「そんな者は、知りませんよ。急用があるんで亀井も、タイヤを射った。 す。どいてくれませんか。 シーマは、それでも、走り続けたが、今度は、 「彼女が、ここへ入るのを、見ているんです。何溝に落ちた。 処ですか ? 」 十津川と亀井は、走った。 と、十津川が、迫った。 シ 1 マの運転席のドアが開いて、広田が、必死 「知らんと、いっているでしよう」 に、抜け出そうとする。 と、広田は、 しし、いきなり、アクセルを、踏亀井が、その腕をつかんだ。 んだ。 「あんたらを、訴えるぞ ! 」 車が、はねるように、急発進する。十津川が、 と、広田が、叫んだ。 はね飛ばされ、前にいた亀井が、あわてて、身を十津川は、それには構わず、 避けた。 「トランクを開けて下さい」 けんじゅう しった。 十津川は、転がったまま、拳銃を取り出し、安 と、広田に、、 全装置を外し、車のタイヤめがけて、引金をひい 「なぜ、開けなきゃいけないんだ ? 」 と、広田が、怒鳴る。 一発、二発、当らない。 「じゃあ、勝手に、開けさせて貰いますよ」 しった。 三発目が、左の後輪に命中した。ハ、 ゾドルを取と、十津川は、 ) られて、電柱に、車体をこすりつける。 運転席から、キーを引き抜き、十津川は、トラ
広田の話したことは、ほば、十津川の推理した 通りだった。 かつろう 兄の広田克郎が、社長の時、弟は、一応、副社 長だったが、それは、名前ばかりで、兄の権限ば かり強く、何も決められない副社長だったと、い 兄がいる限り、何も出来ないと思い、いっか、 兄を、社長の椅子から蹴落としてと、考えていた と、広田は、話した。 飯沼善治は、それから二日後に、警察に出頭し 、」 0
たんだが、借金の担保になっていました。夫婦が 〈所有者興業〉 亡くなって、生命保険が入りましたが、借金の全 額を払う額がなかった。そこで、信金が、売却し と、書かれていた。 十津川たちは、そこに書かれた住所に、興業たわけです。それを、うちが、買ったというわけ です」 を訪ねてみた。 「それなら、時価より安く入手したわけです 会津若松駅前にある会社である。五階建ビ か ? 」 ルで、ホテルの経営、駐車場の管理、それに、パ チンコ店なども、やっているらしい 「少しはね。しかし、東京にいる娘さんのことも ひろた 十津川たちは、広田という四十代の若い社長にありますからね。彼女にも、まとまったお金を渡 したいというので、奮発させて貰いましたよ。そ 会った。 男 十津川は、彼に、あの焼け跡のことについて、 れで、娘さんにも、かなりの金額が、渡った筈で て 聞いてみた。 すー っ 乗 と、広田は、いった。 「あの土地が、どういうことで、こちらの所有に この発言の真偽が知りたくて、十津川と、亀井線 なったか、それを伺いたいのです」 しった。 と、十聿Ⅱは、、 は、東山信用金庫に廻って、理事長に会って、話中 うなず を聞いた。 広田は、「あの土地ですかーと、肯いて、 さわき 「あそこは、土産物店でしてね。夫婦でやってい 沢木という小柄な理事長は、広田の話につい
ンクを開けた。 いう知らせが届いた。 着物姿のめだかが、 身体を曲げて、トランクの 十津川の思った通り、彼女の隣室のクラプホス はやかわ テス、早川あずさ、三十歳が、由美を、自分の部 中に、押し込まれていた。十津川は、手首に触っ てみた。が、 すでに、脈は、消えてしまってい 屋に、監禁していたのである。 る。 西本刑事からの電話によれば、あずさは、突 あと 首のところに、赤黒い内出血の痕が見えた。強然、夜おそく、訪ねてきた男に、隣室の飯沼由美 いカで、のどを絞めて、殺したのだろう。 の監視をたのまれたという。その男は、ポンと、 「あんたが、殺したんだな ? 百万円を、あずさに渡して、指示どおりに動いて と、十津川が、声をかけると、広田は、黙っくれれば、更に、百万、二百万と、支払うといっ て、眼を伏せてしまった。 男 亀井が、電話をかけ、東山警察署から、パトカ うさん臭いと思ったが、バブルが弾けて、店に ー二台が駈けつけた。 来る客も減り、困っていたところなので、相手のて 乗 めだかの死体も、いったん、東山警察署に運ば話にのった。 線 れた。 男は、自分の名前をいわなかったが、彼女のい 央 中 広田は、最初、黙秘をした。が、結局、めだかう顔立ちから、広田と断定して良さそうだった。 の死体を前にして、黙秘も、続かなかった。 この話を伝、んると、広田は、がつくりして、自 それに、東京から、飯沼由美が、見つかったと供のスピードが、速くなった。
て、顔を見合せた。 れないだろう。だから、興業の広田という社長 「面白くなってきましたね」 に、もう一度会って、圧力をかけてみる」 と、亀井が、いった。 「その結果、どうなると思われますか ? 」 「ああ、面白くなってきたよー と、亀井が、きいた。 と、十津川も、いった。 「われわれの推理が当っていれば、何らかのアク 今まで、考えてきたストーリイの中で、埋めら ションを起こすと思、つよ」 しった。 と、十聿日は、、 れなかった部分が、これで、埋まったような気が したのだ。 翌日、亀井は、めだかのいる置屋に行き、十津 問題は、それが、犯罪に結びつくかどうかとい 日は、 *-æ会津若松駅前の興業に行き、もう一 うことである。いや、実際に、結びついて、原田度、社長の広田に会った。 という男が殺されているのだから、なぜ、犯罪に 「まだ、何かご用ですか ? 結びついたかという疑問である。 と、広田は、微笑して、きいた。が、前に会っ 「カメさんは、めだかという芸者に当ってみてく た時よりは、緊張しているようだった。 れ」 「東京で殺された原田勝之という男の件ですが と、十津川は、いった。 ねー 「警部は、どうされますか ? 「それは、もう、警察にお話ししましたよ。前 「東山警察に話しても、この段階では、動いてく に、うちで働いていたとい、つことはあるが、九月
に辞めた男ですと。つまり、今は、うちとは関係人間だったんですよ。それが、尾を引いて、今 度、原田勝之さんが、殺されたんですー がないんですー 広田は、肩をすくめるよ、つにした。 「そんなバカな。じゃあ、八月に、焼死したの 「実は、あれから、いろいろなことが、わかりまは、誰なんです ? してね。この事件には、何人もの人間が、関係し「あなたのお兄さんですよ。当時、この会社の社 長さんだった」 ているんです。あなたもですー と、十津川は、いった。 と、十津川は、いった。 広田は、眼をむいて、 「私が ? 」 「そうですー 「冗談じゃない。私の兄は、フィリッピンに行っ てますよ。その後、消息がないんで、向うで殺さ 「私が、、、 とう関係しているんですか ? 」 男 れたんじゃないかと、心配しているんです」 広田は、用心深い眼になって、十津川を見た。 「去年の八月に、土産物店『ひがしやま』が焼け「お兄さんは、やり手だが、いろいろと問題があて ました。放火です」 った。わがまま、乱暴、女にだらしがない。芸者乗 「ええ。知っていますよ。あれは、店の主人の飯のパトロンになっていたし、人の奥さんにも、手線 沼善治が、奥さんと無理心中したんですよ。夫婦を出していた。例えば、飯沼良子さんにもです。中 そんなことで、奥さんも愛想をつかして、別れて の間に、何があったのか知りませんがね」 「焼死したのは、飯沼善治さんじゃなくて、別のしまった。八月のあの夜も、お兄さんは、飯沼善
したら、広田は、別の人間を、傭うより仕方がな 「私の予測が当っていれば、広田は、めだかを何 かった筈である。 とかしようとする筈だよ。危険な存在になってく だか、東京に、簡単こ、 。し、つことを聞く人 間る筈だからね」 を、置くことは難しい。そこで、ホステスと思わ しった。 と、十津日は、、 れる、由美の隣室の女を、金で、味方につけたの 日が暮れて、そろそろ、芸者が、活躍する時間 にろ、つ である。 今度は、亀井から、電話が、かかってきた。 眼の前の置屋からも、一人、二人と芸者が、自 「今、めだかのいる置屋の傍にいます。彼女には動車で、出かけて行く。 会って、少し、脅しておきました」 「あ、めだかです」 「私も、興業の社長の広田を、脅しておいた と、亀井が、小声で、いった。 よ。彼女は、今、置屋にいるのか ? 彼女が、他の芸者一二人と、マイクロバスで、出 「そ、つです」 かけるところだった。 「私も、すぐ、そこへ行く。場所を教えてくれ」 十津川は、待たせておいたタクシーで、亀井 しった。 と、十津川は、 ) と、そのマイクロバスを、追跡した。 何軒かある置屋の一つに着くと、亀井が、近寄東山温泉のホテルの一つで、三人の芸者がおり って来て、 めだかは、おりなかった。 「彼女は、まだ、中にいます」 彼女だけを乗せて、更に、二百メートルほど走 やと
十津川と、亀井は、じっと、待った。一時間少 ったところで、とまった。温泉街から、離れたと ころだった。 しして、急に、ついていた建物の中の電気が、消 えた。 めだかがおり、マイクロバスは、帰って行く。 彼女は、ひとりで、歩き出した。企業の保養所代りに、車庫に明りがっき、車のエンジン音が 聞こ、んてきた。 が集っている地区で、彼女が入っていった建物に プルーのニッサンシーマが、ゆっくりと、出て は、興業の名前が、出ている。 来た。運転しているのは、広田だった。 十津川と、亀井も、タクシーをおりた。車は、 ふさ 帰して、二人は建物に近づいた。 十津川と、亀井が、その前に、立ち塞がった。 広田が、驚いて、プレーキを踏んだ。彼は、運 「広田が、呼んだんだろう」 転席の窓を開けて、 と、十津川は、小声でいった。 男 建物の中は、ひっそりと、静まり返っている。 「何をするんですか ? 危ないじゃありません て 芸者のめだかを呼んだのに、中で、宴会をやっか ! 」 っ 乗 と、怒鳴った。 ている気配はなかった。 線 中に入ることが出来ないので、十津川と、亀井十津川は、傍に近寄って行って、 央 、つ・カカ 中 は、外から、中の様子を窺うより仕方が、ない 「彼女は、どうしましたか ? 」 三十分、四十分とたったが、中から、何の動き「彼女って、何のことですか ? も、聞こえて来なかった。 「芸者のめだかさんですよ」
りませんか」 が、わかりました」 十津川は、殺された原田勝之の写真を、署長に 「興業 ? 広田社長の会社ですか ? ー 見せた。 「そうですー 「この男が、何かしたんですか ? 」 「それは、興味がありますね。どうして、興業 と、署長がきく。 を辞めたんですか ? 「東京で殺されました。それに、本籍が、この会 「会社の話では、東京に行って、何かやりたいと 津若松なので、ご存じないかと、思いましてね いうので、惜しい人材だったが、 喜んで、送り出 「ここから、東京に出て行った人間は、多いですしたと、いっていますー からねえ」 「会社を辞めたのは、いっ頃ですか ? と、署長は、 ) : 調べておきましようと、 「去年の九月です」 ってくれた。 「あの火事があった直後ですね , その夜、ホテルにいた十津川に、署長から電話「まあ、そうですが、関係は、ないと思います が入った。 「お預りした、写真の男のことですが」 と、署長は、いった。 と、署長は、いう 十津川と、亀井は、そのあと、ホテルの大浴場 「何かわかりましたか ? に入った。 「あの男は、前 リに、興業で、働いていたこと広い、ゆったりした風呂だった。先客がいた よ ふろ
しているところを、背後から、殴り殺されている と、広田はいった。 からです」 「そうです。証拠はありません。しかし、これか ってるのか、わかりませんら、見つけますよ。すぐ、見つかると思っていま 「何を、ごたごた、い ねー す。飯沼善治は生きているし、芸者のめだかも、 「そこで、私は、別の考え方をしました。原田証一言するでしようからね , いった。 は、ずっと、飯沼由美を、見張っていた。あなた と、十津川は、 の命令でね。その間に、皮は、だんだん、彼女に 対して、同情するようになっていったんじゃない かとです。或いは、原田は、若くて、美人の彼女 にれたのかも知れない。そして、あなたに、も十津川は、ホテルに戻ると、東京の西本刑事か う、こんなことは止めたいと、電話した。あわてら電話があったと、伝えられた。 たあなたは、急いで、東京に行き、原田に会っ 部屋に入って、電話をすると、西本が、 た。あなたは、原田に向って、わかったといい、 「さっき、男の声で、電話がありまして、飯沼由 油断させておいて、背後から、スパナか何かで、美が、行方不明だから、捜してくれというので 殴り殺した。そう考えたんですよー す 「バカバカしい。一つとして、証拠がない話じゃ ありませんか」 「はい