チを取り出し、ぐすんぐすんと始めた。 と、思っているうちに、ばくも胸が詰まって、思わずハンカチを取り出していた。 青山繁晴さんは「熱誠」の人である。 この『平成紀』には青山さんの熱意、訴えたいことが溢れ、なんとかこの思いを伝 えたいという青山さんの熱い思いが伝わってくる。 『平成紀』は青山繁晴さんでなければ書けない小説である。 月刊「 Hanada 」編集長
■手に取った黒いネクタイ せいひっ この青山繁晴さんの『平成紀』を読んで、ばくはあの時代、あの静謐な秋のことを まざまざと思い出した。 青山さんのこの小説は昭和から平成に変わるあの一瞬をみごとに捉えている。 主人公の通信社の若い記者、官邸クラブに所属する楠陽はむろん、青山さんと等身 大であり、楠陽の言動、取材ぶりなどは青山さんの実体験といっていいだろう。 青山さんが優秀な記者だったことがよくわかる。 楠陽が最初に〃異変みを感じ取ったシ 1 ン。 党員向けの夏期セミナ 1 で講師として話をしていた当時の中曽根康弘総理が突然、 声を張り上げる。 さんぜん 「天皇陛下は天空に燦然と輝く太陽のごとき存在であります」。そして、一瞬沈黙し、 声を落としてこう続ける。「われわれは、その太陽あってのわれわれだと知らねばな らないのであります」。 このひと言で楠Ⅱ青山繁晴は「天皇に何かあったのではないか」と感じ取る。 〈頑健な天皇陛下のご健康に変化が兆したのではないか〉〈首相官邸は、その日に備
過青山繁晴 9 7 8 4 5 4 4 4 2 4 9 9 9 1 9 2 0 1 9 5 0 0 5 4 0 0 昭和天皇崩御の「 >< ディ」はいっ訪れるの一凱 か。その報道の最前線にいる記者・楠陽に関一旺 係者が衝撃のひと言を洩らした。「陛下は吐花 血。洗面器一杯くらい」。その時、現場で何一繃 が起こっていたのか。そして新元号を「平 成」に決めた、政府の知られざる思惑とは。 著者自身の記者時代の経験を源に、圧倒的な リアリティーと臨場感で紡ぎ出す傑作小説。 幻冬舎文庫 青山繁晴の本 主月山繁晴 Aoyama Shigeha 「 u 一九五二年神戸市生まれ。慶應義塾大 学文学部中退、早稲田大学政治経済学 部卒。共同通信記者、三菱総研研究員 を経て二〇〇二年、日本初の独立系シ ンクタンク「独立総合研究所」社長 兼、首席研究員に就任。二〇一六年、 参議院議員に当選。著書に「壊れた地 球儀の直し方」「青山繁晴の「逆転」 - ガイドハワイ真珠湾の巻』『ほくらの 一祖国』などがある。 平成紀 青山繁晴 定価 ( 本体 540 円 + 税 ) I S B N 9 7 8 - 4 - 5 4 4 - 4 2 4 9 9 - 9 C 0 1 9 5 \ 5 4 0 E t h e H E I S E I E R A S H I G E H A R U A O Y A M A カバーテサイン 幻冬舎デザイン室 題字 青山繁晴 カバーイラスト もりおゆう 幻冬舎文庫 幻冬舎文庫 \ 540
平成紀 青山繁晴 幻冬舎文庫
幻冬舎文庫 平成紀 青山繁晴
作者の日本語に対する愛情と信念に基づき、 同じ言葉でも漢字、ひらがな、カタカナ、ロ 1 マ字を場面によって自在に使い分けます。 あえて統一しません。一般の校正基準とは異 なります。 ( 青山繁晴拝 )
201 解説 えを始めたのではないか〉 楠陽の記者としての嗅覚は鋭い、という言葉では足りない。楠陽が皇室に対する熱 い思い、「赤心」とも一一一一口うべき思いを秘めていればこそ中曽根総理の片言から「天皇 に何かあったのか」と感じ取ったのである。 そしてここから『平成紀』が始まる。 昭和六十四年一月七日に陛下が逝去され、同日午後、当時の小渕恵三官房長官が 「平成」と改元することを発表。会見で「平成」と墨書された紙をさっと開いたシー ンは今でも鮮やかに眼に浮かぶ。 「平成」という元号は、誰が考案し、どのような過程を経て決められていったかとい う謎解きの興味。 この小説の「肝」はまさにここにある。 もうひとつは、その謎に迫る通信社記者楠陽Ⅱ青山繁晴の取材ぶり。 編集者、記者の唯一の財産は人間関係というのが、ばくの持論だが、楠陽の対象に 対する接触のしかた、人間関係の築きかたに青山さんの人柄が滲み出ている。 天皇崩御、皇后崩御のとき、政府はどう動くかのマニュアルをつくる実行責任者
203 解説 ■「熱誠」の人 青山さんの講演を一度だけ聞いたことがある。場所は早稲田大学大隈記念講堂。テ ーマは「葉隠 . 。早稲田大学に思い入れがあり、『葉隠』を愛読しているばくにとって、 これ以上望めないシチュエ 1 ションであった。 時間前に行ったのに超満員。青山さんは舞台狭しと歩き回りながら話をしている。 そのうち舞台から降り、通路を歩き回って、聴衆にマイクを向け、意見を聞き、また 話を続ける。 感情が高まり涙ぐむ青山さん。涙声になる。 聞いている聴衆も思わずもらい泣きしてしまう。隣に座っていた若い女性がハンカ 「分かんないよ、そんなもん」〉 しかし官房長官室に入り際、秘書官は小声でこう言うのである。 「俺だってトイレに行くよ」 要は後でトイレに来いという暗示で、トイレで確認した楠陽は社に連絡、通信社は 「天皇陛下は重体ーのニュ 1 ス速報を打つのである。
202 ″赤錆〃と仇名される官邸の高官に、楠陽は長い時間をかけて喰い込んでい そして、「その時ーが来た。むろん〃赤錆〃がそんなことを漏らすはずもない。 しかし楠陽は″赤錆〃の部屋の前に立っている。 すると閉じていたドアが薄く開く。 〈楠を見て、それから左右をじっくり見て、引っ込んだ。意味が分からない〉 閉じられた扉は約二分後にまた四十センチほど開く。灰色のロッカ 1 が見える。 楠陽が何の意識もなく見ていると、〃赤錆みはロッカーの扉の内側に掛かっていた 黒いネクタイを手に取るのである。 黒いネクタイが意味するものは弔いしかない。しかし、楠陽は、〃赤錆〃に確認の 電話をしなかった。いや、できなかった。 できなかったところが、また楠陽、いや青山さんなのである。青山さんの慎みなの である。 時を少しさかのばる。 陛下の状態を「重体ーと書いていいかどうかを秘書官に確認するシ 1 ン。 〈「いま重体と書いていいですか」
へいせいき 平成紀 あおやましげはる 青山繁晴 平成年 8 月 5 日初版発行 平成年 8 月日 2 版発行 発行人ーーーー石原正康 編集人ー、ーー・・・ー袖山満一子 発行所ーーー・ー株式会社幻冬舎 〒 151 。 0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷 4 ー 9 ー 7 電話 03 ( 5411 ) 6222 ( 営業 ) 03 ( 5411 ) 6211 ( 編集 ) 振替 00120 。 8 ・ 767643 印刷・製本ー図書印刷株式会社 装丁者ーーーー高橋雅之 検印廃止 万一、落丁乱丁のある場合は送料小社負担で お取替致します。小社宛にお送り下さい。 本書の一部あるいは全部を無断で複写複製することは、 法律で認められた場合を除き、著作権の侵害となります。 定価はカバーに表一小してあります。 printed in Japan ◎ Shigeharu Aoyama 20 一 6 幻冬舎文庫 IS BN978-4-3 -42499-9 CO 193 幻冬舎ホームページアドレス http://www gentosha. co.jp/ この本に関するご意見・ご感想をメールでお寄せいただく場合は、 comment@gentosha.CO.jpまで。 あ -58-1