商業銀行はこれまで預金を受け入れ、それを融資に回すことで利益を得てきた。銀行口ーンは 適度な利益性があり、ローリスクだった。もし問題が生じれば、銀行はいつでも抵当権を持っ住 宅を差し押さえることができたからだ。しかし、住宅ローンの場面は銀行の資金を長期にわたっ て貸し出すことになる。 そのための解決策が、〈債務担保証券 (oao) 〉にあるように思えた。 000 はローンをまと めてプールし ( 五億ポンド相当の貸付額など ) 、それを債券に換える。 oao は銀行とローン契 約者の関係を断ち切り、銀行に代わって債券保有者がローンの利子の支払いを受ける。 商業銀行は住宅ローン市場でのエクスポージャーを望む投資家に債券を売った。顧客には、 0 a 0 はローリスク・ハイリターンというめったにない組み合わせのすばらしい投資商品だと説明 しかし、銀行が自らの宣伝文句を信じ始めたことで、状況は奇妙な方向へと向かい始める。も し 000 がそれほどすばらしい投資対象になるのなら、自分たちでも少しばかり買えばいいでは ないか。金融業界は共食いとも呼べる驚くべき行動に走った。 < 銀行は銀行から 000 を買い それを投資資産として保有した。銀行は < 銀行から oao を買って返礼した。 世界の金融システムは自らを食い物にし始めたのである。 fast facts 350
ローンに変わり、それが利子の支払いという形で収人をもたらす。この段階では、銀行が顧客に与え るローンは、銀行にとっての資産になる。 銀行にとっての大きなリスクは〈信用リスク〉である。これは利子、さらに悪いときには顧客に貸 し出した元金が返済されないことを意味する。短期のローンの場面は近い将来の債務不履行を予想し やすいため、リスクは低い。 長期のローンの利率が高いのは、それだけ信用リスクが生じるまでの時 間が長くなるからだ。 すさんな融資決定は、不良債権につながる。不良債権ーーー永久に価値を落とし続ける債権ーー・は、 銀行のバランスシートの資産側に大きな穴を開ける。断固たる判断でその穴をすばやく修復しないと、 預金者は資金を引き揚げようとするだろう。預金者を失った銀行は、在庫のない店舗のようなものだ。 誰も近寄ろうとしない。 走るために生まれた 銀行危機が起きると、銀行の資産価値は暴落する。ローンは返済されないかもしれない。あるいは、 買い取った債券が格付け機関によって格付けを下げられたり、投資した元金が戻ってこなかったりす るかもしれない。多くの場合、このすべてが同時に起こる。 銀行の取りつけ騒ぎは、預金者がこうした災難に気づいたときに生じる。彼らは銀行に殺到し、 352
ある朝、たばことジンのにおいをプンプンさせたジェリーが、ジョナサンを立ち上がらせ、債券に ついて知っていることをすべて話すように言った。 古い原則 / 元金のトレードオフ 「債券とは債務契約のことです」 ジェリーが口をはさんだ。「それはどういう意味だ ? ン 「借用証書みたいなものです。企業または政府が債券を発行します。これは、借りた額に利子をつけポ て返済することを、投資家に約束するものです」 「返済の期限は ? 「契約で合意された日付です」 「債券から生じる利子の支払いのことを何と呼ぶ ? 」 「利札です」 「なぜそう呼ばれる ? 「債券はもともと大きな紙の証書でした。投資家は半年ごとにクーポンを切り取って、それを銀行で 現金に交換したのです」 ジョナサンは如才なく答えていた。私は、自信たっふりなジョナサンに対してジェリーがますます 1 1 7 第七章とても興味深いよ、ミスター
すべては安全のために 「株式からは配当金が生じますが、それは保証されたものではありません。もし企業のその年の業績 が悪ければ、配当金を支払うだけの利益を得られないことになります。あるいは、経営陣が利益を会 社のために再投資したいと考えるかもしれません。しかし、債券の利札は保証されています。業績が よくても悪くても、投資家は利子の支払いを得ることができます , 「だから ? 「投資家は一定の収入を確実に得ることができ、資産は保護されます。仮にその企業が倒産しても、 債券の投資家は返済を受ける債権者のリストの上位に位置します。自分の資金をリスクにさらしたく ない投資家には理想的な投資商品です。企業に支払い能力があるかぎり、彼らの資金は安全で、収人 は保証されるのです、 「リスクを避けたい投資家にとって、他に株式が問題となる点は ? 」 「企業には満期日というものがありません。のように、投資家の寿命より長く存続する可能性 もあれば、明日倒産するかもしれません。どちらにしても、決められた満期日というものはありませ ん。つまり、投資家が当初の投資金を取り戻せる保証はないということです」 「だが、もし債券がそこまで安全なら、なぜ先の金融危機の間にあれほど多くの債券の価値が暴落し たんだ ? 」 120
な電話は、年金ファンドがポルトガル国債を売って、同じ資金でデンマークのデリバティブを買うと いうような資金の移動の話だ。これで銀行には売り買い両方の手数料が人る。もちろん、営業担当と アナリストにも。 図の右側を考えてみたまえ。年金ファンドは一次市場での債券を提示される。これらの企業は資金 を調達することに必死になっている。巨大企業の重役たちが巨大企業を買収したがっていて、そ の買収資金として数兆ドルが必要になれば、彼らは投資銀行に頼る。は投資銀行の助けを借りて巨 額の社債を発行する。 < は年金ファンドと利付債券の支払いをする契約を結ぶ。年金ファンドにとっ ては、それが年金加人者に支払う収人源になるということだ」 株式は一次市場で発行され、ニ次市場で取引される 株を買えば、その企業が好調な業績を上げるか、株式市場全体が上向きになることを期待するよう になる。たとえば、現在のアップルのように、企業がその業界のリーダーになれば収益がどんどん上 がるので、その株を買うために投資家がもっと高い金額支払うようになる。収益の増加はいずれ配当 金の増加にもつながる。 ジェリ ーは一次市場と二次市場の違いについても教えてくれた。 「私企業は証券取引所に株式を上場しない。私企業の株は通常は比較的少数の人たちによって所有さ れていて、組織を拡大し、利益を再投資して、別の店舗や新しい機械を買う。だが、重役たちはもっ と急速な成長を望み、株式を現金化したいと考えるかもしれない。 これが〈一次市場〉で、投資銀行
攻撃的になるのを見て悲しくなった。 「債券の期限が来ると何が起こる ? 「満期になります , 「そして ? 」 「元金が投資家に返済されます」 「元金とは ? 「債券の契約時の借入額です。もし投資家が十年前に一〇〇ポンドで債券を買ったとしたら、その企 業は満期になったときに一〇〇ポンドを支払わなければなりませんー 「満期とは ? 」 「債券の保有期間です。一年満期の債券もあれば、四十年満期のものもあります。一般的なのは五年 か十年の債券ですー ジョナサンはたしかに専門用語についてはよく理解していた。おそらく、見た目よりも賢いのだろ 「何か付け加えることは ? 。ジェリーの声には軽蔑がまじっていた。 ジョナサンは深く息をして、ジェリーの顔を正面から見すえた。 「債券を発行する企業は資金を借り人れますが、経営権を手放すことはありません。債券保有者はど れだけ多くの債券を持っていたとしても、その企業に対してどう経営すべきか口を出すことはできま せんー。私はジョナサンの会社法についての簡潔な説明に驚かされた。「株式はこれとは対照的です。 1 1 8
評価しようとする。もしリスクとリターンが正しく組み合わされば、債券の〈公正価格〉を見つける ことができる。 アニサはピンときた。現在の一五〇ューロは、割引率八 % とすれば、五年後には一〇八ューロの価 値になる。は割引係数だ。その債券に八 % のリスクがあると考えれば、一〇八ューロは公正価 格だ。したがって、 >- は一五〇ューロを一〇八ューロにするための割引率ということになる。 しかし、八 % が正しい数字だと思わなかったら、どうなるだろう ? リスクがもっと高いとすれば、 債券の価格に何が起こるのだろう ? あるいは、もしインフレ率が上がって、金利が下がったら ? アニサの頭の中にシーソーのイメージが浮かんだ。 金利と債券の価格はシーソー 金利が下がると債券価格は上がる 金利が下がれば、債券の価格は上がる。これは自動的なプロセスだ。インフレやその企業の業績と は直接の関連はない。単純に割引率が小さくなるために、将来の約東されたキャッシュフローの価値 が上がるということで亠める。 ということは、反対もまたしかりだ。金利が上がれば、約束された将来のキャッシフローの価値 は下がる。割引率は上がり、債券の価格は下がる。 1 / 4
にはあまりよい時間帯ではない。 「なぜその企業は、株式ではなく債券で資金を調達したいのだと思いますか ? 口座に人れば、どちらでも同じですよね ? 」 債券では企業が主導権を握ることができる 「企業にとっての最大の利点は、債券であれば、企業の経営権を手放すことなく、 いくらでも発行で きることです。そして、債券の発行は株式の発行より手続きがずっとスピーディーです。たとえば、 もしその企業が過去にも債券を発行したことがあれば、四十八時間で資金を調達することも可能です。 国内投資家は知りませんが、債券市場は巨大で、世界中に大きな投資家基盤が存在するのです。 固定利息と元金の返済日をカレンダーに記しておけば、そのキャッシュフローに対して計画を立て ることができます。そのお金を確保できるという保証はありませんが、利益の出る経営をすることに 集中できます。債券市場は株式市場に比べると目立たず、ニュースの見出しになることもめったにあ りません。熟練したプロのための市場で、初心者のための市場ではありません。したがって監督機関 の監視の目も厳しくはないのです」 聞いていた上級パ ートナーがうなずいた。彼は簡単な図を白い紙の上に書いた。私の説明を非常に うまくまとめていた。 いったん資金が銀行 1 1
る契約と考えることができる。国が経済破綻しないかぎり、投資した資金は安全だ。教科書で国債に ついて読むと、政府が利子の支払いができなくなったり、元金の払い戻しができなくなったりするよ うなことはまずないと書いてある。今ではそうともかぎらなくなったけれどね。それでも、国債が最 も安全な投資であることは変わらない。政府は借りた資金を返すために税金収人をあてにしている。 個人の所得や企業の利益に対する税金や、売上税、他にもさまざまな税金がある。あるいは、政府は 借金を返済するために、また別のところから借金することもできる」 アニサが納得してうなずいたので、私は先を続けた。「だから、国債をリストのいちばん上にして、 それ以外の三つの選択肢を考えてみようー 最も安全Ⅱ自国の国債 「ちょっと待って。株と債券の違いがよくわからないのだけれど 「債券の場合は収人が保証されている。もし企業が破産すれば、債券の保有者は返済を求める人たち の最前列に並ぶことができる。債券の保有期間は最初に決められる。将来的な計画ーーたとえば子ど もの大学進学のための資金ーーに合わせて、自分で管理しやすいということだね。 債券が満期になると、借り手は元金、つまり借りた資金を返還しなければならない。債券市場は通 常はとても流動的だから、現金が必要になった場合は、投資家は保有している債券をたいていすぐに 売ることができる」 ( ちなみに金融市場では、株式を表す rsha 「 e 」「 equity 」「 common stock 」という
「経済がすでに崩壊しているときに、あまりに多くの企業があまりに多くの債券を同時に発行したか らです。利子を支払うだけの利益を上げることができず、元金の返済すらできませんでした。貪欲さ が債券をローリスク・ローリターンの投資から、ハイリスク・ローリターンの投資へと変えてしまい ました。負債を返済できない企業が次々と現れ、投資家は少しでも損失を減らそうと、債券を売り 払ったのですー ジョナサンの答えは申し分なかった。世界がひっくり返っても、ジェリーがジョナサン・スパ アを債券の専門家と認めることはないだろうが、私はたしかに感銘を受けた。 評価法のリスクはつねにある ス , ヘリンは不安そうだった。ジェリーが翌気 その晩、ペリンと私は同じエレベーターに乗り合わせた。。 深 朝の速射質問タイムの餌食にペリンを選んだのだ。テーマは債券の格付けにする、とあらかじめ言い 味 興 渡された。 1 も て と 「格付けについてはどのくらい知っている ? 章 「あんまり、と、ペリンは認めた。 七 第 「橋を渡る前に必要なことはすべて教えてあげられるよ、 「お願い」 ・ポンド