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1. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

危険なべーコンを持ち帰る 一九八〇年代、デリバティブは米の安定供給を保証する取り決めというつつましい起源を忘れ、金一 バル化と専門の金融アナリ 融の世界へ怒濤のように押し寄せた。コンピューター取引、企業のグロー ストの出現によって、莫大な利益を得られる可能性が高まっていった。投資銀行はヘッジ取引から離 れ、デリバティプへの投機を始めた。リスクを避ける代わりに、積極的にそれを追い求めた。すぐに 市場は三つのタイ。フのデリバティブ、「オプションー「スワップ」「先物 ( フォワードとフューチャー ) であふれかえった。、 テリバティブは四つの最も人気のある原資産ーー「債券」「通貨」「株式」「商品」 運がよいとされる特定の数字も選ばれやすい。多くの人が 3 を幸運の数字と考え、中国では 8 が縁起がよいとされる。漢字の八の発音は「発展」「発財」の「発」と似ているからだ。 を不吉な数字として避ける人もいる。 デリバティブは最も酷評されている投資商品である。複雑で、危険で、金融市場の悪いニュースの フェットはデリバティブを「金融の大量破壊兵器ーと呼んだ。 元凶とみなされている。ウォーレン・バ ハフェットがあなたと私を合わせたよりずっと金持ちであることを考えれば、彼の言うことは信じな ければならない。 183 第十一章宝くじも種の契約

2. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

「こんばんは」の素っ気ない一言だ。 だが当時、私はジェリーが余裕を失ったり激怒したりするところを見たことがなかった。言葉での 攻撃は、彼なりのストレス解消法だったのだろう。ことあるごとに私に電話を投げつけてくるほかの ディレクターたちに比べれば、すっとましだった。それに、ジェリ ーは純粋に愉快な人だった。もち ろん、こきおろす相手が私以外の誰かであれば、ということだが。エレベーターの中では投資につい てのミニ講座を開いてくれもした。 「自己勘定取引は、銀行が自分のところの資本を使って取引するものだ。トレーダーが金融資産を売 買して得る利益が、銀行の資産になる。トレ】ダーというのは、自分は他の投資家 ( とくに彼らの顧 客 ) より頭がいいと思っている。頭脳明晰で市場についての知識も十分に持っているからな。基本的 にそんなものはたわごとにすぎないが、サイワイが市場で圧倒的に優位に立っている取引分野がある。 たとえば、、 テリバティプだ。。 テリバティブは複雑なので、理解するには数学の博士号が必要になる」 別のときには、投資銀行がどのように利益を出しているかを教えてくれたこともある。 「投資銀行は外から見ると、どこも似通っているように思える。通常、投資銀行の業務は大きく三つ に分かれる。〈投資銀行および顧問部門〉、〈資産管理部門〉、そして〈トレーディング部門〉だ。だが、 このそれそれのグルー。フが、さらに多くの異なる業務に分かれている。銀行によっては巨大なトレー ディングフロアを構えているところもあるし、資産管理に重点をおいているところもある。 投資銀行は顧客のために投資に関する助言を与える。投資銀行のこの業務ーー〈合併買収 (Ü <) 部門〉または〈投資銀行部門〉と呼ばれることもあるーーーは、株式や債券の発行を通して資本を 73 第四章愚かな顧客

3. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

調達することに責任を負う。取引額は極端に大きいから、銀行は顧客からの委任を取りつけようと死 にもの狂いで競い合っている」 大盤振る舞いのミドルマン 「投資銀行部門は典型的な仲介ビジネスだ。これは単純な図式でとらえることができる。左側には機 関投資家がいる。保険会社、年金ファンドのマネージャー、それに大企業の財務部などが、投資銀行 の顧客の大きな割合を占める。彼らは資金力があり、投資の必要を感じている。機関投資家は金融に ついては何でも知っていると思われている。そのため、ほとんどの国では、莫大な額を投資のリスク にさらしてはいても、監督機関の保護をあまり得られない。 年金ファンドが直面する。フレッシャーを考えてみると いい。君の支払う年金保険料を受け取るのが 年金ファンドだ。君だけでなく、君の部署、いや君の会社にいる全員の保険料、さらには供給会社や 顧客企業や競合会社で働く人たちのお金、彼らの隣人、妻、夫、スポーツジムの友人からのお金も預 かっている。毎月、年金ファンドには投資すべき莫大な額の資金が入ってくることになる ジェリ ーは、サイワイの顧客を夜も眠れない状態にさせる投資のリスクについて理解しておくよう に私に言った。そして次の図を使って、投資銀行がどのように利益を上げているかを説明した。 リスク許 「その資金を銀行口座に人れて、残りの四十年間ゴルフを楽しむなどという選択肢はない。

4. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

商業銀行はこれまで預金を受け入れ、それを融資に回すことで利益を得てきた。銀行口ーンは 適度な利益性があり、ローリスクだった。もし問題が生じれば、銀行はいつでも抵当権を持っ住 宅を差し押さえることができたからだ。しかし、住宅ローンの場面は銀行の資金を長期にわたっ て貸し出すことになる。 そのための解決策が、〈債務担保証券 (oao) 〉にあるように思えた。 000 はローンをまと めてプールし ( 五億ポンド相当の貸付額など ) 、それを債券に換える。 oao は銀行とローン契 約者の関係を断ち切り、銀行に代わって債券保有者がローンの利子の支払いを受ける。 商業銀行は住宅ローン市場でのエクスポージャーを望む投資家に債券を売った。顧客には、 0 a 0 はローリスク・ハイリターンというめったにない組み合わせのすばらしい投資商品だと説明 しかし、銀行が自らの宣伝文句を信じ始めたことで、状況は奇妙な方向へと向かい始める。も し 000 がそれほどすばらしい投資対象になるのなら、自分たちでも少しばかり買えばいいでは ないか。金融業界は共食いとも呼べる驚くべき行動に走った。 < 銀行は銀行から 000 を買い それを投資資産として保有した。銀行は < 銀行から oao を買って返礼した。 世界の金融システムは自らを食い物にし始めたのである。 fast facts 350

5. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

グラス・スティーガル法は一九一一九年の株式市場の大暴落のあとに成立したアメリカの連邦法 である。この法律は、銀行を商業銀行と投資銀行の一一つのグループに分け、一つの銀行が両方の 業務を行なうことを禁じた。 一九九九年のグラム・リーチ・プライリー法により、この区分は廃止された。投資銀行はこれ によってローン業務に進出できるようになった。商業銀行で証券を売買することも可能になった。 これが金融業界の見境のない投資ゲームの時代背景となる。では、何が間違っていたのだろう ? 一つには、世界金融危機である。証券化プームが商業銀行のビジネスに投資銀行の考え方を持 ち込んだ。住宅所有者がローンの申請に訪れるのを辛抱強く待っ代わりに、銀行は攻撃的に犠牲 者狩りを始めた。だが、少し話を先に進めすぎたようだ。 OLLO と証券化については後述する。 「不動産ブームは、世界的な低金利に後押しされました。低金利ローンを約東する広告が巻にあふれ ましたが、将来的に高い金利に移行するといった詳細は隠されていました。 新しいフレーズ、〈略奪的貸し付け〉が金融用語の仲間人りをしました。以前から借り手はローン 申請が通りやすくなるように詳細部分を偽る傾向がありました。しかし、今では貸し手のほうも、よ フローカーが顧客に り多くのローン契約を結ぶために詐欺的なテクニックを使うようになりました。、 fast facts 340

6. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

業 企 投資銀行 投資家 資金がある 投資する必要がある 年金ファンド マネージャー 保険会社 配当金 表面金利 資金が必要 仲介人 →手数料→ 市場を通じて投資家と企業をつなぐ 資 投 リターン 容度と資産配分について決断しなければならないんだ。 年金ファンドはいくつもの投資銀行から、株式、債券、 デリバティブ、その他の投資商品についての助言を得 る」 エレベーターが停止した。開いたドアの向こうには、 前に朝食の注文を間違えて上司から八つ裂きにされそ うになっていたジュニアトレーダーが立っていた。 真っ赤になった両腕の上に積み重ねられたピザの箱を 見れば、まだあまり成長していないことは明らかだ。 「あれは誰です ? 」と、私はジェリーにたずねた。 ジェリ ーはエレベーターをさっさと閉めてしまおう と、「閉」のボタンを押した。「ジョナサン・スパ ア。まったくの役立たずだー。何事もなかったように ジェリーは説明を続けた。 「金融アナリストはアイディアを出すことで報酬を受 け取り、そのアイディアを営業担当が顧客に提示する。 投資銀行は顧客から手数料をとることで利益を上げて いる。営業担当にとって顧客からかかってくる理想的 / 5 第四章愚かな顧客

7. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

ヘッジファンドは投資銀行を使って〈プライム・プローカレッジ〉を提供する。これは銀行が ヘッジファンドのために行なうあらゆる状況に対応する言い回しである。これには手形交換や清 算などのバックオフィス業務も含まれ、それに対して手数料を課す。さらに銀行は融資にも応じ、 対価として利息を受け取る。銀行の既存の顧客、とくに冒険的な投資を好む顧客が、将来の投資 家としてヘッジファンドに紹介されることもある ( 当然ながら、銀行は多額の手数料をとる ) 。 また、法や規制に関してアドバイスすることからも利益を得る。たとえば、競争相手をへリコプ ターから突き落とすことは犯罪になるかどうか、といったことだ。 銀行がヘッジファンドに自行のオフィススペースを貸すケースは、論争の的になりがちだ。こ れらのいわゆるヘッジファンドホテルは、直接的な利害の衝突を生み出すとして大きな批判を浴 びてきた。銀行はそれを否定しているが、テナントに入ったヘッジファンドは一一階に上がってい きさえすれば、砂糖を一カップ貸してほしいと頼むついでに、 000 に格付けされた一〇〇〇万 ドルの債券を売れるのだから、顧客のために有利な取引をしようと努力するとは考えにくい。 最初から失敗が決まっているようなヘッジファンドもある。どれほど優れたアイディアを持っ ていても、十分な資金を集められなければ、事業をスタートさせることもできない。誤った意思 fast facts 237 第十五章パラダイム・シティ

8. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

「金利が下がれば、投資家の貯蓄意欲がそがれます。貯蓄をしても利子が低すぎるので、株式投資に 切り替えたほうがいいのではないかと考えるかもしれません。お金を借り入れることにも積極的にな 、金融資産に投資したり、不動産を買ったりすることが考えられます。 企業も融資が安く得られることで恩恵を得られます。それまでは保留にしていたプロジェクトが魅 力的に映るようになるでしよう。実際に始動させることにすれば、雇用も、ものやサービスの購人も 増えます。経済は再び成長を始めます。 この政策の極端な例が、最近の危機の間にスウェーデンで見られました。スウェーデン政府は公定 歩合をマイナス〇・二五 % に固定したのです。一目で非論理的だとわかるようなことを、なぜ決定し たのでしようか」 「銀行が預金にしがみつくのを防ぐためです」と、先ほどのロシア人女性が答えた。「銀行は安全策 をとることで罰せられます」 「正解です。銀行が保守的になればなるほど、預金を貸し出しに回すより中央銀行に預けたくなりま す。スウェーデン政府は、経済が成長するように、銀行が信用貸しをしやすい環境を作ることを望ん だのです。 マイナスの公定歩合は、銀行がより多くのローンを承認することを奨励します。少なくとも短期的 には、スウェーデンの貸し出し高は増加したように見えました。しかし、低い ( あるいはマイナス の ) 金利だけでは経済回復を刺激するのに十分ではありません」 325 第二十章ポトムライン

9. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

な電話は、年金ファンドがポルトガル国債を売って、同じ資金でデンマークのデリバティブを買うと いうような資金の移動の話だ。これで銀行には売り買い両方の手数料が人る。もちろん、営業担当と アナリストにも。 図の右側を考えてみたまえ。年金ファンドは一次市場での債券を提示される。これらの企業は資金 を調達することに必死になっている。巨大企業の重役たちが巨大企業を買収したがっていて、そ の買収資金として数兆ドルが必要になれば、彼らは投資銀行に頼る。は投資銀行の助けを借りて巨 額の社債を発行する。 < は年金ファンドと利付債券の支払いをする契約を結ぶ。年金ファンドにとっ ては、それが年金加人者に支払う収人源になるということだ」 株式は一次市場で発行され、ニ次市場で取引される 株を買えば、その企業が好調な業績を上げるか、株式市場全体が上向きになることを期待するよう になる。たとえば、現在のアップルのように、企業がその業界のリーダーになれば収益がどんどん上 がるので、その株を買うために投資家がもっと高い金額支払うようになる。収益の増加はいずれ配当 金の増加にもつながる。 ジェリ ーは一次市場と二次市場の違いについても教えてくれた。 「私企業は証券取引所に株式を上場しない。私企業の株は通常は比較的少数の人たちによって所有さ れていて、組織を拡大し、利益を再投資して、別の店舗や新しい機械を買う。だが、重役たちはもっ と急速な成長を望み、株式を現金化したいと考えるかもしれない。 これが〈一次市場〉で、投資銀行

10. 悪魔の取引 : ある投資詐欺事件のストーリーで学ぶ金融入門

訳者あとがき 本書はアンドレアス・ロイズ著の『 The Devil's Deal: An lnsider's Tale of How Money is Made 』の 邦訳である。原書は二〇一二年に刊行され、英フィナンシャル・タイムズ紙の「二〇一二年の最も重 要な書籍六冊 , に選ばれている。 著者のアンドレアス・ロイズは、大学では英語学を学び、卒業後は金融業界で公認会計士や証券ア ナリストとして経験を積んだ。その後独立して金融・投資コンサルティング会社を設立し、現在は ヨーロッパ、中東、アジアなど世界各地の企業クライアントにトレーニングやティーチングコースを 提供している。金融業界の事情通であることに加え、以前から文筆活動への関心も強かったらしく、 二〇〇九年には小説執筆講座で本格的に学び、書くことにのめり込むようになったという。その経験 と熱意が存分に生かされた本書は、著者の実体験である奇妙な事件をもとにした金融ミステリー小説 という要素と、投資の入門ガイドという性格を併せ持つ、めすらしいタイプのビジネス書となってい る。 著者本人の姿と重なる本書の主人公の奇妙な旅の始まりについて、軽く触れておこう。 投資トレーナーとして成功した「私」は、講演やティーチング、クライアントとの会合のために、 世界中を忙しく飛び回る毎日を送っていた。だがある日、チューリッヒ発の列車で、かって投資訓練 コースで教えたことのある若い投資銀行家と偶然再会する。それを機に、思いもよらない金融詐欺事 392