数字 - みる会図書館


検索対象: マスカレード・ホテル
36件見つかりました。

1. マスカレード・ホテル

事件現場に二つずつ、奇妙な数字が残されていました。これまでに起きた事件は三つ。 だから合計六つというわけです」 尚美は改めて数字を眺めた。途中に小数点がついていて、とてつもなく細かい数字だ。 当然のことながら、何を意味しているのかは全くわからない。 「最初の事件は十月四日に起きました。場所は品川です。現場は、りんかい線品川シ 1 サイド駅から徒歩五分ほどのところにある駐車場でした。数字を書いた紙が、被害者の 車のシートに置いてありました。一番上と二番目の数字です、新田は六つ並んだ数字の うち、上の二つを指差した。 45.761871 143.803944 「次の事件が起きたのは十月十日です。場所は千住新橋付近にあるビルの建設現場。殺 されたのは中年の女性で、衣服の下から数字を書いた紙が発見されました。正確にいう ホ と、書かれていたのではなく、雑誌や新聞から切り取ったと思われる活字が貼り付けら 一れていました。その数字が、三番目と四番目です , 新田の指が、少し下に移動した。 カ 45.648055 ス マ 149.850829 ここで新田は顔を上げ、にやりと口元を緩めた。

2. マスカレード・ホテル

あなたには知っておいてもらいたい。それに、ここから先はそんなに長くありません。 退屈かもしれませんが、どうか我慢して聞いてくださいーまるで教え諭すような口調だ った。 「別に退屈しているわけじゃありませんけど : : : 」尚美は語尾を濁した。 「数字の意味は何か。やがてある人物が、興味深いことに気づきました。二つの数字の 小数点以下を無視した場合、一方はすべて 45 なのに、もう一方は 143 、 149 、 1 57 と変化していることです。この変化は何か。なぜ増えていくのか。ここで事件の起 きた日付を振り返ってください。最初は十月四日、次が十月十日、そして三番目が十月 十八日です。日にちの間隔が、六日と八日ーーー六と八です。数字の増え方と一致するで あっ、と尚美は小さく声を漏らした。 新田はポケットからポ 1 ルペンを出してきた。 「この二組の数字には、日付が組み込まれている可能性が高いわけです。そういえば日 付というものも、月と日のペアになっている数字です。そこで事件が起きた日付の月と 日を、二つの数字からそれぞれ引き算してみます」 新田は六つの数字の横に簡単な式を書き込んでいった。 45.761871 ー 10 日 35.761871

3. マスカレード・ホテル

158 「どうですか。この数字が何を意味するか、わかりましたかー 尚美はぐいと顎を引き、新田を睨みつけた。 「わかるわけないじゃないですか。たったそれだけのヒントで」 「でしようね」新田は、あっさりといった。「我々も、何のことかは全くわかりません でした。一一つの事件に共通点らしきものもない。それで、たまたま同じような数字が現 場に残されていただけではないか、という意見もあったのです。しかし偶然にしては、 数字が似通い過ぎている。そうこうしているうちに第三の事件が起きました。十月十八 日のことです。場所は葛西ジャンクションの下にある道路上でした。被害者はジョギン グ中の高校教師で、羽織っていたウインドプレーカーのポケットに、数字を記した紙が 入っていました」最後の二つの数字を新田は指した。 45.678738 157.788585 「さて、これならどうですか。数字の秘密に気づきませんか , 「さつばりわかりませんー尚美はいい放った。「だって新田さんは、事件の起きた日に ちと場所について話しているだけじゃないですか。それだけで、どうやって謎を解けっ ていうんですか。無理に決まってるでしよう」 新田は我が意を得たりとでもいうように目を見開いて頷き、身を乗り出してきた。

4. マスカレード・ホテル

たとえば、と彼は人差し指を立てた。 「 3810 号室という部屋番号です。これは一見したところ一つの数字ですが、二つの 意味を含んでいます。頭二桁のはフロアの階数を、後ろ二桁の川は、そのフロアにお ける位置を示しています。山岸さんに説明するまでもないことですが」 「そういえばそう : : : 当然のことすぎて、特に意識したことはありませんけど」 「このように、ある場所を示すために二つの数字を使うということはよくあります。多 くの場合、片方は数字ではなくアルファベットなんかが用いられますがね。たとえばこ のホテルの駐車場も、のといった表記になっている。しかし、両方とも数字で、し かもこの地球上のすべての地点を特定できるものが存在しますよね。ここまでいえばお わかりでしよう」 地球という言葉を聞き、尚美は地球儀を思い浮かべた。おかげで即座に答えられた。 「緯度と経度ー 「その通りー新田は紙を指先で突いた。「これは緯度と経度を示しているんです」 ああ、と尚美は並んだ数字を眺めた。 「案外、簡単なことだったんですね。 「ところが、そう単純でもない。緯度と経度じゃないかという説は、ずいぶん早くから 出ていたんです。しかし実際に当てはめてみても、うまくいきませんでした。さてここ

5. マスカレード・ホテル

159 マスカレード・ホテル 「そうなんです。日にちと場所です。この数字は、それを示しているんですー 「えっ ? 」尚美は再び数字を記した紙に目を落とす。 「数字がペアになっている点に注目してください。常にペアで使用する数字といえば、 いろいろとありますよね。たとえば人間の左右の視力、体重と身長、長方形の縦と横の 長さ、ええとほかに何がありましたつけ 「お部屋代とサービス料、 「なるほど、さすがはホテルマンだ」 「基本給と手当、支給額と天引き額、普通預金と定期預金ー尚美は思いつくままに述べ 、」 0 「素晴らしい。お金の話が好きなんですねー 尚美は、むっとした。 「今はたまたまそういうものを先に挙げただけで、ほかに思いついてることもあります。 御到着日と御出発日とか、番号とパスワードとか , 「やパスワードの場合は、すべて数字というのは珍しいんじゃないですかね。セキ ュリティ上の問題がある。それはともかく、ホテル用語でいえば、じつは部屋番号なん かも二つで一組になっているんですよねー 新田のいっている意味がわからず、尚美は首を傾げた。

6. マスカレード・ホテル

やがて捜査陣の間では、似たような数字がたまたま現場に残されていただけで、元々関 係などないのではないか、という意見が出るようになった。あるいは、品川の事件のこ とを関係者の誰かがうつかり外部に漏らし、それを耳にした誰かが千住新橋での事件を 起こす際に利用したのではないか、という者もいた。 しかし偶然にしては、あまりにも二つの事件現場に残された数字は似通っている。ま た、数字のことが外部に漏れた形跡もなかった。 そんな時、さらなる衝撃が捜査陣を襲った。第三の事件が起きたのだ。十月十八日の 夜のことだった。 はたなかかずゆき 被害者は畑中和之という五十三歳の高校教師だった。殺害現場は首都高速中央環状線 かさい の葛西ジャンクションの下にある道路上で、被害者が毎夜ジョギングで走るコースに入 っていた。全身に鈍器で殴られた痕があったが、致命傷となったのは後頭部への打撃だ った。絞殺や扼殺の形跡はない。 被害者はジャ 1 ジの上からウインドプレーカーを羽織っていたが、そのポケットに一 枚の紙片が入っていた。そこには、次の二つの数字が印刷されていた。 45.678738 157.788585

7. マスカレード・ホテル

「それがもし 4 の犯行であるならば、当然例の数字を犯行現場に残そうとするのでは ないですか。それとも、ワインの箱か何かに、数字を記した紙が入ってたんでしよう か」 「いや、鑑識からそんな報告は来ていません。数字は別の形で残す気なのかも。たとえ ば高山さんの携帯電話にメールで送るとか」 「なるほど。それは考えられますね。しかしもし毒殺に成功したとしても、被害者がい っ死んだかは犯人にはわからないんじゃないですか。救急車やパトカーが来たからとい って、その直前に死んだとはかぎらない。午前零時を過ぎれば日付は変わる。御記憶だ と思いますが、例の数字は緯度と経度、そして犯行日を組み合わせたものです。日にち かっぬま が一日違えば、経度が一度変わります。一度というのは東京タワーから山梨の勝沼まで の距離です。たとえ一日であっても、犯人にとっては無視できないと思うのですが」 新田は思わず目を見開いていた。能勢の指摘に衝撃を受けたからだ。たしかにその通 りだと思った。捜査会議中、誰一人としてこの点には気づかなかった。 「えーと、私のいってること、何か変ですか」 とんでもない、と新田は首を振った。「素晴らしい着眼だと思います。能勢さん、あ なたはすごい人だ」心の底から出た言葉だった。「すごい刑事だ」 いやいや、と能勢は照れた表情で手を振り、手帳をポケットにしまった。

8. マスカレード・ホテル

174 それはたしかに奇妙な話だった。ほかの事件との関連が見つからないということで、 新田自身、手嶋を追い詰めきれずにいたのだ。 「例の数字はどうなるんですか。明らかに三つの事件には繋がりがある。これから起き るかもしれない四番目の事件も」 能勢は短い腕を組み、大きく首を捻った。 「そうなんです。それで私もうちの課長に訊いたんです。数字のことはどうなるんです かってね。そうしたら、当面考えなくていいとのことでして」 「そんな馬鹿な」新田は思わず声を尖らせていた。「数字のことを考えないなら、俺が こんなところにいる意味もなくなってしまう」 「いやいや、だから当面ってことですよ。まるつきり関係ないってことはないはすです。 とにかく課長からは、ほかの事件とは切り離して、こっちはこっちで捜査を進めるんだ といわれました」 「どういうことかな。そんなやり方じゃ、事件の全体像が見えなくなるじゃないか。一 体、何をそんなに焦ってるんだ」 「いや、焦ってるというより、むしろじっくり腰を据えたやり方に転換した感じです。 容疑者を片っ端から引っ張ってくるようなことはしないで、とにかく証拠となりそうな ものを集めろと指一小されていますー

9. マスカレード・ホテル

「そうです。場所は葛西ジャンクションの下の路上です」新田は続けた。「もうおわか りでしよう。犯人は現場に、次の犯行場所を予告した数字を残しているんです。その目 的は、全く不明ですがー 「三番目の数字で検索していただけますか」尚美の声は震えた。 「もちろんです。そのために長々と説明をしてきたのですからー 新田は数字を打ち込んだ。画面に現れたのは、尚美が予想したものだった。だがそれ でも背筋がぞくりとするのを止められなかった。 地図の真ん中には、ホテル・コルテシア東京の文字があった。 「これでおわかりになったと思います。次の犯行現場がこちらのホテルだということは 明白でしよ、つ ? 」 尚美は深呼吸をし、画面から目をそらした。 「警察には頭の良い人がいるんですね。こんな暗号、ふつうはなかなか解読できないと 思うんですけど。この謎を解いた人、してやったりって感じでしようね 「解読した時はね」新田は耳の穴を掻いた。「その時は、まさか自分がホテルマンをや らされるとは思ってなかったし」 尚美は瞬きし、彼の顔を見つめた。「新田さんが解読を ? 彼は下唇を突き出し、小さく肩をすくめた。

10. マスカレード・ホテル

でインタ 1 ネットの出番です。緯度と経度を入力すれば、その地点の地図を探してくれ しや、俺がやりまし るサービスがありますから、まずはそこにアクセスしてください。、 よう。そのほうが早い」新田はパソコンを自分のほうに向け、慣れた手つきでキ 1 ボー ドを叩いた。 やがて、サイトのタイトルが現れた。その横には、検索内容を書き込む細長い欄があ 「最初の事件現場に残されていた二つの数字を入れてみます。さてどうなるか」 新田は二つの数字を書き込んだ後、検索ボタンをクリックした。すぐにグ 1 グルのマ ップが現れた。ところが青一色で、地図らしきものはどこにもない 「何ですか、これ」 「何でしようね。ということで、地図の縮尺を変えてみます」 新田は地図の縮尺をどんどん上げていった。やがて端のほうから陸地が出現した。ど ホ うやら海上だったようだ。さらに縮尺を上げると、その陸地の正体が尚美にもわかった。 「北海道・ : : ・」 「そう。オホーック海のはるか北、樺太のそばです ス マ 「そんな場所にどういう意味が ? 」 「その質問に答える前に、二つ目の事件現場に残っていた数字についても調べてみまし る。 からふと