。二〇一三年五月のモスクワにおけるその会合で、英米豪の三カ国が、 章 のものと同等と推測されるデータを人手していることを明らかにした。日本の国税庁は、当該 第 データを豪当局から人手したと公式に発表した。同年末から日本では「国外財産調書制度」が 153
BEPS によるアクション・プラン 表 5 ー 2 行動 期限 1 電子商取引課税 電子商取引により , 他国から遠隔で販売 , サービ 2014 年 9 月 ス提供等の経済活動ができることに対して , 電子 商取引に対する直接税・間接税のあり方を検討す る報告書を作成 . 2 ハイブリッド・ミスマッチ取引の効果否認 ハイプリッド・ミスマッチ取引とは , 2 国間での 2014 年 9 月 取扱い ( たとえば , 法人か組合か ) が異なることを 利用して両国の課税を免れる取引 . ハイプリッ ド・ミスマッチ取引の効果を否認するモデル租税 条約および国内法の規定を策定する . 3 外国子会社合算税制の強化 2015 年 9 月 外国子会社合算税制 ( 一定以下の課税しか受けて いない外国子会社への利益移転を防ぐため , 外国 子会社の利益を親会社の利益に合算 ) に関して , 各国が最低限導入すべき国内法の基準について勧 告を策定する . 4 利子等の損金算入を通じた税源浸食の制限 2015 年 9 月 支払利子等の損金算人を制限する措置の設計に関 して , 各国が最低限導入すべき国内法の基準につ いて勧告を策定する . また , 親会社間等の金融取 2015 年 12 月 引に関する移転価格ガイドラインを策定する . 5 有害税制への対抗 OECD の定義する「有害税制」について 2014 年 9 月 ①現在の枠組みを十分に活かして ( 透明性や実質 的活動等に焦点 ) , 加盟国の優遇税制を審査する . 2015 年 9 月 ②現在の枠組みにもとづき OECD 非加盟国を関 与させる . ③現在の枠組みの改訂・追加を検討 . 2015 年 12 月 6 租税条約濫用の防止 2014 年 9 月 条約締結国でない第三国の個人・法人等が不当に 租税条約の特典を享受する濫用を防止するための モデル条約規定および国内法に関する勧告を策定 する . 7 恒久的施設認定の人為的回避の防止 人為的に恒久的施設の認定を免れることを防止す 2015 年 9 月 るために , 租税条約の恒久的施設 ( PE : Perma - nent Establishment) の定義を変更する . 157
院が頼りになるウォッチ・ドッグになる道は開かれている。両院の決算委員会を補助する仕組 みとして、また司法によるチェックへの人口として、会計検査院を機能させるのである。 国会では衆参両院に決算委員会が設置されているが、どちらも動かす手足がなく、調査をし ようにも何もできない。そのような決算委員会の手足としては、憲法上の機関である会計検査 院が適当である。現行の検査院法によって法律上はすでにそうなっており、それを実行しなく てはならない O C と O < 0 もし会計検査院にそれだけの仕事をこなす力量と意欲がないならば、諸外国の例を見るよう に、何らかの第三者的機関を設置して見張らせる必要があるであろう。参考に、英国と米国の 例を紹介する。 英国には予算責任局 ( OfficeforBudgetResponsibility) という機関が設置されている。英 国保守党政権のオズボーン大蔵大臣は、二〇一〇年にを設置した。の職責は、英 大蔵省から独立して経済財政の将来推計をおこなうことである。財政運営の評価も権限のうち に含まれる。労働党政権下の大蔵省による推計に操作があったのではないかという疑念から生 184
ともに、日本の政治全体にかかわる重大間題でありつづけている。その根底には、日本の多く の政治家にとっての主要な関心事が、政策の立案や実施ではなく、支持者への利益誘導であり、 地位保全のための選挙であることが挙げられる。政治にカネがかかりすぎ、カネをかけすぎな のである。 そもそも日本に小選挙区制が導入されたのは、英国において政治とカネが断ち切られている 状況にならい、従来の金権政治の悪弊を正すためであった。筆者が英国に勤務していた頃、か 者の地の政治状況をつぶさに観察する機会を得た。英国は日本と同じく議院内閣制であり、官僚 機構はキャリア・システムである。したがって、英国と日本とは類似性が高い。ただし、英国 が日本と違うのは、党と政府とが二分されていないことである。与党議員のうち政策能力が高 タ 、党内での発言力も強い人材はすべて政府に引き上げられる。党内に残った議員は員数あわ イ せのバック・べンチャーでしかない ( 英国の本会議場では議員の座るべンチは階段状になっており、 ス ク 陣笠議員は後方のべンチに座らされる習いである ) 。 タ 英国の下院はすべて小選挙区制で六〇〇あまりの選挙区がある。そのうちの特定の選挙区は、 章 二大政党のどちらか一方が勝利することが絶対的に保障されている。若手議員でとくに能力の 第 高さを認められた者はそういう選挙区を与えられ、早くから特別扱いを受ける。そうして選挙
法人税をめぐる議論 法人税については、その税率を引き下げるかどうかが大間題となっている。法人税の引き下 げは世界的な趨勢になっているが、これは二〇〇三年、経済停滞に苦しむアイルランドが企業 誘致のために法人税率を一二・五 % に引き下げたことに始まる。今では隣の英国も二〇 % に引 き下げなければならないところに追い込まれてしまった。 法人所得税は、経済理論から見る場合には難しい問題を含む。経済学的には「効用」という ものを考えることができるのは個人だけである。同様に、「税の負担、というものを考えるこ とができるのも個人だけである。そうすると、法人については税の負担は考えることができな いので、法人所得税という税目は個人所得税の前取りであるという説明になる。しかし、最終 的にどの個人が法人所得税を負担していることになるのかという問題も、一概には判断がっか このような問題を理論的に取り扱う場合、「法人一一重課税論」などと呼ぶのが通例であ る。 この理論そのものについても議論が多様に分かれるので、各国の法人税制もてんでんバラバ ラである。法人二重課税を徹底的に排除しようとすると、改正前のドイツが採用していたイン ピュテーション方式という方式がある。これはすべての法人の所得を各株主個人の所得に上乗
かなり長い期間にわたってのことであるが、とくに二〇一一年からの三年間で一二億ポンド ( 約二千億円 ) の売上げがありながら、法人税をまったく納付していなかったことが指摘されて いる。これに英国市民の怒りが爆発し、ポイコット運動にまで発展した。 スターバックスが用いていたのは「スイス・トレーディング・カンパニー」と呼ばれる租税 回避手法である。少々ややこしいが、図 5 ー 1 をもとに説明しよう。 まず米国本社は、コーヒー製法に関する知的財産権やプランド使用権をオランダに設立した 欧州統括会社へ「無形資産の譲渡ーという形で移転しておく そうしておいて、 ()n 社と英国の販社 ( 米国本社の孫会社 ) との間にライセンス契約を結ばせ、 社から高率のライセンス料を徴収する。また、社には事業資金を米国本社からインターカ ・ローンで借人調達させることにする。つまり、社が英国で上げた収益は、 co 社へ 支払うライセンス料と米国本社への利息払いでほとんど消えるようにするのである。 こうして、社は英国での法人利益を大幅に圧縮して課税所得をほとんどゼロにできる。こ れがこのスキームのひとつの重要要素である。 もうひとつの重要要素が「スイス・トレーディング・カンパニー」である。コーヒー豆原産 国からオランダの焙煎会社 ( 統括会社の系列 ) に豆を輸人する際に、スイスに設立したトレ 138
②第二は、先に述べた ( 税源浸食および利益移転 ) である。プロジェクトはす でに跚 \O O のプロジェクトに格上げされている。ただし、これも述べたように、 の一五のアクション・プランは、全体として従前の制度的諸問題の棚卸しに過ぎない タックス・ヘイプンに隠匿されている資金や、国際金融システムの諸問題に無関心であること が憂慮される。 ( 金融安定理事会 ) との両輪で取り組まねばならない ③第三は、金融取引税 ( ) である。一九七八年、米国の経済学者ジェームズ・トービン は、国際金融取引に小規模の課税をおこなってクロス・ポーダーの投機的為替取引にプレーキ をかける構想を明らかにした。この「トービン税」の構想はその後、永い眠りから覚めて、 ま一一カ国において「強化された手続き」によって導入されようとしている。フランスと イタリアはすでに単独でこれを導入している。 ④第四は、米国の ( 外国口座税務コンプライアンス法 ) をベースとする多国間の自動 的情報交換の枠組みづくりである。ですでに「税務当局間の共通報告基準ズ Common ReportingStandard) が出されている。現状では制約が多すぎるが、タックス・ヘイプンをあぶり 出すひとつの方法として初めの一歩となるであろう。 ⑤第五は、で進行しているプロジェクトである。 ハンキン ーゼルⅢ、シャドー 196
3 日本発金融危機 護送船団方式の終焉 長らく続いた日米金融摩擦によって、日本の金融自由化は一九九三年には終了していた。し かしその時点で、日本の金融機関はバブル崩壊にともなって恐るべき不良債権問題に直面して いた。おそらく当時のほとんどの金融機関は債務超過に陥っていたが、それが十分には認識さ れていなかった。 一九九六年にはバブル後の不良債権間題に苦しむ日本の金融機関にさらに追い打ちをかける かのように、あるいは死中に活を求めるかのように、日本版金融ビッグバンが実施された。日 本版金融ビッグバンは、橋本行革の一環として提出された六分野の規制緩和の大方針に沿って おこなわれた。 「ビッグバン」の名前の大本は英国である。サッチャー政権の前までの英国経済は不況にあ えぎ、英国病とまでいわれた。サッチャー首相は「サッチャリズム」と呼ばれたサプライ・サ イド・エコノミクスで労働組合の力を弱め、ビッグバンという大胆な金融自由化政策でシティ 120
題であった。日本の工業製品の競争力がきわめて高く、各国との間で経済摩擦を引き起こして いたからである。とくに、米国との貿易摩擦は凄まじいものがあった。場面によっては国家の 命運を賭けての争いのような様相を呈した。その恐ろしさは体験した者でなければわからない 米国は「ここで日本の経済的躍進を食い止めなければ明日はない」という決死の覚悟であった。 それでも最後はソ連との冷戦を考慮し、アマコスト駐日大使のような知日派に限らず、「重要 のな軍事同盟相手である日本をこれ以上追いつめるな」というハイ・ポリティクスの観点からの も る歯止めがかかっていた。 群 ジャパン・ナッシングとなってしまった現状からみれば昔日の観があるが、米国に本気で敵 一視される恐ろしさに比べれば、政府としては「ナッシング」である方が居心地はよいというこ となのかもしれない 。しかし、現在は史上例を見ない中国の覇権拡張の問題があり、日本が難 イ しい局面をむかえていることは周知のとおりである。 ス ク それはともかく、日本が輸出をテコに経済成長を遂げていく過程で、農産品と工業製品の貿 タ 易自由化のあり方が先鋭な対立事項として浮上するようになった。工業製品の輸出によって輸 章 出立国を目指す通産省 ( 現・経産省 ) は、輸出を推進するために自由貿易の旗を振った。これは 第 空前の成功を収めて、日本は対外輸出を牽引車として世界第二位の経済大国に成長した。しか
ーディング・カンパニー社を間に挟むのである。 ただし、このとき単に原産国から豆を輸人して社に販売するという形 ( バイ・セルという ) をとると税金負担が大きくなってしまう。そこで社は、取引を仲介してコミッション ( 手数 料 ) だけを受け取る、いわゆる「コミッショネア」というビジネス・モデルにする。コミッシ ョンによる利益はたかが知れているので、 E-* 社はバイ・セルの場合に比べて利益を少なくでき る。それと同時に、スイスのカントン ( 州 ) によっては、こういうトレーディング・カンパニー が外外取引だけをやっていれば五 % という優遇税制が適用される。ここがミソで、この租税回 避スキームが「スイス・トレーディング・カンパニー」と呼ばれる所以である。 以上のようなカラクリでスターバックスは、英国で商売をしてさんざん儲けておきながら、 英国政府に税金をほとんど納めてこなかったわけである。しかしながら、全世界的に見ると、 このスキームで大幅に納付税額を減らすことができているとは必ずしも言えないようである。 それに、 いかに税負担を低く抑えることができても、ポイコットをされて収益が上がらなくな ればそもそも節税どころではない。そこで、スターバックスは英国の課税当局と交渉 して自主的に二千万ポンドを納税することにした。ところが、これが火に油を注ぐ結果となっ た。「自分たち庶民は有無を言わさず税金を持っていかれるのに、スタバは勝手に納税額を決 140