力の経済界だ。七五年もの長い間、殿様商売をして、うまい酒を飲み、分厚いステーキを食べ ていた。この間に弱者の戦略を忘れた経営者やビジネスマンが多くなったのである。 アメリカの占有率が一一〇 % を下回ったとはいえ、自由圏では依然一位である。過去の 蓄積もある。大量の軍事予算を背景に、兵器産業や航空機や宇宙産業は強者の地位にある。コ ンピュータも強者である。半面、弱者の商品や産業が増えてきた。大衆向けの電気製品や小型 の機器は完全に弱者になっている。日用品や雑貨品も弱くなっている。そこで初心に帰ろう、 というわけで、建国一一五〇年を機に「ミッドウェイ海戦」の映画を製作し、勝ち味を思い出す 企画を立てた。映画作りとその興行には成功したものの、経営における「初心の戦略」に立ち 返るのが遅れた。 八〇ー八五年にかけては、ドル高と金利高の外部要因も加わって、輸出は伸びないのに輸入 ちょうらく 品は入ってきて、弱い産業の凋落が激しくなった。とかく扱いにくいのが「昔強者、今弱者」 の人間だ。やたらプライドだけは高い。根本原因は考えないし、人の意見も聞かない。商売上 の努力はほったらかしにして、被害者意識だけが強い。アメリカは、軍事上は強者であること は間違いない。しかし、経済は弱者の戦略を基本とすべきである。そこのはき違えがどうも理 解されてないようだ。 政治的な圧力をかけ始めたのがその証拠といえる。事業家が軍事力と政治上の力を背景に交 渉するようになったらもう終わりである。八一、八一一年から、こういう傾向がしだいに強まり、
弱者は地域を重視せよ を 少数の軍が大きな軍団を破った戦いは歴史上いくつかある。そして、そのようなことが起き た要因の一つとして地形がある。地の利を利用して勝っているのだ。織田信長の桶狭間の戦い とギリシアのマラトンの戦いが代表的な例だろう。狭い地形で重装備の軍は逆に身動きが取れ の 内オし 、。少ない兵力数でも、限られた地域内に軽装備で敵より多めの兵力数で戦えは、有利にな るからだ。 営業活動において、この地形に相当するのが地域である。これを地域戦略の局地戦という。 営業マン数の少ない弱者の営業活動は局地戦を重視すべきだ。弱い営業力でも、特定の地域に 集中して投入すれは市場支配力が生まれてくる。 強者は全国規模で営業を考える。しかも重装備で行動する。弱者は逆の発想で活動地域を狭 く限定する。限定した地域の中で多くの力を投入し、他社と比べて優位に立つ。優位に立った 第条 有効な時間内の局地戦販売を重視 弱者は移動時間の多い 広域戦を避け局地戦販売を重視すべし
会社史生法とか和議申し立てという大きな異変のあと急速によくなるのは、このショック療法 による。 このほかに弱い部門や弱い営業所、弱い支店も弱者の戦略ルールを守る必要がある。 目で見えるような説明能力 正月の出初め式や創立記念日には、多くの経営者は原点に戻れと口を酸つばくする。創業精 神に立ち返れと訓一小を与えるのが普通だ。 一九四五年八月に戦争が終わったとき一五歳以上だった戦前派の人の中には、戦前と戦後の 苦労話が多い。食べ物がなくてカボチャばかり食べていたとか、カボチャの葉やイモの葉はか り食べていたとか。こういう苦労はその人にとっては原点である。そのときの事情を思い出せ は、感動を伴い、苦しさがよみがえるだろう。しかし、残念ながら人生体験をもとにした原点 構成は、誰にでも通用するものではない。戦後生まれの人間のはうがはるかに多くなっている 中で、昔の苦労話は一般性がない。 とりわけ食糧事情がよくなった豊かな世代の申し子に、原点の戦略を理解してもらうのに苦 労話だけでは無理だろう。弱者の戦略の基本ルールを一つ一つ説明して理解させていくしかな ) 0 目で見えるように説明し、表現しないと定着しない。 若い世代が多くなって、目で見えるように説明する説明能力が大事になってきている。
の戦略に徹しないとやっていけないのだ。 瀬戸内も離島が多く、同様のことがいえる。手間ヒマかかって、人がいやがる仕事を事業と して始めている例が少なくない。日本海側の豪雪地帯、あるいは、山間部や半島など不便なと ころの出身者も、このような考えを当然と受け止めている。福岡では、食品事業をするなら嫁 さんは「壱岐、対馬の人をもらえ」という。長崎の人は五島の人を選べというぐらいだ。島育 ちの女性は働き者だからだ。 引き揚げ者もそうだ。終戦により外国に全財産を残して体一つで家族とともに日本に向かっ た。その途中、何度も生命の危機にさらされた。食べる物はなく病気と戦いながら九死に一生 を得て、ようやく故郷の地にたどりついた、という人だ。すべての財産と地位を失い「無」の 状態になった最低の線からスタートするから、弱者の発想が自然と湧いてくるというわけだ。 大病を患って死線をさまよった人とか、極度な貧乏をした人なども、弱者の戦略を実践する人 が多い。生活体験がその人の人生の願望と考え方を形成している。つまり「無」こそが弱者の 戦略精神なのである。しかし、このような事情は、歴史的な要因あるいは外部の環境からくる。 自然発生的な戦略発想に依存しているため、これには社会環境や育った生活環境に左右される 弱さかある。 このような環境を今の時代に望んでもしかたのないことだ。離島が弱者の発想を生み出す条 件を備えているからといって、一家で離島に引っ越すわけにもいかない。歴史的要因、あるい
独立は一業にしばる 第 5 条客づくりに総力の七割を配分 弱者は一人でも多くの客をつくるため 総力の七割を投入すべし 主たる目的に能力の七割を回す 大衆レスト一フンは来客数七割 6 重視すべきは客の数と客重視の心構え 最大の権力者は商品の利用者である 電話の応対はよいか、話し中が多くないかに 初めての客に対する応対は四 道を聞かれたときに親切にしているか図 第 6 条長時間労働が決め手 弱者は長時間労働に徹し 必勝の一ニ時問、圧勝の一四時間を投入すべし 経営資源に弱い中小企業 活用時間を長くする川 能率を上げて成果を出すには川 本当に働きすぎか に 7
214 がいると影響は大きい。これに対抗するには不特定の客の中から客を特定化して自分の店の固 定客にするしかない。ときには、こちらから出かけていくのも必要になる。店売りプラス外販 である。外販も広い範囲で行うと弱い力をより弱くするから、特定地域に集中する局地戦にす る。店舗の小売りと相乗効果が発揮できる地域に集中するとそれなりの効果は出る。 小売業者に、労せすして儲かる必殺隠し技はない。利用者の名簿を作って「手紙と電話と訪 問と店売り」の四つの方法を組み合わせて「相乗効果」をねらうしか手はないのである。利用 者の名簿を作り、名前をおばえ、家庭を知り、客に関心を示して接近すれは道は開ける。 過去の〃物余り〃一期と一一期はデラックス化と小型化など、主として物の形で差別化してき しかし物余り一一一期を迎えた現在は、この方法では差別化しにくくなってきた。〇〇様専用、 △△様ピッタリの個人専用の時代に入りつつあるのだ。ということは商品を販売するにあたり 「精神的なサービス」がどの程度加えられているかによって企業差が出る時代になったのであ る。これは一種のねらい撃ち型であるから、物量戦はきかない。接近戦の局地戦型発想しかな い。弱者の戦略を実践するとまだ強者に対抗する余地は残されている。 弱者は、物事の要点に近づくことを心がけれは解決の糸口が見つかるはすである。
なけれはならない。強者は、儲かるやり方、うまみのある商品が開発されたと聞くと、すぐマ ネしてくる。人材の数、資金力、技術力を利用して、短期間に割り込んできて、横取りしてし まうものだ。 中小企業が新商品の開発に着手して「マグレ」で大当たりするときがあるが、急に売り上げ が大きくなると、うれしくなってあちこち宣伝して回る。それを新聞記者や雑誌記者が聞きっ け記事にする。記事にしてもらったお礼にと、出す必要のない広告にもっきあわないといけな 。これを目にした強者は研究を始めて新規参入し、圧倒的な戦力で逆に市場を押さえてしま う。せつかくよい商品を作っても、強者にしてやられては元も子もない。あの商品はうちが本 家だ、元祖だ、といっても、残念ながら負けは負けである。 の 強者と税務署が、三流の雑誌や新聞記事に目を光らせているとはっゅ知らない。売り上げが 者 急に伸びたり、雑誌に記事として取り上げられ有名になると、つい強者と錯覚してしまう。こ れが人間の弱さである。弱者は体制が整い、体質が強くなるまではあまり表に出ないことだ。 のとりわけ「新商品」を開発したら、商品の流通経路が確立するまでは強者に知られないよう、 隠密行動をとる必要がある。 章 以上が、弱者が守るべき九つの要点である。強者の戦略と違ってたしかにカッコはよくない。 第 これが弱者の戦略概念である。これをすべての経営場面に置き換え、実行していくと、強い競 争体質の会社になれる。
・ワンになるまでの条件に見逃せない要因がある。一つは自動車の普及率が低かったこと。 一一つは「四〇 % 以上の強者」がいなかったことだ。トップの市場占有率が四〇 % 以上で「相対 的な独占」が確立している業界では条件が異なる。内部の経営努力のはかに「強い競争相手と の戦い」という大きな外部要因が加わるからだ。本田技研の経営努力は評価されるが、トヨタ の壁は厚い。 ・ワンの会社が、市場占有率を四〇 % 以上占めている業界の参入は容易 ではない。 一位の市場占有率が二六 % を超えると、新規参入はむすかしくなってくる。ホンダはアメリ 力に小型車の工場を造って順調に伸びている。日本国内でトヨタと正面から競争するより、小 型車で、アメリカの業者と競争したはうが有利だからだ。車全体ではは強者だが、小型車 では弱いからやれたのだ。新規参入、あるいは新事業が成功するかどうかは、自社内の経営努 力のほかに「強い競争相手」があるかないかが大きく作用する。弱者は、量も多く質も高く、 強くてどうしようもないという業者がいる業界からは撤退したほうが身のためだ。 小さな市場とスキ間をねらう 一般的に考えると、市場は大きいほうがよいように田 5 える。ところが市場が大きいとそれだ け強い会社も多い。大手が多角化市場として新規参入してくる危険も高い。市場が大きいと競 争相手も増えるから、弱者の新規参入は考え直したほうがよい。弱者は、大手からみて魅力の
チョキでカット 多角化で商品の幅を広げてはみたものの、、つまくいかない。そ、つい、つときは、思い切ってす てる。チョキでカットだ。重点主義とは、切りすてることでもある。うまくいっている商品は 残して、これに力を集中して伸はしていく。これを繰り返すのが取扱商品構成の基本的考え方 である。 ・チョキーー、これは故田岡信夫先生の発案による弱者の「必勝ジャンケン法」で ある。取扱商品は競争力のある商品の入手に努力すること、商品の幅は重点主義で狭くするこ と。決めた範囲でみるとどこにも負けない品ぞろえにする。間違っても無関係の商品は扱わな ち いこと。これが、ジャンケンに勝っ法である。 以上の例は取扱商品に関するものであった。競争が激しくなれは、その時点で何も強いもの ら がない会社から負けてい く。くどいようだが勝ち残り組になるには、同業者と比べて強いとこ つろ、利用者からみたよい特徴づくりが必要である。 劣勢軍は重点主義で攻めないと勝ち目はない。力の弱い中小企業でも重点主義をとれば強い 点 ところもっくれ、特色も出せる。経営の実行場面にこの重点主義の応用を考える。重点主義を 背景としたナンバ ・ワンづくりが弱者の戦略の根本になる。
弱気になりやすい経済環境 世の中は不景気な話が多いため、になりやすい。新聞の記事やテレピのニュースは、そ の情報のほとんどが悲観的な情報で占められている。こういう悲観的な情報洪水の中で生活し ていると、その情報が自分に直接関係なくても、弱気になるキッカケになり、憂うつになって しま、つ。 体の不調も一定の周期でやってくる。体が軽く気分ハッラツのときもあれば、気分がなえる ときもある。気分がよいと、体も軽く行動的になる。しかしつい調子に乗って動きすぎると、 細胞の中に蓄えられている予備のエネルギーを使ってしまうため、赤信号がともって、行動が 抑えられる。しかしエネルギーをあまり使わないと、細胞内にエネルギーの在庫が増え、再び 活発になる。人はそれぞれこのような周期性を持っているものだ。これは、バイオリズムとい われているが、人には三カ月サイクルのリズムがある。 第 1 条 仕事への情熱が願望開発を生む 弱者は自分の仕事に情熱を持ち 熱意に満ちて行動すべし