出した国はない 作中では、高山がいる新聞社の名前は書かれていませんが、読者の多くが朝日新聞を モデルにしていると考えたようです。朝日新聞自身もそう受け取ったのかもしれません。 映画版の『永遠の 0 』には時間の関係もあって登場人物は何人か整理されていて、高 山も登場しません。したがって映画には高山と武田のやりとりの場面はありません。映 か画の製作委員会には朝日新聞社も名を連ねていますが、もしこの場面があったなら、製 作委員会には入っていなかったかもしれません。 美 賛朝日新聞が石田衣良氏を使って『永遠の 0 』に「右傾エンタメ」というレッテルを貼 戦 って以降、左翼系文化人たちが、この作品を「戦争賛美、小説と批判する記事をよく目 にするようになりました。有名アニメ監督の宮崎駿氏は、映画『永遠の 0 』も見ていな 遠いのに、某雑誌のインタビューでこう語っていました。 「今、零戦の映画企画があるらしいですけど、それは嘘八百を書いた架空戦記を基にし 二て、零戦の物語をつくろうとしてるんです。神話の捏造をまだ続けようとしている。 3 第 『零戦で誇りを持とう』とかね。それが僕は頭にきてたんですー
朝日新聞などは、平成二五三〇一三 ) 年六月一八日の記事で、小説家の石田衣良氏 「右傾エンタメーと言わせています。朝日新聞社は、気に入らない相手を攻撃すると きは、自らの筆を汚すことなく、大学教授や文化人などに悪口を言わせるという手法を 取ります。 石田氏らに取材して書かれた記事は「国のために命を捨てることをよしとする右傾工 ンタメが流行している」という趣旨の文章で、その代表作として『永遠の 0 』が挙げら かれていました。この主張は、まさに朝日新聞が日頃から掲げているものです。ちなみに 拙著の『海賊とよばれた男』もついでに名前が挙げられていました。 美 争 戦 戦争賛美か ? しかしはたして『永遠の 0 』は戦争賛美小説なのでしようか。 遠著者が自作を弁護するのは愚かしい行為ですが、正直に言わせてもらえば、どこをど う読めば「戦争賛美ーになるのかまったくわかりません。 一一私が『永遠の 0 』で一番描きたかったものは「生きるとは何かというテーマであっ たというのは先に書きましたが、 物語に付随して、戦争の残酷さと虚しさを描いたつも 725
りです。愛する家族を祖国に残し、遠く離れた南の島や海で死なねばならなかった者の 無念と悲しみを書きました。作者である私自身が辛くて書きながら何度も泣いた場面が 多数ありました。この作品を読み終えた読者も皆、おそらく私と同様、戦争というもの かいかに悲惨で恐ろしいものであるかを改めて知るのではないかと思っていました。 ところが、そうではなく、「戦争を美しいものとして描いている」と読む人がいると いうことに非常に驚きました。そうした人たちは、もしかしたら戦争を扱った小説がべ ストセラ 1 になったということが気に入らないのかもしれません。 また朝日新聞が『永遠の 0 』を攻撃したくなる気持ちは理解できなくもありません。 というのは、作中で、高山という大手新聞の新聞記者を登場させ、彼を戯画化して描い ているからです。高山は様々な持論を展開しますが、その一つが「特攻は自爆テロと同 じ」という主張です。実はこれは左翼系ジャーナリストや文化人がよく使う言葉です。 有名なところでは、元朝日新聞記者で「朝日ジャ 1 ナル」の編集長でもあった筑紫哲也 氏は、自身がキャスターを務めた CQ co の「ニュース」の中で、同じことを言ってい ました。また評論家の立花隆氏もアメリカの「 9 ・Ⅱ」テロ事件の後、月刊「文藝春 秋」で似たようなことを書いていました ( 平成一三〈二〇〇一〉年一一月号 ) 。 726
うであったように、宮部もまた未曽有の国難の時代にあって、ただひたすら家族のため に戦います。『永遠の 0 』は『壬生義士伝』へのオマージュなのです。 朝日新聞からの批判 この作品は紆余曲折を経て出版されましたが ( 出版にいたるドラマは後ほど語りまし よう ) 、出版から数年後にベストセラーになりました。 普通、ベストセラーというものは、発売と同時か、あるいは半年以内くらいに爆発的 に売れるものですが、『永遠の 0 』はロコミでゆっくりと売れていき、一〇〇万部を超 えたのは五年以上経ってからです。その後、映画化され、最終的には四五〇万部以上売 れました。 ベストセラーになると、当然、作品に対するアンチも増えますが、『永遠の 0 』に関 しての毀誉褒貶は凄まじいものがありました。 最も厳しい意見は、この作品が「戦争賛美小説だー というものです。日く「戦争を 美化している」、「特攻隊員を英雄視している」、「大東亜戦争を肯定している」というも のです。 7 幻
要するに、九条は残したいと考える人のほとんどが、自衛隊を失くしてしまうことは 不安に思っているのです。ここに論理矛盾があるのに、皆、気付いていません。 もっとも共産党だけは別です。彼らの目的はおそらく乱暴に言えば、日本を他国に売 り渡すということですから。 私は一度、テレビ朝日の「タックルーという番組に出て、朝日新聞の菅沼栄一郎 氏と議論を交わしたことがあります。菅沼氏は元「」の副編集長で、かって久 米宏氏の司会番組「ニュ 1 スステ 1 ション」でレギュラー ・コメンテーターを務めてい た人です。 私は「タックルで、国防の大切さを訴え、「国防軍と言うのは、家に譬えれば 告鍵のようなものだ」と発言した時、菅沼氏はこう言いました。 「鍵と言うなら、今のままで十分だ」 私は、今の憲法で縛られている自衛隊では不十分という意味で、 三「もっと丈夫な鍵にしようということです」 と言いました。すると菅沼氏は、 2 硼
私がメディアからどれほど攻撃され、非難されてきたか、あるいは発言を捻じ曲げら れて報道されてきたかは、拙著『大放言』の第四章に詳しく書いてありますから、ご興 味がある方はそれを読んでください かってドイツ文学者の竹山道雄氏は『ビルマの竪琴』という素晴らしい反戦小説の名 作を書き、左翼陣営からも高く評価され、持ち上げられました。ところが昭和四三 ( 一 九六八 ) 年、竹山氏は、米原子力空母エンタープライズの佐世保入港を容認するような 発言をし、これが朝日新聞の逆鱗に触れました。当時、日本の言論界を支配していた朝 日は大バッシングし、他のメディアも同調し、以後、竹山氏は表舞台からほば抹殺され ました。 インターネットなどもない当時、大新聞からの攻撃を受けた個人はほとんど反撃する すべがありませんでした。反論や主張を述べる場がほとんどなかったからです。一部の 雑誌などで反論できたとしても、それに賛同する声は封じ込められました。数百万部を 超える大新聞の波状攻撃に敵うはずがありません。また一部の言葉を切り取られて報道 されても、それを訂正する場と機会も与えられないことが多々ありました。メディアが 「第四の権力ーとして絶大な猛威を振るった時代です。
度も指摘してきました。するとほとんどの人が納得してくれるのです。「なるほど、そ ういうことだったのか。説明を聞いてよくわかった」という人も何人もいました。 ところが、です。そう一一一一口うほとんどの人が「改憲派」にならないのです。 やつばり九条って大事だと思う」 「百田さんの一言、つことはもっともだと思、つけど : このセリフを何度聞いたかわかりません。 そして、私が「なぜ、九条が大事なのですかーと訊いても、彼らは答えられないので す。 でも最近になって、ようやくその理由がわかってきました。彼らはかっての義和団の 信者と同じ、「九条教ーという宗教の信者だったからです。 戦後七〇年にわたって、朝日新聞をはじめとする大メディア、そして日教組、さらに 市民活動家、進歩的文化人と呼ばれる人たち ( 実は左翼主義者 ) が、新聞や雑誌やテレ ビで、「九条は正しい」「日本の平和は九条によって守られてきた」という布教を続けて きたのです。そして知らないうちに「九条教」という世界でも例のない不思議なカルト 宗教の信者を増やしてしまったのです。 洗脳されたカルト宗教の信者を逆洗脳するのは、とてつもなく難事であるのはよく知 206
の集会に参加した若者が「もし中国が戦争を仕掛けてくるというのであれ ば、僕は彼らと酒を飲んで遊んで仲良くなり、戦争の抑止力になってやります」という ようなことを発言し、話題になりました。 憲法九条を守れば平和が維持できると考えている護憲派の文化人やジャーナリストた 皮らの目には、「姉」の言葉を ちは、そんな若者を、素晴らしいと誉めそやしました。彳 真っ向から否定する元搭乗員が出てくる作品は、まさしく「日本を戦争に導く小説」と 映ったのでしよう。 こうした左翼メディアに煽られたように、一般の人の中にも小説を読みもせずに非難 する人が増えました。アマゾンなどでも、同じような批判をするレビューが増えました。 さすが腐っても朝日新聞です。影響力はたいしたものです。しかし何よりも腹立たしい のは、作品批判だけでなく、いつのまにか「百田尚樹は軍国主義者である」とか、「戦 争を起こしたがっている危険人物」というレッテルが巧妙に貼られていることです。 安全保障について国防の大切さを訴えると、なぜか日本のメディアからは、「軍国主 義」というレッテルが貼られるようです。しかも私の場合、「戦争賛美小説を書いた人 物ーという先入観がありますから、そのレッテルに多くの人が賛同するようです。 742
/ 補給の重要性を理解していなかった / 石汕を死守できなかった / 一騎打ち幻 想 / 戦争とは長引くものである / 硬直した官僚制度の弊害 / 弱気になるエリ トたち / 上層部の無責任体質 / 戦争の目的 / 最悪を想定しない日本人 第二章『永遠の 0 』は戦争賛美小説か 五〇歳の決心 / 小説家を目指した動機 / 戦争を語り継ぐ / 戦争は遠い歴史にな った / 宮部久蔵とは何者か / 『永遠の 0 』で描きたかったもの / 朝日新聞から の批判 / 戦争賛美か ? / 読まずに批判する人たち / 右翼と戦記マニアからの非 難 / お世話になった人たち / ロコミと書店の後押し / そして四五〇万部に 第三章護憲派に告ぐ 永世中立国スイス / 自衛隊は軍隊ではない / 能登半島沖不審船事件 / 世界の軍 隊 / の戦争抑止力 / 集団的自衛権に反対する文化人たち / 放送法の問 題点 / 机上の空論で国は守れない / 日本国憲法を作ったのは / 自衛隊は 憲法違反 / 憲法学者は神学者か / 護憲派の論理 / 九条教という宗教 / 戦争を回