岐路に立っ e 00 との違いとは ? 貿易自由化を超えて中川淳司著その変化は私達の暮らしにどう影響するのか。 その誕生から現在までを一冊で読み解く。 マネーの亡者が群れ蠢く、富を吸い込むプラ タックス・ヘイプン志賀櫻著ックホール。その知られざる実態を解明し、 生活と経済へ及ばす害悪に警鐘を鳴らす。 ー逃げていく税金ー 孤立、過疎、高齢化、被災 : ・現代のまちが直 まち再生の術語集延藤安弘著面するトラブルを再生のドラマに変えるに は ? どこからでも読めるキイワード集。 カ ことばは知らない間に人間の行動を左右する。 手ー 9 斤ことばのカナ白井恭弘著問題を科学的に解決するための「応用言語 学」の最新研究から、幅広い話題を紹介。 ー応用言語学への招待ー 「お一人ですか ? 」を英語にすると ? 簡単 書実践日本人の英「ーク・ピ , , ↓、一著な日本語ほど落し穴が一杯。ベストセラー 『日本人の英語』に、待望の「実践」篇登場 ! 言葉を愛した人・加藤周一の生涯をたどりつ 岩 加藤周一海老坂武著つ、我々の未来 ~ の歩みを支える力強い杖と して、今びとたびその言葉を読み直す。 ー二十世紀を問うー 原発事故という文明災を経て、近代合理主 犯人類哲学」序説梅原猛著義・人間中心主義が切り捨てたものを吟味、 新たな可能性を日本の思想のなかに見出す。 独立以来半世紀、なぜ依然混乱が続くのか。 新・現代アフリカ入門勝俣誠著欧米日による資源奪い合いの構造を浮き彫り にし、新興国とのかかわりの実情に迫る。 ー人々が変える大陸ー 1416 1417 1418 ( 2013.5 )
シティズンシップ課税 日本で国外財産調書制度が導入されたことはすでに述べた。この制度の導入に際しては、ア メリカの < e O ( 外国口座税務コンプライアンス法 ) が参照されている。 そもそもアメリカの個人所得税制は、シティズンシップ課税をとっており、日本における居 住者課税のシステムとは大きく異なる。シティズンシップ課税とは、アメリカ国籍を有する者 はアメリカ国内に居住するか国外に居住するかを問わずに、その全世界所得に対して課税され るという仕組みのことである。 他の先進国は、日本を含めて、居住者課税原則である。日本でいえば、日本国籍をもつ者で あっても、非居住者であれば所得課税はされない。、 ノリボタ事件で見たのはこのことである。 ノ ーマネント・トラベラーの問題もある。税金を納めることを避けるために、どこの国 の居住者にもならないように、転々と住居を変更していく者たちである。 グロー バル化の進展にともない、税を取り巻く状況も大きく変化してきている。日本の個人 所得税制を立て直したいのであれば、シティズンシップ課税を検討することは必須条件であろ 0 、つ 218
・ロンダリングの取締まりが大幅に強化された。二〇〇八年に創設された幻首脳会議では、 ーマン・ショックで果たしたタックス・ヘイプンの役割に注目が集まり、タックス・ヘイプ ンを取り締まる動きが活発化している。 ただし、相手は手強い。 タックス・ヘイプンそのものについては、これまでにいくつかの書 籍や論文がさまざまな角度から切り込んできた。しかし、タックス・ヘイプンの秘密のヴェー ルに阻まれて、具体的なデータをもとに、その実像を明らかにすることまではできていない いろいろな断片的情報をかき集めては、ジグソ 1 ・パズルを解くような地道な作業を続けてい くほかはないのが現状である。 タックス・ヘイプンの真の問題は、タックス・ヘイプンの存在そのものであるだけでなく、 そのタックス・ヘイプンを舞台に行われている悪事、そして、その悪事によって不必要な金融 危機が世界的規模で繰り返し引き起こされていることである。現在、国際機関や専門家のグル ープが、日々この問題に取り組んでいるが、各国の諜報機関さえ見え隠れするこの問題では、 国際機関といえども実態を把握するのは難しい 世界の金融取引に汗く根を張るタックス・ヘイプンの存在は、国益にも直結する重大問題で ある。国際機関の内部では、実態解明を妨害されることすらある。たとえば、ある旧宗主国は、
岩波新書新赤版一〇〇〇点に際して ひとつの時代が終わったと言われて久しい。だが、その先にいかなる時代を展望するのか、私たちはその輪郭すら描きえてい ない。二〇世紀から持ち越した課題の多くは、未だ解決の緒を見つけることのできないままであり、二一世紀が新たに招きよせ ーバル資本主義の浸透、憎悪の連鎖、暴力の応酬ーー世界は混沌として深い不安の只中にある。 た問題も少なくない。グロ 現代社会においては変化が常態となり、速さと新しさに絶対的な価値が与えられた。消費社会の深化と情報技術の革命は、 種々の境界を無くし、人々の生活やコミュニケーションの様式を根底から変容させてきた。ライフスタイルは多様化し、一面で は個人の生き方をそれぞれが選びとる時代が始まっている。同時に、新たな格差が生まれ、様々な次元での亀裂や分断が深まっ ている。社会や歴史に対する意識が揺らぎ、普遍的な理念に対する根本的な懐疑や、現実を変えることへの無力感がびそかに根 を張りつつある。そして生きることに誰もが困難を覚える時代が到来している。 しかし、日常生活のそれぞれの場で、自由と民主主義を獲得し実践することを通じて、私たち自身がそうした閉塞を乗り超え、 いま求められていることーーーそれは、個と個の間で 希望の時代の幕開けを告げてゆくことは不可能ではあるまい。そのために、 開かれた対話を積み重ねながら、人間らしく生きることの条件について一人ひとりが粘り強く思考することではないか。その営 みの糧となるものが、教養に外ならないと私たちは考える。歴史とは何か、よく生きるとはいかなることか、世界そして人間は こうした根源的な間いとの格闘が、文化と知の厚みを作り出し、個人と社会を支える基盤としての どこへ向かう。へきなのか 教養となった。まさにそのような教養への道案内こそ、岩波新書が創刊以来、追求してきたことである。 岩波新書は、日中戦争下の一九三八年一一月に赤版として創刊された。創刊の辞は、道義の精神に則らない日本の行動を憂慮 し、批判的精神と良心的行動の欠如を戒めつつ、現代人の現代的教養を刊行の目的とする、と謳っている。以後、青版、黄版、 新赤版と装いを改めながら、合計二五〇〇点余りを世に問うてきた。そして、いままた新赤版が一〇〇〇点を迎えたのを機に、 人間の理性と良心への信頼を再確認し、それに裏打ちされた文化を培っていく決意を込めて、新しい装丁のもとに再出発したい と思う。一冊一冊から吹き出す新風が一人でも多くの読者の許に届くこと、そして希望ある時代への想像力を豊かにかき立てる ことを切に願、つ。 ( 二〇〇六年四月 )
織がある。一九九八年、アジア通貨危機のさなかに日本の金融危機が発生して、世界中が破滅 の深淵を覗いているかのような時期に、急きょ設立された国際機関である。各国の財務省、金 バルな金融問題について協議を重 融監督庁、中央銀行からそれぞれ一人ずつ派遣して、グロー ねるフォーラムである。 ーゼルにある国際決済銀行 ( ) が事務局を務める。は、 二〇〇九年の幻ロンドン・サミットによって ()n ( ファイナンシャル・スタビリティ・ポード ) のに格上げされた。これにより、金融規制の国際機関も加わった大規模組織となり、国際金融シ よステムをモニターし、提一言する権限をもっ拡充された組織となっている。 く ( 現 ) の発足当時、筆者は金融監督庁の国際担当参事官として、日本国メンバ らの一人となった。は発足後、ただちにいくつかの作業部会を立ち上げたが、そのひとっ をにオフショア金融センター問題を担当する部会があった。その時点ですでに、タックス・ヘイ のプンの問題は金融危機問題と関連するものとして深刻に受け止められていたのである。筆者は その作業部会の担当者となって、二〇〇〇年に公表されたのタックス・ヘイプン報告書 市の作成にも関わった。 章以上のような実経験にもとづき、国際機関の舞台裏からの視角も交えながら、タックス・ヘ 序 イプンをめぐる実情を明らかにしていこうというのが本書の意図である。
タックス・ヘイプンは従来、単純に、ゼロまたは低税率の国・地域であると見られ、租税回 避の手段という側面からのみ理解されてきた。そもそも「タックス・ヘイプン . という名前か らして、租税回避防止という発想にもとづいている。 しかしながら、タックス・ヘイプン、ないしはオフショア金融センターが世界の経済社会に もたらす害悪を分析していく過程で、タックス・ヘイプンの問題は、単に低税率の問題に止ま らないことが認識されるようになってきた。タックス・ヘイプンの真の問題は、その秘密性、 情報の不開示にあることが明らかになったためである。 このことは、二〇〇九年、グローバル・フォーラムが作成したタックス・ヘイプン・プラッ クリストの注 1 に明一小されているように、現在は諸国家間での共通理解となっている。こうし た理解を共有するまでには、リ ーマン・ショックという痛烈な打撃を経なければならなかった。 税は文明の対価である。 合衆国最高裁判所判事オリ ヾ、 ・ウエンデル・ホームズ止 224
らいしか相違はない。その意味でも、どこがヘッジ・ファンドで、どこがヘッジ・ファンドで はないかの線引きが難しい かって日本でアンダーグラウンド・エコノミーが大きな問題になったことがある。イタリア ン・マフィアの地下経済が、経済の二重構造として議論を呼び、その議論が日本にも飛び火し てきたのである。第二次大戦中に海軍将校としてレイテ沖海戦に従軍した経験をもつので、 「元帥ーのあだ名で呼ばれた主税局長がいた。その主税局長が、大蔵委員会でアンダーグラウ ンド・エコノミ ーについての質問攻めにあった。名答弁というべきであるが、「わからないか 危らこそアンダーグラウンド・エコノミーなのであって、わかっていれば国税当局がとっくに課 金税しているわけであります」と平然と答えた。質問者も二の句が継げなかった。ヘッジ・ファ すンドとて、これと同じである。 襲 タックス・ヘイプンに設立された屋しげなヘッジ・ファンドのロ車に乗せられて、大きな損 て 続害をこうむる事件も跡をたたない。マドフ事件はその典型である。投資家保護はひとつの課題 ではあるが、少人数のプロの投資家が相手のヘッジ・ファンドの場合、金融商品取引法のよう 5 な一般の大衆投資家を保護するための規制法の考え方とはズレが生じてしまうため、なかなか 7 難しいのである。
3 危機の連鎖とリスク 高度金融商品の問題点 デリバテイプそのほか、高度な数学を駆使した金融商品の問題点は、それがじつは何も生み 出していないということである。言いかえれば、これらの金融商品が売り買いされることで、 リスクの総量が減るわけではないということである。 もちろん、経済理論的に言うかぎりは、リスクをとる力がなく投資に踏み切れない場合でも、 対価を支払って誰かにリスクを引き受けてもらえれば投資ができるようになり、投資は促進さ れることになる。「リスクを引き受ける。というサービスを提供して、その対価を受け取って いるという意味では、新たな付加価値商品を生み出しているともいえる。 さきほども述べた O Q co ( クレディット・デフォールト・スワップ ) は、ある企業が倒産して債券 や株式がデフォ 1 ルトした場合にこうむる損失を、誰か第三者に保証してもらうというデリバ テイプである。リスクを引き受けてもらう代わりに、その企業のリスクを計測して値決めし、 定期的に一定の保証料を支払う必要がある。 170
一見賢そうなデリバテイプで、素晴らしいリスク・ヘッジになるように見えるが、この金融 商品の問題は、市場の総体として見ればリスクの総量をなんら減らしていないということであ る。すなわち、リスクをへッジするといっても、それはそのリスクを他の誰かにお金を払って 肩代わりしてもらっただけのことであるから、経済全体としてリスクが減るわけではない。あ まりよい喩えではないかも知れないが、 トランプのババ抜きで誰がババを持っているかが変わ ったに過ぎないというようなものである。 しかも、もっと悪いことには、ある企業が負っているリスクなど、外部からは正確に計算で 機 危きないということがある。そこに格付け会社が登場して、「この企業の格付けはダブル << プラ 金スである」などともっともらしいことを一言うから、みなそれを信じて行動する。 す 格付け会社がなければそれなりに困ることはあるから、その存在を否定するつもりは毛頭な 来 丿ーマン・ショックの引 てしか、眉にはたつぶり唾をつけて聞く必要があるということである。 続き金となったサププライム・ローン問題も、元はといえば格付け会社の格付けミスによるもの である。あるいは意図的なミスであった可能性さえある。格付会社のスタンダード & プアーズ 章 5 は米司法省の提訴を受けている。 171
5 税金争奪戦 OLUOO 移転価格ガイドライン そのような問題に早くから取り組んできたのが、租税委員会である。そして、その 努力が一九九五年の「 OC-IÄOQ 移転価格ガイドラインーに結実した。このプロジェクトの開始 企には筆者も関与した。日本の移転価格税制は基本的にこの移転価格ガイドラインに忠実である がから、その改訂状況からは目が離せない。 逃 第 1 章でも述べたように、租税委員会は、国境を越える取引にともなう一一重課税を 章 排除することを任務の主要目的としている。そこで、の定めたモデル租税条約は国際 第 租税の世界では最も重要な文書になっている。ところが、近年の各国課税当局による移転価格 国の子会社の法人税額は据え置きのままだからである。これでは、グループ全体として税金 を余分に払わされてしまうことになる。そこで、日本と < 国の課税当局間で国際的な課税調整 が必要になるわけだが、これが国家間の課税権の争奪戦というじつに厄介な問題をはらんでい るのである。 113