と、慢性の腸疾患です」 と説明した。そして、これにふさわしい手 ようたい アメリカ大使毒殺の陰謀 当をしたが、容態は悪くなるばかり。遂に女 はアメリカ人であるところから、ナポリの米 雑誌「タイム、社長夫人をめぐる しんさっ ぐんびよういん 軍病院で徹底的な診察をうけ、厳重な血液検 奇怪なストーリィー てんけいてー 査の結果、これは典型的な砒素中毒と判明し 道本清一 その女は、アメリカ新聞王の妻であり、雑 誌『タイム』社長の夫人であり、イタリヤ駐 これが一年っゞいた。 在アメリカ大使である。名前はクラール・ き、め 一年目に毒の利目が現われ、まず貧血症状・ル 1 ス。 を起して怖ろしく疲れやすくなり、瓜がちょ ローマのタベルナ荘 っと硬いものに当ってもすぐに傷ついたり剥 ルネッサンス風のこの大邸宅は三年前にア びほう メリカ政府が四億円で買いとったもので、どがれたりし、歯が冷たいものや熱いものに異この美貌の女大使は、四年前ローマに赴任 しよう がんけん したときは、刺としていた。一元々頑健とい 謀の部屋も豪華な格子天井になっていて、すば常に敏感になった。 こくび かゞみいた 女は小首をかしげた。そして、昨年の秋につていゝほど身体は丈夫な方だった。 の . らしい鏡板が篏めこんである。 かくじっ 毒この邸の寝室にひとりの女がべットのなか可愛がっていた『ミッキー』という大が原因それが、除々に確実に生命をちじめてゆく しつびよう だんてい 大で朝のコーヒイをのんでいる。のむたびに天不明の疾病にかゝって死んだことを思出した怖ろしい砒素中毒にかゝっているという断定 しようじよう を下された。だが一体その砒素はどうしてか 井からまいおちる毒の霧がノドにながれこむあの大の症状と自分の症状が似ている。 しんにゆう こわ ) みつじようほう メ ワシントン政府へおくる機密情報について考怖くなった女は、かゝりつけのドイツ生れの女の体内に侵入したのか ? マルチーヌ・ ア しゆえん どくやく ちょうかん えているときも、朝刊に目を通している時もの医師ブドチスラウスキ 1 博士に診察してもキャロル主演の「ポルジャ家の毒薬』をみた 人は少くないと思うが、あの時用いられた ? 毒の霧をすいこみ、夜眠っている間でも毒霧らったところ、 かんぞラ 『これはマダム、肝臓障害と、ひどい貧血病がこの砒素だ。砒素は、千年の昔からイタリ てを吸いこんでいる。 だいていた ( し 」 0 せつめい らようしつかん はつらっ
につほんむすめ せいねんしんし でしよう。然し実物をみれば、しとやかな日本娘です。それを持っている筈のあの青年紳士もどこ〈やら消え去ったと わたし かんけい 一つてよよ、 ) 0 ( オしカそれに立石さんも、そんなにも深く関係し .5 に長い間同じホテルにつとめていたのですから、私の眼がま とくらよう うつく ちがうとは毛頭思いません。あの特徴のある美しさをまちが ているのに自分に少くともあの怪我をした時には自分として うわけはないのです。 も大いに議牲を払っているのに、何故私にほんとうのことを の たしかに立石真貴孑さんに違いないのです。それが七月五話してくれないのであろうか : : などと私は私で考えないで はいられません。 日までと期限を切って、誰のために千五百万円の金を ? : : : ・ ごろ よこはまえき 影 かえ さて、ホテルに帰ってみると、支配人から一同が、七月四 私は考えていて電車が横浜駅に近づく頃、アッと一人で声を どくりつさい しゆくさいじゅんび 幻【あげました。 日のアメリカ独立祭にホテルの大食堂で行う祝祭の準備で大 「七月四日だ。アメリカの独立記念日だ。その翌日だ ! 」 童なのです。 かへい 「立石さんは ? ・」 コルガンと言い、アメリカの貨幣ということと言い、七月 かんけい 「立石さんは稽古」 五日期限と言い、それは、何か七月四日に関係があるという かんけい 「稽古 ? 何の穃古 ? 」 ことはまちがいがない。然し、その七月四日の何が関係があ なん おも るのであるか : 「七月四日の晩のあれさ」 : ということになると何の考えも思い当らな ど・つり・よ・ ) いのです。 私はホテルに帰って同僚に聞いて、はじめて思い出しまし へんわかもの もよお 電車にのっていた人々は、変な若者が大きな声で独り言を 、立石さんは七月四日の催し物の芝居を受け持っているの おどろ しまっ でした。 言ったので驚いていっせいにこちらをみる始末です。然し、 私はそんなことにかまってはいられません。何としてでも、 芝居はギリシャのヘレンの物語りで、勿論、お客はアメリ たていし この謎をとかないと、何か立石さんの身の上に変化がおこる カ人が大多数で日本人はほんの五六人に過ぎないでしようか よかん しば のではないかという、予感がしてくるのです。 ら、催しものはすべて英語でいたすのです。そして、その芝 へんか この変化が何であるにしろ、一昨々日のあの事件も、それ居は凡てアメリカの海軍の人々で、唯、ヘレンになる女がい かんけ や にたしかに関係があるに違いない。然し、あの事件 : : : 私は ないので、立石さんに白羽の矢が立ち、もう一箇月も前から じゅんび 私で怪我をして二日もうなっていた位ですから、考え方によ その準備にかゝったのでした。 っ . ては平凡な事件ではない。 ところが、この事件の重大な関 「どこで稽古しているのだ」 なぞ じつぶつ よくしつ かん ぎせい ばん だいしよくどう す
なるは・こ おもしろしつ ずの ) 。成程、探偵小説をよんでるとみえて、面白い質 私はその話で、どうも全く頭脳の中が混乱して了ったので も、つろん い問をするね。勿論だよ、エヤではない。ほんとうのアメリカす。若しその女性が、たしかに立石さんであるとすると、あの いむら の紙幣だったのさ。伊村さんは、その紙幣と女性の顔とを見事件のあったのは、一昨々日であるからそれよりあとのこと、 しあん してみると、立石さんは一切を知っていたのか : : : そのため くらべて、思案した。そして、これをかたに貸すのか、或い そうなん りよ・つがえ - の . はこゝで両替をしてくれと仰言るのかと聞くと、七月五日迄の遭難か : : : それにしてはどうして立石さんが何にも知らぬ という顔をしていたのであろう、いや知らぬ顔というだけで 貸してくれればよい。必ず日本金で返却するという」 : と私は考え はない。あの時にも何も知らぬようであった : 「む月五日迄 ? ・」 幻【「では : : : あと三日ほどではありませんか。それがいったい ていると、大和田氏は何を数えているのだ。利子のことは、 きみたち もんに いつのことです」 この道をやっているわれわれの問題で、君達が計算してみた ごうりてき 「それが一週間前のことだから、十日間貸せというわけだ。 とて、安いか高いか、合理的なのかわかるわけはよい。・ しだい 村さんも困ったらしい。因ったというのはつまり、今まで それで、このシガレットケースが手に人ったという次第なの さ、と申しました。 そんな取り引きを見ず知らずの人としたことはないので度ぎ 私は黙って、たゞうなづいた。そしていろいろの聞き度い もを抜かれたのだ。流石の伊村さんがね」 「それでどうしました」 ことがあったのだったが、何も言わずに、じっと考えていた のでした。 「いくら利子をくれるかと聞くと、その金のケースを利子と 「何で黙って了ったのだ」 してとってくれという。その金のケースはもう前に手渡しさ 「ハア。それで、コルガンのことや、美しい女事務員のこと れているので、どの位の値うちかわかっている。まず三十七 おっしゃ もつろん や、それを私にさがしてみろと仰言るのですか」 万円である。勿論、ケースとしての値うちではない。金だけ 「うん。こちらでは、特別に探偵を雇ったりしない。とに角 の値段である。 ・ : 十日で千五百万円、それと利子が三十七 ごうりてき たんば 七月五日に金をもってかえしに来れば、何がどうであろうと 万円 : : : 高利としては安いが、担保があれば合理的の利イで しょ・つ一つ こぎって あるという点で伊村さんが承知した。そして直ちに小切手を詮索する必要もない。その上で不審のことがあったら調べれ きんこ あそ ギ ( しょ 0 : たゞ、その間、アメリカの金を金庫の中に遊ば 認めて、銀行を二つ指定して渡した」 ・さんねん せて置くのが残念であるというに過ぎない : さすが きんへんきやく まえ せんさく かね たんてい やと うつく えお
( 243 ) アメリカ大使毒殺の陰謀 すいり ・いレ は政務をみることもできずに、べットに親みて、こんな事件はイタリヤ民族にたいする侮推理が正しいかは、目下のところ分らぬ。 りつこうほ 一説によると、アメリカ政界には、この事 がちになり、とても立候補など問題にならな辱であり、名誉キソンだとイキまいている。 ついきゅう どくやく くなったからだ。こうした政治的見地からは「吾々イタリヤ人は何も毒薬ずきの民族では件をあまり深いところまで追求しない方がよ げんいんしんしつ じようちかんけい いという空気がでてきたと伝えられる。あま なれると、ルース大使の情痴関係というものない ! ルース大使の病気の原因は寝室の格子 が一応問題になったが、この線からは何らの天井などにあるのではなくて、かの女がバラりメスを深層までさしこんでゆくと、とんで せしょし がいちゅうくしょやく 園の手入れをした際に用いた害虫駆除薬アンもないワシントン政界の大スキャンダルにま 訝かしい点もでてこない。 さよう かの女の私生活にはそうした暗いカゲがまチクリプトガメンの中毒作用にすぎないのでで発展するかもしれないという考えに発して 、るのだろう。 はないか』 るでないのだ。かの女の良人であるヘンリー せん もしこのような線がつよくおしだされてく ・ルース氏は、副大統領候補一件が妻の病気ル 1 ス大使がバラ園の裁培家だということ げんたいばん かんが の原因と考えているらしい。 は事実だが、寝室の天井から多量の砒素が検ると、現代版『ポルジャ家の毒薬』劇の真相 しゆっ げんら これについて現地のロ 1 マ人は、憤然とし出されたことも事実にちがいない。いずれのは永久に闇に葬られてしまうかもしれない。 しんばい すわねえ〃 クなあに、そう心配することは ☆とても噛めない つ、そ ☆独占したい ないさ。どうせ誰か附添っている ☆恋は片道 クこんな硬いビフテキが喰える奴がいるよ〃 王子さまとお姫さまが結婚なさ 〃あたし達の新婚旅行は一ヶ月 か ! 料理頭をつれてこい〃と客 こ・ 1 かい いました。さて次の日の朝、お姫 ゅうぜん くらい航海することにしたいわ。 ☆好機をのがすな 怒れば給仕は悠然として さまが申しました。 しもしも あたま ゅうべ欧米航海の汽船で〃 ク丘那、連れてきても無理です〃どうも此頃は頭脳が疲れてね〃ねえあなた、下々でも昨夜の そういれば 〃それもも 、いけど船に酔ったら ぜ。料理頭は総入歯ですから〃何しろ今日したことを、明日になようなことをするのでしようか〃 大変ですよ〃 るとケロリと忘れる仕末だ〃 〃それはするでしよう〃 〃あら、大丈夫よ。船酔の最良 ☆なお悪い くすりこい クそ、それはさぞ困るだろうなお姫さまは暫く考えていましたの薬は恋なりって云いますもの〃 〃行きはいいですよ。けれど帰 しへんだ ! 女房が家 : : : 時に千円ほど貸してくれないが しよう しもしも 出しちゃった〃 かね。明日まちがいなく返すよ。 〃下々の者には勿体なさすぎまりはどうにも仕様がありませんよ しせいかっ っ にようばうー・大 めいよ じじっ さいばいか ひめ もったい ふか よ
世相のぞき眠鏡 : ・宮崎博史 炉一辺 ョ探偵小説の新星 = = ・中島河太郎墹 ボアゴ べ考 ( 続 ) = = ・ = = = ・木村 いよく解決簷・スゴイ迫力 " 幻影の町木々高太郎 侠傑外池洋祐三度び登場大活躍 零号、租界島田一男 ☆絵物語☆白昼夢・ ☆鍵をかけない寝室で殺された女の怪死の真相 足立泰 鍵をかけない女 ☆アメリカ開拓史上比例のない惨虐殺人鬼ハ 西部の殺人鬼松村喜雄 ☆婦人大使をめぐる毒殺未遂の怪事件発覚 米大使毒殺の陰謀道本清 ☆明治女の実録・恋と仇の板はさみ 大塚彦七 日日 2 : 三木 ◇テープル・マナーの真髄・ ☆伝記小説論・宗野彈正☆法界の人物 = : 挙犯罪月評・田中博 ネロ・ウルフ探偵事務局大奮迅 ! ニ百枚大長篇 廬死の一別にルック 手先に使われた美人力メラマンの告白実話 美貎のカメラ方ーレホリー ノカースン記 評判一一大連載 世界妖奇犯実話 ー兄弟 乱 ( 249 ) ( 102 ) ( 72 ) ( 4 ) ( 112 ) ( 122 )
( 121 ) 幻 . 影の町 ( 真崎隆 ) 語を ? 何の話を ? 私にはその時に何を話そうという考まわりにいた五六人の人ではなかったのです。 ちう それは全く思いがけないところから現われて来ました。そ えがあったわけではありません。然し、何か、立石さんに忠 れは翌七月四日の午後十時、いよいよヘレン劇の始まる頃か 告をしなければ不幸が起るというような考えがどこかにあっ せき ら、前の万の席へとすゝみ出ていた見物の若者、五六人の水 たのです。 それと、ハッと人った瞬間に私の感じたことは立石さんの兵服のアメリカ兵達であったのです。そのお話は、一部は御 かいだん ふくそう 聞きでしようがヘレンが、階段からしずしずと下りてきて、 ヘレンをとりまく五六人のギリシャ人の服装をしているもの しい ほんのうて、 が、私の本能的に感じたところでは、立石さんを中心として下の段に到達するや否や、まるで、この芝居の一駒ででもあ とっしん るが如く、五六人の水兵がいっせいにヘレンめがけて突進し 互いにツバセリ合いをしているような雰囲気なのです。何か たのでした。 こわい感じがしたのです。 三辺の話は、いよく核心にふれてきた。次号をおたのし 何ですって、あとで考えるからそう思うのではないかって み下さい : そうかも知れません、実際に立石さんを殺したのはその ふこう しゅんかん じっさ ふんいき ころ へいたち ひと けんぶつ ひとこま
( 103 ) 西部の殺人鬼ハーバー兄弟 西部の殺人鬼ハ 犯罪 実話 さつじん せい 無法地帯 どくりっせんそう アメリカ独立戦争が終ると、この新興国に狂熱的な移住熱 ビーパー ( ット が熱病のようにひろがった。鹿革の服をきて、河狸帽を頭に のつけた開拓者の群れが、まるで憑かれたように、チェロキ しゆっぱっ ーインデアンの出没する、テネシー地方に入りこむか、はて こうや バクポーン しない礦野の背骨になっているミシシッビ河をさかのばって せいなんみら 静太平洋岸に出る「西南の道」をとるのだった。 えいじゅう かいたくしゃ これらの開拓者たちは、やがてそれぞれ土地を選んで永住 ぞうき 来年のパンにする小 をはじめた。雑木を刈り、垣をつくり、 伊麦をうえた。 彼らは、一日の労働が終ると、ヒョウタンで作ったヴァイ オリンで、なっかしいヴァージニア・ジーグをひき、ばろを ほこり まとった若者たちが、床の埃をけたてて踊り狂うのだった。 じゅかい 彼らをとりまくものは、果しもなくひろがる樹海だった。 きょ・つふ しよじよりん 血に飢えたインデアンの恐怖が開拓民をこの処女林のなかで 孤島にしてしまい、このなかで働らくのだった。このちつほ すき けな土地で、鋤を使い、とりいれをし、麦をひき愛し合い、 じゅうし そして、眠るのだった。そこの小屋のなかで、獣脂のランプ び」しやく 窄をかこみ、バンきれを手にもち、肉汁をすすり、木の柄杓で ミルクを呑むのだった。 ーすうま やがて、入拓者の数が増すにつれ、インデアンの脅威は減 ってきた。だが、この移住者の流れは、今までとは別の新し ことう ねむ ろ・つど・フ バックスキン おど いじゅうねっ
けいかく 3 しかし二人のうち一人でも死ぬと計画家族というもの、は困 ることになる。私の十人の兄妹も今日では五人になってい の・ 世 アメリカでは「子供多ければ家庭楽し , といって、産児 制變に反対している人もいる。兄妹の多いということは楽 むすこ しい。一人息子などというものは淋しそうである。 わたしたら 私達の育ったのは明治時代だからよかったのかも知れな こたくさん 。今日の子沢山は大へんなことであろう。しかし、あん りそうて、・ まり人工的に打算的に産児制限しても理想的な子供は生れ て来よい。 先日、ある女が姙娠したというので、産科医に診察して し 貰った。するとその医師が早速「そうは」をしたそうだ。 勿論何千円かの「そうは」代をとられた。ところが、この かのじよ しんさっ にんしん 女を前に診察した医師は彼女は決して姙娠していないとい っていた。つまり空つばを「そうは」されたのである。 さんば しようれい 私の老姉が産婆だから、子供を生むことを私は奨励する こくじト - う のではない。 日本の国情からいっても八千万人は多すぎる おうせい しかし健康で独立心の旺盛な優秀な子供を生むことの出来 る自信のあるものは生んでもいいんじゃないかと思う。 こども じしん はそういう自信がないから子供は二人きりいない。男の子 二人である。 にんしん こじいんけいえ、 最近、私の住む県で孤児院を経している男が愛人を殺 ゆかした して自分の家の床下に埋めておいたのが見つかった。この しどうかちょう 孤児院は同族だけの経営で、その男は院長の弟で指導課長 しどうかちょう をしていた。何の指導課長か解ったものでない。愛人も同 あいじん 院の保母のような仕事をしていたらしい。この愛人が院内 ばくろ の不正を知っていて、暴露するといったとかで殺したとい うことである。 こじいん ところで、この孤児院には百卅人とかの孤児がいるそう そしよく しようりようあた だが彼等には実にひどい、粗食を小量与え、子供たちは学 校にいっても体操が出来ぬ程栄養が衰えていたそうだ。 たまに役人が視察にゆくと、その日だけは子供たちに御 ちそう せんしゅう 馳走をするので、子供たちは役人の来る日を千秋の思いで 待ち焦れていたそうだ。 しさっ ごちそうせいさく 役人が視察に来ると御馳走政策で、院内の視察はさせな りつば /. かったというのである。しかも院長は立派な御殿に住み、 りよかん 東京で旅館を経営していたというのである。 不幸な孤児の食事代の頭をはねて贅沢をするとはあきれ じってい た話である。実弟の指導課長が愛人を殺さなければこの残 はつけん 酷な不正は永久に発見されなかったかも知れぬ。その上こ こ ) せきしょ じようず んな男は功績書を書くのが上手だから勲章を買いかねな 赤い羽根などで浄財を集めても、こんな男が経営してい じようぎい る孤児院などに、その浄財が流れてゆくかと思うと嫌な気 じっ しさっ しごと えいよう ぎん
( 115 ) 幻影の町 なかなかようじんか 「ピストルですか」 済の方面では仲々用心深いので、わしに相談していたのでわ わたしがあわててそう言ったので、大和田氏はハ、、、と しが知っているわけだ」 「ほう。そして : : : それからどうなさいましたか」 声高く笑った。 かえ しよせい 「ビストル 「それからが大へんだ。女性だけのこして、その男は帰って ではない。然し、実弾じゃったよ」 まえ はなし いった。するとその女性がわたしのことは、この前に何か話 「実弾 ? ・」 しつ しやしん 「うん。現ナマさ。アメリカの紙幣だ。何と、千五百万円に がありましたかと聞くので、実は聞いている。あなたの写真 こ - フしよう - かんさん をもみていると答えると、ではこの件で、わたしが交渉する換算出来る額だ」 かんが もちろん 「勿論、それは、本ものでしようね」 のが不思議ではないお考えですかと聞く。信用するから、言 じよせい 「本ものとは ? 」 ってみてくれと伊村氏がいうと、その女性がいきなりハンド 「偽サツではないのでしようね」 ッグか、ら : : : 」 大庭久仁子は良人と彼の曽っての恋人で米独立祭に刺殺された立込んだ。 石真貴子についての調査を私立探偵に依頼した。 「アバートに人るや否や、私は、めちゃ / 、、に殴られ、意識を失っ 一探偵の調 ~ によると、ホテルに勤めていた真貴子をめぐり三人のた。暫くして気づいてみると、立石真貴子さんも猿ぐっわをかまさ ~ 男と一人の影の男がいた。この影の男が真貴子の死水をとった男、 れて「コルガンと三辺の関係を知っている - か」等と拷問されている ~ のが解った。 そして彼女の為に復讐をとげた男であった。 然し、この時、飛鳥の如くにとび込んだ青年紳士の活躍によって ~ 三人の男とは、この話を探偵に語るボーイの三辺と二人の米人で 一人は若い将校、もう一人はコルガンという詐欺師で「幻の町」っ真貴子さんは救われ、私も助かったのである。 ~ まり架空の土地を分譲するという会社を建て、進駐軍兵士や日本人 事件後、マイスネル商会からも山の上のヨタ者からも問題のコル ~ から莫大なる金をまき上げた強たゝか者である。 ガンからも煙草ケ 1 スについては何の催促もなかった。 その後、一寸した機会に立石さんに会った処、あの晩に活躍した ~ ~ このコルガンが金の煙草ケースを紛失したから調べてほしいとい うので、支配人が調べた処、意外にも真貴子のロッ 冫ーから銀の煙紳士との関係はいえないけれど、今は一寸遠い処へ行っています、 もし又危険な事が起った場合には、すぐ駈けつけるという話をして " 草ケースが発見された。彼女は全然入れておいた覚えはない。たゞ っ 4 にを ) い , っ 0 同じ模様のケースを彼女を訪れた東京の知人とマイスネル商会で見 たとい , ) 。 さて私は久しぶりに、親分の大和田氏にもホテルに起った事件の ~ そこで三辺は、マイスネル商会を訪ね、この金と銀のケースのか . 報告に訪れた。大和田氏は話のすえに、問題の金のケースを自分の . らくりに関係のありそうに思われる、商会を解雇された二人 ( 一人ポケットから差しだしたのでびつくりした。どうして大和田氏の手 ~ 一は日本人、一人は米人 ) の住所を聞き、直ちに山手のアパ 1 トに乗に入っていたのだろう ? 」と三辺の話はなお続く そうだん こえにか じつだん しへい
ヤの宮殿や豪邸のトラブルやスキャンダルでじめられた。 理な話はあるまい はいつも一役買っている。 こゝで、誰がこんな悪魔的計画を構想し実 たんてい アメリカの探偵がのりだして、この『ポル 行したかという段階に移る。推理小説の定石 どくやく 陰ジャ家の毒薬』が女大使を冒すに到ったルー 目ざめるばかり華麗なこの格子天井の絵はによれば、かの女の死によって最大の利益を きが 殺】トを追跡しだした。その結果、大使の寝室以昨年の五月に約八十万円かけて新たに塗り直えるものを探せばよいわけだ。三年前アメリ ふしん 使・外に不審なところはどこにもないという結論された。つまり、古ばけた絵がきれいに復元カから女大使として赴任した際世界の注目を かれい りえき 力がでた。この寝室もルネッサンス様式の華麗されたのである。 あつめたこの美貌の女性の死が誰に利益をも 誰がそれをしたのか ? ニコラ・パセラとい なもので、天井格子のなかに篏めこまれてい たらすのか ? メ . かゞみいた ごくさいしき ア・る鏡板には目も綾な極彩色の模様がある。生う男・こ。ヾ オノセラは日曜画家としてローマで名 れ込してき けんぞうぶつ 地はテラコッタ、グリーン色で、その間に銀をなし、歴史的な建造物の美術修理者として せんよム ( だいとうりよう 白色のバラの花が点々とちらしてある。このも世にしられている。ところで、問題の天井 ルース大使は、今度の選挙で副大統領の候 おそ 銀白色にかゞやくバラの花に怖ろしい毒薬がのバラの花について訊問されると、『あれは補にあげられていたという事実がある。 ぎんはくしよく せいじてき たつぶりと含まれていて、べットに横たわるたしかに銀白色にかゞゃいているが、自分は この政治的な視角から事件をみる人々は、 、ようそうしゃ ルース大使のうえに四六時中みえざる霧とな絶対に砒素などを絵具に混入したおほえはな ルース大使の政敵または競争者の魔手がのば えいが ってふりそゝいでいたという奇怪な事実が分い」 されたのだと考えるこの魔手の持主が映画 と弁明した。しかし、かれ自身覚えはなく『ポルジャ家の毒薬』からヒントをえたかど すいりしようせつ げんじっ 推理小説さながらの経路である。 ても、現実にバラの花から多量の砒素が検出うかは分らないにしても、とにかくイタリヤ ぼうさっ 一体、これは謀殺の目的をもって行われたされている。そこで、かりにパセラのいう所古来の毒物である砒素を用いて除々にかの女 ことなのか、それとも、天井に絵をかいた画がウソでないと仮定するとこの男のしらぬうの生命をちゞめるか、殺さぬまでもかの女を ムちゅうい えのぐ こんにゆう 家の不注意によるものなのか ? もしこれがちに何者かが絵具のなかに砒素を混入してお廃人同然に追いやろうとしたのではないか ? 故意になされたものとすると、たしかにこれ いたものとみなくてはならない。こう考えるもしそうだとすると、この企画者は目的を遂 あくま どくやく ろんりてき は悪魔的な着想であり、『ポルジャ家の毒薬のが論理的である。絵具のなかに偶然おびた げたことになって、今頃はどこかでほくそ笑 を凌ぐ犯罪計画だ。そこで、鏡板の研究がは ゞしい砒素がまぎれこんだと考えるほど非論んでいるかもしれぬ。なぜなら、ル 1 ス大使 たいし ごうてい どくやく かれい だんかい 、かくしゃ たいし