情報交換の問題 こうなると、 O O 税制 ( タックス・ヘイプン対策税制 ) などは、存在することがわかっている 外国子会社の、存在することがわかっている未配当の所得にしか適用されないから、かわいら しい税制であるとさえ思えてしま、つ。 「情報交換が重要である」などといくら言っても、相手国政府の協力がなければどうにもな らない。税務の現場で外国政府から情報を取る必要が生じたとき、相手国政府が協力的な場合 であってさえ数カ月もかかる。「情報交換が有益な手段だ」などと一一一一口えば、税務の一線からは 苦笑いされるだけである。情報をもらえず三カ月ほども待たされたあげく、やっと回答が返っ てきたと思ったら「何もありません」と言われることも少なくないのである。 もちろん、情報交換制度がないよりも良いことは間違いないし、実際に成果が挙がることも ある。しかしながら、タックス・ヘイプンというものが世界中のあちこちにあって、協力する 気がないか、あるいは協力しようにもその能力かないとなれば、マネーの隠匿はいくらでも可 能というのが実態である。 ましてや、そのタックス・ヘイプンが先進国の中にあって、目から鼻に抜けるように賢いへ ッジ・ファンドのクオンツが知恵を絞ってかかってくれば、とても太刀打ちできない 192
情報交換協定を結びたいと希望するタックス・ヘイプンは多い。日本政府はこれにこまめに対 応していて、バミューダとの協定から始まって、 ハマ、ケイマン諸島、マン島、ジャージー ガーンジーなどと協定を結び、順次発効もしている。 しかし、こうした協定の実効性には大きな疑問が残る。タックス・ヘイプンの当局が交換す るに足る情報を持っているのであれば、協定を結ぶことにも一定の意味はあるだろう。ところ が実際は、どこのタックス・ヘイプンも、およそ情報などと呼べる代物は持ち合わせていない し、そもそも持とうとしていない。持っていないものは交換できない。したがって、情報交換 協定などといっても形ばかりのもので、絵に描いた餅にすぎない。それを見越して協定だけは 結ぶ気になったというだけのことである。 注 5 は、先進国の中で事実上のタックス・ヘイプンとされていた国々の行動である。すなわ ち、オーストリア、ベルギー、ルクセンプルク、スイスの四カ国である。これらの国は、それ までは OQOQ のモデル租税条約の情報交換規定にさえ留保を付するほどに情報交換について 消極的であった。しかし、その頑強な四カ国でさえ、留保を取り消して、協力的態度を取りは じめた。その意味で、グロ ーバル・フォーラムによるプラックリスト作成は、先進国に対して は非常に有効な国際的圧力となったといえる。プラックリストに入れられるということは、
しようとするライバル国が、スイスの足を引っ張ろうとしているだけなのかも知れない。いす れにせよ、アメリカ人は今後、 >ßQr-0 に秘密口座を設けることは避けるであろう。 リヒテンシュタインの—J O }—事件 二〇〇 , ハ年、リヒテンシュタインの事件も地球規模の一大騒動に発展した。リヒテン シュタインがプライベート・ ハンクによって繁栄していることはすでに述べた。個人富裕層を ハンクには、当然に租税回避や秘密保 ターゲットに、その資産運用に特化したプライベート・ 讙がっ (J まと、つ。 リヒテンシュタインのプライベート・ ハンキング・グループのひとつに *-ä ( リヒテンシュ タイン・グロ ーバル・トラスト ) がある。リヒテンシュタインの ()* 事件は、そのの社員 層 富か顧客の名簿を持ち出して、ドイツの連邦情報局 ( ) に売り渡したことに端を発する。そ げの社員がなぜそのようなことをしたのか、またなぜがそのような情報に大金を支払った 逃 のかは、 いまなお不明のままである。ただ、は何かを目的とする情報工作活動をしてい 章 て、顧客名簿が得られたのはその副産物に過ぎなかったことだけは間違いないであろう。 第 ともあれ、これによってドイツ人の富裕層がリヒテンシュタインの s-2 に隠し持っていた
情報開示の成功・不成功 情報開示の枠組みを作ることについては、国際的なプレッシャーの中でうまくいったケース もあれば、同じことをやったのに失敗したケースもある。 第 1 章で紹介したように二〇〇九年四月二日のグロー バル・フォーラムのリスト公表におい ては、オーストリア、ベルギー、ルクセンプルク、スイスの四カ国が屈服して、情報交換に関 する態度を大きく変更するに至った。 しかし、グロ ーバル・フォーラムのリストは、功罪相半ばといったところであろう。椰子の 茂るタックス・ヘイプンは、そもそも初めから良いカテゴ リーに紛れ込むのに成功しているか、 または実行できないし実行する気もない約東をして、汚名を着るのを避けたかのどちらかにす ジン・アイランド ( CQ > *) は 1 のグループに入っ のぎない。たとえば、プリティッシュ 抗ている ( 四〇頁参照 ) 。 対 これとは逆に本当に成果を挙げたのは、ønco に対するアメリカの強引極まるカ技である。 6 さらに今後は、第 2 章で紹介したアメリカの cl«<tec_)< ( 外国口座税務コンプライアンス法 ) がど う機能するのかも見なければならない。 193
計しなければならない時代に入っているのである。この点を無視した租税政策論は空疎である。 国際協力による調査 国際タックス・シェルター清報センター (h — co — 0 ) という国際的組織がある。 e *0 は、二〇〇四年にワシントンのの中に設置され、引き続き英国の国税庁である ( 女王陛下の歳入関税庁 ) の中にロンドン事務所も設置されている。ただし、ロンドンが の二番目の事務所を開設したことはやや胡散臭い。 二〇一一年版の国税庁レポートによると、「国際的租税回避の解明を目的として日本・アメ リカ・カナダ・オーストラリア・イギリス・韓国・中国が参加する国際タックス・シェルタ 1 情報センター ( ) では、国際的な租税回避の仕組みやメンバー各国における取組な 模 どの情報の共有に努めて」いるとのことである。国税庁は、のワシントンおよび の 抗ロンドンのそれぞれのオフィスに人を派遣している。 対 こうした国際的な組織による調査や情報共有を足がかりに、タックス・ヘイプンやオフショ 6 ア金融センターを追い詰めていく必要がある。 同様に、税務行政執行共助条約の拡大と有効活用も重要である。 221
たとえば、資金をタックス・ヘイプンに送金して、これをただちにどこかの国の口座に転送 してしまえば、日本の課税当局も司法当局も追跡するすべはきわめて限られてくる。そもそも タックス・ヘイプンの当局そのものが関心を示しておらず、見ざる言わざる聞かざるを決め込 んでいるから、情報を把握しているかど、つかもはなはだ蚤しい。仮に情報を把握していたとし ても、他国に情報を開示するなど自国の利益に反することを行う気になるわけがない の よ テロ資金への関与 て くタックス・ヘイプンのもうひとつの重要な問題は、テロ資金の移動と隠匿の場になっている らことである。アル・カイーダのテロが大規模かっ強力だったのは、その豊富な資金力が背景に を あったからである。その資金源と密接に関わっているのがタックス・ヘイプンなのである。 実 たとえば、オサマ・ビン・ラディンの資金を中近東のどこかからアメリカに送らなければな の はらなくなったとしよ、つ。まさかテロ資金をドバイのエミレイツ Z Q からニューヨークの 市モルガン・チェイスに送金するわナこま、 しし ( しかない。中近東から、リヒテンシュタインのプライ 章べート・ ハンクを経由して、カリブ海のプリティッシュ・ ジン・アイランド ( > —) など 序 のタックス・ヘイプンにある銀行をぐるぐると回して、最後はスピード・ボートでマイアミに
椰子の茂るタックス・ヘイプンはその存在自体が害悪である。自主的に改善努力をするなど とい、つことはおよそ考え難い。したがって、そ、ついう相手に対しては、国際経済とのつながり を断ち切るという方法がもっとも有効である。 問題は、椰子の茂るタックス・ヘイプンに裏口からこっそり入り込んで利用しようとするシ テイやウォール・ストリート、その他の群小の金融センターである。そのすべてを押さえるこ とは、メキシコやコロンビアからアメリカに流入する麻薬を押さえるのにも匹敵する難易度で ある。 しかし、だからこそ、先進国は一致団結して椰子の茂るタックス・ヘイプンとの取引を断っ ことに協力しなければならない。現在のところ、国際社会においては対策として情報交換が重 視されているが、情報収集能力もない政府に情報を出す約束をさせるだけでは事態は好転しな のいのである。 抗他方、椰子の茂るタックス・ヘイプンを押さえ込んだとすると、これら島々の住民は元の貧 対 しい生活に戻ってしまうことになる。そこで同時に、住民が生計を立てる道も考える必要があ 6 る。これは、インドシナ半島の黄金の三角地帯や西アジア一帯で、罌粟の栽培をする以外に生 活の方法がない農民に、代わりになる有用な農産物の栽培を教えようとする試みに似ている。 195
なったユダヤ人の預金を着服していたことが批判されたり、アメリカの ( 内国歳入庁 ) の 圧力に屈して個人情報を開一小したり、さらに二〇〇九年のグロ ーバル・フォーラムでは情報交 換を公約させられている。くわしくは後述する。 スイスの東隣にあるリヒテンシュタインは、プライベー ハンキング ( 個人富裕層の資金運 用業 ) によって荒稼ぎをしていたタックス・ヘイプンである。リヒテンシュタインについては、 第 2 章でくわしく述べよう。ヨーロッパにはその他に、オランダ、ベルギー、ルクセンプルク など、群小のタックス・ヘイプンが軒を連ねている。 4 タックス・ヘイプンの利用法 サンドイッチという手法 日本銀行が作成した国際収支統計三〇〇八年 ) によると、日本からの対外直接投資の最大の 仕向地はアメリカである。次いで二位にはオランダ、三位にはケイマン諸島が並ぶ。アメリカ が一位であるのは当然として、オランダとケイマンがそれに次ぐのはやや意外であろう。これ には、それだけの理由がある。
である。これらは犯収法にもとづいて行われているのである。マネー・ロンダリング関連の情 ) の金融庁から警 報を集約する単一の組織 ( ファイナンシャル・インテリジェンス・ユニット 察庁への移管もこの法律によって行われた。このほかに、「内国税の適正な課税の確保を図る ための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律ーも制定されている。 筆者は金融監督庁 ( 現金融庁 ) に設置されたの初代のヘッドであったけれども、 に集まる情報やデータによって、どのような成果を得たのかは一切報告が上がってきていない。 情報戦というものはそういうものであって、 need ( oknow 原則が貫かれる。ドゴール暗殺を 企てるフランス軍内部の秘密組織のが切り崩されたのも、結局は軍が潜入させた多数の スパイによる。第二次大戦中のレジスタンスもスパイにはきわめて苦しめられた。 秘密組織は細胞ごとに分断して相互に連絡は取らせないし、お互いの存在すら知らせない。 知る必要のないことは知らせない。知らないことは漏らせないからである。これが needto know 原則である。 国境の壁 マネー・ロンダリングの追跡は難しい。すぐあとに述べる五菱会事件など、 ぎようこう いくつもの僥倖 128
少し触れたことがある。スイスの金融監督当局の興奮した弁明はすさまじい勢いで、弁明とい うよりは激昂した抗議という感じであった。会議が終わってからも外まで追いかけてきて大声 で説明しようとしていた。それだけ危機感があるということなのである。 さて、そのスイスの本丸ともいうべき CQ に攻撃を開始した— co の武器は、「ジョン・ ドウ・サモンズ (JohnDoeSummons) 」であった。ジョン・ドウとは、おもに犯罪捜査で身元 不明の死体をいうときの表現で、 Doe は牝鹿と同じで「ドウ」と読む。「ドウー」ではない。 サモンズとは召喚状のことで、裁判所が発布する。つまり、ジョン・ドウ・サモンズとは、相 手方の身元を特定しない召喚状である。 は二〇〇八年、 co に対してこのジョン・ドウ・サモンズによって、米国納税者の における口座情報の開一小を求めた。一国の課税庁が国境を越えて他国の銀行に情報開示 層 裕を強制するなど、異例中の異例といってよい。このようなことはどこの国にも真似できること げではない。というよりむしろ、国際礼譲の観点から主権国家を相手にしてなすべきことではな 逃 いとされるであろう。しかし、の側では、これに適切に対応しなければアメリカ国内で 2 のビジネスに多大な影響が出る。おまけに従業員まで起訴されてしまった。窮地に立たされた は、小出しに譲歩していくことで事態の収東をはかったが、の追及は強硬で一向