なったユダヤ人の預金を着服していたことが批判されたり、アメリカの ( 内国歳入庁 ) の 圧力に屈して個人情報を開一小したり、さらに二〇〇九年のグロ ーバル・フォーラムでは情報交 換を公約させられている。くわしくは後述する。 スイスの東隣にあるリヒテンシュタインは、プライベー ハンキング ( 個人富裕層の資金運 用業 ) によって荒稼ぎをしていたタックス・ヘイプンである。リヒテンシュタインについては、 第 2 章でくわしく述べよう。ヨーロッパにはその他に、オランダ、ベルギー、ルクセンプルク など、群小のタックス・ヘイプンが軒を連ねている。 4 タックス・ヘイプンの利用法 サンドイッチという手法 日本銀行が作成した国際収支統計三〇〇八年 ) によると、日本からの対外直接投資の最大の 仕向地はアメリカである。次いで二位にはオランダ、三位にはケイマン諸島が並ぶ。アメリカ が一位であるのは当然として、オランダとケイマンがそれに次ぐのはやや意外であろう。これ には、それだけの理由がある。
これもまた難しい課題である。 群小の金融センターへの対策 他方、椰子は茂っていなくとも、リヒテンシュタインやモナコのような群小のオフショア金 融センターも害悪をもたらしている点では同じである。オーストリア、ベルギ 1 、ルクセンプ ルク、スイスのような先進国の群小オフショア金融センターには、名前を明一小して国際社会を 挙げて批判するのが効果的であることは、すでに経験済みである。また、アメリカの ( 内国歳入庁 ) がに対してとった強硬策なども多大な効果があった。 中国のような国が新規参入してきた場合はどうであろうか。何かの不祥事を暴かれるような ことがあれば、中国政府といえども沈黙する。これは、マカオの北朝鮮の秘密口座のエピソー ドから読み取ることができる。常時監視下に置いて何らかの不当なことがあれば公表するのが 有効かも知れない ロンドン、ニューヨークへの対策 もっとも手強い相手は、ロンドン、ニューヨークの巨大オフショア金融センターである。 196
①ブリティッシュ・バージン・アイランド ( B Ⅵ ) - ②米領バージン・アイランド ③ァンギラ、 - →、 ④シント・マールテン ( 旧蘭領アンティル ) ⑤セントクリストファー・ネイビス 第⑥アンチグア・バーブーダ のマン島 ロンドン アイルランド シャーシー オーストリア ルグセンブルク ベルギー ⑦モントセラト ⑧ドミニカ ⑨セントルシア ⑩キュラソー ( 旧蘭領アンティル ) ⑩グレナダ \ ⑩ / ヾルノヾドス、 ⑩セントビンセント・グレナティー : - ト、 ⑩タークス & カイコス ⑩ケイマン諸島 ⑩べリーズ ⑩パナマ ⑩アルバ 3 リヒテンシュタイン スイス デラウェア ニューヨークアンドラ .. ジララルダ」一ユ バミューダ諸島モナコ . サンマリノ マルタ リべリア ウルグアイ 16 図 1 ー 1 ②ゴ ( ① タックス・ヘイブン関連地図 . 21 OECD プログレス・レポートをもとに作成
護法制と節税スキームを利用した低い税負担の組合せをもって、「じつはマンハッタンもタッ クス・ヘイプンであるーとい、つのであれば、それはあながち間違いではないといわなければな らない。 一方、国ごと全部がタックス・ヘイプンとなっている国もある。スイス、ルクセンプルク、 ベルギー、オ 1 ストリアなどの欧州諸国である。これら諸国の最大の特色は秘密保護法制であ る。スイスの銀行秘密保護法は著名であって日本でもよく知られているが、じつは他の三カ国 かも同じような秘密保護法制を持っている。これら四カ国は、国際的圧力によって、二〇〇九年 はにその態度を改めることを公約させられた。その公約が実行されるかどうかは、まだこれから と一 ンのことである。 イ へ なぜあるのか ? ス ク ッ タックス・ヘイプンは、税という望ましくない負担から免れたいという人間の本質的な欲求 タ から生じたものである。国家は近代に入ってその役割を増す一方、国民の税負担は重くなって 章 いった。とくに、戦争が大がかりなものとなるに従って、それはますます重くなっていった。 第 これは経済史のデータが端的に示す しかも、戦争が終わってもその負担は減るわけではない。
情報開示の成功・不成功 情報開示の枠組みを作ることについては、国際的なプレッシャーの中でうまくいったケース もあれば、同じことをやったのに失敗したケースもある。 第 1 章で紹介したように二〇〇九年四月二日のグロー バル・フォーラムのリスト公表におい ては、オーストリア、ベルギー、ルクセンプルク、スイスの四カ国が屈服して、情報交換に関 する態度を大きく変更するに至った。 しかし、グロ ーバル・フォーラムのリストは、功罪相半ばといったところであろう。椰子の 茂るタックス・ヘイプンは、そもそも初めから良いカテゴ リーに紛れ込むのに成功しているか、 または実行できないし実行する気もない約東をして、汚名を着るのを避けたかのどちらかにす ジン・アイランド ( CQ > *) は 1 のグループに入っ のぎない。たとえば、プリティッシュ 抗ている ( 四〇頁参照 ) 。 対 これとは逆に本当に成果を挙げたのは、ønco に対するアメリカの強引極まるカ技である。 6 さらに今後は、第 2 章で紹介したアメリカの cl«<tec_)< ( 外国口座税務コンプライアンス法 ) がど う機能するのかも見なければならない。 193
には憲法上の保障 ( 修正第二条 ) があり、全米ライフル協会の巨額の政治献金によって議会も身 動きがとれず、法規制がかけられないのである。 タックス・ヘイプンも同じである。「タックス・ヘイプンが悪いわけではなく、タックス・ ヘイプンを利用して悪事をはたらく人間が悪いーなどという、愚にもっかぬ理屈が成り立つは ずがない。タックス・ヘイプンはその存在自体が悪である。そこを見誤ってはならない。タッ クス・ヘイプン退治は重要な課題である。これも第 6 章で見よう。 群小のオフショア金融センター 先進国のオフショア金融センターも大同小異である。オーストリア、ベルギー、ルクセンプ ルク、スイスの金融センターが、カリプ的なタックス・ヘイプンと同じであることは多言を要 さない。しかも、自国の経済基盤に深く食い込んでいるから始末が悪い 中国の香港とマカオという二つの特別行政区 ( ) は、第 1 章で見たように中国政府の強 硬な反対によって、グロ ーバル・フォーラムのタックス・ヘイプン・リストから存在が抹消さ れたという経緯がある ( ただし、現在は二つともリストに明記されている ) 。推して知るべしである。 180
ビン税的な考え方ではない。そもそも内では国境で課される税はない。素案が発表された のは二〇一一年九月だが、税率は一 % ( デリバテイプ取引については〇・一 % ) で、税収は五五〇億 ューロと試算されている。全体で導入するには、加盟二七カ国のすべての賛成が必要だが、 英国が猛反対している。 内には「強化された協力実施手続き」という一部の加盟国だけで導入することができる 仕組みがある。そこでこの仕組みを利用して、三分の一の加盟国九カ国だけで導入する手続き が進められた。ドイツ、フランスが主導して、イタリア、スペイン、ベルギーなどが追随し、 二〇一三年現在、一〇カ国ないし一一カ国の参加希望があるという。 このうちフランスでは、遅々として進まないの動きにしびれを切らせて、二〇一二年八 月、他国に先駆け自国単独で金融取引税を導入した。課税対象は上場株式、一部のデリバティ 模 プ取引であり、買い手に〇・二 % の税率で課税している。税収の見込みは五億ューロである。 の 抗 (-) 幻がに対して金融取引税のようなアイデアに対する報告を求めたことがある。 対 はこれに応じて二〇一〇年に報告書を提出した。その結論を言うと、いろいろな理屈を並べ 章 て金融取引税に対して否定的である。 第 217
してオーストリア、ベルギー、ルクセンプルク、スイスの四カ国が取り上げられ、プラックリ スト入りの国であると名指しで指摘されている。 グローバル・フォ 1 ラムのリストのこういう点は、先進国に対しても問題意識を持っている ことの現れである。すなわち、先進国の金融センターも実は、タックス・ヘイプンと同様の場 となっている事実を明示しているのである。 マン島や、米領バージン・アイランド、 しかしながら、同時に、英国王室属領のジャージ 1 カモーリシャスのような地域が堂々と < グループに入れられていたりもする。プリティッシュ 何 ジン・アイランド (n *) にいたっては、 CQ 1 グループでプラックリスト入りしてはいる A 」 ンものの、「国際的に合意された税の基準ーを満たすことを公約したということにされている。 イ こういう点はこのリストの限界であり、さきに述べたような国際交渉の暗黒面を見せている。 へ 国際政治の舞台裏で、シテイやウォール・ストリートが暗躍していることが、うかがわれる部 ス ッ分である。 タ シティとウォール・ストリートの権益はいまや、英国とアメリカの国益そのものであると一言 章 っても過言ではない。ファイナンシャル・アクション・タスク・フォース < の会議で 第 は、旧宗主国が旧植民地であるタックス・ヘイプンの擁護に回ることがある。英国の大蔵省な
情報交換協定を結びたいと希望するタックス・ヘイプンは多い。日本政府はこれにこまめに対 応していて、バミューダとの協定から始まって、 ハマ、ケイマン諸島、マン島、ジャージー ガーンジーなどと協定を結び、順次発効もしている。 しかし、こうした協定の実効性には大きな疑問が残る。タックス・ヘイプンの当局が交換す るに足る情報を持っているのであれば、協定を結ぶことにも一定の意味はあるだろう。ところ が実際は、どこのタックス・ヘイプンも、およそ情報などと呼べる代物は持ち合わせていない し、そもそも持とうとしていない。持っていないものは交換できない。したがって、情報交換 協定などといっても形ばかりのもので、絵に描いた餅にすぎない。それを見越して協定だけは 結ぶ気になったというだけのことである。 注 5 は、先進国の中で事実上のタックス・ヘイプンとされていた国々の行動である。すなわ ち、オーストリア、ベルギー、ルクセンプルク、スイスの四カ国である。これらの国は、それ までは OQOQ のモデル租税条約の情報交換規定にさえ留保を付するほどに情報交換について 消極的であった。しかし、その頑強な四カ国でさえ、留保を取り消して、協力的態度を取りは じめた。その意味で、グロ ーバル・フォーラムによるプラックリスト作成は、先進国に対して は非常に有効な国際的圧力となったといえる。プラックリストに入れられるということは、
国際的に合意された税の基準にコミットしているが、実施が不十分な国・地域 協定 コミット協定 コミット 国・地域 国・地域 した年 の数 した年の数 タックス・ヘイプン ( 注 3 ) (0) 2007 アンドラ 2g9 ーぞーシャ ) レ 2009 (I) (0) モナコ アンギラ 2 開 2 (0) ( 7 ) モントセラト アンチグア・ノヾープーダ 2 開 2 (0) ( 4 ) ナウル 2002 アルノヾ 280 ( 7 ) ( 1 ) 蘭領アンティル 2002 ノヾノ、 - マ ( 6 ) (0) 2002 ニウェ 2001 (0) (0) べリーズ ノヾヲーマ 2002 セントクリストファー・ネイピス 2()00 ( 3 ) ノヾミコ . ー - 夕、 ( 3 ) 英領バージン諸島 セントルシア 20()2 2002 (0) 208 ⑧ セントピンセント・グレナディーン ケイマン諸島 ( 注 4 ) 2002 (0) クック諸島 サモア 2002 2002 200() (0) ( 1 ) サンマリノ ニカ国 2002 (0) ( 1 ) タークス & カイコス 2002 ジプラ丿レタル 2002 (0) ( 1 ) 2003 グレナダ 2002 ノヾヌアッ (0) 2007 リべリア ( 1 ) リヒテンシュタイン 20()9 その他の金融センター 2 開 9 (0) オーストリア ( 注 5 ) 2009 グアテマラ ツ 4 2 開 9 ( 1) ルクセンプルク ( 注 5 ) 2009 / ヾ丿レキ、一 ( 注 5 ) ト月 2009 ( 5 ) プルネイ シンガポール 2009 (0) スイス ( 注 5 ) 2009 2009 O 日 国際的に合意された税の基準にコミットしていない国・地域 C 基 D 準 協定 国・地域 国・地域 がヘ の数 発の フィリピン (0) コスタリカ 表コ (0) マレーシア領ラプアン島 ウルグアイ 注 1 OECD 非加盟国と協力して OECD が策定し、 2 開 4 年の G20 財務大臣会合 ( ベルリン ) や ) 8 年 10 月の国連国際租税協力専門家委員会によって合意された、国際的に合意された税の基準は、自国 の課税の利益や銀行秘密などに関わりなく、国内税法の実施・実行のすべての事項のために要請に応 じた情報交換を行うことを要求する。同国際基準はまた、交換された情報の秘密を広く保護すること としている。 注 2 国際基準の実施にコミットした special Administrative Regions を除く。 注 3 TaxHavens は 1998 年 OECD レポートに基づくタックスへイプン基準に該当するものと 200() 年に認定されたもの。 注 4 ケイマン諸島は一方的な情報交換を可能にする法律を制定し、それを行う用意ができているとす る 12 の国を特定した。この法律は、 OECD によってレビューされているところである。 注 5 オーストリア、ベルギー、ルクセンプルク、スイスは OECD モデル租税条約第 26 条に付してい た留保を撤回した。ベルギーは、 48 か国に対し、既存の条約の第 26 条を議定書でアップデートする 提案を発出している。オーストリア、ルクセンプルク、スイスは条約締結相手国に対し、新しい第 26 条を含む条約の交渉に入る意思を示す書面を準備し始めた旨を表明している。 図 1 ー 4 グローバル・フォーラムによるタックス・ヘイブン・ ブラックリスト 289 年 , タックス・ヘイプン退治を前提に作成されたリスト . 先進国の金融センターの問題にも踏み込んだ点で画期的といえる . 出典 : 財務省主税局参事官室 (0) (0) (0) 定数 ) 協の 37