感じ - みる会図書館


検索対象: 中央線に乗っていた男
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1. 中央線に乗っていた男

「八月に、どんな形で、彼女の父親は、死んでる「あれは、他人の空似だって」 んだ ? 「あのスケッチだがねえ。あの人物だけ、まわり 「彼女は、今、東京で、をやってるらしいんの男女より、克明に、描いてあったような気がす るんだが」 だが、実家は、福島で、土産物店をやっていた。 それが、去年の八月に、火災になり、両親が焼死「ああ、車内風景といっても、興味を感じる乗客 と、あまり感じない乗客がいるからねー した。その父親だというわけだよ」 「じゃあ、興味を感じたんだな。あの男に」 と、新見はいった。 「ああ。あの日は、確か、おそく高尾から乗った 「なかなか、面白いな」 まゆ と、十津川が、いうと、新見は、眉をひそめんだよ。午前十時半頃だ。だから、空いていた」 いった。 て、 と、新見は、 男 それで、向い合った座席の乗客を、じっくり観 「君は、呑気に、面白いというがねえ。こっち て は、彼女に、あの男について、どんな様子だった察できたのだと、いった。 っ かとか、どこで降りたかとか、しつこく聞かれ「あの男は、始発の高尾で、乗った。興味を持っ乗 たのは、サラリー マンにも見えないし、と、い て、参ったよ」 央 「そりゃあ、死んだと思った父親が、生きているて、何か、商売をやってる人間にも見えない。仕中 らしいとなったんだから、必死になって、あれこ事がわからなかったからなんだ。眼鏡の奥の眼 れ聞きたがるのは、当然じゃないか , も、何を見ているのか、わからない感じでねー のんき

2. 中央線に乗っていた男

ことにした。 人間じゃありませんよ 小林が、現像ずみのフィルムを病院に運んでき 「それでも、偶然、ある人間が、あなたの写真の 中に入ってしまったということはあるんじゃあり 「すごい量ですね , ませんかね」 あき と、亀井刑事が、感心したような呆れたような と、亀井刑事は、いう。 声を出した。 「それはないと思うんですがねえ」 、犯人は、盗むことが出来ずに逃げま「一回で、百本から二百本ぐらい撮りますから 「とにかノ \ ね。特に、景色を撮る場合は、一瞬、一瞬、景色 した。それで、石田さんが箱根で撮った写真を、 が変化するので、数が必要です」 見せて欲しいんですがー と、石田は、いった。少しずつ頭の痛みは、う 、別に殺されたわけじゃないんだ 「しかし、僕は すらいでくる感じだった。 から 「また、狙われますよ。次には殺されるかも知れ「しかし、私から見ると、同じ景色が何枚もあり ない。それを防ぎたいんです。箱根で撮って来たますがねえ」 「いや、それは違いますよ。太陽は刻々位置を変 写真を、全部、見せて下さい えているし、雲も風も変化するんです。厳密にい 「わかりました」 、つなず えば、一つとして同じ風景は無いんですよ」 と、石田は、肯いた。 自分では動けないので、小林に取って来て貰う 「それはわかりますが、私たちはそういうように 158

3. 中央線に乗っていた男

たことを、まず、静岡県警の戸浦警部に、報告し冷静な感じを受けるのだ。 静岡県警への電話をすませると、三宅信彦とい う男について、調べることに、全力をあげると、 「内村かおりが、本名かどうかは、まだ、わかり ませんが、問題のマンションの三宅信彦という男刑事たちに告げた。 東京陸運局に、協力して貰って、三宅の車、べ と、何らかの関係があったと、考えていますー 「男と、女の関係ということですか ? もし、そンツのクーベタイプについて、そのナンバーを、 うだとすると、また、三角関係のもつれの殺人と調べることにした。 いうことになってしまいますね。若い彼女に、若その一方で、同業の経営コンサルタントの何人 い男が出来たのに、嫉妬して、その三宅という男かに会って、三宅信彦のことを、聞くことにし が、二人を殺してしまったという」 戸浦が、いう。 だが、誰に会っても、三宅信彦という経営コン 「そうかも知れませんが、私は単なる三角関係とサルタントなど知らないという返事しか、返っては の 来なかった。 は思っていません」 る と、十津川は、自分の考えを、いった。 「なんでも、コンサルタントといえば、 いと思達 単なる三角関係で、嫉妬にかられての殺人な ってるんじゃありませんか」 ら、もっと、単純で、激しいものを感じる筈だと と、同業者の一人は、十津川に、笑ってみせ 思うのだ。それなのに、今回の事件からは、妙に

4. 中央線に乗っていた男

「ど、ついうことなんだ ? と、亀井が、きいた。 と、十津川が眉をひそめて、きいた。 「僕は、関係者ですよ。その僕が証言したって、 野口は開き直った感じで、ニャッとして、 信用されない恐れがある。第三者が同じことをい 「正直こ、、 しししましよう。芦ノ湖の桃源台で、あのってくれたら、信用してくれるだろう。そう思っ 二人をビクトリア号に乗せました。その日の朝、 て、あのお客さんに頼んだんですよ。少しばか ここに住み旅行社をやっているのに、ビクトリアり、脅したのも事実です。僕も、興奮してました 号に乗ってなかったことを思い出しましてね。やから。事実をいって貰うんだから、偽証とも思い はり一度は乗っておかなければと思って、あわてませんでした」 て乗ったんですよ。ただ、あの二人は、社長と愛「嘘をつくな ! 」 人だとわかってましたから、邪魔しちゃいけない 亀井が、怒鳴った。が、 野口は平然として、 と思って、離れた場所に腰を下ろして、窓から湖「嘘はついていませんよ 岸を見ていました。そして、入江社長が奈津子に 「往生際が悪いぞ ! 」 突き落とされるのを、見たんですよ。あの時のシ 「カメさん」 ョックは、まだ覚えてますよ。思い出すと、ふる と、十津川はいい、亀井を連れて外へ出た。 えが来るんです [ 「それなら、なぜ、ひとりで証言しなかったん 199 恨みの箱根芦ノ湖

5. 中央線に乗っていた男

いかにも、中年の独身男の匂いのする部屋であ「飯沼由美を、尾行するのも、その仕事だったの る。事務所も、寝室も、掃除が行き届かず、汚れかな」 ている。コンサルタントの仕事が、うまくいって「彼女を尾行していたというのは、事実なんです いたという感じはない。それなのに、高価な感じか ? 「ああ。間違いない。それに、彼女が住んでいる のゴルフセットが無造作に放り出してあったり、 のは、阿佐ヶ谷駅の近くのマンションだよ。 新車のソアラを乗り廻していたのだ。 「ここで、仕事をしていたという感じはないね」原田が殺されていたのも、その近くだ」 と、十津川は、いった。 と、十津川は、事務所を見廻した。壁にかかっ たスケジュールポードには、何の記入もないの 「それでは、昨夜も、彼女の監視に、阿佐ヶ谷へ 、ら」 0 行っていたんでしようか ? 」 男 「コンサルタントの看板は、見栄か、何かを隠す「多分ね。そして、殺されたんだろう」 て しった。 と、十津日は、 ) ためのものかも知れませんねー っ と、亀井は、いった。 「問題は、誰が、何のために、原田に、飯沼由美乗 線 「コンサルタントの名前の陰で、何か、ダーティの監視を頼んでいたかですね」 央 中 な仕事をやっていたということかな ? と、亀井がいう。 「そんなところだと思いますね。その結果、何者「もう一度、彼女に会ってみよう」 しった。 かに、殺されたということじゃありませんか と、十津川は、、 みえ

6. 中央線に乗っていた男

されています。 福島県警は、「名前の通りの善人で通ってお 飯沼夫婦について、土地の人にも、悪くいう者 りーと、書いてしたが、 ) ' 善人という一言で、説明 ほとん は殆どおりません。飯沼善治は、名前の通りの善は出来ない感じもするのだ。 人で通っており、妻の良子は、控え目で、大人し多分、新見が、この男に興味を持ったのも、そ い女性という評判です〉 んな、得体の知れない雰囲気だったのだろう。 この日、十津川は、モノクロの写真を持って、 この夫婦の大きな写真も、で、送られてもう一度、四谷の画廊に寄ってみた。 きた。 が、その前まで行くと、入口が、なぜか、シー 十津川は、モノクロの飯沼善治の写真を、じっトで蔽われてしまっていた。 と、見つめた。 ( どうしたんだ ? ) ( よく似ている ) と、見ていると、そのシートを、押しあげるよ と、田 5 った。 うにして、中から、新見が、出て来た。 糸力いところが似ているとい、つよりも、全体の 「めちゃくちゃだよ」 感じが、似ているのだ。雰囲気といってもい と、新見が、十津川を見るなり、いった。 ろ、つ。 「何があったんだ ? 何となく、頼りなげで、何を考えているのかわ「多分、今日の夜明け前だと思うんだが、表のガ からない。そんな感じが、よく似ているのだ。 ラス戸をこわして、泥棒が入ったんだ。スケッチ おお

7. 中央線に乗っていた男

「おれの描いた五百人の中の一人のことを、聞き「それで、その娘さんは、この男の何を聞きたが たいといってね。ひどく真剣なんで、この傍の喫ったんだ ? 」 と、十津川は、きいてみた。 茶店で、話をした」 「それが、妙な話でさ。死んだ父親だというん 「それで ? 「この人物さ」 と、新見は、一枚のスケッチのところへ、十津「死んだ ? じゃあ、このスケッチのあとで、死 川を連れて行った。 んだとい、つことか ? 」 、別に、少な話じゃないだろう ? 去 雨の日の朝という感じで、並んで、座席に腰を「それなら 下しているサラリ 1 マンも、も、みんな傘を年の夏、八月に、死んでいるんだそうだよ」 しった。 持っている。 と、新見は、 ) 男 その中の、五十二、三歳の男を、新見は指さし十津川は笑って、 「それなら、他人の空似という奴だ。世の中にて た。傘を、両足の間に、立てるようにして、柄の 乗 ところに、顎をのせるよ、つにしている。 は、よく似た人間がいるからな」 よれよれのコ 1 トで、疲れた感じの中年男であ「おれも、彼女に、そういったんだがねえ。彼線 る。 女、父親だといって、きかないんだ。顔も、そっ中 そのスケッチの下に、日付が入っている。今年くりだが、傘の持ち方や、眼鏡を、ちょっとずら してかけている感じも、父親そっくりだというん の二月十八日だった。 あご

8. 中央線に乗っていた男

と、新見は、いう 「高尾で乗って、新宿で降りたか」 「ネクタイはしていなかったね 「だが、 通勤はしていないな」 と、十津川は、画廊で見たスケッチを思い出し「サラリーマンには、見えなかったからか ? ながら、いった。 「それもあるが、手に切符を持っていたんだ」 「ああ。だらしない感じで、サラリーマンには見「よく観察してるじゃないか」 えないんだ。と、いって、何かの商売をやってる「五年間、通勤しながら、乗客を描いて来てるん 人間なら、もっと、眼が、生き生きしているよ。 あのスケッチには描いてないが、途中で、若い女と、新見は、ちょっと自した。 が二人乗って来た。美人でスタイルが良くてね、 翌日、警視庁に出勤すると、十津川は資料室 車内の男たちが、一斉に、彼女たちを見たぐらいで、去年八月の新聞縮刷版を借りて、眼を通し だ。それなのに、例の男は、ぜんぜん見ないんだ よ。何か、物思いに、沈んでいる感じでね . 八月二十六日の朝刊に、問題の火事のことが出 ていた。 「何処で、降りたんだ ? ひがしやま 「確か、新宿だったな。それも、あわてて、降り福島県の東山温泉にあった土産物店「ひがしゃ たという感じでね。ああ、持ってた傘が、近くに ま」が、二十五日の深夜、火事になった。 いた若い男にぶつかって、怒鳴られていたよ 「ひがしやま」は、全焼し、焼け跡から、店主の よしはる しった。 と、新見は、ゝ 飯沼善治 ( 五十三歳 ) と、妻の良子 ( 四十五歳 )

9. 中央線に乗っていた男

からじゃないんですか ? 」 と、十津川は、ニコッとして、 と、亀井が、いった。 「原田は、飯沼由美を監視していたんじゃないん 「いや、その前から、原田は、彼女を監視してい だよ、カメさん。彼女を監視していれば、父親の たらしい」 善治が現われるに違いない。そう考えていたん 「彼女が、危険な存在だったということなんですだ」 かね ? 「彼女を監視していたが、本当の目当ては、父親 「それも違うね。今もいったように、彼女そのもの方だったというわけですか のは、危険な存在だったとは思えないよ。東山の 「そうだよ」 火事があった時、彼女は、東京にいたわけだし「それなら、納得が、いきますね」 ねー と、亀井も、微笑した。 「そうですね。危険なのは、飯沼善治なんでしょ 「少し、のばせたよ。出ようじゃないか」 うね。彼が出て来て、私は、死んでいないと主張と、十津川は、いった。 すれば、警察も、もう一度、事件を調べ直さなけ 4 ればならないでしようからね。それによって、困 る人間も、出て来ますからー ( しった。 と、亀井よ、、 「そうか , 翌日は、朝から、雪になった。粉雪が、風に舞 うという感じで、風が強まると、眼があけていら

10. 中央線に乗っていた男

ているだけである。 「びつくりしていませんね」 べッドは、長いこと使われていない感じだっ 「何か危険なことをしているような気がしていま た。テレビがあるが、電話はない。電話は、携帯したからね で十分だったのか。 と、山下は、いう 新聞も、とっていなかったらし、 し。いったい、 「ど、つい、つことです・か ? ここで、どんな生活をしていたのだろうか。多摩「定職についていませんでしたからね。まあ、こ っ ざお 川で、釣りをしていたというが、安物の釣り竿の不景気ですから、出所したばかりの人間が、仕 くずばこ が、屑箱に、放り込まれていて、それほど、使っ事を見つけるのは、難しいんですがね。私には、 た形跡もない。 時々、アルバイトをやってると、いっていたんで 管理人が、身元保証人になった弁護士の名刺をす。しかし、それにしては、金廻りがいいようだ 見つけてきてくれた。 し、よく、調布のマンションを留守にすることが 死 十津川と、亀井は、その山下という弁護士に、 あるので、心配していたんですよ」 会うことにした。大手の法律事務所で国選弁護人「つまり、また、悪いことをしてるんじゃないかる す をやっている男だった。 という心配ですか ? 」 達 配 十津川が、小林誠が殺されたことを告げても、 「そうです。しかし、そんなことはしていないと あまり驚いた表情を見せず、 いわれれば、彼の言葉を信じるより仕方がありま巧 「そうですか , せんからね」 やました