うな仕組みをとると、この取引に関して日本企業は所得がないわけだから、課税されないです しかも、親会 む。子会社の方も、タックス・ヘイプンに税制がないことから租税負担がない。 社から子会社への出資は資本取引に当たるから、この場合、日本企業は課税されない。 結局、上図と下図は、実質的には同じ経済取引であるにもかかわらす、タックス・ヘイプン を利用すると日本企業は租税負担をゼロにできる。あるいは少なくとも、タックス・ヘイプン 子会社から配当を受け取るまでは、税金の支払いを遅らせることができる。このように税金の 支払いを遅らせる節税法を、とくに「課税繰延べズタックス・デファーラル ) と呼んでいる。 なお、日本では配当を受け取らないで、租税負担の少ない別の国・地域でのビジネス展開に 使うことも可能なわけで、その場合、日本国の課税権はなかば永久に失われる。 業 タックス・ヘイブン対策税制の発明 企 す このような租税回避の方法が発明されたのはアメリカである。第二次大戦後の国際貿易の発 1 刀 逃 展にともなって、アメリカではこのような租税回避が横行しはじめ、財政収入の観点から無視 3 しがたくなってきた。違法ではないとしても、実質的には節税の範囲を超える租税回避であっ 第 て、税負担の公平という見地からも明らかに問題がある。そこで、タックス・ヘイプン対策税 103
2 タックス・ヘイプン退治 タックス・ヘイプンは、世界中の額に汗して働く一般市民に大きな経済的被害を与えている。 したがって、罰や制裁を加えて取り締まらなくてはならない。これは議論の余地のない事柄で ある。 タックス・ヘイプンの取締りに当たっては、第 5 章で示したタックス・ヘイプンの三つの類 型ごとにそれぞれ処方箋が異なる。 椰子の茂るタックス・ヘイブンへの対策 タックス・ヘイプンの根本的な退治はきわめて難しい。既存のタックス・ヘイプンを潰して も、そこに空いた間隙を埋めて自国経済の発展を求める国や地域は跡を絶たないからである。 「浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじーなのである。しかし、そんなことを言って いては何も始まらない。泥棒を捕まえても後から後から泥棒は出てくる。だからといって、警 察が泥棒の取締りをしても仕方がない、 という結論にはならない 194
傘下にある旧植民地のタックス・ヘイプンを保護しようと、さまざまな手段に訴え、妨害行為 を加えてくる。しかも、そのような旧宗主国そのものが、先進国でありながらタックス・ヘイ プンであったりする。魑魅魍魎の跋扈するタックス・ヘイプンは、踏んではならない虎の尾で あったりする場合があるのである。 の体験的タックス・ヘイブン論 よ筆者はいくつかの国際機関ないし国際フォーラムにおいて、エンフォースメント ( 法執行機 て 関 ) のサイドから、タックス・ヘイプンの問題に取り組んだ経験をもつ。この直接体験を述べ らていけば、これまでに出版された書籍や論文とは違う、現場からの視角を読者に提供できるか を も知れないと考えている。 実 タックス・ヘイプンの問題に税制の面から取り組んできているのは、 ( 経済協力開発 の 機構 ) の租税委員会である。筆者は、旧大蔵省主税局の国際租税課長として、その委員会のメ 市ンバーとなり、また、タックス・ヘイプン対策税制の創設や改正にたずさわった。租 章税委員会の成果のうちで重要なのは「有害な税の競争」報告書である。この報告書は、一九九 いくつものプログレス・レポートが出されている。そ 八年に公表されて、その後も引き続き、
利子 20 日本企業 所得 20 法人税 8 A 国企業 タックス・ヘイブンを利用しない取引 日本企業 所得 0 法人税 0 A 国企業 貸付金 100 出資金 100 利子 20 タックス・ヘイフン子会社 所得 20 タックス・ヘイブンを利用した取引 図 3 ー 1 タックス・ヘイブン対策税制の仕組み 財務省ホームページの図をもとに一部改変して作成 . 単位万円 留 保 し お く よ わ業万付 でそ れ生 っ付万子 け業 。接が利 貸受 、子 0 イ吏 ッ社 の会 貸そ 企〇 ッ ク ス へ イ プ ン 子 社 そ し て の 〇 万 円 を タ 会 社 カゞ 又 け る の で あ る た タ ツ ク ス へ イ プ 子 け は な い し ン付取 け は を 直 け る 円 発 る 日 本 け に よ て が れ を 貸 し け る の 〇 ( 0 卩」 を つ て へ イ プ ン 社 の 出 資 の で く タ ク ス 円 の は貸国 な付企 を・ 自 で す る は の 〇 〇 万 102
とする会社も多い。そういう多国籍企業に対して、出資と貸付金のバランスが一対三を超えた 場合には貸付金利子の損金算入を認めないとするものが、過少資本税制である。この税制が十 分に機能しないので、二〇一二年度において過大支払利子税制が創設された。 過少資本税制はともかくとして、タックス・ヘイプン対策税制と移転価格税制の二つは重要 である。なぜなら、多国籍企業による合法的な租税回避という見過ごせない実態があり、かっ その適用による課税処分が巨額にのばる可能性があるからである。ここからは、この二つの制 度について解説する。 タックス・ヘイブンを利用する租税負担ゼロのからくり 図 3 ー 1 はタックス・ヘイプン対策税制とは何かを説明するための図である。 業 タックス・ヘイプンを利用しない取引が上図である。日本企業が < 国企業に一〇〇万円の貸 企 す カ付けをして、二〇万円の利子を得たとする。この場合、日本企業は所得が二〇万円あることに 逃 なって、仮に実効税率を四〇 % とすれば、八万円の法人税を国庫に納付することになる。 章 一方、タックス・ヘイプンを利用する取引が下図である。図の下側には、タックス・ヘイプ 第 ンに設立した日本企業の子会社がある。出資金は一〇〇万円であるとする。ここで、日本企業 101
日本のタックス・ヘイブン対策税制 日本にタックス・ヘイプン対策税制 ( 以降、税制と書く ) が導入されたのは、一九七八年 のことである。筆者はこのころ、大蔵省主税局調査課の外国調査係長として、アメリカの内国 歳入法典のサプパート条項についての研究と報告を行っていた。 当時の立法担当者の著した『タックス・ヘイプン対策税制の解説』という著書は、執筆者が エコノミストであり、必すしも内外の税制に精通しているとは言えなかったから、同著によっ て立法趣旨を憶測することは必ずしも適当ではない。歴史的資料としてはどうであろうかと思 われる部分もある。ここでは、実際に調査に当たった筆者の研究結果にもとづいて述べる。 日本の税制は、当初はプラックリスト方式をとっていた。プラックリスト方式とは、 タックス・ヘイプンと考えられる国・地域を直接にリストアップして、そこにある子会社に O 税制を適用するという方式である。 ただし、課税当局にとってプラックリスト方式は多大な負担を強いられる。タックス・ヘイ プン候補の各国・各地域の税制を逐一調査しなければならないし、また、リストに挙げた国・ 地域に対する外交的配慮も必要になるからである。 このため、一〇年もしないうちにプラックリスト方式は行き詰まりを見せはじめた。そこで、
ースもある。アイルランドは無限に続くかと思われた経済の低迷をなんとかしようと外資誘致 策に乗り出し、税率の切り下げを図ったが、国際的な非難を浴びている。アイルランドのよう な規模の国であれば他国に与えるダメージも大きく、すぐに注目を浴びる。しかし、小国であ リヒテンシュタインやモナコならまだしも、サン・ れば必ずしも注目を浴びるとは限らない マリノ、アンドラなどと言われても知る人は少ない。タークス & カイコスなど、カリプの島国 このような世界各地の小国や地域 にいたっては、財務省資料でも国名を正確に訳せていない。 かがタックス・ヘイプンとなっているのである。 レ」 ン プ ス ク タ 章 第 2 タックス・ヘイ、フン・リスト タックス・ヘイブンの判断基準 どのような国・地域がタックス・ヘイプンに当たるかを判断する基準はいくつかある。ここ では租税委員会が一九九八年に公表した、「有害な税の競争ー報告書の四つの基準を ます見てみよう。次のようなものである。 ①まったく税を課さないか、名目的な税を課すのみであること
客のみならず、英国人も「カジノ , に出入りできるからである。基本的にロンドンでは規制は 行われておらず、英国人も外国人も差別なくあらゆる形態の取引を行えるのである。 タックス・ヘイブンと金融センター 少し知識のある人に尋ねると、「タックス・ヘイプンーといえば、ケイマン諸島のように、 青い海、やさしいそよ風、椰子の木が茂るカリブ海の小島を連想するようである。しかし、租 税回避、マネー・ロンダリング、巨額投機マネーによる経済破壊という三つの要素から見れば、 先進国の金融センターを見逃すわナこよゝ し。 ( しかない。悪事は目の届かない、遠い海の向こうだけ で行われるわけではないのである。 シティのすぐ近くには、ジャージー、ガーンジー マン島という王室属領がひかえている。 ガーンジーとジャージーは、英仏海峡の島々である。海峡 ( チャンネル ) にあるから、チャンネ ル諸島と呼ばれる。マン島は、英国とアイルランドの間のアイリッシュ海に浮かぶ島である。 シティは、これらすぐ近くのタックス・ヘイプンを簡単に利用することができる。遥か大西洋 タ の彼方の島々に目を奪われて、本家ロンドンのオフショア金融活動を見逃してはならない。 ックス・ヘイプンの全容は、先進国の金融センターも含めた多重構造を全体として眺めること
によって初めて理解できるのである。 大陸のタックス・ヘイブン ちょっと英国の説明が長くなった。次に、スイスなど、大陸の先進国のタックス・ヘイプン について簡単に述べておく。 タックス・ヘイプンとしてのスイスの特徴は二つある。ひとつは、税負担の低さである。ス かイスは二 , ハのカントン ( 州 ) からなっていて、それぞれ自治権が強い。ウィリアム・テルの昔に も遡る伝統である。チュ ーリッヒの南隣のツークやシュヴィーツなどのいくつかのカントンで ンは税負担がかなり低い。このあと第 2 章で述べるハリボタ事件は、そこに着目した節税策のケ ィー ースであった。 へ もうひとつの特徴は、、 しわゆる「スイスの秘密口座」で知られる銀行秘密保護法である。ス ス ツイスの銀行業は、この法律を根拠に預金者の情報を一切開示してこなかった。こうした秘密性 タ によって諸外国の富裕層が多額の資産をスイスの銀行に隠したり、さまざまな黒い資金が集ま 章 って脱税やマネー・ロンダリングの温床となっていた。 第 しかしながら、そのスイスも近年はさまざまな圧力を受けている。ナチス・ドイツの犠牲と
ヘッジ・ファンドとタックス・ヘイブン 典型的なヘッジ・ファンドは基本的には私募によって資金集めをする。公募の場合には一般 の大衆投資家を保護するための法規制が厳しい。公募の典型例は投資信託であろう。 ヘッジ・ファンドは、タックス・ヘイプンないしオフショア金融センターで設立されている ことが多い。これは、タックス・ヘイプンの重要三要素である、税制、秘密保全、規制監督法 制などを考えての選択である。たとえば、ソロスのクオンタム・ファンドはキュラソーで設立 された。そのほか、デラウェア州法にもとづいて設立されるものもある。 ヘッジ・ファンドの定義が厳密でないため、集まるデータもまちまちである。の報告 書に少し古いデータもあるが、公には姿を現さないへッジ・ファンドもあれば、偽装されたへ ッジ・ファンドもあり、データがどれだけ実態を反映しているかには注意が必要である。した がって、であれ何であれ、入手できるデータは数字の桁数の感覚をつかむというぐらい の意味しかない。 加えて、さきに述べたように、ファンドや投資ファンドと呼ばれるものが行っていることも、 ヘッジ・ファン ヘッジ・ファンドの行っていることと本質的に異なるところはほとんどない ドは保護すべき一般大衆投資家を直接のビジネスの対象としていないから、規制が緩いことぐ 156