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検索対象: 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)
51件見つかりました。

1. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

じはない。 東京駅で、無事に、七時五一分発の「こだま 40 9 号」に乗ることが出来た。 日曜日なので、ひかりのほうは、混んでいたが、 こだまは、がらがらだった。 いつもの健一なら、東京駅や、こだまの車内を、 ばちばちカメラにおさめるのだが、今日は、リゾー ト幻という素晴らしい被写体が待っているせいか、 一度も、カメラを、いじろうとしない。 熱海へ着くと、健一は、待ち切れないように、伊 東線のホームに向かって、駆け出して行った。 お目当てのリゾートは、すでに、着いていた。 ( なるほどねえ ) 体と、亀井は、ひと目みて、子供たちが、乗りたが たる理由が、わかったような気がした。 っ 車体の設計も、色彩も、大胆である。 染 東北から初めて、上京した時、蒸気機関車に乗っ 青 た亀井から見ると、どうも、落ち着かない感じがし ないでもない。 とにかく、窓が、やたらに大きい。これでは、中 に乗っていて、落ち着かないのではないかと、亀井 なが は、心配するのだが、眺めは、素晴らしいだろう。 とくに、先頭車と、最後尾の車両のデザインが、 奇抜である。 前部は、ガラスの部分だけみたいに見えるほど、 フロントガラスが大きい。タテの長さが、二メート ル近いガラスになっている。 もっと大胆なのは、側面である。普通、車両の窓 は、同じ大きさのものが、横に並んでいるものだ が、この先頭車は、窓に傾斜がつけられていた。 ほとんど一枚ガラスのように見える大きな横に長 いガラス窓だが、前方は、一・五メートルの幅なの に、後方に行くにつれて、それが狭くなり、一番う しろの席のところは、五、六十センチになってい る。 これでは、うしろの座席の乗客は、視界が狭くな 223

2. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

て死んだ岩崎伸は、四人の中の一人の筈だと、十津た。 だが、店の前に行ってみると、戸が閉まってい 川は思った。残るのは、男一人と、女一人になる。 た。臨時休業の札もない。 藤岡は、その二人の現在の住まいと名前も、見つ け出したのではあるまいか。 戸を叩いてみたが、返事はなかった。耳をすませ 彼は多分、三年間の東京生活の間、四人を見つけたが、猫の鳴き声も聞こえない。 ( まさか、死んでいるんじゃないだろうが ) 出すことに努めたに違いない。 けやぶ と、不安になったが、まさか戸を蹴破って、家の ( しかし、岩崎伸と五十嵐杏子の二人が、問題の四 人の中にいたのなら、な・せ今年、徳島に出かけたの中を調べるわけにもいかなかった。 どろうか ? ) 仕方なく家に帰ると、家の中から、やたらに猫の 鳴き声が聞こえてきた。 と、十津川は、思う。 のびいびいいう鳴き声とは違うと思いなが まさか、殺されるために、徳島へ行ったとは思え ら、中に入ると、妻の直子が、 よい。とすると、何のためなのか ? 「お帰りなさい」 ( 藤岡に会わなければならない ) と、 いってから、 島と、十津川は、思った。 「藤岡さんという人、知ってます ? のその日のうちに、十津川は、徳島から東京行の飛 「ああ。駅近くの本屋さんだよ。時々、寄って話を 復行機に乗った。 と 羽田に着くと、亀井に帰京したことを電話しておするんだが、藤岡さんが来たのか ? 」 恋 「ええ。あの猫を置いて行ったわー いてから、警視庁には向かわず、青蛾書房に向かっ っと

3. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

「じゃあ、安心だ」 八口径リポルバーである。六連発で、二発試射した 男は、背中をシートにもたせかけて、眼を閉じ ので、あと四発しか残っていないが、小坂井一人を 殺すのに十分だろう。 」ヨーノ Ⅱリサはうまくまいてやったが、大男の方はど 「お客さんは、・ とこからいらっしやったんです こにいるのだろうか ? 「宗谷 1 号」に乗って、稚か ? 内まで行ったのか。 と、運転手が話しかけてくる。 ( それに、あいつはな・せ、拳銃を欲しがっているの 男は眼を開けた。 だろうか ? おれから百万円を取り上げたのだか 「東京からだよ」 ら、それで満足すればいいのに ) 「やつばりね。東京の方だろうって思いましたよ 眼をつむって、考え続けた。どうもうす気味悪い 「な・せだい ? のだ。 「わたしも昔、東京に住んでたことがあるから、何 小坂井を殺すのを、あの大男が邪魔するような気となくわかるんですよー がして仕方がなかった。 「そう ( どうしても拳銃が欲しいのなら、その百万円で買 男は、前方の闇に、眼をやった。 えま、 どろうに ) とい、つよ 東京の道路のように、街灯は多くない。 と、も、思う。 りほとんどないから、道路は暗い。 車のライトの届 男だって、金を積み、いろいろと手をつくして、 く範囲だけが明るくなり、そこに粉雪が舞ってい る。 暴力団から拳銃を手に入れたのである。の三 190

4. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

日下は、死体を、引っくり返した。中年の男の顔 死んでいる男のことは、よくわからない。が、 が、現われた。死人の顔だ。 「ロビンス」というサラ金には、覚えがあるのだ。 「どうです ? 知らない顔ですか ? 金に困って、三回ほど、借りに行き、まだ、十二 と、日下刑事がきく。 万円ほど、残がある。 「知りませんね」 借りに行った時、席の奥に、死体の男がいたよう 「あなたは、東京の方ですか ? 」 な気もする。 せたがや 「ええ。東京の世田谷区に住んでいます。名前は、 ( まずいな ) あきら 中村明。カメラマンですよ」 と、思うと、それが、顔に出たのか、日下は、 「東京のカメラマンですか ? 」 「知っているんじゃないですか ? と、肯きながら、日下は、死体の背広のポケット と、追及して来た。 を、探っていたが、名刺入れを見つけて、その中の 「知りませんよ」 名刺を、取り出した。 「この「ロビンス」というところから、お金を借り たけしたこうじ 「サラリ ー・ローン『ロビンス』常務、竹下幸次。 たことは、ありませんかフ 会社は、東京の世田谷ですね。本当に知りません 当然の質問が、きた。 か ? この男を」 「僕は、誰も、殺してませんよ。僕が寝ている間 日下刑事は、同じ何枚かの名刺の一枚を、中村に、誰かが、僕のカメラで、その男を、殴って殺し に、手渡した。 たんですよ」 中村の手が、かすかに、ふるえた。 「ずっと、寝ていたんですか ? それを、証明でき なぐ 126

5. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

は、浜田の狙いが、外れたことになる。 まずいことに、浜田の複雑な女関係が、だんだ ん、具体的に、わかって来た。 それに、銀座の宝石店の経営も、本人の証言とは はっ 違って、あまりうまくいってなかったことが、 きりした。 従って、一億円の保険金も、そんなものは要らな いどころではなかったのだ。のどから手が出るほど 浜田が、東京に戻ったのをしおに、亀井も東京に 帰り、十津川に、報告した。 欲しい一億円の筈である。 翌日、浜田は、野見ゅう子の遺体を受け取った母 十津川は、「ご苦労さん」と、ねぎらってから、 「今のところ、浜田という男は、心証的にはクロと 親と一緒に、静岡から、用意した車にのせ、東京に しゝっことカ 向かった。 「まっクロに近いです。しかし、誰も、彼が、野見 「東京に帰ってからも、しばらくは、居場所を、は ゅう子を、突き落とすところは、見ていないんで 体つきりさせておいて下さい」 死 と、静岡県警の矢部警部は、浜田に、念を押しすー っ 「それが、浜田の狙いだったと、カメさんは見てい るわけか ? 」 「まだ、私を疑っているんですか ? 」 青 「そうです。しかし、浜田が、本当に狙ったよう 浜田は、矢部を睨んだ。 : 、 カ矢部は、相手を睨み 返して、 「もしも、殺人であれば、今のところ、あなた以外 に、容疑者はいないと、思っていますよ」 しー と、 245

6. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

「日下君か。どうしたんだ ? という、十津川の声が、聞こえた。昨日は、東京 で会っているのに、ひどく、懐しく聞こえたのは、 吹雪で、立往生してしまっている列車の中にいるせ 「ドアは、絶対に、開けないで下さい し / いだろうか。それとも、この車内では、若い自分 日下は、車掌に、 が、責任を持って、事態を、処理しなければならな 「わかりました」 いからだろうか。 「犯人は、この中にいる筈ですからねー 「今日中に、和倉へ行くつもりだったんですが、吹 と、日下は、乗客を見廻したが、その眼はどうし 雪と、雪崩で、二両編成の列車の中に、閉じ込めら ても、中村に、行ってしまう。 れてしまいました。その上、車内で、殺人事件が、 中村は、相変わらず、青い顔をして、黙ってい る。 発生しまして」 日下は、簡単に、事情を、説明した。 「電話は、東京にも、掛かりますか ? 」 と、日下は、車掌に、きいた。 「それで、君が、解決しなければ、ならないわけ 「 Z ()* の電話ですから、通じると思いますが、料か ? 」 「車内で、警察権を持っているのは、私一人のよう 金が、必要ですよー です。車掌が、助けてくれると、思いますがー 「足らなかったら、百円硬貨を貸して下さい」 とつがわ 「君なら、やれるよ」 日下は、東京の警視庁に、電話をかけ、十津川警 いってくれた。 部に、出て貰った。 と、十津川は、 なっか 130

7. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

傍を通り抜けて行った。 男は、通りがかったタクシーをとめた。 「税務署のあるところまで、行ってくれないか ミラーの中を と、男がいうと、中年の運転手は、 ちらちら見ながら、 「この時間じゃあ、税務署はもう閉まっています よ 「わかってるよ。税務署に用があるんじゃないん だ。その近くに用があるんだよ。とにかく、早く行 ってくれー と、田刀はいっこ。 運転手は、わかったというように肯いて、車を出 した。 「お客さんは、どこからいらっしやったんでする。 カ ? 」 と、運転手がきく。 「東京からだよ」 「東京の人ですか。夜おそく着かれたんですねえ」 「疲れてるんだ。少し、黙っててくれないかね」 と、男はいっこ。 「わかりました。すいませんー カ急にきよろきよろしだし 運転手は肯いた。 ; 、 た。車のスビードも、おそくなった。 男は、眉を寄せた。 「何をしてるんだ ? 」 「お客さんのいわれた税務署を探しているんです よ。確か、この辺にあったはずなんですがねえ」 男も、窓の外に眼をやった。その顔が急にゆがん 男は、東京を出発する時、稚内の地図を見てい 目標とする稚内税務署が、街のどのあたりにある かだけは、知っているのだ。 今、窓の外に、暗い海が見えた。ここは稚内港の 近くではないのか ? 税務署は、地図で見た時、海 194

8. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

逆に怒鳴りつけられたそうです。その直後に、火事 そして、東京で、あの本屋を始めたのか。 になったんですー 十津川は、脇町の警察署に廻って、三年前の火事 「そして、二階にいた若夫婦が、焼死した」 について、きいてみた。 たかはし 「ええ」 答えてくれたのは、高橋という中年の警官だった 「四人の男女は、どうなったんですか ? 」 が、緊張した顔で、 かんじん 「いつの間にか、車ごと消えてしまっていたそうで 「正直いって、あの時は困りました。肝心の藤岡さ すー んが、全く非協力的でしたからね」 「藤岡さんは、なぜ、警察にその四人のことを話さ 「なぜでしようかね ? 」 なかったんですかね ? 」 「わかりません。われわれは、あの日泊まっていた と、十津川は、きいた。 男女の名前や、住所を知りたいのに、藤岡さんは知 ためいき 係長は、さな溜息をついた。 らないの一点張りでしてね。まあ、息子さん夫婦を ぼうぜん 「なぜなんですかねえ。いい人だが、ちょっと変わ突然失ってしまって、呆然としているんだと思い ったところもありましたからね。とにかく、藤岡さ 強くきけなかったんです。そうしている間に、藤岡 んは、突然、東京へ行ってしまったんですよ。銀行さんは、突然、東京に行ってしまいましてね。その 預金を、全部おろしてねー ままになってしまったんですが 「預金を ? 」 「四人については、何もわからずですか ? 」 「ええ。銀行の人が、そういってましたよ」 「残念ながら、わかりませんー っこ 0 と、係長は、 ーし / 「彼らは、阿波おどりを楽しみに来たんでしよう

9. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

「ええ、三年前の夏です。ちょうど、阿波おどりの 前には旅館をやめていました。藤岡さんは、もとも 時でしたね」 と文学青年でしたから、何か文化的な仕事がやりた 8 「焼けたら建て直せばいいのに、なぜ東京へ引越し いといっていましたね」 てしまったんでしよう ? 」 「火事の様子は、どうだったんですか ? 」 「な・せ、そのことをおききになるんですか ? 」 「それが、ひどい話でしてね。あの時、東京に出て と、係長が、きく。 いた一人息子さんが、結婚したばかりの奥さんを連 十津川は仕方なく、警察手帳を相手に見せた。係れて帰っていたんです。今もいったように、阿波お 長は、びつくりした顔になって、 どりの時でしたから、息子さんは奥さんに、見せた 「やはり、あの火事に疑問を持たれたんですか ? かったんじゃありませんかね」 「まあ、そんなところです」 「藤岡さんは、喜んだでしようね ? 」 と、十津川は、嘘をついた。 「そりゃあねえ。あの時、藤岡さんに会ったらニコ ニコして、おれは間もなくおじいさんになるんだ 係長は、十津川に、自分の傍の椅子をすすめてか ら、 と、 いっていましたからねえ」 「実は、私は、藤岡さんと幼なじみでしてね。あの 「じゃあ、息子さんの奥さんは、妊娠していたんで 家にも遊びに行ったことがあるんです。藤岡さんのすか ? ところは、昔は旅館でした。十人ぐらいしか泊まれ 「確か、三ヶ月だったんじゃないですかねー ない小さな旅館でしたがね。それが、一人息子さん 「それで、火事のほうは ? は東京へ出てしまうし、奥さんが亡くなって、三年 「八月十三日でしたね。夕方、藤岡さんは、吉野川

10. 十津川班捜査行 湘南情死行 (ノン・ノベル)

かわしま 大谷川の川岸にある町役場に行き、十津川は、手 阿波川島を過ぎてから、国道一九二号線は、左か ら右手に廻り、その向こうには吉野川がゆっくりと帳の住所を見せ、この家が今どうなっているかきい てみた。 流れている筈だった。 「藤岡正司さんのところですか」 受験で有名になった学駅を通り、穴吹駅に着いた と、戸籍係の若い男は、帳簿を調べていたが、 のは、一四時五二分である。 「どなたも住んでいませんね。今は、東京に住んで ホームに降りると、山肌が間近に迫っていた。 おられる筈ですよー 駅前から、脇町へ行くバスが出ている。十津川 は、それに乗った。。 ( スは吉野川にかかる橋を渡「東京に移ったのは三年前だと思うんですが、なぜ 急に、東京に引越したんですかね ? 」 り、十分ほどで脇町に着く。 おおたに と、十津川は、きいた。 町は、吉野川の支流である大谷川をまたぐように 若い職員は、わからないという眼をしてから、奥 して、広がっていた。 にいる五十歳くらいの係長に、ききに行った。 この町は、白壁の町として有名らしいが、そうし 係長は、十津川のほうを見てから、立ってカウン た古い建物の中に、ショッビングセンターの大きな 島ビルが混じっていて、四国の中央部の町にも、現代ターのところまでやって来た。 「藤岡さんのところは、三年前に、焼けたんです 化の波が押し寄せていることを感じさせた。 讐 雨は、い・せんとして降り続いている。が、細かい 復 と と、係長は、十津川にいっこ。 雨だし、気温が高いので、濡れても苦にならなかっ 恋 「焼けた ? 」 こ 0 よ