な。それがわかれば、二人が、殺された理由も、 ったが、手術室の前まで来て、亀井が、こちらに こ、つさ 向って、手を交叉させるのを見た。 殺した人間の想像もついてくる、 「しかし、どうやって、調べます ? 」 「駄目だったのか ? 「女の方だが、伊東のホテルでは、住所を、世田 「残念ですが、森和行は、亡くなったそうです」 谷区世田谷 x 丁目のコーポ富士 301 号と、書い と、亀井が、いった。 ( 参った ) ていたそうだ」 と、十津川は、心底、そう思った。容疑者の顔「その住所は、でたらめで、内村かおりという女 しなくなってしまった や声を知っている人間は、ゝ は、そこには、住んでいなかったんでしよう ? 」 のだ。 「そうだ。だが、マンションは、この住所に、実 だが、何とかしなければならない 在する。ただ、そこには、内村かおりも、それら 「とにかく、森が死んだことは、しばらく、内密しい女も、住んでいなかったんだよ」 死 にしておこう」 「それで、どうします ? 」 の と、十津川は、気を取り直して、いった。容疑「彼女は、その実在するマンションを、書いたん る 者を、安心させることはないのだ。 い、つことは、このマンションと、何らか達 配 「これから、どうします ? 」 の関係があるんじゃないかね。友人が、住んでい 亀井が、十津川の顔を睨むように見た。 るとか、前に、住んでいたとかだ」 「小林誠と、彼の女が、何をしたのか知りたい 「調べてみましよう」
われたくなかったんだろう。桃源台からは、タク「それで ? シーに乗ったと思、つよ」 「十五、六分したら、出て来ましたよ。ドアを開 と、十津川は、いった。 けて待ったら、あの客は他のタクシーを拾って、 桃源台に着くと、二人は車を降り、片っ端から乗って行ってしまったんです。どうなっているの タクシーをつかまえては、五月二十一日の午後一一かと、思いましたよ」 運転手は、怒ったような声を出した。 時頃、野口を乗せなかったかと聞いた。 三時間くらいしたろうか 「それは多分、あんたに顔を覚えられたくなかっ 個人タクシーの運転手が、二十一日に野口らしたんだよ」 と、十津川は、いった。 い男を乗せたといった。 これで、全て、わかったと思った。 「何処まで、乗せたんだね ? 」 野口は、姉を助けようと思い、タクシーを拾っ と、十津川は、その運転手にきいた。 「何とかいうレストランの前ですよ」 て、桃源台から姉のいるレストランビルに急い 「殺人事件のあったレストランビル ? 」 「ああ、そうです。そのビルですー タクシーに待っているようにいったのは、その 時点では誰も殺す気はなく、姉を脅かしている奈 「そこで、客は降りたんだね ? 「ええ。待っていてくれといわれたんで、待って津子を追い払い、すぐ元箱根に急ぐためだったか らだろ、つ。 いたんですよー 、よ」 0
みかみ 三上刑事部長、本多捜査一課長、それに、十津 「ど、つ思、つね ? 川警部の三人が、記者会見に、現われた。 佐藤は、その手紙を、若い青木記者に見せた。 まず、三上が、立ち上って、 「鉄道マニアですかー 「あの写真だけで、どこで撮ったか、わかるのか「もう、お察しの方もいると思いますが、今日、 でんえんちょうふ ね ? マニアというのは 午前十時頃、田園調布で、誘拐事件が発生しまし 「かも知れませんね。作者の返事が聞きたいとあた。人命にかかわるので、皆さんの協力を、お願 いしたいのですー りますから、二位に入った前原さんに、この手紙 まわ 誘拐事件での報道管制は、常識になっているの を廻しておきますか ? 」 で、各社とも、了承した。 「そうだな。そうしてくれ いった。 くわしい事件の経過を、十津川が、説明した。 と、佐藤は、 けんいちろう 「田園調布 x 丁目に住む、会社社長、星野健一郎 氏 ( 四二歳 ) の長男で、中学三年の星野勇君 ( 一を 四歳 ) が、今朝、登校途中で、何者かに、誘拐さ関 機 それきり、佐藤も、若い青木記者も、中学三年れました。目撃者は、まだ、見つかっていませ 君 ん。犯人からは、お宅の子供を預かっているとい 生の手紙のことは、忘れてしまった。 一月二十三日の午後一時を過ぎた時、突然、警う第一声が、入っただけです」 「星野勇君は、一人っ子ですか ? 視庁捜査一課に、各社の代表が、呼ばれた。 あおき がわ ほんだ とっ
は消えてくれない んですー 「大丈夫ですか ? 相変らずの激痛に顔をしかめながら、石田は、 いった。 月が、心配そ、つにのぞき込んだ。 「犯人は、どうしたんだ ? 「部屋は荒されていましたが、犯人が現金や預金 まゆ と、石田は、眉をひそめながら、きいた。 通帳に手をつけた形跡はなく、荒したのは、暗室 「僕を見て、あわてて裏口から逃げて行きましと、カメラのある部屋です。石田さんが、カメラ た。追いかけようと思ったんですが、石田さんマンだということを考えると、どうやらあなたが が、血だらけで倒れているんで、とにかく救急車撮った写真が目的だったと思いますね」 を呼ばなきやと思いましてね。警察にも連絡して「写真 ? おきました」 「そうです。よくあるケースで、カメラマンが何 と、小林は、いった。 気なく撮った写真が、ある人間には都合が悪いと胡 病室のドアが開いて、四十五、六歳の男が入っ いうことで、自分が写っているフィルムを奪おう芦 て来た。その男が、石田に黒い警察手帳を見せとするわけです。最近、何か、撮られました箱 の て、 か ? 」 み 「警視庁捜査一課の亀井です。襲われたことに、 「箱根へ行って、富士を撮って来ましたよ 何か、心当りがおありですか ? 「それかも知れませんね」 「いや、全くありません。犯人の顔も初めて見た「しかし、刑事さん。僕が撮ったのは、富士で、 かめい
偶然の出会いの人間なら、そんな面倒な細工をす 愛称である。それだけ、少年は、旅行が好きで、 る必要はないと思うのです」 鉄道マニアだったということでもある。 「あまり、他人に憎まれるようなところは見つか「そうだな」 うなず と、十津川は、肯いた。 りません . しった。 また、壁に、ぶつかりそうな気配がしてきた。 と、亀井は、十津川に、、 「二匹の飼大だがね。人を噛んだというようなこ 8 とはないのか ? 「調べてみましたが、ありません。二匹ともダッ クスフントで、凶暴なところはありませんし、庭中央新聞社会部デスクの佐藤から、十津川に、 が広いので、散歩も、その庭でさせていたようで電話が、入ったのは、そんな時だった。 今度の事件のことで、提供したい情報があると すから。 いうので、十津川は、すぐ、会いに出かけた。 「鉄道マニアという点が、今度の事件に、関係し 佐藤には、二度ほど会ったことがある。 ているというようなことはないのかね ? 」 十津川が、聞かされたのは、プルートレインの 「あるとすると、旅行先で、何かあったというこ とでしようが、今のところ、わかりません。しか写真のことだった。 し、もし、旅行先で何かあったとすると、犯人「今度の事件とは、関係ないかも知れませんが、 どうも、気になったものですからね は、なぜ、誘拐に見せかけたのかわかりません。 ひと 230
亀井は、五十六枚の写真を預かって、警視庁に 帰った。 と、石田は、いった。 とつがわ 「それなら、なぜ、あなたは狙われたんです上司の十津川警部に、それを見せた。 「すっかり、予想が外れました。てつきり何か、 か ? 」 「そんなこと、僕にはわかりません。誰かに、間犯人にとって不利なことが、写っていると思って いたんですが 違えられたのかもーーーー」 「殺人が、写っているとかか [ 「プロのカメラマンに、同姓の方がいますか ? 「ええ。先輩に、石田美津夫という人がいます「そうでなくても、そこにいる筈のない人間が写 っているということがある筈だと、思ったんです がねえ。ご覧のように、人間は一人も写ってない 「その人と、あなたを取り違えたかな ? 」 んですよ。当外れも、いいとこです」 亀井が、眼を光らせた。が、 すぐ小林が、 別の理由で襲われたということか 「石田美津夫さんは、もう八十歳近くて、ここ数「石田は、」 年病床にあって、写真は全く撮っていませんよ」ね ? と、いった。 「かも知れません。 「殺人未遂で、捜査を進めよう。写真が動機でな あつれき いとすると、石田の女関係や借金、仕事上の軋轢 などが、動機とい、つことかな」 よ みつお はず 162
とス仲居が、 ~ さノ。 ねーと、笑った。 「去年の八月に焼けた「ひがしやま』という土産「違うんですか ? 」 物店のことです」 と、亀井が、きいた。 と、十津川は正直にいった。 「これは、内緒にして下さいよ。あの奥さん、浮 ろう ここは、東京ではない。策を弄する余裕はない気をしてたんですよ」 と思ったからである。正直に行動し、何とか、情「浮気 ? 」 報収集を、図りたいと思っていた。 十津川は、首をかしげた。死んだとき、飯沼良 仲居は、ニッとした。 子は、四十五歳、もちろん、まだ、十分に若い 「やつばりね。あの店は、この近くなんですよ が、写真で見る限り、平凡な主婦の感じだったか らである。 「店の主人が、奥さんと、焼死したんでしたねー 「ええ」 「ええ。それで、ご主人の飯沼さんが、無理心中 「放火という説もあるそうですね」 を図ったんじゃないかって」 し、つ 「ええ。ガソリンをまいて火をつけて、無理心中 と、仲居は、、 したって噂が、流れたんですよ [ 「浮気の相手は、誰だったんですか ? この土地 「なぜですか ? 仲のいい 夫婦だったと聞きましの人 ? たが」 と、十津川は、きいた。 と、十津川がいうと、仲居は、「ええ、まあ「土地の人なら、噂になって、大変でしたよ。狭
れていました。車の持主は、アメリカ人で、関係 「どうしたんですか ? はないと思われます と、十津川は、きいた。 「私も、そちらへ行く 何か、ただならぬものを感じたのだ。 と、十津川は、いった。 「もしもし」 かめい 十津川と、亀井刑事は、戸浦警部を案内し、 「すぐ来て下さい ! 」 トカ 1 で、ホテル Z に向った。鑑識も一緒であ フロント係が、叫んだ。 る。 「どうしたんです ? 「ホテル内で、今、死体が見つかったという知ら先に行っていた西本が、十津川を、地下駐車場 に案内した。 せがあったんです。地下駐車場だそうですー 地下一階、二階にある駐車場である。その一角 フロント係は、それなり、電話を切ってしまっ に駐めてあるプラウンのリンカーン・コンチネン 十津川は、まず、西本ら若い刑事たちを、ホテタルだった。 死体は、すでに、トランクからコンクリートの ル Z に、急行させた。 床に、出されていた。 一時間して、その西本から、連絡が入った。 あおむ 二十五、六歳に見える男である。仰向けにされ 「殺人です。殺されたのは、西田誠でしたー 「やつばり、そうか , た、背広姿の男の首には、ネクタイが、巻きつい 「死体は、地下駐車場の車のトランクに放り込まている。 、」 0 110
しているところを、背後から、殴り殺されている と、広田はいった。 からです」 「そうです。証拠はありません。しかし、これか ってるのか、わかりませんら、見つけますよ。すぐ、見つかると思っていま 「何を、ごたごた、い ねー す。飯沼善治は生きているし、芸者のめだかも、 「そこで、私は、別の考え方をしました。原田証一言するでしようからね , いった。 は、ずっと、飯沼由美を、見張っていた。あなた と、十津川は、 の命令でね。その間に、皮は、だんだん、彼女に 対して、同情するようになっていったんじゃない かとです。或いは、原田は、若くて、美人の彼女 にれたのかも知れない。そして、あなたに、も十津川は、ホテルに戻ると、東京の西本刑事か う、こんなことは止めたいと、電話した。あわてら電話があったと、伝えられた。 たあなたは、急いで、東京に行き、原田に会っ 部屋に入って、電話をすると、西本が、 た。あなたは、原田に向って、わかったといい、 「さっき、男の声で、電話がありまして、飯沼由 油断させておいて、背後から、スパナか何かで、美が、行方不明だから、捜してくれというので 殴り殺した。そう考えたんですよー す 「バカバカしい。一つとして、証拠がない話じゃ ありませんか」 「はい
「なぜ、私のあとを、つけさせたりするんです 覆面パトカーが、見つけ出すだろう。 十津川の予想は、適中して、星野のべンツが、 と、声をふるわせた。 邸から、二百メートル走ったところで、覆面パ 「それは、犯人が、電話でいったんですか ? 」 カーの一台が、尾行を始めた。 ノトカ 1 の無線電話で、刻々、伝十津川が、きき返した。 その状况は、ヾ えられてくる。 「そうですよ。犯人が、電話をかけて来て、警察 星野は、山手線の内側を、時速四十キロから五の車が、尾行している。約東が、違うといったん ですよ。犯人が怒って、息子が殺されでもした 十キロで、ゆっくりと、車を走らせていた。 ら、どうするんですか ? 責任をとってくれます 「今、自動車電話を取りました」 という、覆面パトカーの無線電話が、飛び込んか ? 」 「尾行といっても、覆面パトカーですし、車間 でくる。 かなりあけて、尾行した筈ですから、犯人 その後も、一時間近く、べンツは、都内を走っは、 ていた。 が、気付いたとは思えません。多分、はったり 急に、星野は、車の方向を変え、まっすぐ、田を、かけて来たんだと思いますー 「はったり ? 」 園調布に帰って来てしまった。 けんせい 部屋に、青い顔で入って来るなり、星野は、十「そうです。牽制といってもいいですよ。そうい って、警察が動いていないかどうか、調べている 津川に向って、 やまのて はす 218