エミリー - みる会図書館


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1. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

「女性問題 ? 」。エミリーが眉毛をつり上げて言った。 私は首を振った。「違う。仕事のトラブルだ。ところで、私のほうが君の恋愛について聞くべき じゃないのかな ? 」 それから三杯後には、エミリーはすっかり酔っていた。だが、陽気に浮かれ騒ぐ週末の楽しい酒で はない。苦くて悲しい酒だった。バーが混雑してきたので、私はエミリーの耳元で叫ばなければなら なくなった。「カルバンという名前の会社は聞いたことがあるかい ? 」 「聞き覚えがあるような気がする。どうして ? 」 「具体的に思い出してくれないか ? そうしたらちょっとした秘密を打ち明けるよ」 エミリーは眉をしかめて集中した。半分しか覚えていない記憶をたどろうと懸命になっている。 「わかった彼女の唇が大きく開いて、大きな笑みになった。だが、無理やり笑顔を作り出したよう ールが何日か に、顔が少し歪んでいる。「カルバンという名前をどこで聞いたか、思い出したわ。カ 蔔に聞いてきたのよ 「彼が ? 」 「昨日もまた聞いてきたわ」 ワ ス 外の席に移動すると、エ、、 ーは話題を変えた。「この仕事、退屈で死にそう。いつもあの太った 章 田舎の農場主みたいな男たちを相手にしなければならないんだもの。何年か前までは楽しかったけれ八 第 ど、もうすぐ三十三歳になるし、生活を変えてみたいのー 「わかるよ。でも、それだけじゃないんだろう ? 」

2. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

一群がエミリ ーを取り巻く。 「電話を待っているよ、お嬢さん、。がっしりした農場主タイプの男が言った。「あんたのアクセント、 たまらないね , エミリーは会議ホールの向こう端から私に手を振った。顧客たちを後に残して、両手で投げキッス を送ってくる。私が微笑み返すと、彼女は両腕を突き出すような格好で、走ってきた。 「また会えてうれしいです、。再会のハグをしながら、エ ミリーは大声で言った。 それから、私の後ろにいつの間にか近づいていた、完璧な着こなしのジャーナリストのほうに行く と、唇に情熱的なキスをした。「カールとすっかり意気投合したみたいですね」 エミリーとはその晩、会う約束をした。彼女は私の今回の訪問を、単純に旧交を温めるためだと 思ったに違いな、。 三日目、午後一〇時 ニューヨーク、トライベッカ オフショアの信用詐欺 私たちは ( ドソン通りとフランクリン通りの角にあるダイヴという隠れ家的な地下のバーで落ち 286

3. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

こく自然に温かな人間味があふれ出し、思わ ・プレンティスはこうした連中とは違った。。 ずこちらも話を聞こうという気になるのだ。彼女は私がヨーロッパ系の投資銀行グッドマン・ロゼル で担当した訓練コースの参加者の一人だ。この銀行はつねに大手銀行からの買収話を待ち焦がれてい た。エミリーは見習い契約が終わるとすぐにニューヨークに移り、のフロントオフィスでの職 を見つけ、現在はウォール街の法人顧客に通貨スワップ取引を売り込んでいる。 を変えていた。彼女のプレゼンテーションは以前より早口にな ニューヨークは間違いなくエミリー ・ガイズ 突然、質問者の言葉を遮ることもあった。言葉の合間に「みなさん」を多用し、。フロジェクター の操作をしている男性を「機械オタク」と呼んだりもする。 国境越え エミリーはスペインのアパレルメーカー、ラロ ハの話からプレゼンテーションを始めた。この会 。フ 社はヨーロッパとアメリカに多くの店舗を展開している。経営陣は東南アジアにも進出したいと考え ス ていた。そして賢明にも、平均気温三十二度のシンガポールの女性たちは、スカンジナビアやカナダ 章 八 ではよく売れる冬用コートやウールの帽子などは買わないことに気がついた。そこで彼らはタイにア 十 ハノイなどの都市に二百店舗を第 ノンコク、マニラ、 ジア市場向けの工場を建て、クアラルン。フール、ヾ 開いた。

4. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

第二十四章発覚 六日目、午後七時 香港、エミリーのホテルの部屋 マスターフランはあるのか ? 私たちはエミリー の部屋のべッドに座り、彼女はシャンパンを注文した。ゆっくりとすすりながら、 彼女はガイ・アバクロンビーの悲しい物語を話し始めた。 カイがディレクターたちから、銀行の新しいセキュリティシステムをテストし 「すべての始まりは、、 てほしいと頼まれたことだった。彼らはバックオフィスの職員を疑っていて、顧客の資金をこっそり 流用することが可能かどうかをテストしたかったの。そこで、ガイに、顧客口座、セキュリティコー ド、そして必要なすべてのパスワードを教えた。土曜日の朝、彼はオフィスに行き、十分後にはある 374

5. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

そこに立っていたのは、エ 「いったい、。 とうして : : : 」 「簡単よ。カ ールは銀行のパソコンからインターネットであなたの航空券を買ったの。彼がニュー ヨークに来てからのメールはすべて読んでいたわ。どのアカウントも同じパスワードなんだもの , 「どんな ? 」 「もちろん、自分のイニシャルよ。。はエルネスト。彼の出生証明書を見て驚いたわ」 「そんなものをどこで : 「デスクトップにスキャンしたものが残っていたの。彼の身元をそっくり盜めるというわけ。まあ、 それだけの価値があればということだけれど」 「君はいっ : 「あなたより六時間早く。ニューヨークで外回りをするというのは嘘。私がここにいることを会社は 知らないわ。もう十二時間も香港にいるのにね。あなたが私のクレジットカードを使ったから、宿泊 先もすぐにわかったわ [ 「他にも何か嘘をついていたことはあるのかい、エミリ 「イエスでもあるし、ノーでもあるー。エミリーは間をおいた。「説明を始める前に、ルームサービス で何か冷たいものを注文しても、 しいかしら」 ミリー・プレンティスだった。 364

6. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

ち、とくに次々と与えられる題材を理解しようと必死になっている者たちを見下していた。第一週の 終わりには、仲間たちがコヴェント・ガーデンに繰り出し、酒を飲んでせつかく学んだことを忘れて いくのをよそに、ロビンは一人残ってさらに高度なエクセルのスキル習得に励んでいた。第二週の終 わりには、休憩時間にクラスメートからコーヒーに誘われることさえなくなっていた。 長期のコースともなれば、ロマンスが芽生えず終わることはありえない。エミリー・ 。フレンティス にふられる男はその後も何人も現れるのだが、ロビン・べアフィールドほど彼女に夢中になった男は いなかったのではないだろうか。工 ミリーが五メートル以内に近づいただけで、ロビンは顔を赤くし ガイ・アバクロンビーは目ざとくそれに気づき、コースの最終週にはエ、 ーをいつもからかっ ていた。 「どうしても恋人を見つけたいんだろうけどね、エミリー。でも、間違いなく " ミスター数学″より ましなやつがいるだろう ? 」 「あなたならそう思うでしようね。でも、他にこれという相手は見当たらないもの、 「じゃあ、視力を矯正したほうがいい。 君のすぐ目の前に立っているんだから」 資産配分とファンドマネジメント クラスが債券、株式、デリバティブまでマスターすると、ポートフォリオをどう構築するかを教え 298

7. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

送信者【エミリー・プレンティス、 < >< 銀行 送信日時〕今日午後八時七分 件名【 LLOLU>< ーー不可欠な用語 こんにちは。 今日はとても忙しいの。以下を頭に入れておいて。 固定金利ローン【銀行は借り手につねに同じ金利を課す。年六 % など。 変動金利ローン〕貸し手は基準金利と、決まったスプレッドを課される。基準金利はローン期間 内で上がったり下がったりする。—J—OOL ( ロンドン銀行間出し手金利 ) 十四 % など。 交換レート二一つの通貨が取引される価格。一〇〇インド・ルピーが一五南アフリカ・ランドなど。 現物取引〕当日のレートで合意される取引。私があなたからルピーを買いたくて、あなたは私か らランドを買いたいときなど。その通貨は一一営業日以内に引き渡される。 弓【ルピーとランドを将来の特定の期日に交換するという合意。交換レートを決めるのは 先物取ー 今日だが、引き渡しは将来なされる。 エミリーより O-()D 今晩会うのを楽しみにしていますー 231 第十四章悪魔の通貨

8. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

ーの前にはすでに飲み物のグラスが置かれていた。隣 合った。私が階段を降りて店に入ると、エ、、 には太った男が座っている。 「君の父親が迎えに来たのかい ? ー。会議場のホールにいたあの農場主風の男だ。どうやら、今晩は エミリーにちょっかいを出そうと決めたらしい エミリーは彼のほうを見て微笑むと、自分のクリーミーなカクテルを彼のズボンにぶちまけた。 「会議にご参加いただき、ありがとうございます。お電話は結構です。こちらからおかけしますから」 「おやすみなさい」と、私は男に言った。「飲み物は気をつけて選んだほうがいいですよ。お帰りに なる前に、私が座る椅子をきれいに拭いていってもらえますか ? 」 次のカクテルを飲みながら、エ ミリーは次々とうわさ話を聞かせてくれた。彼女のプライベートな 生活は仕事のせいで犠牲になっていた。二カ月前にカールと出会ったことで、ようやく私生活もにぎ やかになってきたという。 「 >< では忙しすぎて。前はそれが楽しいと思っていたけど、なんだか燃えっきてしまったみた 「でも、今日のプレゼンテーションはすばらしかった」 「あんなの、眠りながらでもできるわ。参加者の半分は、私が美人だと思うから聞いていただけよー 「持っているものは何でも使ったほうがいい と、私が常々アドバイスしてきただろう ? 」 「そうね。でも、銀行が目指しているのはばかみたいなことだし、いつもストレスを感じているの。 経営陣は私に女の武器を使って成功しろと言っているみたいー。彼女はロングアイランド・アイス 287 第十八章スワップ

9. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

しかし、脳の別の部分では、悪魔のささやきが、私に怪しげな道を進むようにそそのかしていた。 ニューヨークに行って、好きな仕事をすればい、。 逮捕されなかったのだし、アニサには私をイギリ スにとどめておく権限はない。それに、ニューヨークでは三枚目の写真に写っていたエミリー ンティスに会うことになっていた。いい考えがひらめいたのだ。 すべてはリスクとリターンの関係。そうじゃなかったか ? それに私はいつも飛行機ではよく眠れる。 209 第十三章すべてがうまくいく将来

10. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

イカー。彼はバックオフィス担当 「どこで ? 」 「シンガポールでよ。私たち、すべてを念人りに計画したの」 「この女性は ? 「フィオン・ウイルコックスは、の監査役のパートナー。彼女の右にいるイザイア・バシュキ ナはで財務部を動かしている」 「これは ? 「ジェイク・ウォーターズ。彼は金融業界の知恵袋で、今はバーウィック近くの小さな城に住んでい る。彼のコンピューターモデルが取引のタイミングを完璧に計算してくれたわ」 エミリーがまだ説明していない人物が四人残っていた。「キャロライン・レヴィは ? 」 「オフショア・ヘッジファンドを経営している」 「アウグスト・アストウディージョは ? 「商品取引仲買会社の財務ディレクター」 「ウインストン・ガッドはワ・ 「残念ながら、職業上の犯罪で捕まったわ。彼、とっても役に立ったんだけど , ガイは写真の中央、私の隣にいた。つまり、この陰謀に加担していない学生が一人いたということ だ。絶対に加わるはずのない不適応者が 「ロビン・べアフィールドも仲間だったとは言わないでくれよ 368