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検索対象: 回教概論
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1. 回教概論

第一節回教の信と行 回教はその開教者マホメットの名に因みてマホメット教と呼ばれている。この名称は、 あたか しかしながら 回教が恰もマホメットの創唱せる宗教なるかの如き感を与える。乍併マホメット自身の堅 く信ずる所によれば、既に繰返して述べたる如く、決して新しき宗教を宣べたるに非ず、 啓示によって永遠の真理を示され、これを衆生に向って復誦せるものである。従って古蘭 はマホメットの説教に非ず、徹底してアルラーの言葉である。 この永遠の真理は、既に彼以前の多くの予言者にも啓示せられ、彼等によって衆生に伝仰 の 教 えられている。マホメットは彼にも啓示せられたるこの昔ながらの正しき教を「イスラー 回 ム lslåm 」と呼び、これを奉ずる者を「ムスリム MusIim 」と呼んだ。イスラ 1 ムは随順章 五 を意味し、絶対にアルラ 1 に帰依随順すること、ムスリムはアルラーに帰依随順する者を第 ウイグル 意味する。シナにては一般にこれを真教又は清真教と訳し、また当初回絶人の宗教として 第五章回教の信仰

2. 回教概論

が区々なるを知り、驚き且憂えてその統一の必要をウスマーンに進言した。よってウスマ ノは、、 ノフサより原典を借受け、ザイド・イプン・サービット及びクライシュ族の三長 老に命じ、原典に拠って複本を作成せしめた。而してウスマーンは、若し古蘭に関してザ イドとの間に異論を生じたる場合は、クライシュ語にてこれを書くべしと訓辞した。蓋し ザイド・イプン・サービットはメディナ人なるが故に、アラビア語の発音又は書写に於て、 クライシュ族のそれとの相違あるべきを慮ってのことであろう。かくてこの第二結集は、 古蘭の用語をクライシュ族の言葉即ちメッカ方言に統一せるだけで、内容そのものには何 らの変更を見なかったであろう。是くして成れる新しき古蘭原典は、これを永くメディナ に奉蔵することとし、三個の複本を作成してこれをダマスコ、クーフア、バスラの三陣営 に送致し、同時に悉く自余の古蘭写本を破毀せしめた。ウスマーンの命令によって結集せ られたる古蘭は、爾来如何なる添加も削除もなく、そっくりそのまま今日に伝えられて来 た。その一言一句は、悉く千一二百年以前にマホメットのロより出でたるものである。 古蘭を記憶し、これを正しく発音することは、回教徒殊に学者の務めであり、古蘭全部 を暗誦せる者は「護持者 Håfiz 」と呼ばれて特別の尊敬を博する。発音の正確もまた重大 ヾクル、ウマル、ウスマーン、アリーの四カリ 1 章 事とせられ、初期回教に於てはアプー サーヒプ 第 ファ及び十人の同朋が、天使ガプリエルが話せる通りの発音を、マホメットから習得した とされている。さり乍ら古蘭の読誦をあくまでも一様ならしめることは不可能であった。

3. 回教概論

さて古蘭はキリスト教・ユダヤ教及びサバ教を、正しき教として並称している。「 ( マホ メットに下されたる啓示を ) 信ずる者も、キリスト教徒・ユダヤ教徒・サバ教徒も、アルラ ーと末日とを信じて正義を行う者は、畏怖なく憂懼なけん」三ノ六二、五ノ七三 ) 。サバ 教が如何なる宗旨なるかは明確でない。恐らく東方化せられしキリスト教の一種である。 多くのアラビア詩篇によれば、マホメットその人も、その敵からサバ教徒と呼ばれていた。 当時のメッカ人は、アラビア在来の宗教に慊らず、新しき信仰を抱ける者を、邪教異端の 意味でサバ教徒と呼べるものの如くである。謂わゆる「修行者 Ha 三 f 」もまた斯くの如き 求道者の一群であった。ハニーフは古蘭に於ては真実の信仰を抱く者を意味し、ムスリム と同義に使用されているけれど、サバ教の場合と同じく、異端者又は背馳者の意味にも用 いられていた。 さて下の伝説は種々なる意味に於て重大なる意義を有する。メッカのある祭日に当り、 四人の同志が真実の信仰、即ちアプラハムの教を求めるために群衆から離れ去った。四人 の名はワラカ Waraqa ibn Naufal' ウバイダラー Ubaidallah Jahsh 、ウスマーン Uth ・ man ibn al-Huwairith 、ザイド Zaid ibn Amr と呼んだ。而してワラカはキリスト教を信 じ、キリスト教徒及び彼等の経典から多くの知慧を学んだ。ウバイダラーは長き煩悶の後 にマホメットの信者となったが、アビシニアに移りてよりキリスト教に帰依し、回教徒に 向って「吾等は明らかに物を見るのに、汝等は嬰児の如く目ばたきしておる」と言った。 あきた 050

4. 回教概論

マホメットの家の前に到り大声を張上げて「出て来い ! ーと喚んだ。古蘭の下の章句は恐 らくこの頃の啓示であり、信者に対して礼儀を求めたるものであるーー「嗚呼汝等信者よ、 汝等の声を予言者の声より高くする勿れ、汝等互に高談する如く彼に対して高談する勿れ。 これ汝等の識らぬ間に汝等の所行の空しからざらんためなり。嗚呼アルラーの使徒の前に てその声を低くする者は、アルラーその心の慎みを知る。彼等は赦宥と大なる報賞を受け ん。内房の外より汝を喚ぶ者は、概ね解せざる者なり。彼等汝の出で来るまで待たば更に 可なり。されどアルラーは宥恕者・大悲者なり」 ( 四九ノ二ー五 ) 同じくこの年の夏、マホメットはタブーク Tabük に遠征した。そは彼が企てたる最後 の征戦にして、東ロ 1 マ帝国に煽動せられて国境地方に騒擾せるシリア諸部族を征服する ためであった。この遠征は多くのキリスト諸部族及びユダヤ部族に臣従を誓わしめて凱旋 したが、炎熱下の行軍に堪え兼ねて、辞を設けて中途より離脱せる者あったので、古蘭九 章に彼等に対する激しき非難がある。 アラビア人の性格は不羈奔放にして、その感情は動揺し、気分は急変する。彼等は一旦 はマホメットとその宗教とに帰依しても、やがて離叛し去らんとする。現にマホメットの 在世中に、彼等は屡々叛旗を飜し、彼の晩年はその鎮圧のために忙しかった。かくてマホ メットの政治的聡明は、若しこの新しき国家の土崩瓦解を防がんとすれば、諸部族に共通 なる具体的の利益と野心の目標とを提示し、これを以て紐帯たらしめねばならぬことを看 ふき なか 078

5. 回教概論

る。 四、意志 Irådah0 アルラーは一切の欲するところを行い、その欲するところは悉く実 現する。世界の一切は、善きも悪しきも皆なアルラーの意志によって存在する。そは信者 の信仰を欲し信徒の篤信を欲する。若し然らずば世に一人の真実の信者なく、また一人の 篤信者ないであろう。そはまた不信者の不信を欲し、無道者の非道を欲する。若し然らず ば世に不信なく非道もないであろう。若し人ありて、何故にアルラーは一切衆生が真実の 信仰に入るを欲せざるかと問うならば、吾等は答えるであろう「吾等はアルラーが何を欲 し、何を行うかを訊ぬる権利ない。アルラーは一切を欲し一切を行い得る」と。不信者を 造り、これを不信のままに放置し、蛇・蝎、豚乃至一切の悪なるもの造るは、吾等の窺知 し得ざる神意による。吾等は神意の永遠無限なることを承認せねばならぬ。 五、一切聞 Sama'0 アルラーは耳なくして高低一切の音を聞く。 六、一切見 Basar0 アルラーは眼なくして一切を視る。そは暗夜に黒石の上を匍う蟻を も見る。 七、一切語 KaIam0 アルラーは語る。但し人間の如く舌を以てするのでない。その僕 のある者には、アルラーは直接に語る。モーゼ及び昇天の際のマホメットそれである。他 の者には天使ガプリエルを通して語る。予一言者に神意を伝える場合は、概ねこの方法によ る。かくて古蘭はアルラーの言葉であり、従って永遠不滅である。 しもべ 126

6. 回教概論

白である。そは必要欠き難きと共に、教団に取りて最も危険なる要素なりしが故に、有為 なるカリーフアは、彼等の利害を戦勝による分捕と結び、彼等をして政治上の事を想わし めざるに努め、且移動並に分屯によって、危険なる徒党を結ぶことを妨げんとした。而も 回教国家内に於ける唯一の組織ある勢力は、実に軍隊に外ならざるが故に、その政治的改 造乃至革命は、常に彼等の手によって断行されて来た。最近のケマール・パシャの如き、 亦実にこの例に洩れぬ。 次に宗教・道徳・法律の三者が、分化せられざりし団体に於て、神学並に宗教上の儀式 に通ずる学者教師が、偉大なる勢力を振い、共通の利害関係から、彼等の統一によって軍 人団並に官吏団に対抗せしめんとのカリーフアの政策から、今日の「教師団」と呼ばるる 団体が発達した。而して専制君主国に於て、官吏の結託が出現することは、古今東西に共 通のことである。これらの階級は、国家より受くる支給は極めて不確実であったが、自ら 無限の富を作り得る地位に在りて、社会的並に経済的特権を得て来た。 近代ベルシア及びトルコに於ける国民主義運動は、実に一切叙上の弊害を打破し、新し き政治的原理に則りて、新しき回教国家を組織せんとする革命運動であった。近代回教諸 国の努力は、彼等の外面の衰頽の衷から、新しき生命の芽が萌出したことを明白に物語り つつある。

7. 回教概論

彼の衣服は質素と言わんより粗末であった。されど洗身と香水とを酷愛し、常に髪の手 入れと、雪白の歯とを自慢にした。その日常の生活は、愛妻アーイシャの語るが如く、あ くまでも簡朴であった。自ら火を焚き、床を掃き、而して山羊の乳を搾った。その日々の 食は、大麦のパン、棗椰子実及び水に過ぎず、乳と蜂蜜とはその最も好愛する所であった が、思うように味うことが出来ぬほど乏しかった。而もその乏しき食糧を、彼は毎日その 門前の腰掛に集まり来る「腰掛の人々ーに頒与するを例とした。彼の臥床は莚であった。 彼は自ら破れたる衣を縫い、自ら靴さえも繕った。 彼の僕アナス Anas は言う 「われ八歳の時より予言者に仕えたり、われに数々のい たずら事ありしも、一たびも叱責を蒙れることなし , と。妻アーイシャは、彼の内気なる 性格を評して「ものに羞らうことは覆面の処女の如くなりき、と言っている。遊べる児童 の群れを過ぎる時は言葉をかけずに通ることはなかった。動物を好み、また動物に愛され た。如何なる人とも喜んで会い、握れる手を己れより引くことなかった。人と偕に在る時 は、いつまでも黙々として他の言に耳を藉した。笑う時は腹の底から笑った。僕ザイドの 死んだ時や、母ア 1 ミナの墓に歿後五十年にして詣でた時などは、実に幼児の如く号泣し ~ 章 た。若き妻ア 1 イシャを溺愛せりとは屡々非難せらるる所であるが、而も彼のカディージ 第 ヤに対する情愛は、身を終うるまで綿の如く温かく、蜜の如く甘かった。そはアーイシャ その人に語らしめるがよい。此の若くして美しく、而も矜高なる妻は、マホメットが、常

8. 回教概論

でも幽鬼を目撃したと言い これと交通したと言い張る。この幽鬼に関しては数限りなく 物語が創られている。天使並に幽鬼に関する信仰は、甚だ多くをユダヤ教から採っている。 第四節予言者と経典 さてアルラーは、衆生を正しき信仰に導くため、多くの使者を地上に降した。直接アル ラーより啓示を受けたるこれらの使者は「予言者 NabiJ と呼ばれる。予言者の数は極め て夥しく、聖伝によってこれを異にするも、一般に二十万人とされている。古蘭には二十 九人の名を挙げているが、最も重要なるは下の六人にして、それぞれ特別の称号を有する。 アダムーーーアルラ 1 に選ばれたる者 Sufi Ullåh ノアーーアルラーの予言者 Nabi Ullåh アプラハムーーーアルラ 1 の友 Kha 三 Ullåh モーゼーーアルラ 1 と語る者 Kalim Ullåh イエスーーアルラーの霊 Rüh Ullåh マホメットーーアルラーの使徒 Rasül Ullah 予一一一口者は決して一律でなく、その間に尊卑の別がある。「諸の使徒のうち、吾等はある みずか 者を他より貴くせり。アルラー親ら語れる者をば最高の位に置き、またマリアの子には 150

9. 回教概論

ンバル Ahmad ibn Han- を見たからだ」と。ハンバル法学派の祖アハマッド・イプン・ イマーム bal が「導師」に選ばれたのは、彼が何人よりも忠実に予一言者の先蹤を守ったからだと言 われた。かくて名高き一回教神学者は、回教の神髄は三事より成る、一は徳行に於て予言 者の蹤を蹈むこと、二は合法の食物のみを摂ること、三は一切の行為に於て誠実なるべき ことであると教えた。 回教の弘布と共に、マホメットを知らざる多くの人々が信者となった。彼等は旧き世界 に新しき生命を鼓吹せる予一一一口者に就て、その言い且行える一切を知らんと欲した。若しマ いんめつ ホメットが耶蘇の如く死後百年にして著名となったのであれば、その一 = ロ行は多く堙滅に帰 したであろう。ただ彼はその生前に於て、既にアラビアの最も偉大なる指導者となれるが 故に、彼の言行は敵味方の注視の的となり、忘れ去られる前に教団の財宝となった。新し き信者等は、マホメットに親炙せる同朋の幸福を羨みながら、彼等の周囲に集りて限りな く質問を発したことであろう。而してこれらの同朋は、聖戦に従いて東西に馳駆し、その 到る処に古蘭と教祖の言行とを彼等と共に携行した。彼等は教祖の言行に就て、その知れ g 及 る限りを熱心に新しき信者に告げたであろう。同朋のうちでもアーイシャ、アプー・ホラ 古 イラ、アプダラー・イプン・アムル、アナス・イプン・マーリク Anas ibn Målik 等は、 章 四 最も多く教祖の言行を知れる故を以て名を馳せていたので、多くの信者が彼等のロより教第 あたか 祖について聴くために、彼等の周囲に集まり、彼等の止まる処は、恰も学校の如き光景を

10. 回教概論

ェクソシスト 憑き物をおとす呪術で江戸町民の絶大な人気を博し 、市高田衛た祐天上人とは , ー・ーその虚像と実像をあばき、もう 新編江戸の悪霊祓し日 ひとつの江戸をとらえる。 ( 小松和彦 ) 古代末から中世にかけ頻発した怪異現象・百鬼夜行 百鬼夜行の見える都市田中貴子を手掛りに、平安京・京都という都市と王権が抱え 込んできた闇に大胆に迫る。図版多数。 ( 京極夏彦 ) 人類の多様な宗教的想像力が生み出した多様な事例 ・・フレイザー を収集し、その普遍的説明を試みた社会人類学最大 初版金枝篇 ( 上 ) 吉川信訳 の古典。膨大な註を含む初版の本邦初訳。 なぜ祭司は前任者を殺さねばならないのか ? そし ・・フレイザー て、殺す前になせ〈黄金の枝〉を折り取るのか ? 初版金枝篇 ( 下 ) 吉川信訳 事例の博搜の末、探索行は謎の核心に迫る。 妖怪はいつ、どこに現われるのか。江戸の頃から最 妖屋の民俗学宮田登近の都市空間の魔性まで、人知では解し難い不思議 な怪異現象を探求する好著。 ( 常光徹 ) 博覧強記にして奔放不羈、稀代の天才にして孤高の 南方熊楠随筆集益田勝実編自由人・南方熊楠。この猥雑なまでに豊饒な不世出 の頭脳のエッセンス。 ( 益田勝実 ) 天皇とはどんな存在なのか。和辻、三島、柳田、折 象徴天皇とい、つ物赤坂憲雄ロらの論を検証しながら象徴天皇制の根源に厳しく 迫る、天皇論の基本図書。 ( 中野正志 ) 自由、流通、自治等中世の諸問題を実証的に追究し、 日本中世都市の世界網野善彦非農業民、都市民の世界である新たな中世社会像を 提唱する画期的な論集。 ( 桜井英治 ) 中世日本に新しい光をあて、その真実と多彩な横顔 日本の歴史をよみなおす ( 全 ) 網野善彦を平明に語り、日本社会のイメージを根本から問い 直す。超ロングセラ 1 を続編と併せ文庫化。