ロジウム - みる会図書館


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1. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

百倍くらいで取引されているわ , 「ロジウムのどこがそれほど特別なんだ ? 」 「プラチナより融点が高くて、腐食しづらい。ロジウムほんのひとかけらで、銀の変色を止められる のよ。車の触媒コンバ ーターにはロジウムが不可欠ね。排ガスの毒性を弱めるの。他に代替品がない から、自動車産業全体がロジウムに依存している」 「ロジウムはどこで産出されるのかな ? 」 「南アフリカ、オンタリオ、それにウラル山脈で採掘されているわ。問題は、純粋な天然のロジウム が発見されていないということなの。い つも他の金属ーー金、。フラチナ、パラジウムーー・とまじった 状態で発見されている。新しい供給源の可能性がつい最近ネット上で話題になったところよ 「それはどこ ? 「『どこ』というのは正しい質問じゃないわね。『何』というのが正しいと思うわ、 「わかった、。私は夢中になっていることを悟られないよう必死だった。「ロジウムの新しい産出源と 「使用済み核燃料」 「ても、いったい誰が核燃料棒から抽出された化学物質なんて買おうとする ? リスクが大きすぎる だろう ? 」 「そのとおり。でも、以前ある賢い人が、リスクがないところにリターンはないって教えてくれたこ とがあるわ。そして、リスクが大きいことはそれだけ大きいリターンを意味するってことを、 3 1 2

2. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

「それ、本当なのかい ? ロジウムの市場自体、存在しているのかな ? 「現物取引市場ならね。でも、価格は日に二回しか公示されないの。すべての取引は店頭取引で行な われている。価格は信じられないくらい変動が激しいのよ。たとえば、アメリカの自動車産業が二〇 〇八年に崩壊したときには、ロジウムの価格も暴落した。大けがするためにあるような市場よね。タ ンタラムがどうなったか、知っているでしよう ? 」 タンタラム。これもカルバン社のリストに載っていた、聞ぎ覚えのない名前だ。 ーは十分なリサーチをす 「コロンバイト・タンタライトから来ているの。略してコルタン」。エミリ ませているようだ。「コルタンは三十億年以上前の地層にだけ見つかるの。コルタンから製造するタ ンタラム・コンデンサーは、携帯電話に不可欠なもの。ちょっと考えてみて。世界には四十億台の携 帯電話があって、それぞれが小さな銀色のタンタラムを必要とする。他に代用できるものがない。人 る 工の代用品はね。は三カ月以内にロジウムのオプションの売買を始めようと計画しているわ。 を 私はそれを止めようとしているのー 「だけど、ロジウムを売るのは違法ではないだろう ? 」 「そうよ。世界の供給の大部分は合法的に操業する鉱山から産出されている。でも、数年前にコンゴ 境 見 で闇市場が出現したの。ルワンダとウガンダ国境に近い地域にね。農民から奪った土地にある鉱山が、 奴隷のように人を働かせ、違法に操業している。一万人もの罪もない市民が殺され、さらに多くが生九 第 まれ故郷を追われた。七歳か八歳の子どもたちが頭に銃を突きつけられて、金属を選り分けている

3. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

フレーミング・フェラーリ ( I-L u- ) は、 O co I-L cn ( クレディ・スイス・ファースト・ポスト ン ) に所属するイメージ重視のトレーダー・グループだった。 「なぜ ? 」 「私、世界で初のロジウムのコールオプションを売っているのよ。満期は九カ月。一二〇〇万ドルの 。フレミアムはすでに * に支払われている。私はロジウムの価格が上がって、相手方が大儲けす るようにしたいの」 「 <2-*>< はどうなる ? ぶち切れるだろう ? 」 「口外はしないわ。こんな高額の取引で失敗したなんて、評判を落とすようなことは絶対に言わない でしよう。そうしたら私が最後の一撃をくらわせるの」 廊下に足音が聞こえ、私の部屋の外で止まった。私は声を落としてささやき声で言った。「何だっ て ? 「市場操作をしていたこと、それを隠蔽していたことを、マスコミにリークするのよ。投資家が市場 を信用しなくなれば、彼らは投資を引き揚げるでしよう。誰もロジウムを取引しなくなる。そうすれ ば、世界のほんの小さな部分だけでも搾取から救うことができる」 case study カウンター 361 第二十三章詐欺

4. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

いでながら、この発言は u-J 0 がテクノロジーの最先端にはいないということも露呈した〔訳 注【ローロデックスは回転式名刺ホルダーの名称〕。 エミリーはロビン・べアフィールドの消息については話さなかった。その代わりに、枕に頭をのせ て、優しい声で私に言った。「あなたも計画を知りたい ? 」 「聞かせてもらおう」 「これからまさに、ロジウムの新しい供給源についてのうわさは、まったくの嘘だったことを市場に 発信するところなの。中国に新しい鉱脈などないことも、フォート・ノックスに秘密の戦略的備蓄な どないことも、世界が知ることになる。期待していた供給が得られないと市場が気づけば、ロジウム の価格は急騰するでしようね」 「使用済み核燃料からロジウムができるという話は ? あれも嘘だったのかい ? 」 「厳密に一一 = ロえば、完全な嘘ではないわ。でも、実現するにはまだ何年もかかるでしよう。カールに話 す前に、その話を信じてもらえるか、誰かに試しておきたかったの。カールは聞いたそばから、世界 中の新聞にその話を宣伝しまくっていたわ。彼が話を広めれば広めるほど、私たちには都合がよかっ 「次はどうなる ? 「すべてのうわさは否定されるか、嘘だと証明される。価格は上昇して、それで : : : 」 「それで ? 371 第二十三章詐欺

5. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

チームワーク実習 しかし、エ ミリ】が説明を始める前に、私は彼女に、コンラッドがカルバンに関心を寄せているこ とを話した。 ーは少し考えたあと、次のステップを決めた。「あなたは動かすにいて。彼は明らかにこれ がすべて作り話だということに気づいていないわ。そのことをこちらに有利に利用しなくちゃ」 「ロジウムについては ? これも君の想像が作り上げたものなのかい ? 」 、え。それはすべて本当よ。私たちは市場を独占しようとしているの。ロジウムはロンドンと、 スイスの三カ所でしか取引されていないから , 「チューリッヒ ? 」 「そう 「ウリのファンドが君の取引を手伝っているのかい ? 」 「そう 「ウリは最初からこの件に加わっていたということだね」 彼女はうなすいた。「いっ気づいたの ? 」 「ニューヨークでうすうす感づいた。君の両親がだまされたことをウリに話したと、ロをすべらせた ときにね」 365 第二十三章詐欺

6. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

八歳。甥のアレックスよりもっと幼い 「何の規制もなくて、まさに無法状態。ロジウム鉱石は鉱山会社から処理業者へ、そして外国のト レーダーたちの手に渡る。取引の痕跡は残さない。一キロのロジウムを手荷物として密輸すれば、二 〇万ドルで売れるのよ。ロジウムをイーベイに出品している人さえいる。それに対して疑問を持たれ ることすらないんだから」 エミリーはビールのポトルをカウンターにたたきつけるように置いた。「私は腐敗した鉱山会社が 繁栄していくために、一国の元首たちが暗殺されるのはがまんできない。政府が賄賂で黙らされるの も、環境が破壊されるのも、人権が侵害されるのも。あそこの連中は女性を家族の前でレイプさせる のよ。何百万という難民を追い立てて、意図的にエイズを広めて部族を消減させようとしているの。 私たちは誰でもラップトップやゲーム用コンソールを欲しいと思うけれど、自分の必要を満たすため に毎日どこかで死んでいく人がいるのは嫌だわ。あなたの手にしている携帯電話とアフリカの荒廃は 直接的に結びついているのよ」 私たちはよろめきながら外に出た。ニューヨークの冷たい夜風に吹かれて、思わず身震いする。工 ミリーがたばこに火をつけると、煙が私の顔のほうへと立ち上ってくる。「これって、二十一世紀の 『地獄の黙示録』よ。投資銀行やヘッジファンドを救うために何兆ドルものお金が使えるなら、なぜ 飢えや病気をなくすための数十億ドルが出せないの ? サハラ砂漠にソーラーパネルを並べれば、す ぐにでもエネルギー危機は解決できるじゃない。その研究もこの目で見たわ。でも、プロジェクトは 秘密にされているの。石油産出国とエネルギー企業が、利益を得られないからさ 3 14

7. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

キャピタル成長による利益をもたらす。 それでは、現金、債券、株式の理想的な配分とは ? それに対する簡単な答えはない。すべての人 を満足させる万能のアプローチというものは存在しない。第十七章で述べたように、投資となると一 人ひとり考え方が異なるからだ。 三日目、午後一一時三〇分 ニューヨーク、トライベッカ ダイヴが混雑してきた。周りを見ると、モデルのような男たちゃ、マルべリーのワニ皮のショル ーバッグを提げた女たちが大勢いる。ドアが開くたびに、客たちは誰か映画スターかロックの神様 がパーティーにやってきたのではないかと期待して入り口を見つめる。しかし私は、もっと気になる ことが頭にあってそれどころではなかった。 「ロジウムって何だい ? 」。エミリーは私の声が切羽詰まっているのに気がついただろうか。 「世界でも最も希少な化学物質よ。それに最も高価でもあるわ」 きん 「金よりも ? 「そう」 「なぜ ? 僕は聞いたことがなかった」 「ロジウムの年間生産量はわずか二十五トンなの。需要が供給をはるかに上回っている。銀の価格の 引 1 第十九章見境なくダーツを投げる

8. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

「それは永遠に不可能だと思うが」 「いったい何なんだ ? そうか 。私はようやくすべてを理解した。 ロジウムだ。私はばかげた鉄道模型の形をした二キロのロジウムを、あのおもちゃ屋を出てから すっと持ち歩いていたわけだ。つまり、ウリと会ったときから、私は誰かの計画の駒に使われていた。 ウリ。気さくで、陽気で、とくに頭が切れるわけでもないウリが、突然神経質になって、謎めいた新 や、そうなのだろうか ? しい顧客について話していた。彼がこのすべてを計画したとは思えない。い カールが言った。「君がチューリッヒ発の列車でガイ・アバクロンビーに会ってから、われわれは 君の行動のすべてを追ってきた」 「われわれ ? ー て 「そう。善人の側さー っ 戻 「何だって ? 」 々 日 「私は大規模な詐欺を調査している。だが、メディアのためじゃない。それは隠れ蓑だ。本当の雇い 福 主はもっと用心深く、目立たずにいることを望んでいる。この一件が明るみに出れば、イギリスの銀 幸 行部門を崩壊させかねない , 章 「君が本当のことを言っているのかどうか、私には確かめる術がないよ 「それが君にとってのリスクだ。だが、これがでっち上げではないことは証明できる。私の同僚に確第 かめてみるといい」

9. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

フラットよ、、 こ存じの にも知られないように、ロジウムの取引をやり遂げることができる。ビリー とおり、デリバティブの専門家。ロシア人のセルゲイは、たやすく資金を確保できる」 「つまり、彼らは取引ができる。問題はない。そこまではわかる。でも、なぜ君はロジウムの価格が 下がると、そこまで自信を持って言えるんだ ? いくつか 「この子は覚えている ? 英語を勉強していた優秀な子。エラ・ホルロイドよ。彼女は今、 の有名な金融ウェブサイトに市場レポートを書いているの。それからこれは、ギョーム・ムソー。彼 は今や金融大手のジ = ニアパートナーよ。トニー・チ = ーは香港最大のテレビ局で経済ニ = ース のキャスターをしている。ああ、ちょうどあと三分で彼の番組が始まるわ」 「君たちはどうかしている。全員が捕まるそ」 「もう一度、写真を見て。イヴ・ウィリアムズは十年ほど前から金融監督機関で働いているから、規 ー・グリーンは会社法を勉強して、今では抜け道を探す大名 則のことは何でも知っている。オリヴァ 人。シスーン・ウォードはイギリスの公訴局で働いている。彼女の地位であれば、重要なファイルを 紛失させることも簡単でしようね」 私は写真に写っている顔をもう一度確認した。「これは誰 ? 「べラ・フレミング。彼女の家族は外貨交換所を経営している」 すばらしい、と私は内心思った。マネーロンダリングには完璧な布陣だ。 「この男は ? 「リチャード・ルース。シンガポールで >< の経営管理部門を率いているわ。彼の隣はクリス・べ 367 第二十三章詐欺

10. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

窮を悪化させたことだけ、 ーはビールを二本注文した。「私は巨額の融資が人々を助けるとは思わない。危険な投資で 蓄えを失った人のことを考えてみて。銀行のせいで家や職を失った家族がどれだけいると思う ? あ なたは、なかには罪の意識を感じて十三階から飛び降りる銀行家もいると思っているかもしれない。 そうでしよう ? とんでもない。連中は純金の托鉢の椀を取り出して、政府から施しをもらうのよ」 彼女はビールを一気に飲み干した。左目から涙がこぼれ落ちる。「それに、このロジウムのことも あるし」 295 第十八章スワップ