医者 - みる会図書館


検索対象: 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)
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1. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

と、十津川は、いった。 「そ、つです。出ています。しかし、田口さんの診断 次男が、顏を、赤くして、 「いくら警察だからって、そんな失礼なことをいう書ではなかった。なぜ、主治医の田口さんの診断書 と、あんたを、告訴するぞ。私の友人には、有能なじゃないんでしようか ? 生命の指定する医者の ものでもない 弁護士が、何人もいるんだ ! 」 と、怒鳴った。 「どの医者でもいいじゃないか」 と、長男が、いった。 「自殺に見せかけて、殺さなかったというんです 「そうです。正式なものならね。私は、生命で、 「当り前だ。それとも、おやじを殺したという証拠その診断書を借りて来ました。これです。医者の名 きのしたゆういち 前は、木下勇一。私は、この医者に会って来ました。 でもあるのか ? あるんなら、見せてみろ ! 」 というより、連行して、訊問したといった方かいし デ と、また、怒鳴った。 十津川は、微笑した。 かな。前々から、問題のある医者でね。自供しまし一 「広永さんが、生命保険に入っていることを、なぜ、たよ。彼は、広永さんを診ていない。長男のあなた 主治医の田口さんが、知らなかったんでしようか に、金を貰って、問題がないという診断書を書いた遅 日 とね」 ね ? それだけじゃない。あの年齢の人が、保険に 十津川は、その診断書を、突きつけて、相手を見 入るには、医師の診断書が、必要ですよ」 「診断書は出しているよ。だから、保険に入れたんすえた。

2. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

直子は、ドアのノブに手をかけて、ゆすってみた「そこが病室だと思ったのは、 500 というナンバ が、今夜は、びくとも動かなかった。 ーがあったから ? 」 「この向こうに、 500 号室があるのよ」 「他に、部屋の入口の所に、他の病室と同じように、 直子は、ガラスに顔を押しつけるようにした。明消毒用の器具と薬が置いてあったわ」 かりの消えた廊下が、向こう側にもあるのだが、 は「院内感染を防ぐための消毒液だろう ? つきりとは見えない 「ええ。ただの物置なら、あんなものは必要はない 「よく見て」 し、それに、白衣姿の医者が近くにいたのよ」 と、直子にいわれて、十津川も顔をガラスに押し「本当に、医者だったのか ? 」 つけた。 「六十歳くらいの背の高い医者。あれは、たぶんこ 「暗くて、よく見えないな」 の病院の院長だわ , おのづかたたし 「でも、廊下の向こうに白い壁みたいなものは、見「院長の名前は、たしか、小野塚匡。脳外科の日 えるでしよ、つ ? 」 本の権威だろう ? 」 「ああー 「まだ、入院してから、院長に会ってないの」 「その続きに、 500 号室があるはすなの」 「その小野塚医師だと思った理由は、何なんだ ? 」 「部屋があって、そこに 5 0 のナンバーがあった 十津川は、眼をこらしながら、直子にきいた。 といっていたね ? 」 「私の勘なの」 「そうよ。他の病室の二倍はあったわ」 「勘ねえ」

3. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

それをい、つわナこよ、、 し。 ( し力ないので、十五日に集り、 日常生活が、出来なかったわけじゃない。ひとりで、 ースデイケーキも、作ったと、 っているんだ仕事もやっていたし、通いのお手伝いも、来ていた んだ」 「アルッハイマーですか」 と、十聿日は、い 「子供たちは、そうじゃないかと、 いっている」 「じゃあ、いくら調べても、子供たちが、殺す理由 「田口という主治医の意見は、どうなんですか ? は、見つからないわけですね ? と、亀井が、きいた。 「その通りなんだよ」 いっているんだ しった。 「そんなポケはなかったと思うと、 と、十津川は、、 よち かいにゆう かね。ただ、ぐ ホケというのは、医者にも、なかなか、結局、警察が介入する余地は、ないということ になった。 わからないものらしいんだ」 「遺書は、なかったんですか ? 」 個人的には、まだ、何となく、気になったが、刑デ むねス 「ない。あれば、簡単なんだがね」 事として、動くことは出来ず、田口医師に、その旨一 「長男夫婦が、面倒を見るのが嫌になって、自殺にを、連絡した。田口の方も、 の 見せかけて、殺したということは、ありません「妙な具合になって、広永さんの家に、暗いものが遅 出ても困りますので、それで、良かったのかも知れ一 「それはないね。今もいったように、別棟に住んでません」 と、 いった。 いたし、広永さんは、体力は衰えていたといっても、 かよ

4. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

てほしいという投書でした」 十津川が、直子の言葉を思い出しながらいうと、 十津川は少し、嘘をついた。 婦長は「ああ」と、肯いて、 「おかしいですわ。今もいいましたようにあの部屋「それなら、私ですわ」 は、院長がプライベイトに使っているもので、そん 「ど、つい、つことなんでしよ、つか ? 」 な人間の唸り声なんかはしないはすですけど」 「たしか、七日の夜、私がナースセンターにいまし 婦長は、狼狽の色も見せずにいう。 たら、院長から電話があって、今、仮眠から眼が覚 「プライベイトというと、院長は、どんなことに、 めた。お茶が呑みたいといわれたので、すぐ、お持 お使いなんですか ? 」 ちしました。そのとき、あの部屋で転んでしまいま 「仮眠をとったり、医学書を置いておいたりですしてね。思わず悲鳴をあげてしまったんですよ。そ わ。 れを聞かれたんだと思います。スネを打ってしまい 「よくご存じですが、婦長さんは、部屋に入ったこましてね。恥ずかしいことですわー とがあるんですか ? 「しかし、あの部屋については、医者の娯楽室だと 「はい。何度か入っています。掃除をしたり、お茶か、映写室だとか、有名人の隠れ病室だとか、いろ を運んだりですけど、妙な唸り声を聞いたというの いろと噂を聞いているんですが」 たくま は、いつなんでしよう ? 」 「それは、見ていない人が、憶測を逞しくして、 「投書には、七日の夜、九時頃だったと、書いてあっているだけですわ。今もいいましたように、院長 り・ます・が のプライベイトルームで、主として、疲れたときの

5. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

しゅよう 腫瘍が出来てるとかとなると、院長はすぐ、切り開のだ。 510 号室から廻って来て、最後の 5 01 号室に いて、中を調べようといい出すのよ。だから、院長 の前では頭が痛いなんて、いわないこと。日本じゃ、入って来た。 べッドの上に起き上がって、直子は院長を迎えた。 脳の手術の実例が少なくて、困ってるんですって」 ここでも、同じように、医者の一人が直子の病状 「私は、結石だから、大丈夫だわ」 を説明する。 と、直子はいった。 午後になって五階の病室への院長の回診が、始ま「十津川直子さんかね ? 」 った。 院長は、珍しく患者の名前を呼んだ。 「よい、 そうです」 直子の知っている院長の回診というのは、まるで 大名行列みたいに大げさなものだが、 この病院の院「尿管結石ーーね」 長回診は、医者二人と、看護婦二人のお供がついて 「ええ。ふいに激痛が襲いかかってきて、そうなる いるだけだった。 と、死ぬかと思うんです。それで、入院させて頂い だが、内容は同じに見えた。 たんです」 病室に入ると、そこにいる患者のカルテを医者が「今、痛みますか ? 説明する。院長は、それを聞き、患者に向かって、 しえ。他に悪いところはないから、何の痛みも 感じません」 「お大事に」 と、声をかけ、それだけで次の病室に移っていく 「それなら、自宅にいても同じだから、退院なさ

6. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

三つ目の病院に運ばれることになった。 アジア第一という名前の綜合病院である。 内科医が当直していて、中年のその医者は、直子 とつがわ 十津川が、あわてて救急車を呼んだ。 に症状を聞くと、微笑して、 なおこ 妻の直子が、突然、腹痛を訴えたのだ。そのうち「尿管結石ですね」 に、背中まで痛くなったといい、救急車が来たとき と、簡単にいった。 からだ には、直子は、苦痛に身体をェビのように曲げてい 「結石 ? 」 「ええ。石が出来ていて、尿道を傷つけるから痛む 救急車に、十津川も同行した。 んです」 走りながら、救急隊員は、救急病院を探した。夜「こんなに痛がっていますが」 中だったから、適当な宿直医のいるところが、なか「そりゃあ、痛いですよ」 ひとごと なか見つからなかったのだ。 医者は、他人事みたいにいった。

7. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

うるさいので、ここ二、三日、なるべく、春子をるわね」 今日は、違った。自「教えて頂きたいことが、一つあるんです」 避けるようにしていたのだが、 「どんなこと ? 」 分のほうから、 「病室の先に、ドアがあるでしよう ? 「今日は」 のかかっている」 と、春子に声をかけた。 「ええ」 春子は、ニッコリして、 「あのドアの先にも、病室があるって聞いたことが 「十津川さんは、食事制限がないからいいわねえ。 あるんです。特別室が」 あたしは、その点だめ」 直子は、そんなふうに切り出した。 と、いったが、 「特別室なんか、ありませんよ」 「でも、構わないか」 と、自分も、自動販売機からジュースを出してき春子は、あっさりいった。 「でも、病室は、あるんでしよう ? 直子は、春子の顔色を窺うようにしながら、 「じゃあ、ドアの向こうにある部屋は何なんでしょ 「加藤さんは、この病院のことは、何でも知ってい らっしやるんでしよ、つ ? 「病院全体のことを全部、知ってるわけじゃないけ「あれは、医者の先生方の集会所」 ど、この五階のことなら、たいていのことは知って 「お医者さんの集会所 ? 」 いつもカギ

8. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

「君が放送局だというお婆さんも、町内会長の奥さが、ここは勝手が違っていた。妻の言葉もそのまま んもかい ? 」 信じていい力と、つか、わからないのだ。 とにかく、ナースセンターを、覗いてみたが、タ 「ええ。病院の入院患者って、医者に生死を握られ てるみたいなものだわ。ここみたいに院長がワンマ方の検診に出かけてしまっているらしく、誰もいな ンだと、院長には絶対に逆らえないわよ。町内会長かった。 の奥さんなんかは、買収されているのかもしれな 五階の入院患者のカルテが、並べてあった。 十津川は、それに眼をやった。 「わかった。聞いてみよう」 十津川直子のカルテもあったが、それには朱色で、 と、十津川はいった。 なまはんか 「でも、生半可じや本当のことは、話さないと思う 〈強制退院〉 と、直子はいった。 のゴム印が押されているのが、眼に入った。 院長の強い意志が、そのゴム印の文字に感じられ の 室 そのゴム印を見ているうちに、十津川は、直子の 特 言葉を信じる気になった。 強制退院というのは、入院患者が医者や看護婦の 十津川は、正直いって、半信半疑だった。 ここが殺人現場なら、どんなことでも出来る。だ

9. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

くある症状の一つに違いない 「大の男でも、脂汗を流しますよ」 話しているうちに、直子の顔色が急に良くなり、 「そうなったら、どうしたらいいんですか ? 」 あれほど彼女を苦しめた激痛も、嘘のように消えて 「また、ここへ来て、モルヒネを射つより仕方があ しまった。 りません」 直子は、怖々だが、立ち上がって、身体を屈伸さ「いちいち、そのたびに、病院に来るなんて嫌だわ。 せた 痛くなったらすぐ、モルヒネを射ってもらいたい 「まったく痛くありませんわ」 のー と、直子は医者にいった。 「入院しても、構いませんか ? 「モルヒネが、効いているからでしようか ? 」 十津川がきいた。 「いや、石が動かなくなったからですよ。石が止ま「そのほうが安心というのなら、構いませんよ。五 れば、当然、痛みはまったくありません」 階の二人部屋が空いています。そこに一人いた患者 「でも、また石が動くんでしよう ? 」 も、昨日、退院したので、今は誰もいません。そこ 「ええ。排泄されるまで、動いたり止まったりしま に入られたらどうですか ? すよ」 と、医者はいった。 「動いたら、また痛むんでしよう ? 直子は、すぐ入院したいというので、十津川は、 「ええ。石が内膜を傷つけますからね , その手続きをすませると、家に戻り、着替えやパジ 「いやだわ。背中から頭まで痛くなるんです」 ヤマ、洗面具などを用意することにした。 こわごわ うそ

10. 十津川警部 裏切りの駅 (ノン・ノベル)

なりますよ」 いいんですか ? 「どうしたら、 「何日で、体外へ出るんですか ? 」 と、十津川はきいた。彼にも、結石の経験はない 「人によって違います。明日、出てしまうかもしれ 「普通の痛み止めでは駄目でしようから、モルヒネ ないし、三日かかるかもしれない を注射しましよ、つ」 「こだ、じっと、待っているより仕方がないんです 「モルヒネって、麻薬でしよう ? 」 「鎮痛剤としても、最上のものです。それとも、普か ? と、十津川がきいた。 通の痛み止めで我慢できますか ? 」 「まあ、水分をとって、早く体外へ排泄するように 「駄目だわ」 うめ するより仕方がありませんね。 と、直子が呻いた。 「衝撃で、結石を粉々にするという方法があると聞 「じゃあ、お願いします」 いたことがあるんですが」 仕方なく、十津川もいった。 やわ 「ありますよ。しかし、完全に粉砕できるという保 モルヒネが注射されると、直子の激痛も和らいで 証はないし、結局、体外に排泄することになるんで臨 同時に、意識ももうろうとなってきた。 きたが、 の 気分が悪い 痛みは消えたが、 室 医者は、落ち着いた声でいった。 「これから、どうなるんですか ? 」 特 十津川にしろ直子にしろ、尿管結石は初めての経 と、直子がきいた。 ろ、つばい 験で、激痛に狼狽しているが、医者にとっては、よ 「石が体外へ排泄されれば、ケロリと、痛みは無く はいせつ