閣についてどう考えているか」は、中国にはまったく関係がないからだ。問題になるのは、 ただ「中国が尖閣をどう見ているのか」であり、「中国が尖閣で何をやってくるのか」だ けである。 今の状態が続けは、習近平が「決断」さえすれば、いつでも「漁民」を尖閣諸島の最大 うおつりしま の島、魚釣島に上陸させることが可能になる。習近平にとってみれは、これは、極めて口 ーコストで、しかも成功すればメリットのある作戦だ。日本と交戦する準備も、軍事計画 論 中も、不要だからだ。何人かの「漁民」に国旗を持たせ、「上陸せよ」と一一一口えば、それだけ 一部の酔狂な「漁民」が勝手にやったこと で済む。失敗してもさしてデメリットはよい。 ろ せだ、と言えは終わりだ。 駐 では中国と尖閣をめぐって問題を起こさないようにするために、今やるべきことは、一 員体何だろうか。それは、日本が先手を打って、魚釣島で物理的にプレゼンスを一小すことだ。 装目的は、中国を挑発することではない。日本は、尖閣の実効支配を明確に中国側に伝え るためにこそ、人員を配備すべきなのだ。これによって「あいまいさ」を排除し、中国が 尖「漁民」を上陸させることを防ぐのだ。
第四に、 Z<+O は、天候が不完全な時には、すぐに作戦を中止している。 Z<+O 幹 部は、「分厚い雲が空爆作戦を妨害し、夜間の作戦では、すでに判明していた手堅いター ゲットに対するわすかな数の巡航ミサイルによる攻撃しかできない」と不満気に語ってい 実際のところ、厚い雲によって阻止されていたのは、「あらゆる空爆」ではなく、 「完 全に安全な空爆」だったのである ( 低高度からの爆撃は容易だったからだ ) 。 空高く飛んでいる航空機のはるか下の地上では、装甲車に乗った小集団のセルビア人兵 士や警官が、数万人のコソボのアルバニア人をテロ行為で弾圧していた。 z < O には、 このような装甲車を捕捉して破壊するための航空装備が一式揃っており、主要国の中には、 対戦車へリを持ち、しかも、そのなかには基地のサポートを受けすに作戦行動できる部隊 もあった。 ところが、民族浄化が始まった時点で、それらをコソボに投人する、と提案した国はな かった。おそらく撃墜を恐れたからであろう。 ドイツに駐留しているアメリカのアパッチ・ヘリコプターは、最終的にアルバニアで使 用されたが、それでも、「即応状態」を実現するために長年にわたって莫大な資金をかけ てきた割に、最初の作戦を開始するための「派遣前準備」に、三週間以上も要したのであ
で命令を遂行する立場にあったことだ。 現代の軍は、昔のように、旗を振ったり、ドラを打ち鳴らすことで部隊を指揮するので はよい。無線を通じて指揮が行われる。しかも、これは「指揮システム」ではなく、「指 揮・統制システム」だ。にもかかわらす、彼は、このシステムに従わなかったのである。 本来は、上官に対し、「作戦を実行しようとしたところ、マヴィ・マルマラ号の船員が ヘリのロープを船に結びつけています。彼らは、われわれの作戦を知っていて待ち受けて いるようで、失敗の可能性が高いです。どうすればいいでしようか ? 」と指示を仰ぐべき だったのだ。 ところが彼は、そうせすに、あたかもより上位の意思決定者であるかのように決定を下 し、「よしやっちまえ ! 」と部下に命じて作戦を実行してしまったのである。 作戦に失敗したことが問題なのではない。人間に失敗はっきものだ。そうではなく、彼 が「指揮・統制システム」に従わなかったことが問題なのだ。 この場合は、戦術レベルの決定を担う人間が、その上位の大戦略レベルの決定を勝手に 下し、イスラエルとトルコの関係そのものに影響を与えてしまった。そして、こうしたミ スを起こすシステムを、イスラエルが持っていたことが問題なのである。 144
固め、馬にまたがって、二時間ほど突進を繰り返す。ダイナミックで派手な戦法ではある が、実行するのは難しくはない。 オたここで不可欠となる ところが、信長は、高価な武器である火縄銃を、農民に持こせ ディシプリン のは、強い「規律ーなのである。 そもそも、足軽たちに火縄銃の操作法を教え、一斉に攻撃が行えるように訓練しなけれ ばならない。しかも、襲い来る騎馬軍団の恐怖に耐え、脱走しないように、しつかりと隊 論 将列を組ませるのである。そこには、忍耐と不屈の精神が必要となる。信長の真の卓越性は、 戦このハイレベルの「規律」を必要とする作戦を計画し、実行したことなのだ。 このような革新的な作戦を計画できた人物は、私がいま思い当たるかぎりでは、他に二 制人しかいオし て 一人は、第二次世界大戦のフランス戦線で、いわゆる「大鎌作戦」を計画したドイツの べ ーリッヒ・フォン・マンシュタインだ。彼は、ベルギー、フランドルの英仏連合軍 参謀工 をフランス本土から切り離すために、不可能と思われていたアルデンヌの森を戦車部隊で 同 突破し、フランス領内に侵攻する作戦を立案した。その結果、一カ月あまりでフランスを 降伏に追い込んだのである。 ディシプリン 1.59
もちろん、「あいまいさ」を排除するために中国船の取締りを始めれば、日本側が 「現状維持」の状態を壊したと批判される事態は避けられない。 それでも認識しておく必要があるのは、もし中国側が外交的な冒険を厭わす、尖閣上陸 を企てれば、かなり容易に実行できる、という厳然たる事実だ。偽装漁民を上陸させれは よいたけだからだ。 もちろん日本側にも、不測の事態に備えた計画はある。ところが、日本側の「あいまい さ」が、日本側の非常計画をも難しくしているのである。あいまいな分だけ、作戦の実行 アに多くのリスクを伴ってくるからだ。 軍事作戦および準軍事作戦において重要なのは、不確実性を含む計画に頼るのは絶対に 方 避けるべきだ、ということだ。中国が相手なら、なおさらそうなのである。 たとえは、着陸拒否が容易なヘリで警察官を送り込もうとしたり、天候に左右される佐 っ 網世保の上陸部隊を作戦に用いようとしたり、「漁民」の反撃も容易に想定できるような事 包態は、中国政府の特殊性を考慮すれば、すべて避けるべきなのである。 対 かってのソ連が相手なら、何とかなるだろう。彼らは、外の世界を理解していたので、 何か事件が起きても、互いの行動は、ある程度、予測可能だったからである。
る。しかも、戦争開始から六週間たっても、アパッチは、まだ任務を開始できす、すでに 二機は訓練中に墜落していた。この途方もない遅れの理由は、単なる官僚的な作業の遅さ ごけに帰されるものではない。 米陸軍は、アパッチ単独では行動できす、ますはミサイルなどの集中砲火によってセル へいたん オこうなると、兵站的には、アパッチ ビア側の対空兵器を制圧する必要があると主張しこ。 単独の場合よりも、はるかに負担が大きくなり、必然的に作戦開始がさらに遅れることに なったのだ。 よアパッチ問題が始まる前の時点から、 Z < O は、すでに同じような任務をこなせる航 与空機をイタリアの航空基地に派遣していた。低高度からの近接航空支援に最適な、三〇、、 ス リの強力な対戦車砲をそなえたアメリカの < ー川 ( 通称イボイノシシ ) や、英空軍のハ ン チアーなどである。ところが、この両兵器とも使用されす、その理由も、「完全に安全な状 態でなければ使用できない」というものだった。 参加国の民主制度の下では、眼前の何千人ものアルバニア人を虐殺から救い、 文 論何十万人もの難民発生を阻止することよりも、数人のパイロットの命を守ることの方が価 値が高かったようである。
外交を担当する国務省が、国防総省にどこまで影響力を及ばせるか。これが、アメリカ が抱える問題である。要するに、省庁間の権力争いだ。これは、どの国家にも起こり得る ことだ。 しかし、「戦略」の観点で言えは、外務省が権力を保持していることは、極めて重要だ 論そうでない と、「戦略」のレベルで、すべてが覆ってしまうからである。 二〇一〇年五月に起こった「マヴィ・マルマラ号事件」を思い出してほしい。 つまりイスラエルとト この作戦を決断した人間は、これによって上位の大戦略レベル、 何 はルコの関係のあり方をも決定してしまったのである。これを決定したのは、イスラエルの ク 首相でもなく、トルコの首相でもなく、現場のイスラエル海軍の指揮官だった。 ジ この指揮官は、急襲作戦を行うために上空のヘリの中にいたのだが、マヴィ・マルマラ ロ 」号の船員がヘリから落とした縄を船に結びつけているのを目撃した。 カ ここで彼は、「ちょっと待て、相手はわれわれの攻撃に備えているぞ、この作戦は失敗 キ するから中止だ」と決定することもできたが、彼はそうしなかった。あえて攻撃を決定し たのだ。 ここで重要なのは、彼がイスラエル海軍の単なる下士官であり、軍というシステムの中
ただし一つ問題がある。中国だ。たとえは、中国が南シナ海・南沙諸島周辺で七つもの 人工島を造成し、軍事拠点化に向けて人を送り込んでいる事実を踏まえると、今後、日本 の自衛隊は、より迅速に作戦行動を行えるように体制を整えることが重要になってくる。 トレーニング ェクササイズ そのために日本の自衛隊に必要なのは、「訓練」ではなくて「演習」なのである。 「訓練」と「演習」は違う。もちろん「訓練」の土台がなければ、「演習」はできないの だが、「訓練」だけでは意味がない。 「訓練」とは、二人の人間を一人前の兵士にするまでのプロセス」を指す。戦場で武器 や通信機器を自在に使えるようになるまで徹底的に教えることである。そして「新米兵士 の集団を、戦闘が可能な真の『兵士』にする」ために必要となるのが、「演習」、 に至って初めて、本格的な作戦を実行できるのだ。 尖閣で想定されるような島嶼奪還作戦を行うためには、部隊が何度も「演習」を行って おく必要がある。 軍事行動とは常に一期一会である。古代ギリシャのヘラクレイトスは、「二度と同じ川 に足を踏み人れることはできない」という格言を残しているが、これは、どの国の軍隊に とっても当てはまる真理だ。チャンスは常に一度しかなく、任務に同じことは一つとして
2 論文「戦争にチャンスを与えよ 戦争も大きな役割を果たしている 「無関心で安易な介人」が戦争を長期化させる 紛争への介人をビジネスにする国際組織 ほとんど機能しない平和維持軍 コソボへの Z 0 介人の実態 難民支援が難民を永続化させる 難民支援が紛争を永続化させる 国連より害悪のある ZCO の介人 「戦争が平和をもたらす」という逆説 3 尖閣に武装人員を常駐させろーーー中国論 尖閣をめぐる状況は変わりつつある 中国のローコストでメリットのある作戦ーー「漁民」の上陸 が機能しない 中国外交の特異な構造ーーー通常の外交ルート リスクの高い奪還作戦
府の対応として考えられているのは、ヘリで警察官を送り込むことだという。 だが、これは非常に拙いアイディアだ。中国の怪しい「漁民」が尖閣に上陸したとしょ う。彼らは信号弾 ( 空中で炸裂すると色のついた光を発する弾丸で、連絡用などに使われる ) を持っている。もし信号弾を撃ってきたら、警察官を運搬するヘリは、視界を遮られ、島 に到着できないリスクがある。 ぜいじゃく 加えて、ヘリによる島の奪還は、元来、極めて脆弱な作戦だ。天候などの要素に大きく 左右されるというのが、その一番の理由だ。 さらに最悪なのは、ヘリで送り込んだ警察官が現場の状況に対応できないような場合だ。 中国側の「漁民」が武装していれは、狙撃されておしまいである。 したかって、このようなハイリスクな奪還作戦を考えるよりも、予め尖閣に軽武装した 人員を送り込み、常駐させるべきだ。いわば「静かな占領」を行っておく方が、はるかに べターなのである。 「訓練」と「演習」の違いーー、 - - - - 。・自衛隊に必要なもの 冒頭で申しあげたとおり、現在の日本のリーダー、安倍首相は、まれに見る戦略家だ ったな あらかじ