冫いっておくがね」 救援態勢を、とっておくようこ、 「ここから、能登部まで、三キロはあります。この 吹雪だし、雪崩も起きているから、足の弱い人は、 無理ですよ。乗客の中には、子供もいるんです」 「弱ったね」 「能登部には、雪上車がありますか ? 「キャタビラのついた雪上車かね ? 」 「そうですー 「どうかな」 「雪上車がないと、乗客全員を、能登部に、避難さ せられません。何とか、一台、用意しておいて下さ 「わかった。能登部に、電話しておくよ」 「お願いします」 、って、電話を切った。 と、車掌は、し 急に、ジーゼルエンジンが、停止してしまった。 車内が、少しずつ、寒くなってくる。暖房が切れ てしまったのだ。 「重油がなくなったよ し / と、運転士が、車掌に、 日下は、コートを羽織った。他の乗客も、それそ れ、コートを着たり、手袋を、あわてて、はめたり している。 かわ 中村も、革ジャンパーを、羽織って、日下の傍 へ、戻って来た。 「捜査は、どうなったんですか ? まだ、僕を、犯 人だと、思っているんですか ? 「彼女のことを、東京で、調べて貰ったよー と、日下は、展望室の柴田めぐみに、眼をやっ 「それで、彼女は、どんな女なんですか ? 」 と、中村が、きいた。 「 z 工業の O*-Äだったが、現在は、銀座のクラ・フの ホステスをやっている」 「ホステスですか」 「君は、銀座に、飲みに行くことがあるのかね ? 142
と、亀井も、不安気にきく。 「そこまでわかっていたら、私一人で次の殺人を防 「多分、もう徳島に来ていると思うよ げますよ」 し / と、十津川は、 と、強い調子で、いってしまった。 「残りの二人の男女もですか ? ー 本部長が、当惑した顔で、 「ああ。来ているね」 「われわれの間でケンカをしても、仕方がない。 と、十津Ⅱよ、 にかく、すでに二人の人間が殺されているんだよ。 「その二人は、なぜ、徳島へ来るんでしようか ? 何とかして犯人を捕まえなければ、警察の信用がな 、合、ま止めようじゃな危険だとは、思わないんでしようか ? くなるんだ。詰まらないいししを と、亀井が、きいた。 し力」 「もちろん、危険は知ってるさ。岩崎伸と五十嵐杏 かかわ 子が殺されているんだからね。それにも拘らず、二 「わかりました」 人が来るとすれば、彼らが来なければならない地位 。が、警視庁がやって来て、 と、三崎は、 こちらの捜査を引っかき廻さないでくれという気持とか、仕事についているということだと思うんだ な、藤岡もそれを知っていて、やって来る」 島ちが、その表情に残っていた。 「どんな地位とか仕事でしようか ? 」 のお互いに、連絡を取り合うことだけを約束して、 讐 「断定は出来ないが、例えば、東京で阿波おどりの 十津川は、亀井と、予約しておいた眉山近くのホテ 復 会に入っていて、必ず行くことになっているとか、 とルにチェック・インした。 最近の仕事が、阿波おどりに関係していて、どうし 「藤岡は、本当に、来るんでしようか ? 」 と 103
「でも、焼死した新婚の息子さん夫婦の仇を討って いるに違いないと、思っているわけでしよう」 「そうだよ」 と、十津川は、肯いた。 かわい 「可哀そうね」 「何が ? 「新婚で亡くなった息子さん夫婦も、藤岡さんも、 殺された二人の方も」 っこ 0 し / と、直子は、 「そうかも知れないが、あと二人いるんだよ。藤岡 さんは、その二人も殺す気でいると思うんだ」 「どこに住んでいる人かもわからないの ? 」 「わかっていれば、何とかなるんだが」 るさく溜息をついた。 島十津川は、、 の「藤岡さんは、知っているのかしら ? 」 讐「恐らく、知っていると思うよ」 と「じゃあ、明日にでも、残りの二人を殺すかも知れ ないのね ? 」 かたき 「いや、それはないと思う」 し / と、十津川は、 「なぜ ? 」 「もし、明日にでも殺せるんなら、わざわざ、猫を 私に預けるようなことはしないだろう。今までどお 、店は臨時休業の札を下げておいて、殺しに行っ てくればいいんだ。そして、何気ない顔をしていれ ば、すむことだ」 と、十津Ⅱよ、 「じゃあ、何があると思うの ? 」 と、直子が、きいた 「わからない。わかっていれば、行動に出られるん だがね。ただ、今もいったように、藤岡さんはすぐ には残りの二人を殺すことが出来ない状況なんだと 思うよ。何日か、或いはもっと後でなければ、殺す ことが出来ない、だが、その間、じっと青蛾書房と 冫をし力ない。どから、 いう本屋を続けているわけこよ、 彼は店を閉め、私たちに猫を預けて、姿を消してし
「さあ、どうでしようかね。普通だったような、気日香さんですか ? がしますけどね。それほど、嬉しそうではなかった 恵が、きくと、店の主は、少しばかり、困惑した けど、そうかといって、悲しそうでも、なかったで顔になって、 「そういうことに、はっきりと、答えちゃっていい すね。宮川さんと、仲良く手を繋いで、クルーザー のかな ? それに、私が魚を持っていくと、出てき に、乗り込んでいきましたからねー 「丘の上に、宮川さんの別荘があるでしよう ? あ て、それを受け取るのは、たいてい、宮川さん本人 の別荘に、ご主人は、行かれたことがありますですよ。その時、奥に、奥さんがいたのか、それと も、昨日亡くなった矢野明日香さんが、いたのか 西本が、きいた。 は、私には、分かりませんよ」 「ええ、何度か、うかがったことが、ありますよ。 「しかし、昨日は、間違いなく、矢野明日香さんが 宮川さんは、あの別荘に、お友達を呼んだりして、 一緒だったし、奥さんは、東京にいたというんです 自分で、料理を作って、もてなすのが好きなんでけど」 宙一か、し / す。そんな時、ウチに電話があって、よく、今日獲 れたばかりの新鮮な魚を、持ってきて欲しいという 「そうですね。確かに、昨日は、矢野明日香さんが 一緒でした」 行んですよ。それで、私が、あの別荘まで、魚を運ん 「前にも、奥さんではなくて、矢野明日香さんが一 情だことが、何度もあります、 南「そんな時ですが、宮川さんと一緒にいるのは、奥緒だったのを、ご覧になったことがあるんじゃあり さんですか ? それとも、昨日亡くなった、矢野明 ませんか ? 」
気温は、零度くらいだろうか。石油ストー・フが燃 以上に逃げ場がない。 まわり 男は、もう五十歳を過ぎている。力では、あの若え、その周囲で地元の人たちらしい男や女が、列車 を待ってお喋りをしていた。 い大男にとてもかなわないと思った。拳銃を使えば 男は、時刻表のパネルを見に行った。とにかく、 勝てるだろうが、射ったとたんに逮捕されてしまう 稚内には行かなければならないのだ。 だろう。そうなったら、娘の仇はとれなくなる。 宗谷本線は、一応、本線という名前はついている 三分停車で、「宗谷 1 号ーが名寄を出発する時、 が、この名寄以北になると、極端に列車の本数が少 男は待合室に隠れた。 リサと大男が降りて来ないかと、男はじっと離れなくなる。 「宗谷 1 号」が出てしまったあと、稚内まで行く列 て行く列車を見つめた。 二人は降りて来ず、「宗谷 1 号ーは視界から消え車は、名寄一九時三〇分発の「宗谷 3 号」しかなか 今、午後二時半を過ぎたばかりだから、あと五時 ショルダー・ハッグは列車に置いて来てしまった 間も待たなければならないのだ。急に、ぼっかりと 線が、百万円は盗られてしまっているし、価値はな すきま 隙間があいてしまった形で、男はどうしてその五時 谷 間を過ごしたらいいのか、迷ってしまった。 の急に自由になったような気がして、男は待合室の しばらくは待合室のガラス窓越しに、ホームを見 独中を見回した。隅のキオスクでは、丁度、夕刊が届 たり、駅前の商店街を見たりしていた。 といたところで、中年の売り子が、二人で束を解い その間も、内ポケットに隠している拳銃のこと て、新聞を売りやすいように並べている。 185
すよ」 と、藤岡は、笑った。 「それなら、安心ですが」 「カゼということで、思い出しましたがーーー」 十津川は、青蛾書房に寄るのをしばらく止めよう かとも思ったが、そうしたらよけい気になること と、藤岡は、カゼについて、有名人たちがいった は、わかっていた。 言葉を、いくつかあげた。 「南国育ちの方は、カゼに弱いですかねえ」 だから十津川は、帰りにまた藤岡に会いに、青蛾 書房に寄った。 と、十津日よ、 ふすま 藤岡の背後の襖を、シャム猫が、手と頭を使っ 二人ほどいた客が、いなくなってから、十津川は て、開けて入って来た。そのまま、藤岡の膝の上に 奥に行き、 のつかって、身体を丸めた。 「カゼは、大丈夫ですか ? 」 「南国育ちって、私のことですか ? と、藤岡に声をかけた。 藤岡は、十津川を座敷に招じ入れてから、 と、藤岡は、猫の頭をなでながら、きき返した。 島「カゼって、何です ? 「前に確か、四国の生まれだと、おっしやった筈で の「前に、夏カゼをひいて、店を休まれたことがあっすが」 「そんなことをいいましたか 復たでしよう」 と「ああ、あれですか。あの時もいいましたが、鬼の と、藤岡は、さく笑って、 「もう、ずいぶん昔のことですよ。確かに、私は四 カクランでしてね。カゼは、めったにひかないんで
今のところ、リゾート幻は、六両の一編成だけだそのどれが、健一の乗りたがっているリゾート 1 から、時間を合わせて行かないと、乗ることが出来か、わからなかった。 ないのである。 ( な・せ、ちゃんと、書いておいてくれないんだ ? ) 亀井は、前日の夜、時刻表で、調べてみた。 と、亀井は、時刻表に文句をいったが、考えてみ の文字がないのが、当 東京から、伊豆下田へ行くには、普通、国鉄の特ると、時刻表に、リゾート幻 あたみ いと、つ 急「踊り子」号に乗る。東海道線で熱海、伊東線然なのである。 で、伊東と走り、その先は、私鉄の伊豆急行線に乗 息子の健一が、しきりに乗りたがるし、彼の持っ り入れる。 ている雑誌に出ている写真を見ると、斬新な設計の この間は、国鉄と、伊豆急が、相互乗り入れをし車両で、色彩もサイケデリックなので、特別な列車 ているので、リゾート幻も、伊東からではなく、熱と思い込んでいたが、これは、特急でも、急行でも 海駅から、出ている。 なく、普通列車だからである。古い車両と同じよう だが、時刻表を見たのでは、リゾート 幻の発着時に運行されているのだから、リゾート幻だけを、時 はず 刻は、わからなかった。 刻表の上で、特別扱いする筈はないのだ。 体特急「踊り子」号の場合は、発着時刻の横に、 亀井は、そう了解したが、健一が、リゾート幻に た「踊り子 x 号」と記入してあるので、よくわかるの乗りたがっていることに、変わりはない。 亀井は、伊豆急の電話番号を調べて、きいてみ 染だが、伊豆急の場合は、どこを見ても、リゾート幻 の文字は、なかった。 青 熱海発、伊豆急下田行の列車は、何本もあるが、 同じことをきいてくる人がいるとみえて、相手 ぎんしん 221
その桟橋の反対側には、おそらく、爆発で、炎上 よう ? そのエサを、宮川さんは、持っていかなか したクルーザーが、繋留されていたに、違いな、。 ったと、きいたんですが、それは本当ですか ? 」 海鮮料理の店も、出していたので、二人は、店に 「ええ、そうですよ。時々、クルーザーで海釣り 入って、簡単な海鮮料理を注文し、それから、西本に、行かれることがあるので、昨日も、釣りですか あるじ が主に会って、話を、きくことにした。 とおきぎしたら、いや、今日は、ただ海に、出たい 西本が、警察手帳を見せると、店の主人は、西本だけだからといわれましてね。だから、エサは持た を、神奈川県警の刑事と思ったのか、スラスラと答ずに、海に出ていかれたんですよー えてくれた。 「あのクルーザーで、どこまで、行くことができる 「ウチと宮川さんの関係ですが、宮川さんが、丘の んですか ? 」 上に、別荘を建てた五年前からのつき合いで、その 「そうですね。あの大きさですから、おそらく、伊 時、ウチの桟橋に、クルーザーを繋留させてくれ豆七島の大島辺りまでは、楽に行けるんじゃ、あり と、いわれたんですよ。それで、いいですよと、桟ませんかね。以前、大島まで、行ったというような 橋を、お貸しすることにしたんです」 話を、宮川さんからきいたことが、ありますー 「昨日の話ですが、ここには何時頃、宮川さんと、 「矢野明日香さんのほうは、どんな様子だったんで うれ 連れの矢野明日香さんは、見えたんですか ? 」 すか ? 彼と一緒で、嬉しそうにしていましたか ? 「確か、三時頃でしたよ。あのクルーザーで、海にそれとも、悲しそうにしていましたか ? 出ていかれたんです」 恵が、きいた。 「ここでは、釣り用のエサも、売っているんでし 店の主は、首を傾げて、ちょっと考えていたが、 おおしま
思い出したからだった。 青蛾書房を出て、自宅に向かって歩いているうち に、それが妻の直子だったと気付いた。 夕食の時に、十津川は、 「君は、今年の一月に、野沢温泉に行ったね ? 」 ひざ と、きいた。直子は、子猫を膝の上で遊ばせなが 「ええ。大学時代のお友だちと四人で。このミーが いるから、これからは長い旅行は出来ないわね」 「この子、平凡だけど、ミー コって名前にしたの 「野沢温泉だけど、クアハウスがあったって、いっ 島てたね ? トレーニングルームがあったり、温泉プー の「ええ。 復ルがあったり、いわば多目的温泉といったところ A 」 ね。名前は確か、クアハウスのざわ、といった筈だ 恋 わ」 ら、 「野沢では、目立っ存在なのかね ? 」 「大きく宣伝していたわー 「そうか。やつばり」 「野沢温泉が、どうかしたんですか ? 」 と、直子が、きいた。 「いや、何でもないんだ」 と、十津川は、あわてていった。 十津川は、。 とう考えたらいいのだろうと、悩んで しまった。 藤岡は、野沢温泉へ行っても、クアハウスの存在 に気がっかなかったのかも知れない。野沢温泉で は、若者に来てもらうためにクアハウスを始めたの だろうし、大きく宣伝もしているのだろう。しか し、だからといって、野沢に行った人が必ずクアハ ウスのざわの存在に気付くとは限らない。行きつけ のホテルか旅館があれば、タクシーでまっすぐそこ へ行ってしまい、クアハウスのざわのことなど関知 しまい
が、阿波おどりの終わる十五日まで来そうもない。 午後七時と九時の二回に、各連が集まって来る。 十津川は、今日こそと思い、亀井と腹ごしらえを演舞場に通じる道路は、彼らに占領されてしまって してから、陽が落ちると、ホテルを出た。 いる。踊り狂いながら、道路を移動し、観客の待っ 昨夜と同じようこ、 冫いくつもの連が、踊り狂いな演舞場に集まって来るのだ。 がら、ねり歩いて来る。 いろいろな連がある。地区の名前をつけた連もあ 公園で、自分たちだけで、踊っているグループもれば、外国人だけの連もある。次から次へと通り過 いる。 ぎて行くのを、十津川と亀井は、必死で見つめた。 「何処へ行きますか ? 」 だが、見つからない。何処もかしこも人、人なの と、亀井が、きく。 だ。この中から藤岡を見つけ出すのは、至難の業だ 「一番、人の集まる演舞場へ行ってみよう 「そこへ、藤岡たちも来ると思いますか ? 」 疲れだけが、たまっていく。時間はどんどん経過 けんそう 「わからないが、例の二人がもし仕事で来ていると していき、人いきれと喧噪が、少しずつ消えてい にぎ したら、一番賑やかな場所へ行くんじゃないかと思 ってね」 踊りつかれた人々は家に帰り始め、観光客はホテ 「じゃあ、行きましよう ル、旅館に帰って行くのだ。 と、亀井が、しった 人影がまばらになったが、十津川と亀井は、ホテ だが、肝心の演舞場の周囲は、人々の波で、なか ルには戻らず、歩き続けた。 なか近づけない。 その時、背後から、けたたましいサイレンの音を 106