すので、 H 。 use ' の「状態」を示します。これを直訳すると「台地状の家」という 意味になるのでしようか。最初は、辞書でいうとおりに「テラス状地形の斜面 に沿って建てられた長屋」を指していたのだと思います。ところが、実際にロ ンドンの街並みに建つテラスド・ハウスを見てみると、そうした立地のものは 少なく、冒頭の写真のように周りが全く平坦な地盤に建つものが圧倒的に多 いのです。どうもこの解釈だけでは納得がいきません。ここからは私の勝手 な解釈ですので、話半分に聞いてください。 1 階を盛土し地階を居住空間化する ロンドンのテラスド・ハウスには、中心市街地の狭い上地の有効活用のた めでしよう、必ず地階が付いています。地階をつくれば大量の土が出ます。 住宅の大量供給時代であった 18 ~ 19 世紀は輸送をもつばら人力と馬力に 頼っていたので、それを場外処分することは大変な手間がかかります。その 上を建設敷地内に盛土し、盛土した状態をうまく建築計画に反映できれば、 工事費を低減でき、住宅価格を下げられます。その方策のヒントが「テラス 状地形の斜面沿いに建つ長屋」の形態にあったのだと思います。 そうした立地の長屋は、各住戸の 1 階床が表通りの地盤より高い位置にあ り、必ず表通りから階段を数段上る形態になっています。また、各住戸の 裏庭の地盤が 1 階床とほぼ同じレベルに設定されていて、住戸室内から裏庭 に段差なしで出られるようになっています。誰か頭のいい人が、平坦な地盤 に地階付の長屋を建てる場合にも、この形態を模して、大量に発生する土 を各住戸の裏庭側に盛上することを思いついたのでしよう。この形態を採用 @High Street Kensington Kensington, London W8 6XB Abingdon Villas アビンドン・ヴィラズ 52
なぜテラスド・ハウスというのか ? る言葉に由来した語」で、意味は次のように記されています。 英語の、 Terrace ' を辞書で調べてみると、「古フランス語の『盛土』を意味す 呼ばれるのか常々不思議に思っていました。 house) 」でなく、「テラスド・ハウス (Terraced house) 」と「ド」 (d) を付けて ロンドンで長屋形式の住宅が、なぜ英語で「テラス・ハウス (Terrace 辞書によると 階段を数段上る形態になっています。 各住戸の 1 階床が表通リの地盤より高い位置にあり、 1 . 2. 3 . 建物のテラスを指し、家屋の母屋から突き出した部分で、基本的 に 1 階に造られ、「テラス = 盛上」という原義の通り、本来の地面よ りはやや高くなっている部分をいう。 河岸段丘、棚田、段々畑などの階段状になった地形を人工、天然 を間わずテラスという。 同じ形の住宅が側壁を共有して連続している長屋をテラスという。 ため、この名がある。 「テラス状地形の斜面に沿って建てられたもの」をこう呼んだ 元は、 英語の名詞にはそのままの綴りで動詞としても使われる語がたくさんありま す。 'Terrace' もその一つです。 'Terraced house' の 'Terraced' はその受動態で 50
1 ハウス (House) : 通リから直接入ることができる玄関があり専用庭が付いた住宅 ①デイタッチド・ハウス (Detached House) : 戸建住宅 ②セミ・デンタッチド・ハウス (Semi-detached House) : 2 戸建住宅 ③テラスド・ハウス ()e 「 raced House) : 3 戸建以上の長屋 2 フラツツ (FIats) : 各住戸がワンフロアで完結する集合住宅 * 平屋のバンガローはデイタッチド・ハウスの仲間です。 ロンドンの住宅形式の種類 イ 5 ハウス & フラツツ
デイタッチド・ハウスへの人々の強い希求 それまでのロンドンの市街地における住宅開発は、そのほとんどがテラス ド・ハウス (Terraced house: 長屋住宅 ) の供給でした。これを境に「テラスド・ ハウス」に替わって郊外住宅の王様に躍り出たのが「セミ・デイタッチド・ハ ウス」です。 20 世紀前半のこの王様の交代は、「住宅形式別建設戸数統計」 にもはっきり表れています。 セミ・デイタッチド・ハウスの建設戸数は、ハウス (Houses : 庭付き住宅 ) とフラツツ (FIats : 庭なし住宅 ) を合わせた住宅総建設戸数に対する割合が、 1900 年 ~ 1918 年に 14.5 % であったものが、 1919 年 ~ 1939 年には 46.3 % に 増大。一方、テラスド・ハウスの割合は、 47.1 % から、 1919 年 ~ 1939 年に は 27.5 % に減少。 明らかに 1919 年 ~ 1939 年には、住宅需要の主力が、テラスド・ハウスか らセミ・デイタッチド・ハウスに切り替わっています。これは、ロンドン市民がディ タッチド・ハウスに対してかねてから強い憧れをもっており、できれば住みた いと思っていたことを示しているのでしよう。 0 に デイタッチド・ハウス テラスド・ノ、ウス フラツツ ←ー 63 頁写真の撮影方向 0 ampstead Heath 0 工 0 0-0 0 0 19 凵年当時のキヤノン・プレイス回りの地図。 6-8
ハウス & フラツツ イギリス人にとって、庭はとても重要です。 通りから直接入ることができる玄関があり、専用庭がついた、 戸建住宅、 2 戸建住宅、 3 戸建以上の長屋がハウスです。 庭のないフラツツは、ハウスとは言えないのです。 住宅形式の種類 ロンドンの市街地住宅は、住戸のあり方によって右表のように 4 つの形式 に分類できます。表の上位にあるものほど敷地の使い方がゆったりした住宅 形式で、郊外で見られる割合が多い。また、下位にあるものほどそれが窮 屈で、中心市街地で見られる割合が多いものです。これを更に大別すると、「ハ ウス (House) 」と「フラツツ (Flats) 」の二つに分けることができます。右表の ① ~ ③のデイタッチド・ハウス (Detachedhouse) 、セミ・デイタッチド・ハウ ス (Semi-detached house) 、テラスド・ハウス (Terraced house) は、いずれも 末尾に、 House ' という言葉が付いていることでも分かるように 「ハウス」の仲 間です。ところが最後の「フラツツ」だけは、英語で「フラツツ・ハウス」とは 言わないらしく、「ハウス」から仲間はずれになっているようです。 「ハウス」と「フラット」の違い イギリスでは、通り (street) から直接住戸に人ることができる玄関が付い ていて、自分の住戸専用の庭 (private garden) が付いている住宅を、「ハウス」 と呼んでいるようです。一方、居室群がワンフロアで完結する住戸を「フラッ イイ
00d 5 し タ O 乂 ou っ High Street Kensington Sta 0 「 d Rd. Gd っ 5 ・ EIdon Rd. Kynance Mews 、 Ma 「ー0e5 Rd ・ 75 ・ CornwaII Gdns. Lexham Gdns ・ pennant Mews cromwell Rd. ハイ・ストリート・ケンジントン駅周辺市街地図。 ロンドンの「通り」の名前に使われている言葉一覧 庭 ( にわ ) 道 ( みち ) 公園 通り Street Park 庭園 道路 Gardens Road 中庭 並木道 Avenue Court 広場 道 Square Way 車道 丘 Drive Hill 林 小道 Lane Heath 歩道 森 Wood Walk Grove ( 0 し 0 家 ( いえ ) 郊外の庭付き住宅 Villas 長屋住宅 Terrace 屋敷 Place 三日月状の建屋 Crescent 連棟の馬小屋 Mews 小森 ロンドンの「通り」の名前に使われている主だった言葉を上に挙げてみました。 これを大別すると「道」「庭」「家」の 3 種類。純然たる「道」を意味するものは意外と少なく、多くが「庭」 か「家」を意味するものです。「庭」は「家の庭」を意味しますので、こに挙げた「通り」を意味する言葉 20 のうち 13 に「家」に因んだ名前が付けられています。このなかで最後に挙げた。 Mews ' は、自動車がな い頃の街のかたちを偲ばせてなかなか興味深い名前です。 29 アイヴァーナ・ガーデンズ
がそれを速やかにまとめていくことができました。そしてできあがったのが、 冒頭の写真のような、街区ごとにその通りに面して統一されたデザインのテラ スド・ハウス (Terraced house) が建ち並ぶ光景です。このかたちが、現在の ロンドンの街の原形になっています。 テラスド・ハウスは、各住戸が地下 1 階地上 3 ~ 4 階建の住戸を横に連結 した長屋形式の集合住宅です。各住戸に、通りから直接住戸に人ることが できる玄関が付いており、通りと反対側にその住戸専用の庭が付いています。 これは、市民の共通の夢である「戸建住宅に住む夢」をできるだけ多くの人 に叶えてもらおうと、ディベロッパーが「エステート」手法を駆使して街づくり をしてきた結果です。本来の夢とは少し異なりますが、それに近いかたちで 結実したものです。 現在では、中心市街地では住宅用地が希少になり、集合住宅開発の主 体は、テラスド・ハウス形式からより集積度が高いフラツツ (Flats) 形式に移っ てきています。その開発も「エステート」手法を用いて街区単位で行われるた め、テラスド・ハウスの特徴である各住戸のエントランス・ポーチが建ち並 ぶ光景から、各フラツツの共用工ントランス・ポーチが建ち並ぶ光景へと変 わったものの、同様にまとまり感のある街並みが壊されずに生き続けています。 ( フラツツが建ち並ぶ光景は「マルケス・ロードの猫」「アイヴァーナ・コート」 「アイヴァーナ・ガーデンズ」の章を参照下さい。 ) 集合住宅「エステート」開発手法
ガーデニングや庭で遊ぶことが大好きなロンドン市民にとって、住宅に庭が 付くことは当たり前でした。その当時のロンドン市民も、長屋住まいが多かっ た江戸の町民も、その意識に変わりがありませんでした。 ところが、前章でも述べたように、 18 世紀ジョージ王朝時代に海外植民 地や国内の農村から職を求めて人々が流人し、約 100 年の間にロンドンの人 ロは 100 万人から 800 万人に急増しました。その末期には、ロンドンの住宅 用地が少なくなるとともに、中心市街地の人口が過密になり、各住戸に庭が 付いたテラスド・ハウス形式の住宅開発では、急増する人口に対応できなく なったのです。そこに登場したのが、テラスド・ハウス形式より 1 住戸当たり の開発面積が少なくて済み、より高密度・高層化が可能なフラツツ (F1ats) 形式の集合住宅です。 2 戸 1 型フラツツの登場 テラスド・ハウスは、各住戸内の各階各室へのアクセスを階段に頼ります。 その上り下りを気にせずに生活できるのはせいぜい 3 ~ 4 階建が限度でしょ う。これでは住宅の高層化には対応できません。これを解決するものとして 登場したのが、産業革命の成果の一つである昇降リフトです。これを集合 住宅の共用の縦動線として使うことによって、それまでの主な住宅開発手法 であった住戸を横に繋げるテラスド・ハウス形式の住宅開発のほかに、住戸 を縦積みにするフラツツ形式の住宅開発が加わりました。 フラツツの「通り」に対する取り付き方は、テラスド・ハウスと同じです。テ ラスド・ハウスが「通り」に各住戸の玄関が取り付くのに対して、フラツツは プ @High Street Kensington Kensington, London W8 6TN アイヴァーナ・ガーデンズ 26-
アイヴァーナ・ガーデンズ 2 イ が付いた住戸を 3 住戸以上横に繋げた長屋形式のものをそう呼びます。当時、 ラスド・ハウス (Terraced h 。 use ) 形式がほとんどでした。各住戸に庭 (Garden) のジョージ王朝時代に建設されたジョージアン・スタイルの集合住宅は、テ この形式は、ヴィクトリア朝時代になって初めて登場したものです。その前 人口急増 になっています。 そこから共用玄関を通って 1 階の共用リフト乗降ロビーにアクセスできるよう して各ユニットに一カ所ずっ真っ白なスタッコ塗りの共用ポーチが設けられ、 ナ・コート、アイヴァーナ・ガーデンズともに 4 ユニット構成です。通りに面 構成一式を最小ユニットとして、通常、数ユニットを連接させます。アイヴァー 施設を設け、それらの共用動線を介し各住戸にアクセスする形式です。この 置し、 2 住戸間の中央にリフト、その乗降ロビー、階段、シャフトなどの共用 ル (Victorian style) の 2 戸 1 型フラツツです。この形式は、各階に 2 住戸を配 トと同じく 19 世紀後半のヴィクトリア朝時代に流行ったヴィクトリアン・スタイ て 4 ~ 5 分のところにあります。アイヴァーナ・ガーデンズもアイヴァーナ・コー イ・ストリートの裏通りに面し、ハイ・ストリート・ケンジントン駅から歩い イヴァーナ・ガーデンズ (1vernaGardens) を紹介します。ケンジントン・ハ 本章では、前章で紹介したアイヴァーナ・コート (lverna court) の隣のア 真っ白なスタッコ塗りのポーチ よリ高密度・高層化が可能なフラツツ形式の集合住宅が求められたのです。 18 世紀、ロンドンの人口が 100 万人から 800 万人に急増しました。
すると、次のメリットがあります。 地階部分が半地下になり、上工事が縮減。全地下形態よりコスト ダウンを図ることができる。 地階ドライエリアに面して設ける窓の上部が表通りの地盤より上に 出る状態になり、窓から人る外光や外気の量を増やして、地階を 居住可能な環境にすることができる。 中心市街地のテラスド・ハウスは、フロント・ガーデンの奥行がな いため、通りに面した 1 階の部屋が、歩道の人から内部をのぞかれ 置にある。通常、その部屋は、それを考慮して比較的プライベート 性の低い客間 (Drawingroom) などにしているが、 1 階を半階上が りにすることで、部屋内にいる人からは上から下を見下ろし、歩行 者からは逆に見上げるかたちになるため、互いの視線が外れて気に ならなくなる。 3. 2. 1 . 5 イ スの形態が一般化したことから生まれたのでしよう。 ℃ round 。 r ' を盛上し、第 asement ' を居住空間化した、このテラスド・ハウ 、 Basement ' には「基礎」という意味もあります。このイギリス独特の階の呼称も、 イギリス英語では「 1 階」を℃ round floor ' 、「地階」を 'Basement' といい、 定着したのだと思います。 の上にある家」のように見え、「テラスド・ハウス」の名がそのまま呼称として と経済力に合致して長屋住宅の定型として普及し、その姿があたかも「台地 盤より半階上げる形態」を思いついたのでしよう。これが市民の生活スタイル そこを居住空間として利用することを考えた知恵者が、この「 1 階床を敷地地 礎の根人れ深さが必要です。基礎は埋め戻しをしないと空洞になりますが、 3 ~ 4 階建のテラスド・ハウスには、敷地地盤の地耐カ上、ある程度基