これもまた難しい課題である。 群小の金融センターへの対策 他方、椰子は茂っていなくとも、リヒテンシュタインやモナコのような群小のオフショア金 融センターも害悪をもたらしている点では同じである。オーストリア、ベルギ 1 、ルクセンプ ルク、スイスのような先進国の群小オフショア金融センターには、名前を明一小して国際社会を 挙げて批判するのが効果的であることは、すでに経験済みである。また、アメリカの ( 内国歳入庁 ) がに対してとった強硬策なども多大な効果があった。 中国のような国が新規参入してきた場合はどうであろうか。何かの不祥事を暴かれるような ことがあれば、中国政府といえども沈黙する。これは、マカオの北朝鮮の秘密口座のエピソー ドから読み取ることができる。常時監視下に置いて何らかの不当なことがあれば公表するのが 有効かも知れない ロンドン、ニューヨークへの対策 もっとも手強い相手は、ロンドン、ニューヨークの巨大オフショア金融センターである。 196
欲 ( グリード ) を押さえなければ暴走を真っ先に始めるのもこの金融セクターである。 シティの権益は、英国の国益に直結している。英国大蔵省のジェントルマンといえども、シ ティの権益を擁護するためには、なりふりかまわぬ、あからさまな言動もいとわない。国際政 治の世界では、国益、権益を守るためならばどんなことでもする。一九九八年からの金融危機 しいよ、つに・食 の際、日本の金融機関は、外国のプレデター ( 肉食獣 ) のようなメガ金融機関に、 い物にされた。 日本も対抗してプレデターになれと言いたいわけではない。そもそも日本人の国民性からす 機 危ればどだい無理な話であるし、そういう選択をするべきでもない。ただ、そうした過酷な現実 金に対する認識をもっと深めておかなくてはならないとい、つことである。 ししオし。一」、れは日・・ A 」い、つ 駅のホームに立っときは、ホームの端から離れて立たなければ、ナよ、 襲 国自体にも当てはまる警告である。 て し 連 ニューヨークウォール 章 ンキング・ファシリティ (* (4) がある。これは ニューヨークにはインターナショナル・バ 第 第 1 章で述べたオフショアの二類型のうち、内外分離型に属するオフショア・センターである。 183
る . と言われることがある。筆者も講演会などで指摘することだが、聴衆の人たちはそれを聞 いてキョトンとする。おそらく、タックス・ヘイプンといえば、椰子の茂るカリプの島という イメージがあるからであろ、つ。 「ロンドンもニューヨークも、ともにタックス・ヘイプンである」と一一一一口、つときには、「タック ス・ヘイプンとオフショア金融センターとは、どちらも同じものである」という前提に立って いる。椰子の茂るカリプの島というイメージでタックス・ヘイプンを捉えるのであれば、両者 は異なるものに見えるかも知れない。しかし、世界経済の危機に果たしている機能という観点 機 危から見るならば、タックス・ヘイプンもオフショア金融センターも、ともに同じものである。 金そして、あからさまには言わないが、「マネー・ゲームという悪事に加担していることから すすれば、ロンドンとニューヨークの方が、よほどタチが悪い、という意味が込められているこ 襲 とも知っておくべきである。 て 続ヨーロッパにはスイスやルクセンプルクなど、ロンドン以外にも群小のオフショア金融セン むじな ターがある。ヨーロッパ以外の地域にも当然ある。これらも大なり小なり同じ穴の狢であるが、 章 一応別物と考えて、タックス・ヘイプンの全体を、 第 ①椰子の茂るタックス・ヘイプン 177
有名であった。しかしながら、ちょっとした相場の読み違いが原因で一気に破綻の淵に追い込 まれた。理論の最先端どころか、とくに複雑なファイナンス理論による投資を行っていたわけ ではなく、わずかな相場の不整合に金をつぎ込んで利ざやを稼いでいただけに過ぎなかった。 »-a O は借り入れによってレバレッジを利かせた投機を行っていた。そのため、 *-a O がデフォールト ( 債務不履行 ) すると、波及効果で世界の金融機関、とくにアメリカの金融機関 が連鎖倒産するドミノ現象の引き金を引いてしまう可能性があった。そこで、ニューヨーク連 銀のマクドノー総裁が主要なメガ金融機関のトップをニューヨークにかき集めて、なかば強制 的に資金を拠出させて急場をしのいだ。 マクドノー総裁はバーゼル委員会とのメンバー同士でもあったことから、筆者とはお 互いによく知る間柄であった。の騒ぎが終熄した後、マクドノー総裁が連邦議会に召 喚されて、を救済したことで責められているシーンをテレビの生中継で見た。折しも 日本の金融危機の真っ最中である。あのマクドノー奉加帳がなければ、アメリカは大変なこと になっていたであろう。 ー }—バブル崩壊
日本とサウジの間でドルを直接やりとりしているように見える。しかし、実際には、ドルは日 本とサウジの間を動いてはいない。日本の銀行のニューヨークにあるコルレスロ座から、サウ ジの銀行のシカゴにあるコルレスロ座に対してドルの移転が行われているだけである。すなわ ち、ドルはアメリカ国内を動いているだけで、一ドルも国外に出て行ってはいない。 ハンコ・デルタ・アジアの北朝鮮の秘密ドルロ座にもドルがあるわけではなかった。ドルは、 ハンコ・デルタ・アジアのニューヨークの銀行のコルレスロ座にあったのである。アメリカ政 府は、そのコルレスロ座にあるドルを差し押さえたわけである。アメリカ政府には、 9 ・ 11 テロの直後に成立したパトリオット・アクト ( アメリカ愛国者法 ) によって、このような国 際金融システムの根幹にかかわる権限が与えられているのである。 では、アメリカかこのよ、つなことを行うとわかったとして、どんなことが起こり、つるであろ うか。ドルが国際通貨として取引にイわれているのは、ドルに信認があり、いつでも自国通貨 に換金できるからである。たとえば、人民元と比べてみよう。人民元を第三国間で取引通貨に 使うであろうか。使わない。それは人民元の取引には規制があり、いっ何時、交換不能になる かも知れないという恐れを抱くからである。つまり、人民元にはドルのような信認はない。 ところが、ドルで取引していたのに人民一兀のようなことが起こってしまうとなると、ドルの 136
「ヘッジ・ファンドが裁定取引を行うことによって経済の効率化が進むから、ヘッジ・ファ たわごと ンドのような存在も結局は人々の役に立っている」などと言う者もいるが、戯言である。ヘッ ジ・ファンドの活動が経済の効率化に役立つなどということは、仮にあったとしても微々たる ものにすぎない メガ金融機関がハイ・リスクの投資をして大損をすれば公的資金が注入されて国民の税金が 使われるが、ヘッジ・ファンドならば救済に税金が投じられることはないなどとい、つ言い訳も ある。の破綻やアジア通貨危機を忘却した愚論である。 ヘッジ・ファンドが行っていることは、マネー・ゲームに狂奔して巨額の資金を動かし、世 界経済に深刻な危機をもたらすことだけである。差し引きで見ても、ヘッジ・ファンドのもた らす害悪の方が圧倒的に大きい 4 タックス・ヘイプンの害悪 ヘッジ・ファンドに活動の場を与えるタックス・ヘイプンの罪もまた大きい 現在、専門家たちの間では、「ロンドンもニューヨークも、ともにタックス・ヘイプンであ
①ブリティッシュ・バージン・アイランド ( B Ⅵ ) - ②米領バージン・アイランド ③ァンギラ、 - →、 ④シント・マールテン ( 旧蘭領アンティル ) ⑤セントクリストファー・ネイビス 第⑥アンチグア・バーブーダ のマン島 ロンドン アイルランド シャーシー オーストリア ルグセンブルク ベルギー ⑦モントセラト ⑧ドミニカ ⑨セントルシア ⑩キュラソー ( 旧蘭領アンティル ) ⑩グレナダ \ ⑩ / ヾルノヾドス、 ⑩セントビンセント・グレナティー : - ト、 ⑩タークス & カイコス ⑩ケイマン諸島 ⑩べリーズ ⑩パナマ ⑩アルバ 3 リヒテンシュタイン スイス デラウェア ニューヨークアンドラ .. ジララルダ」一ユ バミューダ諸島モナコ . サンマリノ マルタ リべリア ウルグアイ 16 図 1 ー 1 ②ゴ ( ① タックス・ヘイブン関連地図 . 21 OECD プログレス・レポートをもとに作成
ロンドンでは多数の日本企業がやってきて取引をしていた。ロンドンでワラント債を発行する のも日本企業なら、それを購入するのも日本企業といった取引も多く見られた。わざわざロン ドンまで出かけて行って取引をするのは、そもそも日本ではできないことをやれるからである。 また税負担を軽くしてもらえるなど、東京のマーケットにはないメリットが受けられる。取引 のク座敷クを提供するロンドンとしても、それで大いに潤うことができる。オフショア・マー ケットにおける外外取引の典型的イメージはこれである。 、カ 何 オフショアのニつのタイプ レ」 ンオフショア・マーケットには、次のような二つの類型がある。 ①オンショアとオフショアが明確に区別されているもの へ ②オンショアとオフショアの区別がないもの ス ッまず、①のようなオフショア・マーケットが別に設けられている、いわば分離型を説明しょ タ ンキング・ファシリティ ) がそれであ 、つ。たとえばニューヨークの ( インターナショナル・バ 章 る。東京にも特別国際金融取引勘定というオフショア・マーケットが設けられている。 第 さきに「オフショア・センターとは何かを理解するには、まず規制行政の重要性を念頭に置
先進国の金融センター きよほうへん 以上のように、いろいろと毀誉褒貶はあるかも知れないが、このリストにはひとっ非常に有 意義な点がある。それは先進国の中にある金融センターの問題が正面から取り扱われているこ とである。 図 1 ー 4 のグロ ーバル・フォーラムのリストを見ると、全部で四つの欄がある。上から順に、 国際的に合意された税の基準を実施している国・地域 国際的に合意された税の基準にコミットしているが、実施が不十分な国・地域 Q21 タックス・ヘイプン 2 その他の金融センター 0 国際的に合意された税の基準にコミットしていない国・地域 となっている ( 便宜上、 < 、、 o と付記 ) 。 「国際的に合意された税の基準ーとはさきに示したタックス・ヘイプンの判断基準、「情報交 換を妨害する法制があること . 「透明性が欠如していること」の二つである。 < グループでは 世界の三大金融センターであるロンドン、ニューヨーク、東京を有する英国、アメリカ、日本 A 」 などもチェックの対象となっている。そしてグループでは、「その他の金融センター
②群小のオフショア金融センター ③ロンドンとニューヨーク という一二つのカテゴ 1 丿ーに分けて考えることにしよう。この章では最後に、これら三つのカテ ゴ丿ーに分けられるタックス・ヘイプンが、世界経済にどんな害悪を及ばしているかを見てい くことにする。 椰子の茂るカリブの島 まず、椰子の茂るカリプの島について検討してみよう。 第 1 章でも述べたように、たしかに椰子の茂るカリプの島は、富裕層に税金逃れの場所を提 供しているという意味で、まじめに働いている人々の税負担を増やしている。少なくともそう いうことに手を貸している。また、マネー・ロンダリングやテロ資金の隠蔽という点では、椰 子の茂るカリプの島は、凶悪な犯罪を幇助している。 さらに、非常に重要なことは、これらの島々をマネーが通過すると、そこから先のマネーの 行き場所がわからなくなってしまうことである。ヘッジ・ファンドは椰子の茂るカリプの島を 巧妙につかい、資金の流れの全貌がっかめないようにしている。こうして椰子の茂るカリプの ほ・つじよ 178