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検索対象: 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選
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1. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

うろっくシャム人 ( 119 ) ま 2 . 一 そこの長椅子に、バジャマにバスロープを 羽織った男がかけて、まっすぐのばしたはだ す しの足を、前の椅子にのせている。私に向っ てうなすくのを見て、誰だかわかった。 えいがかん ケット・ストリートに映画館を持ってる、オ スチノ・屮ッターだった。頭の禿げかかっ まるがお た、四十五かそこらの、丸顔の男だ。」年ば うりあ かり前、一日分の売上げを持ってすらかった 切符売子の一件で、うらの局で働いてやった ことがある。 リッターの前には、瘠せた白髪の、どこか びぎ ら見ても医者らしい勇が立って、膝のすぐ下 に繃帯を巻 ( 、た、リッターの足を見ている。 医者のそばには、毛皮で縁どったドレッシン グ・ガウンの、脊の高い女が、ひと巻のガー はさみ ゼと鋏を手にして、立っていた。ガッシリし しゅにんじゅんさ た主任巡査が、細長いテープルで、手帳にな にか書いている。その肘のあたり、群青いろ のテープル掛けの上に、太いヒッリイのス テッキが横たえてあった。 私たちが部屋に入って行くと、みんながこ しゅにんじゅんさ ちらに顔を向けた。主任巡査は立ちあがって ふち

2. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

キャッチカートはにやりと笑った。「気分はどうだい ? こんな事で 彼がダイヤルを廻し始めた時、シャーマン地区から長い谷沿いに、 しだい へたばる男とも見えないがね」 サイレンのうなりが次第に大、さくなりながら近付いて来た 「悪くないよ。だがちょいとつらいね」 キャ , チカートはうなすくと択いしてから、不必要に自分の書類 タイプライターの後でテープレコードにロ述をしていた制服の警官をバラ / 、めくってみせた。 むじっ は、 0 ーリーに視線を投げて、「捜査課長室」と書かれたガラス戸の「君は無実だよ。シカゴから送って来た君の経歴は、まったくきれい だつごく おやび そのものだった。のルーガ拳銃は、二度も脱獄しているマイク・コ 方を親指で示した。 きねん よこ、 ころ マロ 1 リーは固い椅子から足をひきすって立ち上がり、部屋を横切 0 リスを殺しているだけだ。そのルーガ拳銃はわしが記念にもらって 少ら いゝね ? 」 けい・ 0 っ って行くと、壁によりかゝってガラス戸を開き、中に人った。 やくしょ はうなずいた。「どうぞ。ばくはその代りに警察で良く使 マローリー はんどうさよう すると 入った部屋は汚い茶色のリノリウムが床に張られ、役所でなければ 見られぬ安 0 ばいみじめな道具立ての部屋だ 0 た。課長のキャ , チカう = 十五型拳銃を持 0 て歩くから。仲《鋭い銃ですよ。反動作用がな くって、イヴニングにでも入れて歩くと絶好ですせ」 ートは二十年以上古いと思われる書類の散らかった畳込式のデスクと かれ キャッチカートは彼を少しの間じっと見詰めていたが、それから話 ビンポンが充分出来そうな大きな樫のテープルの間、部屋の真ん中に を続けた。 、かんじゅう 独り坐っていた。 しもん・ キャッチカートは汗つほい顔に、だらしない口元をした、みすばら「機関銃には「イクの指絞があるだけで、その機関銃がードンネを くちひげまんなか 、こ。これじゃあ何も云う事はない。金髪の男はたいした怪我 しもん しい大男のアイルランド人である。白い口の真中のあたりがニコチ殺してしす ず ではなかった。そして床の上に落ちていた拳銃にには奴の指紋がつい ンで汚れていて、手は疣だらけである。 やっかい 撃 ロ 1 リーは先にゴムのつけた重たいに身を託してながら、ゆっていたから、奴はちょっとばかり警察の厄介になる事だろう」 びだりうて はちょっと考え込むようにゆっくりと顎を撫でた マローリー くりと歩き寄った。右足が膨れ上って熱く感じられる。左腕は黒い絹 者 かおいろ 「他の殺しの方は ? 」 迫の肩吊りの中に入れている。きれいに髭はそってあるが、顔色は青い かちょう 脅 課長は眉をあげ、眼をあらぬ方にや 0 て云 0 た。「そい「は全、君 彼はテープル越しに課長と向き合って坐ると、テープルにを置き かんけい には関係ないんだろう、えゝ ? 」 煙草を叩いて火を点け、ポッソリと訊いた。 、ペんかい はんけっ 弁解するように云った。 「少しも」マローリ 1 「判決は何です、課長さん ? 」 しよるい らかづ っえ 0 - 、わら ) ぶん いれ、 ん

3. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

「うるせえ、このチンビラ ! 」 手の指が、小さな桃住の爪先をきらめかせて打れ曲って、微かに動い あ・さ その冷く嘲ける調子の声が、エルノをかっと怒らせた。彼の右手が た。彼は押し殺した声でロを開いた けんじゅうつ 飛び付く蛇のように上にあがった。ビストルが肩の拳銃吊りからサッ し、刀 ( 「の事よ ! あんな事は忘れな ! 水に流すんだ ! と引き出されていたっ彼はテープルの端に手をつき、その下で指を折 あんちゃん ! 」 ひにくたいど を睨みつけ始めた。だ マロ 1 リーはもったいぶった皮肉な態度で相手を見詰めると、縮れり曲げて、やゝ前こゞみになっているマローリ 1 びしよう の唇の端には微笑がほのかに浮かんでい カマロ 1 リー た髪を指で撫でつけてから、ゆっくり云った。 くろかみ それを見た黒い髪の女が高くはないがふり絞るような叫び声をあげ 「ちょっとばかりお前の云ってる事が良く判らないね」 とんちょう きんぞくてき エルノは声をたてゝ笑った。金属的な、殺気だって緊張した声であた。エルノーのから血の気がひいて、蒼白にしすんで行く。怒りに る。マロ 1 リーはその笑いが、どんな意味であるか知っていた。それもだえる囁やき声で彼は云った んそうきよく けんじゅうせん 「さあ、あんちゃん、外に出るんだ。歩け : : : 」 は何処かで拳銃戦の大音楽があった時に聴いた前奏曲だった。彼はエ まえぶ 三つ向うのテー・フルの退屈した男の一人が、何の前触れもなく突然 ルノの素速そうな小さな右手を見詰めながら、つゝかゝるように口を 動いて逃げようとした。エルノの眼がちょっとそれに捕えられて戸惑 とたん とんまやろ ) った。その途端、突き上げられたテ 1 プルが彼の腹にぶつかり、彼は 「勝手にしやがれ、頓馬野郎 ! お前の唇をベッチャリンコにしてや 見事に床の上にぶつ倒されていた。 りたいもんだ」 かも たばこ ゆが の力はた エルノの頑が歪んだ。赤い色が彼の両頬にサーツとのはった。煙草テープルは軽い物だったが、それを突き上げたマローリー 、した物だった。賑やかですさまじい音がして、幾つかの皿やナイフ、 ず . を持っている手をゆっくり上にあげると、それを燃えたまゝいきなり エルノは両もゝをテープルにお の顔に叩きつけた。マローリーが軽く頭を動フォ 1 ク類がガチャンと飛び散った。 たまっすぐに、マロ 1 リー けんじゅう たばこ しつけられてのびている。拳銃は彼のもがく手から一フィート先に転 かすと、白い煙草は弧を描いて肩の向こうに飛んで行った。 かお ひょうしよう がっていた。その顔はひきっゝている。 の細く冷い顔には何の表情も無かった。遠く微かに、 者マロ 1 リ 1 えいえん まるでその場の光景が、ガラスの中にはめこまれて永遠に変る事か 迫まるで他人の声がしゃべっているように彼は云った。 くろをわ なくなってしまったように、瞬間何一つ動かなかった。それから黒髪 「気をつけな、三下。そんな事をして皆んなに迷惑をかけるなよ」 とたん きようはくしゃ 、んらよう きんぞくて、 エルノは同じような金属的な緊張の笑い声をたてた。「脅迫者なんての女が前にも増した大きな声で、また悲鳴をあげた。途端にすべてが あわ そうらん あざ ゅうき 乱の渦と化した。室内中の人々が立ち上がったのだ。慌てた二人の のはビストルを撃っ勇気もないのかい、えゝ ? 」彼は嘲けった。 な めいわ ( かる かす とまど

4. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

つばいになったのだろうと、彼はコックをした女が戸口に立っている。じみな黒ッぽい服 袋を持らあげて、白い光りの下のテープル 平たい額のすぐ上から生えて を着ていた にのせる。ありふれたヒトデを、二ダース取めた。 くろかみ いる、すなおな黒髪は、風に吹かれてきたよ ストーヴの上では、鍋の湯が豆の罐のまわ りだした。それをテープルの上に、キテンと 並べる。なにかに気をとられているような目りで、煮えたぎっている。大きなビンセット うに、びどく乱れている。黒い目が強い光わ かなあみかご が、金網の籠の中でせわしなく動きまわって ' で、罐を引きあげた。口をひらいて、豆をガを受けて、、さらめいていた。 のど′ いる、ネズミたちにそそがれた。紙袋の中かラスの皿に移す。それを食べながら、彼はテ女はやわらかい、喉にかかった声で、「入っ こくもっ えさばこ ら殻物をとりだして、餌箱の中に入れてやる ープルの上のヒトデを見まもっていた。ヒトてもかまいません ? お話ししたいことがあ え、たい ネズミたらはすぐ金網を駈けおりて、食べもデの腕のあいだからは、ミルク色の液体の、 るんですけど」 びじよう かれ のに跳びついた。ミルク瓶が、ガラス棚の上 小さなしずくがにじみでている。彼は豆をか「あいにく非常に忙しいんですがね」と、彼 - ひょうほん - とちゅう 、の でタコとクラゲの小さな標本に、はさまれてつこんだ。食べおわると、皿を流しに投げだ は気乗りうすに、「途中でなんども仕事に立た 」「けんびきよう ひんゼな いる。フィリップス博士は、その壜をとってして、備品棚のほうへ行った。顕徹鏡とガラ なきゃなりませんよ」それでも、彼は戸口か せいたか ネコの檻へ近づ、 もた。ミルクを器に移す前にスの小皿をひとかさね、取りだす。、その小皿ら身をひいた。背の高い女は、すべるように じゃぐら 檻の中に手をつつこむ。びよろりとした大きに、一枚一枚、蛇口から海水を満たして、ヒ中へ入った な野良ネコを、ものやわらかに扠みだす。しトデのそばに一列に並べた。時計をとりだし「お話ができるようになるまで、おとなしく ばらく撫でてやってから、小さな黒ペンキ塗て、テープルの、自い光りのふりそそぐ下に待ってますわ」 しんしつ 舌りの箱の中に投げこんだ。蓋をとじる。かんおく。床の下で、杭のまわりに打 ~ りよせる波彼はドアをしめると、寝室から坐り心地の ごらん ぬきをかける。殺し箱にガスを送りこむ小さ が、軽い吐息をついている。彼は抽出しから悪そうな椅子を持ってきて、「御覧の通り、実 の一なコックをひねった。黒い箱の中で、軽くも目薬さしを出して、ヒトデの上にかがみこん験をはじめちゃったんで、それにかからなき がく音がしているしばらくのあいだに、受皿 ゃならないんです」と、言いわけをした。フ ヘミルクをつぐ。残っているネコの一匹が、 その時だった。表の板の段に、軽いセカセラリと訪ねてきて、根堀り葉堀り訊いて行く せなか【 あしおこ 背中を丸めて、手にすりつけてきた。彼はほ , 、力した足音がした。ドアが強く叩かれる。ドひとは、たくさんいる。だから、ありふれた せつめい じつけん ほえんで、言を撫でてやった。 アをあけに行く青年の顔を、東の間、舌打ち実験についてなら、説明の決り文句ができて びようじよう 、みつばこ べつに考えなくても、ロをついてそれ するような表情がよぎった。背の高い、溲せ 箱の中は、もう静かだ。ガ→ ( が気名箱にい ( 307 ) 蛇 うつわ なべ つか かん す

5. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

( 243 ) 物第第の 1 しあんはんじ しわが刻みこまれたいビッコの治安判事が、 ・フリーンがうなすくのを見て、そっけなく云 「オイ、十ドルだよ。つないじゃあいけねえ ばっきん ところに、馬をつないだ罰金だ」 シャフターは、のろのろと金をとりだし、 しわ その皺だらけての紙幣を、テープルのうえ こいこ 0 「一晩、おもてなしにあすかるお礼 だ、喜こんで払うせ」そう云って シャフターは、コバルト色の ゼんやくしつ 眼を、弾薬室の開いている ドアの方に走らせた。「オ きやく ヤ、お客がいるようだぜ。 じゃま おおきに、お邪魔さまだ プリーンは、にわかに色 めきたった。 「オイ、お客きまとは、何 のことだ」 シャフターは、肩をすく めて、奥のドアを示した・ どうさ その一瞬、彼の動作は、今

6. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

ゞ、、さ 0 ( 。た職ル ) さか、第学 「解か。何でもやるカ ~ おっ れもなかなか乙なもんだ」 け人か 、つ、いてん 彼か云い終らないうちに、モリスが、まるで喧嘩でもする 喫茶店のテープルを囲んで、一一一人の男が熱心に話していた。 もん・ ( 」い ように、文を睨みつけてガミガ ~ まくし立て出した。 よほど重大な問題について相談しているのだ。出たり入っ , , やまん 「乙なもんだと来たね、痩我はよせ、オルドロイド、就職 へ卩こくよってしまった の ~ りする客には目もくれず、コーヒーカ冫・ / 運動というものがどんなものか俺が知らないとでも思ってる いつまでも話し続けているところを見るとー のも無視して、 のか。 ー失礼でごぎいますが、ディリイ・エキスプレス 大】一。間違いない、ハリソンはちゃんと知っている 、ゆ・つしんこ 5 こ ( 上の求人広告を見て参りましたものですがー」ー馬鹿臭い そう云ったのはモリソンという男だった : れく′り 」しみいんサいり 「うん、俺もそう思う。らよっと意味ありげに人員整理と云俺は何百回やったか知れん。君は、俺と較べて、どのくらい びとれ・ 0 ん しようこ ったろう。あれが、われわれの一件を押さえている証拠だよ」運がいいかわからないんだ。君は独身だが、俺には女房と 鬼が二人もいる。まあそれはいいや、とにかくせっせと探し ォルドロイドという男にった。 て、やっとに事にありついたとするか。すると新しい会社の 「ううん、そうか、そんなことを云ったかなうつかりしてい でんわ しょむ、 ~ - つよう 庶務課長が、早速、電話をかけらあな、もちろん今の会社に たらしい。俺は聞き漏らした、 、いんむしょた、 もしもし、おたくに勤めていたモリス君の勤務状態、性 モリスはるように一うと、バッと煙草の灰をはた、さ落し て、大きな上半身を、テープルの上にぐっと突、さ出すように格などの点についてうかかしたいのですか。そうです、同君 さ・ルこう は、こんど我社に入社されましたので、参考のために、ーふ した。彼は密生した粗い硬い髪の毛を持っており、それをポ へんじ ん君たらは、あのマックの老いぼれがどんな返事をすると思 マードでコテコテに固めていた。 しよくぎようあんていしょ う、こ ってる ! 「要するに、われわれ三人を解雇する、ということなんでし 糞 ! まあ後二週間もしたら、職業安定所の前 おれ ふる ぎようれつ よう」 の寒さに慄えている行列の中に、間違いなく、君も俺もいる もう一人のレディというのが云った。その言葉にモリスと だろうよ。まあ見てみな、あの老いばれマックが、明日にで ォルドロイドは、ぎよっとしたように息を詰めてレディを視もグラスゴーから帰って来たらどんなことになるか。マック かんばっ が社長室に入る ~ 間髪を人れずハリソンが後から入って行く 詰めた彼は三人のうちで一番年若で、末経驗でもあった。 しっちょうしつ 五分以内に社長室のブザ、ーが隝って、おれたら三人はマック 一ややあって、オルドロイドが半ば自棄みたいな調子で、 おれ ゴナだ。あ

7. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

なら でぐら しつぎよう の前に並ばされる。そして、会社の出口はあすこだよ、と、 くらいの若い申で、一 , 世の中に出て間がなかった。従って失業 ・ふ」 - きむ おや 。今年の冬は寒いぞ」 の経験というものがなかった。のみならず、彼は親の家に生 モリスは冷たく光る眼で相手を見据えるようにしながら、 活していた。だから、失業という、他の二人にとっては、心 きようふ・ともな 吐き出すような調子で、ブップッしゃべり続けていた。ォル 臓を突き刺すよテな恐怖を伴う言葉の味が、実感として迫 ふけい、いニ ドロイドもレデイも白けた頭で黙って聴いていた。 現在のような不景気時代に、失業とか飢餓と じけん かいうことが、言葉以上のものでないところに、レディの生 大体、こんどの事件も、リーダーはモリスであった。彼の せつめい 活の説明があった。 計画が実行されて、儲かった三ポンドのうち二ポンドをモリ むすを スが取り、あとの レディの父は、息子が恥かしい解雇を受けたことで傷つけ は、おや 著者について 一ポンドをオルド られ、苦しむには違いな・い。しかし母親が彼に味力してくれ エス・フォレスター氏は、 原作者シー・ きつい ロイドとレディカ るだろう。鹹になれば、ム「までのように、ちょいちょい新 ~ クロフッと並ぶ英国の一流スリラー作家、 ふく えいぺい京んにんかつやく 山分けにした。 し月 ~ をつノ、るわナこよ、、よ、。 ( ( もカ / も彼が目下、夢中になっても 三十年間にわたり英米文壇に活最し、・その 、かんえん ) よ ところで、モリ るオートバイも、あ、る期間、遠慮する必要が生ずるかも知れ 作品は広く全世界に読まれている。「ホラテ ぞうお イオ・ホーンプローア大尉「アフリカのスの憎悪に満ちた , ひょラしよう 女王」「延ばされた支払い」「ランダルと表情と物の云い レデの場合の、失業に対する恐怖は、大体、この程度の なが・ 時の流れ、などの有名作があるが、そのな方は聴いている一一線までで、それ以上のことは、想嫁の世界に属することだっ 人 かでも一」・の「花火の夜の殺人」は、フォレス 人を、恐しく不快 た。彼にとっては、テープルの向うに坐っている二人の男の しつぎよう げんじっ ターの代表作品と云われ、ヘミングウェイな気分にざせたが 様子こそが、失業ということの現実だった。特にモ・リスは、 の ~ は「私のすべての読者にすすめる」へラル 夜一 なかでもレディは見るのも恐しいようだった。両眼が血走り、煙草をくわえた 2 リいーノ物 - 2 ド・トリ = プ = ーン紙は「最高の形式の小身篌いするような唇は灰色に変じてビクビク慄えていた ~ その上、彼は黒い毛 きよう】く 火一説」ロンドン・タイムスは・「一止確なる感覚 - お くず 、んらよラき、いん の生えた逞しい拳固で、話の間に》激しくテープルを叩き 嫌悪と驚愕を感じ 一と崩れざる緊張の作品」ニューヨ . ークタイ 「しノ一 0 ていた 9 ) ムスは「第一級のスリラー」といずれも最 きんじ レディは、まだ このようなモリスの姿は、レディが、二十になって、初め ねんれい じんせい 四大級の讃辞を呈している。 ( 訳者 ) 一 少年といって て知った人生をといっ・てよかった。この年齢までは、人は、 やまわ

8. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

いや第しょ ) きと出て行けって、云いたいところよ。でも、あたしはそんな事を見それから彼は嫌な微笑を唇に浮かべ、マロ 1 リー を見て云った。 おもてぎた られて、表沙汰になりたくはありませんからね」 「あばよ、あんちゃん」 マローリーは長い指を二本眼の前にたてゝ、それをためっすかしつ彼の暗い・ : と云うよりどんよりした眼に、嬉しそうな光がいつば いに浮かんだ。 眺めていた。楽しそうな : : : と云うより嬉しそうな顔付きだっ んばっ ンダ・ファルはしなやかな手を、銀髪のかつらにちょっと上げてから、 ロンダ・ファルは肩掛で身を包むと、その繊細な唇にちょっと皮肉 すぐに落した。 な徴笑を浮かべ軽くうなずくと、テープルの間から通路に向かい始め 、んちょう とっぜん 白それが合図のように少し離れたテ 1 プルから、一人の男が突然立ちた。ちょっと緊張して取り澄まし、誇らしげに頭を上げたその様子は 脅】上がると、二人の万に歩み寄って来た。 戦場にのぞむ女王のようででもあっ た。少しも恐れを知らぬ。だが おそ もゝのあたりで黒いハットを振って、軽くしなやかな足取りで、すは恐れを見せる事を侮っている様子なのだ。たいしたものである。 かみ 、・ようみか しせん た / 、、と歩いて来る。 退屈した二人の男の客が、興味深げな視線を彼女に投げた。黒い髪 ちかよ 男が近寄って来る間に、ロンダ・ファルは云った。「あたしがこんなの女客は気むずかしげに自分のハイボ 1 ルをひっかき廻していた。猪 まちが 所に、独りで来ると思っていたら間違いよ。あたしはナイトクラブに首の男は眠りこけてしまったらしい きゅうじがしを 独りで来る事なんかありませんからね」 ロンダ・ファルは頭をさげる給仕頭の前を通って、ロビイに通ずる、 じゅうたん ゝんしよく マローリーはにやりと笑った。「つまらない事をするもんだね」 緋色の絨毯の階段を五段上がって、金色の引きカーテンの向こうに消 ムくをう 男はテープルの所に来て、 した。小柄な、きっちりした服装の爰の黒えて行った くちひげ い男である。小さな黒い口がテカ / \ に光っている。 マローリーは彼女が視界から消えると、エルノに視線を投げた。 しまいじ 芝居染みた鮮やかな身振りでテ 1 プルによりかゝると、銀のケース 「さあ、三下、何だって云うんだ ? 」 たばこ びしよう けいべっ の中からマローリ 1 の煙草を一本抜き出すと、気障な様子で火を点け た。エルノは身をこわ 彼は冷い微笑を浮かべ、軽蔑するように云っ たばこ てぶくろ ばらせた。手袋をした彼の左手が煙草をひつつかみ、灰が下にこばれ ロンダ・ファルは唇に手をあてゝあくびをしてから云った。 よラじんばう 「あたしの用心棒のエルー。あたしの事を警戒していてくれるの。ど「何だって、あんちゃん ? 」 う、気に人って ? 」 「何だってとは何でえ、三下 ? 」 たがけ 彼女はゆっくりと立り上がった。エルノが肩掛を着るのを手伝う。 エルノの青いに血が上ばった。眼が細くすばまる。手袋のない右 ( 136 ) なが あしど ねむ かたがけ せんさい しせん つうろ てぶくろ

9. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

「アルスタア。ホテルの盗難事件で君は来た急に語を軟げて、 びとり来そうにもなかった。そこで彼は立っ ろうかご というのだね、何か損害を受けたのか」 「ほう、君はどの位鉛筆をもってるんだ』 て行って扉をあけて、廊下越しに外に向って ふくろ 判事はじろりと僕を見て間うた。 優しく間いかけてきたので、僕は袋の中を呼んでいた。 とうなん ~ 「盗難ですって、、判事さん、そう仰しやるのあけて見せて、 ' その判事殿が、一寸廊下の外へ足を踏出し 冒 ~ は少し酷ですよ。あの男は、犯人なんてそん「削「てな」のが七百 = 一十 = 一本、半分削りがた途端に、僕はその扉をしめて、鍵をかけて レ プ ~ なんじゃないんです。きれいな鉛筆削りの「六一日四十一本、さきの丸いのが = 一百七十九本」しまった。これで万事、僕は人にあう 三レクション・マニアだったのです。善良な一 「そいつを全部こゝで削ろうってのか」 気持で、・鉛筆削りのキカイの所へ行ったもの 市民にかわりはないのですよ」 「勿論そうですよ」 である。 担わ だいまんえっ 僕が云いも終らぬのに、 「バカなこと云うものじゃない。・、 しゝ加減に 大満悦でり始める。・一本又一本と、・ 「おい、君は気狂いか、何を云ってるんだ」出て行くんだ」 い、開けんかツ」 ごたく とびら 判事がどなりつけるのだが、 そんな語托な僕は手を合せて、 判事が扉の外でどなった。・ むじひ んか上の空、それでひょいと側らを見ると、 「判事さん、そんな無慈悲なことおっしやら「はいはい、 ~ 「直ぐ」 も」ル」い テープルの上に間題のキカイがのつかってい す御生お願い、その代り、さきの尖んがった 返事も上の空。 るので、早いとこ徒は、袋から鉛筆を一み奴を十二本、・あなたに差上げます」 判事は扉をたゝいたり蹴ったりしている。 とり出して、取る手遅しと、・その一本をり 僕は ' そっなく、慇懃に云った積りだった 僕は、そんな判事の思わくなんぎあ知らん 始めた。 が、判事は相手にしなかった。毎日毎日やっ顔、いとものんびり鉛筆削りの醍醐味にひた かれあたま - なが 「なんという真似をするか、この気狂い」 てる職業柄、彼の頭の中はひどくこちこちに はんじ ったね、一本一本テープルの上に竝べてゆく 「そうですよ、判事さん。僕は鉛筆集めの気なっているとみえる。 ( 偉観というのは将にこいつのことだろう。 んりぞうわいぎ、 狂いかもしれませんよ。僕はハンプルグのこ 「そいつを俺に呉たら、・貴様は官吏贈賄罪に外はいっときしんとなった。かんかんにな の立派なキカイで鉛筆をりたいばっかりに なって、痛い目をみにゃならんことになるぞった判事が、廷丁や警官なんか連れに行った き、つとう 年百年中鉛筆集めにあけくれていたのですか いゝから、出て行くんだ」 ものらしい。そやつらが又扉の外に殺到して らどうか怒らないで削らして下さい』 それでもいっかな僕が動こうともしないのやんやん行ったり、じたばたし始めた。 どうげもの 僕を存外の道化者と感じたらしく、」 半事はで、彼はやけに烈しくべルを臈らしたが、誰「待てよ、もうちょっとだ、跡たった十五分 ておそ とうなんじけん ごしよう ふみに・

10. 探偵倶楽部 昭和31年 夏の臨時増刊 海外探偵小説傑作選

「何をなさるんです ! 」彼女はいせつばちの小きな女の子の体を比えこんでいた。 す・ 0 と 「あなた、お食事の用意が出来ましてよ」 いながら鋭い調子でまくし立てた。「手荒なことは止してください ! どきんとしながら、マリイは、さっきと打って変ったやさしい声で モリイはまだ寝なくてもようこざんす。時間か来たら、あたしが云い 一ムった。 ます。母親のあたしが、ー」 とたんに夢から醒めたよプにモリスは、アームチェアから立っと、 「だから母親たるお前がーー」 ~ ・ちげんか こテして、いつもと同じロ喧嘩が開始された。、そしてこのロ喧嘩はテープルに坐って、いつものように、ガッガッと食い、かっ歙みたし はってん いつもと同しように三十分くらい いつもと同じ方向へ発展して行き、 ) よ・ , じよ 5 われん だが食い終ると、彼は、 - またア 1 ムチ三アに戻って、さっきと同し で下火になる・ ' その間、モリイは我関せずといった表情でいたずら書 ちんしもくこう しせい を続け、飽ぎると椅子から滑り下りて食卓の下〈もぐりこむ。そして姿勢で、沈思黙考に入っ ~. わっどうおししろ つもの自分の坐り場所に坐り、破れた子供の靴 あっちへ行ったり、こっち〈来たりする四本の足の活動を面白そうに , 妻は、夫の訶の、・い じは・ 1 ことよ したっく - っ あら ~ 、 観第する。彼女の頭の上で、夫と妻の荒々しい言第がまるで十字火下を繕いはしめた。 あごりようて むんけい モリスは、、頤を両手で抱えて、いつまでもストーヴの火を見詰めて のように錯して飛ぶのだが、それは食卓の下のモリイには無関係だ一 くっしたっくろ しりよ かつどうかんさっ 、た。そこには静けさと思慮が感ぜられ、妻は靴下を繕いながら、や そのうぢ四本の足の活動を観察することにも飽きると、 , 彼女は小さい しせん ずじよう よこ 欠伸をして、ゴロリと横になる。ちょうどその時分に、頭上の砲火はや好ましげな視線を夫に送った。 しず しよくじ もちろん、モリスは静けさどころではなかった。さっきまでの彼は 寰え、モリ・スはア 1 ム・チニアに腰を下し、マリイは食事を運ぶため むぎん けいかく に、どころ あの計画が無残な失敗に終ったことに、しきりに腹を立てていた。が 人に台所に人る。そして台所から出て来ると、モリイがテープルの下に 《ろようふ しんしつ 横になっているのに気がっき、大急ぎで引っ張り出して寝室に連び去今は、腹立ちが消えて、真っ点な恐怖の念に狩り立てられてい のどっ ひょうじよ・ ) 夜 ~ る。その間、モリスは苦虫を噛みつぶしたままの表で、ガッガッと「と考えているように見える彼は、実際は、心痛のあまり喉が詰ま 0 て碌にロも利けないような状態いたのだった。現実的で微塵も夢と の ( , 食い、かっ飲む。 ゼんどう いテものを持汜ない性格の彼は、それたけに、こんどの事件の結果に ところが、 ~ そうした毎日の段取が今日はすこし狂って母親が女の らくカんてゝ 子を寝台に押しこんで房ってみると、いつもなら、ガッガッと育を立ついて、楽的な希望などは頭から抱いていなかった。彼が馘になる けいおん てて食事をしているはずの夫が、食の上の食物を視して、依然とことは、数学の計算より確がであった。彼は、トロトロと燃え続ける してアーム・チ = アにうずくまり、しっとストヨヴの火を視て何か考ストーヴの火を見ながら、チピた靴を引きずって寒風の街を歩いて行 は、や しよくたく は、おや はらだ すわ じっさい 《っ