租税回避 - みる会図書館


検索対象: タックス・ヘイブン : 逃げていく税金
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1. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

1 国境を越えた租税回避の問題 租税回避 節税・租税回避・脱税の区分とは何かについてはさきに述べた。節税は非難されるところが ない納税者の工夫である。脱税は悪質なもので、課税当局による処分の対象となるし、場合に よっては刑事処罰の対象となる。租税回避は節税と脱税の間にある税金逃れのスキームである が、節税と租税回避の境界は微妙なものがあって、法律で明確に定めておかないと課税当局の 判断だけでは結論を出せないものである。 直接税の痛税感 さて、納税するときにはキャッシュの支払いがあるわけだから、そのときに感じる負担感を 痛みととらえて「痛税感」と表現する。直接税とは、納税者が自分で直接納税して、その税額 は自分で負担する租税をいう。所得税や法人税などは直接税である。直接税は自分で納税する

2. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

1 節税・租税回避・脱税 あいまいな境界 まず、節税、租税回避、脱税という概念の区別をしておこう。 節税とは、非難される性質のない税金を減らす努力である。節税の典型的な例として必ずあ げられるのは、キャピタルゲイン課税の例である。「キャピタルゲインーとは、土地などの資 産が値上がりした場合の値上がり部分のことをいう。 キャピタルゲインの課税はどうあるべきかということには、なかなか難しいものがある。日 本の譲渡所得課税は五年を境に短期と長期に区分されていて、長期譲渡所得の方が租税負担は 軽い。この五年という年限は、納税者にとってひとつの分水嶺となる。たとえば、たまたま四 年半保有していた土地があって、それを誰かに売りたいと思ったとしよう。このとき、もし譲 渡所得の規定について知っていたら、あと半年待ってから売るだろう。誰もこれを非難される べき行為とは思わない これがふつうに説明される節税の典型事例である。

3. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

脱税は、「仮装隠ぺい」などという重加算税を課されるような行為や、「偽りその他不正の行 為」という、ほ脱犯となる行為である。帳簿を二つ作って ( 一一重帳簿という ) 、売上の一部を表 の帳簿に計上しなかったり、架空の仕入を計上するなどの行為が典型である。 以上のような、節税と脱税の中間に位置するのが租税回避である。租税回避とは、非難の対 象となって課税処分を受けるべきであるか否かが直ちには明らかでない行為である。租税回避 と節税の境界はあいまいであり、また租税回避と脱税の境界もあいまいである。これまでにあ またの碩学が、何らかの基準でこれらの間に境界線を引こうと努めてきた。しかし、理論的に も現実的にも、それを明解に区分できた例はないと言ってよい 日本の富裕層 層 裕 外国には想像を絶するような大富豪がいる。ロックフェラー家やロスチャイルド家などの資 富 げ産は、先進国であっても小国のなどでは足元にも及ばないほどに巨額である。英国の資 逃 産家ランキングでは、王家が群を抜いて一位である。また、「フォープス 400 」という雑誌 2 はアメリカの富裕層四〇〇名を純資産べースで推計しているが、これによると二〇一〇年の一 第 ハフェットで四〇〇億ドルである。ゲ 位はビル・ゲイツで五〇〇億ドル、二位はウォーレン・

4. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

それに近い租税回避行為がごく日常的に行われている。 もちろん、高額所得者や大企業のすべてが脱税や租税回避をはたらいているわけではない。 しかし、節税、租税回避、脱税の境界はきわめてあいまいである。所得や利益を海外にあるタ ックス・ヘイプンに逃して、本来なら国に納めるべき税金を払わないで済ませている高額所得 者や大企業は多数存在する。 のそのツケを負わされているのが、中所得・低所得の市民である。かっての日本は、分厚い健 よ全な中間層が存在し、それが日本経済の強さの要因と見られていた。ところがいまや、その中 く間層は長引くデフレで疲弊し、やせ細ってきている。日本社会は現在、富裕層と貧困層とに二 ら極分化しつつある。タックス・ヘイプンを舞台にした悪事は、この傾向に拍車をかける。富め を る者はますます富み、貧する者はますます貧する。そういう構造が生まれてきている。 実 国の運営に必要な財政資金は、ある程度の額にのばる。その資金を国民がそれぞれの応分で の に拠出し、公的サービスの整備と充実に貢献する。納税が国民の義務とされるのは、そのためで 市ある。ところが、タックス・ヘイプンを使った脱税行為・租税回避行為は、その義務を無視、 章あるいは放棄し、本来ならば国庫に納められるべき税金を、海外のどこかに逃がしてしまう。 一般に、本来納付すべき税金と、実際に納付されている税金との差額を「タックス・ギャッ

5. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

三億円であった。この処分に対して旺文社が不服を申し立てたために法廷闘争となり、最終的 には最高裁まで上がった。二〇〇六年、最高裁の藤田宙靖裁判長 ( 学者出身 ) は、法人税法二二 条二項による無償の資産の譲渡の規定の適用を認めて、破棄差戻し判決で納税者を敗訴させた。 このような租税回避が可能となるのは、企業が国際取引を利用して租税法の裏をかくからで ある。課税当局は、法廷闘争とは別に、 今後はこのような形での租税回避が行われないように 法人税法五一条を廃止するという一大法改正を行った。この法改正は要するに、企業が持っ何 らかの含み益が海外に移転されて、日本の課税当局の課税権限が及ばなくなることを防ぐとい う趣旨である。これに限らず、この事件以降は、何らかの含み益が海外に出て課税当局の課税 権限が及ばなくなる事態を起こさない形で法改正を行う方針が定着している。 外国税額控除余裕枠事件 旧大和銀行と旧三和銀行ほか一行の外国税額控除余裕枠事件を説明するには、あらかじめ外 国税額控除制度についての若干の説明がいる。日本の居住者や内国法人が外国に出て行ってお 金を稼ぐと、日本の税法では、そうした国外源泉所得に対しても課税することになっている。 これを「全世界所得課税方式」という。日米英がとる方式である。一方、これとは反対に、国

6. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

うな仕組みをとると、この取引に関して日本企業は所得がないわけだから、課税されないです しかも、親会 む。子会社の方も、タックス・ヘイプンに税制がないことから租税負担がない。 社から子会社への出資は資本取引に当たるから、この場合、日本企業は課税されない。 結局、上図と下図は、実質的には同じ経済取引であるにもかかわらす、タックス・ヘイプン を利用すると日本企業は租税負担をゼロにできる。あるいは少なくとも、タックス・ヘイプン 子会社から配当を受け取るまでは、税金の支払いを遅らせることができる。このように税金の 支払いを遅らせる節税法を、とくに「課税繰延べズタックス・デファーラル ) と呼んでいる。 なお、日本では配当を受け取らないで、租税負担の少ない別の国・地域でのビジネス展開に 使うことも可能なわけで、その場合、日本国の課税権はなかば永久に失われる。 業 タックス・ヘイブン対策税制の発明 企 す このような租税回避の方法が発明されたのはアメリカである。第二次大戦後の国際貿易の発 1 刀 逃 展にともなって、アメリカではこのような租税回避が横行しはじめ、財政収入の観点から無視 3 しがたくなってきた。違法ではないとしても、実質的には節税の範囲を超える租税回避であっ 第 て、税負担の公平という見地からも明らかに問題がある。そこで、タックス・ヘイプン対策税 103

7. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

から痛税感をともなう。これに対して間接税とは、納税者は納税をするけれども、その負担は 取引の相手方に転嫁することが予定されている租税である。の付加価値税や、その一種で ある日本の消費税は間接税である。酒税も同様に間接税である。間接税は自分で直接納税する わけではないので、相対的に痛税感が少ない。 直接税は、民主主義が高度に発達している国でなければ機能しない。自分たちが払う税金は 自分たちのために使われているという納税者意識がなければ痛税感は耐え難くなり、租税回避 や脱税が横行してしまうからである。ラテン系の国々では、脱税がスポーツ感覚でなされる傾 向にあるので、所得税や法人税のような直接税はなかなかうまく機能しない。の基幹税と して付加価値税が選ばれたのもゆえなしとしないところである。ただし、最近ではの付加 価値税の税率が一五 % ないし二五 % と高くなっているので、付加価値税の脱税が各国の大 企問題になっている。 す ラテン系諸国とは対照的に、アングロ・サクソン系の国々では、痛税感をともなう所得税や 逃 法人税のような直接税がなじむという。マグナ・カルタや、ボストン茶会事件などが民主主義 章 の発展に寄与した歴史があるからであろう。少なくともひと昔前し ( 」こよ、そのように一言われてい 第

8. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

序章市民はこの実態を知らなくてよいのか 第 1 章タックス・ヘイプンとは何か 1 どこにあるのか ? なぜあるのか ? 2 タックス・ヘイプン・リスト四 3 オフショア・センター 4 タックス・ヘイプンの利用法 第 2 章逃げる富裕層 節税・租税回避・脱税能 2 タックス・ヘイプン事件簿その一 3 やせ細る中間層 第 3 章逃がす企業 1 国境を越えた租税回避の問題

9. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

てくるのである。詳しくはつづく各章で事例を挙げながら説明していくことにして、ここでは 以下に簡単なスケッチをまとめておくことにしよう。 タックス・ヘイプンを舞台に行われる悪事を分類すれば、次の三つとなる。 ・高額所得者や大企業による脱税・租税回避 ・マネー・ロンダリング、テロ資金への関与 ・巨額投機マネーによる世界経済の大規模な破壊 こうしたタックス・ヘイプンを通じた悪事に対抗するのはなかなか難しい。しかし、アイデ アはいくつか出されており、すでに実践されていることもある。本書の最後では、それを紹介 してい 高額所得者や大企業による脱税・租税回避 個人も企業も、ある程度の高い収入や利益を得られるようになると、税金対策に取り組みは じめるのが常である。税理士や専門の弁護士を雇ったり、金融機関やコンサルタント会社の勧 める節税商品などを利用して、少しでも税負担を減らそうとする。当事者たちはそれを「節 税」と主張するであろう。しかし実際には、悪質な脱税行為に加え、脱税とは言わないまでも、

10. タックス・ヘイブン : 逃げていく税金

実際、課税当局は、所得金額を実際よりも低く申告して課税を逃れている高額所得者が多数 存在すると見ている。そうした高額所得者たちの税負担率は間違いなく、このグラフの示す数 字よりも格段に低いはずである。 それは租税回避によるものか、ひどい場合には脱税である。しかし、その実態を正確に把握 するのはきわめて難しい。なぜか。そうした租税回避や脱税を助けるさまざまなカラクリが存 在するからである。そして、そのカラクリの核心部にあるのが「タックス・ヘイプン」である。 魑魅魍魎の伏魔殿 高額所得者のなかには、なんらかの手段によって所得を日本から海外のタックス・ヘイプン に逃がし、その分の税金を納めずに済ませている者がいる。 正直に税金を納めている市民の知らないところで、タックス・ヘイプンを舞台に所得分配の 公平を著しく損なう悪事が行われているのである。その悪事による弊害はめぐりめぐって、市 民の生活はおろか、一国の財政基盤をもゆるがし、さらには世界経済を危機に陥れている。 タックス・ヘイプンは魑魅魍魎の跋扈する伏魔殿である。脱税をはたらく富裕者だけでなく、 不正を行う金融機関や企業、さらには犯罪組織、テロリスト集団、各国の諜報機関までが群が ちみもうりようばっ一 )