〇二年にメキシコのモンテレイで開かれた国連開発資金会議の場で、導入の具体的検討がなさ れた。 国際連帯税の税収の使途についてはいろいろな提案がなされており、すでに設立されている ファシリティ ( 基金と考えればよい ) などもある。国際連帯税として課税されている実例としては、 現在のところでは、フランス、韓国など数カ国が導入している航空券連帯税がある。 トービン税も国際連帯税のひとつの候補として挙げられることもあるが、トービン税とは導 入の目的が明白に異なることから、トービン税という名称を避けて「通貨取引開発税 ( oea こという名称で呼ぶことも提唱されている。 における金融取引税構想 においては、現在、金融取引税の導入が進行中である。 金融取引税は、金融危機を引き起こした金融機関救済のために多額の公的資金が注入されて いることに注目して、金融機関に貢献を求めることを目的としている。使途は特定していない 金融機関の間の株式、債券、デリバテイプなど幅広い金融商品の取引に課税する。 ただし、外国為替には適用しないからクロスポーダーの資金移動を減速させようというトー 216
犯罪資金を追え マネー・ロンダリングとは何か マネー・ロンダリングとは、犯罪などで上げた違法な収益を、出どころが追及されないよう、 きれいな説明のつくマネーに見せかけて表に出す行為のことである。日本語では資金洗浄とい い、当局の人間は「マネロン」と略して呼んだりする。 麻薬密売、詐欺、横領、収賄、脱税、現金強奪、その他の犯罪によって得られた現金は、そ のまま手元にあると、はなはだ始末に困るものである。現金はかさばるから隠し場所に困るし、 盗難のおそれもある。水害や火事、地震などに見舞われることもある。また、紙幣にはモデ ル・チェンジがある。現金の形で持っているのは決して得策ではない このようなことである から、政治家が四億円もの大金を何年も現金のまま持っていたなどという主張は、およそ信じ がたいことなのである。 しかしながら、現金は困るからといって金融機関に預け入れれば、取引記録が残されてしま 120
オリンパスは、タックス・ヘイプンもからむ国境を越える取引を行って、多額の収入が上が っているように偽装していた。この飛ばしの手法はごく普通のもので、それほど手が込んだも 外国人社長がコーポレー のではない。それにもかかわらす長らく露見しないでいたわけだが、 ト・ガバナンスを問題にしたことから徐々に明らかになっていって、東京地検特捜部による強 制捜査へと発展した。捜査の過程で、仲介役の元証券マンがケイマン諸島に設立した会社が資 金の受け入れ先になっていたことが判明した。タックス・ヘイプンは、こういう後ろ暗い取引 には必ず顔を出すのである。 もうひとつ、二〇一二年に明るみに出た投資顧問事件についても触れる。投資 顧問は運用実績に苦しむ企業の年金基金に高いリターンを保証して資産運用を請け負っていた。 ところが実際には、はおよそ資産運用と呼べるようなことは行っておらず、新しい投資 企家を見つけては資金を拠出させ、その資金を前の投資家に投資収益として分配するということ す を繰り返していた。これは俗に「ねずみ講」と言われる手口そのものである。ポンジーという 逃 アメリカ人詐欺師にちなんで、ポンジー・スキームともいう。 3 が右から左へと転がしていた資金は、そのほとんどすべてが消失した。一部報道によ ると、がケイマン諸島に設立したファンドを通じて香港の外資系金融機関へ流れていっ
であったが、 やがて公的年金基金や保険会社や私立大学のような機関投資家、さらには多国籍 企業の大法人などが加わっていった。大損を出して破綻寸前の企業もいくつも数え上げること ができる。 メガ金融機関がヘッジ・ファンドに巨額の資金を入れ、監督行政の目を逃れて投機に走ると い、つことも多分にある。アメリカでボルカ 1 ・ルールがドッド・フランク法によって導入され たことが、その何よりの証拠である。 ボルカー・ルールとは、アメリカの金融機関に対してリスクの大きい取引を制限する規制立 法である。アメリカの金融当局がこうした規制をかけるのは、国内の金融機関がしばしばヘッ ジ・ファンドに資金を供給したり、あるいは自らへッジ・ファンドのような行動をとるからで ある。 模 ボルカー ・ルールの内容を要約すると、 の 抗①ヘッジ・ファンドや g-* ファンド ( プライベート・エクイティ・ファンド ) への投資の禁止 対 ②自己勘定での証券売買やデリバテイプ取引の禁止 章 6 などである。 第 ポール・ボルカーは、アラン・グリ 1 ンスパンの前の議長である。グリーンスパンか 201
とになった。 英国大蔵省とイングランド銀行の行動はドン・キホーテのようなものでしかなかった。自ら そう気づいたときには、無益に費やされた資金は二七〇億ドルに達していたという。これはす べて、納税者が支払うことになる無駄金である。他方で仕掛け人のソロスは、一九九二年だけ で個人資産が六億ドル以上にも増えたとされる。 レバレッ ) ン 投機マネーによって破壊されつつある金融システムを守るべく政府が動員できる資金は、ヘ ッジ・ファンドなどのマーケットが動かす資金の規模に比べれば微々たるものに過ぎない。政 府とマーケットの資金規模の差は、為替相場への介入を見れば一目瞭然である。 政府資金の介入だけで為替相場をコントロールできないのはなぜか。政府資金とマーケット との間に、動かせる資金規模に圧倒的な差があるからである。政府資金で為替相場をコントロ ールできるならば、そもそも変動相場制になるはずがない。固定相場制を維持できないのは、 マーケットが売り浴びせてきたとき、それに対抗して政府が買いにまわせる資金の規模があま りにも小さいからである。ヘッジ・ファンドなどが動員する投機マネーは、一国の経済を呑み 152
たとえば、資金をタックス・ヘイプンに送金して、これをただちにどこかの国の口座に転送 してしまえば、日本の課税当局も司法当局も追跡するすべはきわめて限られてくる。そもそも タックス・ヘイプンの当局そのものが関心を示しておらず、見ざる言わざる聞かざるを決め込 んでいるから、情報を把握しているかど、つかもはなはだ蚤しい。仮に情報を把握していたとし ても、他国に情報を開示するなど自国の利益に反することを行う気になるわけがない の よ テロ資金への関与 て くタックス・ヘイプンのもうひとつの重要な問題は、テロ資金の移動と隠匿の場になっている らことである。アル・カイーダのテロが大規模かっ強力だったのは、その豊富な資金力が背景に を あったからである。その資金源と密接に関わっているのがタックス・ヘイプンなのである。 実 たとえば、オサマ・ビン・ラディンの資金を中近東のどこかからアメリカに送らなければな の はらなくなったとしよ、つ。まさかテロ資金をドバイのエミレイツ Z Q からニューヨークの 市モルガン・チェイスに送金するわナこま、 しし ( しかない。中近東から、リヒテンシュタインのプライ 章べート・ ハンクを経由して、カリブ海のプリティッシュ・ ジン・アイランド ( > —) など 序 のタックス・ヘイプンにある銀行をぐるぐると回して、最後はスピード・ボートでマイアミに
プ。という。アメリカの内国歳入庁 ( ) は、二〇〇一年のタックス・ギャップを三四五〇 億ドルと推計して、このうち二九〇〇億ドルが徴収できなかったと議会に報告している。日本 でも国外へ逃げていった税金は莫大な額にのばると考えられる。しかし、驚くべきことに、日 本の課税当局はタックス・ギャップの額を推計しようとさえしていない。 マネー・ロンダリング ロンダリング 犯罪の収益を「洗浄」して、きれいな金に見せかける悪事をマネー・ロンダリングという。 麻薬の密売やその他の犯罪によって得られた収益は、そのまま手元にあると、はなはだ始末 に困るものである。そもそも大金というものは、ただそこにあるだけでも税務署などに出どこ ろを追及されるし、何かに使えば使ったで、また資金の出どころを追及されることになる。そ こで、出どころを追及されないように、きれいな説明のつくマネーとして表に出せるようなエ 作をする。 マネー・ロンダリングは、ほば必す、タックス・ヘイプンを舞台に行われる。それには当然 の理由がある。さきほど挙げた特徴の②、タックス・ヘイプンでは情報の秘密が厳格に守られ るからである。
込むことができるばかりか、世界経済をも震撼させるだけの規模があるのである。 なせ、そのようなことが可能なのか。ここで「レバレッジを利かせるーという手法が重要に なる。レバレッジとは英語で「梃子」という意味だが、金融の世界ではこれを、実際の手持ち の資金よりも大量の資金を動かして投資する行為をさして呼んでいる。 ヘッジ・ファンドは、調達してきた大量の資金を元手に借入れをしてレバレッジを利かせる。 そうして、非常に危険であるが極めて高いリターン・レートの投資、というよりは投機を行っ ている。そのレートは、実物資産に対する投資のレートをはるかに上回る。そのため、本来な 機 危らば実物資産に向かうはずの投資に金がまわらなくなる。 る す 暴走マネーの供給源 来 襲 ここでの大きな矛盾は、そうしたヘッジ・ファンドに資金を供給している資金源の中には、 て 続他ならぬ先進国のオフショア金融センターが含まれているという事実である。これまでの章で 述べてきたように、世界のさまざまな場所からタックス・ヘイプンに流れ込む個人富裕層や機 章 関投資家、メガ金融機関の巨額の資金が、投機マネーに姿を変えてマーケットに現れるのであ 第 る。 153
よるテロかどうかは、少なくとも公式にはわかっていなかった。 アル・カイーダが国際的なネットワークをもって強力なテロを実施しつづけられたのは、そ の資金力による。そもそも、オサマ・ビン・ラディンはサウジアラビア出身の大富豪で、ア ル・カイーダの資金源はビン・ラディンのバックにあるオイル・マネーであった。オバマ大統 領がパキスタンに伏するビン・ラディンを射殺させた後、アル・カイーダが大規模なテロを 遂行できなくなっているのは、その資金源が絶たれたためであろう。テロ対策には、テロ資金 封じが有効であると考えられる。ただし、テロを根絶するには絶望と自暴自棄を生む貧困問題 を解決しなければならない。 置ビン・ラディンの資金がどのように世界を移動してテロの標的国に入って行ったのかについ 浄ては、まったく公表されていない。本当にわかっていないか、わかっているけれども、わかっ 金ていることを伏せているかのどちらかである。後者であるとすれば、こちらがわかっているこ 資 とが敵方に知られてしまわないように、わかっているということ自体を伏せているのである。 それでも、古くは CQOO—、最近ではなどの金融機関が表舞台に出てくることはあ 4 る。そうであるからこそ、による「四〇の勧告」の大半は、金融機関についての記述 第 に割かれている。歴史は繰り返しているようである。 145
次 目 2 タックス・ヘイプン事件簿その二 3 タックス・ヘイプン対策税制燗 4 移転価格税制 5 税金争奪戦 第 4 章黒い資金の洗浄装置 犯罪資金を追え 2 タックス・ヘイプン事件簿その一二 3 テロ資金とのかかわりⅧ 第 5 章連続して襲来する金融危機 マネーの脅威 2 繰り返す金融危機 3 危機の連鎖とリスク罰 4 タックス・ヘイプンの害悪 119 147 111